2020年度後期『ログ・ホライズンTRPG』キャンペーン
『Die Siedler von Buchberg』

レギュレーション
使用データ:基本ルールブックのみ(?)
年代:アニメ版の1期と2期の間の時期
所属都市:スタート時点ではアキバ
所属ギルド:PC全員が同一(名前および成立経緯は任意)
キャラクターランク:初期作成
種族&職業:自由

基礎用語説明
エルダー・テイル:PC達が遊んでいたオンラインゲームの名称
セルデシア:エルダー・テイルの舞台となる世界(形状は地球に酷似)
アキバ:現実世界における「東京」に相当する場所に存在する街
ミナミ:現実世界における「大阪」に相当する場所に存在する街
冒険者:エルダー・テイルを遊んでいるPC達が演じるキャラクター
大地人:セルデシアの本来の住人(エルダー・テイルにおけるNPC)

アルカナ・エース(PC達の所属ギルド)
 伊知ポンド、アンズ、ココ、エラの三人による冒険者ギルド。ギルドマスターは伊知ポンド。ギルド名は「伊知(=1)」と残り三人の頭文字を合わせた「ACE」から「小アルカナ(≒トランプ)における四つのA(エース)」をイメージして名付けられた。従来はアキバの街を中心に活動していたが、先日のドラゴンとの戦いを経て、現在はエラ以外の三人が行方不明(詳細は下記の「あらすじ」参照)。

伊知ポンド(ヒューマン/森呪遣い/決闘者/男)
元ボクサー 怪我をして今はゲームをしている。
 怪我でボクサーを引退する事になって荒れていた時期があり、その頃、エルダーテイルのCMに出演している男性アイドル鶴川舞を見て一目惚れしてエルダーテイルを始めた。怪我を治したいという根源的な欲求から回復職を選んだ。テティスを助けたのは、始めたばかりの頃。
ガイディングクリード:仲間
+ 初期コネクション:テティス
 かつて旅先でキミが出会った大地人の少女。モンスターに襲われていたところをキミによって助けられた。本人曰く、ブッフベルク地方のシュピーゲルの泉の近くにある集落に住んでいると言っていたが、それが具体的にどの辺りの地域なのかは、当時のキミには分からなかった。
タグ:大地人、女
+ 現実コネクション:鶴川舞(つるかわ・まい)
 名古屋を拠点に活動する男性アイドルグループ「UGN(Under Ground Network)」の一員。常に女装姿で表舞台に立っているが、その性的指向はグレーゾーンらしい。エルダー・テイルのCMに出演しているが、本人が実際にゲームをプレイしているかどうかは公表されていない。

アンズ(ヒューマン/武士/狂戦士/女)
本名:菅原 杏里。高2女子。
学級委員をやっており、クラスメイトで幼馴染の徳永元にたまにプリントを私に行く。
エルダーテイルは最近始めてみたばっかだが、すぐにその魅力にはまった。初心者でうろうろしていたところをソウジロウに助けてもらい、それ以来ソウジロウの熱狂的なファン。ソウジロウに憧れて武士になった。
ガイディングクリード:不屈
+ 初期コネクション:ソウジロウ
公式サイトによる説明
 アキバを拠点とする「西風の旅団」のギルドマスター。「剣聖」の異名を持つ強豪プレイヤー。童顔の美少年で、女性プレイヤーにモテるため、ギルドメンバーの大半は女性。キミとは個人的に深い友好関係にある(その理由については任意)。冒険者としての実力はPC達よりも遥かに上。
タグ:ヒューマン、武士、男
+ 現実コネクション:徳永元(とくなが・はじめ)
 高校2年生の男子生徒。成績優秀で、毎回模試では全国上位に名を連ねているが、病弱で入退院を繰り返しているため、進級が危うくなる程に出席日数が足りない。看護婦達の証言によると、最近はオンラインゲームに興じていることが多いらしいが、本人はそのことを語ろうとしない。

ココ(猫人族/盗剣士/斥候/女)
本名:本藤 香里奈
キャラクター名は飼い猫の名前を使用している。
体操部に所属する中学1年生。エルダーテイルを始めたのは大災害の少し前位からであるが、ドはまりして短期間でかなりのプレイ時間を稼いだ。最近では同じクラスの仙道ちゃんをしつこく一緒にやろうと誘っている模様。ソロで遊んでいた時間も長く、ギルドメンバー以外にも野良でPTを組んでいたり等、顔見知りはそれなりにいる模様
ガイディングクリード:不屈
+ 初期コネクション:プロキオン
 アキバで活動するフリーの冒険者。腰が低く、人懐っこい性格であるが故に気に入られ易く、多方面に幅広い人脈を持ち、キミとも何度か共闘したことがある。正体は下記の本多大角(人脈D)だが、本人はあくまでも「少年」を演じ続けている。冒険者としての実力はPC達と同程度。
タグ:狼牙族、武闘家、男
+ 現実コネクション:仙道華南(せんどう・かなん)
 中学1年生の女子生徒。日頃は明るく快活だが、時折意味深な雰囲気を醸し出すこともある。父親がエルダー・テイルの制作会社に務めており、日本語版発売以来(当時はまだ小学生)からのヘビーユーザーだという噂もあるが、その話題を本人に聞いても「ナイショ♪」と言われる。

エラ(法儀族/付与術師/数奇者/女)
本名:津本 江奈
暴力団と取引のある家の子(家は暴力団ではない)
父親と本多の仲はよく、その娘と言うことで小さい頃から関わりがある。そのせいか、親戚のおじちゃんのような存在。
エンダーテイルもおじちゃんにねだって買ってもらった。
イナリとはアキバで出会って意気投合し関わるようになった。外見がとても好み。
ガイディングクリード:知恵
+ 初期コネクション:イナリ
 ミナミを統治する単一ギルド「Plant hwyaden(プラント・フロウデン)」の一員。ギルドの使者としてアキバを訪れたことがあり、その際にキミと知り合った(経緯は任意)。同名のPCが多数存在するため、「トヨカワのイナリ」とも呼ばれる。冒険者としての実力はPC達と同程度。
