2017年度前期『コード:レイヤード』キャンペーン(GM:Y武)
Pre-Pandemic Agency Project

※注:別のゲームで登場したキャラと同じイラストのNPCが登場しますが、他人の空似か転生体だと思っておいて下さい。あと、スマホで見た時に表示がおかしくなる場合は、一番下の「表示切り替え」で「パソコン版」を選択して見て下さい。

PC紹介
+ PC① プレイヤー:Shin
名前:朏 霧穂(みかづき きりほ)
コード :コンスタンティヌスⅠ世(カルナ)
スタイル:チェッカー
レイヤー:アームズ
+ パーソナルデータ
年齢:17歳
性別:女性
身長:161cm
体重:50kg
髪の色:黒
瞳の色:琥珀色
肌の色:ふつう
生年月日:2098年12月12日
+ ライフパス
出自:生存者
経験:捜索
動機:復讐
邂逅:紗川ラウラ(苦手な人)
コードフォルダの形態:アクセサリ
コードへの感情:劣等感
+ 能力値(技能)
体力:4(重武器4)
敏捷:3(回避1)
感覚:4(騎操1、探知1)
知力:3
意志:3(自我1)
幸運:1
+ 副能力値
生命力:42
精神力:30
行動値:14
解法力:5
+ コネクション
紗川ラウラ(苦手な人、苦手意識、居住・行政)
黒騎士(宿敵、?、ベクター)
タイラント(宿敵、?、裏社会)
+ 特技
「聖槍」ロンギヌス(必滅の神槍):1    
ファイナライズ:1    
タイプ:アームズ:1    
投擲体勢:1    
撃滅の飛刃:2   
セットウォーク:1
マルチロック:1
破滅の刃:1
勝利の象徴:3
封印されし力:1
孤独への耐性:1
+ 武器
流星の槍
+ 防具
白牡丹
ハイドコート
+ アクセサリ
ブーストブーツ
シーカードール
+ その他アイテム
マインドリーパー
ケアスプレー
ミッションセット
+ PC② プレイヤー:夢見心地
名前:花山 朔夜(はなやま さくや)
コード:ケルベロス
スタイル:ブレイカー
レイヤー:センチネル
+ パーソナルデータ
年齢:19歳
性別:男性
身長:169cm
体重:61kg
髪の色:茶
瞳の色:黒
肌の色:普通
生年月日:2096年10月19日
+ ライフパス
出自:レイヤード
経験:技術者
動機:被験者
邂逅:御城依子(家族)
コードフォルダの形態:アクセサリ
コードへの感情:親しみ
+ 能力値(技能)
体力:4(格闘3、頑健1)
敏捷:4(回避3)
感覚:4(探知1)
知力:2
意志:2
幸運:3
+ 副能力値
生命力:46
精神力:34
行動値:11
解法力:5
+ コネクション
御城依子(家族、親愛、歴史・骨董)
+ 特技
トライヘッド:1    
デストラクション:1    
タイプ:センチネル:1   
アサルトオーダー:1    
観測手:3
絶対命令:1
闘争の牙:2
ロングレンジ:1
観察眼:1
熱帯適応:1
+ 武器
センチネル:ビースト
+ 防具
野戦服
クッションコート
+ アクセサリ
ポイントアーマー
+ その他アイテム
マインドリーパー
通信端末
メディジェクト
ケアスプレー
書籍
+ PC③ プレイヤー:ロラン
名前:蒼羽 つばめ(あおば つばめ)
コード :ヒュドラ
スタイル:チェッカー
レイヤー:シャドウ
+ パーソナルデータ
年齢:18歳
性別:女性
身長:158cm
体重:45kg
髪の色:黒
瞳の色:黒
肌の色:色白
生年月日:2098年3月14日
+ ライフパス
出自:病弱
経験:犠牲者
動機:事故
邂逅:御城依子(家族)
コードフォルダの形態:アクセサリ
コードへの感情:親しみ
+ 能力値(技能)
体力:4(頑健1)
敏捷:2
感覚:3(射撃2)
知力:4(機械操作1)
意志:4
幸運:1
+ 副能力値
生命力:42
精神力:34
行動値:11
解法力:5
+ コネクション
御城依子(家族、親愛、歴史・骨董)
蒼羽かもめ(姉、科学)
+ 特技
邪竜の劇毒:3
ファイナライズ:1    
タイプ:シャドウ:1    
影踏み:1    
ダブルトラップ:1    
シャドウウェポン:2
マルチロック:2
フラッシュバン:2
キルチャンス:1
医術の心得:1
+ 武器
コンポジット・ボウ
ヒートメス
+ 防具
ネヴァーローズ
+ アクセサリ
コンバットブーツ
+ その他アイテム
メディジェクト
通信端末
書籍×3
飲料水×3
ウェルフェッド×3
キャリングケース
ケアスプレー
+ PC④ プレイヤー:BWG
名前:東 一星(あずま いっせい)
コード:チャリオット(サバル)
スタイル:チェッカー
レイヤー:センチネル
+ パーソナルデータ
年齢:24歳
性別:男性
身長:199cm
体重:93kg
髪の色:黒
瞳の色:黒
肌の色:肌色
生年月日:2092年7月7日
+ ライフパス
出自:戦場生まれ
経験:戦いの日々
動機:闘争
邂逅:沢渡シン(ビジネス)
コードフォルダの形態:カード(ニューロデッキVII カゼ)
コードへの感情:助力
+ 能力値(技能)
体力:4(頑健1)
敏捷:2
感覚:3(騎操7)
知力:2
意志:3
幸運:4(天運1、人運1)
+ 副能力値
生命力:53
精神力:36
行動値:11
解法力:5
+ コネクション
沢渡シン(ビジネス、信頼、科学・データベース)
+ 特技
沈黙の運び屋(鋼鉄騎兵):1    
ファイナライズ:1    
タイプ:センチネル:1   
カットイン:1    
観測手:1    
チャージオーダー:1
ガードライド:1
アトラクト:1
セットウォーク:1
強靭な肉体:1
絶対命令:1
パリィスタンス:1
+ 武器
センチネル:ホース
+ 防具
スニーキングクロス
メディカルコート
センチネル:ホース
+ アクセサリ
ライダーグローブ
+ その他アイテム
トラバース
マインドリーパー
通信端末
+ PC⑤ プレイヤー:ET
名前:エルマー=オルグレン
コード:ビスマルク(諸葛孔明)
スタイル:サポーター
レイヤー:マージ
+ パーソナルデータ
年齢:32歳
性別:男性
身長:190cm
体重:85kg
髪の色:黒
瞳の色:黒
肌の色:白
生年月日:2084年4月1日
+ ライフパス
出自:アンダーグラウンド
経験:放浪生活
動機:烙印
邂逅:大城豊子(保護者)
コードフォルダの形態:携帯端末
コードへの感情:同情
+ 能力値(技能)
体力:2
敏捷:2(回避1)
感覚:3
知力:4(クラフト1)
意志:4
幸運:3(天運2、人運1)
+ 副能力値
生命力:34
精神力:53
行動値:7
解法力:5
+ コネクション
大城豊子(保護者、頭が上がらない、居住地区・噂話)
+ 特技
(孔明の罠):2
ゲートキーパー:1    
タイプ:マージ:1   
交渉上手:1    
リペアライト:1    
テリトリー:1    
エクスペリエンス:1
支援攻撃:3
ブレイブハート:1
メンタルトレーニーング:1
バックアップ:2
裏事情通:1
+ 武器
ヒートジャベリン
+ 防具
スニーキングクロス
+ アクセサリ
コンバットブーツ
+ その他アイテム
書籍
携帯ライト
キャリングケース
ハンターズブック
高額品リスト
通信端末

