ブレトランド外伝「穢れなき花に祝福を」




Opening.1. ウリクル村への招待状


アントリア、モラード地方に位置する、ウリクル村。
この村の契約魔法師の名は、ヴェルディ・カーバイト。
彼女は9歳にして、エーラム魔法大学静動魔法学部、山吹の系統を卒業し、契約魔法師となった「異例の天才」である。現在はこの村で契約魔法師としての業務に励む日々を送っている。

そんな彼女のもとには、契約魔法師の常として、毎日多くの書類、手紙が届く。
今日も届いた無機質で事務的な封筒に混じって、その中に少し凝った装飾の祝い事に使うような手紙がある。
差出人はインディゴ・クレセント。
ヴァレフール南部の街、テイタニアの契約魔法師であり、成人してから魔法の素養に目覚め、エーラムに渡ったという、ヴェルディとは逆の意味で「異例の魔法師」であった。
互いに同期の学生の中では目立つ存在であったのもあり、エーラム時代からの旧知の人物なのであるが、はて、このような封筒を好んで使うような人だっただろうか?
首をかしげつつ、それを開封したヴェルディは、内容に目を通し、思わず驚きの声を上げた。

「はぁ! インディゴ先輩が!?」

中身は一通の招待状であった。
インディゴ・クレセントはこの度結婚することとなったので、個人的な友人としてヴェルディを招待したい、という旨が記されている。
インディゴはもう38歳になる。これまで浮いた話の1つもなく、彼はもう独身で仕事に生きるのだろうと思っていたのは何もヴェルディに限った話ではない。

あまりの驚きに、手紙に混沌探知の魔法をかけてみるが、当然何ともない。とはいえ、次には、「これはぜひ相手の顔を拝んでみたいものだ」という興味の方が沸き起こる。
そう考えたら、次の行動は素早かった。旅支度をまとめ、しばらく自分がいなくても村が回るように仕事をまとめておく。幸い、契約相手のジェロームは有能な君主だ。どこぞの温泉村と違って契約魔法師が少し留守にしたからと言ってそうそう問題が起こることも無いだろう。

こうして、アントリアから1人、インディゴの旧友がテイタニアを目指して旅に出た。

Opening.2. 冒険者の街、癒し手との出会い

テイタニアの街の領主、ユーフィー・リルクロートはヴァレフール騎士団をまとめる七男爵の一角である。手品を趣味とし、時折、街の子供たちの集まる広場や、冒険者たちの集まる酒場のステージで、その腕前を披露している。ゆえに、民との距離が近い君主として知られている。

今日も、酒場のステージに立ち、見事な手品を披露した後、そのまま冒険者たちと話をして回る。領主としても、こうしたところからボルドヴァルド森林や街近隣情勢の些細な変化を知られることも多い。
そうしていると、ふとその目線が一人の冒険者のところで止まる。
邪紋使いの少女のようだが、今までにこの街で見かけた記憶は無い。

「やあ、この街は初めて? ステージは楽しんでくれたかな?」

ユーフィーは出来る限り、初めてこの街を訪れた人を見つけた時は話しかけるようにしている。ユーフィーがこういう君主だということを知らずに他所から来た人は、いきなり領主に話しかけられて驚くのが常だが。

「え? 領主さま!」

気弱な感じを受ける少女は、驚いた様子だったが、まあそれはいつものことなので、そのまま二言三言言葉を交わす。
いわく、少女の名はキリという。
癒しの力を持つ邪紋使いで、今はこの街で、森でちょっとした怪我をしてきた冒険者たちの治療をして過ごしているらしい。

「なるほど、ここは冒険者さんもたくさんいる街だからね。」
「キミみたいな方がいてくれると、とても助かるよ!」
「大変かもしれないけど、頑張ってね!」

そう声をかけて、今回は別れることにする。ちょうど夜も更けてきた。酒場もさすがに人がまばらになりつつある。
ユーフィーは、酒場を出て領主館への帰途についた。

Opening.3. テイタニアの甘い日々

領主館に帰り着いたユーフィーは自分の部屋に戻る前に、ちょっと隣の部屋を覗く。
夜もそろそろ遅く、ちょうど婿であるアンジェが寝支度を始めているところであった。
ただし、部屋に用意されているベッドではなく、床で。
思わず、ドアを開けて呼びかける。

「アンジェ! また床で寝ようとしてる!」

アンジェは不死者の邪紋使いであるのもあって、別に固い床で寝たところで支障はないし、冒険者であった時代はそれが常であった。だから、領主館に住むようになってからも、ベッドがふわふわ過ぎると落ち着かない、と言っていたのだが…

「ほら、僕は床で寝ても大丈夫だし。」
「あと、ベッドで寝ても、朝には落ちちゃってるし…」

寝相が悪いといったのが本当なのか言い訳なのかは分からないが、アンジェはそう弁明する。それを聞いたユーフィーは、少し頬を膨らませて、一転、悪戯っぽく笑みを浮かべる。

