2021年度前期『アサルトエンジン』キャンペーン
『蒼天の五芒星』


PC一覧
+ プロフィール
(出典: まりメーカー
プレイヤー:Skeleton681
出自:アドルフ
運命:手練れ
瑕疵:災難
身長:175
体重:58
髪の色:茶色
瞳の色:赤
肌の色:普通

学園長のアドルフの子なのに発現が遅く、父のコネで学園に入ったのかと揶揄されることも多い。実際、親父がグラディウスなのでサジタリアであるのに気が付くのが遅かったという面もある。また、機械いじりが好きだったことが「トゥーハンド」を扱える要因の一つなのは言うまでもないだろう。
+ プロフィール
(出典: つちのこめーかー
プレイヤー:あさぎ
出自:親が研究職員
運命:高潔
瑕疵:悲嘆
身長:160cm
体重:51kg
髪の色:青
瞳の色:緑
肌の色:普通

親が第七研究所の職員。モルフやアーティファクトの調査について行ったことがある。
「ハイランダー憲章を遵守し、人々を守る」という信念を持つ。ただ、ちょっとマイナス思考であり、物事を悪く捉えがち。
力が強い。ヨハンと同じ蒸気機関研究部に所属しており、スポーツカー風の車をデザインした。運転は上手くない。


+ プロフィール
(出典: つちのこめーかー
プレイヤー:rattrap
出自:アサルトエンジンの上級職員
運命:思慮
瑕疵:意志薄弱
身長:162cm
体重:50kg
髪の色:金
瞳の色:青
肌の色:普通

アサルトエンジン上級職員リチャード・ハーツの娘。温厚で思慮深いが決断力が弱く、周りの意見に流されることもしばしば。そんな弱い自分を変えたいと内心思っており、いざというときは自ら思いきった行動に出ることも。他のメンバーに比べ運動神経は悪く、頭脳派なので参謀、サポート役に回ることが多い。基本、誰に対してもさん付けをし丁寧な口調で話す。好物はチョコレートで、趣味は読書。特に英雄譚を好む。ジュリィとはルームメートの仲。図書委員会所属。
+ プロフィール
プレイヤー:もみぢ
出自:博打打
運命:直観
瑕疵:モノ好き
身長:165
体重:60
髪の色:黒
瞳の色:黄
肌の色:白め

Sieg Schicksal
鉱山町マインミラル出身の少年。親の影響を受け、自分も賭け事の真似事をしていた。「賭けは大胆に、ただし奥の手を残しておくこと」が父の教え。何事も直感的に判断しがちで、ハイリスクハイリターンな行動への抵抗が少ない。やってみたらなんとかなる!の精神で生きており、興味を持ったことに軽率に首を突っ込む。甘いものが好きで最近はアイスクリームがお気に入り。恐らく方向音痴。
+ プロフィール
プレイヤー:天道 蠱毒
出自:商人(a-3)
運命:神秘(c-2)
瑕疵:頑固(a-8)
身長:157
体重:45
髪の色:白
瞳の色:赤
肌の色:白

Noël Verlaine
神秘的な雰囲気のアルビノの少年。やや裕福な商人の家の生まれであり、体が弱かったために半ば軟禁状態で育った。やることがなかったため勉学に打ち込み、家では一番の知恵者として家督を継いだ弟の補佐をしていたところ、なんやかんやあって(まだ未定、そのうち多分生える)ハイランダーとして覚醒、この度アサルトエンジンに入学した。
物静かでいつもほほえみをたたえた美少年。穏やかで控えめ……かとおもいきや、世間知らずで好奇心旺盛な天然ボケ属性。自分の限界をよくわかっていないため無理をしがち。また、これと決めたことは譲らない頑固さも持つ。
「僕はノエル・ヴェルレーヌだよ。よろしくね」
「ここがアサルトエンジンかあ……すごい、とっても広いね! こっちには何があるんだろう?(そして迷子になる)」
「(クリーチャー化した狼を見て)わあ、でっかい狼だ!」
「『汝、人々を守護するハイランダーなり』、だよね。うん、いい言葉だな、やっぱり。そういうわけで……君たちのことは倒させてもらおうかな」

  • 弟の名前はテオドール(Théodore)。黒髪黒目。APPはいい方だがノエルと比べるとやはり劣る。ノエルには「テオ」と呼ばれている。
  • 父親が死んでいる。そのため弟が家督を継いでいる。



セッション概要
+ 第1話「運命の邂逅」
 学園機関アサルトエンジンの学長アドルフ・ショーペンハウアーの元に、鉄道王国エトレイルの首都リトルウッドシティに住む知人から「古代遺跡で危険なアーティファクトを発見した」という極秘連絡が届いた。
+ アドルフ
 アドルフは息子のクロードに対して、同地へと赴いてそのアーティファクトを受け取り、アサルトエンジンへと持ち帰るように命じると、クロードは同級生のジュリィ&フリーダと共にリトルウッドシティへと向かう。
 一方、その頃、アサルトエンジンへと向かう汽車に乗っていた新入生のジークとノエルは、その途上に位置するリトルウッドシティの駅を目前にして、ダガーウルフの集団による襲撃を受けていた。二人は即座にヘリックスを結び、危険を察して駆けつけたクロード達とも合流した上で、共闘してダガーウルフの撃退に成功する。これが、後に「蒼天の五芒星」と呼ばれることになる5人のハイランダー達の邂逅の瞬間であった。
 その後、アドルフから「リトルウッドシティがモルフとクリーチャーの襲撃を受けている」という念話連絡がクロードに届き、彼等は急いで街まで戻ろうとするが、その過程でクロードとジークが他の三人とはぐれてしまう。
 先行して現場に到着することになったジュリィ、フリーダ、ノエルの三人は、リトルウッドシティの警邏隊に対して、「惑乱のダーナ」(カンナビーク地方を拠点とするジェネシスの一人)傘下の戦闘型モルフである「翠鞭のジーン」に率いられたガンレイヴンを中心とするクリーチャー達が、激しい交戦状態にある場面を目撃する。彼女達が聞かされている情報によれば、ジーンはダーナ傘下の中でも強力なモルフの一人であり、今の彼女達で太刀打ち出来る相手ではない。
+ ダーナ
+ ジーン
 そんな中、フリーダとノエルは、街の混乱に乗じて、クロードが向かう予定だった「アドルフの知人」の研究拠点から、(ジーン同様、ダーナ傘下の)斥候型モルフである「影足のバット」が出て来るのを発見する。二人は挟み撃ちにして彼を捕縛を試みようとするが、バットは上着の衣嚢から「銀の腕輪」を取り出し、それを装着することで(本来は戦闘型ではないにもかかわらず)強大な力を手に入れ、二人に襲いかかってきた。
+ バット
 フリーダがノエルを庇いつつどうにか耐え忍ぶ中、やがてジュリィ、クロード、ジークが加勢に加わると、バットの側にもジーンが連れていたガンレイヴン達の一部が加勢に来るが、ノエルの放った複合技によってそれらは瞬時に一掃され、最後は皆の想いを乗せたジュリィの一撃が炸裂し、彼等はバットを倒すことに成功する。
 だが、そこに今度はジーンが現れ、バットが持っていた銀の腕輪を渡すようにクロード達に迫る。しかし、ここで更なる乱入者が現れた。カンナビーク地方のジェネシス達を束ねる立場にいると言われる「白銀のレギント」が唐突に姿を現し、ジーンの前に立ちはだかったのである。
+ レギント
 レギントが(自分と同じ色の髪と瞳を持つ)ノエルに視線を向けながら、ジーンに対して「彼に手を出すことは許さない」と告げると、ジーンは不服そうな表情を浮かべつつも引き下がり、そしてレギントもまたノエルに「ようやく目覚めたのですね」とだけ告げて、その場から消え去った(なお、この過程においてジークは、ノエルとレギントの間に「共通する何か」の存在を感じ取っていた)。
 その後、アドルフの知人であるケネス・ルードヴィッヒの元へと赴いたクロード達は、バットが持っていた銀の腕輪はケネスの研究室から盗み出した代物であり、それこそがアドルフ経由で輸送を頼まれた「危険なアーティファクト」であるということを聞かされる。おそらく、汽車を襲撃したダガーウルフ達も、ジーンに率いられたクリーチャー部隊も、バットによる腕輪入手のための陽動作戦だったのであろう。
+ ケネス
 ケネス曰く、この腕輪には「装着者の身体能力を飛躍的に向上させる効果」があり、もし「元々強力な戦闘用モルフ」が装着した場合は、手がつけられない程の強大な力を手に入れる可能性を秘めているらしい(なお、ハイランダーが装着した場合は暴走して自我を失う可能性もある、というのが彼の見解である)。
 一方、レギントがノエルに対して見せた不可解な言動に関しては、「ノエルは、レギントが遥か昔に生み出した『自身の遺伝子を埋め込んだハイランダー』の末裔なのでは?」というのがケネスの憶測であり、もしそうだとすれば、色々な意味でノエルの存在は人間側にとってもジェネシス側にとっても重要(かつ危険?)な存在、ということになる。
 ひとまず、この件については極力情報を伏せるという前提の上で、アドルフとも念話で相談した結果、この情報を知るクロードとジークは、機密保持および安全確保のために、新学期からはノエルと同室の男子寮で暮らすという方針が決定される(なお、フリーダとジュリィはもともと女子寮で同室であった)。こうして、予期せぬ形で二人の新入生を加えた上で、クロード達は当初の目的である銀の腕輪を届けるべく、アサルトエンジンへと帰還するのであった。
+ 第2話「意志を断つ秘術」
 クロード、ジュリィ、フリーダに案内される形で無事にアサルトエンジンへと到着したノエルとジークは、メイド服姿の女子学生ジャネットや新聞部部員のアンナと遭遇した後、クロードと同じ部屋へと案内され、彼等と共にアドルフに事の次第の報告した上で、アドルフ(割烹着姿)の用意した「手作り唐揚げ」を堪能する。
+ ジャネット
+ アンナ
 そして迎えた入学式では、アドルフ(礼服姿)から「ハイランダー憲章」について改めて聞かされたノエルとジークは、エリート教員クラーク・リンゼントのクラスへと配属されることになった。アサルトエンジンでは学年混合型でクラスが編成されるのが一般的であり、このクラスにはクロード、ジュリィ、フリーダの三人も配属されている。おそらくは「ノエルの出自に関する情報を共有する者達」を同じクラスにまとめておくことで、何かあった時に対応しやすくするように、というアドルフの配慮であろう。
