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人が死ぬことは怖かった。
そんな世界とは今までもこれからもずっと縁のない世界だと思ってたから。

だけど、そんな世界に生きてきたからこそ憧れていたものがあった。
小さなころから自分のポケモン達と見た映画の中にいた者達。

悪の怪人を相手に華麗にポケモンを繰り出す正義の味方がいた。
巨大なポケモンのロボットから街を守ろうとする防衛隊の戦士がいた。

それらが映画の中にすぎないものだということは成長するにつれてやがて悟っていったが、しかしそれでも憧れは消えなかった。

だが。

カントー地方のヤマブキシティにあるシルフカンパニーを乗っ取ったロケット団を追い払ったのはたった一人のポケモントレーナーだったという話を聞いた。
壊滅したはずのロケット団の残党がまたもラジオ塔の占拠をした時、そいつらを追い払ったのもまたただ一人のポケモントレーナーだったという噂があった。
イッシュ地方でプラズマ団の首領が伝説のポケモンを操り世界を変えようとした時、もう一対の伝説のポケモンを駆ってその野望を食い止めたのもまた名も無きポケモントレーナーだったという。

そんな話を聞いた時、小さなころから憧れていたヒーローに対する強い想いが蘇っていた。
映画のような、物語のようなヒーローは確かに存在するのだと。
彼らのような、強いポケモントレーナーになりたい、という想いが熱意となって溢れていた。

だからキャンプボーイになり色んな山や川、海を一人で冒険し自分を鍛えた。
だけどポケモンバトルもそこまで強くはなれず、悪の組織と出会うことも、伝説のポケモンと出会う機会も無く。
ただヒーローの、正義の味方への憧れだけをただ燻らせるだけの日々だった。

きっと、ヒーローというものに対する綺麗な部分だけを見ていたのかもしれない。
まだ子供の考え方から抜け出せていなかったのかもしれない。

そんな時に、俺は殺し合いを開催するパロロワ団なるものと出会った。
あの最初の場所で、驚きと共に若干ではあるがこうして自分の鍛えてきたものを明かす機会に恵まれたことに歓喜している自分がいた。


だけど目の前で本当に人の首が飛んでいく光景に怖くなり。
その怯えを拭いきれぬままに、それでも殺し合う人たちを止めようとして、しかし目の前で繰り広げられたのは一人のトレーナーが首を刈り取られていく光景。

二度に渡る人の死に怖くなり逃げ出してしまっていた。
飛び散るあの赤い液体、そして動かなくなる人たち、そんなものに動じずにいられるような経験も知識もなかった。

そしてあの少女と出会い。
助けなきゃ、守らなきゃと感じていた想いがあったにも関わらず怯えからまず協力を申し出ることから始め。
襲われればその恐怖感から思わず反撃に出てしまい。
そしていざ助けようなどと、自分の満足感を満たすことしか考えていないにも関わらず思いながら助けようとした結果がこれだ。

あの子はそんな自分の気持ちを一体どこまで気付いていたのだろうか。
上辺だけで助けようとする自分の、そんな邪な思いに。

しかしあの時最初に女の子のトレーナーを殺したおっさんがその子も殺そうとしていると聞いた時。
それじゃダメなんだ、と。それじゃあの子は助けられないんだ、と。
そして自分がこんなふうになったせいであの子が殺されそうになっているんだと。


そう考えたらいても立っても居られなくなった。
俺のせいであの子が殺されそうになっていると。俺の身勝手が人を死なせようとしているのだ、と。

だけど、結局ダメだった。
確かにオーレンさんに殺されることだけは阻止できた。
でも女の子はどうすることもできなかった。のみならず、その先延ばしにしてしまった問題が別の問題――別の殺し合いに乗った人物をも呼び寄せてしまった。

全ては俺の身勝手な正義感からくる罰なのだろう。

だけど、例え罪悪感からきたものだったとしても。
あの時あの少女を助けたいと思ったその気持ちだけは真実だった。



「う…、痛っ…」

突然の衝撃に吹き飛ばされたコトリは痛みに呻きながら目を覚ました。
頭から血が流れているのを感じ、ふと心配になって傷に触れてみたがどうやら頭の皮を斬っただけのようだった。

「フー」

起き上がりながら倒れた場所に振り向くと、そこにはエルフーンの姿。
モコモコとした大量の綿がその体を覆っており、さらに周辺にはたくさんの綿の切れ端が散乱している。

「…エルフーン?もしかしてあなたが?」
「フーン」
「ありがとう!」

コットンガード。
何となく戦いよりも人を守れるような技を持たせておきたいと、あの戦いの場に着く前にやどりぎのタネから変更させた技だ。
技を変えておいてよかった、と一安心するコトリ。


本来ならばもっともこもことした綿に包まれることを楽しんだだろうが、今はそんな状況ではない。
お礼をそこそこに、もう一人この周辺にいるはずのケイイチとシェリの姿を探す。

すると少し離れた場所でシェリは地面に倒れこんでいた。
ニドキングとニドクインの姿はない。ニドキングは戦闘不能状態であるため問題ないだろうがニドクインはそうではなかったはず。

そしてそこから少し離れた場所で。

「…っ!ケイイチくん!」

ケイイチが崩れた建物の傍、瓦礫に足を挟まれた状態で倒れていた。
処置したはずの傷は完全に開いたようで、頭に巻いていた包帯は真っ赤に染まりきり吸いきれなくなった血が地面を赤く濡らしている。

「しっかりして!ケイイチくん!」

考えるのは後だ。今はまず彼の体の状態を、無事を確認しなければ。

「あ、のさ……」

と、呼びかけに応じるかのように声を絞り出すケイイチ。しかし様子がおかしい。
目は半開きで焦点もロクに定まっていない。

「俺さ…小さいころからヒーローに憧れてたんだ…」
「ケイイチくん…?」

呟いている言葉もこちらに話しかけているというよりはただ空間そのものに独白するかのように焦点の合わぬ言葉を投げかけている。
きっと目はもう見えていないのだろう。下手をしたら声も聞こえていないのかもしれない。

