+ | プロフィール |
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基本的に明るい女の子。歌うことが好きで、音感が良く声域は広め。今でこそ明るい性格に見えるが、根は引っ込み思案であり、初対面の相手は基本的に名字で呼ぶ。
ある日見かけた路上ライブに引き込まれ、勢いのままにギターを購入する。その後、空き教室でギターを弾いている響先輩を見かけ、思いきって声をかけたのが軽音楽部設立のきっかけとなる。その時から響先輩は憧れの存在。 その後色々あって「部員を集めて本格的なバンドを組む」ことと「今の自分を変える」ことを目指し、色んな人に声をかけてメンバーを集めた結果が最初の本山高校軽音部。 自分たちの演奏が特別だとは思っていないが、誰かの力になれるなら嬉しいと思っている。青春系などの明るめの曲が好き。他の部員の選ぶ曲は新鮮であり、様々な曲に挑戦出来ることを楽しんでいる。
響先輩が卒業した後も部活を続けている理由は、みんなといられる時間や演奏が楽しいから。
周囲に複雑な事情を抱えた人が多いような気がするのは気のせいである。...多分。 |
+ | プロフィール |
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(出典:
つちの男子メーカー
)
元ヤン。中学時代は荒れており、日常の不安や不満をモノにぶつける日々が続いていた。だが高校で音楽に出会い、白秋の人生は変わった。バットをスティックに持ち替え、彼の感情表現は、衝動的な破壊でなく音の創造を通じて行われるようになった。 勧誘こそ半ば強引ではあったものの、自分にこの生き方を教えてくれたリーダーには感謝している。 もともと体育会系なので、上下関係はきっちりしている。先輩にはちゃんと敬語(敬意を込めてるかどうかは別として)。ただ、他人に強要するつもりはないので、後輩からタメで話しかけられても特に気にしない。
※第二話追記:初対面の相手に恐怖を感じさせる程度の強面らしい。髪は今は黒に戻しているが、毛先だけ名残で金色が残っている。軽音部のメンバーのことは名前で呼び捨てる傾向にある(ただし『先輩』は付ける)。
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+ | プロフィール |
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(出典:
神木特性メーカー
)
かつては無気力ぎみで、何事にもあまり関心を持たなかった。紬の誘いを受けたときも、すぐに飽きるものと思い、「人数合わせ」として引き受けた……が、自身の予想に反してハマり込んだため、以降は軽音部のベース担当として活動している。 本気で取り組めるものを掴み取った昂は、決してそれを手放さないとでも言うかのように、日々演奏技術を磨き続けている。
入部後しばらく経ってからは部活動以外についても積極的になり、人と関わる機会も多くなった。コミュニケーションがあまり得意でない点は変わっていないが、入部前と比較して言葉や感情も見せるようになりつつある。
行動力や適応力は意外と高く、部の雑務をあっさり片付けてしまうことも多い。丁寧な仕事ぶりは半次郎に気に入られるほどで、そのため「資金繰り」以降もライブハウス「Noise Blast」でのバイトを続けている。 |
+ | プロフィール |
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(出典:
GORILLA ART
)
幼少期から音楽に没頭し、日々の鍛錬に裏付けされた確かな技術を持つ。普段は学外でのバンド活動で評価を得ているものの、本山高校で見せる姿は別人のように暗く無口で、自分の思いを言葉で表現するのが苦手。周囲に対して心を閉ざしてしまっていた。しかし、あるとき海実の噂を聞いた紬から軽音部にスカウトされる。彼女の音楽に対する熱意に動かされ、当面のところはサポートメンバーとして、軽音部の世界に飛び込むことに。 そして、学校の中でも輝ける場所を求めていた本当の自分に気づき、正式に入部することとなった。元来おとなしく他人との距離感を掴むのが苦手だったためか、唐突に歯に衣着せぬ物言いをして先輩を困惑させることも。 |
+ | プロフィール |
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(トレス元のPicrew:
学生おんなのこメーカー
)
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+ | プロフィール |
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本山高校2年生。親が転勤族で幼い頃から転校を繰り返してきており、友達や思い出を作ってもすぐ忘れられてしまうという諦めから、そもそも人と関わろうという気力を無くしていた。ギターが趣味でプロ顔負けの演奏技術も持つが、上記の理由から軽音部に入る意味も無いと入部を避けていた。しかし、軽音部メンバーたちのアツい勧誘と演奏に心を打たれて入部し、現在は明るくギターを弾いている。心を開いていないうちは敬語を喋るが、素は色々な地方の方言がまじりあった(基本的には関西弁っぽい)喋り方である。白秋のことを特に気に入っており、よく「鼻眼鏡姿で忘れ物を届けに来た」ことを楽しそうにイジっている。
海実とは軽音部に入る以前から顔見知り。 顔が怖い人が苦手。 |
+ | 第1話「さまよえる豪腕」 |
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名古屋市千種区の中南部に位置する本山高校には「軽音部」が存在し、定期的に学内でライブ活動をおこなっている。現在の主力部員は、ボーカルの
唄代紬
、ドラムの
九白秋
、ベースの
音成昂
の三人のみ(いずれも二年生)であり、実際の演奏の際には、受験勉強の合間を縫って参加している3年生の
川島響
がギターを弾き、日頃は学外のバンドで活動する1年生の
香坂海実
がキーボードを担当している。
ある日、そんな彼等の部室に、漕艇部の先代部長である3年生の関翠が訪れた。関曰く、先月暴力事件を起こして停学となった2年生のカヤック選手である坪井新八が、停学明け後も部活に顔を出さず、部員達とも一切接触しようとしない日々が続いているらしい。坪井の親友である白秋は関に坪井の事情を調べるように頼まれ、部員達もそれに協力することになった(なお、関の実家が極道であることが彼等のモチベーションにつながっていたか否かは定かではない)。 だが、坪井の動向を調べようとする 白秋 ・ 紬 ・ 響 に対し、坪井は明確に拒絶の意思を示し、調査は難航を極める。そんな中、一ヶ月前の事件の際に坪井と抗争した他校の不良達の溜まり場を発見した 海実 は、彼等の会話から、喧嘩の原因が「 白秋 に恨みを持つ不良生徒が、彼への嫌がらせのために軽音楽部を襲撃しようとしたのを、坪井が力づくで止めたこと」にあった、という事実を知る。更にその後の 響 の調査で、その喧嘩の際に坪井は自分のパドルを壊してしまっていたことも明らかになった(なお、そのパドルは関からの贈り物であり、そして関が暴力を嫌っていることが、彼が漕艇部に戻れない最大の理由だったのだが、そこまでは誰も気付けなかった)。 坪井に再びボートへの情熱を取り戻させるために、次のライブに彼を誘うことを 白秋 は決意するが、円滑なライブ開催のためにはまず、次の中間テストで赤点を回避しなければならない。 昂 と 紬 が過去問回収に苦戦する中、 白秋 は(坪井と思しき謎の人物から)過去問を手に入れ、そして 昂 によって清掃された部室に皆で集まり、 海実 の叱咤激励を受けながら、どうにか彼等は無事にテストを乗り切り、ライブ当日を迎えることになる。 ライブ開催の直前、 響 は 白秋 に対し(坪井からは口止めされていたのだが)坪井が大切なパドルを 白秋 のために壊してしまったことを聞かされ、そのパドルの欠片を受け取った 白秋 は、あえてその欠片を握ったままライブ会場へと向かう。そして、彼等の思いを込めた楽曲「宙船」を聞かされた坪井は、その心を大きく揺り動かされ、漕艇部への復帰のために、新たなパドル購入に向けてバイトを始めることを決意する。一方で、坪井や 白秋 への再襲撃を計画していた他校の不良生徒達の陰謀は関の実家の構成員達によって阻止され、彼等は無事に平穏な青春の日々を取り戻すことになるのであった。 ![]() |
+ | 第2話「孤独なピック」 |
前回のライブの後、正式に
海実
が軽音部に加わることになり、
紬
達は彼女の歓迎会の準備に勤しんでいた。そんな中、
海実
は軽音部の部室の近くを通りかかった一人の「見覚えのある少女」の存在に気付く。彼女の名は、
若劫廉里
。
海実
の記憶が正しければ、彼女はかつて別の地域で開催されたアマチュア・バンドの音楽祭でギターを弾いていた筈である。
海実
からその話を聞かされた軽音部の面々は、今後、
響
が受験勉強で忙しくなった時のことも考えて、新たなギター奏者として彼女を勧誘しようと考える。