+ クラーク
 他のクラスメートには、上述の新聞部のアンナの他、ジュリィも所属する蒸気機関研究部のヨハンや、フットボール部のサンデル、フェンシング部のライザー、美術部のアイリーン、テーブルゲーム部のメイサといった面々が集まっており、彼等はそれぞれにノエルとジークを自身の部活へと勧誘しようとするが、ひとまず彼等は、ジュリィの勧めもあって、蒸気機関研究部へと見学に行くことになった。
+ ヨハン(蒸気機関研究部)
+ サンデル(フットボール部)
+ ライザー(フェンシング部)
+ アイリーン(美術部)
+ メイサ(テーブルゲーム部)
 この日はちょうどジュリィの設計した新型蒸気自動車の試運転が予定されており、さっそく試乗テストを実施しようとしたジュリィであったが、どうやら部品の一つが劣化していたようで、上手く作動しなかったため、やむなく五人はヨハンと共に部品の買い出しのため、港の方面へと向かうことにした。その途上で、警邏隊のゲイリー、(ジークの故郷である)マインミラルの代官ザイフリート、シフォングループ財団の代表ミーシャといった人々と遭遇した彼等は、最終的にミーシャの傘下の工場にて必要な部品を購入することになる。
+ ゲイリー
+ ザイフリート
+ ミーシャ
 だが、そんな中でアドルフからクロードに連絡が届いた。どうやら港の近辺で(唐揚げの材料となる)小麦粉を乗せた輸送車が襲撃を受けているらしい。すぐさま現地へと向かったクロード達は、輸送車を襲っていたパイルモンキーをあっさりと殲滅するが、その過程で、パイルモンキー達が小麦粉の中に何かを混ぜ込んでいる姿を目撃する。その「何か」の正体が気になった彼等は、自動車の部品はヨハンに預けた上で、第七研究所へと「何かが混入された小麦粉袋」を届けることにした。
 クロード達も手伝う形で所長のトーマスと共にその中身を解析した結果、どうやら混ぜ込まれた物質は「ウィルキラー」と呼ばれる特殊な薬品で、ハイランダーがこれを体内に摂取した場合、ウィルの力を発動させるごとに身体を内側から破壊していくという効能を秘めており、空気中に香として散布するだけでも一定の効果を効果を有しているほど危険な粉末らしい。この薬品は数百年前に一部のジェネシスによって生み出されたものの、現代では既にその技術は失われているものとされていたが、もしこれを量産出来る体制を現代のジェネシスが整えているとすれば、相当な脅威である。
+ トーマス
 トーマス曰く、その数百年前の記録が記載された文献は図書館のどこかに眠っている、とのことだったので、ひとまずクロード達は図書館へと向かうことにした。ここでは図書委員のフリーダが中心となり、彼女と顔馴染みの本好きの少女ティリーの助言もあって、無事に該当する歴史書の発見に成功する。その書物によると、どうやらアサルトエンジンから見て北西部に位置するゼッフル鉱山で採掘される鉱物が、ウィルキラーの原料となっていたらしい。
+ ティリー
 この件について、ジュリィが(第七研究所で働いている)母親に連絡したところ、現在はゼッフル鉱山の採掘坑は既に廃坑となっている筈なのだが、どうやら最近になってその廃坑の近くで行方不明となった者達がいるらしい。ひとまず、この時点で既に陽は落ちていたため、彼等は明日、現地に行って状況を確認してみることにした。
 翌朝。ヨハンの手によって修復が完了したジュリィの蒸気自動車に乗って、彼等はゼッフル鉱山へと向かう。その途上、クロードが車酔いに苦しむというアクシデントはあったものの、どうにか彼等は無事に現地へと辿り着くことに成功した。そして、廃坑となっている筈の旧採掘坑の中から光が漏れていることに気付いた彼等がその奥へと歩を進めると、その先で彼等を待ち受けていたのは、巨大な斧を持った筋肉質の男と、彼に率いられたアックスラビットとライフルアリゲーターの集団であり、その背後には捕らえられた人々の姿もあった。
+ 巨大な斧を持った筋肉質の男
 この男の名はトーラス。ハイランダーを特に強く毛嫌いするジェネシス「清魂のカルシャー」(下図)の傘下のモルフである。どうやら彼等はここでウィルキラーの原料の採掘作業をおこなっていたらしい(捕らえられた人々は、その効果を確認するための実験台とされていたようだが、いずれもハイランダーではなかったため、全員無傷であった)。
+ カルシャー
 そしてトーラスは特殊な装置によってウィルキラーが空中散布された状態で、モルフとしての力を発動させ(その顔面に銀の仮面を発生させ)、クロード達へと襲いかかる。ウィルを使用する度に軽微な損傷を受けるという特殊な戦場において、序盤はクロード達は苦戦を強いられるが、フリーダの回復アーツによってどうにか戦線を維持しつつ、ノエルとクロードの手によってその装置の破壊に成功した後は、ようやく本領発揮出来るようになったジークとジュリィの全力攻撃でトーラスを追い詰めていき、最後はクロードの矢によってトーラスを粉砕する。
 こうして無事に敵を殲滅したクロード達は、再びジュリィの母親経由でアサルトエンジンに連絡して、捕らえられていた人々を保護するための護送車と、廃坑の「後始末」のための破壊工作部隊を派遣してもらった上で、燃え上がる廃坑の爆炎を背にしながら、アサルトエンジンへと向けて蒸気自動車に乗って走り去っていくのであった。
+ 第3話「消えた報道者」
 廃坑の一件から数日後。クロード達は担任のクラークから極秘任務を受けることになった。それは、行方不明となった新聞部員アンナの捜索である。
 アンナは現在、表向きは「病欠」として学校を欠席しているが、実は数日前、新入生向けの部活紹介記事の取材中に姿を消してしまったらしい。もしかしたら、彼女が取材に向かった部活のどこかに「ジェネシスのスパイ(モルフ?)」が潜んでいるかもしれないと考えたクラークは、(表立った捜査だとスパイに勘付かれてしまう可能性もあるため)「新入生二人の部活見学&その付添人」という形で、五人に該当する部活の様子を調べるように依頼した。
 なお、現時点で容疑のかかっている「失踪直前にアンナが訪問した部活」は、「テーブルゲーム部」「フットブール部」「美術部」「フェンシング部」の四つであり、いずれもクロード達の級友が所属する部活ばかりであった。
 そんな中、まず最初に彼等が向かったのは、メイサを中心とする「テーブルゲーム部」である。表向きは見学という形で、フリーダがメイサ(ルーク落とし)を相手にチェスを挑み(勝利)、他の四人がハイランダーゲーム(人生ゲームのハイランダー版)をプレイしていると(ノエルが勝利、ジュリィが2着)、ノエルとジークは「部室の外からノエルを見つめながら不気味な笑みを浮かべる、フード付きパーカーを羽織った少女」を発見する。ノエルは彼女と目が合った瞬間、言いようのない「寒気」を感じたが、その直後に彼女はその場を立ち去って行った。
+ パーカーの少女
 メイサに聞いてみたところ、その少女は以前に見学に来ていた新入生で、「レナ」と名乗っていたが、所属クラスなどは聞きそびれていたらしい。頭脳型のゲームにおいても運型のゲームにおいても部員を相手にあっさりと勝利を収める実力者で、いつも不気味な笑みを浮かべていたが、ゲームを楽しんでいるというよりは、どこか達観した視点から、周囲を見下すような雰囲気を漂わせていた、とのことである。
 続いて彼等は、サンデルを擁する「フットボール部」の見学へと向かうことになった。部員達(上半身を一切使わないというハンデ付き)を相手に5対5のミニゲームをおこなった彼等は、ノエル、クロード、フリーダの活躍によって辛くも「3-2」で勝利を収める。そんな彼等に対してサンデルは入部を進めるが、ここでジークは彼が持っていた新入部員名簿の中に「レナ」という名前を発見する。彼女は(クラークの後輩である)ハイン先生のクラスの所属で、「マネージャー希望」として仮登録しているらしいが、サンデル曰く「選手としても通用しそうな身体能力と動体視力の持ち主のように見えた」とのことである。
 その後、今度はアイリーンが所属する「美術部」へと彼等が足を運ぶと、そこは比較的静かな雰囲気の部室であり、油絵の具や彫刻用の木材や石膏の匂いが漂っていた。そんな中、フリーダとジュリィは「言いようのない程の不気味な雰囲気の絵」を発見する。アイリーン曰く、それは「レナ」と名乗る体験入部の少女が描いていった絵画だそうで、アイリーンもそれが何を描こうとした絵なのかは分からなかったが、それを描いている時のレナからは、名状しがたい独特なオーラが漂っていたという。
 最後に、ライザーが所属する「フェンシング部」の体験会に参加した彼等は、少し短めのフルーレを用いた彼と対戦し、ジュリィとジークが見事に勝利を収める。ライザー曰く、この体験会の時期に彼に勝利したのはこの二人を含めて三人のみであり、その「最初の一人」となったのは、「レナ」という少女であったと彼は伝える。独特の佇まいから繰り出されたレナの一撃は、ライザーの目には全く捉えることが出来ず、おそらく同じフルーレを使っていても彼女には勝てなかっただろう、とライザーは語っていた。
 ここまでの話を聞く限り、どうやら数日前にアンナが向かった取材先には、全て「レナ」という謎の少女が見学に来て、鮮烈な印象を残していたらしい。そして、もしアンナがレナのような「異彩を放つ少女」と遭遇していたら、おそらく積極的に取材を試みた可能性が高いだろう。そう考えると、次に調査すべきは、そのレナという少女の素性なのかもしれない。
 この段階で、ひとまずジークがクラークに中間報告へと向かい、その間に他の面々はレナの担任であるハインに話を聞きに行く。ハイン曰く、「レナ・マッツィーニ」は今学期からの新入生だが、入学が一度内定した後、しばらく音信不通となった後に、新学期開始直前になって連絡がついて入学を果たした、という奇妙な経歴の持ち主らしい。今のところ成績は優秀で、クラスの中では主に男子生徒達からはよく声をかけられるが、いつも笑顔であしらっており、特に仲の良い友人などはいない、とのことである。
+ ハイン