「じゃあ、ベッドから落ちないようにしてあげます!」
「こっちに来て、アンジェ。」

アンジェは「ベッドに縛られるのかな?」と思っていたが、それは違った。
隣のユーフィーの部屋、壁際に設えられたベッドを指して、ユーフィーは言う。

「アンジェが奥の壁際で、私が手前。それで落ちません!」

「え? ユーフィー、そ、それって…」

不死者特有の普段青白い肌はどこへやら、赤面してうろたえるアンジェに、ユーフィーはウインクを一つ投げて、また悪戯っぽく笑う。

「名案でしょっ!」

Opening.4. かつての仲間は

その頃、テイタニアの隣村であるヴィルマ村では、領主グラン・マイアーのもとに、旧知の友人が訪ねてきた。グランはエーラムでレア・インサルンド伯爵と出会い、この村を任されるまで、傭兵としてアトラタン各地を転々とする生活をしてきた。その頃の友人がグランがここの領主をしていると聞いて訪ねてきたらしい。

「いや、まさかお前が領主になるなんてな。」
「傭兵団にいた頃から、聖印を持ってはいたが。」

思い出話から始まり、徐々に話題は移る。
ふと思い出したように、傭兵の男は言う。

「そういえば、隣のテイタニアから来たんだけどよ。」
「そこの領主と魔法師がパンドラとつるんでるって噂を流している奴がいるらしい。」

その話にグランは眉をしかめる。
確かに、以前メビウスと名乗るグランの仇敵、クラインと同行していたのを目撃して、グランの中でも隣町の領主に対しては疑いがないわけではない。
だが、ここにきてわざわざ噂を広めている者がいる、というのは妙な話だ。
何かの意図があってやっているのか、余程のバカなのか、といったところだが…

グランが考えていると、旧友はさらのもう一つ、驚くべき噂を伝えた。

「あと、最近ワールっぽいやつがテイタニアにいるらしいぞ。」

ワールとは、彼もまたグランの傭兵団時代の友人で、ある時突然行方不明になった男だ。
どこかで死んだか、そうでなくとももう会うことは無いかと思っていたのだが…
なるほど、随分、気がかりなことが増えてしまった。

  •  ・ ・ ・

友人との会談を終えて、その日の夜。
ヴィルマ村の領主館にもインディゴの結婚式の招待状が届いていた。

「え!? あの人結婚するの!」

「ずっと独身でいるのかと思ってましたよ。」

契約魔法師のアスリィと共に驚きの声を上げる。
とはいえ、これでテイタニアに行く用事が出来た。もし余裕があったらその時に、先ほどの話について調べてみてもいいかもしれない。
そう思いつつ、グランとアスリィは、インディゴの結婚式に出席することを決めた。

Opening.5. 幕間 ~館への侵入者~

ある夜、インディゴ・クレセントは自身の執務室で書類仕事を片付けていた。
ふと、気配を感じて見ると、黒服の男が目に入る。
驚きつつも、咄嗟に魔法杖に手を伸ばす。

「何者だ?」

「この街の領主に要求があって来た。」

男の語る内容を聞く。その意味していところが不明瞭な上に承服しがたい。
ひとまず、この侵入者を捕らえなければならない、と魔法杖を掲げ、相手の動きを封じる静動魔法を掛ける。
その瞬間、パッと光が散ったかと思うと、掛けたはずの魔法は掻き消えていた。

その隙をついて、黒服の男はまんまと屋敷から走り去っていく。
まさかこの地の魔法師が静動魔法に熟達していることを知らずに来たわけでもないだろうに、何かしらの対策をしているのは当然考えられたが、あまりにあっさりと魔法が打ち破られたのはインディゴとしても想定外だった。

「とりのがしたか…」

Mid.1. 集まる客人たち

インディゴの結婚式の前日。
招待客たちは続々とテイタニアの街に到着しつつあった。
式自体は明日だが、今晩は今晩で前夜祭が企画されている。そこから参加する者も多い。

ウリクル村からの来客、ヴェルディも前日の昼には到着していた。
ひとまず領主館まで挨拶に向かう。折よくインディゴもちょうど手が空いたところだったようで、年の離れた旧友を出迎える。

「遠いところからよく来てくれたな。」

「インディゴ先輩が結婚するって、ガチだったんですね!」

本人を前にして割と失礼な一言だが、そこはインディゴの方にもそう言われるだけの心当たりはあったようで、特段怒りはしない。

「まあ、38にもなって仕事に生きてた先輩が結婚に踏み切れたってことは、それだけいい相手に出会えたってことなんでしょう。」

確かに考えようによってはそうである。
どちらにせよ、ヴェルディもインディゴを祝福しているのに違いは無かった。

一方、目出度い話ばかりでもなかった。インディゴは、1つの気がかりについてヴェルディに相談する。
それは、今回の結婚式を妨害する、という文言が届いているということだった。
時空魔法師でもあるインディゴがその気がかりについて予言の魔法を使ったところ、得られたキーワードは「虚偽」「吸血鬼」「脅迫」「逃走」「偵察」。
「虚偽」のワードが何を指しているか分からない、もしかすると妨害するということが虚偽なのかもしれないが、それでも気を付けておいてくれ、とのことだった。

