第三話「惨劇の連鎖」
1、水飴の魔術師
メオティアの森で、「森人族の指輪型印章」を預かったアーデルハイト達は、その指輪の本来の持ち主となる筈であったセティエ・ルーが領主代行を務めているエレシス村へと向かう。ケルファーレン北部に位置するこの村は、北狄との国境近くに位置しており、エンケラドゥスが遺した資料によれば、この村から少し先に向かった地には、12人の錬金術師の一人である豚人族(オーク)の聖痕者の末裔が住む集落が存在する。その意味では、指輪型印章を集める(と同時に、それらを集めようとしている「救世主」達の陰謀を阻止する)ために旅をしている彼女達にとっても、ちょうどこの村は「通り道」に位置していた。
そんな五人が無事にカリスト村に辿り着くと、その村の入口付近で、奇妙な風貌の魔術師風の女性が、小さな「出店」を開いているのが目に入る。両目が隠れるほど長い前髪のその女性は、その両手に奇妙な「棒」と「液体か個体かよく分からない何か」を手にしながら、サリアに向かって話しかけた。
「あ、そこのお嬢ちゃん、水飴いらない? 今、新しい色の水飴が出来たとこなんだけど」
そう言って彼女は、自らが手にするその「謎の物体」をサリアに差し出す。どうやら、これは「水飴」と呼ばれる菓子の類いらしい。その不思議な形状のプレゼントに皆が戸惑っている中、「女性と出会ったら、とりあえず口説くのが礼儀」という信条のカープは、懐から一輪の花を取り出してその魔術師の前に差し出す。すると、彼女はその花を喜んで受け取りつつ、花の周りを半透明の「水飴」で包み込み、さながら芸術作品のような「飾り菓子」を作り出した。
「この村は、ちょっと色々あったからね。今、新しい村の名物を作ろうと思ってるんだ」
楽しそうな笑みを浮かべながらそう語る彼女に対して、オリバー達は「この村の領主」に「領主の故郷の人からの手紙と届け物」があると伝えると、彼女は途端にその口元を歪めて、その場から慌てて走り去ろうとする。その不審な様子を訝しんだ五人は、ひとまず彼女の後を追いかけることになった。
2、五虎将軍
だが、五人が「水飴の魔術師」に追いつく前に、突然、曲がり角から飛び出してきた一人の大柄な男(下図)と衝突する。その男は、サリアの首飾りに掛けられている「指輪」と、「五人の組み合わせ(男二人、女二人、猫一人)」から、彼等の「正体」に気付き、大声を上げる。
「お前ら、オピュクスとタダックを倒した奴でんな! ワイは、救世主様の四天王筆頭Dr.エベロ様の配下の五虎将軍の一人、タンズラーでまんねん。おとなしく、その『指輪』と『朱肉』をよこすでまんねん!」
凄いのか凄くないのかよく分からない肩書きを誇らしげに名乗られたものの、少なくとも、オピュクスやタダックよりは格下であろうと考えた彼等は、臆することなくその要求を断る。すると、タンズラーと名乗ったその男は、「重戦士(アルドール)」の聖痕の奇跡の力を用いて襲いかかってくるが、アイルーやカープが聖痕を用いて惑乱戦術で対抗したことで、彼等は誰一人傷を負うことなく、その攻撃をかわし続けた。この状況で、さすがに多勢に無勢を悟ったその男は、その場から一目散に逃げ去ろうとする。
だが、そんな彼の眼の前に、先刻の大声を聞いて駆けつけたこの村の警備隊長トリス・ヘッセが現れる。トリスはあっさりとタンズラーの身柄を拘束し、そのまま彼は村の拘置所へと抑留されることになるのであった。
3、廻り会う人形
その後、トリスはオリバー達から事情を聞こうとするが、その視界にアーデルハイトが入った瞬間、驚きの表情を浮かべる。
「君は……、もしかして、アーデルハイトかい?」
アーデルハイトが肯定すると、トリスは自分の素性を明かす。彼は現世においては「トリス」の名を親から与えられ、「トリス・ヘッセ」として生きてきた。だが、彼の前世における名は「ジークフリート」。そして、前世における彼は、
アーデルハイトと共に作られた「7人の機械人形」の一人だったのである。彼は数百年前の戦いの日々の中で(7人の中で唯一)命を落とし、この時代に「人間」として転生した。今の彼にはもう、「人形」だった頃の力は残っていないらしい。