 ハインのこの証言を聞いた上で、レナの素性に対して更なる疑惑が湧き上がったクロード達は、「優秀な生徒らしいので、生徒会に勧誘したい」という名目でハインから彼女の寮の部屋番号を聞き出し、そしてフリーダとジュリィが彼女の部屋へと赴くが、レナは留守のようだったので、ひとまずクロード名義で「体育館裏へ来てほしい」という手紙を置いて、その場を去った。
 そして翌日。クロードが「生徒会からのスカウト」、ノエルとジークが「レナと同様にクロードに呼び出された優秀な一年生」という体裁で体育館裏へと赴き、フリーダとジュリィがこっそりと隠れて様子を見ていると、そこにレナが現れる。
 クロードがレナに対して素性を探ろうと質問を投げかけると、彼女は自分に「何らかの嫌疑」がかけられていることに気付いた上で、あえてクロードからの質問にはまともに答えないまま、ノエルに対して、ジークとクロードが「大切な存在」か否かを問いかけた。彼がその問いに対して肯定すると、彼女は「この二人がいる限り、『こちら側』には来てくれないのね」と語り、クロードとジークに対して露骨な敵意の視線を向ける。
 レナの正体は、レギントの妹であるジェネシス「漆黒のアルト」(下図)の分身体として生み出された特殊なクリーチャーであった。アルトは、ハイランダーの死体からアンデッドのクリーチャーを生み出す研究の「素材」を得るために、自身と感覚を共有する「人形」としてのレナを、(殉職した多くのハイランダー達の墓地を内包する)この学園に潜入させていたのである。
+ アルト
 その上で、彼女はノエルの存在に気付き、長年の悲願であったあ「兄の遺伝子を受け継ぐ素材(死体)」を切望していたものの、レギントがノエルを殺すことを許さないため、ひとまずノエルを自身の陣営に連れ込んで、遺伝子を採取したいと考えていたらしい。
 明らかに危険な空気が漂い始めたところで、フリーダとジュリィもまたその場に姿を現すが、アルトは彼女達のことを「ノエルの配合相手の候補」と考えていたようで、彼女達には手を出そうとはしない(何を基準にアルトがそう考えていたのかは不明だが、その口ぶりからして、どうやらレギントも「この二人」のことは認知していたようである)。
 とはいえ、既に正体が知られた以上、これ以上潜入し続けることは不可能だと悟ったレナ(アルト)は、せめて最後にジークとクロードを始末した上で学園から去ろうと考え、地中から(おそらく前の晩に埋め込んだと思われる)大量のグールを呼び出し、ジークを襲わせようとする。しかし、五人の一糸乱れぬ連携攻撃によって、グール達は自身のその手がジークに届くよりも前に殲滅され、レナ(アルト)はそれでも不気味な笑みを浮かべながらジークを殺そうと自ら襲いかかるが、致命傷を与えるには至らず、最後はジーク自身の手によって斃された。なお、「レナ」の消滅直前の時点で、アルトはジークの中にも「特殊な何か」を見出していたようである。
 戦いを終えた後、彼等は一通りの経緯をクラークに報告した上で、改めてフリーダとジュリィが寮母から(クロードからの捜査令状を手に)合鍵を借りてレナの部屋を確認してみたところ、そこには冷凍睡眠状態となっていたアンナの姿があった。目覚めた後にアンナから事情を聞いたところ、彼女は「優秀な一年生」としてのレナに興味を抱き、個人取材を申し込んだところ、彼女に自室へと招き入れられ、そこから先の記憶がないらしい。
 レナ(アルト)の口ぶりからして、どうやらアルトはレギントへの「お土産(研究素材)」としてアンナを持ち帰ろうと考えていたようであり、それはすなわち、アルトの中ではアンナはノエルの配合相手としては「不適格」とみなされていた、ということを意味している。
 結局のところ、アルトが何を基準に「ノエルの配合相手候補」を見定めているのかは未だ不明だが、少なくとも「ノエルの遺伝子を受け継ぐ者」が生まれるまでは、彼女がノエルを害する心配は無いだろう。とはいえ、レナの消滅直前に、彼女はいずれ「自分の本体」が会いに行くことを仄めかしていた以上、今後はより一層の警戒が必要となることは間違いない。
+ 第4話「封印と共鳴」
 レナの一件から数週間後。クロードはアドルフ学園長に呼び出され、ノエルに関する私見を問われるが、約一ヶ月ほど寝食を共にした立場として、今のところ彼自身からは危険な兆候は感じられないという旨を告げる。その上で、「クロードへのお見合い話」がアドルフの元に届いているということを告げられるが、ひとまずその件に関して、クロードは現時点での回答を避けた。
 一方、久しぶりに実家に戻ったジュリィは、母親が妙に疲れている様子を目の当たりにする。その後、フリーダからのヘリックス経由で、アンナが仕入れた「第七研究所内でのジュリィの母親に関する不穏な噂」を聞いたことで、余計に心配を募らせたジュリィが母に事情を問い質したところ、母親曰く、どうやら現在、彼女は(以前にジュリィ達が持ち帰った)「銀の腕輪」の実験に関わっているらしい。
 当初、あの腕輪は「身体能力を大幅に強化させるアーティファクト」として危険視されていたが、研究所内での調査によると、どうやらそれはあの腕輪に秘められた力のごく一部にすぎず、むしろ「強化された身体能力」を利用して「何らかの別の主機能」を発動させるために作られた腕輪である可能性が高い、というのが現時点での所長の見解らしい。
 そして、この腕輪の力を発動させることが出来るのは、ダーナ傘下のモルフ達と、彼等と類似した遺伝子を持つ者達だけらしいのだが、どうやら研究所内で最も彼等と近い遺伝子を有しているのが(その理由は不明だが)ジュリィの母親であるという。そのため、彼女は自分が実験台となって腕輪の機能を解明しようとしているのだが、腕輪の装着中は精神的な負荷がかかるようで、その疲労感が見た目にも現れてしまっているようである。
 母の身を案じたジュリィは、ひとまず実験の頻度を下げるように母に告げ、母はその申し出を了承しつつ、「この実験は私がやりきる(自分の遺伝子を受け継ぐジュリィはやらなくていい)」という意志を改めて示す。
 同じ頃、ノエルとジークはアカデミア内のアイスクリーム屋の近くで、「巨大な箱」を持っていた美術部のアイリーンが、その重さに耐えかねて倒れる場面に遭遇する。アイリーン曰く、その箱の中に入っているのは、美術部がスケッチ用の題材として購入した、(アカデミアの北西部に位置する)クリマタリア産の特殊な観葉植物らしいのだが、彼女が倒れた際に破損した箱の隙間から、ジークは不穏な気配を感じ取る。
 ジークにそのことを指摘されたアイリーンが箱の隙間から中を覗き込もうとすると、そこから唐突に不気味な毒々しい色の虫が現れ、彼女に向かって襲いかかってきた。即座にノエルがアーツを用いてその虫の焼殺に成功すると、彼等はその箱の中にはもう観葉植物以外に何も危険な気配が無いことを確認した上で、ひとまずノエルは虫の死骸を回収し、ジークはアイリーンを手伝う形で、その観葉植物が入った箱を共に美術部へと届けることにした。
 翌日。虫の正体が気になったジークとノエルは、フリーダ、ジュリィ、クロードと共に図書館へと向かう。図書委員のティリィの案内を受けて、同じく図書委員のフリーダが手助けする形で調べてみたところ、どうやらあの虫は現代ではもう絶滅したと言われている猛毒を有する害虫であり、絶滅前の時代においては、アイリーンの持っていた観葉植物に寄生する生態であったらしい。
 その後、ひとまず虫の死骸を第七研究所に届けた五人は、所長のワイリーから(銀の腕輪の実験の件でジュリィとの間で微妙な空気が流れつつも)、この虫が寄生してた観葉植物の原産地であるクリマタリアの植物園の調査依頼を受け、再びジュリィの愛車「ハチロク」に乗って、現地へと向かうことになった。
 無事にクリマタリアに到着した彼等は、植物園の園長であるジュディ(下図)から、一通りの説明を受ける。彼女達には既に、現地在住のハイランダーのヘリックスを通じて第七研究所から話は聞いており、その情報に基づいて園内の植物について一通り調べてみたところ、確かに例の「絶滅したと思われていた虫」の卵がいくつか付着しているのが発見されたらしい。
+ ジュディ
 ジュディ曰く、例の観葉植物の原生地はこの街の北部の湖の近辺であり、(アイリーンに送った代物も含めて)卵が付着していた個体は全て最近になってその地から採集した代物であるという。そして、最近になってその湖の近辺の生態系に微妙な異変が起きているような気配もあるらしいが、その原因についてはまだ彼女達も掴めてはいなかった。
 五人がその話を聞いた上で湖へと向かうと、ノエルは湖畔の湿地帯の一部に、足場が不安定な土壌が広がっていることに気付く。彼がそのことを皆に告げた瞬間、突如として彼等の足元に広がっていた蔦が彼等に向かって襲いかかり、その蔦に絡まってしまったクロードが軽症を負う。そして彼等の前に現れたのは、明らかに「植物の力を埋め込まれたモルフ」と思しき少女(下図)の大群(いずれも同じ顔)であった。
+ 植物型モルフの少女
 少女達の形状からして、この地区に出没する「翠緑のネフリ」(下図)のモルフであろうことは推測出来るが、以前に遭遇したバットやトーラスとは異なり、学園内で「要注意モルフ」として知られているような者達ではなかった。ただ、同じ姿で複数体存在していることからして、少なくとも通常のモルフではないことは予想出来る。
+ ネフリ
 そして、彼女達の中でもおそらく中心的な個体と思われる少女は、ジュリィとフリーダに対して「封印を破ったのはあなた達ですか?」と問いかけてきた。二人がその言葉の意味が理解出来ずに困惑していると、モルフの少女は「あなた達が『力』を受け継ぐにふさわしい存在かどうか、試させてもらいます」と告げ、五人に向かって襲いかかってくる。
 何本もの蔦をハイランダー達の身体に絡ませながら、標的を消耗させつつ猛毒を体内へと送り込む少女達の連携攻撃の前に五人は苦戦を強いられるが、フリーダの懸命な回復術によってどうにか戦線を維持しつつ、互いを信じ合う心で意志の力を高め合うことで、どうにか今回も、一人も倒れることなく勝利を収めることに成功した。