  •  ・ ・ ・

同じ頃、隣村からの来客、グランとアスリィもテイタニアに到着する。
インディゴはヴェルディの応対をしていたので、領主館に挨拶に来たグランたちには代わってユーフィーが対応する。

「こんにちは! 今回も来てくれてありがとう。」

こちらはヴェルディと違って隣村からであるし、テイタニアに来たのも、もう数回目だ。
手慣れた様子で館に招き入れる。

「とりあえず、今日の夜には前夜祭があるけど、それまでは自由にしててよ。」

「ああ、それじゃあ、街の散策にでも出させてもらいます。」

「じゃあ、部屋はもう用意しておくから、荷物とか置いてってもいいよ。」
「この前と同じ感じでいい?」

以前、グランたちがテイタニアを訪れた時は、グランとアスリィは1つの部屋を使っていた。それは割と勘違いに基づくものなのだが、本人たちが否定しないので、余計に勘違いは進行していた。
(参照:ブレトランド水滸伝 第1話「天魁之壱〜山の麓、水の滸〜」)

案の定、今回も彼らは「別に構わない」と答える。

「あ、あと、こんなのがあるんだけど、いるかな?」

そう言ってユーフィーが差し出したのは、かつてトオヤがテイタニアを訪れた際に彼へのプレゼントとして用意したこの街のスイーツマップだ。
折角あるなら活用した方が良いし、グランもまた甘い物が大好きだということはユーフィーの耳にも届いていた。

こうして、グランはアスリィと連れ立って街の散策に繰り出していった。
その後ろ姿を見てユーフィーは思う。

(…あの2人は、いつ結婚するんだろ?)

Mid.2. 人探し

グランは、テイタニアの街のスイーツを楽しんだ後、冒険者の店にも足を運んでいた。
目的は、この街で目撃情報があるという旧友、ワールについて聞くためである。
邪紋使いである彼がこの街にいるなら、何らかの形で冒険者の店に関わっている可能性が高いだろう。

「失礼、1つ聞いていいか?」
「ここにワールという邪紋使いの冒険者はいないだろうか?」


店主に尋ねるが、そのような名の者はこの店には所属していないという。
ただ、その風貌については、幾つかの目撃情報が挙がる。
それを聞いて、グランは若干のきな臭さを感じていた。
この街にいて邪紋使いなのに冒険者をするでもなく、何をしているか分からない。
それはかなり不自然なことのように思えるが…

それはそれとしてひとまず、もう1つの懸案の方も聞くことにする。
この街の領主と魔法師がパンドラと関わっている、という噂についてである。

「ああ、確かに、そんなことを言っているやつがいたな。」
「ま、特定のやつらだけだがな。気弱ような嬢ちゃんまで言っていたのにはちょいと驚いたが。」

どうやら、店主はじめ大半の冒険者は話半分にその噂を捉えているようだ。
ひとまず、その点は安心する。だが、そのような噂を広めている者がいるというのは由々しき問題でもある。どうしたものか?

Mid.3. 血が必要なら?

アンジェは、「ちょっとした用事」のため、街の冒険者の店に向かおうとしていた。
彼は、不死者の邪紋使いの中でも、特に血液を貯蔵し、自身の生命力に変えることのできる「吸血鬼」と言われる系統の邪紋を刻んでいる。
つまり、十分に力を使うためには他者の血液が必要なのだ。
今まで、彼は街の冒険者仲間に頼んで、少し血液を分けてもらって、使っていた。
今回も、その補充に向かおうと、注射器を持って向かおうとしたのだが…

「アンジェ、どこへ行くんですか?」

館を出ようとしたところで、目聡くユーフィーがその姿を見つけ、ちらりとアンジェの持っている注射器に目を向ける。
アンジェは少し焦ったように答える。

「えっと、冒険者の店に…」

「血が欲しいのなら、私のじゃダメなんですか?」

それは今までも何度も言われていたが、アンジェは何となく気恥ずかしくて断り続けていた。
今回も、適当に理由を付けて逃れられないかと、考える。

「ほ、ほら、注射器刺すと、ちょっと痛いし。」

「そのぐらいなら構いませんし、注射器じゃなくてもいいんですよ?」

「ほえ? え、どうやって注射器を使わずに?」

もとより、アンジェは出来るだけ血の提供者に負担をかけないようにという配慮から注射器を使っていたのだが、想定外の返答に注射器を使わずとも吸血は出来ることが頭から抜け落ちて、ズレた質問を返してしまう。