そしてトリス曰く、数週間前にこの村を、もう一人の機械人形である「ジュリアン」も訪れていたらしいのだが、現在、彼は「死んだ友が再びこの世界に転生する日を待ち続ける」という目的のために、完全な再起動に必要な印章を集める旅に出ているという(詳細は
外伝2
を参照)。あと少し早く彼女達が到着していれば、ジュリアンとも合流出来ただろうに、とトリスは悔やみつつ、
アーデルハイトに対して、こう問いかけた。
「君は『力』を取り戻した後は、どうするつもりだい? そもそも、『力』を取り戻したいのかい?」
その問いかけに対して、アーデルハイトは悩む。彼女もトリス(ジークフリート)も、かつて自分に備わっていたと言われる「世界を揺るがすほどの力」なるものが、どのような力だったのか、よく覚えていない。そして、自分がこの世界で何を為すべきなのかについても、まだ彼女自身の中で答えが見えない状態であった。
そんな彼女の心境を慮ったトリスは、ひとまず結論を急がせることは避けた上で、この村に、指輪型印章の一つを持つ岩人族(ドワーフ)がいる(上述のジュリアンには、既に「別のプルートーの末裔」の血液を用いて、彼の印章は捺印している)ということを彼女に告げる。その上で、先刻彼女達が出会った「水飴の魔術師」こそが領主セティエ・ルー本人であるという事実を聞かされた五人は、ひとまず二手に分かれることにした。
アーデルハイト、オリバー、アイルーの3人は岩人族の指輪の後継者である鍛冶屋ボルドの工房へと向かう一方で、カープとサリアは(トリス曰く)村のどこかに潜伏していると思われる領主セティエを探すために村を探索することになったのである。
4、奇妙な邂逅
先に目的を果たしたのは、サリアとカープであった。彼等は村の路地裏に隠れていたセティエを見つけると、カープはセティエを紳士的に「お茶」に誘い、ひとまず観念した彼女は、村一番の小料理屋として評判のクレア(下図)の店へと向かい、腰を落ち着けて話を聞くことにする。
クレアの特製焙煎の紅茶を飲みながら、カープから「シムーンの手紙」を受け取り、一通りの話を聞き終えたセティエであったが、既に森を捨てた身である自分が指輪を受け取ることには、露骨に難色を示す。すると、そんな中、横から一人の女性(下図)が口を挟んできた。
「その指輪、あなたに必要無いのであれば、私に譲って頂けませんか?」
その女性は「セリーナ」と名乗り、「その指輪の力を必要とする者」であると自称した上で、カープとサリアに対して、どのような経緯でその指輪を手に入れたのか聞き出そうとするが、カープとしても、この女性の正体が分からない状態で、どう答えるべきか迷う。
こうして互いに相手の腹を探りながら言葉を選んでいたところで、突然、村のはずれの「鍜治屋ボルドの工房」が位置する方角から、巨大な爆破が響き渡った。その音を聞いたセリーナは、表情を歪ませつつ、その方角に向かって走り出し、そんな彼女を追ってカープとサリアも、それに少し遅れる形でセティエもまた、その工房へと向かって駆け出して行くのであった。
4、荒ぶる人形
一方、その頃、鍛冶屋ボルドの工房へと向かったアーデルハイト、オリバー、アイルーは、工房の扉の目の前でその「爆音」に遭遇する。驚いて彼等が扉を開くと、そこに立っていたのは一人の「首輪をつけた少年(下図左)」であり、その傍らでは「おそらくボルドと思しき岩人族の男性(下図右)」が、血を流しながら横たわっていた。
アイルーが即座にその岩人族に駆け寄ると、その時点で既に彼は事切れていた。しかし、アイルーは聖痕の奇跡の力を用いて、彼の魂を冥界から呼び戻すことに成功する。
一方、「首輪をつけた少年」の手には、一つの「指輪」が握られており、それは明らかに「12人の錬金術師の指輪」であった。アーデルハイトとオリバーが表情を強張らせて警戒する中、その少年はアーデルハイトと目が合った瞬間、満面の笑みを浮かべて語りかける。
「アーデルハイト! 良かった、無事だったんだな!」
予想外の反応にアーデルハイトは驚きつつも、その屈託のない表情から、彼女の心の奥底に眠っていた一人の「戦友」の記憶が呼び起こされる。この少年の名は「レオ」。彼もまた「7人の機械人形」の一人である。だが、現在の彼は、(その表情自体は昔と変わらないものの)明らかに「昔の彼」とは異なる、凶々しい「闇」の気配に満ち溢れていた。