 中核と思しき少女は、最後にジュリィとフリーダに対して「あなた達なら、この金色(こんじき)の力を受け継ぐに相応しいと、我が主も認めることでしょう」と言い残して、五人が立っていた「足場」ごと消滅していく。そのことに気付いたクロードは、すぐさま皆にこの場から逃げるように注意喚起するが、そのクロード本人と(既に疲労困憊状態にあった)フリーダは逃げ遅れて、足場の消えた下に広がる湖の中へと落下してしまう。
 クロードはどうにか自力で泳いで岸まで辿り着き、フリーダもジュリィに助けられることでどうにか難を逃れるが、この時、フリーダは(先刻まで中核と思しき少女が立っていた足場の真下にあたる)湖の底に「金色の何か」が光っているのを発見する。その話を聞いたジークが潜って調べてみたところ、そこに沈んでいたのは、(例の「銀の腕輪」と非常に良く似た形状の)「金の腕輪」であった。
 この腕輪に関して、ジュリィが母親経由で研究所に問い合わせてみたところ、おそらくそれは「銀の腕輪」と一対の存在を成す腕輪である可能性が高い、とのことである(もともと、ここまでの銀の腕輪の分析の過程で「対になる何か」が存在するのではないか、という仮説は立っていたらしい)。おそらくジュリィの母が銀の腕輪を装着してその力を使おうとする度に、何らかの作用で金の腕輪が共鳴して特殊な力を発動し、それがこの地の「絶滅種の復活」といった諸々の異変を引き起こしていたのではないか、というのがトーマスの推測であるという。
 その推測が正しいのかどうかは分からない。そして、なぜそれを(ネフリ傘下と思しき)モルフの少女が守っていたのか、そして、なぜ彼女がジュリィとフリーダのみを「力の継承者」とみなしていたのかも分からない。様々な可能性を考慮に入れつつ、再び彼等はアサルトエンジンへと帰還することになるのであった。
+ 第5話「美しき来訪者」
 クリマタリアの案件から約一ヶ月が経過し、第七研究所では金と銀の腕輪の解析が進む中、アカデミア内において奇妙な二つの怪文書が出回っていた。一つは「学長の息子であるクロードが、彼の同級生であるフリーダとジュリィとの間での泥沼の三角関係にある」という内容であり、この怪文書を目の当たりにしたフリーダの父とジュリィの母は、それぞれ自身の娘に真相を確認するが、二人は全力できっぱりと「事実無根」と明言する。
 もう一つの怪文書は「学長の息子であるクロードが、同室の後輩であるジークとノエルを相手に淫らな行為に耽っている」という内容であり、学内の一角において、メイド姿のジャネット、新聞部のアンナ、美術部のアイリーンの三人がこの話題で盛り上がっていたところにクロードが通りかかり、彼は真相をアイリーンに問い詰められるが、当然のごとく彼も明確に否定する。
 その後、クロード、フリーダ、ジュリィの三人は(微妙なすれ違いの後に)情報を共有した上で、この二つの怪文書の出どころを探してみたところ、どうやら怪文書を配っていたのはアカデミア外の人間であり、その身なり等からして(アカデミアから見て南方に位置する)ロードピレナの人間らしい、という情報までは突き止めるが、なぜそのような噂を流されていたのか、クロード達には全く見当もつかなかった。
 一方、ジークはアカデミアの某所にて、警邏隊のゲーリー隊長と遭遇していた。ゲーリー曰く、現在、アカデミア内にジェネシスの一人である「最弱のレジーナ」(下図)が潜伏して、何かを企んでいるらしい。彼女はアサルトエンジンに対して強い敵意を抱いているため、最近目立った活躍の多いジーク達が狙われる可能性は十分にあるだろう、とゲーリーは忠告する。
+ レジーナ
 その頃、テーブルゲーム部を訪問していたノエルは、部長のメイサが愛用のチェス盤と駒のセットを持って下町へと向かおうとしているのを目の当たりにする。どうやら、以前にメイサと対戦した「(おそらくアカデミア外からの旅人と思われる)チェスの上手い美少年」から、アカデミア内のオープンカフェで再戦を申し込む手紙が届いたらしい。その上で、彼と一局交えた後は、夕方にシフォン社が開催する新作ゲーム「デュエル・スピリッツ」(魔法カードや怪物カードを用いたカードゲーム)の発表会に参加する予定だと、メイサは楽しそうに話していた。
 ところが、そこへクラーク先生が現れ、メイサは居残り補習を言い渡されてしまう。メイサは泣く泣くノエルにチェスのセットケースを手渡した上で、「オープンカフェに行って、私が来るまでしばらく待っててもらうように、その少年に伝えてほしい」と頼み込む。そして実際にノエルが現地へと向かうと、そこには確かに、メイサに言われた特徴に合致する「羽根付き帽子を被った小柄な美少年」(下図)の姿があった。
+ 羽根付き帽子の少年
 ノエルは彼に声をかけた上で、ひとまずメイサが来るまでの時間潰しとして、彼とのチェスに付き合うことにした。ノエルはチェス自体はまだ初心者だったのだが、むしろ定石を知らないが故の奔放な戦術が逆に幸いしたようで、見事な勝利を収める。その手際に感服した帽子の少年はノエルに名を尋ね、ノエルが素直に答えると、その少年自身は「クラウス」と名乗る。
 そして、ノエルの名前を聞いた時点で「何か」に気付いたクラウスは、カバンの中から例の「怪文書」を取り出し、そこに描かれているノエルの似顔絵と照合しようとした結果、ノエルもまたその「怪文書」の存在を知ることになる。その後、(少し前に町中で合流して一緒にアイスを食べていた)ジークとジュリィ、そしてクロード本人までもが現れたことで、クラウスは彼等に「真相」を確かめようとするが、全員が揃って怪文書の内容を否定する。その上で、クラウスはクロードに対して「値踏みするような視線」を向けつつ、他の面々とクロードとの間に(愛欲とは別次元の)信頼関係が構築されていることを、なんとなく察していた様子であった。
 同じ頃、怪文書の出どころを調査していたフリーダは、港の近辺でシフォン社の社員達が、社長のミーシャが行方不明だと騒いでいる様子を目の当たりにする。そこへすぐにミーシャが現れ、社員達は安堵した様子を見せつつ、彼等は新作カードゲームの発表会場へと向かっていくが、フリーダの目には、そのミーシャの様子が、以前に会った時とは微妙に異なっているように見えた。不審に思ったフリーダがそのまま港の近辺を調べていると、シフォン社の輸送用の貨物車の上に載せられた金属製の大箱の中から、明らかに不自然な物音が聞こてくる。
 ひとまずフリーダがこの状況をヘリックスを用いてクロード達に伝えると、ゲーリーからの話を思い出したジークが「最弱のレジーナ」の件を皆に伝えたことで、彼等は事件の予感を感じ取る。その上で、ノエルがクラークにヘリックスで確認してみたところ、メイサの補習はまだ時間がかかりそう、ということだったので、ひとまずクロードとジークがクラウスを連れて「カードゲームの発表会場」へと向かい、ノエルとジュリィがフリーダの元へと向かうことにした。
 フリーダの元へと辿り着いたノエルとジュリィは、ノエルが周囲の人々を陽動している間にフリーダとジュリィが大箱を開ける、という作戦を決行したところ、そこには縄で縛られた状態のミーシャの姿があった。ミーシャ曰く、唐突に後方から何者かに襲われ、気がついた時にはここに監禁されていたらしい。彼女の拘束を解いた上で、三人はヘリックスでクロードとジークにこの情報を伝えつつ、彼等の元へと向かう。
 その頃、クラウスを連れた状態で、発表会の会場の近くでクロードとジークは「ミーシャ」と対面していた。「ミーシャ」はクロードからのカマをかけるような質問をはぐらかしつつ、彼等と共にいたクラウスに対して怪訝な態度を見せる。そんな中、フリーダ達が「救出したミーシャ」を連れてその場に現れたことで、「クロード達と対面していたミーシャ」は、自分の周囲につむじ風を巻き起こしながら、その真の姿を現す。彼女の正体は「最弱のレジーナ」であった。
 そして、この時に発生した風圧で、クラウスの被っていた帽子が飛ばされると、その帽子の中に格納されていた豪奢な長い髪が現れる。先刻までとはまるで別人のような雰囲気になったその姿に、ジークは見覚えがあった。「クラウス」と名乗っていたその人物の正体は、ロードピレナの王女クララ(下図)だったのである。彼女はアドルフがクロードに示唆していた「見合い話」の候補の一人であり、以前から男装して何度かアカデミアを訪れていた彼女は、自身の縁談相手とされているクロードの人物像を見極めたいと考え、彼のことを調べていたらしい。
+ クララ
 一方、レジーナの方は、シフォン社が販売しようとしていた「デュエル・スピリッツ」に、本物のモルフを封印したカードを混ぜ込み、アカデミアを混乱させるために、ミーシャに化けて潜入していたのであるが、目の前に(彼女にとっては全く計画外の存在であった)クララが現れたことで、クララが持っている王家伝来の「不思議な力を有する首飾り」を奪おうと考え、手にしていたカードから、「毒龍のモルフ」と「人馬のモルフ」と「人魚のモルフ」を召喚し(下図)、目の前の彼女を襲わせようとする。
+ 毒龍のモルフ
+ 人馬のモルフ
+ 人魚のモルフ
 しかし、彼等よりも一瞬早く、クロードが即座にクララを抱きかかえた上で後方へと下がり、駆けつけたジュリィの助けも借りて、どうにかクララを会場の外へと逃がすことに成功する(なお、彼女が会場内にいた間は、彼女の首飾りの力によって、クロード達のウィルには特殊な力が宿っていたようである)。
 その上で、レジーナおよび三体のモルフと対峙することになった五人は、レジーナの駆使する多様な「魔法カード」と、人魚の手による湿度変化による妨害、毒龍が繰り出す猛毒、そしてレジーナを庇いつつ広範囲に放たれ続ける人馬の弓矢の雨のごとき連射に苦しめられるが、フリーダが必死で回復アーツを掛け続けることで戦線を保ちつつ、ノエルの広範囲攻撃を軸にクロード、ジュリィ、ジークが着実に一人ずつモルフを撃破していった結果、最終的にはレジーナは(謎のカードの力によって生じた空間転移ゲートを用いての)撤退を余儀なくされることになった。
