GFWR完結編 ダイジェスト版
第20話後編
ゴジラの上陸と防衛軍内のクーデターにより戦場が混乱する中、霧島麗華と共に防衛博物館に潜入した怜が見たものは、クーデターの首謀者である
国木田と、最終兵器の生体ユニットとして組み込まれたかつての友、
有賀サキ(天王寺穂咲)であった。
怜は必死にサキに呼びかけるが、国木田やEXMA兵がそれを妨害する。そして、サキの命が皮肉にもその生体ユニットによって繋ぎ止められている事を知り愕然とする。
一方、霧島麗華も国木田派に加担していた准将神崎瑞穂を追い詰めるが…?
怜がEXMA兵に取り押さえられようとしていたその時、施設を激しい轟音と振動が襲った。
ゆみと交戦していたゴジラの熱線の流れ弾が、防衛博物館を直撃したのだ。
その一撃が、生体ユニット『オキシジェンデストロイヤー』の制御系を破壊し、暴走させてしまう。
無差別に虐殺を始めるサキ=オキシジェンデストロイヤー。自らのクローンや生みの親である国木田をも葬り、サキの銃口は唯一生き残った怜に向けられる。
しかし施設が崩壊していく中でもサキへ言葉を投げかけ続けた怜の想いが通じたのか、サキは遂に自我を取り戻す。
だが、ユニットの暴走は止まらない。逃げるよう叫ぶサキ。だが怜は逃げなかった。それどころか、ユニットを破壊しサキを助けようとする。
怜は、ずっと心を苦しめてきたあの入隊試験の日の夜を思い出していた。
―――あの時は、サキを置いて逃げることしかできなかった。
だから今度は、絶対逃げたりしない!
怜とサキを引き裂いた、あの夜への決着をつける最後の戦いが始まった。
だが最終兵器でもあるオキシジェンデストロイヤーの強さは半端ではない。たちまち施設から放り出され、遂には唯一の武器であるミストラルコア・ガンまで破壊されてしまう。
目の前でボロ雑巾のように嬲られる怜の姿に涙を流しながら叫ぶサキ。その叫びも虚しく必殺の一撃が怜を飲み込み、爆煙が辺りを飲み込む。
だが、次の標的を探して行動すると思われたサキの体は、未だ煙の向こうを見据えていた。
次の瞬間、煙の晴れた先には悠然と立つ怜の姿があった。安堵するサキ。だが、生きていたとしてももはや武器すら持たない怜に勝機はあるのか?
だが、怜は武器を失ったわけではなかった。それは小さな旧式の銃。あの試験の夜、サキに渡された旧式加速銃だった。
この銃で、自分は助かった。今度は、自分がサキを救う番だ。この銃で。
怜が跳ぶ。サキのユニットの全砲門が空中の怜を捉えた。再度の爆発。だが、それは不要になったミストラルコアのカードリッジをデコイに使ったかく乱。
そして空中からの銃撃で的確に砲門を潰していった怜は、一気にサキの懐に飛び込み、ユニットとサキを繋ぎとめるコアであるエメラルドの髪留めへ銃口を押し付けた。
一瞬の静寂。
―――この引き金を引けば、サキはオキシジェンデストロイヤーの呪縛から解放される。だが、それは同時にサキの死を意味している。
「怜さん」
不意に、サキの声がした。背中越しからも、微笑んでいる事がわかった。そして…
「…ありがとう」
「―――さよなら」
怜の指が、トリガーを引いた。
一方、ゴジラとの戦いに苦戦を強いられていたゆみは、突如割って入った人影に呆然とした。
それは学校の友人田口健太であり、本来このような戦場にいるはずのない人物だったのだ。
健太は両腕を伸ばし、ゴジラの前に立ち塞がる。無論、止められるはずはないのだが…ゴジラは何故か動きを止めた。
ゆみには知りえぬことだが、ゴジラは、かつてミニラであった時の健太少年との思い出をちゃんと覚えていたのだ。
戦いは終わった。ゴジラに半数を潰された
ガイガンの群れは撤退し、アンギラスやジラ達も戦闘を停止、国木田が死亡したためEXMAも投降を余儀なくされた。
長い戦いだった。(心なしか4年近くたった気がする)
だが、全てが終わったと思われたその時、ゆみとゴジラの間の地表が地鳴りと共に割れ、巨大な影が飛び立った。
その正体はわからない。が、一人と一匹の目に映ったのは、その地割れに飲み込まれる健太の姿だった。
21話「再会」
健太の死は、ゆみの心を完全に破壊した。そしてその心は、カマ状の凶兵器『ブラッドスィーパ』の狂気に塗りつぶされていき…。
ガイガンの襲撃、防衛軍内のクーデターの混乱、これにより防衛軍はほぼ機能していない状態だった。
だが、そんなM機関に通信が入る。その報告は、『家城由美子が臨時避難所に現れ、無差別に人を襲っている』というものだった。
仲間の誰もが信じられない、という顔をした。当然だ。あのゆみが、何を理由に一般人を襲う謂われがあるというのか。
だが尾崎だけは、その理由に薄々感づいていた。それは、自身も起こしたカイザーの力の暴走。その時の尾崎もまた、恋人であった音無美雪、戦友であった怜の兄を失っていた。
