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ラグナは激しい音が響く街の中を、頭から血を流す少年を抱えて走っていた。
その後ろについて走るのは、メイド服の少女。

「おい、しっかりしろ!」
「う、動かしちゃダメです!頭の傷は慎重に扱わないと…」

走りながらも少年、ケイイチに声をかけ続けるが一向に反応しない。
瓦礫を頭に受けたのだ。打ちどころによってはそれで命を落としていた可能性だってある。
依然、彼が危険な状態にあることには変わりないだろう。

だが、休んでいる暇はない。
後ろから響く破壊音は未だに街にある建造物を打ち壊しているのだ。

「くそ、俺がもう少ししっかりあのガキの様子見られてりゃ…」

ポケモンを抑えることはできたものの、一方であの少女自身を見られてはいなかった。
結果がこの様だ。

「ラグナさんのせいじゃないよ…。私だって助けられるかもなんて無責任なこと言っちゃってたし…」
「ああクソ、この話は終わりだ!気分滅入るばっかりじゃねえか」

幸い街は一通り回っているためケイイチを落ち着けられそうな場所自体には検討がついている。
そこまであの少女が追ってこないことが安全の前提となるわけだが。

しかしそこまで辿りつけたとしても、今の自分達だけではケイイチの治癒はできそうにはない。
応急処置なら可能だろうが、今のケイイチはそれだけで済ませられるような状態ではないだろう。


「オーレンさん、そこに人が!」
「ちょっと、あなた達!」

そんな時だった。
ふとそんな二人の元に別の何者かの声が届いてきた。


「骨までやられているわね。脳にダメージがあるかは分からないけど、内出血の可能性もあるわ。
 しばらくは安静にしていないと命に関わるわね」
「そうか…」

ラグナ、コトリが出会った、オーレン、ユカリと名乗る二人。
外で聞こえてきた破壊音に只事ではない気配を感じてやってきたのだという。

現在5人がいる場所はポケモンセンター。
先にラグナとコトリが立ち寄り一時的に休息を取った場所だ。

「あんた、詳しいんだな。それにこんな状況だってのに妙に落ち着いてやがるし」
「ワテクシは今の仕事をする前は傭兵として色んな戦場を渡り歩いていた時期があったのよ」
「なるほどな…」

ラグナはその口調について触れることは止めておいた。

「で、あなた達は誰と戦っていたのかしら?」
「それが――――」

話したのは廃墟で出会った少女のこと。
ニドクインとニドキングをママ、パパと呼び周りの建物を破壊し続けていた子供。

錯乱していたのかと最初は思ったものの、彼女の様子を見るにそうとは思えなかった。

「なるほどね、つまりこの状況を作り出してるのは子供ってわけ」
「まあ、そうなるんだろうな」
「なら話は早いわ。その子供をやってしまえば、そのポケモン達は暴れることはないってことでしょう?」
「…おい待てよ。相手はまだガキだぞ?」
「ここは戦場よ?子供も大人も関係ないわ。増してや人を襲う立場にいるならなおさらよ」

そんな子供を一片の迷いもなく殺すというオーレンに戸惑うラグナ。

確かに言っていることは理屈としては正しい。
だが、その選択を迷わずにすることはできないものだ。

ピクリ

そんな言葉を言った時、意識がないはずのケイイチが僅かに反応したことに二人は気付かない。

「それじゃあワテクシは行くわ。この廃墟で被害が抑えられている間にケリつけないといけないし。
 その間はあのユカリって子のこと、お願いさせてもらうわ」


それだけを言い残して、オーレンは走りポケモンセンターを抜け出して行った。

「殺す、か…」

そんなオーレンを追うべきかどうか迷ったものの、しかし残したコトリやもう一人の少女、ユカリ、そして意識のないケイイチを置いていくわけにはいかない。
結果として見送るしかできなかった。

「いい気分にゃ、やっぱならねえな…」

ともあれ、コトリとユカリの二人が追い付いてくる様子がない。
迎えに行った後、どうするか話し合ってからここから移動するとしようか。

そう考え、眠るケイイチをチラリと確認しコトリ達のいる部屋へと向かって行った。


薄く目を開いたケイイチに気付くことなく。



ニドキングの腕が家の柱を叩き壊し、ニドクインが咆哮すると同時に地面から衝撃が発する。

その進撃を後ろで指示するのは小さな少女。

「そうよ!もっとよ!周りのもの、全部壊しちゃって!」

喜声を上げる少女・シェリ。
しかしその目には喜びの光はない。

ただ憎悪と絶望の闇のみ。

闇を闇で打ち消すことはできない。いくら破壊が少女に喜びをもたらそうと、決してそれは光となりはしない。
パパ、ママと呼ばれるポケモン達はそんな少女の言葉に従い、ただ破壊の限りを尽くすのみ。

しかしそれで十分だった。
彼女の願いは全てを壊すこと。
この悲しみしかくれない現実を、誰も救いの手を差し伸べない世界を。


「ずいぶん派手にやってるじゃない、お嬢ちゃん」

そんな時に、シェリの耳に届いてきた、男の声。
野太い声でありながら黄色さを感じさせるその声色。

「残念だけど、お遊戯の時間は終わりよ」

背後にマンムーを、両手にニダンギルを携えたオーレン。
その視線には本当の殺気が篭っている。

対するシェリは、若干気圧されつつも、鋭く睨みつけ。

「邪魔しないで!パパ、ママ、あの人を消して!!」
「全く、子供だからって甘やかしてなんてあげないわよ!」

そのままオーレンは襲いかかるニドキング、ニドクインを前に、マンムーに跨がり突撃をかけた。


「…お前なぁ……、こんな時に何やってんだよ」
「ふぇぇ……」

涙目で頭を押さえながら声を漏らすコトリ。
ラグナの手にはポケモンセンター内に何故か置いてあった白いハリセン。

そしてそんなコトリの抱えているものは白く小さな箱。

「何で遅くなったのかって様子見に来たら、何呑気に菓子なんて食ってんだよ」
「そ、その、せっかく冷蔵庫の中に見つけたんだから放っておいたら勿体ないかなぁって」
「…それ食って大丈夫なのかよ」
「賞味期限は大丈夫です!」