タグ:狐尾族、神祇官、女
+ 現実コネクション:本多大角(ほんだ・だいかく)
 日本有数の規模を誇る暴力団「犬狼会」の組長。その人脈は裏社会のみならず、政界や財界にも深く通じていると言われる。姪に勧められてエルダー・テイルを始め、「プロキオン」という名の狼牙族の少年キャラを演じているが、そのことを知る者は犬狼会内でも極僅かしかいない。


第1話「辺境の大神殿」
 アキバの街の近くで出現した巨大なドラゴンとのレイド戦に参加したアルカナ・エースの面々であったが、戦いの終盤で、伊知ポンド、アンズ、ココの三人は運悪くドラゴンのブレスを直撃してしまい、この世界に閉じ込められて以来、初めての「死」を経験する。
 だが、彼等が目を覚ました時、彼等の目に映ったのは「アキバの大神殿」ではなく、それとよく似た(しかし、明らかに朽ちた様相の)謎の建造物であり、その壁には「BUCHBERG(ブッフベルク)」という文字が記されていた。それはかつてポンドが助けた大地人の少女テティスが自身の出身地として語っていた土地の名であり、アンズとココの記憶が確かであれば、それはこのセルデシアにおいて、現実世界における名古屋市の北東部に相当する地域の名である。
 困惑する中、ひとまずココが周囲の偵察へと向かったところで、運悪くコボルド(小牙竜鬼)の群れに囲まれてしまうものの、すぐさま駆けつけたポンドとアンズの救援により、危機を脱する。一方、アキバの街に残されていたエラは、ポンド達からの通信を受けた上で、ココの知人のプロキオンと共に馬車で現地へと向かうが、彼女達もまたその途上でコボルト達の襲撃を受けてしまう。しかし、その物音を聞きつけたボンド達との合流を果たしたことで、どうにか無事に殲滅に成功したのであった(なお、この過程で一瞬だけ、ポンドはテティスとも遭遇していた)。
 その後、アンズの知人のソウジロウが通信で伝えたところによると、以前にネット上で流れていた「エルダーテイル関係者(自称)による内部リーク」の中で、「期間限定のイベント用ステージ」として、現実世界の名古屋に相当する地に「オースの街」が実装されるという情報があり、その関連資料の中に「大地人の村:ブッフベルク」という地名が記されていたらしい。だが、実際にはそのようなイベントは実装されていないため、その情報自体の真偽は不明であるし、そもそも大地人の村に(冒険者復活のための)大神殿を設置するというのも、少々奇妙な話である。
 一方、プロキオンがメインクーンの知人(?)から聞いた話によると、どうやら一部の冒険者達の間では「ランダム封入のシークレットパック」が存在するという噂が流れているらしい。その噂によると、エルダーテイルには「ごく一部のギルドだけが招待されるシークレットイベント」が存在し、その招待対象の選別には「ゲーム購入時にランダムに割り振られたID」が関係しており、該当IDを所有しているメンバーを擁するギルドだけが参加出来るという。もっとも、あくまでも都市伝説的な噂であり、どこまで信憑性があるかは怪しい。
 とはいえ、もしこの二つの「不確定な情報」がどちらも正しいとすれば、ポンド達がこの地で復活した時点で、何らかの特殊なイベントに招待されたということなのかもしれないと考えた彼等は、ひとまず大地人の村であるブッフベルクへと向かうことにした。
 だが、この近辺は街道が舗装されている訳でもないため、なかなか見つからない。途中でトリフィド(人食い草)との遭遇戦を経て、疲労困憊になりながらもどうにか彼等がブッフベルクと思しき村を発見した時、そこでは幾人かの冒険者達が、オウルベア(梟熊)の集団と戦っていた。その冒険者達の中にはエラの知人であるイナリもいたが、状況は劣勢で、彼女の仲間が次々と倒されて消滅していく中、アルカナ・エースの面々が加勢したことで、どうにか撃退に成功する。
 そして、一人残されたイナリが皆に礼を言う中、改めて彼等の前にテティスが現れる。ここに、ブッフベルクを巡る新たな冒険者達の物語の幕が開くことになるのであった。
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第2話「街道整備」
 アルカナ・エースの面々は、まずテティスからこのブッフベルクの村の概要(下図)を聞かされる。テティス曰く、この地は大地人達が古代遺跡を改造して住めるようにした村であり、現存する住居などは全て、遥か昔に築かれた建物が元になっているらしい。なお、先刻のオウルベアとの遭遇地点は村の北西端であるシュピーゲルの泉(⑨)とテティスの自宅(⑩)の中間地点であり、この村は彼等が転送された「謎の大神殿」から見て南方に位置しているようである。
+ ブッフベルクの地図
 一方、イナリもまた彼等に対して自分の事情を説明する。彼女はミナミ全体を統括する冒険者ギルド「プラント・フロウデン(Plant hwyaden)」の一員であり、このブッフベルクに「何か重要なもの」が眠っているという情報に基づいて仲間達と共にこの地に来たものの、先刻のオウルベアとの戦いで他の仲間達は全員「戦死」し、ミナミへと強制送還されてしまったらしい。
 その後、アルカナ・エースの四人はプロキオンおよびイナリと共に、テティスに案内される形でこの地の領主であるグレン(下図)と対面する。グレン曰く、この村には外から見つけられにくい結界が張られているため、魔物の被害を受けることは少ないが、他の地域とも隔絶されており、あまり交易などは盛んではないらしい。なお、先刻のオウルベアは、イナリ達が村の近辺で遭遇して逃げ回っている間に、結果的に村の内側に連れ込む形になってしまったようである。