まず、最初に動いたのは 紬 であった。彼女は昼休みに 廉里 の所属クラスを探し当てるところまでは出来たものの、あと一歩のところで声をかけるタイミングを逃してしまう。一方、 海実 は学校の近くの河川敷で 廉里 がギターを練習している場面に遭遇し、軽音部の話を持ちかけてみたが、 廉里 は自分のギターが今はスランプ気味であることを理由に、入部を断ってしまう。 翌日、今度は 響 が出向いて勧誘してみたところ、 廉里 は親の仕事の都合でいつまた転校するか分からないため、長い時間一緒に活動することは出来ないと告げる。その上で、 廉里 が「どうせ自分が誰かと何かを為しても、すぐに忘れられてしまう」という絶望感から、他人との関わりを拒んでいることを理解した 響 は、失われた思い出もいつでも蘇らせることは出来るという旨を 廉里 に伝える。 なお、そんな 響 と前後して 白秋 も 廉里 の勧誘を試みていたのだが、初対面の時点で怖がられて失敗し、その後、印象を和らげるために激安の殿堂で購入した鼻眼鏡を付けて再勧誘を試みたものの、ドン引きされただけで終わってしまう。 白秋 は自分が勧誘役には向かないことを実感しつつ、ひとまずは( 昂 の日程調整により、次のライブの翌日に開催する前提でセッティングされた) 海実 の歓迎会のために、 紬 と一緒に菓子(きのこ、たけのこ、すぎのこ、etc.)を、 昂 と一緒にドリンクを購入することにした。 一方、そのことを知らない 海実 は次のライブに向けての練習に励んでいたが、皆と演奏を重ねていても、今ひとつ音の重厚感が足りないように思えてしまう。改めて「ツインギター」の必要性を実感した彼女達は、 廉里 に次のライブに来てもらうように立て続けに声をかけ、そして戸惑いながらもライブ会場に足を踏み入れた 廉里 は、彼女達の演奏する「春〜sprinig〜」を聞き、自分の中で鬱積していた何かが吹き飛んでいくことを実感し、入部を決意する。 こうして、翌日には 海実 と 廉里 の二人分の歓迎会が開催されることになり、本山高校軽音部は新たなスタートを切ることになるのであった。 ![]() |
+ | 第3話「指導者の資質」 |
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軽音部のアンプは元々安価な中古品だったこともあり、最近になって音質が徐々に劣化しつつあった。そんな中、漕艇部の坪井が
白秋
にアルバイトの話を持ちかける。坪井が働いている錦のライブハウス「Noise Blast」にて雑用係として働いていたアマチュアバンドの面々が上京することになり、急遽人手を募集することになったらしい。新しいアンプを購入するための資金を必要としていた軽音部の面々は、彼の誘いを受けることにする。
一方、軽音部の「名義上の顧問」を努めている桂木律子が教師を辞めるかもしれないという噂が、 海実 の耳に届く。桂木は 響 のクラス担任でもあるが、気弱な性格で、生徒からも舐められやすい教師であった。 海実 から話を聞いた 響 が本人に確認したところ、どうやら彼女は自分のその性格が教師には不向きだと思い悩んでいるらしい。だが、彼女はそんな悩みを抱えつつも、実は音楽全般に興味があり、若者向けの音楽雑誌も熟読していて、本音では軽音部の面々ともっと仲良くしたいと考えているということが、 海実 の調査で明らかになった。 その間に、一足早く錦のライブハウスへと到着した 昂 と 白秋 は会場の掃除と機材搬入を手早く済ませ、少し遅れて合流した女性陣は来場者の列整理へと向かう。その過程で、来客の中にいた「関帥組(関翠の実家の極道組織)」の構成員に 廉里 は恐怖を感じつつも、どうにか無事に案内を済ませ、そして六人はこの日の「前座」として舞台に立たせてもらえることになった。日頃は重厚なHard Rock/Heavy Metal系のバンドを見ている来客達にとって、 紬 の若く瑞々しい歌声は新鮮だったようで、彼等は概ね好評な反応を示す。 その後、一仕事終えた 白秋 が一旦店の外に出ると、道路の向かい側の雑居ビルに桂木が入って行くのを発見する。彼女をそのまま尾行した 白秋 は、その雑居ビル内のJAZZ BARで、桂木が日頃の彼女とはかけ離れた堂々とした様相で美しい歌声を響かせている姿を目の当たりにする。だが、途中で 白秋 の存在に気付いた彼女は露骨に動揺した様子を見せ、舞台を降りた後、店の裏口にて 白秋 に「このことは、なるべく広めないで欲しい」と告げつつ、逃げるように去って行った。 翌日、その話を聞いた 紬 が気になって桂木に話を聞いてみたところ、どうやら桂木はもともと歌手志望だったが、他人(特に知人)の顔を見ると過度に緊張する性格故に挫折し、今は「薄暗くて人の顔が見えにくい環境」でのみ、(あくまでも無給のアマチュア歌手として)歌声を披露しているらしい。 紬 は、自分もかつては彼女と同様に人前で歌を披露出来るような性格ではなかったことを告げた上で、今まであえて軽音部の活動には口出ししないように距離を取ってきた桂木に対し、次の学内ライブを見に来てほしいと伝える。 そしてライブ当日。直前の練習で 響 と 昂 の弦が切れるというアクシデントが起きつつも、 廉里 や 海実 のサポートもあって、万全の体制で望んだ彼等の奏でた楽曲「流星ロケット」は、会場の隅でこっそりと隠れるように聞いていた桂木の心の琴線を激しく揺れ動かし、彼女は今までの「弱気な自分」から少しずつ変わっていくために、まずは彼女達に対して顧問としてもっと積極的に向き合っていこうと決意するのであった。 ![]() |
+ | 第4話「守るべきもの」 |
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バイト先のライブハウス「Noise Blast」にて10月31日に開催されるハロウィン音楽祭(ドイツのHR/HMバンドHELLOWEENの楽曲を演奏する会)に本山高校軽音部も参加することになった。その準備に勤しむ中、
紬
はライブハウスの入口付近に、最近近所の老夫婦の家に引き取られた少女・山口淳子がいるのを発見する。彼女は店長の甲斐半次郎に会いたがっている様子だったのだが、
紬
から彼との関係を尋ねられた淳子は、困った表情を浮かべつつ、その場から走り去ってしまう。
響が店長に事情を確認してみたところ、どうやら淳子は彼の別れた前妻との子供らしい。そして、離婚の際に店長は「淳子とはもう二度と会わない」という約束を前妻との間で交わしているという話を、 紬 は淳子本人から聞くことになる。だが、先日、淳子の母とその再婚相手が交通事故に遭って入院中で、彼女は現在、義理の父の実家で一人寂しい想いをしているため、せめて一目だけでも「本当の父」に会いたいと思い、ピアノ教室の帰りに店まで足を運んでしまったらしい。事情を知った 紬 は淳子を少しでも励まそうと、彼女と友達になることを約束する。 一方、 白秋 はライブハウスの関係者達の会話から、離婚に至る真相を知る。どうやら数年前、スタッフの資金持ち逃げによって店の経営が危機的状況に陥ったことがあり、店長はその状況を打開するために闇金に手を出した結果、妻子にまで危害が及ぶ可能性が発生したため、彼女達と縁を切ることを決意したらしい。その後、 白秋 が店長に直接話を聞いたところ、最終的にその状況から店を救ってくれたのは、ロック好きの関帥組の若頭(現在は「お勤め中」)であり、今はその若頭の妹が店長の妻となっている、とのことであった。その上で店長は、自分が父と名乗って淳子に会う訳にはいかないものの、今の彼女が寂しい想いをしているのなら、ぜひ客として彼女を「ハロウィン音楽祭」に連れて来てほしいと 白秋 に告げる。 そして音楽祭当日、 紬 は淳子にかつて自分が着ていた服を貸し与えた上で店に招待し、店長からの信頼厚い 昂 が 廉里 の手を借りて店内の飾り付けを進める一方で、 響 と 白秋 はアトラクション用のワイヤーの設置に協力する。そして来場者達が客席に集まり始めると、 海実 は 白秋 と共に来場者への前説&影ナレを担当することになり、彼等は来客の中に「コスプレ状態でほろ酔い気味の桂木」がいることに気付くが、あえて触れずに粛々と注意事項を説明し終える。 やがて彼等の演奏順が回ってくると、六人は思い思いの仮装を施して舞台に上がる。ナース服を着た 響 は投げキッスをしながら観客を煽り、その隣で 廉里 は魔女服を着た状態で魔法をかける仕草を示し、その二人のツインギターが響き渡る中、吸血鬼の姿を模した 昂 はバサッと手を広げ、その奥から血糊で特殊メイクを施した 海実 が周囲を鮮血に染め、その隣でペニーワイズの姿を模した 白秋 がドラムロールを奏でながら「Hi! George!」と叫ぶ。そして犬耳カチューシャを付けた 紬 が獣のポーズを見せながらHELLOWEENの代表曲の一つである「Eagle Fly Free」を歌い始めると、観客者達は小刻みに首を振りながら大いに湧き上がった。 そんな彼等の演奏を聞きながら、店長はどこか吹っ切れた様子で「オペラ座の怪人」の仮装をした状態で空中からのワイヤーアクションで観客を驚かせつつ、淳子を片手で抱え上げる。彼女は驚きつつも、懐かしいその腕の感触に歓喜し、そして六人の演奏が終わったところで、店長は怪人の仮面を外して淳子を客席へと戻しつつ、今度は自分がステージに上って、古参のバンドメンバー達を従えて 「I’m Alive」 を熱唱する。こうして大盛況のうちに音楽祭は終了し、 紬 と 響 は(盛り上がりすぎて泥酔状態になった)桂木を家まで送り届けることになるのであった。 その後、店長は現妻および前妻とも話し合った上で「前妻達が退院するまで、淳子の方から会いに来た時には受け入れる」という形で合意する。そして、部員達の前で醜態を晒してしまったことでどこか吹っ切れた様子の桂木は、持ち前の絶対音感を生かしてギターの調弦に協力するなど、以前よりも積極的に部活に関わろうとしていくのであった。 ![]() |