妙に時間がかかっていることが気になって部屋に向かったラグナの目の前に入ってきた光景。
それはコトリがテーブルに置かれたチーズケーキを、ちょっと困惑気味のユカリの前で切り分けている姿。

とてもいい笑顔で振り返ったコトリを見た時のラグナの心中と言ったら一発叩きたくもなってしまった。

無論相手が女の子であることを考慮して思い切りでこそあるがハリセンで叩く程度で留めておいたが。


「少しは我慢しろ!落ち着いたら食う時間くらいできるだろうから」
「じゃあその時はラグナさんも一緒に食べましょう!おいしいんですよこれ。
 洋菓子店『モンシャル』ってところのオーレンさんっていうパティシエの作ったチーズケーキなんです」
「そうか。
 …ん?オーレン…?その名前ってーと」
「あっ」

コトリの言葉で思い至ったのは、ついさっき別れたあのオネエ言葉で喋る男だ。
確か料理人を営んでいる、と言っていたことから考えるとそういうことなのだろう。

「有名人だったんですね、あの人」
「そういうことだろうな」
「何か私と出会った時ってこう、人として強い印象が大きくて全然気付かなかったです」
「まあ、実際に強いみたいだしな」
「ちょっとうらやましいかも。私って、ポケモントレーナーでもなくてこの中じゃ一番足手まといな気がするからなぁ」
「だったらもうちょっと緊張感を持て。さっきみたいなことやってて、来たのが俺じゃなかったらどうしたんだよ」
「ご、ごめんなさい~」

ユカリはそんなやりとりを繰り広げる二人を見ながら、これが彼女達の素なのだろうなと考え。
そして自分の知らないオーレンの表の顔を思い浮かべて顔を少し曇らせた。

「…?ユカリちゃんどうしたの?」
「……えっ?何が?」
「何かユカリちゃん、暗そうな表情してたから」
「いえ、コトリさん達はいいなぁって。
 こんな場所に連れて来られても自分を見失わずにいられて。
 自分の軸をはっきりと持つことができてて」
「そんなことないよ~。私自身どうしたらいいか分からないし、何ができるのかも分かってないし」

何故褒められているのかもよく分かっておらぬまま、コトリはやんわりと謙遜するように否定する。
しかしユカリの表情は栄えない。

「ユカリちゃん、何かあったの?」
「…私、オーレンさんに言われたんです。この殺し合いではポケモンバトルなんて遊びだって。
 おじいちゃんやおばあちゃんが一生懸命頑張ってきたポケモンバトルをそう言われて、思わずカッとなっちゃったんですけど。
 でもオーレンさんにそれで殺し合いができるのかって言われて、反論できなかったんです」

そうポツポツと話し始めたユカリ。
その口調には現状の殺し合いという環境に対する大きな迷いが感じられていた。
ポケモンバトルを殺し合うことに利用する、今のこの環境に対して。

「だけど、実際にポケモンで襲ってくる人もいましたしオーレンさんみたいな、ポケモンバトルとは違う危ない現実を知ってる人もいて。
 ポケモントレーナーなのにこんな場所でもポケモンで殺し合いをするなんてって迷ってる私って、やっぱり弱いんでしょうか…」

確かに自分の住んでいた世界は甘かったのかもしれない。
ポケモンバトルに命をかけるようなことはしないし、人間と戦いあるいは殺してしまうような事態にも遭ったことはない。

だけど、祖父母が生涯をかけてきたものはそういうものではないと思うのも事実だ。

「別にそれでいいんじゃねえの」

そんなユカリの悩みに対し、ぶっきらぼうな声でラグナは答えた。

「俺だって自分の住んでたようなところがアウトローだってのはよく分かってるし、いちいちそれに関係ねえやつを巻き込もうとも思わねえし。
 あのおっさんがどうなのかってのは置いといても、俺だってポケモンに殺しさせるなんてのには抵抗あるしよ。
 お前はお前のやりたいようにやってみりゃいいんじゃねえの」
「それでいいんでしょうか…?」
「そんなこと考えちまう時点でサカモトとかいうやつの思う壺じゃねえか。
 お前はお前なりにできることを考えてりゃいいんだよ。
 まあ、死なないことが前提にゃなるけどな」

オーレンに言われた、ポケモントレーナー故の甘さ。そして殺し合いという環境における適応性。
しかしラグナは木にすることはない、と。自分なりにできることをやっていればいいと言う。

その言葉だけで、少しだけだがオーレンに言われて気負っていた気持ちが楽になった気がした。

ケイイチのところに向かって急いでいくラグナの背を見送りながらコトリはユカリに話しかける。

「ユカリちゃんはポケモントレーナーなんだ」
「うん、実力のほうはまだまだだけどね…。コトリちゃんは?」
「私は、……ポケモントレーナーでもないの。
 ポケモン同士を戦わせるってのも、あんまり好きじゃなかったから。なのにこんなことに巻き込まれちゃって…」
「そう…なんだ…」
「だから、私自身どうしたらいいのか分からなかったりするところがあるんだ。
 ポケモンバトルとかも、私のミスとかでポケモンが傷付くのが怖いから…。
 だから私の友達がポケモントレーナーになって旅立っていった時も見送るしかできなかった」

遠い場所を見ているかのように呟くコトリ。

「だけど、こういうところでポケモンやみんなを傷つけても平気だって思えちゃうようなことがあったら、私はその方が怖いって思うんだ」
「……」

もし自分がそうなってしまったら、とユカリは想像して思わず怖くなってきた。
きっと自分がそんなことを考えるようになった時には、自分すらも見失っているかもしれないから。