 ミーシャは五人に深く礼を言いつつ、ひとまず「デュエル・スピリッツ」についてはまだ危険なカードが混ざっている可能性を考慮した上で、確認のために一旦販売中止を宣言する。一方、アンナの調査とクララからの情報を照らし合わせて調べた結果、どうやらクロードに関する怪文書を広めていたのは、ロードピレナの二大貴族であるロムレルス公とカルウス伯の手下の仕業であろうという推測に至る。彼等はいずれもクララとの縁組による王位継承を狙っており、そのライバルとなりうるクロードの評判を落とすために、それぞれ独自に怪文書を作っていたらしい。
 クララは、自分のせいでクロードの悪評が広まってしまったことを謝罪した上で、いずれクロードとは改めて「お見合い」の席を設けたいと告げつつ、ロードピレナへと帰還していく。なお、メイサの補習が終わったのは、ちょうどクララ(クラウス)がアカデミアから去った直後であった。
+ 第6話「修学旅行」
+ 往路
 クララの来訪から約一ヶ月後、クラークが担任を務めるクラスの学生達は、修学旅行として、彼が運転する飛空船に乗って、ドラへロア帝国領の鉱山町マインミラルへと赴くことになった。
 飛空船の中では、同地で結成予定のフットボールチームからのスカウトが来ているサンデルや、かつてフェンシング大会の決勝で負けた同地出身の女性との再会を期待するライザーが、現地に着くのを楽しみにしている一方で、図らずも里帰りすることになったジークとジャネット(領主ザイフリートの元メイド)は、あまり気乗りしない心地で窓の外の光景を眺めていた。そんな中、ジークの住んでいた下町の一角で揉め事が発生している様子が目に入る。どうやら、彼の故郷が(新たなフットボールチームの結成と同時並行で進行予定の)大型競技場の建築予定地として接収されようとしているようで、工事業者と地元住民との間が衝突しているらしい。
 ジークとサンデルが微妙に気まずい雰囲気でその喧騒を空から眺めている中、やがて飛空船の前方に、突如としてワイバーンのような怪物が現れる。それが、何処からか放たれた刺客なのか、野生化したモルフなのかは分からないが、ひとまずはクラークが飛空船の操縦をジュリィに任せて応戦した結果、あっさりとワイバーンは撃退され、その間に操縦桿を委ねられたジュリィもまた、どうにか無事に代役としての船長の役割を果たし、無事に飛空船はマインミラルへと着陸を果たすのであった。
+ 一日目・昼
 現地に到着した彼等は、街の広場に立てられた巨大なザイフリートの像を見学しつつ、その周囲に集まった大量のトナカイ達と戯れながら、観光客向けのお土産物屋が並んだ町並みを散策する。
 だが、そんな中、フットボール関連のお土産物を買おうとしていたサンデルが、競技場建設反対派の住民達によって暴行されるという事件が勃発した。ハイランダー憲章の理念上、サンデルが住民に対して反撃出来ずに耐えている中、その場に一人の女戦士が現れる(下図)。彼女は奇妙な(ハイランダーともモルフとも異なる)力を用いて身体から「謎の射撃武器」を発生させ、サンデルを襲っていた住民達にそれを向けると、彼等は即座に退散していった。
+ 謎の女戦士
 その場に居合わせたジャネット曰く、彼女はザイフリートの側近の武官・シレーヌであり、同じくその場に居合わせたライザーによると、彼女こそがかつてライザーをフェンシングの試合で倒した女性らしい。剣の達人の筈の彼女が帯剣していなかったことにライザーは違和感を覚えたが、ジャネット曰く、彼女がこの地を去る直前頃から、シレーヌは突如として奇妙な射撃武器を用いるようになった、とのことである。黙ってその場を去っていったシレーヌのことを気にかけながらも、ひとまず彼等は宿舎へと向かうことにした。
+ 一日目・夜
 宿舎に着いた彼等は、男子部屋と女子部屋に分かれて、それぞれに枕投げや恋話を楽しむ。だが、そんな中でライザーが夜中に密かに宿舎を抜け出すのを発見したクロード、ノエル、ジークの三人は、密かに彼の後を尾行することにした。
 どうやらライザーはシレーヌの変貌ぶりが気になって、夜警として彼女が巡回している地区を事前に調べて、対話を試みようとしていたらしい。程なくして彼は思惑通りにシレーヌとの再会を果たすが、シレーヌは彼からの質問をはぐらかし続ける。
 そんな二人の間で微妙な空気が漂う中、やがてそこへ「惑乱のダーナ」の側近であるジーンが姿を現す。ジーンが親しそうにシレーヌに語りかけるのを見たライザーは、彼女達の関係を問いただそうとしてシレーヌへと詰め寄るが、ここでシレーヌは無防備なライザーに対して(謎の武器を瞬時に発生させた上で)不意打ちの一撃を繰り出し、ライザーはその場に倒れ込んだ。
 その光景を目の当たりにしたクロード、ノエル、ジークの三人がその場に姿を現すと、シレーヌは小声で「急所は外しておいた」と告げた上でその場を去り、ジーンもまたいつの間にか姿を消す。その後、ライザーはクロード達によって宿舎へと連れ帰られ、フリーダの手でどうにか一命を取り留めることになるのであった。
+ 二日目
 翌日、クロード達はクラークにもこの件について報告した上で、ライザーやサンデルと共にこの街の裏事情について調べた結果、この街の領主に反発する市民達によるレジスタンスが、「清魂のカルシャー」と接触しようとしているという情報をジュリィが入手する。クロード達はクラークと共にその「合流地点」である廃坑へと向かうと、そこではまさにカルシャーの手によって、集まったレジスタンスの者達に対して、何らかの「(危険な?)力」を与えるための儀式が執り行われようとしていた。
 それに対してクラーク、サンデル、ライザーの三人がカルシャーを止めるべく割って入るが、それと時をほぼ同じくして、この場にシレーヌが現れる。彼女は街の治安を守るため、「カルシャーから危険な力を得ようと目論むレジスタンスの面々」を抹殺しようとするが、それに対して、同じこの街の出身者であるジークが立ちはだかる。
 シレーヌは、内心では領主であるザイフリートのこと軽蔑しつつも、街の治安を維持するための必要悪として、彼の下での憲兵としての役割を果たすため、あえて敵であるダーナの力を借りて、その身にダーナが生み出したアーティファクトを埋め込む手術を受け、「ハイランダーでもモルフでもない特殊な改造人間」としての力を得ていた(彼女がそうせざるを得なかったのは、以前に暴徒達の不意打ちによって腕を負傷し、剣を握れなくなってしまったから、という事情もある)。その上で、人類同士の争いから距離を置くハイランダー達とは対象的に、人類社会の秩序を守るために、「秩序を乱す人間」に対してその力を振るおうとしていたのである。そこまでしなければ、この荒れ果てた街の秩序は守れないと彼女は考えていたらしい。
 マインミラルの現実を知る身として、ジークはシレーヌの考えには一定の理解を示しつつも、街を守るために人としての道を外れることを選んだ彼女に対してやるせない気持ちを抱きながら、彼女を止めるために戦うことを決意する(そしてこの時、ジークの身体に「奇妙な気配」が宿ることになるのだが、彼はこの時点ではまだその正体に気付けずにいた)。そしてクロード、ノエル、フリーダ、ジュリィの四人も彼と共に戦う意志を示したことで、シレーヌは「本来の姿(下図)」を露わにして、全力で彼等に対して戦いを挑むことになった。
+ シレーヌ/戦闘時
 ダーナのアーティファクト技術の結晶体とも呼ぶべきシレーヌは、その身体から生み出した謎の武器によって息もつかせぬペースで連続エネルギー弾を放ち続け、前線に立つジークとジュリィは窮地に追い込まれるが、彼等は自身のウィルを(攻撃や味方の支援ではなく)自らの身を守るために用いるという、これまでとは異なる形の戦術へと切り替えつつ、そこにフリーダが間髪入れずに回復術を施し続けることで、どうにかその猛攻を耐え凌ぐ。その上で、クロードとノエルが後方から着実にシレーヌを狙い続けるものの、ウィルの力を攻撃に注ぎきれないこともあって、彼等はこれまでに経験したことのない苦戦を強いられたが、それでもどうにか最終的にはジーク達は勝利を収め、シレーヌはその場に崩れ落ちることになった(彼女はモルフではないため、この時点では消滅せず、まだ息もあった)。
 それとほぼ時を同じくして、クラーク達と戦っていたカルシャーもまた、戦況の不利を悟ってその廃坑から撤退する(この時点で、カルシャーはジークの身体に「何か」が宿っていることに気付いていたような様子であった)。そしてこの時、クラークは逃げようとするカルシャーの身体に密かに「盗聴器」仕掛けることに成功したのであった。
+ 帰路
 その後、クラークがザイフリートに諸々の経緯を確認すると、ザイフリートは自分の部下がダーナと通じていたことについては「一切感知していない」と断言した上で、シレーヌの身柄については、ひとまずアサルトエンジンの第七研究所へと収容されることになった。
 一方、ジークは久しぶりに会った地元の友人達との旧交を温めつつも、やがて仲間達と共にアサルトエンジンへと帰還することになる。なお、マインミラルの大型競技場の建設については、諸々の経緯の末に、最終的には白紙撤回されることになったようである。
+ 第7話「終わらない遊戯」
+ オープニング
 修学旅行から数日後。クロード、フリーダ、ジュリィ、ノエル、ジークの五人は、クラークから極秘の召集を受ける。どうやら、マインミラルでクラークが「清魂のカルシャー」に付着させた盗聴器から、この地方のジェネシス達が何処かで会談している音声を入手したらしい(詳細は下記参照)。
+ 盗聴内容
ポルックスの器を見つけたみたいね。
どこでその話を聞いた?
ウチのジーンが、見学させてもらってたのよ。
こないだのマインミラルでの顛末をね。
では、あやつらを送り込んだのも、貴様の仕業か?
それは偶然。
もっとも、そこの誰かさんは、
最初から全てお見通しだったかもしれないけど。
さすがに、そこまで予測出来てはいなかった。
アルトから話を聞いた時は、もしやと思ってはいたが。
ねー、私の言った通りだったでしょ? お兄様♥
それで、どうするつもりだ?
