彼女はいつも、憧れていた。
チルットの翼よりも綺麗なあの雲に。
ソルロックよりもサンサンと煌めくあの太陽に。
ホエルオーよりも大きなあの大空に。
今手を伸ばせば、その大空に手が届きそうだった。
手が届きそうなのに。
手を伸ばすことができなかった。
白の少女───セーキは、未だ震えが収まらない腕でレップウ(ファイアロー)の身体を掴み、空を飛んでいる。
速く。もっと速く。
背後から追われているような恐怖感を振り切る為、少女はレップウに飛翔を命じ続ける。
ゼロことムクホークも既にポケモンコンバータ内で瀕死状態から回復しているが───今のセーキには、繰り出す余裕などありはしなかった。
「レップウ……」
孤独と恐怖が入り混じったその震える声で、ファイアローの名を呼ぶ。
ほのお・ひこうタイプであるファイアローの身体は、ほんのりと暖かかった。
それがセーキの恐怖感を少しだけ和げてくれている。
そして少しだけ恐怖感が緩和されたからか、コンバータ内で回復に努めているムクホークのことを思い出す。
孤独感に苛まれているセーキにとっては、一体でも側を飛んでくれるポケモンが多く欲しかった。
ファイアローの背から落ちないようにそろそろとコンバータに手を伸ばす。
馴染めなかったが、都会で過ごしたこともあるのだ。
慣れない手つきとは言えコンバータ程度の機器ならば操れる。
カチャリ、とコンバータに設置されたモンスターボールを外すと、カタカタと震えるのがわかった。
中のムクホークが元気を取り戻した証拠である。
「ゼロ、お願い」
それを確認した後、セーキはモンスターボールからムクホークを繰り出そうとする。
しかし。
ムクホークが飛び出してくることは、なかった。
正解には繰り出そうとするセーキの動きが一瞬停止したのだ。
「……え?」
その理由は、ファイアローの隣。
気づかなかった。
音すらしなかった。
まるで最初からそこにいたかのような雰囲気を漂わせて───レップウ・ファイアローの隣に、黒い四枚羽が飛んでいたのだ。
「レ、レップウ、『おいかぜ』!」
気付いた時にはもう遅い。
逃走のためにおいかぜを放ったが、既に逃走するための時間は残っていない。
ぽわわわわわ───と、おかしな超音波を黒い四枚羽が放つと、ファイアローはまるで睡眠薬でも飲んだかのように深い眠りに堕とされてしまった。
「───あ」
そして。
飛んでいたファイアローが眠ってしまったのだ。
それに乗って飛翔していたセーキのその後は、分かりきったものだろう。
「い、やぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
───即ち、上空からの落下である。
◆ ◆ ◆
「っしゃー!決まったー!」
そしてファイアローから落下する少女を確認し、地上でガッツポーズを決める少女がいた。
ミニスカートのミイ♪♪♪である。
「いやー、良かった良かった、逃げられたらどうしようかと思った」
ミイ♪♪♪は勢いでこの殺し合いに乗ると宣言した後は、己のポケモンについて考えていた。
二体とも翼を持っているのだ。
何方でもいいので乗って空を飛んでみたいという短絡的思考だった。
しかしミイ♪♪♪にとってはリザードンは手に入れたことがないポケモン。
クロバットに至っては名前すらうろ覚えなのだ。
何方が乗り心地が良いかなどわかるはずもない───トレーナーズスクールで勉学に励まなかったその代償である。
悩みに悩んだ挙句、クロバットの方が速そうという理由でクロバットをボールから出した瞬間───ファイアローで空を飛ぶ、セーキを発見したのである。
そのファイアローを見たミイ♪♪♪は、あちらの方がクロバットより鳥らしい姿で飛びやすそうだったので眠らせて回収してとクロバットに命じたのだ。
ミイ♪♪♪は知らないことだが───クロバットは、本来隠密に適したポケモンである。