+ | 第5話「飛べない翼」 |
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ライブハウスでのアルバイトで最新のアンプを買う資金を手に入れた軽音部の面々は、本山近辺に店舗を構える「矢倉楽器」へと赴く。すると、そこでは店長の息子である矢倉勉(やぐら・つとむ)と、その遠縁の親戚である矢倉一樹(やぐら・かずき)が、何やら口論をしていた。
二人はいずれも本山高校の二年生で、勉は学年一の秀才として、一樹は自転車部のエースとして知られており、勉が設計した人力飛行機を一樹が操縦する形で「鳥人間コンテスト」へと出場することを公言していたのだが、今年の大会は台風の影響で中止となってしまった。その上で、一樹は来年の大会への出場を目指しているのに対し、勉は「もう気持ちが冷めた」と言って協力を拒否しており、そのことに納得出来ない一樹が、実家の楽器屋で店番中の勉の元に抗議に来ていたのである。 一樹は軽音部のライブに毎回参加するほどの彼等のファンでもあったため、軽音部の面々の邪魔をしては悪いと思って一旦その場は退き、ひとまず店の外で彼等の買い物が終わるのを待つ。その間に、彼等はアンプを購入する過程で勉から事情を聞くことにした。 勉は前回大会の中止後に改めて機体を確認した際に、整備ミスで部品の一つが破損していたことに気付き、一歩間違えば大事故になっていたかもしれないという恐怖心から、自作の機体に自信が持てなくなってしまったらしい。しかし、そのことを勉に話したところで「次から気をつければいい」と言うに決まってると考えた勉は、あえて「冷めた」という理由でごまかして縁を切ろうとしているのだが、そんな彼に対して 響 は「ちゃんと話し合った方がいい」と助言する。 一方、店の外で待っている一樹が「通りすがりのアスリート風の青年」と会話を交わしている様子を窓越しに発見した 昂 が、そのことについて勉に尋ねたところ、どうやらその青年は自転車部の部長らしい。彼は一樹のことを非常に高く評価しており、出来れば一樹には自転車競技に専念してほしいと考えているが、勉が「一樹には絶対に怪我をさせない」と約束することで、鳥人間コンテストへの参加を認めてくれた。だからこそ、勉はその約束を守れる自信が無くなってしまったことで、このまま活動を続けるべきではない、と考えたらしい。 また、もし仮に勉の整備ミスの結果として事故が起きたとしても、一樹は性格上、それは絶対に「自分の運転のミス」だと言い張るに決まっている、と勉は 海実 に語る。勉としてはそれが余計に辛いからこそ、自分から身を退くことにしたらしい(なお、この一連の会話の間に、 白秋 は店の近くで一樹の噂話をしていた女子高生達の後を付けて、何か手掛かりを得ようとしたが、特に有益な情報は得られなかった)。 その後も、 紬 は店に残って勉から更なる事情を聞き出そうとするも成果は得られず、その間に 廉里 と 海実 は購入したアンプを学校へと運ぼうとするが、女子だけで重そうな(実際にはそれほど重くもない)荷物を運ぼうとしている彼女達を目の当たりにした一樹は(勉に話の続きをするつもりだったのを一旦忘れて)彼女達の手伝いを申し出て、自らアンプを担いで一緒に学校へと向かうことにした。 一樹はその道中において、親戚にして親友でもある勉の自慢話を彼女達に延々と語り続ける。勉は中学時代にアメリカの有名な工科大学から奨学金付き留学の誘いが来る程の秀才だったが、「一樹と一緒に鳥人間コンテストに出て、史上初の高校生優勝を果たす」という目標のために日本に残り、一樹と同じ高校に進学する道を選んだ。故に、一樹としては、勉の「気持ちが冷めただけ」という説明にはどうしても納得出来ず、自分が何か彼を怒らせるようなことをしたのではないか、と考えているらしい。 そして、アンプを部室へと運び終えて家に帰ろうとしたところで、 海実 は生徒達の噂話を耳にする。どうやら勉の父親が経営する「矢倉楽器」は、一樹の父親が経営する総合商社からの資金援助によって成り立っており、親族とは言っても家格的な意味では両者の間には明確な序列があるらしい。また、一樹の父は息子の道楽に対して寛容ではあるものの、母は鳥人間コンテストへの出場には反対しているようなので、おそらく、勉が一樹に怪我をさせることを極度に恐れているのは、そういった事情も関係しているのだろう、と 海実 は推察する。 翌日の朝。改めて情報を集めようとした 白秋 は、今年開催される予定だった鳥人間コンテストに(一樹の応援のために)足を運んだ一樹の友人達に話を聞くことにした。彼等曰く、大会が中止になった後、一樹は憂さ晴らしのために友人達と共に琵琶湖の湖水浴場に遊びに行き、そこで水泳中に足をつって溺れかけたことがあったらしい。一樹は救助された後で「準備運動を忘れてた」と笑っていたが、その様子を目の当たりにした勉は(おそらくは飛行機が墜落した場合のことを想定して)青ざめていた、とのことである。 そして、この日の授業が終わった後、勉は 響 からの助言通りに、一樹に対して正直に今の自分の心境を伝えた上で、改めてコンビ解消を申し出る。その上で、勉は一樹に「以前から一樹をスカウトしようとしている社会人チーム」に参加するように提案するが、一樹はあくまでも「お前と一緒に優勝しなきゃ意味がない」と言って、その申し出を拒絶する。その場面に偶然出くわしてしまった 昂 は、どう声をかければ良いのか分からず立ち尽くすが、そんな彼に対して勉は「一樹がしつこく誘うから、次のライブは聞きに行く」と告げる。 その頃、 紬 は部室で新しいアンプの配線に苦戦していた(新型のアンプは接続端子がこれまでの中古のアンプとは異なっていた)が、 響 がよく分からないまま適当に繋げた結果、なぜか一発で配線が成功する。その後、 廉里 が音量を調整しようと試しにギターを奏でてみた結果、これまたなぜか調整の必要がない程にベストの音量が響き渡った。どうやら 白秋 が最初に適当に設定していた音量が、たまたま「正解」だったらしい。そんな幸運に恵まれつつ、理想の演奏環境を手に入れた上で 紬 は順調に練習をこなし、そしてライブ当日を迎えることになる。 一樹に引っ張っられるようにライブ会場に足を運んだ勉は、当初はあまり乗り気ではなさそうな表情だった。彼はもともと楽器屋の息子なので、当然、軽音楽には子供の頃から馴染みがあるが、逆に聞き慣れ過ぎていて、今更高校生の演奏など聞いたところで特に面白味もないと思っていたのだろう。だが、実際に目の前で自分と同世代の面々が全力で楽しそうに歌い、演奏している姿に触発された勉は、自分の中で諦めようとしていた夢への渇望が、再び抑えられなくなっていくのを自覚する。 勉はライブ終了後、一樹に改めて来年の大会への出場を申し出て、二人は再び彼等自身の夢のための新たな一歩を踏み出す決意を固めるのであった。 ![]() |
+ | 第6話「先駆者への言葉」 |
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時は流れて、二月末。まもなく三年生が卒業する季節となった頃、軽音部の面々は六人体制での最後のライブに向けて「卒業の唄〜アリガトウは何度も言わせて〜」を練習していた。そんな中、桂木はその楽曲を合唱用にアレンジして卒業式の際に在校生有志で披露するという演出を思いつき、
昂
に頼んで軽音部の一・二年生を集めてもらった上で、彼等にその旨を提案する。その方針に賛同した
白秋
はラーメン屋で坪井を勧誘し、他にも軽音部に縁のある面々が集まった上で、ピアノ担当の
海実
が指導する形で、密かに合唱練習がおこなわれることになった。