「ほら、こんな感じで!」
「吸血鬼っぽくて、カッコいいですし!」

言うと、ちょっと背伸びをして、アンジェの首元に牙を突き立てる真似をする。
身長差のせいで抱き付くような感じになってしまっているのもあって、アンジェは動揺する。

「え! 無理、出来ない!」
「…えっと、注射器じゃダメかな…?」

「むう、じゃあ、注射器でいいですよ。 …今回は。」

Mid.4. 癒し手再び


そろそろ日中も半ばを過ぎたころ、ユーフィーもまた、再び街に出ていた。
領主と契約魔法師がパンドラと関わっている、という噂は当然、ユーフィーの元にも届いていた。
心当たりがない事も無いが、出回っている噂はどうにも具体的でないし、特定の人物たちが流しているらしい。そのうちの1人は、聞いた風貌から察するに、以前冒険者の店で出会った癒し手の少女、キリらしい。あの気弱ような彼女が?、と不思議にも思うが、少し事情を聴いてみる必要がありそうだ。

冒険者の店に入ると、はたして彼女はそこに居た。癒し手として活動している以上、ここにいるのが一番効率が良いのかもしれない。

「ちょっといいかな、キミに聞きたいことがあるんだ。」
「この街に流れている噂について。」

それで、キリの方も聞きたい事を察したらしい。
いつもの気弱そうな、か細い声で言う。

「えっと、あまり、人のいないところの方が。」

ユーフィーとしては、疑惑の相手に対して会うのに、あまり人気のないところは危険かもしれないとは、当然考える。
だが、ここで強硬になっても、噂の出所を掴めないだけだろう。

「分かった。じゃあ、この時間に、ここに。」

そう言って、時間と場所の書かれたメモを渡す。
流言事件の手がかりが1つ、こうして掴まれようとしていた。

  •  ・ ・ ・

その時、ヴェルディもまた、この店に訪れていた。
前夜祭まで、少々の時間があったのもそうだが、先程、インディゴから、隣町の領主であるグラン・マイアという男の話を聞いたのも気にかかっていた。

聞いた特徴を思い返し、店内にそれらしき人を見つける。
どう見ても10歳そこそこの少女がやってくるのを見たグランは不審そうな目線を向けるが、ヴェルディは自己紹介する。

「この街の契約魔法師であるインディゴ・クレセントの後輩で、ヴェルディ・カーバイトと言います。」
「ウリクル村の契約魔法師を務めています。」

ウリクルと言えば、遠くアントリア領の村だ。
一応敵国だが、まあ、魔法師としての後輩なら、来ていても不思議ではない。

「貴方とは話が合うんじゃないかと勧められましてね。」
「パンドラは、お嫌いでしょう?」

ブレトランドでも特にパンドラを憎む2人が、出会った瞬間だった。

  •  ・ ・ ・

ユーフィーは、指定した時間、約束の場所に向かっていた。
その場に着くと、キリが待っているのを見つける。他に何者かが隠れている気配はない。

「さて、さっきも言った通り、聞きたいことがあるんだ。」
「私やインディゴがパンドラと関わってる、って噂が流れているみたいだけど?」

要は、「キミを疑っている」という意思表示に近い聞き方だ。
聞いたキリは、逆に質問を返す。

「えっと、その噂は、領主さまがパンドラと関わっている、というのは本当なのでしょうか?」

「無論、根も葉もない。」
「だからこそ、どうしてこのような噂が流れているのか、気になっている。」

当然ながら、即答する。
その返答を聞いてキリはなぜか少し安堵したような表情を浮かべる。

「えっと、その噂について、私から話せることはありません。ごめんなさい。」

その様子は、まだ何か知っていそうにも見えたが、ひとまずは追及しないでおく。
逆に、キリはもう1つ質問を続ける。

「あの、領主さまは不殺の信念を掲げる方だと聞いています。」
「1つ、たとえ話なんですが、仮に重い病気でもうほとんど助かる見込みもなく、苦しんでいる人を、手に掛けることは、悪なのでしょうか?」

話が飛んだが、キリの表情を見るに、おそらく彼女にとっては重要な意味を持つのだろう。
もしかすると、癒し手であった彼女なら、本当にそういうことがあったのかもしれない。
しばし考え、言葉を紡ぐ。

「私は、不殺の君主と言われている。」
「けど、それは別に目的でも、信念でもないんだ。」
「私の本当に是とすることは、みんなを幸せにすること、したいこと。」
「そのためにどういう選択肢を取るかを考えていたら、こうなったに過ぎない。」

「だから、もし、その手段を取った方が、誰かの幸せにつながるなら、そうするのだと思う。」
「たまたま、幸いにも、そう決断できるだけの事態が、これまで無かっただけでね。」

「それで、そう決断するのは何時か、どこからかなんて、人によってまちまちだ。」
「私はその天秤が、人を殺めぬようにと寄っているだけに過ぎない。」
「だが、人の幸せを願い、決断したのなら、答えにのない問いにひねり出した答えを、誰が貶せるだろうか。」