「おい、コトリ、ユカリ!」

そんな時だった。先にケイイチを迎えに行ったラグナの元から声が響いてきたのは。
その呼び声からは心なしか焦りを感じられる。

コトリとユカリは顔を見合わせてラグナの元に走る。

「どうかしたんですか?」
「ケイイチのやつがいねえ!たぶんだが、さっきのガキのところに行ったみてえだ!」

ラグナの目の前にあったのは、ケイイチを寝かせていたソファ。
しかしそこにあるのは治療の際についたらしい僅かな血の染みの跡のみ。
ケイイチの姿はどこにもない。

だが、彼は動けるような状態ではなかった。
もし逃げるだけならば自分一人で行くよりも皆で離れるべきなはずだ。それにそんな行動に出るとは思えなかった。
だとすれば、行く場所は一つしか考えられない。

何より、あの少女を説得したいというのはケイイチが自分で言い出したことだ。

「ちっ!あのオーレンとの話、聞かれてたのか!」






ニドクインのばかぢからとニドキングのメガホーンがオーレンのポケモンに、そしてオーレン自身へも向けて放たれる。
ニドクインはオーレンに、ニドキングは彼の乗ったマンムーに向けて。

しかしオーレンはニダンギルでばかぢからを弾き飛ばし、同時にマンムーにはつららばりを指示する。
つららばりはニドキングの進行方向から僅かに逸れた位置に着弾するも、それはニドキングの意識も反らしメガホーンを外させた。

続いてマンムーにストーンエッジを指示。ターゲットはポケモンに指示を出すこともなく、ただそこで佇み続けるシェリ。
マンムーから放たれた石の刃は、一直線にシェリに向かって飛びかかり。
しかしその射線に割り込んできたニドキングの拳が、それを打ち払った。

「本当に子供みたいね…。戦いは全部ポケモン任せで、大雑把なことしか言わずに指示すら出さないなんて」

ポケモントレーナーではないオーレンにも、ポケモンバトルがどういうものなのかという一般的な知識程度はある。
少なくとも、ポケモントレーナーは動作全てをポケモン任せにしてバトルをするということはないはずだ。
だが、目の前の少女は何も指示を出さない。
はっきり言って、自分のポケモンが覚えている技すらも把握しているのか怪しいような印象すらある。
先のばかぢからとメガホーンにしても、攻撃をする際少女は何も指示を出していない。

つまりは。

(この子はワテクシのようにポケモントレーナーってわけじゃない、か。あるいは――――)

と、オーレンの目の前で、少女が石を手に持ち上げ自分の手の平に力いっぱい振り下ろす光景が目に入った。
先にニドキングがストーンエッジを受け止め、僅かではあるがダメージを受けた様子の部分に同じような痣ができている。

(――――トレーナーかどうかなんて関係ないくらいには壊れてるってことかしらね!)

彼女の境遇は知らない。だが一瞬同情だけはした。
しかし決して容赦はしない。
感情ではなく理屈で、あの子を放置しておくことがどれほどの被害につながるだろうということをはっきりと理解していたから。

「マンムーちゃん、じしんよ!!」

己の騎乗したマンムーに対し指示したのは地面タイプにして複数の相手に攻撃をすることができる攻撃、地震。
高く咆哮したマンムーは地に力を解放するかのように地面に力を込め。
次の瞬間、半径5メートルほどに渡る範囲を揺らす衝撃が放たれた。

ニドキングとニドクインは足を取られ動きを止め、衝撃が体に襲いかかった。

「嫌ああああああああああーーーーーーーーーーーー!!!」

そんな二匹のダメージを受ける様子に絶叫する少女。
ポケモンの心配をする少女だが、今彼女自身を守る者はいない。


「悪く思わないでね」

マンムーに乗っていたことで地震に巻き込まれることもなかったオーレンは、その背を蹴って飛び上がり少女の目の前に着地し。
彼女に向けて、迷うことなくニダンギルを振り下ろし―――――


「止めろーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


そこに割り込むように声が響く。

声のした方を思わず見上げると、飛び跳ねるかのように空から舞い降りオーレンに突撃をかけるメブキジカの姿。
咄嗟にニダンギルを全面に構えたことでダメージは抑えることはできたが、衝撃までは殺すことができず後ろに押し出されてしまう。

「あなた、何でここにいるのよ!」

そのメブキジカの背に乗っていたのは、キャンプボーイのケイイチ。
頭に決して軽くない傷を負っていて安静にしていなければならないはずの少年。
現に今目の前にいる少年も、メブキジカに捕まっているだけでも辛そうに見える。

「はぁ…はぁ……、ダメだ、この子は殺しちゃ……」
「何言ってんのよアンタ!そんな体でここまで来て…!早くそこを退きなさい!」
「俺が、あの子を助ける…、だから殺さないでくれ…!」

目は焦点が定まっていないし、息も絶え絶えで言葉も覚束ない様子。
しかし、自分がその背に乗ったメブキジカからは決して退こうとはしていない。

「あんたね、それで失敗した結果がその怪我じゃないの!
 それにその子はさっきのトレーナー以上に話は通じないわよ!」
「それ、でもだ…」

メブキジカに乗ったケイイチは耳を塞いで塞ぎこむ少女に向かって歩を進ませ。




「――――――――――――やれコバルオン!!!」

その時周囲に聞き覚えのない大声が響き渡る。
地響きと共に轟く足音がこちらに迫り。

「アイアンヘッド!!」

突如現れた青い四脚の獣の突撃がマンムーを襲った。
鋼のぶつかるような音が響き渡りその巨体を吹き飛ばす。

「楽しそうなことやってるじゃねえか。俺も混ぜろよぉ!」

現れたポケモン、コバルオンに乗った青年が3人と多くのポケモン達を一瞥する。
メブキジカ、ニドキング、ニドクイン、そしてニダンギル。
周囲にいたポケモンに大した強ポケがいないことに若干落胆しつつも、しかし自分の存在感をアピールでもするかのようにコバルオンの背の上で立ち上がる。

「何なのよアンタ!こっちは今取り込んでるのよ、邪魔しないでくれるかしら?!」
「あぁ?何だよその気色悪ぃ喋り方は。まあいい。せいぜい伝説ポケモンを操る俺の姿を目に焼き付けてから死んでいけよ。
 そうそう、名乗っておかねえとな。俺はポケモンブリーダーのミチオだ」