だから、コトリはその手をしっかりと握りしめて自分がここにいるということをケイイチに示した。

「映画とかに出てくる、あ、なすごい男になり。たくて。
 そんな気持ちばっかり出てきてあの、子がどうして苦しんでるのか、なんて全然分かろうとも、してなかった」
「…………」
「覚悟もなかった…。ただ。自分の気持ちを押し付けただk、だった…。
 ただ、俺がバカだったんだ…。そのせいで、みんなを……」

手からケイイチの力が徐々に抜けていくのが分かった。

「みんな…、俺がバカなせいで巻き込んじまって…、ごめんな…」
「そんなこと…!違うよ!ケイイチくんは悪くないよ!悪いのは……」

そう、悪いのはこの状況だ。
他者を傷つけ殺すことを強要しているこの状況。それがおかしいのだ。
ケイイチの想いは間違ったものではない。ただ少し失敗してしまい、それが命に関わってしまったというだけのこと。
善悪で語るのならそれは決して悪ではない。

「なあ、コトリさん。勝手なことだって、分かってるけど、お願いさせてくれないか……?」
「うん……」
「あの、女の子のこと、どうか――――――」

ドン

そう言いかけた次の瞬間だった。
ケイイチのいた場所に向けて大きな岩の塊が落ちてきたのは。

コトリは反応することすらもできず。
ただ握りしめていた手を残して、グシャリ、と嫌な音を立てて岩の下敷きになる姿を見ていることしかできなかった。

思わず見上げると、そこには。

「ギシィィィィ」

瓦礫の山の上で吠えるニドクイン。

「―――全部、壊して」

そして自分の後ろから聞こえた、少女の声。




「コトリ!ケイイチ!」

ラグナは閉じられた道に向けて叫ぶが声は届かない。
生きているのか死んでいるのかすらも確認を取ることができない。

そもそも声は果たして届いているのか。

このすぐ傍でコバルオンとメガエルレイドの戦いが繰り広げられている空間。
伝説のポケモンとメガシンカポケモンの戦い。

今の自分達のポケモンで太刀打ちできる相手ではない。
だが、かと言って見捨てられる相手では―――

「リッキ」

その時だった。目の前に一つの影が現れたのは。
4本の腕を持った格闘ポケモン、カイリキーだ。

「…まだいたのかよ、ち、相性が悪い…」

ヘルガーやブラッキーとカイリキーの相性は悪い。
圧倒できるとしたらグランブルだが、あっちはまだ毒状態が解けていない。できれば無理をさせたいものではない。
だが。

「贅沢は言ってられねえか…」

ボールを取り出しグランブルを呼ぼうとするラグナ。
が、その時だった。

コロン

投げ渡されたのはオボンのみ。
ポケモンが体力を減らされた際に使うことで、自身の体力をある程度回復させることができるもの。

人間にも効果はあるだろうし、使えばきっとオーレンのダメージも回復、とまではいかなくても体力の回復程度は可能だろう。
だが、カイリキーはどうしてこれをこちらに投げ渡したのか。

―――ドゴォン

そんな疑問も解けぬまま、カイリキーは壁を殴り飛ばし。
崩れた岩が、建物が2匹のポケモンがぶつかる場所と自分たちのいる空間を断絶した。

「…?」

行動の意味が分からずラグナとユカリは一瞬首を傾げる。
それは戦場では紛れも無く大きな隙だったにも関わらず、カイリキーは何もしてこない。

「…ここから離れるなら手は出さないと、そう言いたいんですか?」
「………」

返事はない。
ただカイリキーは静かにこちらに無防備な背を向けるだけ。
もし攻撃を加えればカイリキーに大きな一撃を加えることは可能だろう。

しかし、そうすれば間違いなく相手は反撃してくるはずだ。その場合オーレンはどうなるだろう?
最も自分のトレーナーを狙った存在、少なくとも都合よく見逃せるものではないだろう。ましてや今の彼は意識がない。狙うには絶好の相手だ。

だが、それでこちらが背を向けた場合に不意打ちをしてくる可能性はゼロではない。

「…ラグナさん、たぶんですが、このカイリキーは信じてもいいと思うんです」
「何でそう思うんだ?」
「勘、…ですかね。何となくですが、このカイリキー、昔私のおじいちゃんがパートナーにしてたハリテヤマに似た雰囲気を感じるんです。
 力強くどんな相手をも蹴散らす強さを持っていながら、でも他人に優しかった、憧れのポケモンに」
「…信じていいんだな?」
「少なくともオーレンさんの怪我をどうにかするのを優先した方がいいのは確かです。
 どうしても信じられないなら私がラグナさんの後ろを守ります」
「……」

ラグナは静かにオーレンを背負い、ケイイチやコトリが倒れているだろう場所へと向かう。
近くだったはずなのに道が塞がれたことで遠回りしなければ向かうことができなくなっているが。

ユカリはせめてもの警戒とバクフーンを呼び出し、ラグナの信頼に答えるためにカイリキーを警戒しながら彼の背を守って進む。
その間、カイリキーはずっと佇み続け。
やがて彼らが見えなくなった辺りで瓦礫の向こうへと飛び移り立ち去って行った。




私は別にポケモントレーナーでもありません。
ポケモンのことは大好きだけど、ポケモンが傷付くと思うとどうしてもポケモンバトルを自分ですることはできなかっただけです。
バトル自体が問題なのではない。自分の失敗でポケモンを傷付けてしまうことが怖かった。