「キミがその時、何を考えたかに聞くといい。」

ユーフィーの言葉を聞いたキリは、小さく言葉を返す。

「…そう、ですか。」
「ありがとうございます。私なんかのたとえ話に、答えていただいて。」
「もう1つだけ、お伝えしても、いいですか?」

「何かな?」

「私は、戦うことなんて、望んでない…」

そこまで言うと、キリはテイタニアの街の路地裏を走り去っていく。
残されたユーフィーは、彼女の言葉の意味を考える。
恐らく、彼女は誰かに従わせられている。別のアプローチから、その誰かに至らなければならない、かもしれない。

Mid.5. 前夜祭


その夜、領主館ではインディゴの結婚式の前夜祭が行われた。
グラン、アスリィ、ヴェルディも館に戻り、振る舞われた料理や参加者たちとの談笑を楽しんでいる。

ヴェルディは、主催者サイドとしての忙しなさが一段落した風のユーフィーのところに来て、挨拶する。

「おや、インディゴの後輩さん、でしたね。」
「ウリクル村の契約魔法師として活躍する、とても優秀な方だと伺ってます。」

それからしばし、ウリクル村とテイタニアのそれぞれの地元の話に花を咲かせる。
ヴェルディの契約相手であるジェロームは商家出身で、交易や自由を重んじる統治を特色としている。そういう意味では、国が違うとはいえ、このテイタニアと近いところもあり、互いの統治方針が参考になることもあるだろう。

「今は難しいかもしれませんが、もし機会があったら今度はウリクル村に来てみてください。」
「貴女、ゴルフ上手そうですし。」

確かに、光のバトンで戦うユーフィーのスタイルに近しいところが無いことも無い、のかもしれない。

一方で、領主自らが来ることはまだ難しいにせよ、何らかの交易ルートを開くことはできるのではないか、ということについては、2人とも現実的に考えていた。
テイタニアの街はボルドヴァルド大森林から手に入る産物など、他では手に入らない物が多いし、ウリクル村属するモラード地方もまた、紅茶、ウィスキーなどなど名産物の宝庫として知られている。
この時の2人の会話から、もしかすると国の境を超えた1つの交易ルートが生まれるのかもしれないが、それはまた別の話である。

Mid.6. 惨劇


前夜祭もそろそろお開きになろうかという頃、異変は訪れた。
館近くの街路の方から、悲鳴が聞こえる。
館が騒がしいのと、少し離れているので、大半の招待客は気付いていないようだが、ユーフィー、グラン、ヴェルディたちはその声を確かに捉えた。

感覚を頼りに声のした方角に走る。
現場はすぐに見つかった。街の裏路地で1人の男が血を流して倒れている。
傷跡は噛まれたようであり、明らかに致命傷だ。
アスリィが《ファーストエイド》の魔法をかけるが、瀕死の患者を治療可能状態まで引き戻すその魔法も効いている様子がない。つまりは、この男は既に死んでいるということだ。

であれば、次に先決は逃走中と思われる犯人の追跡。
既に遠く走り去っていく足音を頼りに追いかけるが、脚には自信のあるユーフィーも、それ以上に脚が速いアスリィも、その足音に追いつくことはできなかった。
路地裏で上手く撒かれた、というよりは単純に相手が速かった。アスリィですら追いつけないとなるともう尋常ではない。

仕方なく、現場に戻り、検分を再開する。
被害者は特に君主でも邪紋使いでもない一般人。それも特に今回の結婚式とも関わりない、普通の通りすがり、だったようだ。
加えて、持ち物を漁ると、「返事は明朝まで待つ」と書かれた紙片が見つかる。
状況、文脈からして、この被害者へ宛てたものではなく、この文面の宛て先はユーフィーたちなのだろう。襲撃者は、インディゴに脅迫を行った者の一味で、この男を噛み殺し、紙片を置いて立ち去って行ったといったところか。

こうなると、あとはその一味を何としても捕らえなくてはならない。
最も分かりやすいチャンスは、指定された明日の朝、だ。
その約束の時間・場所で一気に彼らを捕らえる。最もシンプルな方法だろう。

だが、問題は、既にその一味には少なくとも2回、逃げられているのだ。
明朝の時もまた逃がしてしまう可能性が無いとは言い切れない。
そこで、夜のうちに、想定される彼らの逃走経路にあたりを付けておくことにする。
こうして、すぐに調査を進めたユーフィー達は、約束の場所から取り逃がした場合に彼らが取りうる逃走方法を検証して、情報をまとめる。
こうしておけば、そうそう取り逃がすことはなさそうだ。

そして翌朝、作戦は決行された。

Combat.1. 向日葵の戦旗

約束の場所に、領主館に忍び込み、インディゴに強請りをしてきたという黒服の男はいた。
やってきた人物たちを見やる。ユーフィー、インディゴ、アンジェ、グラン、アスリィ、ヴェルディで計6名。
明らかに、脅迫に屈した、といった感じではないと悟るが、そのためにこちらも準備はしてある。
黒服の男の合図で、3人の邪紋使いが路地裏から現れる。
その様子を見て、ユーフィーは、この街の領主として、告げる。

