できればもう少し遠くまで逃げたかったが、小柄なカモネギにそこまでさせるのは酷だし、何より腕が疲れてきたので、町からそこそこ離れた位置にケンジは降りた。
足を解放されたカモネギは先ほどのケンジの行為を責めているのか、カーカーと周りで鳴き声をあげながらバサバサと羽ばたいている。
ポケモンバトルをする気満々だったカモネギの行為に僕は水を差したわけだから、この怒りは当然のものだし、また申し訳ない気持ちになった。
「いや、悪かったって。でもさ、あの状況じゃああするしかなかったんだ……。作戦は考えたけどさ、成功率がゼロに近いし……」
瀕死のピチューを倒すことは容易なのだが問題はサーナイトで、トレースしたヌケニンのふしぎなまもりはもうないが、無かろうがそのポケモンは厄介極まる。
カモネギはタイプ一致ではないにしろ有効打はあるが、全ての種族値で劣るので、素早さ勝負で負ける。ズルズキンはタイプの関係上、フェアリータイプの技を出されたら確実に一発で沈んでしまうし、素早さも低かった。
彼らを囮にして、ゲンガーをコンバータで回復させる時間を稼ぐなんて作戦も考えはしたが、サーナイトで攻撃をされる可能性があるので除外。ヌケニンがいない以上、今度は避けられない。
消去法で考えていった結果生まれた作戦が、やられる前にやれ、という作戦と呼ぶのも烏滸がましい何かだった。
そんな手しか思いつかなかったから逃げたのだ。バトルの最中に相手に背を向けるというのはやってはいけない行為であったが、命には代えられないし、何よりもあれは正規のバトルではないから問題ないだろう。
というか、自分にトレーナーとしての誇りは無きに等しい。
「戻れカモネギ。……回復させてから休憩しようかな。っと、その前に確認確認」
カモネギをモンスターボール内に戻し、ゲンガーとヌケニン、ついでにカモネギをポケモンコンバータにセットして回復させる。
作業が終わったケンジはモンスターボールをしまい、ポケッチの機能を用いて近くにトレーナーがいないかを確認した。
結果は反応なし。少しの間は安心できそうだと、胸をなでおろしつつ地面に座り込む。
この島に飛ばされてようやく、しっかりとした休憩がとれそうだった。
「休む暇なかったし……。戦力確保してその場から退避、かと思えば殺されかける。……町は駄目だな」
間髪を入れずとまではいかないが、若干の間を空けてこれなのだから、町の中に居続けられたもんじゃない。
殆どの人は誰かしらと遭遇したいと考え、他の人に会える可能性の高い町へ来るはず。当然殺し合いに反抗する人も来るだろうが、殺し合いに乗った人が来ることもある。
そういうリスクをふまえて、あえてそのリスクを冒して町へ行くにはあまりにも自分は非力すぎる。バトルが下手で運動もできないというのは致命的すぎた。
自身のバトル下手が如実に現れていたのが、先ほどの少年とのバトルだろう。自身の考えが足りず稚拙な命令を出した結果、危うく死にかけたのだから始末に負えない。
少年の安っぽい挑発に乗ってしまったのも良くなかった。普段の自分なら有り得ないが、ゲンガーがいるからという慢心もあって、自分は勝てるだろうと思い込んで調子に乗ってしまったのだ。
結果として、これも普段の自分なら有り得ないのだが、相手の行動に困惑して焦ってしまい、みちづれを選択するというミスを犯してしまった。
シャドーボールを使えばピチューは確実に沈んでいたし、あやしいひかりを使えば確実ではないにしろ行動は制限できた、にも関わらずこれなのだからどうしようもない。
会えれば重畳、会えなければ地獄。そんなギャンブルに身を預ける程、ケンジは楽観的ではなかった。
「バトル下手の原因は分かっているつもりなんだけどな。視野が狭い、これに尽きる」
補助技の存在を一切考えなかったためにヌケニンを瀕死に追いやり、相手の言葉に惑わされて攻撃をせずゲンガーを麻痺にさせてしまう。どれもこれも自分の浅慮さが引き起こした事態だった。
いつもそうだ。バトルになると一つの物事を考えただけで突っ走り、その度に相手から手痛い反撃を何度くらったことだろう。
ポケモンの特徴や特性、技などはおおよそ把握しているというのに、バトルになると一切考慮せず考えるのだから何のための知識なのか。相手の弱点タイプだけは考慮しているようだが、それだけで勝てる程甘くはない。