サキと決別したばかりの怜に、尾崎は遂に兄の死んだ数年前の事件の真実を語った。そして怜は、兄が尾崎に殺されていなかった事を知る。
自分を狂わせ、その結果サキまで失ってしまった原因でもあるこの復讐の感情が間違いであった事に戸惑いを見せる怜。
だが、やがて全てを受け入れると怜はゆみを止めるために傷ついたままの体で飛び出した。
一方、防衛博物館から脱出した霧島麗華は、撮り逃した神崎瑞穂の行方を追っていたが、春日井静奈がそれを妨害する。
瑞穂がクーデターに加担していた事は静奈も知っていたが、大切な友である瑞穂を信じたいという思いからの行動であった。
そして、その最中放たれた麗華の凶弾が、神崎瑞穂の真の正体を明らかにする。
ゆみの通った跡は、まさに地獄であった。一般人、止めに入ったであろう兵士、乱入したと思われるメガヌロンや
ショッキラス、それら無数の屍骸が無造作に放られていた。
怜は、その無惨な地獄を足がかりにゆみを追う。そしてようやく怜がゆみの姿を捉えた時、彼女はある人物と対峙していた。
その人物の名は琴音美里。…そう、ゆみの親友だ。
何故か彼女は、漆黒のコートを身に纏い剣を手に戦っていた。だがやはり、カイザーであるゆみには歯が立たず、ブラッドスィーパの切っ先が美里の喉元に突きつけられていた。
怜の脳裏に、様々な想いが交錯する。親友に対して抱いてしまった恐怖、美里が戦う理由、復讐という目的を見失った自分の戦う意味。
その一切を心の内に押さえつけ、怜は2人の間に飛び込んだ。
大切な友だったサキを手に掛けたあの時のような哀しい想いを、ゆみにはさせない!
そして―――
得物から伝わる鈍い反応で、ゆみは目を覚ました。
目の前には、怜と美里。怜が学校を離れて以来初めての三人の再会に、ゆみは少し嬉しくなった。だが、よくみると怜は血まみれでぐったりとしている。
腹部には光刃のカマが深々と突き刺さっており、それが致命傷を与えた事が容易に想像できた。
そして…その刃から伸びる柄が、自分の手に握られている事に気付いた時、ゆみの絶叫がこだました。
22話
目の前の怜の死に放心状態のゆみ。対して、美里は冷静だった。
「怜を、助けたい?」
美里の言葉に、ゆみが虚ろな表情の顔をあげる。
「助けられてもいいよ。ただし……あなたの知る怜として、帰って来るかは別だけどね」
ゆみは胸の中の怜を見る。確かに、X星人である美里に渡せば、地球外の技術で怜を救う事ができるかもしれない。だが――。
もう一度、冷たくなった怜の体を見つめる。そして…
少女は、悪魔の契約を受け入れた。
美里が消え、一人残されたゆみ。しばらくして、大粒の雨が全てを掻き消していった。
その頃、がらんとしたM機関本部では、残された信二とユイがたった2人、仲間の帰りを待っていた。
「これから、どうなるんだ…?」
惨状を目の前に、信二が呟く。その時、霧島麗華と春日井静奈、そして河原田勇介の3人が信二達の下へ飛び込んでくる。
何が起こったのか、その姿は全員ボロボロだ。
そして、麗華は信じられない事実を打ち明けた。
―――そう、M機関准将・神崎瑞穂が、X星人の新たな統制官である事を。
翌日、ゆみは通っていた大戸高校に足を運んでいた。
理性を失っていたとはいえ、大量虐殺の犯罪者である事に変わりはない。M機関に帰るわけにはいかなかった。
しかし、唯一の居場所になった大戸高校には、もう美里も、幹也も、健太もいない。
誰もいない教室、健太の机の前でゆみは涙を流した。
と、その時。誰も来ないはずの教室の扉が開いた。現れたのは、なんと美里。X星人であるという正体を知られて尚、何故?
いつも通り、明るく振舞い、いつもの調子で話しかけてくる美里にゆみは戸惑う。
だが、ゆみが『昨日の事は夢だったのでは』と甘い幻想を抱き始めた頃、瞬間美里の表情が消え失せ―――
「何、笑ってるの?」
現実に引き戻された。
「放課後の時間、あの公園で待ってる」
日が落ちた頃。
ゆみは、丘の上にある公園にいた。この公園は、ゆみと怜が始めて出会った場所でもある。
そこに、黒のコートを纏った美里が待っていた。
美里は、何故昨日怜を自分に託したのかをゆみに問う。が、ゆみは答えない。後悔なのか、自分でもわかっていないのか。彼女はただ俯くばかりだ。
そんなゆみの様子に苛立ち、剣戟を浴びせる美里。
「決着をつけよう…ゆみ」
だが、ゆみは戦おうとはしなかった。代わりに、美里の攻撃を受け続ける。それが、更に美里の神経を逆撫でした。
「何故戦わない!?今更善人ぶるつもりか!?あれだけ殺しておきながら!怜を売り渡しておきながら!!」
激昂する美里。だが、美里自身もわかっていた。こんな問答は無意味だと。そして、戦わない理由も。
美里の必殺の巨大光柱剣が天に伸びる。そして、ゆみに向かってそれが振り下ろされ―――
煙が晴れると、目の前の地面がクレーターのように抉れている。だが、そこにゆみの姿はない。跡形もなく消えたのか?