+ グレン
 イナリはそのことをグレンに謝罪した上で、この村に何らかの「特殊な力」が眠っているのではないかと尋ねると、グレンはそれらしき伝承があることは認めつつも、それは村の中では「禁忌」扱いであると伝える。ただ、その一方で「北の大神殿から現れた勇者がこの地を救う」という伝承もあり、グレンはひとまず彼等に「村の開拓への協力」を条件に、彼等にこの村の伝承を伝える、と約束した。
 その上で、グレンが最初に彼等に依頼したのは、他の村との交通路の整備のために必要な素材の確保である。街道整備のためには一定の木材と煉瓦が必要であり、木材に関しては森林地帯に囲まれている土地柄もあって入手は難しくないが、この村の近辺で煉瓦の材料となる泥土を確保出来そうな区域には、最近になって死体型の怪物が出現するようになっているらしい。そこで、ひとまずプロキオンとイナリは木材確保へと向かう村人達の護衛に回る一方で、アルカナ・エースの面々はテティスの案内に基づいて泥土地帯の怪物退治へと向かうことになった。
 その途上でココが唐突にアルラウネ(死血花)に襲撃されるという事態に見舞われつつも、どうにか撃退した彼等は、更なる無駄な遭遇戦を回避しつつ泥土地帯まで到達すると、そこで一人の「テティスによく似た少女」を発見する。困惑するポンド達とは対象的に、テティスは涼しい顔でその状況を受け入れていた。彼女曰く、この近辺では「自分とよく似た姿の少女」は珍しくないらしい。
 だが、エラはその少女の正体がグーラー(屍食少女)であることを瞬時に見抜いた上で、仲間達に注意を呼びかける。そしてアンズは警戒しつつ彼女に近付こうとするが、その瞬間、土の中からグール(屍食鬼)達が出現してアンズに襲いかかり、彼女はその場に倒れてしまった。直後にポンドによってかけられた魔法で急死に一生を得たアンズは、すぐさま駆けつけたココと共に戦線を立て直し、最後はポンドとエラの魔法支援もあって、どうにかグーラーとグール達を一掃することに成功し、大量の泥土を手に村へと帰還することになった。
 一方、木材調達を手伝っていたプロキオンとイナリは、特に怪物と遭遇することもなく順調に作業を手伝っていたが、そんな中でプロキオンは、イナリが密かにミナミのプラント・プロウデンの誰かと通話している様子を発見する。その会話内容から、イナリがプラント・フロウデンからの密偵として何かを企んでいるらしい雰囲気を感じ取ったプロキオンは、ココに彼女を警戒するように伝えるが、その話がポンド達に伝わる前に、イナリは彼等にアルカナ・エースへの仮加入を申請し、あっさりと認められる。
 この状況に対して今更異を唱える訳にもいかないと判断したプロキオンもまた(イナリを監視する目的で)彼女と同様にアルカナ・エースに加わることになり、微妙な不協和音を密かに内包した状態のまま6人体制となった彼等は、引き続き村人達による街道建設を手伝うことになるのであった。
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第3話「鉄鉱石採取」
 木材と煉瓦を手に入れたブッフベルクの住民達は、さっそく街道建設を開始する。彼等はまず村の北方に位置する「謎の大神殿」までの旧街道を復旧させた上で、そこを起点に周辺の大地人の村との交易路の確保へと乗り出そうとしていた。そんな中、数年前にこの地に移り住んだ元行商人のエンリケ(下図)は、他の村との商取引の活性化に向けて、この街の職人街に住む鍛冶職人達の技術を活かすために、村の西方に位置する鉄鉱山の開拓を提案する。
+ エンリケ
 だが、その鉱山地帯には近年、謎の機械人形が出没して、採掘に向かおうとした鉱夫達が襲われるという事件が頻発しているらしい。エンリケからその話を聞かされたポンド、アンズ、ココ、エラの四人は、村の産業の発展のために、その機械人形の討伐へと向かうことになった(その間に、イナリとプロキオンは街道建設班の警護へと向かった)。
 鉱山へと向かう道中は特に怪物と遭遇することもなく平穏な旅路であったが、その途上、鉱山地帯に差し掛かろうとしたおころで、彼等は明らかに不自然な形で道端に設置されていた「巨大な岩」の存在に気付く。エラが調べてみたところ、どうやらそれは地下から発生する「瘴気のような何か」を封印するための魔法具(アーティファクト)であるらしい。ただ、その封印が壊れかかっているようだったので、ひとまずココの手によって簡易修復を施されることになった。
 その後、辿り着いた鉄鉱山の麓で彼等を待っていたのは、スイーパー(全自動掃除奇兵)とクロックワーク・スコーピオン(機械仕掛けの蠍)であった。なぜ鉱山地帯にこのような人造兵器が闊歩しているのかは謎であったが、彼等の強固な装甲を相手に正面から殴りかかっても倒せないと判断した彼等は、アンズとポンドの特殊な戦技でスコーピオン達を瞬殺し、更にエラとココの合せ技でスイーパーを一掃するという電撃作戦で彼等の殲滅に成功する。
 他にもう危険な敵がいないことを確認した彼等は、ひとまず鉄鉱石の欠片を手にして村へと帰還し、ドワーフの鍛冶職人であるボルド(下図)に手渡す。ボルド曰く、これはかなり上質な鉄鉱石らしく、これがあれば村の生産力は飛躍的に上昇することが見込めるらしい。こうしてアルカナ・エースの面々は、着実に村の人々からの信頼を勝ち取っていくのであった。
+ ボルド

第4話「瘴気と特効薬」
 ブッフベルクと周辺地域との交易路が確保され、鉄細工を軸とした新たな産業が確立されていく中、同地の領主であるグレンの元に、この辺り一帯を治める大地人国家「神聖皇国ウェストランデ」からの使者が訪れた。詳しい会談内容は不明だが、ウェストランデは現在、「全冒険者ギルドの統一」を目指すミナミのプラント・フロウデンとの関係を強めつつあり、アキバの冒険者達が領内に定住することにあまり快く思っていないということを遠回しに通達されたらしい。