私には二人の幼馴染の友達がいます。
小さなころからずっと一緒にいた、大切な友達。
だけどそんな二人はそれぞれやがて別々の道を歩んでいきました。

一人はポケモンコーディネーターとしてポケモンコンテストライブに出場するため。
一人はポケモントレーナーとして自分やポケモン達を鍛えるために。
共に別々の道に旅立って行きました。

だけど私はそのことに引け目を感じたことはありません。

その二人とはちょくちょく連絡を取ることはできますし。
ライブに出場するための衣装について一緒に相談に乗ったりもしていました。
ポケモンや友達自身に合わせた衣装を考えて、時には作り。
トレーナーを目指した子には力になることはできませんでしたが、帰ってくるたびにその子の話す旅であった出来事を聞くことを楽しみにしていました。

みんなが夢を目指して成長していってる中で私だけ何もすることなく生まれ育った街で過ごしている日々。
そんな毎日で本当にいいのか、と考えたことも昔はありました。
ただメイドのアルバイトを続けながらポケモンと戯れる日々。
どこにも行かず、何か特別なことをすることもなく。
二人は変わっていっている気がしました。
夢を、自分の理想を目指して旅立って、帰ってくるたびに少しずつ成長しているように感じました。

一度そのことを友達に相談したこともありました。
すると、友達は笑って言いました。

『あなたがこうして街で暮らしているというだけで、私たちはここが私たちの帰るべき場所だって思えるんです』
『こうしてたまに帰ってくるたびに色々服のお話とか旅でどんなことがあったかってこと話せるだけで私は十分だよ』

本当にそれが自分のためになるの?二人においてきぼりにされてない?
それでも払拭できない不安をそう問いかけたりしました。

『コトリ、あなたのそのどんな他人のことも受け入れるところは長所だと私は思います。だけど少し自分のことになると気負いすぎるきらいがありますね。
 もっと自分のやりたいようにしてみたらいいと私は思いますよ。あなたがどんなに変わっても変わらなくても、私達はあなたのことを嫌ったりなんかしません』


例え自分達が変わることがあっても、私たちの友情は決して変わらないと。
だから、その上で私がやりたいことをゆっくりと見つけていけばいいんだ、と。

それはこのさっきラグナさんに言われた言葉に、ユカリちゃんが感じていた悩みに近いものでした。

それが弱さならば克服していく。だけどそれが長所ならば自分自身に自信を持って胸を張っていけばいいんだと。

じゃあ、こんな殺し合いの中で私には一体何ができるんだろう。

ケイイチくんが死んで、目の前には傷だらけの子供。
そんな状況で、私がすべきこと、立ち向かい、向き合わなければならないことは何なのだろう。

私に、何ができるのだろう。




エルフーンがコットンガードを張って防御力を上げるが、ニドクインはなしくずしを放ち上げた防御力を貫通してダメージを与えてくる。
みがわり、アンコール、ムーンフォース。
今のエルフーンの攻撃には有効打がない。

「ラプラス、お願い!」

呼び出したのはもう一匹のポケモン、ラプラス。
氷、水の二つのタイプを持つポケモン。

彼ならばニドクインに対して強気に出ることができる。
だが。

「ラプラス!ニドクインを抑えて!」

攻撃を指示せず、あくまでもニドクインの動きを止めることを優先した。
その巨体はニドクインの体の動きを阻害し、さらにそこに加えてエルフーンが身代わりを使って攻撃を防ぐ。

攻撃すればニドクインを落とすことは容易いだろう。しかし取り押さえるとなると2体のポケモンを持ってしてようやくだ。

コトリがニドクインを攻撃できない理由。
おそらくは今ニドクインを倒してしまえば、シェリの戦闘可能なポケモンはいなくなる。
それは彼女自身の死を意味していることはサカモトの言葉から分かる。
これからの戦いは彼女を止めるためのもの。殺すためのものではないのだ。

加えて、シェリがポケモンの追ったダメージを自分に反映させるように自傷していたのは先の異常な行動から把握済みだ。
だからこそ、出来る限りポケモンを傷つけずにニドクインを止めなければならない。
これ以上、目の前であんなに小さな女の子が傷付くのは見たくない。
例えそれが一度襲われた相手であったとしても。

それが一体どれほど困難なことかは今のポケモン達の様子を見れば明らかだ。
だけど諦めるわけにはいかない。
ここでそれをしてしまえば、ケイイチの死が無意味なものになってしまうから。

「ねえ、名前は何ていうの?」
「………」

コトリはゆっくりと問いかける。
なるべく警戒心を煽ることがないように、静かに優しく。

しかし少女は答えない。
返ってきたのは敵愾心と警戒心、そして強い憎悪に満ちた視線だけ。

きっとこの子には辛いことがあったのだろう。
自傷行為に走るほど精神が病んでしまうほどの。


「あのニドクイン、ママっていうんだよね。どうしてそう呼ぶのかな?
 由来があるなら、お姉さん聞きたいな」
「……」
「あなたのパパとママは、何をしてるの?」
「……―――、うるさい!」

それまで沈黙を保っていた少女は、その言葉が琴線に触れたように石を投げつけた。
思わず顔を背けるが、頭に当たったそれは鈍い痛みを残して地面に落ちた。

「ママはいなかった!パパももういない!
 私がパパを裏切ったから、ママしかいないのにママになれなかったから、だからいなくなった!
 だからルキもいなくなった!」

それまで溜め込んでいた想いを吐き出すかのように喚き散らす少女。
言葉には整合性が取れておらず詳しいことまではコトリにも分からない。

だが、何となく分かったこと。
少女の父親と母親はもうおらず、ルキという存在がいなくなったことと加えて全てが自分のせいだと思っていること。

「じゃあ、どうしてあの子達にパパとママって名付けたの?」
「うるさい!」

少女は手に瓦礫片を持ったままコトリの元に走りより、力いっぱい振り下ろす。
思わずそれを後ろに下がることで避けたコトリ。

「プ、ゥゥ…」

後ろで聞こえるエルフーンとラプラスの鳴き声。どうやらニドクインから少しずつだが加えられている反撃にダメージを受けている様子。

(…ごめんね、ラプラス、エルフーン……)