トレーラー&概要
+ 第一話・トレーラー
 3年前、中部地区に存在していたナゴヤ・ヘイヴンが、一人の男によって壊滅させられた。その男が、エンフォーサーだったのか、レイヤードだったのかも分からない。彼が生み出す紅蓮の炎によって、街も、人も、全てが焼き尽くされた。そんな中、唯一人、その業火に焼かれながらも生き残った朏霧穂(みかづき きりほ)に対して、彼は無機質な笑顔を浮かべながら去って行く。

「キミとは、またいずれ会うことになるだろう」

 それから時は流れ、ムサシ・クレイドルのレギオンの一員となった霧穂は、一枚の手配書を目の当たりにする。そこに描かれていたのは、紛れもなくナゴヤ・ヘイヴンを消し去ったあの男。そしてその下には「バイオテロリスト:タイラント」の名が刻まれていた。

英雄武装RPG コード:レイヤード・キャンペーン「PPAP」第一話
「炎はとまらない」
その力で、伝説を超えろ!

PC① コネクション:タイラント 関係:宿敵 分野:裏社会
 宿敵タイラントについての情報を調べていたキミは、どうやら彼が現在「危険な病原菌を散布しようとしている疑い」で世界的に指名手配されている、ということを知る。そして現在、そんな彼の計画を防ぐための対策会議が、ムサシ評議会の一部の議員達を中心に開かれているという。
+ タイラント(イラスト)

PC② コネクション:謎の少女 関係:興味 分野:居住区域
 ある日の朝、キミの自宅に一通の手紙が入っていた。「あなたに会いたい。今夜8時、隣の公園で待ってます」とだけ記されている。差出人名はないが、隣人曰く、この日の明朝、奇妙な服を着た金髪ツインテールの美少女が、キミの自宅のポストに手紙を入れるのを見かけたらしい。

PC③ コネクション:蒼羽かもめ 関係:姉 分野:科学
 キミの姉である蒼羽かもめから、キミの知人である花山朔夜を彼女の研究所に連れて来るように依頼が届く。彼女が参加している薬品開発計画にあたって、彼の「身体」となる必要らしい。そして、その被験結果次第では、キミにもその「計画」に協力してもらう必要があるという。
+ 蒼羽かもめ(イラスト)

PC④ コネクション:マリーナ・アレンスカヤ 関係:ビジネス 分野:危険区域
 セタガヤ・ヘイヴンの指揮官のマリーナは、キミにとって「お得意様」の顧客の一人である。ある日、キミは彼女から、近隣のシェルターへの支援物資の輸送の依頼を受けることになった。ちなみに、ここ最近、セタガヤ近辺では、謎の「人体発火事件」が起きているという噂がある。
(詳細はルールブックp.185を参照)

PC⑤ コネクション:長谷川理代子 関係:くされ縁 分野:歴史
 ムサシ評議会の若手議員・長谷川理代子は、事あるごとにキミに因縁をふっかけてくる「面倒な相手」である。ある日、そんな彼女がキミに対して「ようやく、アンタをこのクレイドルから追い出せる日が来たわ」と勝ち誇った顔で言い放った。詳細は後日議長から伝えられるらしい。
+ 長谷川理代子(イラスト)

PC間因縁:①→②→③→④→⑤→①

+ 第一話・概要
1、議長からの依頼
 ムサシ・クレイドル評議会の議長である紗川ラウラは、世界中のクレイドルに「人体発火病」と呼ばれる危険な病原菌を散布しようとする計画の存在を知り、その対策をレギオン技術開発部の蒼羽かもめ(下図)に依頼した。かもめは、クレイドルの中枢に眠る(超AIの遺産である)医療装置を用いれば、その病原菌に対する抗体が生成可能なことを発見するが、そのためには「『内側から発せられる炎』への耐性を持つ特異体質者」の血液が必要である、ということを知る。
+ 蒼羽かもめ(イラスト)
 ラウラの協力により、ムサシの住人達の人体情報を徹底調査したかもめは、その候補者の一人として、花山朔夜(PC②)という青年の存在に目をつける。彼はまだコードの力に覚醒してはいないが、彼の父と同じ(地獄の業火に耐えうる体質である)ケルベロスのコードを内包していると推測したかもめは、彼が(かもめの妹の)蒼羽つばめ(PC③)が経営する診療所に通っていることから、つばめ経由で彼を呼び出し、彼の血液を採取した上で、そこから抗体が作り出せるかどうかの検証を始める。
 それと並行して、その抗体を用いた特効薬を世界各地のクレイドルへと運ぶための使節団の設立を構想していたラウラは、側近の長谷川理代子(下図)からの推薦により、理代子の政敵である(しかしその能力は理代子自身が認めている)敏腕政治家オットー・フォン・ビスマルクのコードを持つエルマー・オルグレン(PC⑤)をその使節団の責任者に任命する。
+ 長谷川理代子(イラスト)
 その上で、ラウラから「腕の良い運び屋」を手配するように依頼されたエルマーが、以前にとある任務で共闘したことがある運送業者の東一星(PC④)(20世紀末の日本の伝承に登場する英雄「チャリオット」のレイヤード)に通信での連絡を試みたところ、ちょうど彼は、大型ベクターに襲われていたマリーナ・アレンスカヤ(セタガヤ・ヘイヴンのリーダー)を助け出し、ムサシへと帰還したところであった。マリーナ曰く、ベクターに彼女を襲わせたのは指名手配中の「タイラント」と呼ばれるテロリストであるという(下図)。
+ タイラント(イラスト)
 ラウラの調査によれば、まさにそのタイラントこそが、今回の病原菌散布計画の首謀者と目されている人物である。マリーナはマンティコアを召喚するレイヤードであり、一説によればマンティコアも炎を操る能力があるとも言われているため、おそらくタイラントはこちらの動きに気付いて、抗体を作り出せる可能性のある人物を消そうとしたのではないか、とラウラとかもめは推測する。
 一方、その頃、血液採取後に一旦解放された朔夜は、昼食のために立ち寄った中華料理屋で、謎の少女(下図)と遭遇する。一人で大量の皿を平らげた彼女は、朔夜の食事が終わるのを待った上で、彼を路地裏へと呼び出し、「悪いけど、死んで」と言って襲いかかるが、ここで朔夜の中のケルベロスのコードが「少女への恐怖心」を契機として発動し、センチネルとして具現化する。朔夜はケルベロスに助けられてどうにかその場を脱すると、事態が今ひとつ飲み込めない状態のまま、血液検査の結果を聞くために、再びかもめの研究所へと向かう。
+ 謎の少女(イラスト)
 こうして、ラウラの計画に基づいて着々と人材が集結する中、タイラントに深い因縁を持つ一人の少女が、自ら評議会に足を踏み入れようとしていた。彼女の名は朏霧穂(PC①)。かつてタイラントによって崩壊へと追い込まれたナゴヤ・ヘイヴンの生き残りである。彼女は当初、タイラントに関する情報を得るため、一人で強引に評議会に押し入ろうとしていたが、偶然通りかかった旧知のエルマーの紹介によって、彼女もまたラウラの計画に加わることになる。