一方、 響 の後を継いで生徒会長となった相沢桃香(あいざわ・ももか)は、卒業式が近付くにつれて、物憂げな表情を浮かべるようになっていた。 紬 が彼女に声をかけて話を聞いてみたところ、どうやら相沢は(生徒手帳にスナップ写真を入れる程の)「憧れの存在」であった 響 が卒業することへの喪失感が強すぎて、当日きちんと送辞を読めるか不安になっているらしい。 紬 から「憧れと依存は違うよ」と言われた相沢は、自分の精神的な未熟さを改めて痛感する。 その日の夕方、 廉里 は相沢が矢倉楽器の店頭に展示されている楽器を見ながら溜息をついている場面に遭遇する。実は相沢は、 響 と同じ軽音部に入りたいという思いはあったものの、リズム感が悪すぎるため、 響 の前で醜態を晒したくない、という理由で諦めていたらしい。 廉里 からは「先輩はそんなこと気にしないと思う」と言われるが、相沢もそのことは分かっていた。その上で、プライドが邪魔して軽音部から逃げてしまった自分を恥じていたのである。 翌日、昼休みに 響 と遭遇した相沢は、自分の中に鬱積していた 響 への劣等感を吐露する。それに対して 響 は「自分の真似をする必要はない」と告げた上で、相沢にも相沢の良いところがあると諭すが、今の相沢にとっては、そこまで 響 に気を遣わせてしまったことへの罪悪感の方が強かった。そして、授業後に今度は 海実 と遭遇した相沢は、 響 に心配させることなく笑顔で送り出したいという想いを述懐した上で、自分も桂木発案の合唱企画に参加する旨を告げる。 その上で、下校直前に 紬 と顔を合わせた相沢は、今まで 紬 に対してずっと「自分よりも先輩から可愛がられていること」への嫉妬心を抱いていたことを告白すると、 紬 も 紬 で、生徒会でいつも 響 と一緒にいた相沢のことを羨ましく思っていたことを告げる。互いに本音をぶつけ合ったことで 紬 との心の距離が縮まったことを感じた相沢は、軽音部員としての 響 の最後の勇姿を見届けるために、今まで(会場の入口までは足を運びながらも)観覧を躊躇していた彼女達のライブに参加すると宣言する。 そして卒業式の前日。 響 は、相沢が教員から「 白秋 への届け物」を渡されて困っている場面に遭遇する。どうやら相沢は「大柄で強面の男性」が苦手なようで、 白秋 に会いに行くのが怖いらしい。それでも、 響 に頼らず自分一人でどうにかしようとする相沢だったが、明らかに身体が震えていることを察した 響 は、彼女と一緒に 白秋 の教室へと同行した上で、相沢の目の前で 白秋 を茶化してからかうことで、彼が決して怖い人間ではないことを 響 に伝えると、 響 はその旨を理解しつつ、外見を気にせず誰とでも仲良く出来る 響 への尊敬の念をより一層強く抱くようになる。 その後、最後のライブの直前練習において、 響 は 白秋 からの「( 廉里 の勧誘の際に使った)鼻眼鏡を用いた記念撮影」に応じつつ、ツインギターの相方となって部活に新しい風を吹き込んでくれた 廉里 にも感謝する一方で、いつも冷静に一歩引いた立ち場から皆を助けてくれている 昂 には「これから入ってくる新入生へのフォロー」の役割を託した上で、最後のステージに立つことになる。 紬 との約束通りに最前列に陣取った相沢の目の前で、 紬 は今回の選曲に至った想いを告げた上で「卒業の唄〜アリガトウは何度も言わせて〜」を歌い上げると、相沢は終盤では涙を流しつつも、 紬 が歌い終えた時にはその涙を拭って、笑顔で 響 を見つめていた。そして翌日の卒業式では、相沢が送辞を読み終えたと同時に、桂木の指揮、 海実 のピアノ伴奏に乗せる形で、在校生有志一同による同曲の合唱アレンジバージョンが披露され、 紬 と相沢は二人並んだ状態で 響 への想いを歌に乗せながら、笑顔で三年生達を送り出すのであった。 ![]() |
+ | 第7話「出会いの季節」 |
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響
達の卒業式から数週間後、本山高校にて来年度の入学予定者向けの説明会が開催されることになり、様々な部活の面々が新勧活動に勤しんでいた。そんな中、軽音部による簡易ステージの演奏を聞いていた一年生達の中で、特に熱心な関心を示していたのが、竜崎元(りゅうざき・はじめ)、涼風恵子(すずかぜ・けいこ)、ニルス・ヨハンソンの3人であった。
この三人のうち、 白秋 は竜崎に見覚えがあった。半年前に錦のJAZZ BARで桂木を発見した時、ピアノ演奏をしていた少年に酷似していたのである。簡易演奏会の後に、そのまま部室まで見学に来た竜崎に対して 白秋 が話を聞いたところ、どうやら 白秋 の記憶は正しかったようで、竜崎は以前はピアノ奏者であったが、今は指の腱を痛めてしまってピアノが弾けなくなり、打楽器奏者へと転向しようと考えているらしい。なお、桂木がこの部の顧問であることは知らなかったようで、彼女が部室に現れた際には互いに驚いた様子であった。 その後、下校途中に 紬 と一緒になった 白秋 は、その竜崎が他校の不良生徒達に絡まれている場面に遭遇する。よく見ると、彼等はかつて(第1話で)軽音部を襲撃しようとした者達であった。どうやら(これまで彼等に睨みを聞かせていた)関の卒業によって、再び悪事を働こうとしていたらしいが、 白秋 が一喝したことで、すぐに退散する。竜崎自身もまたそんな 白秋 の迫力に怯えつつ、彼に深く感謝するが、 白秋 と 紬 は色々な意味で前途多難な予感を覚える。 一方、 海実 はニルスのことを知っていた。以前、とあるライブハウスでセミプロバンドのサポートギタリストとして彼がステージに立っているのを見ていたのである。そんな 海実 は学校帰りに大型珈琲チェーン店でそのニルスと遭遇するが、この時、彼が奇妙な楽器収納ケースを手にしているのに気付く。 海実 がその中身を聞くと、そこに収納されていたのは三味線であった。彼はスウェーデン出身だが、父方の祖母が日本人で、子供の頃に聞いた津軽三味線に憧れて日本に来たものの、入門先の家元とは流儀が合わずに破門され、今は生活費を稼ぐアルバイトとしてギターやベースも弾いているらしい(なお、彼は新一年生だが、年齢的には三年生と同世代であった)。 その後、 海実 は帰宅途中で 廉里 と合流する。 廉里 はこの春から親元を離れて高校の近くの学生向け1ルーム賃貸住宅に住むことになったのだが、その建物の近くに来たところで、引越し業者のトラックから、豪華な家具が大量に運び込まれようとしている場面に遭遇する。その業者の雇い主はもう一人の新入生の恵子であった( 廉里 は前にこのアパートの下見に来た時にも、彼女らしき後ろ姿を目撃していた)。どうやら彼女もまたこのアパートに引っ越そうとしているらしいが、どう見ても彼女の部屋には収納しきれない量だったため、余った家具は(なぜか) 海実 が引き取ることにした。 その上で、 海実 が恵子から話を聞いたところ、どうやら恵子はこの3月まで(「お嬢様学校」として知られる)城金女学院の中等部に通っていたが、ハロウィン音楽祭で 廉里 や 海実 達の演奏を聞いて感銘を受け、家族の反対を押し切って内部進学の権利を捨て、本山高校を一般受験したらしい。だが、当然のことながら家族は猛反対したため、彼女は実家を出て、この地で一人暮らしをすることになったようである。なお、恵子は子供の頃からヴァイオリンを習っていたが、軽音楽に関しては全く素人らしい。 更に 廉里 が詳しい事情を聞くと、恵子には「優秀すぎる姉」がいて、ヴァイオリンに関しては高校生にして国際音楽祭に出場する程の腕前らしい。そんな姉と比較されるのが嫌だったからこそ、どこか他の高校に進学したいというのが、彼女の家出の根本的要因であった。一応、相続税対策で彼女名義となっていた資産は使える立場にあるため、生活費には困っていないらしいが、令嬢育ちの恵子はこれまで家事など一切やったことがなく、彼女の生活力に不安を感じた 廉里 は、ひとまずこの日の恵子の分まで食事を作ることにした。 翌日、 白秋 は部室の近くで竜崎が桂木と話している場面に遭遇する。桂木は竜崎がピアノを弾かなくなった理由を聞こうとしているようだが、竜崎は明らかに訳アリの表情を浮かべながら彼女の前から走り去る。しかし、そこで 白秋 と遭遇した彼は、絶対に他言はしないという約束の上で「実は右手を怪我したのは『桂木に可愛がられている自分』に嫉妬したBARの常連客(桂木のファン)に殴られたことが原因」だと告げる。竜崎は、このことを桂木が知ると気が病むという判断から、絶対に彼女には知られてはいけないと考えているらしい。 白秋 は釈然としない思いを抱きつつも、ひとまず彼にドラムの叩き方と身体の鍛え方を教えることを約束する。 一方、 昂 は通学途中に突然降り出した通り雨を避けるために駆け込んだ建物の軒下で、ニルスと遭遇する。 昂 は、前日の帰宅途中の際にもニルスの姿を発見したが、その時は途中で姿を見失ってしまっていたため、この機に彼から話を聞くことにした。ニルス曰く、彼はギターもベースもそれなりに経験はあるものの、三味線ほど真剣に取り組んでいた訳ではないため腕前も中途半端で、雇われ先のバンドでも「長身の外国人青年」という見た目を買われているだけで、実際にはエアプレイをさせられていたらしい。 そんな状況に嫌気が差していたニルスに対して、バンド活動を通じて知り合った甲斐(「NOISE BLAST」店長)が本山高校への進学と軽音部への入部を勧めたらしい。ニルスはそんな自分の中途半端な動機を恥じているようだったが、 昂 はそんな彼の入部を歓迎する姿勢を示し、そして学校で合流した 紬 もまた「誰だって最初は原石なんだから」と諭した上で、彼自身が望んでいた三味線を極めるという道を歩みつつ、ギターやベースにも興味があれば軽音部で好きなだけ練習してくれればいい、という旨を伝える。 そして、改めて三人の入部希望者達を集めた 紬 達は、彼等を歓迎するための演奏会を開催する。 響 卒業後の初公演ということで、ギター1人でも演奏可能な楽曲である「Diamonds」を選んだ彼女達であったが、やはり精神的支柱であった 響 不在の影響は大きかったようで、序盤から 海実 がイントロのタイミングをあやうく間違えそうになり、 白秋 と 昂 の刻むリズムもこれまでに比べてキレを欠き、2番のサビでは 紬 が歌詞を間違え、後奏では 廉里 のテンポがズレるなど、全体的に不安定な演奏となってしまったものの、最後は 紬 自身が見事な汚名返上となるアウトロコーラスで会場の雰囲気を立て直す。そんな彼等の演奏に心を打たれた三人は、それぞれの心のわだかまりを捨てた上で、揃って晴れやかな気分で正式に入部申請し、ここに新生軽音部がスタートすることになった。 ![]() |
