町は静かだった。
伸び放題の草木が風にそよぐ音がハッキリと聞こえる、それほどに静かだった。
目に映る光景も、騒がしいモノは何一つない。
雲一つ無い真っ青な空と、砂の積もった道路は白っぽい灰色で。
立ち並ぶ廃墟はセピアカラーで、それに猛烈に絡みついたツタは濃い緑色で。
「よし、次はここにするぞ」
『ルガッ!』
そんな中でラグナさんの服装ってちょっと浮いてるなぁ、と思った。
真紅を基調としたジャケット。素敵だと思うけど、少し派手かもしれない。
そんなラグナさんはヘルガーから降りて、適当に目をつけた民家を指差した。
「あくのはどう!」
波紋のように広がる黒いエネルギーが、民家の玄関扉を破壊。
静かな町にスゴイ音が響いた。
ひしゃげたドアを踏みながら、彼は中へと入っていく。
私もそれに続いた。
何をするって……そうです、物色です。
というのも、私がさっき「廃墟に何か隠されてたりして」と呟いたからなんだけど。
実際にドアなんかを壊すと、少し罪悪感が湧く。
ほとんどは何も無かったけど、時々タンスとかの家具が残ってる事に驚いた。
でも、中には役立つ道具が全然無かった。
錆が侵食し過ぎて穴まで開いてるキズぐすりとか。
そのままのカタチを保ってるモノは無かった。
例え、あったとしても……。
「あ、ラグナさん! 何かありました!」
「おおっ、でかした!」
「これです!」
「それは」
「みどりのかけら」
「要らねェ―――ッ!」
ガラクタばっかり。
まぁ、貴重なモノは、元の家主が持って行っちゃうよね。
ラグナさんはみどりのかけらを指で弾きながら、私も彼に続いて廃墟を後にした。
その時。
ガラスの割れる音と、岩が崩れる音の混ざった轟音が辺り一帯を包み込んだ。
「ヒィ!」
思わず飛び上がり、音が止むまで耳を塞いだ。
「い、今の……やっぱり灯台を壊した人でしょうか」
「その可能性は高い。ここでもバトルをしているのか、それともただ破壊自体が目的なの……。
ったく、何にせよ、よくもまぁ何度も何度も耳障りな音を立ててられるもんだ」
私たちがこの廃墟街へ来る前、海を挟んだ先の灯台が崩れるのを見た。
凄まじい崩落音で、たぶんこの付近に居た人はみんな気付いてると思う。
だからその当事者ももちろん、多くの人がこの町へ来るんじゃないかって思った。
「コトリ。危険だと思うならどっかに隠れてろ。
この様子だとトレーナーにもバトルの余波が飛んでこないとも限らない」
「大丈夫です。ラグナさんにだけ任せるなんて悪いですから」
「お前は戦いがあまり得意じゃないんだろ。無理はするな」
きっとラグナさんは『守る』と言った手前、こういう戦いの場に連れまわすのに引け目を感じてる。
だから私を気遣っている。でも、そこまで甘えるのは申し訳なかった。
「私だって勉強してきたんです! だからきっと足手まといにはなりません!」
「コトリ……」
「だから、手伝わせてください!」
バトルは好きじゃ無かった。
私はポケモンさんと触れ合ったり、遊んだりする方が好きだった。
ポケモンさんが傷付くのは心が痛んだ。
でも、わかってる。今はそんな気持ちじゃダメなんだって事。
「もしポケモンが倒れれば、それだけ自分が死ぬ危険性が高まるんだ。それでもいいのか?」
「ラグナさん一人で戦うよりも、きっと二人同時の方が安全だと思うんです!」
「そりゃあそうだが……」
「ですからお願いします! 手伝わせてください!」
何もしない、なんて事は許されない。
守ってくれると言ったラグナさんに、ちゃんと応えなきゃいけない。
「まぁ、そこまで言うなら別に構わないが……」
「ありがとうございます!」
深く頭を下げた私に、ラグナさんは困惑した顔を浮かべた。
「えぇい、さっきからお前、そんな改まるな!
普通にいつも通りの喋り方でいい、その方が気が楽だ!」
「えと……うん。それじゃあ、こんな感じに普通に喋った方がいいかな、ラグナさん」
「それでいい」
敬語が落ち着かないタイプの人なのかな。
でも、少し距離が縮まった感じがしてちょっと嬉しかった。
そうこうしていると、視界の奥にどこか懐かしさのある建物が見えた。
覆い尽くす植物の隙間から見える、薄いピンク色の壁。
看板にはうっすらとモンスターボールをかたどったマークがあった。
「これ、ポケモンセンターだよね」
昔の写真でしか見たことが無い、レトロチックな外装。
だけど馴染みのある施設に安心する自分が居た。
「入るぞ」
ラグナさんに続いて、私も扉の方へ向かう。
そこには『ポケモンセンターソナイシティ』と書かれていた。
「この町にも、ちゃんと名前があったんだ」
見知らぬ場所の、異質な雰囲気が、少しだけ和らいだ気がした。
【B-6/ソナイシティ ポケモンセンター/一日目/午後】
最終更新:2015年02月09日 09:28