当初の予定よりも、随分早く『時』が来たようだが。
私としては、いつ開戦しても構わない。
ノエルはまだ未完成ではあるが、
必要に応じて打つべき手は考えている。
出来れば、万全のコンディションを整えたかったところだが、
その前にアサルトエンジン側に気付かれて、
『器』を始末されても困るからな。
あいつらは、そんなことしないと思うけどねー。
もっとも、他のジェネシスが勝手に手を下す可能性はありそうだけど。
特に、アサルトエンジン嫌いの最弱のお嬢様あたりが。
誰が最弱じゃ!
確かに、わらわとしては一刻も早く
アサルトエンジンを滅ぼしたいところじゃが、
約定を違えることはせぬ。
殺すなと言われれば殺さぬわ。
その『器』も、そして『例の小僧』もな。
あら、こないだ勢い余って殺そうとしてたって聞いたけど?
あれは正当防衛じゃ!
それに関しては、私も咎める気はない。
他の者達も、異存はないか?
わたしは、お兄様のなさることに異存などある筈もありませんわ♥
何度も申し上げている通り、
私はそもそもポルックスの復活に賛同出来ません。
あれは、私達の手にも余る存在。
下手したら、この世界そのものが消滅してしまう可能性もある。
ですから、未完成な状態で復活させた上で始末するというなら、
レギント殿に同意します。
お主がどう思おうが勝手だが、ジェネシスとしての盟約は守ってもらう。
復活した時点で、どちらに対しても手助けは禁止。
良いな?
えぇ。
どちらにしても、私の手元にはもう『切り札』は残っていませんから。
ということは、やっぱり、アレを持ってたのはアナタだったのね?
いつの間にかアサルトエンジンの連中の手に渡っていたみたいだけど。
黙っていたことを咎めるならば、謝りましょう。
しかし、そもそもあの腕輪は、別にあなたの持ち物ではないのでは?
まーねー。
でも、カストールの遺産を継承している訳でもないアナタがそれを持ってても、
意味ないんじゃない?
なんでこっそり隠してたの?
あなたの手に渡ったら、『開戦』が近付いてしまう。
それを避けたかったのです。
ハイランダーの手に渡るのは、問題ないの?
彼等であれば、所詮、あの腕輪の力の10分の1程度しか引き出せないでしょう。
少なくとも、私達の脅威になる程ではありません。
ふーん。
まぁ、別にいいけどね。
どうせシレーヌも奪われちゃったし、私はもうこの件からは降りるわ。
あとは、アンタ達で自由に決着つけなさい。
とこで、カルシャー?
なんだ?
あなたの背中に付いてるそれ、何?
背中?
待て!
見せてみろ、それは……
 彼等の話していることの全容は分からないが、どうやら彼等は「ノエル」と「ポルックスの器」なる存在を用いて何かを始めようとしているらしい。ちなみに、ダーナの発言の中に出てきた「カストール」とは、遥か昔にこの地方を統括していたとも言われる伝説的なジェネシスであり、「ポルックス」は彼によって造られた生命体の名だという話は歴史の授業で聞いたことはあるが、それ以上の詳しいことは、この場にいる者達は誰も分からない。
 そこで、彼等は学内の図書館の深層にある貴重書庫へと赴いて、カストールとポルックスについての情報を調べることにした。
+ 図書館
 図書館についた五人は、フリーダと、彼女の図書委員仲間のティリーの協力を得た上で調べ上げた結果、彼等は(おそらく100年以上誰も開いていなかったような)一冊の古書を発見する。そこに記されていたのは、かつてジェネシスがこの地を支配していた頃の記録であった。
 同書曰く、カストール(下図)は1000年前のカナンビーク大陸侵略期から活動していたジェネシスの一人であり、モルフ生成においてもアーティファクト作成においても抜きん出た才能の持ち主として知られ、レギントの師匠に相当するジェネシスでもあるらしい。
+ 古書に描かれていたカストールの挿絵
 一方、ポルックスはそんなカストールが自分自身をモデルに生成した、彼の分身とも言うべき存在であり、ジェネシスに反抗するハイランダー達を倒すために生み出された、最強の戦闘人形であったらしい。だが、その力があまりにも強力すぎて、ジェネシスですら制御しきれない恐れがあったため、当時の他のジェネシス達自身の手によって封印されることになったという。
 なお、カストール自身はハイランダー達との戦いの最中に行方不明となったが、彼はそれまでの間に多くのアーティファクトを生み出した。その中でも最高傑作とされているのが「カストールの杖」と呼ばれる、遺伝子改造手術の補助具として極めて強大な力を有するアーティファクトであり、この書物が書かれた時点(約200年前)では「現在はダーナが所有」と記されている。
 他にも様々な彼の生成物についての情報が記載されていたが、その中でも特に彼等の目を引いたのは「金の腕輪」と「銀の腕輪」という記述である。そこに描かれていたのは紛れもなく、彼等がこれまでに確保した二つの腕輪そのものであり、金の腕輪は「時間を操るアーティファクト」、銀の腕輪は「空間を操るアーティファクト」と記されていたが、その具体的な用法や効果までは記載されていなかった。
+ 研究所
 ここまでの情報を踏まえた上で、改めてあの二つの腕輪の分析がどこまで進んでいるのかを確認する必要があると判断した彼等は、再び第七研究所へと向かって、話を聞くことにした。所長のトーマス曰く、先日入手した「金の腕輪」も(「銀の腕輪」と同様に)特定の遺伝子を持った者でなければその力を扱うことは出来ず、その該当者を探してみたところ、どうやらフリーダの父である上級職員リチャードがその遺伝子の持ち主であることが判明し、(ジュリィの母と同様に)彼にも実験を手伝ってもらっていたらしい。
 だが、この日もその実験予定の日であるにもかかわらず、当のリチャードはまだ研究所に来ていなかった。そんな中、唐突に研究所に取材に訪れた新聞部のアンナは、リチャードが「昨晩、謎の女性と一緒に郊外の貧民街で目撃されて以来、行方不明になっている」という旨を告げる。更にそれに加えて、彼女からは「ノエルとジークはジェネシスのスパイ」という怪文書が新聞部に届いている(しかし、信憑性がないため、今のところは取り上げる予定はない)という情報も密かに伝えられることになった。
+ 貧民街
 その後、リチャードの行方を探すために貧民街へと向かった彼等は(その途上で上記の怪文書を壁に貼り付けている男と遭遇しつつ)、娼婦と思しき女性達から、「身分の高そうな男性」が、「鞭を持った女性」に連れられた状態で貧民街の宿に宿泊している、という情報を伝えられる。彼女達はその「鞭を持った女性」に雇われて、「身分の高そうな男性」の相手をするように命じられたが、男性の身体は一切反応しなかったため、不本意ながらも撤収することになったという。なお、その男性の表情や雰囲気から、明らかに正気の状態ではなさそうな様子であったらしい。
 唐突すぎる状況にフリーダは動揺しつつも、ひとまず仲間達と共にその宿屋へと向かい、「その男女」が泊まっていると思しき部屋を見付けて聞き耳を立てると、部屋の中からは「いくら女性をあてがっても行為に至ろうとしない男性」に対して業を煮やした女性が、(やや躊躇しながらも)自らの身を以って男性に対して何かを試みようとしている、そんなシチュエーションを想像させる声が聞こえてきた。
 ここでフリーダが意を決して扉を開けると、そこにいたのは(フリーダにとってはエトレイル以来となる)「惑乱のダーナ」の側近のジーンと、そしてベッドに縛り付けられた(半昏睡状態と思しき)リチャードの姿であった。状況はよく分からないながらも、ひとまず父を解放しようとするフリーダ達に対して、ジーンは鞭を駆使して襲いかかる。
 ジーンは伸縮自在の鞭を駆使して、前列に立った者達を鞭で絡み取りつつ、後列にいる者達に向かって投げつけるという、これまでに相対したことがない変則的な戦法で、フリーダ達を苦しめる。おそらく、彼女と初遭遇した時の五人であれば全く手も足も出なかったであろうが、ここまでの戦いで大きく成長を遂げていた彼等は、隊列を大きく乱されながらも落ち着いて戦線を維持し続け、最終的にはどうにか勝利を収め、ジーンは主にフリーダとジュリィに対して恨めしそうな表情を浮かべながら、消滅していく。
 だが、その直後、彼等の前に「惑乱のダーナ」が現れた。彼女は自分の側近を倒したハイランダー達に対して笑顔で賛辞を伝えつつ、既に盗聴器を通じてある程度の情報が彼等に伝わっていることを想定した上で、彼らに対して、この地方のジェネシス達が今、何をしようとしているのかを伝える。それは、600年以上前から変わらない彼等にとっての最高の愉悦、すなわち「決闘遊戯(デュエル)」であった。
+ 決闘遊戯
 カルシャーは「カストールの最高傑作としてのポルックス」のことを神聖視しており、その封印を解いて再びこの世界に復活させることを目論んでいた(その結果として自分達が滅びることになっても構わない、と考えていた)。一方、レギントは昔から「師匠の遺伝子が埋め込まれたポルックス」を「自分の遺伝子が埋め込まれた存在」の力を以って倒すことが悲願であり、自分の遺伝子を組み込んだ素体の子孫であるノエルこそが、その最有力候補と考えていた。つまり、目的は違えども、この二人にとって「ポルックスの再臨」は共通の宿願だったのである。
 とはいえ、ポルックスは現在、時空の狭間に封印されており、その封印を完全に解くことはレギントにもカルシャーにも出来ない。しかし、その封印には時折、周期的に「隙間」が発生することがあるため、その隙間からポルックスの「欠片」を抜き取り、ポルックスに近い遺伝子を持つ人間(かつてカストールがポルックスのプロトタイプとして生み出した者達の末裔)にその因子を埋め込むことでポルックスを再生するというのがカルシャーの計画だったのだが、実際にはその因子に適合した「器」となりうる人物がなかなか現れず、中途半端なモルフしか生み出せない状況が続いていた。
 ところが、先日の廃坑での戦いの最中でジークが現れた際に、カルシャーが開きかけていた「隙間」から流れ出たポルックスの欠片(因子)が自発的にジークに付着し、そのまま彼の身体に半憑依した状態となったのである(それが、前回の戦いの折にジークが感じた違和感の正体らしい)。もともと、マインミラルは600年前にカストールの実験場として用いられていた土地だったため、住民の中に「器」となりうる人物が存在する確率は高いとは考えられていたが、既にハイランダーとして覚醒していた者の中に適合者が現れるというのは、ハイランダー嫌いのカルシャーとしては想定外だったようである。