+ | 第8話「千紫万紅」 |
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新年度が始まり、新入部員達も部活に馴染み始めた頃、一人の客人が軽音部の部室を訪れた。彼女の名は稘四季(ひととせ・しき)。桂木の友人が顧問を務める「八事高校」の軽音部に所属する3年生で、ボーカルを担当している少女である。
彼女は日頃、同じ軽音部の向井一路葉(むかい・いろは/2年/ギター/リーダー)と観月栞(みづき・しおり/2年/ドラム)に、箏曲部からの助っ人であるの三神舞(みかみ・まい/3年/尺八)を加えた四人編成の和装ガールズバンド「百花繚乱」として様々なライブハウスで活動しており、以前に 海実 が彼女達のサポート役として共演したこともある。今回はそんな彼女からの提案により、両校の軽音部による「対バン企画」が開催されることになった。 その日の夕刻、偶然にも 白秋 は八事の油そばチェーン店にて、その四季と遭遇する。互いに所持するポイントカードがほぼ同格( 白秋 の方が若干上)であることを確認した二人は、なんとなく意気投合して会話を弾ませつつ、四季は自分が「あまり深く物事を考えずに行動するタイプ」であり、そのために度々周囲に迷惑をかけることも多い、という悩みをこぼす。そんな彼女に対して、 白秋 は自分もまた彼女と同じような気質であることを告げ、互いに親近感を覚える。 その後、八事のゲームセンターにて、今度は 紬 が四季を発見する。四季はバンド内ではボーカル担当の筈だが、ここではドラムを模したリズムゲームをプレイしていた。 紬 が話を聞いてみたところ、どうやら四季は本音では色々な楽器に挑戦してみたいのだが、両親がバンド活動に反対している都合上、家に楽器を置くことが出来ないため、「楽器が無くても練習出来る」という理由で、ボーカリストとしての道を選ぶことにしたらしい。 そして、一通り遊び終えて店を出た四季は、八事の交差点で旧知の 海実 と再会する。四季は、 海実 が八事高校の生徒だったら部員に欲しかったとボヤきつつ、本山軽音部の部外協力者から正規部員へと転じた 海実 が、元からいた部員達と仲良くやれているか、と尋ねた。どうやら四季は、箏曲部の三神との距離感に悩んでいるらしい。それに対して 海実 から「先輩の方から積極的に接してきてくれたから、自然に溶け込めている」と言われた四季は、同様にもっと積極的に自分から関わっていくべきかと考え始める。 一方、 昂 と 廉里 は次のライブに向けての「和風のステージ衣装」の調達のために大須へと向かい、二次元界隈のコスプレショップで程良い衣装を購入していた。更に、 廉里 はその後で 紬 と合流して和装用のメイク道具を買いに行くが、入った店の商品が(イメージにはピッタリ合致していたものの)一回だけのライブのために購入するにはあまりにも高価すぎたため、諦めてこの日は二人でタピオカを飲んで帰宅する。 後日、改めて大須に五人で買い物に行った彼等は、 廉里 と 海実 がセール品で安くなっていた紅と白粉を購入し(そのついでに、鯛焼き屋にも寄り)、その間に 昂 と 紬 はライブ中の演出用に使えそうな小道具として、扇、髪飾り、狐面などを手に入れる。 一方、 白秋 は大須の油そばチェーン店(この日はポイント二倍デー)に足を運んだところで、再び四季と再会する。四季は、自分の口調と態度が原因で周囲の人々から「不機嫌そう」という誤解を受けやすいという悩みを抱えていることを述懐し、 白秋 は(大量の白胡麻を油そばに振りかけながら)そんな彼女の境遇に同情しつつも、どこか自分と似た空気を感じ取っていた。 その後、食べ終えた四季が人混みに揉まれながら帰宅しようとしたところで、 白秋 と合流しようとしていた 紬 が、彼女を発見して声をかける。四季は、自分が小柄であるためにステージ上で迫力あるパフォーマンスが出来ないことに劣等感を感じていたが、そんな自分を群衆の中から発見出来た 紬 の眼力に「ステージ上で観客の様子を読み取ることが出来るフロントメンバーとしての才能」を見出す。一方で 紬 は、ボーカルが小柄であることは「後ろのメンバー達を霞ませない」という意味で利点もあることを告げた上で、群衆の中でも四季を発見出来たのは、彼女に「小柄ながらも人々の中で埋もれない存在感」があることの証明であると伝える。 結局、そのまま四季はなし崩し的に 紬 と共に本山高校の面々と合流することになり、今回の対バン企画のために、自分達に合わせて和系ロックの曲を練習し、本格的な和装まで用意してくれた彼女達に、改めて感謝する。そんな会話の流れの中で、四季は自分の日頃の私服(ポップ系)と聞いている音楽(ハード系)が合ってないのは、音楽の方に服を合わせると周囲がドン引きするから、と自虐的に語るが、そんな彼女に対して 海実 は、自分の好きなことを好きなようにやればいいのではないか、と告げる。 こうして、四季との親睦を深めつつ準備を整えた彼等は、六人目のメンバーとしてニルスを加えた編成で、ライブ当日を迎えることになる。奏でる楽曲は「醒(めざめ)」。本来はツインギターと前提の楽曲であり、ニルスに二人目のギターを任せることも可能であったが、今回は対バン相手に和楽器(尺八)担当者がいることもあり、あえて「 廉里 のギターと二ルスの三味線」による擬似ツインギターで臨んだ結果、その斬新な音色に観客席は大いに盛り上がる。 そして、舞台袖で聞いていた四季もまた、彼等の演奏を聞いて心の中に鬱積していた諸々を吹き飛ばされたような心持ちとなり、心身共に最高のコンディションのまま彼等の後を受けて、持ち歌である 「甲賀忍法帖」 を披露して、会場の興奮は最高潮に達する。こうして、彼女達にとって互いに初めての対バン企画は、大盛況のまま幕を閉じることになるのであった。 ![]() |
+ | 第9話「剣と魔法の物語」 |
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新年度が始まってから一ヶ月ほど経過し、皆が新しいクラスに馴染み始めた頃、
昂
の隣の席に座る南條里菜(なんじょう・りな)が、
昂
に「TRPGって知ってる?」と訪ねてきた。彼女は漫画・アニメ・ゲームなどの愛好家で、現在はTRPG同好会設立を目指しており、そのためにまず、学内でも人気者(彼女個人の見解)である軽音部の面々にその楽しさを布教しようと考えたらしい。
折しも軽音部の面々はファンタジーRPG風の楽曲であるRhapsdyの「Emerald Sword」を練習中だったこともあり(そういった世界観に馴染むことは楽曲の表現力向上にも繋がるのではないか、という桂木の後押しもあり)、南條の提案に乗って、週末に彼女のGMによる「グランクレストRPG」を遊んでみることになった。 なお、 昂 が担任の先生から聞いた話によると、南條は中学時代にバンド活動をしていた同級生達との間でトラブルがあり、「その手の人々」に対して苦手意識があったらしい。南條曰く、 昂 のような「自分に近い属性の人(彼女個人の見解)」が入っている時点で、本山の軽音部は、自分が中学時代に毛嫌いしていたような「チャラくてウザい連中」とは違う人々であると考えるようになったらしいが、それでも心のどこかではまだ少し警戒心を抱いているようにも見えた。 一方、 海実 は昼休みに南條が校舎の片隅で一人で弁当を食べている場面に遭遇する。南條は、いつも「自分の好きなこと」を周囲の人々に対して全力で布教しようとするあまり、ドン引きされて距離を置かれることが多く、なかなかクラスでも友達が出来ない(そして、TRPGは仲間がいないと成立しない)ことに、少し悩んでいるらしい。 やがて週末が訪れると、五人は約束通りに「北区青年の家」へと赴き、南條と合流する。( 廉里 が一番聞きやすい位置に座った配置で)南條から「グランクレストRPG」の解説を聞いた上で、「Emerald Sword」をモチーフに南條が(授業中に)作ったハンドアウトに基づいて役割分担について話し合った結果、全体のまとめ役となるPC①を 紬 、その補佐役となるPC②を 昂 、アウトロー寄りの武人枠であるPC③を 海実 、人外枠であるPC④を(「神ってカッケぇ!」という理由で) 白秋 、そしてフリー枠のPC⑤を 廉里 が担当することに決まった。
ところが、ここで唐突に一人の女性が会場に現れる。彼女の名は、涼風令子。城金女学院高校の3年生であり、本山軽音部の涼風恵子の姉である。令子は南條の学外でのTRPG仲間で、今日は南條が令子のダブルクロスのキャラメイク(フルスクラッチ)を手伝う予定だったのだが、うっかり忘れてダブルブッキングしてしまっていたらしい。怒る令子に対して、南條は令子も「6人目のプレイヤー」として加えて一緒遊ぶことを提案する。この場にいる面々が妹の部活の先輩達であることを知った令子は動揺しつつも、彼等と共にキャラメイクを始めることにした。