そう言って指示を出す青年。
コバルオンがまるで舞を踊るかのように首を振り回しながら跳ねる。
その瞬間、コバルオンの纏っていた覇気がそれまで以上のものとなっていることを感じ取れるようになる。

つるぎのまい。攻撃力を倍化させる補助技だ。

「行きなさい、マタドガス!」

対するオーレンも手に携えたニダンギルの他にマタドガスを呼び出す。
紫色の凸凹な球体がフワフワと浮きながらオーレンの指示を待つ。

「えんまくを張りなさい!」

技の指示を出すと同時、マタドガスの体から大量の黒い煙が吹き出す。
周囲の視界を封じるほどの煙幕がオーレンとミチオの周囲を覆い尽くす。

「くそっ、えんまくとかまた変な技を……。どこから……」

視界の見えない中では迂闊に指示を出しても空振りするだけだろう。
かといって積んで隙を見せるのも問題だ。
どう動くか。

と、ふとそこまでミツオが考えた時脳裏に先ほど自分がした行動が思い浮かんできた。
殺し合いという環境。相手はニダンギルを手に持った、そしてえんまくなんて実戦向きではない技を覚えさせている。
それは一体何を意味するか。

「コバルオン、煙幕を抜けろ!」

指示が早いか、その足を持って視界を覆う煙幕を抜けるコバルオン。
その瞬間、コバルオンに乗ったミチオが数秒前にいた場所をオーレンがニダンギルを持って跳びかかっていた。

「うまくいかないわね全く…!」
「そういうことかよ。なら、コバルオン、ステルスロック!」

間一髪でオーレンの一撃をかわしたミチオはコバルオンにステルスロックを指示。
突如空間に顕現した岩の破片がオーレンの行く先を阻んだ。

「ハハハ、こいよオカマ野郎!どうせまだポケモン持ってるんだろ?!」
「…舐めてんじゃないわよアンタ!」

安い挑発、しかし無様な姿を見せさせられた後でのその言葉をオーレンは冷静に受けられるはずはなかった。
マタドガスの技ではコバルオンに対抗することは不可能。一般教養レベルでそれを察したオーレンはマタドガスを戻し、ランクルスのボールへと取り替えた時。
強い殺気を感じ、思わず身を後ろに下げた。




「はああああああああああああ!!」

宙に配置された大量の岩の破片をものともせずに突っ込んできた白い体のポケモン。
腕に刃のように備え付けられた剣はコバルオンの鋼の肉体へとぶつかり、鋭く斬りつける。

「っ!」

その不意打ちにコバルオンは身を捩り、上に乗っていたミチオはその体から振り落とされる。
着地したミチオはオーレンの警戒は外さぬよう気を配りつつ襲撃者へと視線を向ける。

白と緑の細身の体に鋭い刃を備えた腕を持ったポケモン、エルレイド。
奇しくもそれはミチオの持っているサーナイトとは対極な進化を遂げたポケモン。

そしてその後ろから現れたのは、サイキッカーらしき服装をした女。
オーレンとユカリは彼女の登場に思わずそれまでの動きを止める。
それは、つい先程自分たちに襲いかかったトレーナーだったのだから。
しかしその身に纏った雰囲気はその時と比べればひと目で分かるほどに異常な覇気を纏っている。
彼女自身の発するサイコパワーが、周囲の空気を蠢かせているかのような錯覚を覚えるほどに。

「……そのポケモン。お前、どこでそいつを手に入れた?」

その鋭い殺気はコバルオンから飛び降りたミチオに向いている。
気を抜けば念力がミチオへと飛びかかるかもしれないほどの強い念が周囲を覆い尽くす。
それはまだ幼いシェリは元より、オーレン達ですらも気圧されるほどのもの。

そんな念を真っ直ぐに向けられているミチオは、僅かに怖気つつもハ、と鼻で笑い答えた。

「こいつならさっき殺したやつから頂いただけだよ。それがどうかしたか?」
「……そうか」

答えは分かっていたとでも言うかのようにあっさりと受け入れたその女、イオナは。

「お前が、お前がリキをぉぉ!!!」

その叫びと同時にイオナの指に嵌められた指輪が輝き。
それに追随するかのように、エルレイドの体が閃光に包まれる。

殻を破るかのように光が弾け、その姿が露わになった時そこにいたのは純白の体にマントをたなびかせ、片腕のみだった刃を両腕に備え付けた騎士のような外見のポケモン。
やいばポケモン、エルレイドのメガ進化形態・メガエルレイドだった。

「殺す!お前だけは絶対に!!」
「…ハハハハ、いいじゃねえか。最高じゃねえかおい!」

一方でその憎悪をぶつけられているミチオは歓喜の笑い声を上げている。
憎しみの感情を当てられ、本来ならば気圧されてしかるべき状況。
しかしミチオはその事実にむしろ打ち震えるほどの喜びを感じていたのだ。

それは何故か。
女の憎悪は自分だけにぶつけられている。それはすなわち、この女は自分だけのことを見ている事実を示しているのだから。
そう、この戦いは自分とこの女だけのものだ。

「次から次へと…、手に負えないじゃない…!」

オーレンはぼやきつつもランクルスを呼び出す。
前にはコバルオンを連れた男と自分たちを襲ったサイキッカーの女。

後ろにはあの精神不安定な子供。
ミチオと女の戦闘の合間にケイイチが気を引いてこちらの戦闘範囲からは離してくれはしたみたいだが、しかし怪我人のケイイチに任せられる存在ではない。
彼女はある意味では真っ先に殺さねばならない、最も危険とも言える少女とオーレンは認識していたのだ。


その時だった。

「すげえ音がしてるからここだろうなって来てみりゃ、どうなってんだおい」
「ラグナちゃん、ちょうどよかっ…って何でアンタ達まで来てるのよ!」

走り現れたラグナの存在に有り難さを感じつつ振り返ると、そこにいたのはコトリとユカリ。
ユカリは元々この戦場に連れてくるには荷が重いと判断しラグナに任せてきた子であるし、コトリに至っては足手まといと判断したほどだ。