2、Pre-Pandemic Agency Project
 そしてこの日の夜、かもめの研究室に集まった霧穂朔夜つばめ一星エルマーの五人に対して、かもめとラウラは、朔夜の血液から「抗体」を作成することに成功したと告げた上で、改めて五人に「計画」の概要を説明する。
 かもめ曰く、各クレイドルの中枢の医療装置に抗体を持ち込んで操作すれば、そのまま抗体を培養する形で特効薬を量産出来るが、そのためには新鮮な状態の抗体をその場で朔夜の血液から生成する必要があるため、「朔夜」と「医療装置を操作出来る人間」が各地に赴く必要がある。後者に関しては、かもめ自身がムサシを留守にすることにラウラが反対したため、かもめがつばめにその操作法を伝授することを前提とした上でつばめに同行を依頼し、各地までの移動は一星が、各地のクレイドルの責任者との交渉はエルマーが担当するという形で合意に至る。
 ただ、これに対してタイラント側からの妨害が発生する可能性は十分にある。そのことを踏まえた上で、タイラント打倒に執念を燃やす霧穂もまた彼等に同行することになった。ラウラは、タイラントがナゴヤ・ヘイヴンを崩壊させた時に霧穂を殺さなかったのは何らかの意図があると考えており、それ故に、霧穂に対しては様々な意味での「疑惑」をかけていたが、少なくとも彼女一人で行動させるよりは、エルマーの指揮下に置いた方が無難だろうと考えたようである。
 ちなみに、ラウラの情報網によれば、タイラントはエンフォーサーなのかレイヤードなのかも不明だが、彼のコードがローマ帝国の暴君「ネロ」であることは判明しており、霧穂のコードである「コンスタンティヌス1世」とは、ある意味で宿敵関係であるとも言える。
 また、朔夜を襲った少女の招待に関しても、その外見的特徴から、ラウラは概ね察しがついていた。とある筋からの情報によると、タイラントの側近で、その少女と非常によく似た特徴を持つ者がいるらしい。彼女もまたその正体は不明だが、そのコードはギリシャ神話の英雄「ヘラクレス」であろうと推測されている。それはすなわち、朔夜のコードである「ケルベロス」、そしてつばめのコードである「ヒュドラ」にとっての宿敵でもあった。

3、支部長の失踪
 こうして、彼等が今回の任務に向けての決意を固める中、理代子から不穏な情報が届けられた。ムサシ・クレイドルの支部長である香澄了護が、連絡が取れない状態になっているらしい。今もムサシ近辺で暗躍していると思われるタイラントおよびセタガヤを襲った巨大ベクターとの関係も含めた上で、旅立ちの前にまずこの問題を解決する必要があると考えた彼等は、それぞれに調査を開始する。
 タイラントに関しては、もともと彼の行方を調査していた霧穂が集めた情報によると、どうやら港湾地区の旧・晴海埠頭基地の近辺での目撃情報が多い、ということが分かる。晴海埠頭はかつて軍事基地として用いられていたが、現在は廃棄され、人が寄り付かない地区らしい。
 一方、了護の行方に関しては、意外にも(彼とは最も縁遠い関係にある筈の)朔夜がその手がかりを掴むことになった。というのも、朔夜がこの町で家族同然に親しい関係にある女学生の御城依子の友人の証言によると、数時間前、友人と共に下校途中であった依子の通信端末に、了護からの着信が入り、それを受け取った彼女は、血相を変えて走り出して行ったという。その話を聞いたつばめが(彼女もまた依子とは親しい関係にあったため)更に依子の行方に関する情報を集めてみたところ、どうやら彼女は晴海埠頭の方角へと向かって行ったという。
 彼等がそんな情報を掴んでいた頃、一星はセタガヤで目撃した(タイラントが指揮していた)超巨大ベクターについて調べていた。彼の幅広い仕事仲間の人脈を通じて得られた話によると、どうやらその正体は、西東京地区を支配するエンフォーサーであるガイウス・ユリウス・カエサル所蔵の決戦兵器「G(ジャイアント)ベンケイ」であるらしい。
 つまり、この時点で、カエサルとタイラントが協力関係にある場合、東西両面からの挟撃を警戒する必要がある、ということになるが、ここでエルマーが両者の関係について調べてみたところ、どうやら数日前に二人は衝突した形跡があり、しかも昨日からGベンケイが消失したことでカエサルが立腹しているらしい、という情報を入手する。この状況から推測するに、おそらくGベンケイはタイラントの手によって盗み出され、現在も彼の指揮下にある可能性が高い、という結論に彼等は到達した。

4、波止場の決戦
 上記の情報を踏まえた上で、ひとまず晴海埠頭へと向かった5人は、依子がいると思しきプレハブを発見する。見張りの小型ベクター達を奇襲によって粉砕した彼等は依子の救出に成功し、彼女から真相を聞かされる。どうやら、了護は現在タイラントによって捕らえられており、依子は了護の通信端末を奪ったタイラントによってこの場に呼び出され、了護を人質とされた状態で、この施設でGベンケイ用の巨大刀の研磨作業を強いられていたらしい(彼女のコードである本阿弥光徳は、刀の鑑定士であると同時に、研磨の技術にも長けていた)。
 ひとまず彼女を一星のセンチネル・ホースの後ろに乗せた上で、港湾施設の深部へと向かった彼等は、その途上に設置された衛兵や罠を突破しつつ、Gベンケイとタイラントが待つ巨大格納庫へと辿り着く。そこでは了護が、Gベンケイの頭に縛り付けられていた。タイラントは、ラウラ達による特効薬散布計画を察知した上で、了護が武田信玄のレイヤードである(=風林火山の「火」を操る)が故に、抗体を作り出せる特殊能力の持ち主である可能性を考慮して拉致したのである。しかし、それが「はずれ」であったことが分かったため、ひとまず彼を人質とした上で、利用出来るところまで利用しようと考えているらしい。
 そんなタイラントに対して怒りをぶつけようとする霧穂であったが、彼を攻撃するには、まず目の前のGベンケイを倒さなければならない。「かまわず、私ごと撃て!」と了護が叫ぶと、霧穂はその言葉通りに彼ごとGベンケイの頭部に向かって聖槍を投げつける。一瞬、串刺しになって絶命したかと思われた了護であったが、その直後にオーバーレイの力によって息を吹き替えす。その直後、今度はGベンケイの右腕の刀がつばめを襲うが、彼女はかろうじてその重撃を受け止め、そして間髪入れずに彼女と、そして一星朔夜が連続攻撃を仕掛けた結果、Gベンケイのコア機能は停止し、残された僅かなエネルギーで左腕から振り下ろされた薙刀の一撃でエルマーが吹き飛ばされるものの、どうにか彼もまた一命を取り留めた。
 そしてGベンケイが倒れると同時に、霧穂はタイラントに襲いかかるが、その二人の間に「ヘラクレスの少女(推定)」が割って入る。「この人は、まだ殺させない」、彼女はそう言って霧穂の槍を素手で受け止める。タイラントはその光景をうすら笑いを浮かべながら眺めつつ、こう言った。

「ビートル、今日のところは引き上げましょう。皆さんの計画と私の計画、どちらが早いか競争ですね」

 次の瞬間、二人はその場から消え去る。霧穂が更に激しい憎悪の炎を燃やす中、ひとまず彼等は了護の無事を確認した上で、ムサシ・クレイドルへと撤収するのであった。

+ 第二話・トレーラー
 了護と依子の救出作戦から数日が経過した。その間に、かもめはつばめに医療装置の使い方を叩き込み、ムサシ随一の技術者である賀内源治は、朔夜達の手を借りながら、一星のための特製トラバースを完成させる。
 ムサシとイズミを繋ぐ東海道には、多くの危険なベクターが潜んでおり、いくつもの「関所」が、人々の通行を妨げている。果たして彼等は、無事にイズミに辿り着けるのであろうか?