きっと2匹が戦闘不能になったら自分は死ぬだろう。
だが、そんな事実よりも自分のわがままに付きあわせ、その結果こうして傷ついているという事実が苦しかった。

だからこそ、急がないといけない。

「私はあなたを傷つけないから、だからもう止めよう?落ち着こう、ね?」
「嘘つき!そう言って私を無視して、私から全部奪っていったくせに!ルキのこと、助けなかったくせに!」

瓦礫がコトリの腕を打つ。
強打された場所に小さな痣ができピリ、と痛みを発する。

「痛っ…」
「みんな壊れろ!死んじゃえ!愛も、思い出も、何もいらない!」

怒りのままに、少女はボールを取り出し、中のニドキングを呼び出した。
エルレイドから受けたダメージも折れた角も既に完治している。危惧していた状況になってしまった。

エルフーンやラプラスはニドクインを抑えることに必死でこちらに呼び戻せそうにない。

「やっちゃえパパ!」

指示を受けてその腕を振りかぶり殴りかかるニドキングを前に。

コロッ

「――!」

コトリはふと手が触れた何かを投げつけた。

ポン

投げた何か―――モンスターボールは目の前で開き。
光と共に現れた何かがニドキングの腕をガッシリと受け止めた。

「ニドキング…?ううん、この子は…」

そこにいたのは同じ姿をした2匹のポケモンの姿。
2体のニドキングがガッシリと組み合い押し合っている。
しかしこっちを守るように位置したニドキングだけ僅かに色が薄い。

「ケイイチくんのメタモン…」

変わり者の特性により出現と同時に変化、そしてスカーフの効果により目の前のニドキングより素早く動けたメタモンが暴れまわるニドキングの体を受け止めていたのだ。
しかしスカーフと技の効果が合わさり、こちらの言うことを受け付けなくなっている。
このままだとニドキングとメタモンのどちらかが倒れるまで戦い続けることになってしまう。

地面を転がるように組み合う2匹のポケモン。

一撃一撃、技が繰り出されるたびに互いに傷ついていく。

「はぁ…はぁ…」

じっとその光景を見つめる少女は、ニドキングの傷ついた場所を掻き毟っている。
引き裂かれた腕の皮からはじわりと血がにじみ出ている。

その腕に残った、治りかけのカサブタが剥がれていく様子が痛々しかった。
だけど、それから目を背けるわけにはいかない。

「……離して」

ひたすらに手を掻き毟り続ける少女の手を掴むコトリ。
しかしそんなコトリの手を少女は拒絶するように振り解こうと力を込める。

「離せ!!」
「そんなことやっちゃ痛いだけだよ…」
「うるさい!お前に何が分かる!」
「あなたのことは分からない、だけどそうやって自分を傷つけてたら痛いって、苦しいってことは分かるよ!
 あなたはそうやって、痛くないの?苦しくないの?!」
「――――っ」

腕に込められた力が強くなり、コトリの手を振り解いた。
敵意を込めてこっちを見返す少女の瞳。
しかしそこにはさっきまでとは別の感情が混じっているように思えた。
まるで何かに困惑しているかのような。

「……どうして?」
「だって、そんなふうにしたら私だったら耐えられないよ。痛いし苦しいし、誰も楽しくなんてならないよ…」

コトリの言った言葉は別に特別なものではない。
ただ彼女なりに思ったこと、感じたことをありのままに伝えただけだ。

少女が傷付く姿を見ていられなくて。
ポケモンが傷ついていくだけでも痛々しいのに、それと同じ傷を自分につけるなんて。
そんなこと、コトリにしてみれば考えられないことだったから。

それだけだったのに、少女の動揺が強まっていくように感じられた。

「どうして?
 どうしていまさらそんなことを言うの?」


シェリはあの日が来るまでは人を恨んだことはなかった。
周りの人間が自分を助けてくれなくても。
どれだけ父親が自分に暴力を振るおうとも。

助けてくれないのは当然のことだ。それは自分の手を切って学校に行った時に思い知ったこと。
ならば全て自分一人で背負い込めばいい。

それが変化していったのは、ロコンと、ルキと会ってから。
旅に出てからはあの子とは一心同体のようにも感じられたし、だからこそルキが傷付くたびに自分を傷付けることでその繋がりを強めていった。
だけど、そうしていくうちに自分の内には父親に対する憎しみも生まれていた。
他に自分が大切なものを作ってしまった以上、相対的にそうでないものに対する想いが減退していった結果だった。

では、その愛そのものを失った時どうなってしまうのだろうか。

それまで自分を助けようともしなかった者が、自分を助けようとしたルキを失わせた。
どうしてこんな時ばっかり自分に構うの?どうして手を差し伸ばしてもくれないくせに、私から大切なものだけ奪っていくの?


シェリは気付いていた。自分が配られたポケモンに対して何の特別な想いも抱いていないことに。
だけど、世界は別だ。人間は別だ。
手を差し伸べることも拒み、大切なものだけ奪っていく人々を、世界を憎悪した。

そしてこのポケモン達は力だ。今の自分にとっては
だからこそ、パパ、ママと名付けた。
だからこそ、ルキの時のように攻撃を受ける度に自分を傷めつけた。
如何にも自分がこのポケモン達に愛情を持っているかのように振る舞うことで、ニドキングとニドクインを自分と結びつけ復讐のための力として確立させるために。

現にここにいた人は悪い人達ばかりだった。

助けもしなかったのに、都合のいい時だけ自分に頼ろうとする者。
力で自分を征服しようと襲いかかる、まるで自分の父親のような者。
父親のように大声で叫び人に襲いかかる女も苛々させた。

だから全て壊そうと思っていた。
全て殺してしまえばいいと思った。
あの時ルキにした仕打ちのように。

なのに。

どうしてこの女はこんなに自分に踏み込もうとしてくるの?