「貴方がたには、昨晩の殺人事件、および私たちに対する脅迫事件の疑いがかかっています。」

だが、黒服の男たちは当然戦闘の態勢をとる。
元より、素直に捕まるとは思っていなかった。
だから、こちらもそれぞれの聖印、魔法杖、武器を構える。
その両手に聖印の光を宿したユーフィーが高らかにその光を掲げる。 

「私は、皆の笑顔のために、考え、戦うんだ。」
「最高のハッピーエンドを諦めない、向日葵の戦旗を此処に!」

ユーフィーの両手から浮かび上がった聖印が光の糸を紡ぎ、1つの戦旗を編み出す。
戦旗の名は「サニーデイズ」。
その名が示すは晴天の日。その意匠は向日葵の花。
向日葵の花言葉は、「貴方を幸せにする」「貴方は素晴らしい」など。一人一人の良さを認め、周囲と手を取り合い、信じて前に進む。そんなロードに現出する、希望と信頼の戦旗である。

そこから分化した小さな旗が、インディゴとアンジェの手に届く。
ユーフィーの手元に残った光の戦旗からは、分化した光の花飾りが、いつも付けている髪飾りのところを覆うように向日葵の花を形成する。

目を向けると、対峙する陣営に立つキリが視線を向けているのに気が付く。
「私の言った事を憶えていてくださるなら…」、そんな声が気がした。
だから、向日葵の君主は、今から出来る限りのハッピーエンドを掴む方法を考え、告げた。

「この街の領主として、『貴方がたを、捕らえます!』。」

Combat.2. 対峙

相手方は、リーダーで投影体と思しき黒服の男を囲むように邪紋使いが3人。
1人は癒し手の毒使いであるキリ、1人は獣の邪紋使いワール、もう1人はここまでの調べでは名前は出て来なかったが、幻影の邪紋と吸血鬼の邪紋の複合のように見える。

対するはユーフィーとインディゴ、アンジェ、ヴィルマ村のグランとアスリィ、それからヴェルディ。
数的優位は取っているが…

真っ先に動いたのはキリだった。
一見何もしたようには見えなかったが、彼女は、自身にしか使えない特殊な「呪い」をかけたのだ。その内容は、キリに危害を加えた時、その傷を増幅して返す、というもの。
非常に厄介な能力だが、ある意味、これは好都合でもあった。

「あの少女は後回しに。他の方を先に捕縛します。」

キリはもともと積極的に戦いたがってはいないような反応だった。だったら、彼女への攻撃を後回しにする理由にしておいた方が良いだろう。

他の3人もそれぞれに特異な能力を持つ難敵であった。黒服の男は、以前インディゴから逃げるのに使ったのであろう魔法を無効化する不思議な力に加え、自身に対する攻撃に対しては謎の障壁を張って対応する。
幻影の邪紋使いは、その邪紋を用いてユーフィー、アスリィを誘惑し、戦いを優位に進めようとする。
獣の邪紋使いであるワールはその類稀なる俊敏さから助走をつけた攻撃で襲い掛かる。

とはいえ、ユーフィーたちもそれらには的確に対応した。
黒服の男の能力には回数制限があるようだった。徐々に追い詰め、もう障壁も張れなくなったところで決着の一撃が入る。

幻影使いは、アスリィと至近で白兵戦を演じている以上、他の者が攻撃すれば誘惑にかけられたアスリィに庇わせるのは予見されていた。幸い、アスリィなら1人で相手取ってもそうそう攻撃を当てられることなど無い。
奇しくも、ユーフィーやインディゴは以前トオヤ一行がテイタニアを訪れた時、幻影の邪紋使いの姿は見ていたし、ヴィルマ村の面々もまた、幻影の邪紋にはつい最近見覚えがあった。
(参照:ブレトランド風雲録 第3話「託される覚悟」グランクレスト Anecdote01 -ヴィルマ村の日常ー)
であるので、幻影使いがそう言った能力を使えることは頭に入っていたのである。
ワールの攻撃は、どうしてもアンジェの護れる範囲内の人物しか狙う事が出来ず、そのことごとくが弾かれるうちに、徐々に消耗していく。

しばらくの戦いの末、邪紋使い2人も、戦闘の継続は出来なくなっていた。
最後に残ったキリに、ユーフィーが言う。

「さて、趨勢は決まったかと思います。」
「不必要な戦いとなる前に、投降して頂けませんか?」

もとより戦いに消極的だったキリは素直にその言葉に従う。
こうして、結婚式の妨害および領主への脅迫を試みた一味は全員お縄に付くこととなった。

Ending.1. 取り調べ

目を覚ました黒服の男が、取り調べに対して語ったのは次のようなことだった。

領主や魔法師がパンドラと関わっているとカマをかけ、本当に心当たりがあるようだったら金品を強請り取るとこが目的だったと。
計画を立てた主犯は黒服の男、他の3人はそれぞれの理由で協力していたとのことだ。
特にキリに関しては何らかの弱みを黒服の男に握られ、それをタテに協力を迫られていたようだ。