アーデルハイトが「この状況」についてレオに問い詰めると、彼はあっけらかんとした表情で、「指輪をよこせとと言ったが、『殺戮者には渡せない』と言われたから、殺した」と答える。どうやら彼は、既に殺戮者となってしまっているらしい。かつての友が闇に堕ちてしまった事実に愕然とするアーデルハイトであったが、レオは彼女に対して、はっきりと言い放った。
「俺には力が必要なんだ。あの『救世主』とかいう奴をぶっ倒すための力がな。お前も俺と一緒に来いよ。あんな奴に、お前を好きにはさせない」
どうやら、「救世主」は既に彼にも接触していたらしい。彼等がレオに対して何を要求し、どのような経緯でレオが「救世主」と敵対することになったのかは不明であるが、これがレオの出した結論であるらしい。
レオはアーデルハイトにも、自分と同じ「決意」を固めるように迫るが、彼女はそれを拒絶する。レオが「救世主」と対立関係にあるのなら、状況によっては彼と共闘出来たかもしれない。だが、二人が出会うのが、少しだけ遅すぎた。殺戮者となってしまった今のレオは、この世界の(アーの)秩序を守る聖痕者としての今の彼女にとっては「殺さなければならない存在」である。しかし、この衝撃的な事実を目の当たりにして心の整理が出来ていないアーデルハイトには、まだその「決意」を固めることも出来なかった。
一方、レオの側も、アーデルハイトに自身の選んだ道を否定されながらも、彼女と敵対関係になることを明らかに嫌がっている(彼女に対して、一定の「情」を抱いている)ことを察したアイルーは、重苦しい雰囲気の二人の傍から口を挟み、「オリバーの血液」を交換条件に、その指輪を「共有」することを提案する。すなわち、レオがオリバーの血液を用いてその指輪を自身に捺印した上で、その指輪をアーデルハイトに渡す、という「一時的共闘案」である。
レオはそれに対して一瞬興味を示すが、実際のところ、彼には「オリバーの血液」は必要なかった。なぜならば、彼は既にもう一つの「朱肉」を手に入れていたからである。
6、もう一人の末裔
レオがその提案に対して答えを出す前に、一人の女性が工房へと駆け込んできた。セリーナである。彼女は工房の惨状を目の当たりにすると、「状況」を察した上で、呆れ顔でレオに対して語りかける。
「やっぱり、あなた一人に交渉を任せるべきではなかったわね……」
「なんだよ、ちゃんと指輪は手に入ったんだから、それでいいだろ?」
なんら悪びれることなくそう返すレオに対して、セリーナはため息をつきながら、自らの指先を軽く切り、そこから流れる血液をレオが手にする(ボルドから奪ったと思しき)指輪型印章に垂らすと、レオはその指輪を自身の腕に「捺印」する。その瞬間、レオの身体が光に包まれた。それは明らかに、アイルーの指輪をアーデルハイトに捺印した時と同じ光景である。どうやら、彼女こそがレオが手に入れた「朱肉(プルートーの末裔)」であるらしい。
こうして目的を果たしたレオは、その場から立ち去ろうとするが、アイルーが再び彼に先刻の提案を(既に「交換条件」が不成立であることを承知で)懇願すると、レオは少し迷いながらも、指輪をアーデルハイトに向かって投げ渡す。アーデルハイトが自分と敵対する可能性が高い(そして、彼女に指輪を渡しても、レオには何の得もない)と分かっていながらもレオがそうしたのは、彼の中での「彼女には生きていてほしい」という気持ちが、そのリスクを看過しても構わないと思えるほどに強いことの証明と言って良かろう。
そして、彼等が去った後、サリアとカープ、そして、セティエもその場に現れる。意識を取り戻したボルドも含めて、彼等はこれから先、「指輪」と「アーデルハイト」をどうするのか、という問題について語り合うことになった。それは、先刻トリスから投げかけられた問いであり、彼等がこれまでずっと曖昧にしたまま結論を出せずにいた問題でもあった。
7、それぞれの決意
まず最初に口を開いたのは、セティエであった。
「機械人形(クレアータ)ってのは、誰かのために尽くしたいっていう本能を持つ子が多いのよね。そこの子がどうかは知らないけど」