そうではない。美里の喉元に突きつけられたESCSブレードランスの光刃。
「……最初から、そうしなさいよ」
ゆみの喉元にも、美里の剣の切っ先が突きつけられている。静寂。無音の攻防。
だがその時、ゆみが武器を手放した。目を見開く美里。
「何のつもり!?」
剣を握る手に力が篭る。だが、ゆみは…
「…もう、よそう。こんなの、美里ちゃんも望んでない。…そうでしょ?」
「ば、バカな!私は…」
その通りだった。カイザーであるゆみを監視する、それが役目である事には変わりない。だが、一人の友として、怜に対するゆみの選択を理解しようとしている自分もいた。そう、その本心はもはや美里自身にもわからなくなってしまっていたのだ。
そして美里は、この戦いでそんな自身の想いに無理矢理決着をつけようとしていたのだ。
「帰ろう…一緒に」
ゆみの小さな手が、差し出される。そうして美里も、剣を落とした。
「ずるいよ…そんなの」
頬を伝う、一滴の涙。だが、涙に濡れた美里の表情は、重荷がなくなったようにどこか晴れやかなだった。
と、その時、突如美里が胸を押さえ、苦しみだした。
わけがわからず、声を掛けることしかできないゆみだったが、その想いも虚しく、美里はその場に倒れ伏したんのだった。
23話
美里が意識を取り戻すと、そこは見知らぬ病院の個室だった。
そこはM機関の中でも訳ありの人間のみを収容する極秘の医療施設で、ここまで美里を運んでくれたのはかつてのライバル松本実だった。
松本も大量殺人の濡れ衣を着せられた際に、幾度かこの施設を訪れていたらしい。
美里の様子に、ひとまず安堵のため息をつくゆみ。だが、事態は芳しくなかった。
X星人は種として生きるために、定期的に人間の中にあるミトコンドリアを摂取しなくてはならない。だが、母国で死刑囚だった美里は永らくミトコンドリアを摂取しておらず、その命は時間の問題だったのだ。
こればかりは、いかなる医療技術でもどうにもならない。だが、美里はそれでもいいと言った。
スパイとしてではあったが、ゆみや健太、幹也達と過ごした時間を、美里は愛おしく思うようになっていた。
そんな、死期を悟ったような美里の表情に、ゆみはあえて明るく接する。
「何か、欲しいものない? 今日なら奮発してあげちゃうよ!」
無理をしているのが明らかにわかったが、美里にはその気遣いが嬉しかった。
「欲しいものはないけど……行きたい所があるんだ」
その日のうちに、松本を含む3人は病院を抜け出した。その途中、向かいの病室に怜のような姿をゆみは見かけたような気がしたが…気のせいだろう、と自嘲気味に笑った。
美里が収容されていた個室の向かいの病室。
そこに記載されていた表札には『有賀サキ』と書かれていた。
救護班の誰かが、ガイガンとの戦いで倒れているのを発見し、保護したらしい。
しかしそれは怜が殺したオリジナルのサキ(穂咲)ではなく、表で活動していたクローンのサキの方だった。
彼女は戦いの最中、オリジナルと同様に右腕を損失し、しかも言語機能や記憶までも失ってしまっていた。
そこに、一人の見舞い客が来る。クローンの人間に、見舞いなどする者がいるのだろうか?
その正体は、工藤幹也だった。そう、かつて一度穂咲を救っておきながら、ミュータントだとわかった途端突き放した男の正体、それが幹也だったのだ。
幹也は、自分が人間であるにも関わらず真っ直ぐにゆみを助けようとした姿を見て、自分の心の小ささに気付いた。
そしてようやく、過去に清算をつける決心をしたのだ。
だが、いくら真実を明かされ、謝罪されようともこのサキはクローンである。幹也の言葉の意味などわかるはずもない。
幹也の言葉は一方通行に流れていく。自分が許されるはずはない。そう思っていた幹也だったが―――。
サキは、頭を下げる幹也の頭を撫で、そして微笑んだ。
かつて、
バランと戦った海岸線。そこに、ゆみ、美里、松本の3人の姿があった。
思えばあれが、皆で時間を過ごした最後の時だったのかもしれない。
美里は、車椅子の上から夕日の紅に染まる水平線を遠い目で見つめていた。そして、これまで生きてきた時間に思いを馳せる。
その時だ。何かが不意に美里の頬を切り裂いた。
咄嗟に臨戦態勢を取る松本、ゆみ。だが次の瞬間、2人は目の前の光景に愕然とする。
そこに現れたのは、巨大なカマ状の刃型ビットを中心に無数の刃を空中に従わせ、X星人参謀のジンと共に現れたかつてのM機関准将・神崎瑞穂だった。
2人が瑞穂の正体に呆然と立ち尽くす中、瑞穂は美里に冷徹な視線を向ける。
美里には、その意図がわかっていた。X星人は反逆者を決して許さない。そう、瑞穂は美里を消しに来たのだ。
「恩を仇で返すなんてね…やっぱり、あなたの本質は冷酷な殺戮マシンなのかしら?」
「…黙れ!」
美里が、弱った体で瑞穂に襲い掛かる。だが、飛び交う無数の刃が美里を弾き返す。
「美里ちゃんッ!」
ゆみと松本が美里を助けようとするが、そこにジンと、いつの間にか現れた無数のX兵、そして強敵
ノーヴが現れ、2人の行く手を遮る。
美里と瑞穂の一騎打ちが始まった。実は、純粋の戦闘力ならば瑞穂よりも美里の方が遙かに上だ。
だが、死期の近い体と武器の性能差が美里を徐々に追い詰めていく。一か八か、必殺の巨大光剣を放とうとする美里。
しかし…今の体に、その膨大なエネルギーを支える力は残されていなかった。背中から崩れていく美里。ここまでか―――。しかし、裏切り者の末路などこんなものかもしれない、と思えば少しだけ楽になった。
その時、美里の背中を暖かいものが受け止めた。それは、動けないでいたはずの松本だった。
瑞穂が驚愕する。あの無数のX兵とノーヴを、どうやって突破したのか?