南條の説明を聞きながらライフパス選択を始めた 白秋 は(学校で説明を聞いた時には訳が分からずに戸惑っていたが)、徐々にTRPGの魅力を理解し始める。このTRPG特有の「実際にやらないと面白さが分からない」という点が、南條にとって最も悩ましい問題だった。そして、令子もまた自分がTRPGをやっていることを友人や家族には話せずにいるらしい、ということを 廉里 は察する。一方、令子と南條の様子を観察していた 海実 は、令子は南條との関係性をもう少し親密にしたいと思いながらも、なかなかその距離を縮められずにいる、ということに気付く。 そんな中、令子は 紬 に対して「妹が迷惑をかけていないか?」と問いかける。どうやら彼女は、家を出た恵子のことが気掛かりで、何度も電話やメールをしているものの、なかなか返事も返してもらえていない状態らしい。 紬 は( 廉里 が毎日恵子の食事を作っていることは知らないので)何も迷惑などかけられていないと告げた上で、令子を次のライブに(恵子が間奏部分のヴァイオリン担当として参加する予定なので)招待することにした。 その上で、 昂 を中心として各自のキャラメイクを終えた面々は、それぞれに自分のPCの自己紹介を始める。各自の担当スタイルは、 紬 がセイバー、 昂 がサモナー、 海実 がシャドウ、 白秋 が神格、 廉里 がアームズ、そして令子が(全体的に攻撃職寄りの構成になっていると判断したため)アンデッドを選択し、ようやくセッションの準備が整ったが、残念ながらこの時点で会場の使用時間が終わってしまったため、実プレイに関してはまた後日、ということになった。
それから数日後、ライブ当日を迎えた彼等は、(事前に
廉里
から、姉が聞きに来るという話を聞かされていた)恵子のヴァイオリンの音色を絡めたイントロから、「Emerald Sword」を奏で始める。序盤はやや音の迫力に欠ける演奏となってしまったパートもあったが、徐々に組み上げられていくヒロイックな雰囲気が南條と令子の心を包んでいき、演奏が終わる頃には、すっかり二人とも楽曲世界の虜となっていた。
僅か一年でここまでの部活を作り上げた彼等に感銘を受けた南條は、改めてTRPG同好会設立に向けての決意を固め、そして令子は、彼等の演奏を聞いて心が動かされたという恵子の心情をようやく理解した上で、「妹をよろしくお願いします」と言い残して、会場を後にするのであった。 ![]() |
+ | 第10話「幼馴染の事情」 |
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まもなく大須商店街で開催されるメキシコシティ(名古屋市の姉妹都市の一つ)との交流キャンペーンの一環として、大須に店舗を構える海鮮タコス屋の発案で「ラテン音楽祭」が企画されることになった。本山高校軽音部の面々も、ラテン楽器を使ったJ-POPである「∞ Changing ∞」を披露することが決定し、
白秋
がコンガ、竜崎がティンパニを担当した上で、助っ人として(楽器屋の息子故に一通りの楽器経験のある)矢倉勉がボンゴを、(勉曰く「リズム感」だけは良い)矢倉一樹がマラカスを担当するという、今回限りの特殊編成で挑むことになった(なお、恵子とニルスはビラ配りという形で協力することにした)。
そして、交流キャンペーンの期間中は様々な店舗を回るスタンプラリーが開催されていることもあり、まずは 廉里 の案内で、音楽祭の発起人である海鮮タコス屋へと向かうことになった。この店の女主人の息子である藤崎アントーニョが 廉里 と同じクラス(しかも隣の席)であった縁から軽音部の面々が招待された訳だが、皆の注文を聞いている時の藤崎の様子が、どこかおかしいことに皆は気付く。そして、うっかり藤崎が落としたスマホの画面に、彼の父と思しき人物からの不穏なメッセージが表示されていることに 白秋 が気付くと、気まずい雰囲気の中、藤崎は「余計な憶測が広がるよりは、全て話してしまった方がマシだろう」と開き直って、自身の身の上を語り始める。 藤崎は日本人の母と二人きりの母子家庭で育った身だが、実は彼の父親はメキシカン・マフィアのボスであり、これまでも定期的に経済支援は受けていた。そして先日、本来ならば父の後を継ぐ筈だった藤崎の異母兄が対立組織との抗争で死亡してしまい、代わりの後継者として藤崎が指名されてしまったらしい。藤崎は戸惑いながらも、「仮に断ったとしてもいずれ自分や母が敵対組織によって人質に取られるなどの危険に巻き込まれる可能性がある」と考え、(まだ具体的な継承の時期は未定であるものの)自分の「血の宿命」を受け入れる覚悟を決めたという。 そんな重苦しい話を聞いてしまった後、ひとまず軽音部の面々は店を出て、今度はその隣に位置する中華料理屋へと入店した。ここの店主の娘である月島薫は海実の中学時代の先輩であり、彼女経由で来店の誘いを受けていたのだが、軽音部の面々の来訪に対して、月島は最初は笑顔で出迎えたが、彼等の服から漂うサルサソースの匂いから、彼等が直前に隣の海鮮タコス屋にいたことを察し、微妙な表情を浮かべる。というのも、彼女は隣に住む藤崎とは仲の良い幼馴染で、いつも一緒に登校していることから、周囲の人々からは「既に二人は付き合っている」と噂される程に仲が良かったのだが、最近になって妙に二人の関係がよそよそしくなっていたのである。 月島は彼等に対して、藤崎の様子に何かおかしな点はなかったかと尋ねるが、さすがに彼の家庭の事情を勝手に話す訳にはいかない以上、皆が口籠る。その上で、逆に彼女に話を聞いてみたところ、どうやら先日、月島の誕生日の朝に、隣のタコス屋の裏のゴミ箱を猫が漁っているのを彼女が目撃した際、そのゴミ箱の中に「藤崎から月島へのプレゼントと思しき袋」が捨てられているのを発見してしまったらしい(月島は、それほど大した問題ではないと言い張っていたが、明らかに無理をしていることが 昴 には読み取れた)。そして翌日以降、藤崎は露骨に月島を避けるようになり、月島の中にはその心当たりが二つ程あるらしいが、それ以上は誰も何も言えなかった。 続いて、今度は南條(第9話参照)から勧められていたホビーショップ「イエローサブマリン」へと赴いた彼等がTRPGコーナーに足を踏み入れたところで、 紬 は卒業生の関(第1話参照)を発見する。彼女は現在、関帥組傘下の消費者金融会社の社長代行を務めており(本来の社長は、現在服役中の若頭)、最近、組の若い衆達が遊んでいる 「サタスペ」 のルールブックを買いに来たらしい。なお、 白秋 は事前に坪井(第1話参照)から「関先輩が結婚するかもしれない」という噂を聞いていたが、さすがにその話をここで尋ねる気にはなれなかった。 そして彼等が店から出たところで、 白秋 は路地裏で藤崎がサッカー部の部長と口論している様子を発見する。藤崎はサッカー部の一員なのだが、どうやら彼は(これから夏の大会の予選が始まろうとしている段階で)退部届を提出していたらしい。藤崎としては、これから先、自分と親しい人間が対立組織との抗争などに巻き込まれる可能性を危惧して、友人達とも距離を取ろうと考えているようだが、その理由を説明されないまま提出されても部長としては納得出来る筈もなく、部長はその退部届を彼の目の前で破り捨て、退部は認めないと言い切り、二人は互いに納得していない表情のまま、その場から去って行く。 そんな様子を軽音部の面々は微妙な心境で眺めつつ、ひとまず地下鉄の駅へと向かうために歩を進めていくと、大須の一角の交差点に差し掛かったところで、買い出しから帰宅途中の月島と遭遇する。彼女が通りの向かい側に位置する高級日本料理店を眺めながら溜息をついている一方で、 昴 はその料理店の近くで張り込んでいる者達を発見した。彼等は三流ゴシップ誌『実録ヤクザナックルズ』の記者とカメラマンであり、 昴 と目が合った瞬間、彼等に対して唐突に取材を始める。 どうやら彼等は(恵子とニルスによる写真付きビラ配りの成果で)彼等が本山高校の軽音部だと分かった上で、同校のOGである関について何か知っていることはないかと質問してきた。彼等が手にしていた先週号の記事には「関帥組のプリンセスに初ロマンスか!? お相手はワイルド系のイケメン外国人高校生」という見出しの下に、関と藤崎が一緒に大須の高級日本料亭に入店する際の隠し撮り写真が掲載されている。どうやら彼等は、この二人が付き合っていると睨んでいるらしい。 そして、これこそが月島が考えている「藤崎が自分を避けるようになった心当たり」の一つであった(彼女は友人経由でこの記事の存在を聞かされていた)。月島は目の前でその写真を目のあたりにさせられたことで改めて動揺し、その場から慌てて走り去る。その方角は彼女の自宅とも逆方向であり、どうやら完全に我を忘れて何かから逃げようとしているようだった。そのタイミングで唐突に通り雨が彼女を襲い、既にアーケード街から出てしまっていた彼女は、雨に打たれて少し冷静になったのか、ひとまず近くの建物の軒下に入って雨宿りする。 彼女の頬に雨とも涙とも分からぬ何かが流れる中、最初に追いついた 廉里 が、まだ動揺が残った状態の彼女から詳しい話を聞き出す。月島は、藤崎が自分を避けている理由として、二つの可能性を考慮しているらしい。一つは、藤崎が関と付き合い始めたことで自分との「中途半端な関係」を解消しようとしている、という可能性。そしてもう一つは、月島自身の家庭の問題である。実は、彼女の両親の正体は香港マフィアの一員であり、藤崎が自分と距離を取るようになったのは、その事実が彼にバレてしまったからなのでは? と彼女は考えていた。 