……問題点を自覚しているのにも関わらずバトル下手を治していなかったのは、バトル下手であることが深刻な問題を引き起こすとは考えていなかったからだ。
もっとも、深刻な問題というのが殺し合いにおいて不利になる、なんて誰も考えもしないであろうが。
「次は意識すれば問題ないか……? いや、真面目にバトルをする意味はないし、ポケモン使って相手を倒せばいいだけだし……」
わざわざトレーナーに勝負を挑んでポケモンを全て倒すよりも、トレーナーを不意打ちするほうが労力が少ないことは言うまでもないこと。
気付かれていない状態なら最良であるが、別にポケモンバトルの最中でも不意打ちをしようが構わないし、むしろ戦法にそれを入れなければ、自分は呆気なく死んでしまうだろう。
相手の攻撃を誘発させてゲンガーのみちづれでトレーナーを殺す、ズルズキンのどろぼうとカモネギのはたきおとすで手持ちを無くさせる、直接攻撃、など方法だけは腐るほど……とまでは言うまいが、それなりに考えていた。
こういう時の悪知恵だけは頭が冴え渡る……どうせならその思考力を、ポケモンバトル中にも欲しいのだが、そう思っても実行しないのが自分だった。
「んー、難しいな。制圧力の無さが致命的だし、四体同時運用するかな」
などと考えつつ、そろそろ動き出そうと考え、近くにトレーナーがいないかを確認するためにポケッチの機能を使用する。
反応が一つ――それも結構近い位置に、反応があった。
ゆっくりと反応がする方向へ向くと、学生服を着た女の子が遠巻きにこちらの様子をうかがっていた。
「……またか」
泣き虫のたんぱんこぞう、どす黒さの塊のブリーダーに続いて、今度はじゅくがえりの少女ときた。
まだ地面に降り立ってからそれ程時間は経っていないというのに、もう三人目と遭遇するとは、自分は何て運が良いのだろう。
――などと心の中で自嘲しながら、うんざりとした顔でケンジは少女を眺めていた。
◇◇◇
私の目の前にいる人、白衣を着て眼鏡をかけた男の人は、くたびれた表情をして私の方を見ている。
またか、男の人はそう呟いて、少しの間をあけた後に地面から立ち上がり、私の方へと歩き出した。
またか、その言葉は一体どういう意味だろう。私の同年代の人に遭遇したことがあるのだろうか。
だとしたら何故、その人とは同行していないのだろう。
やや距離を置いて男の人は止まり、口を開いて言葉を発した。
「君は……誰だい? 見たところ、学生なのかな?」
「あっ、は、はい。私、レンっていいます。えっと、あなたは……殺し合いをどう、思います?}
「そうだね。良くないことだと思っているよ。できれば打破したいところだね」
男の発した言葉は殺し合いに反抗する意を示すもので、早くも私は強力することができるかもしれない人と会うことができた。
白衣を着て眼鏡をかけた格好はまるで研究員のようで、もし研究員だったなら頭が良いのではないか、そんな期待を私は抱く。
首輪について、何か分かるのではないかと期待を抱く。
だけど、その前に気になっていること――どうして誰とも同行していないのか、それを聞きたい。
私よりも前に、それも私と同年代の人と会っているのに、どうして男の人は一人で地面に座っていたのだろう。
「まだ名乗っていなかったかな。自分はケンジ。研究員をしている」
「研究員……! もしかして、首輪について何か分かりますかっ」
「首輪……? ああ、首輪か。考えてなかったから、全く分からないね」
「そ、そうですか……」
どうやら首輪については頭に浮かんでいなかったようで、つまり男の人は脱出については考えていなかったようだ。
しかし研究員ではあったので、今後首輪を調べる機会があれば、何か分かるかもしれない。
……先に発言されてしまって、聞きそびれてしまった。次はしっかりと聞かねば。
「さて、ここでは何だし、何処かの町へ行って、首輪について考えるとしよう。君が歩いてきた方向に行こうか」
「あのう……、そこより近くの町へは行かないんですか?」
「あっちは危険だから止めておいたほうがいいよ。殺されかけたからね」
「そうなんですか……、っ! 殺されかけたって!」