その答えは単純だった。ノーヴとジン以外、文字通り"倒した"のだ。
美里自身も信じられないような顔をしていたが、松本の背中の頼もしさを見た時、助けられた命をもう少しだけ大事にしてみよう、美里はそう思っていた。
美里と松本が視線を合わせる。そして、言葉を交わす事無く2人は瑞穂に向かって跳躍した。
2人がかりでも瑞穂は強い。だが、松本には作戦があった。それは、かつて美里が松本に対して行なった巨大光剣による陽動。それを瑞穂に仕掛ける。
しかし、瑞穂が部下の戦術を知らないはずがない。たちまち作戦はバレ、背後に回っていた松本が無数の刃の餌食となる。だが、その後ろでは…?
作戦は成功した。戦術がばれているからこそ、松本はあえて正面の美里ではなく、背後に回る自分を囮にした。そして、幾度となく剣を交えたライバルだからこそ、連携の息はぴったりだった。
ついに美里の巨大な斬撃が、巨大なカマ型ビットのひとつを破壊した!
止む無く撤退を余儀なくされる瑞穂、そしてジン。
美里が松本に微笑みかける。その表情に、死を感じていた先ほどまでの影はもうない。ゆみも駆け寄る。なんとか、ノーヴとジンの猛攻を防ぎきったようだ。
だが、駆け寄ってきたゆみは松本の背中を見て思わず驚愕した。
そこには、瑞穂のカマが背中を深々と突き刺した跡が生々しく残されていた。そう、陽動の時松本は瑞穂の攻撃をまともに喰らっていたのだ。
だが、美里に心配を掛けさせないためにわざと平気なふりをしていた。
そしてその限界が来たのか、微笑み返した松本は美里の目の前でゆっくりと崩れ落ちた。
「死なないで! 私に生きる希望を与えておいて、自分だけ死ぬなんてそんなのずるいよ!」
泣き叫ぶ美里。その時、松本は弱々しい力でそっと美里の手を握った。そして。
「俺の、ミトコンドリアを…使ってくれ……そうすれば、俺は…お前の中で、生きていける……」
勿論、美里がそれを了承するはずはなかった。松本の言葉は、ただの詭弁だ。自分の中で生きていくなんて、そんな精神論は聞きたくない。
だが、無常にも背中の傷からは大量に血が流れ出す。おそらくもう、その命は数分と持たないだろう。
「たの、む…美里…」
握っていた手がずり落ちる。視線も焦点があわなくなっていく。そして…
意識を手放すその一瞬前、美里と松本の唇が重なり合った。それは決して幸せなものではなく、ミトコンドリアを吸収するための、別れを告げるキスであった。
―――2人の、最初で最後の口付けが終わった。
哀しみの余韻に浸る間もなく、美里とゆみは防衛軍に取り囲まれる。
だが、抵抗はしなかった。何故なら、防衛軍を呼んだのは他でもないゆみだったからだ。
せめて松本を、信二達仲間のいる場所にいかせてやりたい、そう思っていた。
それが例え、自分自身を冷たい牢獄へ送る結果になったとしても―――。
24話
松本実の葬儀は、わずかな人数でひっそりと行なわれた。
しかし、そこにゆみの姿はない。ゆみは松本の遺骸を搬送の直後、懲罰房へと送られてしまっていた。
松本の死に、誰もが哀しみの表情を見せる中で信二だけは別の感情を抱いていた。そして、その矛先は美里へと向かう。
だが、怒りをぶつけても松本は帰ってはこない…。
その頃、X星人母船は騒然としていた。
セフォルは元々統制官である瑞穂が気に入らなかった。彼女の回りくどい方法は、ただ純粋に戦いを楽しみたい彼にとっては苦痛でしかなかった。
そして、あれだけ大事にしていた美里を簡単に切り捨てた事も。それが、セフォルの苛立ちを爆発させたのだ。
彼は美里の事もあまり好きではなかったが、彼らX星人幹部の中でセフォルは最も仲間意識の高い男でもあった。
怒り任せに瑞穂の待つ中枢部を目指すセフォル。そして意外にも、このセフォルの行動に同調した者がいた。リオだ。
彼もまた、ユイと同じようにセフォルや信二達と接する内、命令に従うだけの自身に疑問を抱くようになっていたのだ。
「本国に帰ったら、懲罰では済まされませんね」
「帰る気なんざねぇよ」
しかし、2人が向かった先に中枢に待っていたのは、瑞穂ではなく―――
夜。それぞれが戦いへの決意を確かめていく中で、信二だけはは未だ宿舎の屋上に留まり、思い悩んでいた。頭ではわかっていても、美里を受け入れる事ができなかったのだ。
だが、そんな信二の気持ちを変えたのはユイだった。
「私を救った
大澤信二という男は、そんな小さな事で悩む男じゃなかっただろう。腹の立つほど大胆不敵で…もっと大きな男だったはずだ」
ユイの言葉に、ようやく信二も美里を受け入れようとする。
と、その時。2人の元にリオが突如現れた。だが、既に彼は瀕死の状態で、たったひとつの真実を明かすとそのままm息を引き取った。