おおよそ、予想をしていた通りで、それ以上の裏は無いということらしい。
目的は、単純に金品だったようだ。
戦闘中に気付いたことであるが、彼らはある種「運に見放されていた」というか、「劇的な成功の可能性を奪われていた」ように感じた。それが関係あるのかもしれないが、どちらにせよ今回の事件の大筋に関わる話でもない。
(参照:戦記データブック「賭博の魔神」)

  •  ・ ・ ・

「という具合です。」
「私の方からの取り調べは以上ですが、他の方から聞いておきたいことは…」

ユーフィーは、今回の事件に協力してもらったグラン、アスリィ、ヴェルディに取り調べた内容を報告する。
ひとまず、話を聞いて事件の全容はほぼ把握した。
まず第一に、ユーフィーのパンドラ関係疑惑は完全に根も葉もない噂 (少なくとも今回に限っては) だと示されたことは大きい。
加えて、その噂を流した人物たちも、パンドラの名前を使っていただけで、特段パンドラと関わりがある、という訳でもない。

だが、パンドラの名前を勝手に出してお粗末な事件を起こしたというのもそれはそれで少し業腹だ。
だから、ユーフィーに尋ねることにした。

「ボクの手で、こいつらにちょっとお灸を据えてもいいかな?」

「あー、まあ、ほどほどにね。」
「一応、その辺の取り扱いにも法があるんだ。このガイドラインには従うくらいでね。」

そう言って、ヴァレフールおよびテイタニアの判例集や資料を手渡す。
まあ、こいつらにお灸を据えたい気持ちも理解できる。という訳で、出来る妥協点がこのくらいだった。
紙束を受け取ったヴェルディは残念そうにつぶやく。

「うーん、これに従うと、考えていたことは大抵出来そうにないなあ…」
「ま、この範囲内でできることを考えてみますよ。」

そこで、グランが口を挟んだ。

「なるほど、それなら良い物がある。」

そう言って、手元から赤い粉末の入った小瓶を取り出す。
ヴィルマ村でアレックスが育てている香辛料の数々、その中でも特別辛みが強い品種だ。

この後、黒服の男がどのような目に遭ったのかは、ここでは割愛する。

Ending.2. 決着を付けるということ

グランは、館の牢に捕らえられたワールのもとを訪ねた。
「傭兵団から消えた後、どうしていたのか?」という問いに、彼は素直に答えた。

ワールが傭兵団から消えたあの日の時点で、既に彼は、獣の邪紋使いとして混沌を取り込み過ぎた結果、思考が獣に侵食されつつあった。
それまでは何とか理性が抑えていたものの、ついに限界がきてしまったのが、あの日だった。

目の前の死体、自分のした事を見て、ワールはもう、この傭兵団にいることはできないと悟った。だから、何も言わず、そっと夜の闇に姿を消したのだ。
その後は各地を転々としていた。ならず者の配下として雇われたこともあったし、今は、件の黒服の男と行動を共にしていた。その間も、時折、獣の衝動があふれてしまうことはあった。
そこから先は、知っての通りである。この街でも人を殺め、最後はユーフィーやグランたちに敗れ、捕らえられたのである。

少し黙り、グランは考える。
このまま今回の件だけでユーフィーが処断するなら、おそらく無期の禁固刑だろうか?
少なくとも、命をとられる事は無い。だが、彼はそれを望んで…

「グラン、お前の手で、俺を裁いて欲しい。」


言葉を聞き、グランは一度、牢を出た。

  •  ・ ・ ・ 

ユーフィーの執務室をノックする音が響く。
訪ねてきたのは、グランだった。彼の顔を見て、だいたいの用件は察する。

「ワールくんのことかな?」

「ああ、そうだ。」

そう言って、先ほどワールから聞いたことを伝える。
話を聞き終えたユーフィーは、深く息を吸って、言う。

「なるほど、彼が言うように、この街以外でも人を殺めていたのなら、これはテイタニアで裁く問題でもない。本来なら、ドラグボロゥに護送して、伯爵陛下の名で裁かれる事案かな。」
「恐らく、その場合、彼は死罪になるだろう。」
「でも、その形は望まないんだよね?」

「ああ、出来る事なら、俺の手で処断できる形にならないだろうか?」

ユーフィーは不殺の君主である。
だが、それはあくまで、最良の結末を導こうとした結果、そうなったに過ぎない。
彼の死が変えられぬ定めならば、少しでも、良い形とは何かを考える。

「そうだね。確か、最初に君のいた傭兵団で人を殺めているんだよね。」
「その被害者が、君と親しかった、ということにしておこう。」
「これは、この街で起きた問題であったとともに、傭兵団の問題でもあった。」
「それなら、そちらに裁定権を渡しても構わない。」

