この街には七不思議がある。それはそれとして、最近「透明な怪盗」の噂があるとかないとか…
第零怪「邂・逅・狐 (カイコウギツネ)」
とある雨の日。
市内の製薬会社に勤める田中は新薬のプレゼンのため、市民病院へと車を走らせていた。この街、「ナモナ市」のここ数日の予想気温は平年通り。しかし観測される気温は目に見えて低い。
同じ会社に勤める有馬は時を同じくして、慣れない書類を上司に任せたりしてわたわたしていた。書類に目を通していた上司がぼやく。
「やっぱり変だなぁ」
曰く、精神薬の類が出荷の過程で消えているらしい。消えた場所からして、透明人間がやったとしか思えないらしい。
精神科医の乙花はその頃、病院へと車を向かわせていた。ラジオで行方不明者のニュースが流れている。最近物騒だなぁと意識をニュースに向けた途端、目の前に人が現れた…ように感じた。慌ててブレーキを踏む。頭を軽くぶつけ、痛がりつつ辺りを確認する。
…誰もいない。
午後。芳しくないプレゼンを終えた田中に、上司から電話が入る。曰く、「開発部門の最上の姿が見当たらない」らしい。つぎに最上に電話をかけてみる。3コールの後に、受話器の向こうから疲れ果てた声が聞こえた。
「…妹が行方不明でね」
人攫いの骸骨。
この街にある交差点、その横断歩道の手前でそれは目撃される。
23:00ちょうどに骸骨が現れ、神隠しのように人を攫っていくという。
奇しくも3人はそれを知ることになる。そして、好奇心からか、人助けのためか、例の場所へと赴いた。
23:00。
〈✪妖術(虚転移牢/うつろうつろうろう)〉
周りにいたはずの人が消える。
いや、共鳴者たちが消えたのだ。辺りには行方不明となっていた者たちが、そして目の前には巨大な骸骨がいた。
骸骨が手を伸ばす。
しかし、それに割り込む、紅い人影があった。
人影が骸骨の気を引く。その様子を見ている3人の目の前で、紙が舞う。
そこには、こう書かれていた。
「見えてるんだろ?だったらさ、手を貸してくれよ」
この紙を掴めば、もう後戻りはできないだろう。
しかし、
挑戦をするのなら、
変化を望むなら、
この状況を打破したいなら、
この紙を掴むほかないだろう。
ある者は両手で、ある者は片手で。ある者は…。
そうして掴んだ紙は3枚の札に変わった。それに気づいたかのように、骸骨と戦っていた人物が口を開いた。
「今回のターゲットは人攫いの骸骨、餓者髑髏。これからヤツを倒し、その力を盗むつもりだよ」
「アレはボクがやる。君たちはその札で、安全に陽動してね」
誰からともなく、その人物の正体を問う声が出た。
「ボクかい?」
そう言って、自分の姿を改めて観察する。そうして…
「怪盗…ってとこかな」
そんな怪盗に言われるがまま、それぞれが骸骨の気を引く。その間、例の人物は骸骨を真っすぐ見据え、力を貯めるような仕草をしていた。
「〈加速〉…〈加速〉……」
「〈✪妖術(九速爆狐/ダイナマイト・ブースト)〉」
隕石と見紛う速度で骸骨に飛びつき、そして蹴り飛ばす。
骸骨は地に伏し、動かなくなった。
例の人物が指を鳴らす。すると、骸骨の姿が消えた。
「ふー。君たち、思ったほどその札、使わなかったね」
そんな怪盗の目的を問えば、解答はこうだ。
「ああやって制御が効かなくなった妖怪の力をこっちで盗んでしまおう、ってとこかな」
「制御が効かなくなれば、それは都市伝説として現れる。今この街にあるのは…」
「氷点下の女、人斬り三姉妹、闘争求む大侍、殺人姫、人語で喋る猫、鬼の双子兄弟、人攫いの骸骨…」
「おっと、最後の奴はもう盗んでしまったっけ」
「六つじゃあキリ悪いし…。そしたら7つ目は…『怪を盗む一団』だね」
「おっと、別に君たちがボクに協力してくれるって決まったわけじゃなかったね。じゃあ改めて。乗りかかった舟だと思って、君たちもボクに付き合ってほしいな」
その語気の割に、拒否権はないような気がした。
「それじゃあ、いつか来る日、どこかの場所で待ってるよ」
〈✪妖術(虚転移牢/うつろうつろうろう)〉
そうして、例の人物の姿は…骸骨の両手に包まれるように消えた。
田中の知り合いである最上、その妹は無事に見つかった。割にはしゃぎながら彼女は一部始終を話してくれる。
有馬は行方不明者の無事を確認すると、警察に連絡しつつ、帰路についた。
乙花は車で帰路につく。
「もしもし?厄介なことに巻き込まれちゃったみたいなんだけど…」
次回予告
世界がいきなり氷点下!夏を取り戻せ!できれば春延長願います!
第壱怪「凍・世・界 (コゴエセカイ)」
|