懲罰房の中、一人蹲ったまま動かないゆみ。その時、聞き覚えのある声にゆみは弾かれるように顔をあげた。
「家城由美子―――貴方に、統制官の判決を言い渡す」
「……!? れ、い…ちゃん……!?」
リオの語った真実。それは、家城由美子の親友・和泉怜こそが、ゆみや尾崎さえも超える真の"カイザー"であったという事だった。
25話
美里の忠告通り、以前とは違う存在としてゆみの前に姿を現した怜。カイザーとして覚醒した彼女は、完全にゆみを敵として認識していた。
だが、怜はこの場でゆみと戦おうとはせず、決戦の場として自らの母船を指定し、姿を消した。
無論罠である事はわかっていた。だが―――
東京上空に姿を見せる、X星人の母船。防衛軍内部が騒然とする中、ゆみは懲罰房を脱獄し、たった一人母船に乗り込むために武器を取った。
母船へとたどり着く前に、ゆみは上陸してきたゴジラと再会した。だが、ゴジラの目標もまたX星人の母船だった。田口健太の仇を取ろうというつもりだろうか?
再び視線を交わす一人と一匹。
「私達は…同じなのかもね」
ゆみが呟く。多くの命を手に掛けた事、健太を目の前で失った時の気持ち、そして…化物として疎まれる存在である事。
そう思った時、ゆみはかつてゴロザウルスや
ヘドラと戦った時の、あの哀しみに満ちた瞳の意味を、ようやく理解したような気がした。
そうしてやはり、自分達は"同じ"なのだとわかった。
ジンの迎えが来る。ジンは、これが罠である事をあっさり明かしたが、それでもゆみの意志は変わらなかった。怜を救う。例え、その方法がわからなかったとしても。
決意を胸にゆみは、ジンと共に母船へとワープする。そしてゴジラも、射出され始めたガイガンの大部隊と3体のモンスターXに視線を移し、咆哮した。
ワープした先にジンの姿は既になく、代わりに無数のX兵が待っていた。その中に躊躇いもなく歩みだし、戦闘が始まった。
一方、ゆみがいなくなっている事に気付いた信二達フラットウィング小隊も、河原田の操縦する戦艦"
コンスタンティノープル"でX星人母船を目指す。
そして美里の導きで、信二、ユイ、松本の剣を手にした美里の3人が母船内部への潜入に成功した。
だが、奥地への扉は固く閉ざされていて、美里の知るパスワードも通らない。更に外に待機していたコンスタンに激しい振動が走る。ガイガンの攻撃だ。霧島麗華のドッグファイターが出撃する。
そして最後に。フラットウィングで唯一この作戦に参加していなかった静奈は、M機関宿舎の屋上にいた。静奈の視線の先にいたのは、かつて最も信頼していた女性―――神崎瑞穂。
―――3箇所による決戦が始まった。
しかし、どの戦場でも状況は劣勢だった。ゆみのカイザーの力を使ってもX兵はその数があまりに多く、ガイガンに加えて現れたモンスターXにゴジラは追い詰められ、静奈は瑞穂の正体に未だ戸惑っていた。
その時、戦場に一条の光が差した。
ゆみの前には、プラズマグレネイドで無理矢理扉をこじ開けた美里、信二、ユイが。ゴジラとコンスタンの前には
ラドン、ジラ、そして自らの意志で飛び出して来たアンギラス、
カマキラスが。そして、静奈の前には尾崎真一がそれぞれの仲間に加勢に入った。
戦況が、徐々に押し戻されていく。だが、すぐに覆されたわけではない。
ゆみ達の前にはノーヴが追加投入され、一体のモンスターXが倒されると、残り2体のモンスターXはカイザーギドラへと変貌を遂げる。
このままでは埒が明かない。そう考えた信二は、ノーヴを引き受け、ゆみを怜の元へと急がせる。
決戦の続く中、通路を抜けてゆみがたどり着いた先――――母船の最深部で、漆黒のコートを纏った和泉怜は、静かにゆみに視線を向けた。
26話
「怜ちゃん…迎えに来たよ」
ゆみが優しく声を掛ける。だが、怜は鋭い視線を向けると、音もなくゆみに襲い掛かった。
怜の力は圧倒的だった。今まで多くの怪獣を倒してきたはずのカイザーの力が、まるで役に立たない。
それでもゆみは、諦める事なく呼びかけ続け、戦い続けた。怜を助ける…その想いだけが、ゆみの体を突き動かしていた。
一方ゴジラ達はガイガンのほとんどを殲滅、残るはカイザーギドラのみとなった。だが、その時空を覆っていた分厚い雲が割れ、雷のような閃光がカイザーギドラを焼ききった。
ゴジラ達怪獣に戦慄が走る。そして、その雲間からX星人最後の切り札―――キングギドラが悠然と舞い降りた。
キングギドラの光臨は、宿舎からも窺い知れた。
そして、次元の違う強大さを目にした時、静奈はようやく、目の前の敵と戦う事を選んだ。
瑞穂の武器は、松本と美里が半分を破壊したためにその性能も半減している。とはいえ、あの無数の刃を突破する術があるのだろうか?