―――――どうして、今なの?




ダメだ。
近寄るな。
それ以上踏み込むな。

シェリは拒絶するようにコトリから離れようとする。

自分に踏み込んでこようとするコトリを、無意識のうちに求めている自分がいる。
自分に救いの手を差し伸べるその手を取ろうとしている自分がいる。
だけどそれは既に捨てた思い。
全てを憎み、全てを壊そうと決意した今必要な感情ではないのだ。

「…ねえ、名前は?」
「………」
「私はコトリっていうの。あなたの名前、知りたいな」
「……………シェリ」

だというのに、気が付けば名前を呟いていた。
理性は拒絶しているはずなのに。
心の内にある何かがそれを求めているかのように。

「…、こないで!」

思わず後ずさるシェリ。

怖い。
その温かさを求めている自分が。
その温かさに手を延ばそうとしている自分が。

「怖がらなくてもいいんだよ。
 大丈夫、みんながみんなシェリちゃんを傷つけたりするわけじゃない。
 ラグナさんも、ユカリちゃんも優しい人だよ。だから、ね」 
「…、っ、ママ、パパ!」

だから、その思いを断ち切ろうと、シェリはニドキングを、ニドクインを呼ぶ。
シェリの呼び声に答えるかのように、エルフーンとラプラスを、メタモンの拘束を振り解いてこちらに飛びかかった。

「……、こおりのつぶて!みがわり!」

そんな二匹に、しかしコトリは振り返ることなく指示を出し。

ラプラスが瞬時に作り上げた氷の塊がニドクインに直撃、怯ませて動きを止め。
襲いかかるニドキングの拳を、エルフーンの作り上げた分身が受け止めた。

ポケモン達を見ることもなくそんなことをしたコトリに驚くシェリ。

コトリはポケモントレーナーではない。
だが、今連れているラプラス、そしてエルフーンに対する信頼はポケモントレーナーのそれにも劣ってはいなかった。
だからこそ、自分の背中をポケモン達に任せられたのだ。

「くるな!」

地面に転がりつつも、咄嗟に拾い上げた棒を振り回してコトリをはねのけようとするシェリ。
そう長くはないものの先の尖ったそれは素早く振られれば人体を容易に傷つけるだろう。

そんなシェリの手をさっと捕らえ。
静かに抱き寄せて優しく抱擁した。

「――っ」
「いいんだよ、泣いても。
 辛かったら、痛かったら、我慢することなんてないの」

そんなコトリに、シェリは最後の抵抗をするかのように手に持っていた棒を、コトリの肩に思い切り振り下ろされ。
グシュリ、という音と共にコトリの肩にそれが突き立つ。

「……つ、…シェリちゃんもこんな痛みをずっと味わってきたんだよね?」

しかしコトリは力を緩めることすらもしない。

「一人で閉じこもるのは、悲しいでしょ?
 泣きたい時があったら、みんな一緒にいればいいんだよ…。だから、もう止めよう?」
「―――――!」


もう、とっくに枯れ果てたと思っていた。
泣けども泣けども、誰も助けてはくれないから。

ルキがいなくなった時でさえも、涙が流れることはなかった。
なのに。
瞳が潤み、視界がぼやける。

「なん、で……」

それはずっと求めていたはずのもので。
けど誰も与えてくれなかったから諦めたはずのもの。

「どうしてよ……」

だからこそ、悲しかった。

「どうして、もう少し早くそれをくれなかったの…?」

もし、その手を伸ばしてくれるのがもう少し早ければ。
ルキを失うことはなかったかもしれないのに。


求めていたものの温かさの中で、そんな小さな本音を漏らしながら。
シェリは静かに意識を落としていった。


―――この子が、元気に生まれてきますように……

その言葉に聞き覚えはない。
それをはっきりと耳で聞いたことはシェリにはない。
だけど、確かにその声が母の言ったものだったことは分かる。

いつ、どこで言われたかなど覚えてはいない。
だけど、その言葉は真っ暗な闇の中で、確かな温かさを持って自分の中に届いていた言葉だったから。


「はぁ……はぁ……」
「くそっ、コバルオン!」

木々はへし折れ、地面は大きく抉れ、建物は原型を残さぬほどに打ち崩され。

更地に近い状態になりつつある中心地に二人のトレーナーがいた。

その場にはポケモンこそいたものの、それを数えても直立しているのはその二人だけ。
コバルオンは地面に倒れ込み。
エルレイドはメガシンカ形態を解除されて地に膝をついていた。

どちらも傷だらけで、周囲にあるものを押し潰さんとばかりだったはずの覇気は今や見る影もない。

これ以上の戦闘は不可能だろう。

「…出せよ。まだ持ってるんだろ?」
「………」

静かにミチオはモンスターボールを取り出す。

まだ回復しきっていないフーディン、サーナイトを出すことはできない。

「どうした。もう店じまいか?」
「………」

モンスターボールを取り出そうともしないイオナに焦れるミチオ。
しかし。

「リッキ!」

地面を飛び跳ねるようにして現れた一匹のポケモン。
それこそがイオナの最後のポケモン、カイリキー。

「…お前はこのカイリキーが誰の持っていたポケモンか分かるか?」
「ノーガードでバレパンを覚えたカイリキーのトレーナーのことならな。もしかしてそいつは同じやつか?」
「そうだ、お前の殺した男のポケモンだ」
「なら話は早え。その憎しみや怒りを全部、俺にぶつけてこい」