クロバットは2枚羽のゴルバットから四枚羽に進化したことにより、地面を歩くことは苦手になったがその分無音での飛翔を可能にしたポケモン。
その静かさは、隣を通られても気づかないほどと称されるほど。
「ククク……飛べないならこっちのもの、丸焼きだぜ」
おかしな笑いを浮かべたミイ♪♪♪は、リザードンの背に乗って飛び立つ。
狙いは、落下する少女。
その身体を業火で焼き尽くすべく、炎の竜は飛翔する。
◆ ◆ ◆
「お願い、ゼロ!」
落下するセーキは、ムクホークを繰り出し背に乗る。
これで落下の危険性は無くなったが───少し下を見ると、リザードンに乗った少女がこちらへ迫ってくるのが見えた。
ファイアローを回収して逃げようにも、クロバットが逃げ道を塞ぐ。
本来ならばトレーナーとしてここで戦うのが普通なのだが、セーキはポケモンバトルの経験はない。
そんなセーキがムクホーク一体でクロバットとリザードンの二体を相手にするなど、殆ど無理に近い。
そうこう悩んでいるうちに───ぐうぐう眠っているファイアローは地面へと落下し、見えなくなってしまった。
「レップウ…!…ゼロ、お願い」
だからこそ。
ファイアローを、レップウを救いたいがため。
セーキはここで戦うことよりも、数を減らすことを選択した。
「ふ、『ふきとばし』!」
ぶわっ!、と。
ムクホークの羽ばたきから起こった風が、クロバットに叩きつけられる。
そうするとクロバットは風に煽られ、抵抗する暇もなく、リザードンに乗って現れた少女のモンスターボールの中へと帰って行った。
しかし。
強烈な風を放った後の、技を繰り出した後のその小さな隙をミイ♪♪♪は見逃さなかった。
「一匹戻そうと無駄無駄ァ!リザードン、『ほのおのパンチ』」
「来ないで……ッ、嫌ッ!」
リザードンのほのおのパンチが直撃し、ムクホークは大きく後退する。
できるだけ衝撃を受け流すように、ムクホークは大きく旋回する。
ミイ♪♪♪もセーキも知らないことだが───これは、スカイバトルなのだ。
空中でのポケモンバトル。
ポケモンからどう落ちないように対処するかも、重要なものの一つである。
そして。
思慮が浅いとは言え人並みにはポケモンを扱えるミイ♪♪♪が乗りこなす、大型の竜ポケモンであるリザードンと。
ポケモンバトルの経験すらないセーキが乗る大型の鳥ポケモンであるムクホークでは、大きく差がついている。
乗り心地、安定性の差。
経験の差。
それらの小さな差が積み重なり、セーキの不利を作り出していた。
「もういっちょお!『ほのおのパンチ』」
「ゼロ、いや、嫌ッ!」
よって。
セーキはロクに回避指示も出せぬまま、ムクホークはリザードンのほのおのパンチの連打を食らい続けていた。
しかも、ひのたまプレートで更に威力が向上したほのおわざだ。
セーキは叫び声をあげることしかできず───あっという間にムクホークの体力は削られ、瀕死寸前にまで追い込まれていた。
「あれ……?私って強いんじゃね……?」
終始優勢であるからか、自分の腕に僅かな自信を抱いてきたミイ♪♪♪はその口を笑みで歪ませる。
そしてセーキを指差し、宣告する。
「私はママのところに帰りたいッ!だからアンタをここで倒す!」
「嫌……、死にたくない……」
「いーや殺すしかねぇ!トドメの『ほのおのパンチ』!」
聞く耳を持たないミイ♪♪♪のリザードンの攻撃が、眼前に迫る。
それでも、セーキは指示を下せずにいた。
元よりバトルの経験がないこともあるが───お嬢様のイリアス、そしてミニスカートのミイ♪♪♪。
ドサイドンにスターミー、クロバットにリザードン。
連続して襲ってきたそれらの存在は、争いに不慣れだったセーキの精神を少しずつ削り取り、不安定にさせていた。
もう、セーキには技を命じる思考回路すら残っていなかった。
残っているのは、死にたくないという願いのみ。
(お姉ちゃん、助けて……!)