だが静奈は、ツインメーサーのアンカーを瑞穂の後方に固定し、巻き上げる勢いを利用して刃の中を突っ切った。そして、そのまま瑞穂を押し倒しメーサーの銃口を押し付ける。
背後で尾崎がもうひとつのビットを破壊する中、瑞穂はいつものように静奈に語りかけた。
「私は…こうなることを、望んでいたのかもね」
「え…?」
前作戦(ファイナルウォーズ)での統制官は、瑞穂の婚約者だった。だが、彼が帰ってくることはなく、すぐに瑞穂が新たな統制官に選ばれた。
瑞穂は、失ったものが代替の効く歯車に過ぎない事に気付いた。そしてそれは、自分も同じなのだと。
そう思った時、瑞穂は何もかもがどうでもよくなってしまった。そして、まるで盤上のチェスを転がすようにX星人、M機関、EXMAを戦わせる遊びを始めた。
結局、瑞穂にとってはX星人の侵略もEXMAによる反乱も、どうでもよかったのだ。
とっくの昔に心が壊れてしまっていた瑞穂。死を望む彼女に、静奈は最後の問いを投げかけた。
「瑞穂は、私を親友と言った……あれも、嘘だったのか?」
瑞穂は答えず、代わりにただ微笑んで見せた。
―――そして瑞穂はようやく、永い呪縛から解放されたのだった。
X兵を片付けた信二は、美里にゆみを追うよう指示すると残されたユイと共にノーヴの前に対峙した。
かつて、コンスタン格納庫に潜入し、ゆみを含むミュータント兵士をたった一体で追い詰めた怪物。
更に、ユイのプラズマグレネイドが徐々にユイの体を蝕み、使用回数はもってあと二回に限られていた。
その絶望的状況の中でも、2人の士気は高かった。
「行くぜ!」
信二の
スナイパーメーサーが、ノーヴのシールド発生装置を撃ち抜く。バリアの張れなくなったノーヴに、プラズマグレネイドの閃光が叩き込まれる。
だが、内部のむき出しになった体で尚も猛攻を加えるノーヴ。
プラズマグレネイドに体を侵蝕されていくユイは、もう限界だった。
しかし侵蝕しきる寸前、信二のメーサーがユイとプラズマグレネイドの生体部分の繋がりを断ち切った。
そして、制御不能に陥ったプラズマグレネイドはノーヴを巻き込みながら内部崩壊を起こし、やがて跡形もなく吹き飛んだ。
美里が2人の元へ向かう途中、ジンが立ち塞がった。だが、一向に戦おうとはせず、彼はすんなり道を開けた。
統制官のいなくなった今、ジンが戦う理由はもうどこにもない。
意図を読めずにいた美里に、ジンは。
「この戦いの結末、君が見届けろ。それが君の最後の役目だ」
「ジン、あなたは…?」
「僕の役目は…もう終わった」
それだけ残し、彼は爆煙の中へ姿を消した。
残るはキングギドラと怜。
だが、互角なゆみと怜に対しキングギドラの強さは圧倒的だ。
引力光線の破壊力はゴジラとジラのタッグ熱線の威力を遙かに上回り、空戦能力もラドンとカマキラスでは歯が立たない。
だが、コンスタンの援護を
きっかけにアンギラス、ジラの高速攻撃がギドラの翼を破壊、更にラドンカマキラスの連続攻撃が3つの首のうちひとつを吹き飛ばした。
たまらず空へ逃れようとするギドラだが、破損した翼では思うように飛ぶことはできない。そして遂に、ゴジラの赤色熱線(GFW版は何熱線だっけ?)がギドラの体を貫いた。
ゆみと怜の拳がぶつかり合う。
2人の戦闘に巻き込まれ、動力部が破壊されると母船は崩壊していく。その中でも、2人は戦いをやめようとはしなかった。
一進一退。常人には何が起こっているのかすらわからなかっただろう。
だがやがて、ゆみと怜が光(闇)の片翼を広げカイザーの力を完全解放すると、決着の時が訪れた。
「大丈夫―――」
そして美里が駆けつけた直後、2人の最後の一撃が交錯した。
27話(終)
「……あぁ、もう…無理するから」
「ご、ごめん…」
ゆみの最後の一撃が、全てのカイザー因子を打ち消した事で怜は正気を取り戻した。
2人が初めて同じ戦場に立ったときの、いつかと同じやりとり。
だが、ゆみも怜もどこか穏やかな表情をしていた
力を使い果たした怜はまだしばらくは動けそうになく、ゆみが抱きかかえる形で寄り添う。
お互い、随分久しぶりに言葉を交わした気がする。―――色々な事があった。
別れ、哀しみ、裏切り、決意。
そういった全てを乗り越えて、今彼女達はようやく触れ合う事の出来る未来を掴んだ。
遠巻きにそれを見ていた美里も2人の再会に微笑みを見せた。
だが、いつまでもこの場で語らっている時間はなかった。動力炉を破壊された母船が崩壊していく。
「美里ちゃんは先に行って!すぐに追いつくから!」
途中、爆発による崩落によって道を塞がれてしまったゆみが、怜を抱えながら叫ぶ。
瓦礫を破壊する程度は美里にもわけなかったが、この不安定な状態で攻撃を繰り出したら、それこそ一気に崩壊に巻き込まれてしまうかもしれない。
美里は仕方なく背中を向け走り出し、途中倒れていた信二とユイを回収して接岸していたコンスタンに乗り込んだ。
美里が脱出したことを確認すると、ゆみは再び片羽を広げた。カイザーの力で、一気に母船の外壁ごと突き破るつもりだ。
コンスタンのモニターの中で、轟音と共に崩れ落ちていくX星人の母船。だが、ゆみと怜は?