まさかこの二人が揃って海外の闇社会の一族であるとは考えていなかった軽音部の面々は困惑するが、かといって彼女に「真相」を話す訳にもいかない以上、この場は何も言わずに彼女と別れる。そして、ひとまず来た道をそのまま戻っていく過程で、 海実 は「見覚えのあるストラップ」が道に落ちているのを発見した。それは、月島が中学時代から愛用しているのと同じデザインであり、先刻、藤崎が落としたスマホにも、同じストラップが付けられていた。そして、落ちていた場所は藤崎とサッカー部の部長が口論していた場所だったので、おそらく彼が落とした(もしくは意図的に捨てた?)代物ではないかと推測出来る。 ひとまずそれを藤崎に届けようと、彼等が海鮮タコス屋の方面へと向かおうとしたところ、店の近くの路地裏で藤崎と関が深刻な表情で向かい合っている場面に遭遇する。彼等の会話内容から察するに、どうやら藤崎は関から「裏社会で生きていく上での助言」をもらうために、彼女と何度か会っていたらしい(料亭に行ったのもその一環である)。そして、藤崎は他の友人達の縁を切ることは覚悟しつつも、月島への未練だけはまだ完全には断ち切れずにいた。 そんな藤崎に対して関は「彼女に素性を話した上で『俺と一緒にメキシコに来い』と言えばいい」と告げるが、藤崎は「彼女には彼女の人生があるから……」と二の足を踏んでいた。そんな藤崎に対して関は平手打ちを食らわせた上で「他人の人生を踏み躙って生きる覚悟がないなら、お前はマフィアには向いてない」と言い放って、その場から去って行く。そのあまりにも深刻すぎる雰囲気に圧倒された 海実 は、さすがにこの場でストラップを彼に手渡す気にはなれず、黙ってその場から立ち去ることにした。 その後、 紬 達は慣れないメンバー&楽器編成での演奏に慣れるために夜遅くなるまで練習を重ねた上で(その過程で親と若干不仲になりつつ)、やがて「ラテン音楽祭」の当日を迎える。観客の中には、微妙に距離を取りつつ遠巻きに見つめる藤崎と月島の姿もあったが、やがて彼等の奏でる独特のリズムに載せた「∞ Changing ∞」のポジティブな歌詞が二人の心に響き渡り、一番を歌い終えた時点で月島が、そして最終コーラスを歌い終えた頃には藤崎が、それぞれに何かを決意したような表情を浮かべ始め、演奏が終わると同時に、藤崎が月島に声をかけて、その場から去って行く。 そして、 海実 からストラップを預かっていた 白秋 がそれを届けるために藤崎の元へと向かうと、藤崎と月島は互いに驚愕の表情を浮かべていた。どうやら、互いの素性を明かし合った直後の状態だったらしい。ひとまず互いの組織の詳しい現状について語り始めた二人を前にして、 白秋 は直接声をかけに行く気にもなれず、見つかりやすい場所にストラップを置いて、そのまま彼等に気付かれないまま立ち去ることにした。 後日、二人はかつてのような笑顔を取り戻しつつ、また二人揃って登校するようになる。友人達は二人の関係がどこまで進展したのかと囃し立てるようになったが、彼等のバックグラウンドを詳しく知る軽音部の面々は、あまり深く立ち入ろうとはしなかった。なお、『実録ヤクザナックルズ』の最新号には「関帥組が複数の海外マフィアと友好関係を締結」という記事が掲載されることになり、それが名古屋の裏社会の構造に大きな変革をもたらすことになるのだが、それはまた別の物語である。 ![]() |
+ | 第11話「想い出は夢の中」 |
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+ | 第12話「夏色軽井沢」 |
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8月に入り、本格的に名古屋が地獄の暑さに包まれ始めた頃、恵子から軽音部の面々に「軽井沢で合宿をしませんか?」という連絡が入った。恵子曰く、彼女の父が軽井沢に別荘を保有しているらしい。実家の予定とバッティングしてしまった廉里と、赤点補講への出席を余儀なくされた白秋を除いた面々は、律子の運転するライトバンに乗って軽井沢へと向かうことになった。
現地に到着した彼等は、別荘の近くの森の中で「ウサギの覆面を被ってギターを奏でる女性」と遭遇する。彼女の正体は、現在活動休止中の名古屋のインディーズバンド「Frontier」のギタリスト・夢野まどだった。どうやら彼女は人目を忍んでギターを練習するためにこの地を訪れていたらしい。やがて、そんな彼女を心配して、同じバンドのボーカリスト・奏ミラもまた軽井沢に姿を現す。 海実 が二人から話を聞いたところ、Frontierの活動休止の理由はミラの喉の病気で、当初は軽症と思われていたものの、後に上咽頭がんであることが判明してしまったらしい。色々と騒がせてしまったお詫びに、まどは恵子とニルスのギターの練習を手伝うことにした。 一方、別荘の周囲を散策していた 紬 は、慣れない土地だったこともあって道に迷ってしまい、自分がどこにいるのかも分からないまましばらく彷徨い続けた結果、同じように遭難していたミラと遭遇することになる。 紬 にとってFrontierは自分がバンドを始める契機となった存在だったため、出来ればこの機会にミラと色々と話をしたいところだったのだが、状況が状況だけに、あまり悠長に会話出来るような状況でもなかった。 そんな二人を(スマホを頼りに)どうにか発見した 昂 は、彼女達を別荘へと連れ帰る道の途上で、ミラが「自分のせいでまどを音楽活動から遠ざけてしまっていること」への罪悪感を抱いているという話を聞かされることになる。その上で、 紬 が更に詳しく話を聞いたところ、彼女のがんの完治には手術が必要だが、手術の後に以前と同じレベルで歌えるようになる可能性は低い、とも言われており、ミラは手術に踏み切るべきかどうか悩んでいるらしい。 その後、別荘に戻った軽音部の面々は協力してカレーライスを作り始める。 昂 とニルスが飯盒で御飯を炊き、 紬 は恵子と共に(恵子の危険な手捌きにハラハラしながら)具材を切り、それを(炊飯作業を終えた) 昂 と竜崎が絶妙の火加減で煮込むことで、奇跡的に絶妙な風味のカレーが完成した(この間に、 海実 はまどから話を聞き出そうとしていたが、なかなか上手くきっかけを掴めずにいた)。 そして、なりゆきでそのまま食卓に同席することになったまどは、 海実 に今の自分の心境を語り始める。現在、Frontierの他のメンバー達は事務所の方針に従い、別のバンドとのコラボ企画等に参加しているが、まどはミラが苦しんでいる現状では音楽に打ち込む気になれず、それらの提案を全て断った上で、演奏時の指の感覚だけは無くさないよう、人目に触れないこの地で練習することにしたらしい。 まどとしては、一刻も早くミラに手術を受けてほしいが、ミラはミラでまどが「自分の声」を誰よりも高く評価してくれていることを知っているからこそ、手術の後遺症が心配で、なかなか踏み切れずにいた。そんな悩ましい心境を吐露しつつ、まどは自分達の心の暗雲を振り払うために、軽音部の面々の演奏を聴かせてほしいと伝える。まどは数ヶ月前の大須商店街での交流企画の際に彼等の演奏を聞いたことがあり、その時に味わった(今の自分達が失いかけている)若さ故のエモーショナルな感動をミラにも聴かせたい、と考えていたのである。 こうして、真夏の高原の星空の下で、一年生三人を加えた初の編成(ニルスと恵子がギター、竜崎がドラム)での即席ライブが開催されることになった。楽曲は「星降る夜になったら」。観客はたった二人とはいえ、プロのミュージシャンを目の前にした状況ではあったが、いつも通りに 海実 が奏でる流麗なイントロの旋律によって皆の緊張は解きほぐされ、 昂 は同じリズム隊として竜崎とテンポを合わせつつ、ニルスとも息の合ったプレイで彼等の演奏を引き上げ、そして(一番緊張していた)恵子もまた 紬 に寄り添いながら演奏することで徐々に持ち味を発揮していく。 そんな彼等の、まだ未熟ながらもエネルギッシュな演奏を目の当たりにしたミラは、やがて何かが吹っ切れたような表情を浮かべるようになり、それを横目で見ていたまどもまたミラの心境の変化を悟り、ようやく安堵した様子を見せる。そして演奏を終えた軽音部の面々に対して二人は感謝しつつ、ミラは手術を受ける覚悟を固めたことを伝える。最悪、声が出せなくなってしまった場合は音声合成ソフトの勉強を始める、と冗談交じりに語りつつ、彼女達は笑顔で軽井沢を後にするのであった。
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+ | 第13話「魂を揺らす音」 |
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軽井沢からの帰路のライトバンの車内で、軽音部の面々のスマホに生徒会長・相沢桃子からのメールが届いた。まもなく開催される「鳥人間コンテスト」に参加する矢倉一樹&勉を学校ぐるみで応援しようという有志企画が持ち上がり、その一環として「応援旗」を作ることになったため、協力者を募集しているらしい。