「仕方ねえだろ!待ってろって言っても聞かねえし待たせてたって安全とは限らねえんだからよ!」
「ワテクシには守ってあげられないわ、そっちでちゃんと守りなさいよ!」
「言われるまでもねえよ。
 おい、ケイイチ、大丈夫か!」

コトリとユカリを少し離した位置まで誘導した後ラグナはケイイチの元へと歩み寄る。
傍にいるシェリに対する警戒も忘れないために、その傍にグランブルを呼び出した状態で。

しかしその目の前で、ケイイチを乗せていたメブキジカが嘶き暴れ始めた。


「何なの…。何なのよ!」

不安定だったシェリは募らせた苛立ちを爆発させるかのように怒鳴り上げる。
移り変わる情勢についていくことができない、のみならず自分を放置して勝手に集まりゆく大人たちに不快な気持ちを抑えきれなかったのだ。

ニドキング、ニドクインに指示を送りだいちのちからをもってメブキジカを攻撃していたのだ。


「みんな消えて!パパ!ママ!お願い!」

シェリの言葉に反応するようにニドキングとニドクインはそれぞれ別の対象に攻撃を仕掛ける。

ニドキングはエルレイドに、ニドクインは傍にいたケイイチに。

「おいケイイチ、危ねえ!」

ラグナが咄嗟にグランブルを呼び出し、ニドクインの一撃を受け止める。
ばかぢからを抑えるグランブルはその腕に巨大な口のキバを突き立て、腕の力を緩ませる。
怯むニドクイン、しかし次の瞬間、グランブルの体がふらついた。

「ちっ、特性毒のトゲかよ…!ツイてねえ!」

噛み砕くを使ったことで接触したグランブルの体を、ニドクインの毒が蝕んでいた。
一端引かせるも、グランブルの体力はじわじわと減り続ける。
やむを得ずラグナがグランブルをボールに戻した時、シェリの絶叫が響き渡った。


グランブルがニドクインを受け止めた頃と時を同じくして、ニドキングはイオナのエルレイドへと跳びかかっていく。
ニドキングの頭部の鋭い角が一直線にエルレイドへと向かって突き出され。

「エルレイド、守る!」

しかしエルレイドはその一撃を守りの構えをとって防ぐ。
その後を追うように襲いかかったコバルオンのアイアンヘッドも、その防御の構えの前には破ることはできない。

攻撃を弾かれた態勢を整えるのはより小柄なニドキングの方が早い。
コバルオンの返しの一撃の態勢が整う前に、その純白の体になしくずしを放とうとし。

「邪魔を、するなぁ!!」

しかしイオナの叫びに応じるかのようにニドキングに向けてエルレイドはその腕の刃を振るう。
紫の光に包まれたその一撃は念力を刃にして相手を切り刻むエスパータイプの物理技、サイコカッター。

攻撃が届くより前にサイコカッターをその身に受けたニドキングは突き出した角を折られ、衝撃で吹き飛び壁面に叩きつけられる。

その様子を見ていたシェリの叫びが周囲に木霊し。


しかしそんな音も雑音にしか捉えていないかのように、ミチオは態勢を立て直したコバルオンに指示を出す。
コバルオンの剣の舞によって自身の攻撃力を上げられた肉体が頭を下げ突撃をかけるように構え。

「インファイト!」
「アイアンヘッド!!」

メガエルレイドの捨て身の一撃と、火力の上がったコバルオンの鋼の突進がぶつかり合う―――――




「パパ…、ママ…、ごめんなさい…私が悪い子だから…こんな…!」

シェリはそんなバトルの様子も目に入らぬかのように地に伏せるニドキングと傷付いたニドクインを見て嘆き。
ニドクインの腕の傷付いた場所に瓦礫の破片を叩きつけようとし。

その手が後ろから捕らえられる。

「やめ…るんだ…、そんなことをしても、君は…」
「うるさい!」

その手の瓦礫片をケイイチの頭に叩きつけるシェリ。
元より重症だった傷は開き、頭に巻かれた包帯から血が染み出し吹き出る。
意識が遠ざかり、その手を握る力が弱まる。
それでもシェリの手を離そうとはしなかった。

「ケイイチくん!」

その様子に慌てたコトリが、シェリの元に駆け寄りつつボールを取り出す。

「エルフーン、身代わり!」
「フー!」

振り下ろされた瓦礫の一撃を、エルフーンが身代わりで受け止める。
人間を殴ったとしても急所であるからこそ効果的なダメージをようやく与えられる程度だろうという程度の少女の攻撃ではエルフーンの身代わりを打ち崩すには足りない。

「くさ…ぶ、え……!」

掠れるような声でメブキジカに指示するケイイチ。
風に乗るような音がメブキジカの口から響き、シェリの耳へと届く。

やがて瓦礫を取り落とし、瞳を閉じてパタリと眠り込んだ。

そんなシェリの体を受け止めつつ地面に倒れこんだケイイチにコトリは駆け寄る。

「ケイイチくん!しっかりして!」
「あ…コトリさん……あの子は……?」
「今は寝てるから大丈夫。だけどここは危ないから早く離れないと…」
「おい、伏せろ!!」

その時だった。
ラグナの声が響き渡り、振り返ったコトリ達の顔に暴風のごとき衝撃が襲いかかったのは。





その頃、オーレンはぶつかり合うメガエルレイドとコバルオンに向かってニダンギルとランクルスを従えて向かっていた。

「ここはあなた達二人だけのフィールドではなくてよ!」

ランクルスのきあいだまが二匹の間に向かって放たれる。
輝く気の球をコバルオンはかわし、エルレイドは避けきれずその身に受けることとなってしまう。

しかし高い特防とエスパータイプという格闘に有利な相性を持つエルレイドには雀の涙ほどのダメージしか与えられていない。

「邪魔してんじゃねえよ!」
「邪魔をするな!!」

だがその割り込みに気を悪くした二人はさらに別のポケモンをオーレンに向かって放つ。

純白で華奢な体を持つ、ふんわりした印象を持つポケモン。
そして黄色い体に長い髭を備え、両手にはスプーンを持ったポケモン。

「そいつらを近寄らせるな!」
「この戦いの邪魔をさせるな!」

サーナイトとフーディンはその指示を受けて近寄るオーレンにめざめるパワーを、サイコキネシスを放つ。
ニダンギルをもってめざめるパワーを防ぐも、その鋼の刀身は熱を帯びて体を震わせる。
サイコキネシスは周囲の瓦礫を吹き飛ばし、オーレンの、そしてユカリやラグナ達のいる場所までその衝撃を飛ばす。