ミチオの呼び出した最後のポケモン。
それは小さな黄色い体を持ったベイビィポケモン。

「チュゥ」

ピチューとカイリキー。
種族値の差は歴然。
技構成を見ても、最後に残しておくべきポケモンではないはずのもの。

しかしミチオには逃げようという思いは一片たりとも湧いてこなかった。
今、自分の持った感情全てをこの自分にぶつけてくれる相手がいるのだから。
それがとてつもなく嬉しかった。

「ばくれつパンチ!」

カイリキーの4本の腕から溢れる膨大なエネルギーを纏った拳がピチューに放たれる。
小柄な体は容易に吹き飛び地を跳ねる。
しかし、まだピチューは倒れてはいない。
きあいのタスキを持ったピチューは、一度だけ攻撃を耐えることができる。

「いばる!」

ピチューがカイリキーを嘲笑するような笑みを浮かべて煽り立てる。
怒りに我を忘れるカイリキー。

「もう一度ばくれつパンチだ!」

指示を送るイオナ。
しかしカイリキーはその言葉が耳に届かないかのように自身の体を殴りつける。
いばるによって混乱状態に陥っていたのだ。

「ハハハハ、でんじはだ!」

こちらの攻撃が届かぬまま、ピチューの放った電磁波はカイリキーを捉え動きを鈍らせた。

混乱と麻痺の二重の状態異常にかけられたカイリキー。
しかしピチュー自身にもばくれつパンチによる混乱は続いている。
運良く2連続で技を放つことができたが、次で混乱が解けるか、もし解けなければ自滅するか。

状況は5分5分、というにはミチオにあまりにも不利だった。
だが、彼自身はそんな状況にこれまでにないほどの高揚感を覚えていた。

(次で、…決まらねえだろうな。こっちは終わりだってのに)

だが、分の悪い賭けは嫌いじゃない。
それを乗り越えてこそ、他者に認められるようなポケモントレーナーになれるのだから。

「バレットパンチ!」
「もう一度、いばる!」

指示は同時。
二つの影が同時に動き、そして―――――





「…は、やっぱ、無理だったかぁ」

倒れていたのはピチューだった。

混乱と麻痺の二つの状態異常を乗り越え、カイリキーはその拳をピチューに撃ちこんでいた。
一方のカイリキーはふらつきながらも地を踏みしめて直立している。

つまり、ミツオの敗北だった。

カツ、カツ、カツ

既にポケモンはいない状況のミチオに、強い敵意を表しながら歩み寄るイオナ。


「あんた、さっきのやつの知り合いか?」
「ああ」
「なら殺せよ。早くしないと仇を取り損ねるぜ」

ピピピピピピピピピピピ

と、同時に首輪から音がなり始める。
ポケモンが尽きたこと、この場での完全な敗北を、死を意味する宣告音。

だが今更驚くものでもない。
覚悟はしていた。

「……何でリキを殺したんだ」
「別に意味なんかねえよ。
 こんな場所だ、一人でも殺した方が目立てるだろ?」
「目立つことに何の意味がある?」
「そうでもしねえと、誰もオレのことなんて見ねえだろ」

時間が惜しいはずなのに、イオナはミチオを殺そうともしない。ただじっと見つめるだけだ。
そんな彼女の視線には、敵意こそあれ殺意はこもっていないことに、この時点でようやく気付いた。

「……やっぱり止めだ。お前に手を下すのは。
 その首輪が爆発するまでの間、少しでも悔いながら死んでいけ」

そう言ってミツオのボール全てを奪った後、静かに立ち去っていくイオナ。

「ははは、マジですか」

音の感覚が短くなるのを聞き届けながら、ミツオは地面に仰向けに倒れこむ。

元々生きたいと思ってなどいなかった。
ただ、誰か一人でも多くの人の記憶に刻み込むことができるならそれでいいと思っていた。

そうして、一人の女の心に深い傷を残すという形で己の証を残すことができた。
その果ての戦いに敗れたのだ。
今更悔いることなど、何も―――――


(……はぁ、だよなぁやっぱり)

伝説のポケモンを駆り。
ポケモンバトルにも勝利してきた。

だが、それでも。

(やっぱり)

あの男のような、力強くコバルオンを操る姿のような。
これまでに会った、伝説のポケモン達を所持したトレーナー達が持っていたあの輝きのような。

(もっと、ちゃんとした形で目立てればよかったんだけどなぁ―――)

ボン


リキを殺した男。
コバルオンと戦っていた時には、あれほどまでに憎悪が滾っていた。

なのに、いざこうして全てが終わり、相手の死が避けられぬ状況となってからは虚しさだけが心に残っていた。
最終的に直接手を下さなかったのは、少しでもその虚しさを紛らわそうとしたただの気まぐれ。
憎悪がほぼ消え去ってしまった今、あいつを直接殺すかどうかなど大した問題ではないのだ。



復讐心は何も生まないなどとよく言われているが、確かにそうなのだろう。
想いの全てを憎悪に費やした場合、それがなくなってしまえば残るのはただの空の心だけ。
復讐を果たしたことで死んだ人間が生き返るわけではないのだから。

だから、復讐を終えるまでに心を埋める別の何かを見つけられなければ、そいつはただ空っぽのまま生きていくだけ。

「………生きてやるさ、リキ」

そしてイオナは、その心をリキの最後に残した言葉で埋めることで、己を留めた。

「たぶんお前の望んだ私にはもうなれない。
 だがそれでも、生きてやる。生きて、あの街に帰ってやるさ
 ここにいる他の皆を殺してでも」

だから、イオナは修羅の道を歩むと決めた。

ボールを開き、エルレイドを呼び出す。
瀕死状態で戦うことはしばらくはできないだろう。

だが、戦いでさえなければ使うことのできる技はある。
エルレイドの覚えていたまもるを忘れさせたイオナは、一つの秘伝技を覚えさせる。

いあいぎり。
道を邪魔する木々や草花を刈ることが可能な技。

「エルレイド」

その技をもってイオナは。

「私の髪を切り落とせ」

己の長髪を断髪した。














「――――さようなら、リキ。私の思い出」

後ろに縛っていた髪はバッサリ切り落とされ。
握りしめられたそれはイオナの手から離れ、風に舞って飛んでいく。

それを静かに見届けながら、静かに廃墟の街を立ち去って行った。

【B-6/一日目/夕方】

【サイキッカーのイオナ】
[ステータス]:疲労(中)、虚無感、短髪
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3、メガストーン(イオナのポケモンをメガシンカ可能)、メガリング
[行動方針]何があっても生き残りあの街に帰る
1:そのために全ての参加者を殺す