強く目を瞑り迫る攻撃の恐怖に耐えるしかないセーキとムクホークに、リザードンの業火の拳が迫る。
アレが直撃すれば、火傷では済まないだろう。
死に至るほどではないにしろ、重傷は免れない。
元より人間を遥かに超えたポケモンの技だ。
当たって無事なことの方が、あり得ない。
だが。
しかし。
セーキに向けられた業火の拳は。
セーキの眼前でぴたりと静止した。
「───?」
「あれ?リザードン?」
ぴたりと静止したリザードンは、ミイ♪♪♪にとっても予想外だったようで。
二人のトレーナーは呆然としていた。
そして数秒後。
グラリと揺れたリザードンが───羽ばたくことをやめ、地面へと落ちていく。
「え、ちょっ待っ落ちっコウモリ!コウモリ出てきてーー!」
モンスターボールを操作しつつミイ♪♪♪はリザードンど共に地面へと落ちていき、そしてその姿はあっという間に見えなくなった。
そして。
先ほどリザードンがいた空にいたのは───眠らされて地面に落ちたはずの、ファイアローだった。
「レップウ!」
無事に帰還したファイアローに歓喜し、瀕死寸前のムクホークからファイアローに飛び移る。
眠らされて地面に落ちたファイアローはあの後───持っていたラムの実にて、ねむり状態を回復。
そしてリザードンに痛めつけられている我が主を確認した後、大きく飛び上がってリザードンへと技を放ったのだ。
その技は、さきどり。
相手が出そうとした技を威力を上げて先に使う技である。
ひのたまプレートで威力の上がったほのお技を、更にさきどりで威力を上げて返される。
さすがのリザードンもその威力に耐えられなかったらしく、飛行状態を維持できなくなり落下していったのだ。
「レップウ・ゼロ、一緒に逃げよう……!」
疲れ果てたゼロをボールに戻し、レップウに命じると、再びレップウは飛翔する。
目的地など決まっていない。
今はとにかく、あのリザードンから逃げるのみ───。
【C-4/道路(上空)/一日目/午後】
【オカルトマニアのセーキ 生存確認】
[ステータス]:怯え、疲労(中)
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×2
[行動方針]帰りたい
1:怖い、戦いたくない。一人になりたい
2:この場から逃げる
◆【ムクホーク/Lv50】
とくせい:威嚇
もちもの:???
能力値:攻撃、素早さ振り
《もっているわざ》
ブレイブバード
インファイト
いのちがけ
???
※セーキにはゼロと呼ばれてます
※体力残り10%
◆【ファイアロー/Lv50】
とくせい:はやてのつばさ
もちもの:
能力値:攻撃、素早さ振り
《もっているわざ》
ブレイブバード
追い風
さきどり
????
※セーキにはレップウと呼ばれています
※支給品の一つはラムの実でした
「く゛や゛し゛い゛よ゛マ゛マ゛ー゛ー゛ー゛ー゛!゛!゛」
少女は再び咽び泣いた。
二度目である。
途中まで完全に優勢だったのに。
クロバットがいたからこそ地面への衝突は避けられたが、あの少女には逃げられた。
これでは完全なる敗北だ。
「逃がさねぇ……殺すぜ!」
ミイ♪♪♪は思考を直様切り替える。
彼女の短所であり長所である。
こうなったらあの少女を殺すまで追い続ける。
女の執念は恐ろしいのだ、舐めてもらっては困る。
「待ってろよこらー!」
彼女は再び疾走する。
次は必ず殺す、その意思を胸に秘めて。
【C-4/道路/一日目/午後】
【ミニスカートのミイ♪♪♪ 生存確認】
[ステータス]:良好、謎テンション、怒り
[バッグ]:基本支給品一式、レッドカード
[行動方針]:殺人の意思あり
1:自らの生還をかけて容赦なく戦うぜ……!
2:あの少女(セーキ)は必ず殺すぜ……!
▽手持ちポケモン
◆【リザードン/Lv50】
とくせい:もうか
もちもの:ひのたまプレート
能力値:HP、こうげき特化
《もっているわざ》
きあいパンチ
ブラストバーン
りゅうのはどう
ほのおのパンチ
※残り体力50%です
◆【クロバット/Lv50】
とくせい:すりぬけ
もちもの:パワーリスト
能力値:HP、こうげき特化
《もっているわざ》
はかいこうせん
シャドーボール
さいみんじゅつ
そらをとぶ
最終更新:2014年12月26日 10:32