「くっ、滅茶苦茶じゃねえかこいつら…。おい、ユカリ、コトリ、大丈夫か!?」
「は、はい!」

ラグナはヘルガーを、ユカリはブラッキーを呼び出しサイコキネシスの衝撃を和らげる。
悪タイプのポケモンを持ってしても完全にはサイコキネシスを防ぎきれはしなかったものの、それでも二人が受ける衝撃をある程度は相殺してくれた。

「ユカリ!お前はコトリの方に向かえ!あいつらはお前じゃ荷が重い!」
「……、分かりました。気をつけて………あ、危ない!」
「うおっ!」

フーディンから放たれたきあいだまを間一髪で避けるラグナ。

その目から放たれる戦意はこちらに向いているが、離れた場所にいるコトリ、ケイイチ、シェリには向いていない。
それだけが安心できることだろうか。

サーナイトはオーレンの迎撃のために取り付いている状態。
ニダンギルとサーナイトであればオーレンの方が有利ではあるが、あの男がその相性を理解しているか怪しい部分はある。決着はすぐにはつかないだろう。

コトリの方を見ると、シェリは地面に眠るかのように倒れており、重症のケイイチと合わせて一生懸命介抱している。
少なくとも目の前で戦っているあの二人を差し置いて優先せねばならない状態ではない、むしろこっちに寄せてしまえば逆に危険だろう。

「まずはこいつをどうにかしねえとな…。ヘルガー、あくのはどう!」
「グルァ!」

そうしてフーディンに向き合った後、ヘルガーにあくのはどうを指示。その体から放たれた漆黒の波動がフーディンへと襲いかかる。
きあいだまを放とうとしていたフーディンは態勢を崩し動きを止める。

エスパータイプには効果抜群の一撃。しかし元々の特防が高かったこともあって一撃で倒すには至っていないようだ。

「ブラッキー!バークアウト!」

しかし続く攻撃、ブラッキーの放つ咆哮がフーディンを吹き飛ばす。

ヘルガーのあくのはどうに続くブラッキーのバークアウト。2連続の効果抜群の技であればフーディンの耐久力で耐え切ることはできない。
戦闘不能のフーディンはそのまま立ち上がることはない――――

「おい、マジかよ…」

そう思っていた矢先だった。
目の前で倒れていたフーディンがゆっくりと立ち上がったのは。
体をふらつかせ息を上がらせているその様子は確かに弱っている風ではあるが、しかしまだ瀕死とは呼べない有り様だ。

「ラグナさん、あれ!」

とユカリが示した場所に落ちているのはトゲの生えた小さな紫の物体。何かのきのみの残りカスのようだ。

「あれ、ナモのみのものです」
「こいつ、あくのはどうを軽減しやがったな…!」

フーディンに持たされていたナモのみがヘルガーのあくのはどうの威力を半減。
ブラッキーのバークアウトをかろうじて耐える程度には体力を残してしまっていたのだ。

フーディンはそのまま、ふらつきつつもスプーンを前に構える。
こちらのヘルガー、ブラッキーでは攻撃態勢が間に合わない。

「避けろお前ら!」

きあいだまか、あるいはまだ使っていない別の技か。
きあいだまであれば耐久力の高いブラッキーはともかくヘルガーが危ない。

駆け出すラグナの前で、フーディンはスプーンを曲げ。

そのまま自身の姿をかき消した。

「……は?」
「テレポート…、どうしてそんな技まで…?」

一瞬その動作への理解が遅れるラグナ。
ユカリはその技自体ははっきりと認識していたものの、しかしポケモンバトルにおいては使うことがまずないだろう技をフーディンが覚えていたことに困惑を隠し切れない。

いや、違う。
テレポートは攻撃する技ではない。あくまで相手との戦闘から離脱する時に使用されるもの。
本来トレーナー同士の戦いで途中で戦闘そのものを放棄しての離脱など有り得ない。
しかし、ここはただのポケモンバトルではない。ポケモンを利用した殺し合いだ。他ならぬオーレンにはっきりと告げられたこと。

ここから撤退したということは、フーディンが向かった場所は当然トレーナーの元だろう。
今ならば向こうに向かいオーレンの援護ができるはず。
そう思ったユカリの目の前に飛び込んできた光景。

「――――オーレンさん!」

それはオーレンが体に強い衝撃を与えられ吹き飛ぶ姿だった。


「ニダンギルちゃんどうしたの!何か切れ味落ちてない?!」

ラグナ達がフーディンを相手取っている頃、オーレンはサーナイト相手に手を焼いていた。
ポケモン相手に人間の身体能力で戦うのは無謀ではあるが、ニダンギルという相性のいいポケモンを持っている以上そこまで不利という状況ではなかった。

オーレンは気付いていない。今のニダンギルが不自然なほどの熱を帯びていることに。
それはサーナイトの放ったおにびによる火傷状態を意味していた。
本来オーレンのある程度高い身体能力と合わせれば回避も可能だったおにびだったが、ニダンギルの特性、ノーガードの影響で避けることができなかったのだ。
そしてまだ戦えると考えているオーレンは火傷の影響でニダンギル自身の攻撃力が下がっていることに気付いていなかった。