自分が過去に出会った「アーデルハイトの仲間達」を思い出しながら、セティエはそう呟く。それに対して、アーデルハイトも素直に今の自分の心の内を訥々と語り始める。
「私も、出来ることならば、誰かのために尽くしたい。でも、今の私は何をすれば良いのか分からないし、今も自分が正しいことをしているかどうかが分からないんです……。それに、別に特別な力がほしいと思っている訳でもありません。ただ、せっかく目覚めたのに、このまま捺印されずに、何もしないまま、また眠るというのも……」
困惑した心境のまま、まとまっていない自分の考えを述懐する彼女に対して、カープは優しく語り始める。
「私は、彼女の力になりたい。彼女が力を求めずにこの時代に留まりたいというのなら、『印』を押さずに彼女が生きる方法を探したい。私はレディの味方だからね。だから、これから先も君を助けたいと思う。どうか、私の『生き甲斐』を奪わないでほしい」
彼はそう言った上で、自分が預かった印をアーデルハイトに押すかどうかは、ひとまず保留とした。彼女が生きていく方法が他に見つからず、その上で彼女が活動期限を過ぎても生きていたいと考えたならば、その時点で捺印するという方針である。
一方、彼と同様に、なりゆきで「同族の指輪」を預かることになったサリアは、今の自分の立場を踏まえた上で、こう言った。
「この指輪は預かり物だから、まず、私以外にこの指輪を引き継ぐべき同族がいるかどうかを確認したい」
その上で、誰も他に託すべき相手がいなければ、その時点でサリアが正式に指輪の後継者となった上で、アーデルハイトへの捺印も(彼女が望むなら)考える、ということらしい。
彼女のその宣言に皆が納得する一方で、既に独断で捺印を済ませているアイルーは、端的にこう告げた。
「俺は、仲間以外には押す気はない」
つまり、アイルーの中では、アーデルハイトは既に仲間であり、今後も彼女を支えていくという心積もりは、彼の中では最初から固まっていたようである。
そして、全ての捺印の鍵を握る存在であるオリバーは、強い決意の瞳でアーデルハイトを見つめながら、落ち着いた口調で自身の考えを伝える。
「俺は『指輪の印を押すために必要な存在』だから、ここまで来た。君がこの時代に目覚めたことには、必ず何か理由がある。これから先の状況の中で、もし君の『本来の力』が必要になったならば、君はその『力』を手に入れなければいけない」
捺印に対して逡巡するアーデルハイトに対して、あえて彼はいつでも自分の血を提供することを強調する。父親を殺された彼としては、救世主の「巨大な力」に対抗するために、彼女が「力」を得ることに対しては、(カープとは対照的に)むしろ後押しするつもりでいた。
そんな彼等の様子を見たボルドは、五人がそれぞれ微妙に異なる思いを抱えつつも、少なくとも彼等の言動から、アーデルハイトを支えていこうとする強い決意を感じ取り、彼等にならば自らの指輪を預けても良い、という判断を下す(それは、もう一人の「プルートーの末裔」である「鷹使い青年」の思想の受け売りでもあった)。
8、非業の殺戮者
だが、こうして皆の心がまとまりかけていたその時、突然、工房の外から人々の悲鳴が上がった。皆が慌てて外に出ると、多くの人々が恐怖に怯えながら逃げ回っている。その中の一人である時計屋のヨハン(下図)が言うには、村の北の街道から、凶暴な一人の豚人族の戦士が現れ、暴れ回っているという。
ヨハン曰く、この村の北の集落に住む豚人族達は、豚人族にしては温厚な性格で、この村との関係もそれほど険悪ではなかったらしい。その話を聞いた五人はこの状況を不審に思いつつ、ひとまず彼等がその「現場」へと向かうと、そこでは確かに一人の「明らかに正気を失った表情の豚人族」が、まるで何かに取り憑かれたかのような様相で、道行く人々に襲いかかっていた。その姿は、確認するまでもなく、明らかに一人の「殺戮者」である。
「首輪の人形はどこだ!? 我が一族の指輪、今すぐ返せ!」
豚人族の殺戮者はそう叫ぶ。どうやら彼は、元来は「指輪型印章の後継者」であったが、レオに指輪を奪われ、彼への復讐心と指輪の奪還への使命感が高じた結果、「闇」に堕ちてしまったらしい。ひとまずカープが彼の前に姿を現し、どうにか説得を試みようとするが、既に完全に「心」を失ってしまった様子の彼は、全く聞く耳を持とうとしない。その間に、他の者達はセティエと、この村の司祭であるユーベル・アインハルトの指示の元、怪我をした村人達を安全な場所へと連れて行き、アイルーが彼等を治療する。