◆【フーディン/Lv50】
とくせい:マジックガード
もちもの:???
能力値:特攻素早さ全振り
《もっているわざ》
サイコキネシス
きあいだま
リフレクター
テレポート(緊急離脱用)

◆【エルレイド/Lv50】
とくせい:???
もちもの:エルレイドナイト
能力値:???
《もっているわざ》
サイコカッター
インファイト
はたきおとす
いあいぎり
※瀕死状態です

◆【カイリキー/Lv50】
とくせい:ノーガード
もちもの:???
能力値:攻撃全振り
《もっているわざ》
ばくれつパンチ
バレットパンチ
ストーンエッジ
みがわり

◆【ピチュー】
とくせい:ひらいしん
もちもの:きあいのたすき
能力値:おくびょうHS
《もっているわざ》
でんじは
アンコール
ひかりのかべ
いばる
※現在瀕死状態です

◆【サーナイト】
とくせい:トレース
もちもの:オボンのみ
能力値:おくびょうCS
《もっているわざ》
ムーンフォース
サイコショック
おにび
めざめるパワー炎
※現在瀕死状態です

◆【コバルオン】
とくせい:せいぎのこころ
もちもの:???
能力値:ようきAS
《もっているわざ》
アイアンヘッド
せいなるつるぎ
ステルスロック
つるぎのまい
※現在瀕死状態です



「おい、コトリ、ケイイチ!」

近かったはずの場所であるはずが道が塞がれていたせいで遠回りになってしまったことに焦りながらも、ラグナはコトリ達のいるであろう場所に辿り着いた。

周囲には大量に散乱した瓦礫や岩の破片。
その中に、人一人分に当たりそうな量の血溜まりがあることに気付く。

巨大な岩の下を、何かを押しつぶしたかのように真っ赤に染めている。
その傍に落ちていた腕、そこに残っていた服の切れ端の色は見覚えがある。

「…っ!」
「ケイイチ…!」

ユカリは思わず息を飲み、ラグナもまた顔を歪める。

その傍にはニドクイン、エルフーン、ラプラスの姿。
つい先程までは戦いでもしていたのか、体力こそ残っている様子ながらエルフーンとラプラスは傷だらけではあった。
一方ニドクインはどうしたらいいのか困惑しているかのように地面に座り込んでいる。
体には氷の破片が付着しておりダメージゼロというわけではないようだ。

そしてそこからさらに周囲に目を配った時に見えたのは、ニドクインのつがいとなるポケモン、ニドキングの姿。
ニドクインと同じく、現時点では落ち着いている。
さらにその傍にはメタモンがいて。

「コトリ!!」

その近くに、こちらに背を向けて地面に座り込んだコトリがいた。

「―――あ、ラグナさん」

駆け寄るラグナの呼び声にこちらを振り返るコトリ。
掠れたような小声で呼び声に応じる違和感に、ラグナもユカリもその時はまだ気付かなかった。

「良かった、無事だったんだな。あのガキはどうした?」
「シェリちゃんなら、ここに」

と、コトリが己の膝の上を示す。
膝枕の上で、静かに寝息をたてる少女の姿。
それはさっきまで暴れていた子とは思えないほどに安らいでいるように見えた。

「この子なら、もう大丈夫です」
「本当か?」
「まだ不安はあるかもしれないけど、誰かが傍にいてあげればきっと大丈夫です。
 ラグナさん、お願いしてもいいですか?」
「ああ、分かった」
「お願いします――――」

そう言う最中だった。
コトリの体が、支えを失ったかのようにゆっくりと傾いたのは。

「―な、おい!」

思わず体を支えにかかるラグナ。
その身に触れた瞬間、ラグナの手が感じ取ったのは異常に冷たい体温だった。

「あはは、何だか、安心したら眠くなってきました――」
「お前、何が―――おい、この肩の角は何だよ」
「シェリちゃんに当てられちゃったみたいです。てへへ…」
「てへへじゃねえよ!これニドキングの角じゃねえか!」

おそらくはエルレイドがニドキングの攻撃を切り払った際に折れた角。
コトリの肩に刺さったのはそれだった。

そして、それはただ刺さっているわけではない。
どくタイプを持つニドキングの、折れたとはいえその毒がしっかりと染み込んだ角。
ポケモンにも強い毒を当てる技だ。増してや人間の体で耐えられるようなものではない。

「ユカリ!毒消しでもモモンのみでも何でもいい!解毒に使える道具は―――」
「さっきの建物から持ってきたものが一つあります!だけど……」
「よこせっ!」

奪い取るようにそれをユカリの手から奪うラグナ。
傷口に毒消しの薬品を使い込む。しかしコトリの調子が治る気配はない。むしろどんどん脈が小さくなっていく。

もしニドキングの角を刺されてすぐであったならば間に合ったかもしれない。
だが、時間が経った今既に毒は全身に巡ってしまっていた。
傷口だけに毒消しを使っても、もう手遅れだった。

「――ねえ、ラグナさん」
「黙ってろ!クソ、薬が足りねえ!せめてもう少し―――」
「―――さっきのチーズケーキ、私の分はシェリちゃんにあげてください」
「……っ」