英雄武装RPG コード:レイヤード・キャンペーン「PPAP」第二話
「東海道中絡繰怪(からくりげ)」
その力で、伝説を超えろ!

PC① コネクション:サーシャ 関係:恩人 分野:危険区域
 ナゴヤ・ヘイヴンの崩壊後、キミをムサシ・クレイドルへと導いたのは、東海道近辺を拠点とする「魔法少女マジカル・サーシャ」と名乗る奇妙な風貌の巡業アイドルであった。サーシャは東海道の関所を突破するための裏道をキミに教えてくれたが、その目的も正体も不明である。
+ サーシャ(イラスト)

PC② コネクション:賀内源治 関係:先達 分野:科学
 キミが働いているムサシ・クレイドルの工場通りには、平賀源内のコードを埋め込んだ初老のレイヤード・賀内源治が責任者を務める「賀内工業所」が存在する。かつてはキミも、彼の下で修行をしていたことがあり、その腕前は全ての技術者にとっての憧れの対象である。
(詳細はルールブックp.185を参照)

PC③ コネクション:アインハルト 関係:トラウマ 分野:歴史
 キミの姉のかめもは、以前、レイヤードによる世界支配を目指す秘密結社ブリゲイドのリーダー・アインハルトにスカウトされたことがある。かもめはその誘いをきっぱりと断ったが、その時の彼の瞳は、まだ未熟だった君に対しても、どこか不気味な好奇の視線を向けていた気がする。
(詳細はルールブックp.184を参照)

PC④ コネクション:コンボイ 関係:ライバル 分野:エンフォーサー
 かつてキミには、様々な仕事先で競合する強敵(とも)がいた。彼の名はコンボイ。同じ名を持つ伝説の大型トラックのレガリアである。高度な戦闘能力を持つが故に、危険地帯での任務を任されることが多かったが、半年ほど前に、カエサル軍との戦いで命を落としたらしい。
イメージ画像

PC⑤ コネクション:七美太夫 関係:ビジネス 分野:裏社会
 数年前にキミがムサシ・クレイドルからの使節団の一人としてイズミ・クレイドルに赴いた際、危険地帯である京都のシマバラ・シェルターに立ち寄ったことがある。そのシェルターのリーダーは「七美太夫」と呼ばれるレイヤードであり、彼女の左頬には爛れた火傷の跡があった。
+ 七美(イラスト)

+ 第二話・概要
1、Go West
 了護と依子の救出から数日後、つばめは姉から「クレイドル内の医療装置」の操作法を学び、実際に朔夜の血液を用いた特効薬の作成に成功する。その間にエルマーは理代子から最初の目的地であるイズミへと繋がる東海道の現状を聞き、霧穂は中華料理屋で旅費を稼ぎ(その際にビートルとニアミスし)、そして一星はそれまで自分が使っていたトラバースを売却した上で、ムサシ随一のエンジニアである源治(と助手の朔夜)が作り出した新型トラバースを受け取る。
 新型トラバースは通常の車体よりもやや大型(8人乗り)で、その動力源となっていたのは、かつての彼の運び屋仲間であった巨大トレーラーのレガリア・コンボイのコア・エンジンであった。どうやらコンボイは、ベクターとの戦いで破損した後に、源治に拾われて新たな「身体」を手に入れることになったらしい。
 こうして準備を整えた彼等は、それぞれの友人達に見守られながら、東海道を西へと向かう。なお、もともとタイラント達の目撃情報がこの東海道近辺に多かったという事情から、かつてのナゴヤと同様にこれらの地が「実験場」として病原菌の散布先となる可能性があると判断したムサシ評議会は、東海道上に位置する「ヌマヅ」「カケガワ」「ナルミ」「セキ」という四つのシェルターにも、念のため、作成されたばかりの特効薬を配布するように彼等に依頼した。
 理代子の話によれば、その途上には様々な形でのベクターやエンフォーサーが「関所」のような施設を設置して待ち構えているらしいが、新たなトラバースを得た一星の運転技術が冴え渡り、更に諸々の幸運にも助けられたことで、その大半の障害を遭遇前に回避することに成功する。唯一の例外は、ヒラツカ地方を拠点とする特攻自転車ベクター隊の襲撃を受けたことだが、冷静な戦術で見事に撃退し、最大の関門と思われたハコネの関所もあっさりと迂回路を発見したことで難なく突破に成功した彼等は、無事に最初のシェルターであるヌマヅに辿り着くのであった。

2、その名はブリゲイド
 ヌマヅは強力な治癒効果のある温泉を有することで有名な土地であり、シェルター内には様々な「温泉宿」が立ち並び、多くの人々が「癒し」を求めてこのシェルターを訪れる。そんなこの地で五人は温泉の効用とは別の形での「癒し」を提供する「巡業アイドル」の姿を目撃する。それはかつて霧穂を助けた「魔法少女マジカル・サーシャ(下図)」のドサ回りライブの光景であった。
+ サーシャ(イラスト)
 だが、サーシャの正体は、レイヤードが支配する新世界の創設を目論む秘密結社ブリゲイドの一員であった(ちなみにサーシャ自身は、サキュバスのヴェールをまとったレイヤードの「少年」である)。諸々の経緯の末に、サーシャはブリゲイドの首領アインハルトを五人に引き合わせる。アインハルト曰く、ブリゲイドもタイラント達の人体発火病計画には気付いており、彼等の調査によれば、タイラントはレイヤードでもエンフォーサーでもなく、バベル以外の超AIのいずれかが作り出した存在なのではないか、と推測されているらしい。
 その上で、ブリゲイドとしても、タイラントの陰謀は阻止すべきと考えており、そのための情報共有を五人に対して提案してきた。ただ、彼等はタイラントという「特異な存在」そのものには強い興味を抱いており、出来ることならば彼を説得した上で、自分達の陣営に引き入れたいと考えているという。
 そんなアインハルトに対して霧穂は激しく警戒するが、エルマーは「利用出来るものは利用すべき」と判断した上で、アインハルトから直通で連絡可能な通信機を受け取り、以後、タイラントに関する情報を得た時点で互いに連絡し合うという密約を交わす。また、その協力の見返りとして、ここから先の東海道については、様々な「抜け道」を知るサーシャが、五人を空中から先導することになるのであった。

3、空を越えて
 サーシャの案内もあって、無事に五人がカケガワ・シェルターに到着すると、そこで彼等を出迎えたのは、この地のリーダーであるハシビロコウのインテレクトであった。どうやらこの地のレギオンは、鳥系のインテレクト達が主導しているらしい。
 そんなカケガワのレギオンの一員であるアフリカオオコノハズクとワシミミズクのインテレクト達が、この先にあるアライの関所を突破するための秘策があると申し出る。それは、過去に倒した飛行型ベクターの残骸を改造して作られた巨大な飛空装置であった。「我々は賢いので」と連呼する二人(羽)曰く、この機械を使えば短期間ならばトラバースを乗せた状態でも空が飛べるため、アライの関所を上空から突破出来るらしい。
 だが、その構造に不安を感じた一星がその構造を調べてみると、エンジン部分が彼等の想定よりも早い段階で限界に達する可能性が高い、ということが判明する。そこで、姉譲りの機械操作術を身につけたつばめがエンジン部分に手を加えることでその弱点を克服し、どうにか無事にアライの関所の突破にも成功する。