コンスタン内の誰もが固唾を呑んでモニターを見守る。と。
「あ、あれ!」
爆発し崩落していく母船の映像の中に、一際輝きを放つ光がぽつんとひとつ浮かんでいた。ゆみだ。
しかも、背中に生やしていた片羽は一対の翼となり、まるで天使の如く宙に羽ばたいていた。
安堵の雰囲気に包まれるコンスタン艦内。しかし全てが終わったと思われたその時、コンスタンに衝撃が走る。
「…!」
静かに地面に降り立ったゆみと、抱えられた怜。その視線の先で、コンスタンが黒煙を噴きながら地面に墜落した。そして、その元凶が悪魔のようにゆっくりと降り立つ。
悪魔の名はガイガン。だが、ただのガイガンではない。両腕のカマや全身の突起が血のような深紅に染められた改造機"ガイガンデストリガー"であった。(元ネタは超合金であった限定版カラー品)
そのガイガンは、母船が陥落し作戦が失敗した際に指揮系統を失っても作戦を続行するようプログラムされた最終兵器だった。
突如現れた究極の敵。だが、コンスタンは墜落し、静奈と尾崎が到着するにはかなりの距離がある。そして、力を使い果たした怜は戦える状態にはない。
目の前の悪魔を止められるのは、ただ一人。
「ゆみ…ダメ…!」
「怜ちゃん、ここで待ってて。―――必ず、帰ってくるから」
かつて両親を殺した悪夢の存在。初めての戦いでは仲間達全員の力を合わせてようやく倒す事が出来たそのトラウマに、ゆみは今たった一人立ち向かおうとしていた。
怜の制止も振り切り飛び込むゆみ。不思議と、恐れや憎しみは湧いてこなかった。ただ、忘れえぬ過去と向き合い、その代わりに今生きている大切な人を守りたい。そんな想いだけがゆみを突き動かしていた。
だが、ガイガンデストリガーは通常のガイガンに輪をかけて強く、たちまちゆみの体はビルの外壁へと叩きつけられた。
「くそ、このまま手を拱いてみてるしか出来ないってのか!」
墜落の衝撃により、コンスタンのハッチは開かない状態になってしまっていた。
進撃を始めるガイガン。ゆみは幾度となく喰らい付くが、ガイガンは意にも介さないといった様子でいとも簡単にゆみの体を弄ぶ。
そして、ゆみのブレードランスが破壊され意識が完全に失われた時、ガイガンの単眼が発光を始めた。拡散光線で、跡形もなく消滅させるつもりだ。
そうはさせない!怜が、最後の力を振り絞ってサキから受け継がれた加速銃を放つ。更に、コンスタンから放たれたミサイルがガイガンの注意をひきつける。
目障りだとばかりに拡散光線がコンスタンに見舞われる。この一撃によりコンスタンは全機能が完全に停止した。
そして今度は、怜にあざ笑う口のように裂けた形の単眼が向けられる。絶体絶命。怜が目を伏せる―――
しかし、拡散光線は放たれなかった。怜が目を開くと、そこには両翼を広げたゆみが立っていた。
もうとっくに体の限界は超えているはずなのに―――
ほとんど無意識に、ゆみは半壊したブレードランスを手に突っ込んだ。
ガイガンの熾烈な攻撃を潜り抜け、大地を蹴る。そして、最後の一撃がガイガンのコアのある腹部を真っ向から突き破った。
やった!穴の開いたガイガンの腹部から、内部崩壊の黒煙があがる。勢いのまま、ゆみが転げ落ちた。もはや指のひとつも動かす余力は残されていない。
だが、崩壊していくガイガンがゆっくりと安定しない動きで背後のゆみを睨み付けた。崩壊しかけて尚も、ガイガンは戦おうとしていたのだ。
単眼が妖しげに発光を始める。
「ゆみ、逃げて!!」
怜が叫ぶ。だが、ゆみは動こうとしない。そして怜の目の前で、拡散光線の閃光が閃いた。
それから3年。戦いは終結を向かえ、彼らはそれぞれの未来に向かって歩き出していた。
フラットウィング小隊解散後、信二はすぐに別の小隊の隊長に任命された。相変わらず破天荒な指揮ではあったが、部下の信頼は他のどの小隊よりも厚かった。
尾崎の後任として醍醐事務総長の警護を任されたユイはハワイへ。空港で信二に見送られた際、2人の雰囲気は何やら怪しげなものだったらしい(尾崎談)。そしてユイのバイクは、信二に譲り渡された。