 ジェネシス側の見立てによれば、今でもジークの身体にはポルックスの因子が宿っている。そのため、カルシャーはジークの身柄を確保した上で、より完全な「ポルックス」として覚醒させ、それに合わせてレギントもまたノエルに対して何らかの「仕掛け」を施すことでその潜在能力を開放させた上で、両者を用いた「決闘遊戯」を開催するという計画を進行中であるという。
 一方、ダーナもまた、自分自身の生み出したアーティファクトの力がポルックスに通用するか試したい、という思惑から、「第三の決闘者」となりうる素質の持ち主として、(元来は「ポルックスの器」の候補の一人でもあった)シレーヌに力を貸していたのだが、彼女がノエル達に敗れて虜囚の身となったことで、ダーナとしては今回の「遊戯」そのものからは撤退することにしたらしい。ただ、自分が降りた遊戯をレギントとカルシャーだけが楽しむのが気に食わない彼女は、ここでハイランダー達に「妨害工作」を持ちかける。
 ダーナが言うには、実はポルックスを復活させる方法はもう一つ存在する。そのために必要なのが「時間を操る金の腕輪」と「空間を操る銀の腕輪」であり、この二つの腕輪の力を駆使すれば、時空の狭間に封印されたポルックスの「複製体」を、現在のこの時空に発生させることも可能、というのが彼女の目算であった。ただし、その腕輪を使いこなせるのは「カストールの杖」によって生み出されたモルフとその末裔のみであり、現存するモルフ達の中でそれが可能なのは、(その杖の継承者である)ダーナ傘下の者達しかいない。だからこそ、ダーナとしてはこの二つの腕輪を自分の手元に残しておくことで、決闘遊戯の主導権を握る計画だったのだが、銀の腕輪は先にアドルフの旧友ケネスによって発見され、金の腕輪もまた(ポルックスの復活そのものに反対する)ネフリの手で隠匿されていたため、その目論見も外れてしまったのである。
 そして、既に第七研究所の分析によって判明している通り、現在のアサルトエンジンの中にもその「カストールの杖の産物」の末裔がいる。それがフリーダ(およびその父)とジュリィ(およびその母)である。そこで、ダーナはハイランダー達に、カルシャーによるジークの拉致&改造計画が実行される前に、二つの腕輪を用いて先にポルックスを呼び出して倒す、という選択肢を提示する。ダーナの見立てによれば、腕輪を使ってポルックスの複製体をこの時空に召喚すれば、ジークに付着しているポルックスの因子もそちらに吸収される可能性が高いらしい。
 更に、時空を歪めた反動として、少なくとも今後百年以上はポルックスの封印の「隙間」は発生しなくなり、ジークやノエルには彼等の「遊び道具」としての利用価値もなくなるだろう、と彼女は語る。もっとも、それはあくまで「現世代」の話であり、将来を見越して彼等の身柄や遺伝子を確保しようとする可能性は否めない(実際、今回ダーナがジーンに「リチャードの遺伝子の確保」を命じたのも、似たような理由であった)。それ以前の問題として、そもそもダーナが言っていることが真実か否かを確認する術もない。
 とはいえ、レギントがノエルに執着していることは疑いなく、ジークも確かに自分の中に「何か」が入り込んだという自覚はある。そしてジェネシス達の利己主義的な気質を考えれば、ダーナの話は確かに辻褄が合っており、彼女がそれを妨害しようとするのも、彼女のこれまでの行動原理と照らし合わせて考えてみれば矛盾はない。
 ちなみに、ジークとノエルのスパイ説の流布については、レジーナから頼まれたダーナが、貧民街の者達を利用して広めた結果らしい。レジーナは今回の決闘遊戯に際して「中立」を宣言したため介入は出来ないが、内心ではアサルトエンジンの在学者に強い力を与えることに反対していたため、密かにダーナに依頼して内紛工作(アサルトエンジンによる二人の拘束もしくは処刑の誘発)を仕掛けていたのである(その代償としてダーナとレジーナの間にどのような契約が結ばれていたのかは不明)。
 ノエル達に交渉を持ちかけつつ、同時並行でこのような計画にも加担していることから推測するに、ダーナとしては、レギントとカルシャーの楽しみの邪魔さえ出来れば、ノエルやジークがどうなっても構わないと考えているらしい。その意味では、彼女は決して「味方」ではないが、ひとまずこのまま何も手を打たずにいるよりは、ダーナの提案に乗ってみる価値はあると判断したハイランダー達は、彼女から「金銀の腕輪を用いたポルックス召喚方法」が記された小冊子を受け取る。そしてダーナは満足そうな笑みを浮かべながら、その場から去っていった。
+ エンディング
 その後、フリーダの懸命な治療によって、リチャードはどうにか意識を取り戻す。どうやら彼は、ジーンから「娘の身柄を預かった」と言われ、(おそらくはダーナのアーティファクトの効果によって)ヘリックス通信も妨害された状態のまま、やむなくジーンに従ってこの宿まで連れて来られた上で、奇妙な「香」のようなものを嗅がされ、意識が混濁した状態のまま、様々な女性達から「遺伝子」を採取されようとする状況に耐え続けていたらしい。
 彼の身の安全を確保した後に、彼等は(戦いで部屋を半壊させた宿の店主に詫びを入れた上で)再び第七研究所へと赴き、ダーナが提供した小冊子をトーマスに手渡した。トーマスがその内容を確認したところ、確かにそこに記された記述は彼等の分析結果と照らし合わせて考えてみても信憑性が高く、そしてフリーダとジュリィならばきっとその力を発動させることも出来るだろう、と彼は判断した上で、具体的な使用法を二人に伝授する。
 一方、クロードは(アドルフから唐揚げの作り方を学ぶためにアサルトエンジンを訪問していた)クララ王女から、ロードピレナの王家に伝わる首飾りを受け取る。クララ曰く、クロードであればこの力を引き出せる可能性があるらしい。この首飾りの力を引き出せるのは、「ロードピレナの王族」もしくは「ロードピレナの王族に愛された者」だけなのだが、クロードは後者の条件を知らないまま、彼女からその首飾りを受け取り、そして彼女に勝利を誓うのであった。
+ 最終話「蒼天の五芒星」
+ オープニング
 ポルックスの複製体の召喚およびその打倒に向けて、クロード、ジュリィ、フリーダ、ノエル、ジークの五人が決意を新たにする中、学内新聞に記載された二つの記事が彼等の目に留まる。
 一つは、学園都市アカデミアの警邏隊長ゲーリーが、数日前から行方不明になっているという記事である。ハイランダー憲章の理念上、ハイランダーは一般人を相手にその力を振るうことが原則禁止されているため、彼の不在は街の治安の低下に繋がりかねない大問題である。
 もう一つは、彼等にとっての級友である蒸気研のヨハンが、酒場で泥酔して、「ノエルとジークは敵のスパイだ」という暴言を吐いた、という記事である。紙面上では「好意を寄せていた同じ部活の女学生が彼等とばかり一緒にいることへの嫉妬からの妄言」とされ、素面に戻った本人も「事実無根」と認め、今は深く反省しているという旨が記されていたが、この件については、直後にアンナからのヘリックスにより、実はこれが本人同意の上での捏造記事だという裏事情を聞かされる。
 新聞部としては、先日の怪文書は明らかにデマだと判断した上で、その偽情報が広まることは望ましくないと考えていた。そんな中、怪文書の存在を知ったヨハンが、その情報の出処が「自分の妄言だった」ということにすればいい、とアンナに持ちかけてきたのである。彼は第七研究所にも時折助手として出向していたことから、五人がこれから世界を揺るがす強敵との決戦に赴くという話を聞いていたため、そんな彼等に対して疑いの目が向けられることを危惧し、怪文書が広まる前に先手を打つことにしたらしい。彼等はヨハンの自己犠牲的な協力に内心で感謝しつつ、ひとまずは第七研究所へと向かうことにした。
+ 作戦会議
 五人が研究所に到着すると、そこで彼等は見覚えのある者達と再会する。マインミラルの領主ザイフリートと、クリマタリア植物園の園長ジュディである。所長のトーマスは、かつてカストールがポルックス生成の実験場としていたマインミラルや、先日まで金の腕輪が封印されていた(その影響で自然環境の一部がカストール達の時代の状況にまで遡っていた)クリマタリアから、ポルックス召喚のための触媒となりうる物品を収集しようと考え、この二人に該当しそうな物品を届けるように要請していたのである。
 更に、彼等の隣にはシフォングループの社長であるミーシャの姿もあった。トーマスはなるべく本来の力を出しきれない状態でポルックスを召喚する方法を模索した結果、生前のポルックスの活動区域から遠く離れた場所が望ましいのではないか、という仮説に基づき、カナンビーク大陸から離れた海の上での召喚を提案し、そのために必要な蒸気船をシフォングループに提供してもらうことにしたのである。
 彼等の協力の背景には、かつてクロード達に助けられたことへの恩義もあったのだろう。特に、滅多に城から出ることがないと言われるザイフリートがここまで積極的に協力姿勢を示しているのは、先日の修学旅行の一件がそれなりに響いていると思われる。
 そして、トーマスが一通りの説明を終えたところで、五人の担任であるクラークとその後輩のハインが、意外な人物を連れてこの場に現れた。行方不明になっていた警邏隊長のゲーリーである。実はゲーリーは数日前に「清魂のカルシャー」から「力が欲しいか?」と言われ、彼の誘いに乗るフリをして(あらかじめクラークに相談した上で)カルシャー陣営への潜入捜査をおこなっていた。ゲーリーとしては、ハイランダーに頼り切りの現状を変えたいという想いもあり、おそらくカルシャーはそんな彼の心情を察した上で声をかけたのであろうが、ゲーリーは「カルシャーに力を与えられた者達が辿った末路」を何度も目の当たりにしてきたこともあり、その誘惑を断ち切って、クラーク達との連携の道を選んだのである。