4、海を越えて
 その後、五人は名古屋地区の入口に位置するナルミ・シェルターに到着する。この地の名産品は「染物」であり、シェルター内には呉服屋が立ち並ぶ。そして、ここから先は旧ナゴヤ・ヘイヴンの崩壊後に台頭したエンフォーサー・織田信長の支配領域であり、陸路での進行は危険が伴うため、近隣のミヤ(アツタ)の旧港から海路でクワナの旧港へと向かうルートが妥当であると、エルマーは理代子から聞かされていた。
 そのための鍵を握るのが、この地に住む藍染克也(あいぜん・かつや)というレイヤードらしいのだが、このシェルターの責任者曰く、彼は滅多に人前に姿を表さないらしい。それでもどうにか一星が彼を探し出した上で事情を説明すると、彼は協力を快諾し、ミヤの旧港へと向かうと、彼はその場で自分の身体の中から、無限に続くと思われるほど長大な「藍染めの反物」を出現させ、それを遥か対岸のクワナに向けてカーペットのような形で広げる。どうやら、これが理代子の言っていた「海路」らしい。
+ 藍染克也(イラスト)
 一星は慣れない「カーペット・ロード」上の運転に苦戦しながらも、どうにか無事にクワナに辿り着き、そのまま彼等はセキ・シェルターやクサツの天然温泉を経由して、ようやく京都地区のシマバラ・シェルターに辿り着くのであった。

5、焔の因縁
 シマバラ・シェルターに到着した五人は、エルマーの口利きにより、このシェルターの実質的な元締めである「清姫」のコードを持つレイヤード・七美太夫(下図)と会談する。彼女に特効薬を渡した上で、エルマーは危険地帯の大阪地区を迂回してイズミへと向かうための道案内を依頼するが、旧京都近辺における治安の悪化を理由に、彼女はあまり前向きな姿勢を見せない。
+ 七美(イラスト)
 それでも頼み込むエルマー達に対して、彼女は見返りとして何らかの有益な情報を提供すれば考えなくもない、と答える。彼女が求めている情報とは、かつて彼女が心中未遂事件を起こした相手である「左腕に火傷痕のある男」らしい。その話を聞いて、もしやと思った五人が、それぞれにタイラントの似顔絵を描くと、それらを見た七美は「当時の彼と比べてもかなり若いが、確かに似ている」と答える。本人かどうかは分からないが、少なくとも何らかの関係がある可能性が高いと判断した彼女は、彼等をイズミへと案内する役回りを快諾する。
 こうして、霧が立ち込める旧京都へと足を踏み入れた彼等であったが、土地勘のある七美がなるべく安全なルートを選んだにもかかわらず、それでも一体の超巨大ベクターと遭遇してしまった。それは旧京都地区の南方を守る「朱雀」のベクターであり、二体の有翼ベクターがそれに付き従っている。戦闘回避は不可能と判断した五人はそれぞれの力を発動させて応戦し、先行した霧穂が集中攻撃を受けて倒れるという悲運に見舞われるものの、なんとかオーバーレイの力で立ち上がり、そして怯まずに畳み掛けた五人の連続攻撃によって、無事に撃退に成功する。
 こうして難敵を退けた彼等は、北回りのルートで霧の旧京都を通り抜け(なお、その過程でサーシャはいつの間にか姿を決していた)、そこから南下して大阪湾へと到達し、この長旅の第一到達点とも言うべきイズミ・クレイドルへと辿り着くのであった。

+ 第三話・トレーラー
 イズミ・クレイドルに到着した五人は、この地のレギオンの責任者と面会し、薬の作成のための医療装置の使用の許可と、次の目的地であるホウライへの海路の確保のための協力を申し出る。だが、イズミのレギオン支部長の反応は、あまり芳しいものではなかった。
 そんな中、エルマーの通信機に、ブリゲイドのリーダーであるアインハルトから不穏な知らせが届く。海上都市イズミにおいて、彼等を待ち受けるものは、一体……?

英雄武装RPG コード:レイヤード・キャンペーン「PPAP」第三話
「Osaka Bay Blues」
その力で、伝説を超えろ!

PC① コネクション:月島剣六 関係:顔見知り 分野:居住区域
 イズミ・レギオンのリーダー。七年ほど前にナゴヤを視察に訪れたことがあり、その時にキミとは面識があるが、その当時から「少年」の姿だったので、どうやら見た目通りの年齢ではないらしい。コードは 約100年前の関西に君臨していた某組織の元締め (シャドウ)。
+ 月島剣六(イラスト)

PC② コネクション:明石アンナ 関係:ビジネス 分野:科学
 瀬戸内海を拠点とする独立レイヤード集団「ムラカミ・ファミリア」の女首領。コードは村上水軍の歴代頭目達の伝承の統合体らしい(マージ)。稀にムサシ近辺にまで足を運ぶこともあり、以前にキミが賀内工業所で働いていた時に、彼女達の戦艦の整備を手伝ったことがある。
+ 明石アンナ(イラスト)

PC③ コネクション:アスクレピオス 関係:先達 分野:歴史
 学生時代のキミの医術の師匠の一人。元来はバベルが作り出したエンフォーサーであったが、やがてその精神支配から逃れ、リベレーターとして人類を救う立場へと転身した。自身のコードである(ギリシャ神話に登場する)名医アスクレピオスの名を、そのまま名乗っている。
+ アスクレピオス(イラスト)

PC④ コネクション:曹 春蘭 関係:友人 分野:噂話
 ムサシ近郊のヨコハマ・ヘイヴンの中華街で働いていた少女。ホウライ出身。20世紀末の日本の民間伝承に登場する料理人クワイ・チャン・カモンのレイヤード(センチネル)であり、彼が作った料理を客に振る舞う(得意料理は杏仁豆腐)。現在はイズミの中華街にいるらしい。
+ 曹春蘭(イラスト)

PC⑤ コネクション:戦艦ビスマルク 関係:未知 分野:危険区域
 数年前にキミがムサシ・クレイドルからの使節団の一人としてイズミ・クレイドルに赴いた際に「キミのコードと同じ名を冠した幽霊船」を噂で聞いたことがある。ベクターの一種として認識されているらしいが、今のところ人間を襲おうとはせず、不気味に大阪湾を漂っているらしい。
イメージ画像

+ 第三話・概要
1、イズミの暗雲
 イズミに到着した五人は、イズミ・レギオンのリーダーである月島剣六(下図)との交渉に臨む。月島は五人を歓迎するものの、現時点での「特効薬生成のためのクレイドルの施設の提供」と「次の目的地であるホウライへの海路の確保」については、どちらも難色を示した。
+ 月島剣六(イラスト)
 前者については、確かにイズミ・クレイドルの深部にはムサシと同様の特殊な医療施設が存在しているものの、それを管理しているアスクレピオス(下図)が数日前から行方不明となってしまっているらしい。一応、施設の鍵は月島も所有しているものの、施設内の構造についての詳細はアスクレピオスしか把握していない以上、不用意にそこに手を加えることで何らかの想定外の事態が発生する可能性を月島は危惧しており、出来ればアスクレピオスの現状を確認した上で、その装置の使用の是非を決めたいらしい(最悪、リベレーターであるアスクレピオスが再び敵に寝返った場合、そこに何らかの罠が仕掛けられている可能性もある)。
+ アスクレピオス(イラスト)
 後者に関しては、現在、ホウライへと続く海路の途中に「巨大な蟹型のベクター」が出現し、実質的に航行が妨げられている状態であるという。そのベクターが発する「蟹光線」と呼ばれる破壊光線によって、これまで幾多の船が沈められており、その砲撃に耐え得るレベルの艦船も現在のイズミに無くは無いが、昨今、大阪湾近辺に出現しつつある幽霊船・戦艦ビスマルクが暴走してイズミを襲撃するという噂があり、その警戒のためにも、イズミ海軍の主戦力は遠出には出したくない、と考えているらしい。
 つまり、この二つの問題を解決しないことには、彼等に協力したくても出来ない、というのが月島の主張であった。