 グレンはそのことをポンドに告げた上で、自分達としてはブッフベルクのために尽力してくれているポンド達との友好関係は保ちたいという前提の上で、プラント・フロウデンに対するポンドの方針を問いかけると、ポンドはあくまで独立ギルドとして活動する方針を示しつつも、イナリとの関係も含めて、プラント・フロウデンとの間での衝突は避けるという意志を示し、それを聞いたグレンは安堵した表情を浮かべる。
 こうして領主とギルドマスターの間で友好関係を確立していく中、他の大地人達もまた、ギルドメンバー達との交流を深めていた。商人のエンリケはココと共にピザの量産活動に精を出し、彼女に対して、 かつてブッフベルクの西方に存在していたという伝説のピザ屋 の復活計画をもちかける(ただ、少なくとも今の段階においては、ココとしてはそこまでピザへの情熱は持ち合わせていないようであった)。
 一方、鍛冶職人のボルドは、剣士であるアンズに対して「打ってほしい刀があれば協力する」と告げた上で、この町に眠る「禁忌」の解明に対しても協力する姿勢を示していたのだが、そんな会話を交わしていたところで中、アンズの元にソウジロウからの通信が届く。どうやら西風の旅団の一員であるレイコ(下図)がブッフベルクに援助物資を届けに行ったものの、途中で消息を断ってしまったらしい(ただ、アンズはそのレイコがどんな人物だったか、よく覚えていなかった)。
+ レイコ
 その頃、エラの元には村の北部食堂で働く料理人のクレア(下図左)が来訪していた。クレア曰く、彼女の夫である鉱夫のオリバー(下図右)とその仕事仲間達が、先日エラ達によって開拓された鉱山での採掘の途中で、次々と「謎の瘴気」を身体に受けて倒れるという事態が勃発しているらしい。現状、この村に住む大地人の魔法使い達が看病しているのだが、クレアとしては冒険者の知恵も借りたいと考え、エラに相談することにしたらしい。
+ クレア/オリバー
 おそらくそれは、先日の調査の際に鉱山の近くで発見した大岩の下から溢れようとしていた瘴気と同一のものではないかと察しつつ、エラはポンド、ココ、アンズとも合流した上で「村の魔法使い達の居住区」へと向かう。すると、そこでは村の魔法使い達の代表格であるマリアと名乗る少女(下図)がオリバーの症状を確認していた。
+ マリア
 マリア曰く、オリバー達の身体を蝕んでいる瘴気は大地人にのみ悪影響を及ぼすものであり、現状においてはマリア達が作り出す薬を処方することで症状は和らげてはいるものの、完治させるための術は今の彼女達は持ち合わせておらず、それはエラやポンドの知識と技術を以ってしても同様であった。
 ただ、マリア達が最近仕入れた情報によると、このブッフベルクから西南西の方角に位置する「クランタンツェ(KLANTANTZE)」と呼ばれる(ブッフベルクと同時代に作られたと推測されている)遺跡に、最近、オピュクス(下図)という名の冒険者の名医(サブ職業が「医者」の付与術師)が住み着くようになったらしい。彼ならば何かこの症状についても知っているかもしれないという憶測に基づいた上で、ポンド達四人はそのクランタンツェの遺跡へと向かうことになった。
+ オピュクス
 ところが、彼等がクランタンツェにほど近い場所まで到着した時点で、彼等の進行方向から不吉な物音が聞こえてくる。それは巨大な「大砲」の音であった。彼等が現地へと向かうと、そこには幾人かの冒険者達が、小高い丘に設置された謎の「砲台」と、その近辺に舞い飛ぶ「巨大な鶴」達の群れに襲われ、次々と倒されて(転送されて)いく光景が展開されていた。エラの見たところ、彼等はどうやらミナミのプラント・フロウデンの冒険者達のようである。
 なぜ彼等がここに現れたのかは分からないまま、彼等が瞬く間に全滅していく様子を目の当たりにしたポンド達は、クランタンツェに行くにはこの丘を越えていく他に道はないと覚悟した上で、ひとまず砲台の射程の範囲外まで鶴達をおびき出しつつ、一羽ずつ撃破していくという戦略を採ることになった。そんな中、今回の出発時点では村を離れていたが故に同行していなかったプロキオンとイナリが後方から援軍として駆けつけ、二人が鶴達の一部を惹きつけている間にココが丘の上へと駆け上がり、どうにか砲台の無力化に成功する。
 その上で二人から話を聞いたところ、イナリが言うには、オピュクスはかつてプラント・フロウデンに所属していた冒険者だったらしい。しかし、数ヶ月前に唐突に姿を消したため、プラント・フロウデンの者達の間でもその行方を探していたとのことで、おそらく先刻の冒険者達も彼を探してここに来たのではないか、とイナリは推測する。そして彼女自身もオピュクス失踪の真相を知りたくて、ポンド達を追いかけることにしたらしい(一方、プロキオンはこの時点では追いかけてきた理由は明言しなかったが、彼はなぜかアンズの方をチラチラと見ていた)。
 その後、どうにかクランタンツェの遺跡に到着した彼等は、オピュクスが根城としている建物を発見する。だが、そこで彼等がオピュクスと対面した時、部屋の中には「魔法陣が描かれたベッド」の上で横たわる一人の女剣士の姿があった。それはソウジロウの言っていた「西風の旅団のレイコ」であり、それはまるで「悪魔召喚の生贄に少女を捧げようとしている様子」のようにも見えたのだが、その姿を目の当たりにした瞬間、プロキオンが(いつもの「下っ端口調」から一変して)野太い声で「貴様、何してくれとんじゃあ!」と激昂する。