「ありがとうございます。」

一礼して、グランは、執務室を去った。

Ending.3. インディゴの結婚式

妨害の憂いを絶ったインディゴの結婚式は、予定通り行われた。

普段はほとんど、アカデミー制服で仕事に励む姿しか見かけないインディゴだが、今日はこの時の為に用意したタキシードに身を包み、少しの気恥ずかしさと、確かな幸せをその表情に浮かべている。

サイヤは、1人でヴァージンロードに現れる。
本来、父親と共に歩くのが通例だが、投影体としてこのアトラタンに現れ、虹色魔法師となったサイヤには隣を歩く者はいない。今、この時までは。

ただ1人で立ち、歩む強さ以上に、今のサイヤから感じられるのは、未来への期待。
これから歩む未来には、隣に立つ者がいるのだから。

  •  ・ ・ ・

式は恙なく進み、サイヤからのブーケトスが行われた。
花嫁のサイヤが後ろ向きにブーケを投げ上げる。
ブーケは、そのまま放物線を描いてゲストたちの所に…

…落ちる前に遥か空中でアスリィがジャンピングキャッチした。

ブーケをキャッチする、パシッという小気味いい音が響いた後、沈黙の時間が訪れる。
というか、アスリィが全力でジャンプして取ったら、誰も追いつける訳が無い。

「あれ!? 皆さん参加されないんですか?」
「こういうゲームじゃないんですか!?」

その様子を見る限り、そもそもブーケトスの意味を理解しているのかも、怪しかった…

  •  ・ ・ ・
そのアスリィの様子をグランは遠目から見ていた。
(ブーケをキャッチしたということは、次に結婚するのはアスリィということか…。
誰かの隣で花嫁衣裳を着ることに…。ん?なんかすごいイライラする。なんだこれは…?)

何かが芽生えた瞬間ではあるが、彼がこれの正体に気付くのはまだ先の話である。

Ending.4. パンドラを追う者たち

結婚式も終わり、ゲストたちはそれぞれ帰途につく。
ウリクル村へのそこそこ長い旅路を始めようかとしていたヴェルディに話しかける者がいた。グランである。

「今回の件は、世話になったな。」  

「ええ、こちらこそ。」

前日、酒場で会った時点で、互いにパンドラを追っていることは話してある。
それぞれ細かい事情までは話していないが、「まあ、それだけの事情があるのだろう。何せ、相手はパンドラだ。」とは何となく理解していた。

「もし、これからも、何かパンドラについて知れたことがあれば、連絡をください。」
「僕からも、ヴァレフールは手を出しづらいことですし。」

パンドラは国境など意に介さず活動をしているが、領主であるグランや、契約魔法師であるヴェルディはそう気軽に動くわけにもいかない。
そういう意味で、それぞれ別国に、同じ志を持つ相手がいる、というのは頼もしくもあった。

こうして、2人は別れ、それぞれの地に帰っていった。

Ending.5. 続・テイタニアの甘い日々

その夜、テイタニアの領主館。
インディゴの結婚を祝いに訪れたゲストたちも一通り帰途につき、いつも通りの静かな夜がかえってくる。

「アンジェー! 今日は私は疲れましたー。」

確かに、今日は朝から脅迫犯一味との戦いがあり、休む間もなく取り調べを済ませ、昼からはインディゴの結婚式だった。
ユーフィーは結婚式でもスピーチを担当していた。契約相手ということで、名目上は上司と言えなくもないが、自分の倍の年齢の相手の結婚式でスピーチをするのは気疲れもした。

「で す の で !」
「頑張った私に、ご褒美をください!」

そう言って、アンジェを見つめる。
「え、えーっと…」と少し狼狽えた後、アンジェはそっとユーフィーに手を伸ばし…

「えっと、これでいい…かな?」

ユーフィーの頭に手を置き、優しく撫でる。
その瞬間の表情は窺えなかったが、すぐにアンジェの方を真っすぐ見て、向日葵のように笑う。

「はい! アンジェのおかげで、明日からも頑張れそうです!」

Ending.6. 獣裁く一矢

ヴィルマ村に帰ったグランには、まだやらねばならぬことがあった。
ユーフィーの計らいで身柄を引き受けた旧友ワールのことである。

ヴィルマ村の外れ、ボルドヴァルド大森林にもほど近い、ちょっとした開けた場所。
そこに、ワールを連行する。
一言、別れの言葉を告げ、愛用の弓を引き絞る。
放たれた矢は、狙いたがわず、ワールの心臓に直撃する。

浮かび上がった混沌核に、聖印をかざし、浄化する。
この時点で、グランの聖印は、聖印だけならもうほとんど男爵級と言っていい規模に成長していたが、今はそのことよりも、別の感傷を、感じていた。

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最終更新:2019年05月03日 15:33