2、奇妙な失踪
 まずは最初の目的である医療施設の問題を解決するために、行方不明のアスクレピオスの動向について調べてみたところ、どうやら彼が最後に目撃されたのは、イズミの中華街らしい、という情報に辿り着く。現場に行ってみると、そこで働いていたのは、一星の顔馴染みの料理人(のセンチネルを連れたレイヤード)の曹春蘭(下図)であった。彼女曰く、数日前にアスクレピオスはこの店で、タイラントおよびビートルと思しき二人と遭遇し、店の奥の座敷で密会していたらしい。
+ 曹春蘭(イラスト)
 春蘭が言うには、アスクレピオスは滅多に中華街に現れることはなく、この時もタイラント達と待ち合わせるかのように店に来ていたという。その上で、密会を終えた後の三人の様子を観察した春蘭は、アスクレピオスにどこか奇妙な様子が垣間見れたと言っていたが、それが具体的に何を意味していたのかまでは分からなかったという。
 その上で、彼の弟子でもあるつばめが、家主不在となったアスクレピオスの家を調べてみたところ、どうやら彼が行方不明となった後の段階で、少なくとも一度、自分の家に帰ったような形跡が見つかる。だが、その点を不審に思った彼女が更にそこから詳しく調べてみた結果、その「部屋に戻ってきた人物」は、アスクレピオスではないのかもしれない、という可能性が浮上した。その場合、この部屋に入れる鍵を本人以外で持ち得る人物として筆頭に挙げられるのは、この町のレイヤード全体を管理する月島、ということになる。

3、幽霊船の正体
 一方、ホウライへの海路を塞いでいる蟹型ベクターについては、調査を進めれば進めるほど、それが一筋縄ではいかない相手だということを彼等は実感する。しかも、その蟹型ベクター単体だけでも相当な難敵であるのに加えて、それを指揮する「侍型エンフォーサー」も存在するらしい。彼等を倒すには、やはり相応の海軍戦力が必要ということは間違いないだろう。つまり、戦艦ビスマルクの脅威(?)を排除してイズミ海軍の協力を得るか、もしくは戦艦ビスマルクそのものを説得(?)して仲間に加えるか、いずれかの選択が必要となる。
 その上で、戦艦ビスマルクの正体について調査してみたところ、どうやら瀬戸内海を拠点とする海賊ムラカミ・ファミリアが、何度かその戦艦と接触しているらしい。ムラカミ・ファミリアの首領である明石アンナ(下図)と面識がある朔夜を介して、同じ名を持つ鉄血宰相ビスマルクのコードを持つエルマーが直談判で交渉した結果、アンナは驚くべき真実を語り始める。
+ 明石アンナ(イラスト)
 アンナ曰く、戦艦ビスマルクの正体はベクターでもレガリアでもなく、彼女の叔父にあたるレイヤードがかつて使役していた「センチネル」であるらしい。彼女の叔父はイズミ・レギオンの所属ではなく、この地から遠く離れた海域での巨大ベクターとの戦いで命を落としたが、その死後もセンチネルとしての戦艦ビスマルクは、半霊体状態で海上を浮遊し続け、このイズミの海域に辿り着いたらしい(通常、センチネルはレイヤードの死と共に消滅するが、朔夜の中で眠り続けていたケルベロスのように、半実体状態でこの世界に留まり続けることもあるらしい)。
 その理由は、このイズミの地に死んだマスターの娘(アンナの従妹)が住んでおり、その彼女に「コードの適合者」としての資質を見出したからであるという。だが、アンナ曰く、その娘はまだ10歳であり、レイヤードとなるにはあまりに幼く、また叔父自身も「自分の娘はレイヤードにはしたくない」と考えていたらしい(故に、あえて自分から遠ざける形で母と共にイズミで暮らさせていたという)。そのため、アンナは戦艦ビスマルクに「せめて彼女がもう少し成長して、自分自身でレイヤードとなる道を選ぶかどうかの選択が出来る歳になるまで待ってほしい」と説得した結果、現在は幽霊船のような形で大阪湾を漂うことになった、とのことである。
 アンナとしては、亡き叔父の妻や娘には(少なくとも現時点では)この事実そのものを知られたくないと考えており、そのため、この事実はイズミのレギオンにも伝えていないらしい(アンナは月島に対して不信感を抱いており、この事実が知られることで従妹が戦力として利用されることを危惧している)。それ故に、エルマーにはこの事実は公言しないように釘を刺し、エルマーもその意向を受け入れた上で、ひとまず会談を終えた。

4、深まる謎
 そして、この調査活動と前後して、ブリゲイドの首領アインハルトから、エルマーに「不穏な情報」が届けられる。彼が言うには、どうやらタイラントはイズミにおいて、この地のレギオンのリーダーである月島と接触したらしい。それがどこからの情報で、何を根拠にそう言っているのかは分からない。ただ、ここまでの調査の過程において、月島が「自分の本音を部下にも話さない」「自分の姿を『自分が妄想した姿』に変えるコード能力(ロールプレイ)の持ち主である」という情報を知らされていた彼等は、ここで月島自身に対しても強い疑念を抱き始める。
 その上で、タイラントとビートルは、もう既に大陸に渡ったらしい、という情報も伝えられる。アインハルト達の認識では彼等はベクター達とも対立する関係にある以上、当然、その途上では海上の蟹型ベクターおよび侍型エンフォーサーにその行く手を阻まれる可能性が高い筈なのだが(そしてまだ現状でもそのベクターとエンフォーサーは健在らしい)、それをあっさりと乗り越えたということは、特殊な経路で迂回したのか、あるいは何らかの「取引」がそこで発生したのか、可能性は様々であるが、現時点では特定出来る要素はないという。
 いずれにせよ、この状況では分からないことが多すぎる。仮にアインハルトの情報が全て真実であったとして、タイラント達が既に大陸に渡ったとするならば、彼等はこの地での目的は全て達成したか、もしくは断念したということになるだろう。それが何だったのかが分からず、その手がかりを知るであろうアスクレピオスも行方不明という現状において、手詰まり状態となった彼等が、もう一人の鍵を握る人物である月島について調べてみると、どうやら「アスクレピオスとタイラントが接触していたと思しき時間帯」における月島の動向を知る者が誰もいない、という事実に辿り着く。
 この状況を踏まえた上で、最悪の場合、月島が裏で密かにタイラントの計画に協力している可能性もありうる、ということを覚悟した上で、彼等は月島を直接問い質すことを決意した。