 この瞬間、エラはその声色に(現実世界の知人である)本多大角に近い雰囲気を感じ取ったが、そんな彼に対してオピュクスは臆することなく涼しい顔で「事情」を語り始める。どうやらレイコはブッフベルクへと向かう途中で何らかの怪物との戦いで瀕死の重傷を負っていたようで、今はオピュクスが特殊な技法を用いて体力を回復させているところだったらしい。
 実際にレイコが目を覚ましたことで、誤解だったことを理解したプロキオンは「いつもの口調」に戻って謝るが、その時のレイコの反応を目の当たりにしたエラは「本多の姪」の名前が「レイコ」だったことも思い出すに到る(なお、後に分かったことだが、プロキオンがポンド達を追いかけた理由は、アンズとソウジロウの会話を聞いていたボルドから「西風の旅団のレイコが行方不明らしい」という話を聞かされたことで焦燥したのが理由であった)。
 一方、イナリはオピュクスに「プラント・フロウデンを去った理由」を問い質すも、彼はまともに答えずに受け流す。イナリが不信の目を向ける中、ひとまずポンド達が今回の主目的である「謎の瘴気への対処法」について訪ねてみたところ、オピュクス曰く、どうやらその瘴気は昔からブッフベルク近辺の地下全域に広がっている毒霧のような気体らしい。その上で、その特効薬となりそうな薬がこの遺跡の中にあるということを知らされた彼等は、協力してその薬を発見することに成功し、全快したレイコと共に、無事にブッフベルクへと持ち帰ることになった。
 その後、オリバー達の症状は無事に快癒し、鉱山採掘も(あまり近く深く掘り下げないように気をつけながら)再開されることになった。一方、レイコはしばらくこの地に逗留してアンズ達を手伝うという旨をソウジロウに伝えると、ソウジロウとしても現在のブッフベルクの状況が気になるということで、「西風の旅団」もまた近いうちにこの地へと向かうとアンズ達に告げる。それに対してイナリが微妙な表情を浮かべることになるのだが、その表情の意味をアンズ達が理解するのは、もう少し先の話である。
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第5話「歌姫の送迎」
 セルデシアの中で新年を迎えたポンド達は、(おそらくは新年限定モンスターとして設定されていた)七頭のミノタウロスの襲撃を受けるが、苦戦しつつもどうにか撃退する。
 その日の夜、ポンドは昔の夢を見た。それはボクサー時代、何度もしのぎを削ったライバル・伊知ガロンとの対戦時の記憶であったが、試合内容は明確に覚えていたものの、なぜか顔だけが思い出せずにいた。おそらくはこれが、この世界で一度死んだことによる「記憶の部分的消失」なのだろう。
 翌日、エラは鉱夫のオリバーから「採掘場で発掘された謎の鉱石」の鑑定を依頼されるが、エラの知識を以ってしてもその正体は分からず、やむなく村の魔法使いであるマリアの元へ届けることにする。エラがマリアの部屋の前まで来ると、部屋の中からマリアが「オピュクスと思しき人物」と会話していると思しき声が聞こえてきたが、その内容までは聞き取れず、ひとまず素直にノックして中にはいると、そこにはマリア以外誰もいなかった。エラはあえてそのことには言及せぬまま、ひとまず鉱石をマリアに渡して鑑定を依頼し、そのまま部屋を立ち去っていく。
 一方、アンズの元には西風の旅団のソウジロウから通信が届いた。ブッフベルクに向かおうとしていた彼等は、神聖皇国ウェストランデの領内に入ろうとしたところで、厳しい検問によって立ち往生してしまっているらしい。以前にレイコが支援物資を届けに来た時には難なく入国出来ていたことを考えると、ウェストランデの内部において、最近になって急に何らかの方針転換が発生しているようである。
 その頃、ココは商人のエンリケから、まもなく村の講堂前の広場で開催予定の新年会ステージに招聘出来そうな「吟遊詩人」の知り合いはいないかと尋ねられていたのだが、その話を聞いたイナリが横から割り込む形で、ミナミのプラント・フロウデンに所属する冒険者のマイを連れて来ることを提案する。イナリ曰く、マイとはエルダーテイルのイメージキャラクターでもある男性アイドル(女形)の鶴川舞のことであり、彼(彼女)はこの世界において「本人そのままの姿」で吟遊詩人として活動しているらしい。
 ただ、イナリが言うには、マイは以前にもこの近辺まで営業に出たことがあったが、その時になぜか異様なまでに怪物達に襲われて断念した、という経緯があるため、出来ればアルカナ・エースとして、マイのブッフベルクまでの送迎に協力してほしいと告げる。
 これに対して、もともと舞のファンだったポンドが全面的に賛成する一方で、日頃はプラント・フロウデンを警戒している筈のプロキオンがあえて何も言わずに視線をそらす中、レイコは自分の実家がマイを擁するUGN(名古屋の地下鉄の路線をモチーフとした男性アイドルグループ/下図)の支援者(パトロン)であり、マイとも面識があると告げた上で、彼女を招くなら自分が仲介役を担うと宣言し、彼女も含めた七人でマイを迎えに行くことになった。
+ UGN(左から順に、桜井通/名張城介/東山秀一/名張港介/鶴川舞/飯田カミル)
 その後、皆が出発の準備を整えていく中、ここまでの一連の流れの中でプロキオンの正体が本多大角(エラの実家と繋がりのある暴力団「犬狼会」の組長)であると確信したエラは、直接本人にそのことを確認すると、彼はそのことを認めた上で、彼の方もまたエラの正体に勘付いていたことを告げる。プロキオン(本多)曰く、レイコは彼の姪であり、彼女が言っていた通り、犬狼会はUGNを運営する芸能事務所と繋がりがあるが、本多が以前に聞いた話では、鶴川舞はゲーム内で自分の正体を隠しているらしく、プラント・フロウデンにいる「マイ」が本物かどうかは怪しいと睨んでいるらしい。