過去の呪縛から解き放たれた信二と、自分の意志を得たユイ。お互いがそのきっかけとなった2人は、離れていても心が繋がっているようだった。
霧島麗華は航空隊の整備士として防衛軍に復帰。河原田もコンスタンの艦長から戦闘機乗りに戻り、2人は名実共にパートナーとなった。
今日もまた、河原田の乗るドッグファイターが大空を舞う。その飛行機雲を目でなぞりながら、麗華は誰にも見せたことのない笑顔を見せた。
空白になった瑞穂の席に収まった静奈は、彼女の残していった山のような雑務に頭を抱えていた。階級が上がっても、頭を悩ませる相手がゆみや信二から紙切れに変わっただけの事だったと彼女は語る。
毎日書類に追われる日々の中、ふと静奈は最後に瑞穂が見せた笑顔の意味に思いを馳せる。本当に、瑞穂の心は嘘で塗り固められたボロボロのハートだったのだろうか?もしそうだとしたら―――
しかしすぐに、その雑念は頭の片隅に消えた。書類の束が、まだ山のようにあったのだ。
幹也は、大学に進学した。大戸高校はエスカレーター式の高校であったが、幹也はわざわざ別の学校を受験し、合格した。
そして、時間を見つけてはサキの待つ病院に通い献身的な介護に時間を費やした。サキは未だ言語機能も記憶も失ったままだったが、よく笑顔を見せる少女になっていた。
天王寺穂咲が何より望んだ自分の居場所―――それが今、目の前にあった。
M機関と共に戦ってきたアンギラスは半年前の
メガギラス戦で、カマキラスは1年前に寿命で息を引き取った。
人間の身勝手な行為で戦いを強要された彼ら。だが、どちらの怪獣も最後まで勇敢に戦い、そして満足げな表情をしていた。
彼らの存在は、ゆみの願った共存の可能性を確かに証明したのである。現在は、ラドンと
バラゴンが2体の任を継いでいる。
ジラ、そしてゴジラの行方はあの戦い以降わかっていない。もし再び現れた時、ゴジラはやはり我々の敵となるのだろうか?それとも―――
それは、今はわからない。ただひとつ言える事は、怪獣王と恐れられるその巨大な生物と確かに心を通わせた人間がいたという事だ。
そして―――
「なーに黄昏てんだか」
海岸線で一人佇んでいた怜を、美里が小突いた。その手には、松本の墓に手向けるための花が握られている。
「…なんでも。ただ、空が綺麗だと思ってさ」
言われて、美里も空を見上げる。確かに、今日は雲ひとつない快晴だった。藍の絵の具を染み込ませたような空が、どこまでも澄み渡って見えた。
あの戦いで、ゆみがどうなったかはわからなかった。
ただ、閃光が視界を覆い、それが晴れた時にはゆみの姿はもうそこにはなかった。
防衛軍本部の公式記録では戦死として処理されている。だが。
「私は、帰ってくるって信じてる」
怜は、戦場に唯一残されていた半壊したブレードランスを手にもう一度空を仰ぎ見た。
風が、結びを解いた怜の長い髪をやさしく撫でる。その青空に、ひとひらの羽が舞った。
「さ、そろそろ行くよ」
目の前で鋭い爪を唸らせる集合体デストロイア。その眼下で、怜の言葉に美里と今年入隊した新米兵士が頷く。
懲罰部隊"リバース小隊"。常に過酷な任務を強要されるその部隊で、怜はその部隊に自ら小隊長として志願した。
怜自身に罪があったわけではない。ただ、たったひとつの理由のために、怜はその課過酷な部隊への配属を願い出たのだ。
「あの…和泉隊長」
ふと、新米の女性兵士が怜に尋ねる。この新兵は、入隊して早々に問題を起こしたとびきりの問題児だ。
「何故、ウチの小隊は3人なのでしょう?」
本来、M機関の小隊は4~5人で構成されている。なのに、怜率いるこの小隊は過酷な任務を強いられるにも関わらずわずか3人しかいない。
それが、彼女には疑問だった。
その問いに対し、怜は小さく笑みをこぼした。
「ああ……簡単な理由よ。実はもう、4人目は決まっているの」
その答えに首を傾げる新兵。だが、美里はその言葉の意図を理解していた。
Rebirth。
それは、必ず戻ってくるための。帰って来るための場所という意味を込めて、怜がつけた名前であった。
GODZILLA FINALWARS REBIRTH 完
最終更新:2013年05月10日 05:15