5、暴君と古狸
 月島との直談判において口火を切ったのは、彼と直接面識のある霧穂であった。月島が何か隠しているのではないかと激しく問い詰める彼女に対し、月島は「誰にでも、話したくないことはありますやろ?」とはぐらかす。それが「腹を割って話をしたいなら、そちらも隠していることを話せ」という意図だと理解したエルマーが、ブリゲイドからの情報提供を受けていることを否定しない形で改めて問い質すと、ようやく月島も重い口を開く。
 月島曰く、アスクレピオスが行方不明になった直後、彼の自宅を密かに調査した月島が、残されていた通信端末にタイラントから接触を求める連絡が届いていたのを確認し、自らアスクレピオスの姿に変身した上で、彼になりすましてタイラント達と接触したらしい。自分の正体が悟られないよう、聞かれたことに対して巧妙にはぐらかしながら受け答えした結果、以下のような推測に辿り着いたという。
 どうやらタイラントはアスクレピオスを自分の仲間に引き入れようとしたが、アスクレピオスはそれに対して返事を保留していたらしい。その上で、タイラントの最終目標までは聞き出せなかったが、アスクレピオスに埋め込まれた「コード」がそれに関係しているような口ぶりであったという。また、ビートル、そして霧穂のコードも同様に彼の計画にとって重要な存在らしいのだが、彼の中では誰のコードが最終的に必要となるかの確証は持てておらず、それ故に様々な「協力者の選択肢」を確保しておきたいらしい、というのが月島の推測であった。
 そして、タイラント自身もアスクレピオスが行方不明になっていることは把握出来ていないらしい、ということを確信した月島であったが、月島もまた未だその消息は掴めず、そして霧穂達が調査しても見つからなかったという報告を聞いた上で、月島はやむなく彼の捜索をひとまず諦め、つばめにクレイドル深部の医療機器の使用を許可し、特効薬の生成を依頼する。かもめから聞かされていた通り、その構造はムサシのそれと大差なかったため、つばめはその場で朔夜の血液を採取した上で、無事に特効薬の生成に成功するのであった。

6、白旗交渉
 こうして、ひとまずイズミでの任務を完了した彼等であったが、ホウライへの海路の確保についてはまだ解決の糸口が見えない。戦艦ビスマルクが安全な存在であることを月島に納得させられれば良いことは分かっていたものの、エルマーはアンナとの信義を重んじて、月島に事情を説明しようとはしなかった。
 その上で、五人は熟考の末、アンナの仲介を経た上で、戦艦ビスマルクとの直接交渉へと臨む。戦艦ビスマルクが自身の名前の由来となった人物のコードを持つエルマーに対して友好的な態度を示したのを確認した上で、彼等は戦艦ビスマルクに事情を説明し、「白旗」を掲げた状態でイズミに向かい、月島相手に「自分は新たなコードの適合者を探しているだけで、イズミを攻撃する意思がない」という旨を伝えるように提案する。
 自分の存在がレイヤード達の妨げになることを望まない戦艦ビスマルクは、その方針を受け入れた。彼(?)の本音としては、おそらくこの機に「娘」と契約することを望んでいたであろうが、そこは先代適合者およびアンナの意思を尊重して、「娘」の存在については一切言及しないということが大前提であった。
 この合意に基づいて、戦艦ビスマルクがムラカミ・ファミリアの厳重警護の下でイズミへと赴くと、月島は「ムラカミ・ファミリアが責任を持って監視する」という条件でイズミへの同艦の停泊を認める。その上で、月島はイズミの主力戦艦で五人をホウライへと送り届けることを約束し、その間の大阪湾近辺の警護をムラカミ・ファミリアに依頼する。アンナは月島への不信感を抱き続けながらも、それが(幼い従妹が暮らす)イズミを守るためということもあり、渋々その方針を受け入れるのであった。
+ 本編中では語られなかった裏事情
 実は「戦艦ビスマルクが暴走するかもしれない」という噂を流していたのは、他ならぬ月島本人であった。月島は戦艦ビスマルクが「誰かのセンチネル」であることまでは既に把握しており、その力をイズミの防衛力強化のために使いたいと考え、それがムラカミ・ファミリアと何らかの関係がある存在であることまで突き止めていた。それ故に、ムサシからの来訪者の話を聞いた時点で、彼はムラカミ・ファミリアから真相を聞き出すために、彼等とこの状況を利用しようと企んだのである。
 結果的にエルマーがそのことを隠し続けたため、「娘」の存在まで彼には伝わることはなかったが、ひとまず戦艦ビスマルクを実質的に手中に収めることが出来たことで、ひとまず満足したようである。今後、彼はイズミの住人達の中からコードの適合者を探そうと試み、アンナはそれを阻止するための工作を講じることになるだろうが、それはまた別の物語である。
 ちなみに、ルートによっては登場していたかもしれない「娘」の名前は、小笠原美紀(下図参照)。今のところ、今後の本編での出番の予定はない。

7、蟹侍
 イズミの主力戦艦に乗船した五人がホウライへと向かうと、事前に言われていた情報通りに、彼等の前に巨大な蟹型のベクターが現れた。その名はファクトリー・シェル。頭脳部分に「工場」を内包しており、そこから無限に配下ベクターを生み出せる難敵である。しかも、その頭部には単体で巨大ベクターと戦えるほどの力を持つ侍型エンフォーサー・佐々木小次郎が鎮座していた(彼は「宮本武蔵のコードを持つ人物」を倒すことを悲願とするエンフォーサーだが、そんな彼がなぜここで蟹と戯れていたのかは謎である)。
 だが、イズミの戦艦が接敵した時点から、ファクトリー・シェルの様子はどこかおかしかった。今ひとつ本気で砲撃してこようとはしない。実はこのベクターのコードはギリシャ神話における「ヘラクレスに踏み潰された蟹(蟹座のモチーフ)」であり、それ故に、数日前のビートルとの遭遇戦で、強烈なトラウマを植えつけられていたのである(実質的には殆ど戦わないまま、そのオーラに怯えて逃亡した)。そして、本来は戦友(?)である筈のヒュドラのコードを持つつばめと遭遇したことで、その記憶が蘇ってしまったらしい。
 この状況から、まずは小次郎を集中攻撃すべきと判断した五人は、(前回同様に)霧穂が重傷を負いながらも、どうにか無事に撃退に成功し、その直後に困惑した状態のファクトリー・シェルをイズミの戦艦が砲撃で破壊する。こうして、海上の難敵を退けた彼等は、無事にホウライへの海路を確保したのであった。

+ 第四話・トレーラー
 ホウライ・クレイドルへと向かう船旅の途中、霧穂の夢の中に「漆黒の装甲を纏った騎士」のような巨大ベクターが現れる。その圧倒的な力で粉砕されたことで彼女は目を覚ますが、それがこれから起こりうる未来を暗示していることに、まだ彼女は気付いてはいなかった。

英雄武装RPG コード:レイヤード・キャンペーン「PPAP」第四話
「蘇る悪夢」
その力で、伝説を超えろ!