 なお、犬狼会の構成員達の中にもエルダーテイルのユーザーは多く、プロキオンはその中の何人かとは今も頻繁に連絡を取り合っているが、どうやらプラント・フロウデンには彼等と敵対する裏社会の組織も関わっているようで、それもまたプロキオンが彼等を警戒する理由の一つであるらしい。その上で、彼は今後も正体を隠した上でエラ達と行動を共にすると告げる。
 その後、彼等は馬車を使って最寄りの(名古屋港に相当する)港まで向かった上で、船で(伊勢湾に相当する)海を渡って待ち合わせ場所へと到着すると、そこで無事にマイ(下図左)および護衛のファルク(下図右)と合流する。マイの姿は確かにUGNの鶴川舞そのものであり、女形アイドルとしての営業スマイルで皆に挨拶するが、この時点で、ポンドだけはその仕草に若干の「違和感」を感じていた。一方、レイコがマイに話しかけようとすると、それに先んじる形でファルクが「いつもお世話になっております」と言って割って入ってきたため、この時点でレイコは、このファルクという男もUGNの関係者であるということを確信する。
+ マイ(左)・ファルク(右)
 こうして、ポンドだけがどこかすっきりしない心地ではあったものの、彼等はマイとファルクと共に再び乗船してブッフベルクへと向かうことになるのだが、その航海の途上でサファギン・シャークライダー(水棲緑鬼の鮫騎兵)の襲撃を受ける。ポンド達が不慣れな船上での戦いでバランスを崩しつつも応戦していると、やがてサファギン達を率いるラミア・クイーン(金鱗蛇女王)が姿を現すが、その顔は(かつて遭遇したグーラーと同様に)テティスと瓜二つであった。
 皆が微妙に困惑する中、更にその後方には、ローブを被った魔術師のような人物が宙に浮いた状態で現れ、船に向けて魔法攻撃を仕掛けてくる。その人物には「人間?」「冒険者?」という不可解なタグが表示され、そして遠目に見えたその顔は、アンズの現実世界における級友である徳永元とどこか似ているように思えた。そんな不可解な敵からの連続攻撃に苦戦しつつも、どうにかラミアとサファギン達を撃破すると、その「魔術師のような人物」は姿を消し、微妙な謎を残したまま、彼等は無事にブッフベルクへと帰還する。
 その後、ブッフベルクのステージでリハーサルをおこなっていたマイのダンスを見ていたポンドは、彼女のキレのあるパフォーマンスの中に「鶴川舞とは別の既視感」を感じ取る。それは、先日の夢の中に現れたかつてのライバル・ガロンの華麗なフットワークであった。ポンドの中で、マイのダンスとガロンのステップが重なって見えたのである。
 実は「マイ」の正体はガロンであり、護衛のファルクの方の正体が鶴川舞であった。ファルク(舞)曰く、「世界で一番かわいいボクが歌って踊る姿を、ボクも見てみたかった」とのことで、もともと舞のファンだったガロンに自分そっくりのアバターを与えていたらしい。二人からそのことを聞かされたポンドがどんな心境だったかは不明だが、彼は改めてファルク(舞)のことをフレンド登録し、ファルク(舞)もそれを受け入れる。そして、本番当日のマイ(ガロン)のステージは、大盛況のまま幕を閉じるのであった。
(目次に戻る)

第6話「明かされる真実」
 新年会ステージを終えた後も、マイとファルクはブッフベルクに滞在し続けていた。どうやらプラント・フロウデンの上層部から、そのまま現地に残り続けるように命じられていたらしい。その意図は彼等自身にも分からないようだが、二人はしばらくこの村で暮らすために、ポンドに頼んで村の各所を案内してもらいつつ、彼を「全冒険者の平等化」を掲げるプラント・フロウデンへと勧誘するが、ポンドはひとまず仲間に相談した上で決める、とだけ答える。
 一方、アンズとレイコはようやくブッフベルクに到着したソウジロウ率いる「西風の旅団」を出迎えていたが、その中にはアンズもレイコも見覚えのない少女達の姿もあった。古株の団員曰く、国境の検問を通過するために、ソウジロウが大地人の者達を説得する過程で、ウェストランデの女兵士達の一部が彼に魅了されてしまったらしい。彼女達は上司に対して「自分達が彼等を監視するから大丈夫」と言ってソウジロウ達の入国を認めさせ、そのまま実質的に西風の旅団の「名誉団員」として彼等の一行に加わることになった、とのことである。その上で、古株の団員はアンズにも遠回しに入団を促すような言葉をかけ、アンズもまた少し心が揺らぎ始める。
 その頃、エラは路地裏でイナリがプラント・フロウデンの上層部と通信している場面に遭遇する。どうやら彼等が派遣した冒険者集団がブッフベルクに近付きつつあるらしいが、その話を事前に聞かされていなかったイナリは困惑し、上層部への不信感を抱き始めていた。そして彼女はエラに対して、当初はエラをプラント・フロウデンに勧誘しようとしていた(それは密かにプロキオンに阻まれていた)が、今は「全冒険者の平等を目指す巨大ギルド」と「仲の良い人達だけで集まった小規模ギルド」のどちらが良いのか分からなくなりつつある、という本音を告げる。
 こうして各自がそれぞれに他のギルドとの間で接点を構築していく中、ココとプロキオンは、村の魔法使いであるマリアの部屋の前で、(先日のエラと同様に)「マリアと『オピュクスらしき人物』が話している声」を耳にする。更にココが耳をすませて聞いてみると、どうやらこの二人は元々知り合いらしく、先日の薬の一件の際には、マリアはココ達の実力を試すためにクランタンツェへと派遣したらしい。ココとプロキオンが困惑する中、二人の気配に気付いたマリアが扉を開けた瞬間、ココは即座に物陰に隠れる。だが、部屋の中にはマリア以外に誰もいなかった。