こうして、ひとまず村人達の安全を確保した彼等は再びカープと合流し、その豚人族の殺戮者の前に立ちはだかった。これから自分達が訪ねに行く筈であった「エンケラドゥスの友人」と思しき豚人族の変わり果てた姿を目の当たりにして困惑する彼等であったが、ここで彼を殺さなければ村への被害が更に広がる以上、戦う以外の選択肢は残されていなかった。
豚人族の殺戮者は、身体に刻まれた五つの「絶対攻撃」の奇跡を乱発して、真正面に立っていたカープに襲いかかる。その圧倒的な連撃と、更にその上に乗せられた「死神の手」の奇跡によって、カープは一度はその場に膝をつくものの、仲間達からの援護を受けて、どうにかギリギリのところで持ち堪える。その直後、今度は畳み掛けるようにカープ以外の四人が波状攻撃のように襲いかかり、最後はサリアの刃によって心臓を貫かれたことで、豚人族の殺戮者は、その場に崩れ落ちた。
本来ならば、彼と殺し合う必要などなかった。ただ、ほんの僅かな巡り合わせの不運が、このような形での悲劇を生み出してしまった。最後の最後まで自らの使命に殉じようとして、本来の心を失ってしまった豚人族の勇者に対して、カープは深く哀悼の念を抱き、彼のその勇姿を後世に語り継ぐことを誓うのであった。
9、継ぐ者と継がざる者
その後、豚人族の集落へと向かった五人は、荒廃した雰囲気の中で、生き残ったわずかな住人達が、怯えながら「他所者」である自分達を警戒している様子を目の当たりにする。それでも彼等に接触を試みて話を聞いてみたところ、数日前に「(おそらくレオと思しき)機械人形の殺戮者」が現れ、指輪の継承者にその指輪を渡すよう要求したものの、その明らかに危険な雰囲気故に継承者はレオへの協力を拒絶したため、レオはその継承者から強引に指輪を奪い取り、そして継承者は殺戮者となって、レオを倒すための力を得るために、周囲の同胞達を殺して聖痕を奪い取り、レオの匂いを辿って南方(エレシス)へと向ったと言う。
「あんな指輪さえなければ、こんなことにはならなかったんだ!」
豚人族達は口を揃えてそう嘆き、仮に今後、指輪が自分達の元に戻ってきても、もうそれには関わり合いたくない、と言い出す。どうやら彼等の中には、もうあの指輪を継ぎたいと思う者はいないらしい。その有り様を見て、
サリアは自分と彼等の境遇を重ね合せる一方、
オリバー達は「巨大な敵を倒すために闇に堕ちたレオ」が、新たな「闇」を生み出している状況を目の当たりにしたことで、改めて「殺戮者」という存在の業の深さを実感する。
その後、ひとまずエレシスの村に戻った彼等は、改めてセティエに事の次第を話した上で、指輪の管理の都合上、「森人族の指輪」は、この村で(ボルドの持つ「岩人族の指輪」と共に)保管した方が安全だろうという結論に至り、渋々ながらもセティエは、自身が指輪の後継者となることを承諾する。その上で、セティエとボルドは、
アーデルハイトの身体にそれぞれの印章を捺印し、これで彼女の身体には「三種族の印」が刻まれることになった。
この時点で、
カープと
サリアが持つ未捺印の二つの印と、レオが持っていると思しき豚人族の印を除くと、残る印章は6つ。そのうち、白鳥人族(ヴァルフェー)と童人族(バンビーノ)の後継者に関しては、エンケラドゥスの残した資料にその居場所は記されており、更にセティエの口から、南方のカリスト村に住む樹人族(エント)の長老ユピテルも、その印章を持っている(そして、その傍らに「もう一人のプルートーの後継者」がいる)という話を聞かされる(詳細は
外伝1
を参照)。
残りの三種族(翼人族、鬼人族、蛇人族)の指輪については何の情報も得られていない以上、まずは白鳥人族、童人族、樹人族のいずれかを回ってみるべきであろうと考えた五人は、次は地理的に見てこの場所から最も近い場所に住んでいると思しき「白鳥人族の指輪の所持者」の元へと向かうことを決意するのであった。
最終更新:2016年06月13日 14:26