また、それとほぼ同時に当の一樹からも「コンテストが開催される琵琶湖の会場で、自分の飛行中に応援ライブをしてほしい」というメールが届く。顧問の桂木曰く、現在運転しているレンタカーをもう一度借りて琵琶湖まで皆を連れて行くことは可能だが、既に部費は残っていない、とのことなので、レンタル料とガソリン代に関しては皆でバイトして稼ぐことになった。 翌日。 紬 ・ 昂 ・ 海実 の三人は、一樹に付き合って飛行中の安全祈願のために清武神社へと向かうことになったのだが、一樹との合流地点に向かう途中で、二人の少女が会話を交わしている場面に遭遇する。一人は、 海実 と同じクラスの雛形菊乃。そしてもう一人は、涼風令子(恵子の姉)である。玲子は少し苛立ち気味に「わたくしの誘いを蹴った以上、ちゃんと本懐は果たしてもらわねければ困りますわ」と雛形に告げた上で、その場から去って行く。 紬 が雛形から事情を聞いたところ、雛形の父は涼風家で執事を務めており、令子とは幼馴染のような関係らしい。令子は雛形に対して、高校から城金女学院に編入するように強く勧めていたが、雛形は同じ中学で生徒会長をしていた矢倉勉に片想いしており、彼と同じ高校に行きたくて令子の誘いを断ったのだが、それから一年半が経過しても一向に関係が進展していないらしい。 一通り話した上で逃げるようにそこから去っていった雛形を見送りつつ、3人は一樹&(別件で何か祈願したいことがあったらしい)ニルスと合流した上で、清武神社へと向かう。神主の息子である敏&透に軽く挨拶した上で、地元民である 昂 の案内で境内へと向かった一樹達は無事に祈願を済ませ、お守りを購入し、更に(職業体験として)巫女服を着て働いていた山口淳子から「おみくじ」を購入する(結果は、 海実 が大吉、 昂 が中吉、 紬 は凶だった)。 その上で、一樹は 海実 に対して、勉のことについての不安な心境を語り始める。勉はこれまで、一樹と共に「高校生での鳥人間コンテスト制覇」の夢に向かって努力を重ねてきたが、そのために他の人々との人間関係を軽視しすぎているように一樹には思えた。過去には勉に対して言い寄る女性もいたらしいのだが、勉は全て「今は恋愛にかまけている暇はない」の一点張りで断っており、そんな勉の生き方が、一樹としては色々な意味で心配に思えてしまうらしい。 その後、一樹&ニルスと別れた3人は、今度は応援旗作成のために、竜崎と合流した上で学校へと向かう。相沢の指揮の下、南條里菜のデザインに基づいて、手作業に長けた 昂 と竜崎が中心となりつつ、協力者として集まった坪井新八・藤崎アントーニョ・月島薫・雛形菊乃といった面々と協力しながら、旗を作り上げていく。なお、坪井は当日の旗振り役でもあり、藤崎と月島は実家で作った弁当を差し入れとして持参する予定らしい(また、坪井はこの役割を担うに至った理由として「関先輩に……」と言いかけたが、その真意は語らなかった)。 その上で、相沢は軽音部の面々に一枚の色紙を見せる。それは、一樹に渡すために、彼と親交の深い軽音部の部員達用に相沢が用意した「寄せ書き色紙」であり、この場にいない 白秋 と 廉里 のコメントが既に書き込まれていた(下図)。
紬
・
昂
・
海実
の三人が残った余白の部分にそれぞれの言葉で書き込むと、相沢はこの場の指揮を南條に委ねた上で、その色紙を持って
響
の通う大学へと向かい、彼女からも「今のお二人ならきっと大丈夫でしょう。良い知らせが届くことをを楽しみにしております。」という達筆のコメントを受け取ることに成功する。
一方、この作業の途中で「追加の画材」の買い出しに行くことになった雛形は、同行する 海実 に対して、その道中において、今の自身の胸中を語り始める。雛形は、多くの人達から自分の恋を応援してもらっているにもかかわらず、まだ実現出来ていないことに関して、自己嫌悪の念を抱いているらしい。上述の令子だけでなく、一樹からも「きっとアイツ、君のこと好きだよ」と後押ししてもらっているが、過去に何人もの女子生徒達が彼に振られているという話を聞くと、怖くて踏み出せずにいるらしい(なお、この会話の時に彼女は「姉さんにも……」と言いかけたが、その真意は語らなかった)。 そうこうしているうちに応援旗を完成させた彼等は、今度は旅費稼ぎのために(社会勉強のために同行することにした恵子を連れて)ライブハウス「NOISE BLAST」での短期バイトへと向かうことにした。店長の甲斐半次郎は彼等を歓迎した上で、淳子の近況を聞きつつ、今年のハロウィン音楽祭への参加を促し、そして彼等に掃除してもらう予定の倉庫へと案内すると、そこには八事高校の稘四季と、そして矢倉勉の姿があった。どうやら四季は中津川への合宿のための旅費稼ぎのために、そして勉は「大須の消費者金融業者」への(人力飛行機作成の際に生じた)借金の返済のために、この店で短期バイトすることになったらしい(なお、このことは一樹には言っていない)。 紬 を中心とした軽音部の面々が無事にバイトを終えると、四季は「大須に新しく出来たケーキ屋」へと(ケーキ好きの) 海実 を誘い、一方で勉は借金を返すために大須に向かう予定だったため、そのまま流れで彼等は揃って大須へと向かうことになった。現地に到着すると、四季が行こうとしていたケーキ屋は、勉が借金していた消費者金融業者は隣に位置しており、そして後者は本山高校OGの関翠が経営する(関帥組傘下の)会社であることが判明する。 そして、ひとまず勉の用件を済ませてから、彼と一緒にケーキ屋に行こうと考えた軽音部の面々が店の前に立ったところで、店内からは二人の女声の声が聞こえてきた。一人は関。そしてもう一人は、雛形である。どうやら雛形は関に「お礼」を言うためにこの店を訪れたようだが、関は「礼を言われるようなことは何もしていない。純粋なビジネスでやってるだけだ」と言い放った上で、雛形を追い出す。その時点で勉や軽音部の面々と目が合ってしまった雛形は、逃げるようにその場から走り去っていった。 紬 が関から事情を聞いたところ、実は雛形は彼女の異父妹であるらしい。互いにそのことは知った上で、子供の頃は仲も良かったが、関が正式に関帥組の後継者候補として裏社会で生きていくことを決意した今、雛形とはもう距離を取るべきだというのが関の考えである。なお、勉への融資が雛形の仲介によるものであることは関も認めたが、それはあくまでも「もし返済に困っても、一樹の両親から搾り取れる」という目算があったからであり、決して妹の頼みだから特別扱いした訳ではない、と強調していた(その後、微妙な空気を払拭するかのように、彼女達は隣のケーキ屋でバイキングコースを堪能した)。 それから数日後。 昂 と 海実 がそれぞれに部室で自主練を重ねる中( 昂 は絶好調だったが、 海実 はなぜか不調であった)、Frontierの夢野まどからのメールが桂木のスマホに届いた。どうやら奏ミラの手術は無事に終わり、今のところ経過は順調で、リハビリの経過次第では以前のような声が出せるようになる見込みもあるらしい。その上で、彼女達から(「先日の軽井沢での即席ライブのお礼」として)屋外ライブ用の高級機材を貸してもらえることになった彼等は、その厚意に応えるべく改めて決意を固めつつ、琵琶湖へと向かうことになる。 そして当日。無事に現地に到着した彼等は、藤崎と月島からの差し入れを食べて英気を養った上で、坪井の手によってはためかせられた応援旗を背後にしつつ、応援用に設置された仮説ステージの上から、一樹の出番が回ってきたタイミングで「Eagleherat」の演奏を始める。その勇壮な旋律は一樹の心を極限にまで高揚させ、まるでその音圧を追い風にしたかの如く天高く飛び上がった彼は見事に往路を飛行しきった上で、最終的には33.1kmという大記録を叩き出し、この時点での暫定トップに躍り出る。 その後、東北地方から出場した某大学の機械航空学科によるチームが往復完全制覇(40km)を成し遂げてしまったため、一樹達の最終順位は2位に終わったが、それでも高校生チームとしては前代未聞の大健闘を果たしたことに大会関係者は驚愕し、テレビ放映時には一樹の飛空シーンがクローズアップされた結果、その背後に流れる軽音部の演奏もまた日本中の視聴者の元へと届くことになった。 そして、この演奏を聞いて勇気付けられていたのは一樹だけではなかった。応援に来ていた雛形もまた、彼等が演奏を終えた時点で、一つの決意を固めていたのである。大会後の滋賀県内のファミレスでの一樹達と応援団による慰労会の際に、雛形は(こっそり一緒に来ていた関に背中を押される形で)勉を呼び出し、そして想いを告げる。「私は二番目でいいです。一樹先輩の次でいいから、あなたの傍にいさせてくれませんか?」と上目使いに伝えた雛形に対し、勉は溜息をつきながら「もうそろそろ、俺をあのバカから解放させてくれ」と言って、そっと彼女を抱き寄せる。そんな二人を、一樹と関は満面の笑みを浮かべながら覗き見していたのであった。 こうして無事に(「テレビカメラの前での演奏」という)大役を果たした軽音部の面々は、桂木の運転するライトバンに乗って名古屋へと帰還する。その車内において、 紬 から 海実 への「部長交代」が告げられた。 海実 は自分にその役職が務まるかという不安を抱くが、 紬 も 昂 も彼女ならば大丈夫と太鼓判を押した上で、一年生達も揃って彼女についていく意志を示し、ここに本山高校軽音部は二代目部長による新体制を迎えることになるのであった。
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