 ココはこの状況から、マリアの正体が(何らかの形でタグを「大地人」へと偽装した)冒険者なのではないかと疑い始め、ひとまずポンド達に相談した上で、真相を探るためにもう一度彼女の部屋へと忍び込むが、あっさりと見つかってしまう。しかし、そんなココに対して、マリアは「香里奈ちゃん」と呼びかけた。それはココの本名であり、この瞬間、ココはマリアの正体が級友の仙道華南であると確信する。どうやら彼女はサブ職業としての「筆写師」の力を用いて、自身のタグを書き換えていたらしい(なお、そのような技能の存在は一般には知られていない)。
 その後、マリアはココ、ポンド、エラ、アンズの四人を部屋に招き入れた上で、改めてオピュクスとの通信を開く。そして、オピュクスは自身の正体がアンズの同級生の徳永元であるということを告げた(どうやら彼もまた、アンズの正体には勘付いていたらしい)。彼は(ポンドが回復職を目指したのと同様に)自分自身が病弱な身体だったからこそ、ゲームの世界においてはサブ職業として「医者」を選択し、医療の専門家になろうと志していたのである。その上で、マリアとオピュクスは、自分達が知る限りの「ブッフベルクの真実」を語り始めた。

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 徳永元には、名古屋大学の大学院に通う兄がいた。彼は高校時代から天才プログラマーとして有名で、エルダーテイルにも日本版が発売される以前からのヘビーユーザーであり、いつしか下請けとして運営にも関わるようになっていた。ある時、そんな彼がエルダーテイルの運営会社に対して、自作のイベント企画を持ち込んだ。それが(以前にソウジロウが語っていた)「内部情報がリークされた後に、結局実現されずに終わった幻の企画」としての「オースの街を舞台にした期間限定クエスト」だったのである。
 企画が頓挫した原因は、運営会社と徳永の兄との間での方針対立であった。徳永兄はこのイベントに登場するヒロインとして、他界した自分の元恋人の姿を模したキャラを用意していたが、運営会社側は企画の途中で、このイベントのヒロインを「エルダーテイルのイメージキャラクターを務める『名古屋のローカルアイドル』をモデルにしたキャラ」へと差し替える方針を打ち出したのである(その背後には、そのアイドルのパトロンである暴力団の関与もあったらしい)。
 徳永兄にとっては、この企画を通じて「ゲームの世界で彼女を蘇らせること」が悲願だったため、どうしてもその方針を受け入れられず、彼は企画から手を引くことを宣言する。しかし、既に彼の持ち込んだ諸々のデータは運営会社側が掌握していたため、彼等はそれらを用いて徳永兄の承諾無しに企画を続行しようとしていた。それに対して憤慨した徳永兄は度々運営会社に抗議に行っていたが、最終的には誰にも何も告げぬまま、ある日唐突に消息を断ってしまう。
 一方、運営会社に務める父を持つ仙道果南(マリア)は、幼少期からテストプレイヤーとしてエルダーテイルに関わっており、徳永兄弟とも、そして徳永兄の亡き恋人とも面識があったため、徳永兄に対して同情的であった。彼女の父が言うには、徳永兄が消息を絶った理由は「やってはならないことをやってしまったから」ということらしいが、その説明では納得出来なかった彼女は、兄の失踪を不審に思っていた徳永元(オピュクス)と協力し、この事件の真相を調べようとしていた。その過程で大災害が起きて、二人とも他の冒険者と同様に、この世界に閉じ込められることになったのである。
 その後、オピュクス(徳永元)は、上記の「名古屋のローカルアイドル」がミナミのプラント・フロウデンで活動していると聞き、兄の失踪に何か関わっているのではないかと調べてみたが、これといった手掛かりは得られなかった。そして、彼(彼女)の名前と関係するクランタンツェ(鶴舞)という遺跡が存在することを知り、プラント・フロウデンを抜けた上で同地へと赴き、その遺跡内を徹底調査してみたが、結局、何も見つからなかったらしい。
 これに対して、マリア(仙道果南)は徳永兄が通っていた大学をモデルとしたブッフベルクに何か鍵があるのではないかと考え、大地人のフリをして潜入調査を続けた結果、この地に「世界を揺るがす何か」が眠っているということは分かったが、まだその具体的な内容までは掴みかねている、という状態らしい(なお、大地人に化けていたのは、運営側と通じた人間であるが故に、自分の存在が知られると面倒なことになるかもしれない、と考えたが故である)。

 ******

 ココ達がそんな話を聞かされている中、唐突に建物の外から喧騒が聞こえてくる。どうやらプラント・フロウデンの冒険者達が到着し、西風の旅団と村の中央広場で対峙しているらしい。
 プラント・フロウデン側は、この地に「世界を危険に晒す何か」が眠っていると主張した上で、神聖皇国ウェストランデからの委託を受けた上でこの地の調査に来たと主張する(なお、イナリからの情報によると、彼等はかなり強引な手法でこの地の秘密を探ろうとしているらしい)。これに対して西風の旅団側は、この地が長年に渡ってウェストランデの管轄外にあったという事実を踏まえた上で、この地の禁忌に触れるような調査活動を勧めるのであれば、まず領主グレンおよびその調査依頼を受けたアンズ達の許可を得る必要がある、と主張していた。
 このような状況下において、グレンはひとまず両軍と交渉して「3日」の猶予を貰った上で、その間にこの村に眠る「禁忌」の問題を解決するように改めてポンド達に依頼し、ポンド達もまた「神殿に選ばれし者」として、最後までこの問題を解決するために尽力することを約束するのであった。
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第7話「守られる真実」