「ランクルスちゃん、サイコキネシス!」

一方で隣にいるランクルスも攻撃を放っているものの、高い特防とエスパー・フェアリータイプを持つサーナイト相手には通じる技がない。
弱点を突くことができるマタドガスを出したとしても、相性での不利は同じ。素早さが劣る分返り討ちに合う可能性が高い。

結論としてニダンギルに頼るしか手がなくなっていた。
しかし今のニダンギルは鋼タイプの技、アイアンヘッドやジャイロボールを備えていない。
さらにオーレン自身が振るっていることでシャドークローではなくきりさくやつじきりといった技を持ちいらざるを得なくなっている。

「こうなったら、でんじはよランクルスちゃん!」

ここにきてようやくオーレンはランクルスに補助技を指示。
状態異常:麻痺に陥らせて相手の行動力を大きく下げるための技だ。

「いくわよ!」

でんじはの命中を確認してオーレンはニダンギルを持って攻撃を仕掛ける。
しかし。

「…!でんじはが効いてない…?」

サーナイトの動きは鈍ってなどいない。
オーレンの攻撃をあっさりと避け、炎タイプを備えたエネルギーを放ってくる。

サーナイトが持っていたラムのみがでんじはによる麻痺効果を瞬時に治癒してしまったことをオーレンは見落としてしまったのだ。
その事実を見落とし、攻撃の一手を無駄にしたことに気付かなかった。

咄嗟に自身の体に当たることは避けたがニダンギルの体の熱が限界を迎え、一度激しく煙を上げた後その鋼の刀身をしなだれさせた。
見ると背負っていた体に当たる本体部分が目を回している。これ以上の戦闘は無理、ということだろう。

だが、武器としての使用は可能のはず、とオーレンはボールに戻すことなくサーナイトに突撃をかけ。
ニダンギルを振り上げた、その時だった。

「…あら?」

振り下ろされた手は何も持っていなかった。
戦闘可能状態を越えて瀕死となったニダンギルはモンスターボールへと自動回収されていた。
まだニダンギルを用いて戦闘を続けようとするオーレンの意志に反して。

そんなオーレンの目の前で、サーナイトは念力の塊を作り上げ。
一斉にそれを放出した。

「ぐぁっ!!」

全身に走る衝撃に吹き飛ばされるオーレン。
しかもその先にはコバルオンのばら撒いたステルスロックが散乱している空間。
サイコショックとステルスロックの衝撃が一斉にオーレンの体を打ちのめす。

「オーレンさん!」

ユカリの声が響き渡る。
急いで向かおうとするも、ステルスロックが邪魔をしてこちらに来るには時間がかかっている状況。

意識を失ったオーレンを静かに見下ろすサーナイト。
その体に未だボールに収まっていなかったランクルスが飛びついた。
一時的なものにすぎないとはいえ今の自分にとってはトレーナーである男。殺されるわけにはいかないという思いがあった。

「クル!」
「………」

地面に転がり仰向けに倒れるサーナイトの体。
しかしサーナイトはそんなランクルスに対して反撃することもなくじっと見つめるだけ。
その細い体を押さえつけていたランクルスは反撃の気配が全く感じられないことに疑問を感じ思わずその力を緩める。

やがてランクルスがその体から離れ起き上がってもサーナイトは戦意を見せない。
ただ、悲しそうな瞳をランクルスに向けるだけ。

「ヘルガー、ヘドロばくだん!」

その時、ステルスロックをくぐり抜けて現れたラグナがヘルガーに攻撃を指示。
対象は当然ランクルスの前に立つサーナイトだ。

ヘルガーから放たれた紫色の毒々しい球体はサーナイトの体に衝突して弾けその身を毒色に染め上げた。

オーレンとの戦いのダメージが残っていた体に効果抜群の一撃を受けたサーナイトは地面に倒れこむ。

「オーレンさん!」

その後ろから追いついてきたユカリは地面に倒れたオーレンに駆け寄る。
体には打撲傷や切り傷が付いているが命に別状のありそうな傷は見えない。
サイコショックのダメージが大きかった故に意識を奪われただけだろう。

と、そんなユカリ、そしてラグナの目の前で地面に倒れたサーナイトの体が光に包まれる。
そのまままるで吸い込まれるかのように光は少し離れた場所で激しい音を響かせている二人のトレーナーの元へと届く。
瀕死となっても一定時間回収される気配が見られなかったサーナイトが持ち主のボールに戻っていったのだろう。

「…俺達であの二人を止めるしかねえな……」

幸いヘルガーのダメージはほとんどない状態だ。
グランブルも毒を受けているのが少し不安だがコンバータに仕舞ってそれなりの時間が経っている。もう少しで全快状態を取り戻すだろう。

そんな時だった。

「ダメ!止めて!!」
「離せ!私に触るな!!」

後ろから激しく言い争うような声が響く。
振り返った先にあったのは、目を覚ましたらしきシェリがケイイチを殴りつけようとしているのをコトリが必死で押さえている様子。
ケイイチの傍にいるメブキジカ、エルフーンはニドクインを抑えるのに精一杯でコトリやケイイチに意識を割くことができていない。

「ラグナさん、私が――――」
「!!おい、伏せろ!!」

ユカリが急ぎそんな彼らの元に向かおうとしたその時だった。
前を見たラグナがユカリ達に向けて声を張り上げたのは。

そして次の瞬間。

見えたのは2つの膨大な光が衝突し。
その間で発生した膨大なエネルギーが地面を陥没させ、のみならず彼らのいた場所まで強烈な衝撃を巻き起こした。





さらに少し時間を遡る。
イオナとミチオは互いのポケモンを激しくぶつけあっていた。

「アイアンヘッド!」
「サイコ…いや、まもる!」

コバルオンの鋼の頭突きに対して、イオナはサイコカッターを指示しようとし。攻撃態勢が間に合わないと判断し咄嗟に守ることを指示する。
衝撃はエルレイドの体を押し出すも、ダメージはない。