さらりと。
男の人、ケンジさんは何てことのないかのように、殺されかけたという言葉をさらりと口に出した。
脳の認識をすり抜けていきそうなくらいに、自然に吐き出された言葉だった。
「殺されかけたって……まさか、私と同年代の……」
「その通りだよ。正しく君と同じくらいの少年だった。……本当に、あの時の自分が腹立たしいね」
ケンジさんは苦々しい面持ちでメガネを元の位置に戻しつつ、二つのモンスターボールを取り出す。
それを他所に私は、同年代の人が殺し合いに乗っているという事実に、少なからずショックを受けていた。
もし私も一歩間違えていたらそのようになっていただろうし、現に最初になりかけていたのだから恐ろしい。
頭の中を切り替えて、ケンジさんの方へ向くと、彼の手には二つずつモンスターボールが存在していた。
「どうして、四つも……?」
「……同行していた人がいたんだ。その人が持っていた、二つのモンスターボールだよ」
「えっ……? そ、その人はどこに……」
「不意打ちを仕掛けられて咄嗟に対応できなくてね……、死んでしまった」
「っ!」
殺し合いに巻き込まれたことは理解して飲み込んでいるつもりだったが、まさかもう死人が出ているなんて考えていなかった。
この島に飛ばされてまだ時間はそれほど経っていないというのに。既に殺し合いは始まっている。
どうにも、その言葉には、現実味がなかった。死んでしまったという言葉を頭の中で反芻させることしか、私にはできなかった。
「悲しいことに、僕のポケモンでは太刀打ちできなくてね。モンスターボールと彼に支給されたアイテムだけ持って逃げてきたんだ」
「……………」
「お話はこれくらいにして、そろそろ行こうか。ここは危険だから、早く離れないとね」
「は、はい……」
頭の整理がついていない私には気付いていないようで、ケンジさんはモンスターボールをしまうと、私が歩いてきた方向へ歩き出した。
慌てて私も歩き出す。目指すは、こことは違う町。
まだ頭の整理はついていないが、私は言っておきたいことが一つあった。
「あの、ケンジさん」
「何かな?」
「これから、よろしくお願いします」
「……こちらこそ」
【C-6/平原/一日目/午後】
【じゅくがえりのレン 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、あおいバンダナ、ランダム支給品×1
[行動方針]:対主催脱出優先派
1:首輪を外すため、仲間を集める
2:危ないトレーナーに会っても殺人はしたくないので足止めなどをして逃げる
3:ケンジと行動。町へ向かう
▽手持ちポケモン
◆【ミロカロス/Lv50】
とくせい:かちき
もちもの:なし
能力値:???
《もっているわざ》
まもる
さいみんじゅつ
あやしいひかり
こごえるかぜ
◆【グライオン/Lv50】
とくせい:ポイズンヒール
もちもの:どくどくだま
能力値:???
《もっているわざ》
みがわり
ステルスロック
いやなおと
かげぶんしん
【けんきゅういんのケンジ 生存確認】
[ステータス]:良好、
[バッグ]:基本支給品一式×5(ゴロウ2)
[行動方針]生き残り重視
1:レンと行動。町へ向かう
2:戦闘は極力避ける
3:その後の方針は参加者の人数が減ってから考える
◆【ヌケニン/Lv50】
とくせい:ふしぎなまもり
もちもの:きあいのタスキ
能力値:攻撃、素早さ特化
《もっているわざ》
つるぎのまい
あやしいひかり
シャドークロー
シザークロス
◆【ゲンガー/Lv50】
とくせい:ふゆう
もちもの:のんきのおこう
能力値:素早さ、特攻特化
《もっているわざ》
マジカルシャイン
おにび
シャドーボール
みちづれ
◆【カモネギ/Lv50】
とくせい:まけんき
もちもの:ながねぎ(ゴロウのもちもの)
能力値:攻撃、素早さ特化
《もっているわざ》
そらをとぶ
はたきおとす
エアスラッシュ
リーフブレード
◆【ズルズキン/Lv50】
とくせい:だっぴ
もちもの:おおきなねっこ
能力値:特防、素早さ特化
《もっているわざ》
どろぼう
ドレインパンチ
ビルドアップ
かみくだく
最終更新:2015年05月24日 14:20