 村に眠る謎の力を調べるにあたって、マリアがポンド達に「不穏な憶測」を告げる。以前(第5話冒頭)エラ経由でマリアに解析を依頼した「謎の鉱石」に関して、マリアが調べてみた結果、どうやらそれは「エルダーテイルを破壊しうる特殊な装置」の欠片である可能性が高いらしい(ただし、それは大災害後の現状においては、「元の世界への帰還を前提にしないならば意味を成さない装置」でもあるらしい)。もしかしたら、それは徳永兄が「自分を裏切った運営への復讐として仕組んだ装置」なのかもしれない、というのがマリアの憶測だった。
 一方、領主のグレン曰く、村の言い伝えによれば、この村に眠る「世界を危険に晒す何か」はシュピーゲルの泉の底にあるという。しかし、泉の守り人であるテティスが言うには、この泉の水には特殊な成分が含まれており、冒険者でも大地人でも、その水の中に長時間浸かり続けることは危険らしい。そこで、突貫で治水工事をおこない、泉の水を外に流しだすという作業が敢行され、村人総出の協力を得た上で、どうにか「膝下程度の深さ」まで水を減らすことに成功した(ただ、それでも水底からの湧き水は発生し続けていたため、完全に枯らすことは出来なかった)。
 その上でポンド達が水底近辺を調べた結果、壁面に隠し扉のような装置を発見する。その扉を開けた先には狭い通路のような洞窟が存在し、そのまま奥に足を踏み入れていくと、やがて水溜り状態の窪みへと辿り着き、その中央部には巨大な水晶が設置されていた。そして、その水晶に映った彼等の姿には、通常のステータス表示画面と同じような形で、彼等の「プレイヤーとしての個人情報(本名、IPアドレス、クレジットカード番号、etc)」が表示されていたのである。
 唐突な状況に困惑する彼等の前に「テティスとよく似た(翼の生えた)姿の女性」(下図)が現れ、「この水晶を破壊してほしい」と告げる。彼女が言うには、この水晶を作ったのは「世界の創造主(エルダーテイルの運営チーム)の一人」であり、その人物は「自分が提供しようとしたイベント」を自分の意に反する形で使われることを防ぐために、強引にそのプログラムを起動しようとするとこの水晶が出現する、という仕組みを組み込んでいた。ところが、それが大災害の弊害によって中途半端な形でこの地に具現化してしまったらしい。
+ テティスとよく似た女性
 彼女は明言しなかったが、おそらくその「創造主の一人」は徳永兄のことなのだろう。そして「彼女」こそが徳永兄の亡き恋人をモデルに作られた「本来計画されていたオースの街のイベントのヒロイン」であり、テティスはイベントのナビゲーターとして作られた彼女の分身体、そして彼女とよく似た姿の怪物達は、彼女を生み出す上で作成したサンプルの3Dモデルの廃棄データが、怪物達と融合した結果として発生した代物で、以前(第5話後半)に海で彼等を襲った「黄衣の魔術師」は、その「創造主の一人」の鶴川舞に対する怨念が具現化した存在らしい。
 ただ、「創造主の一人」としても、あくまでこの水晶は「他の創造主に対する牽制」として作られたものであり、それが起動してしまうのは彼の本位ではないと彼女は考えており、悪意のある冒険者によってその情報が利用されてしまうよりは、善意の冒険者に壊してほしいと考えていた。そんな彼女の想いから、徳永家の家族共用クラウド内のアドレス帳に入っていたアンズのメールアドレス経由で、そのアドレスと紐付けられていたIDの持ち主およびその所属ギルドの面々が、「このイベントの参加者」としてブッフベルクの大神殿に登録されたらしい。
 なお、最終的に「創造主の一人」は、他の創造主達との関係修復を諦め、別の世界(ゲーム)で当初目指していたイベントを実現することにしたらしい。「彼女」は自分の最後の役目として、冒険者達に水晶の破壊を託した上で、「次はアトラタンで会おう」という彼の伝言を告げて( 他のゲーム の宣伝をするという、運営側の管理するキャラとしての明確な禁則事項を犯したことで)消滅していった。
 そして、彼等が水晶に近付こうとした瞬間、水晶の周囲に大量のサファギン(水棲緑鬼)達と、巨大な下水白鰐(ホワイト・アリゲーター)が現れる。激戦の末、怪物達の包囲網を突破した彼等は、ポンドの尽力によって水晶の破壊に成功し、サファギンを発生させていた魔法陣に「蓋」をした上で、その洞窟を後にした。
 帰還した彼等を出迎えたテティスは(「本体」が消滅したことにより、「泉の管理人」としての制約から解き放たれたのか)どこか晴れやかな雰囲気であった。そして残された魔法陣はマリアによって完全に解除され、シュピーゲルの泉は再び水路を閉じることによって、元の姿に戻ることになる。
 そして、彼等は「水晶」の話をプラントフロウデンと西風の旅団の双方に伝えた結果、ミナミ側もアキバ側もまだこの地に「水晶の欠片」が残っている可能性を考慮した上で、最終的には両陣営のトップの許可を得た上で、当面はアルカナ・エースがこのまま(イナリがミナミ側の、プロキオンがアキバ側の代理人として同行することを前提に)ブッフベルクに駐留して調査を続ける、という形で決着することになった。
 こうしてエルダーテイル(の個人情報保護機能)の崩壊の危機はひとまず消滅し、ブッフベルクの人々は(運営会社内の路線対立がもたらした)忌まわしき呪いから解放された。そして彼等と冒険者達による開拓の物語は、改めてここから新たな一歩を踏み出すことになるのであった。
(『Die Siedler von Buchberg』完)
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最終更新:2021年01月23日 20:54