聞き取るのがやっとの声で、そう懇願するコトリの言葉に思わず動きを止め。
やりきれなさを発するかのように右腕で地面を殴りつけた。

地面が砕け義手がきしんで体へと響く。

思い出すのは、その義手を得るきっかけになったあの事件。
弟や妹、家族を失ったあの日のこと。

今自分の目の前で、また仲間が死のうとしている。
あの時のように。

それが悔しくて仕方なかった。

「………」
「ラグナさん…」

小さく呼びかけるユカリの声に意識を戻したラグナは。

「…お前はよくやったよ。だから、もう休め」

自身のそんな想いを押し殺すかのように、コトリを労うような言葉をかける。
コトリは、そんなラグナの言葉を受けて弱々しくえへへ、と笑い。

「おやすみ、なさい。今日は、少し寝過ごしちゃうかな――――――」

そんな言葉を最後に、その手からすっと力が抜けていった。

もう開くことはないその少女の瞳を前に。

「…くそ」

耐えていた想いを吐き出すように。

「ちくしょおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

その亡骸を抱きかかえたまま、慟哭の叫び声を上げた。

「コトリさん…」

目の前で、そして自分が知らないところで確かに失われた命を前に。
目から零れ落ちる涙を必死で堪えながら、ユカリは未だ意識を取り戻さぬオーレンの傍で、彼の言っていた言葉を思い出す。

ここで行われるのはただのポケモンバトルではない、命のやりとりをする戦場なのだ、と。

その事実を、改めてユカリは思い知らされた。

(違う…、こんなのポケモンバトルじゃない…。私の知ってるポケモンバトルは、もっと明るくて……)

こんな、悲しく苦しいものではないはずだ。
あんな、怒りや憎悪をぶつけて戦うものではないはずだ。

しかし目の前で繰り広げられた戦いは、死は紛れもない現実。
自分の考えが甘かったのだと、痛感せざるをえなかった。
自分なりのやり方で生き残る、とそう言ったはずだった、その自信が急激に小さくなっていくのを感じていた。

(おじいちゃん、おばあちゃん……、私、どうしたらいいの…?)

ユカリは問い続ける。
強い迷いの、悲しみの答えを。


【B-6/ソナイシティ/一日目/夕方】

【バッドガイのラグナ 生存確認】
[ステータス]:疲労(大)、悲しみ
[バッグ]:基本支給品一式、ふといホネ 、チーズケーキ
[行動方針]主催者打倒
1:コトリ……
2:シェリの面倒を見る?
※チーズケーキはソナイシティの建物で見つけたものです。ポケモンに持たせることはできません

▽手持ちポケモン
◆【ヘルガー/Lv50】
とくせい:もらいび
もちもの:いのちのたま
能力値:特攻、素早さ振り
《もっているわざ》
あくのはどう
オーバーヒート
ヘドロばくだん
めざめるパワー(こおり)

◆【グランブル/Lv50】
とくせい:いかく
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
あまえる
かみくだく

【ミニスカートのユカリ 生存確認】
[ステータス]:疲労(中)
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×1
[行動方針]:死ぬ気はないけど……
1:私は、どうしたらいいんだろう…
2:オーレンの言葉に対する迷いと若干の憤り
3:キョウスイに恐怖

▽手持ちポケモン
◆【ブラッキー/Lv50】
とくせい:せいしんりょく
もちもの:メンタルハーブ
能力値:HP、特防振り
《もっているわざ》
まもる
ふるいたてる
バークアウト
バトンタッチ


◆【バクフーン/Lv50】
とくせい:もうか
もちもの:シュカの実
能力値:???
《もっているわざ》
いわなだれ
???
???
???


【りょうりにんのオーレン 生存確認】
[ステータス]:ダメージ(大)、気絶
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3(自身2、リゼ1)
[行動方針]:対主催過激派
1:主催に立ち向かうための同志を集める
2:廃墟に向かい、暴れている何者かを倒す
3:ぼうや(ケイイチ)が心配

▽手持ちポケモン
◆【ニダンギル/Lv50】
とくせい:ノーガード
もちもの:しんかのきせき
能力値:均等振り
《もっているわざ》
せいなるつるぎ
シャドークロー
きりさく
つじぎり

◆【マタドガス/Lv50】
とくせい:ふゆう
もちもの:なし
能力値:均等振り
《もっているわざ》
えんまく
ヘドロばくだん
どくびし
ちょうはつ

◆【ランクルス/Lv50】
とくせい:さいせいりょく
もちもの:きれいなぬけがら
能力値:HP、特防特化
《もっているわざ》
サイコキネシス
きあいだま
リフレクター
でんじは

◆【マンムー/Lv50】
とくせい:あついしぼう
もちもの:かいがらのすず
能力値:攻撃、素早さ特化
《もっているわざ》
じしん
つららばり
こおりのつぶて
ストーンエッジ


【メルヘンしょうじょのシェリ 生存確認】
[ステータス]:疲労(中)、精神不安定?、睡眠中
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]
1:?????????

◆【ニドクイン(ママ)/Lv50】
とくせい:????
もちもの:なし
能力値:????
《もっているわざ》
なしくずし
のしかかり
だいちのちから
ばかぢから

◆【ニドキング(パパ)/Lv50】
とくせい:????
もちもの:なし
能力値:????
《もっているわざ》
なしくずし
あばれる
だいちのちから
メガホーン



※コトリ、ケイイチの支給品が放置されています


【キャンプボーイのケイイチ 死亡確認】
【ブリーダーのミチオ 死亡確認】
【メイドのコトリ 死亡確認】
【残り31人】


※メブキジカ、メタモン、ラプラス、エルフーンは現在トレーナーがいない状態です。



第37話 さわぐ 第38話 スピカテリブル 第39話 トリック


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最終更新:2015年04月24日 16:36