睨み合う2匹、だがコバルオンは疲労がたまっているかのように息をついている。
エルレイドはコバルオンのアイアンヘッドを警戒していればいいが、しかしコバルオンはインファイトとサイコカッターに注意を払わなければならない。
メガシンカしたエルレイドの火力であれば抜群となるインファイトは元よりサイコカッターでも軽傷とはいかなくなる。
あと一つの技が分からないのが不安要素ではあるがすぐに使ってきそうな様子はない。

「さすがにダメージが大きいか…。コバルオン、こいつを食え!」

と、手を振り上げて何かを投げつけた。
飛来した小さな物体、それはオボンの実。
この戦いの場に来るまでの間になっていた実を拾ったものだ。

サイコカッターの一撃を飛び上がって避けたコバルオンは、宙を舞うそれを咥え。

「はたき落とせ!」

しかしそんなコバルオンに食い下がるように追いついたエルレイドは、オボンのみを口にしたコバルオンの顔面に強烈な張り手を喰らわせた。
その衝撃に思わずオボンのみから口を離すエルレイド。

「はははは、バカか!回復は防いだけど今のでコバルオンの攻撃力は上がったぞ!」

オボンのみを使いそこねたコバルオンの体力は回復することはなかった。しかしコバルオンに与えたダメージ自体は軽微、のみならずあくタイプの攻撃を使ったことで攻撃力を上げてしまっている。
つるぎのまいと合わせれば今のコバルオンはかなりの攻撃力を備えている。インファイトの連打で防御を幾度と無く捨てた今のエルレイドならば、当てることができれば一撃で倒せるはずだ。

そんなことを考えていたミツオはほんの僅かに意識をエルレイド、イオナから離してしまっていた。

だから気付くのが遅れてしまった。
横から飛来する瓦礫片の存在に。

「―――っ!」

避けられはしなかったものの、頭部に直撃するのは避けるように腕を上げて頭を庇う。
ドゴッ、と腕に軋むような衝撃を与えて体を後ろに下がらせた。
前腕部の痛みが体まで響く。
瓦礫が落ちても収まらぬ痛み。骨にヒビくらいは入っているかもしれない。

腕を抑えながら周囲を見渡すと、10メートルほど離れた場所にイオナの姿。その周囲にはこちらを狙うように複数の瓦礫片や木々の欠片が浮遊している。
こちらを直接狙ってきたのだ。先に自分が空手王にそうしたように。

「ちぃ」

避けられたことに舌打ちしつつ、さらに瓦礫を一つ、二つと念力で飛ばすイオナ。
飛び退いて避けながらコバルオンの後ろに退避。

飛びかかる瓦礫はコバルオンが弾き飛ばす。

「アイアン……いや」

アイアンヘッドを使えばコバルオンはその頭突きを放つためにここから離れ去る。そうなれば念力による直接攻撃を受けてしまうことになる。
せいなるつるぎを使ったとしても接近戦となることは同条件――――平常時であればそうなる。

今のコバルオンはつるぎのまい、そしてせいぎのこころによる攻撃力アップの恩恵を受けている。
今ならば行けるだろうか。あの聖剣を広い間合いで放つ攻撃が。

「コバルオン、せいなるつるぎ!」

迷うことなくミチオはせいなるつるぎを指示。

コバルオンの頭の角が光輝き、まるで剣のように形作る。
だがそれは攻撃力が上がったことに比例するかのようにその光の剣を伸ばす。

離れた場所にいるエルレイドやイオナにも届くほどに。

「行けええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

振り下ろされた剣は空を切り衝撃波を振りまきながらエルレイドの体を両断しようと迫る。
インファイトによって守りを下げたエルレイドには、半減威力であろうとも脅威になるだろう一撃。
それもまもるを使えば防げるだろう。

だが、イオナはそうはしなかった。

「サイコカッターで迎え撃て!」
「ルレィ!」

エルレイドの両腕のサイコパワーで作られた刃が、その聖剣を受け止めるように体の上でクロスし。
コバルオンのせいなるつるぎを真っ向から受け止めた。

せいなるつるぎとサイコカッター、二つの刃がせめぎ合い大気を揺らす。
エルレイドとコバルオン。
高水準の攻撃力と平均クラスの防御力を持つポケモンと高水準の防御力に平均レベルの、しかし補正のかかった攻撃力で半減技を放つポケモン。
メガシンカポケモンと伝説のポケモン。

ぶつかり合う2つの力、そこから発生したエネルギーは周囲に渦を巻き。

「殺せええええええええええええええええええ!!」
「やれえええええええええ!!」

叫び合う二人の声に応じるかのように2匹の体が押しこむかのように力を込め。

ピキッ

しかしそれはポケモンの体よりも攻撃そのものが限界を迎えた。
集まりに集まったエネルギーは、互いの刃崩壊と同時に一斉に周囲に解放され。

―――――――ゴオッ!!

2匹の立っていた地面に大きな亀裂を生み陥没させ。
まるで風神の起こした暴風のごとく、周りの瓦礫やステルスロックを撃ち上げるほどの風をまき散らした。






「うおっ!!」

吹きすさぶ風に乗り瓦礫やステルスロックが大量に飛びかう。
ラグナとユカリは風の勢いに目を開くことすらも叶わなくなる。
しかし前にいたランクルスが自衛のために貼ったリフレクターが障壁の役割を果たし、吹き飛ぶ障害物によるダメージを抑えた。

だが、暴風による風はかなりの広範囲に渡って巻き起こった。
それはシェリやケイイチ達のいる場所にも突風を吹かせるほどに。
その3人のいる場所ほど離れていれば風自体はほとんど収まっている。
しかし意識が危ういケイイチに暴れるシェリを抑えるコトリ、そしてポケモン達。
そんな各々の対応に追われる彼らにはその地点まで勢いよく飛ばされた瓦礫を守る術を持った者はその場にはいなかった。

「きゃああああああああ!!」
「コトリ!!」

様々な者の叫びが木霊する中で。
コトリ達3人と他の5人の間の空間を、降り注ぐ瓦礫の山が塞いでいき。

叫び声が聞こえなくなる頃には既に互いの姿は見えなくなっていた。



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最終更新:2015年04月10日 09:37