 ゲーリーが(クラークとハインに救助される形で)持ち帰った情報によると、どうやらカルシャーはまもなく、ジークの身柄を確保するために本格的に行動を起こそうと考えているらしいが、これに対してはクラークとハインが先手を打って彼の拠点を攻撃することで、カルシャーの動きを封じるという方針を提示する。
 というのも、ダーナの計画書およびトーマスの見立てによると、今回のポルックスの召喚においては、時空を歪めた一種の「特殊空間」を生み出す必要があり、その中に入るには金銀の腕輪を担うフリーダ&ジュリィとの「強固な精神的な繋がり」が必要である以上、クラーク達は戦力として対ポルックス戦には参戦出来ない。だからこそ、彼等は今回は「外側」からの支援に徹することにしたらしい。
 とはいえ、もし仮にその特殊空間での戦いで五人が敗れて、ポルックスがその「外側」へと姿を現した場合は、アサルトエンジンの全戦力を以って応戦することになるだろう。その場合の足止め要因としての役割も含めて、ミーシャが提供してくれた船の操舵手を担うことになったのは、(一部では、今でも学園最強のハイランダーという噂もある)学園長のアドルフである。最悪の場合、ポルックスとの戦いの最中にどこかから「横槍」が入ったとしても、アドルフならば対応出来るだろう、という絶対的な信頼感の持ち主でもあった。
+ 海上召喚
 こうして、五人はアドルフの運転する蒸気船に乗って、アカデミアの港から出航する。彼等が過去に乗船経験があったのかは不明だが、決戦に向けての緊張感が高まっていることもあってか、特に船酔いに苦しむ者も現れず、彼等はカナンビーク大陸が見えなくなる程の沖にまで到達する。だが、ここで想定外の事態が発生した。おそらくはカナンビークとは異なる地方を拠点としていると思しき海賊船が、彼等の蒸気船の前に現れたのである。
 アドルフの見立てによれば、どうやら彼等はカルシャーと繋がりのある他大陸のジェネシス傘下の海賊団であるらしい。おそらくはカルシャーからの要請を受けた上で、アサルトエンジンによるポルックス召喚を妨害するのためにこの海域へと乗り出すことにしたのだろう。ひとまずアドルフは進路を変えてカナンビーク方面へと戻ることで彼等を振り切ろうとするが、それでも海賊船は執拗に追尾してくる。
 だが、そこにカナンビーク側から、二つの船が救援に現れた。一つは、アカデミアから派遣された高速船であり、蒸気研のヨハンが舵を握り、TG研のメイサ、フェンシング部のライザー、美術部のアイリーン、フットボール部のサンデル、新聞部のアンナといった面々が、戦闘態勢の構えで海賊船へと向かっていく。彼等は級友達の戦いを少しでも支援したいという想いから、ミーシャに直訴して、追加で船を一隻借り受けることを承諾させたのである。
 そしてもう一つの船は、南方から派遣された武装船であり、操舵手を務めていたのはエトレイル在住のアドルフの旧友ケネス、そして、甲板上には、元マインミラルの武官であるシレーヌの姿があった。ハイランダーでもモルフでもない「アサルトエンジンとしても扱いに困る立場」である彼女は、アドルフが水面下で引取先を探した結果、ケネスが助手として雇うことになったのである。その上で、ケネスは自身が入手した銀の腕輪の因縁を見届けるために、シレーヌはジーク達に命を助けられた分の借りを返すために、援軍としての参戦を決意したらしい。
 彼等の乱入によって海賊船は完全に足止めを食らわされることになり、その間に五人を載せた蒸気船は海賊船から遠く離れた海域へと移動することに成功する。そして、アドルフが「安全を確保出来た」と判断した時点で、甲板上でフリーダが金の腕輪を、ジュリィが銀の腕輪を装着し、ザイフリートとジュディが届けてくれた触媒を用いた上で、ポルックス召喚のための儀式を遂行し始める。すると、五人を頂点とする形で五芒星型の「光の魔法陣」が生み出され、そこから特殊空間が生成されると、その光は彼等を包み込んでいき、彼等は魔法陣が生み出した特殊空間の中へと吸収されていくのであった。
+ 最終決戦
 外界と隔絶された空間の中で、フリーダとジュリィが儀式を続けていくと、やがて彼等の目の前に、以前に図書館で見た「カストール」と全く同じ外見の青年が現れる(下図)。それは紛れもなく「カストールの分身」としてのポルックスの姿であり、確かに圧倒的な強者のオーラは漂っていたものの、涼し気な笑顔で周囲を見渡すその姿からは、とても「最強の戦闘人形」と呼ばれるような禍々しい雰囲気は感じられない。そしてこの瞬間、ジークは自分の中から「ポルックスの因子と思しき何か」が抜け落ちるのを実感した上で、それを吸収したと思しきポルックスに対して、どこか不思議な親近感(連帯感?)を感じ取っていた。
+ ポルックス
 この時点でのポルックスは、時空の狭間に封印された本体の一部を部分的に切り取るような形で生み出された複製体のような状態だったのだが、彼は自分の周囲の状況をよく分からないまま、穏やかな口調で、ひとまず目の前にいるハイランダー達を「討伐対象」と認識する。だが、彼の物腰はこれまで戦ってきたモルフ達とは明らかに異質であり、彼との対話の可能性を見出したジークは、既に彼の創造主も姿を消した今のこの時代で、自分達と共に生きていく道を彼に提示するが、ポルックスはあくまでも自身の存在意義が「ハイランダーを倒すこと」にあると笑顔で断言し、やむなくジーク達はポルックスを相手に戦うことを改めて決意する。
 ポルックスは圧倒的な速度で五人全員を巻き込む範囲攻撃を立て続けに繰り出そうとするが、フリーダが金の腕輪を用いて「時を飛ばす」ことでその攻撃の大半を無効化し、そして飛ばしきれない攻撃に関してはジュリィが銀の腕輪を用いて攻撃対象を自分一人に集約させることで、どうにかその猛攻を耐えしのぐ。更に、クロードが装着したロードピレナの首飾りが(クララの想いを反映して)奇跡の力を発動させることによって、(オリジナル体よりは弱体化されているとはいえ)世界最強の戦闘人形を相手に、彼等は互角以上の戦いを繰り広げる。
 だが、そんな彼等に対して、想定外の凶悪な力が立ちはだかることになった。以前に廃坑でトーラスが用いていた「ウィルキラー」を更に強化させた、ウィルを用いるごとに心身両面の力を削り取っていく特殊な粒子が、ポルックスの手によって、この特殊空間全域に広がっていたのである。それは腕輪や首飾りの力に対しても同様であり、これまで心の力が枯渇することなどあり得なかったジュリィやクロードが、やがて本来の力を出しきれない状態へと追い込まれ、更には五人の生命線であるフリーダの精神力までもが尽きかけるという窮地にまで陥ってしまう。
 しかし、そんな絶望的な状況の中でも、自力で精神力を回復出来るノエルや、精神力が尽きた状態でも戦えるジークの奮戦もあって、諦めずに戦い続けた結果、遂にはポルックスを包んでいた強大な力の一部が、その機能を停止する。その結果、彼等の心身を蝕んでいた特殊粒子が消滅し、そしてポルックスの稼働速度が大幅に低下したことでフリーダの精神力への負担も激減したことで、ようやく彼等はウィルの力を本格的に機能させられる環境を取り戻したのである。
 ウィルは、ハイランダーの力の源である。互いに仲間を信じ合い、その信頼に応え合うことによって増幅し、そして仲間同士でその力を分かち合い、時にはそれらを結集することで、強大な敵をも倒す力を生み出す。それこそが、ジェネシスやモルフにはない、「人間」としての心を持つハイランダーだけに備わった力である。だからこそ、カストールはその力を恐れ、ウィルの力を封じる秘術をポルックスに付与したのだろう。しかし、その秘術を破ったのもまた、その状況下でも己の心身の損傷を厭わずに、仲間を信じてウィルを費やし続けた、「人間」としての彼等の心であった。
 ポルックスは、そんな彼等が次々と繰り出すウィルの力の真髄を目の当たりにしつつ、最後は五人の力を結集させたノエルの一撃をその身に受けて、何かに納得したような笑顔を浮かべながら、静かに消滅していった。
+ エンディング
 彼等が戦いを繰り広げている間、その姿は、蒼天に輝く五芒星の光に包まれた特殊空間の中での光景として、その空間の外にいたアドルフおよび(海賊を倒して)合流した二隻の乗員達、更には密かに姿を消して映写機を回していた「惑乱のダーナ」の目にも映っていた。そして戦いが終わった瞬間、観戦していた級友達の歓喜の声が湧き上がる中、五人は蒸気船の甲板へと帰還し、ダーナは「レギントへのいい土産が出来た」と告げて、彼等の前から去っていく。
 その後、シレーヌは新天地で新たな道を探すという旨をジークに告げた上でケネスと共にエトレイルへと帰還し、五人は級友達と共にアサルトエンジンへと向かうことになる。帰路の船上において、フリーダは父に、ジュリィは母に、それぞれヘリックスで勝利を伝え、級友達が改めて五人を労う中で、操舵輪を握っていたが故に彼等に背を向けていたヨハンは、新聞の件で礼を言われた際に「半分は嘘じゃない」と呟いていたのだが、なぜかジュリィにだけはその声は聞こえていなかったようである。
 やがて彼等が港に到着すると、既にヘリックスを通じて彼等の勝利が伝えられていた者達が大勢駆けつけていたのだが、そんな中に密かに「クラウス」が紛れ込んでいるのを見つけたクロードは、彼女の元へと駆け寄り、あえて公衆の面前で(彼女の帽子が落ちてその素顔が晒されるのも厭わずに)彼女を抱き締める。当然、数日後にその光景は新聞に掲載されることになるのであるが、もはや彼も彼女も「後戻り」することが出来ないことは覚悟していたようである。
 こうして、カストールの遺産を巡る戦いには一つの決着がついた。「蒼天の五芒星」の呼称は彼等五人を意味する代名詞として定着し、その名はカナンビーク全土へと轟くことになるが、彼等はこれまでと変わらず、アサルトエンジンでの学園生活を満喫する日々を送り続ける。そんな五人の輪の中で、仲間に囲まれて幸せそうな表情を浮かべるノエルのことを、遠目に眺めている一人の青年の姿があった。ノエルと同じ色の髪と瞳を持つその青年は、百数十年後に到来するであろう「次の機会」への期待を込めて、穏やかな笑顔を浮かべながら「健やかに」とだけ呟き、この地を後にするのであった。

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最終更新:2021年10月14日 22:01