PC① コネクション:黒騎士(仮) 関係:トラウマ 分野:ベクター
 夢の中で登場した巨大なベクター。二本の剣を自在に操り、巨体に似合わぬスピードで攻撃を繰り出してきた。もし実在するとしたら、間違いなく過去にキミが戦ったあらゆるベクターよりも強力な存在である。なお、胸の部分には「BKB」という「謎の略号」が刻まれていた。
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PC② コネクション:劉 青 関係:任意 分野:危険区域
 ホウライ・クレイドルの海軍の指揮官。関雲長のレイヤード(アームズ)。装束がセーラー服なのは、海兵(Sailor)だから。イズミから到着したキミ達への検問のために現れた。なぜかキミに対してのみ、どこか特別な視線を送っているように思えるが、その奥にある感情は不明。
+ 劉 青(イラスト)

PC③ コネクション:林セリーナ 関係:先達 分野:科学
 学生時代のキミの先輩。アスクレピオスの一番弟子とも呼ばれるほど優秀な医学生であった。Dr.ドリトルのレイヤード(マージ)で、現在はホウライ・クレイドルにいるらしい。日米ハーフなので本来の苗字の読み方は「はやし」だが、現在は「セリーナ・リン」と名乗っている。
+ セリーナ(イラスト)

PC④ コネクション:曹 秋蘭 関係:未知 分野:噂話
 イズミの曹春蘭の双子の妹。直接会ったことはないが、その存在は春蘭から聞かされている。ホウライの料理店で働いているらしい。20世紀末の日本の民間伝承に登場する料理人・久我照紀のレイヤード(センチネル)であり、彼が作った料理を客に振る舞う(得意料理は麻婆豆腐)。
+ 曹 秋蘭(イラスト)

PC⑤ コネクション:安 武人 関係:同類 分野:歴史
 ホウライ評議会の議長。数年前にムサシを訪問したことがあり、その時にキミと面識がある。養父も有名な政治家だったため、彼と区別するために「子安(シアン)」とも呼ばれる。表向きは一般人ということになっているが、実はレイヤードなのではないかという噂もある。
+ 子安(イラスト)

+ 第四話・概要
1、飛龍部隊
 侍型エンフォーサーと蟹型ベクターを倒した五人は、つばめの提案により、そのベクターの残骸の中で再利用出来そうな部分を回収してイズミの海兵達に渡した上で、戦いの傷を癒すために、ひとまず船内で休眠することになった。だが、その休眠中、霧穂は夢の中で「巨大な『黒騎士』のようなベクター」に襲われる夢を見る。その夢が何を暗示していたのかは分からないまま、霧穂は一人嫌な予感に苛まれつつも、次第に船はホウライの領海へと近付いていく。
 やがて、彼等を乗せた戦艦の前に、ホウライ・クレイドルの海軍が現れると、あらかじめ彼等が到着することを無線で知らされていた同軍の部隊長の劉青(関羽のコードを持つ女性レイヤード/下図)が、艦上から霧穂達を出迎えた。この時、彼女は朔夜に対して「懐かしさ」と「不信感」が織り混ざったような奇妙な視線を向けるが、その視線の意図を確認する前に、上空から、謎の飛龍型ベクターの一団が現れる。
+ 劉 青(イラスト)
 それらはイズミの戦艦を牽制しつつ、ホウライ海軍、より正確に言えば劉青へと向かって、特攻&自爆を繰り返す。そんな特攻部隊に指示を下していたのは、上空から「巨大な飛龍」に乗ったエンフォーサー(下図)であったが、霧穂達が牽制部隊を一瞬で殲滅して反撃の体勢を整えたところで、情勢不利を悟った襲撃部隊はあっさりと飛び去って行く。ただ、この時、その指揮官は一瞬だけ、霧穂に対して(劉青に向けていたのと同じような)鋭い視線を向けていた。
+ 謎のエンフォーサー(イラスト)
 撃退後、重傷を負った劉青とその部下の海兵達は霧穂達に深く感謝しつつ、彼等をそのままホウライ・クレイドルへと案内する。劉青曰く、飛龍部隊を指揮していたエンフォーサーのコードは「哪吒」。彼は前々から、幾度か劉青を狙った襲撃事件を起こしていたらしいが、劉青には、自分が狙われる心当たりは特にないらしい。

2、姉弟子の憂鬱
 劉青の案内でホウライへと上陸した霧穂達は、ホウライ・クレイドル評議長の「子安」こと安武人(下図)を紹介される。子安曰く、現在この地のレギオンのリーダーは旧内モンゴル地区で発生したベクター集団の討伐のために遠征中らしい。ただし、ムサシからの連絡は確認済みであり、クレイドルの医療機器の使用に関しては、医療主任のセリーナに一任する、という方針を伝えられる。
+ 子安(イラスト)
 その上で、姉弟子であるセリーナ(下図)を紹介されたつばめであったが、ここでセリーナは衝撃的な情報を伝える。彼女曰く、先日ホウライの下町を歩いていた時に、彼女は自分の師であるアスクレピオスが、エンフォーサーの哪吒と一緒にいるのを目撃したらしい。思わず彼に声をかけたところ、アスクレピオスは「私にはもう関わるな」とだけ言って、その場から哪吒と共に立ち去ったという。
+ セリーナ(イラスト)
 彼女はそのことを子安議長に伝えたが、彼は「他人の空似ではないか」と言って、まともに調査しようともしないらしい。確かに、エンフォーサーには「同型」が存在するが、彼女が遭遇したアスクレピオスは、確かにセリーナのことを認識していたように彼女には見えたため、彼女としてはその解釈では納得出来ない。そして、信頼していた師匠がエンフォーサーと手を組んでいるかもしれないという現状において、彼女は自分と同じ「アスクレピオスの弟子」であるつばめを無条件で信用することも出来ないという。
 このような「微妙な心境」のまま協力することはお互いにとって望ましくないと判断した彼女は、医療機器の使用許可を出す前に、アスクレピオスの真相を確かめるべきだと主張し、つばめもその方針には同意する。それと同時に、議長の子安の対応にも不信感を感じた彼等は、このホウライ地区で起きている一連の出来事の全体像を確認するため、それぞれに各個人への身辺調査を開始するのであった。

3、身辺調査
 つばめがアスクレピオスに関する情報を改めて調査してみたところ、どうやら彼はムサシの医術学校に務める前にもホウライに来たことは何度かあるらしい、ということが明らかになる。そして、セリーナが彼を目撃した日よりも数日前に、下町の四川料理店で彼が子安と会っているのを見たという証言にも辿り着く。
 その話を聞いたエルマーが、やはり子安の実像を確かめる必要があると考え、諸々の資料に目を通してみると、色々と奇妙な事実に辿り着く。子安は先代議長の養子として、数年前に議長の座を引き継ぐことになったのだが、若い頃の経歴に関しては不明な点が多く、しかも彼による継承後、養父である先代議長は「隠居する」と言って姿を消し、それ以降、誰もその消息を知らないという。公式には、子安はレイヤードではなく一般人ということになっているが、一部では、そもそも彼は人間ですらないのではないか、と憶測する者達もいるらしい。
 一方、哪吒についての情報を集めていた霧穂は、不穏な噂に辿り着く。どうやら哪吒は「バベルの黒騎士団(Black Knights of Babel)」と名乗るエンフォーサー集団の一員であり、彼等はそれぞれ「黒騎士」と呼ばれる超強力な巨大人型ベクターを一人一機ずつ所有しているらしい。その目撃者の話から察するに、それは霧穂がこのホウライへと向かう船の中で見た夢に登場する「黒騎士」そのものであった。なお、現在の哪吒はホウライの北部に位置する秘境の一角を根城にしていると言われているが、一方で、彼とよく似た人物を下町の四川料理店で見たという者もいるらしい。
 こうして、容疑が一気に「四川料理店」へと集中する中、朔夜はその哪吒に襲撃されていた劉青について調べてみたところ、数日前に彼女が「左腕に包帯を巻いた男」と会っていたということが判明する。それがタイラントだとすれば、哪吒による襲撃と何らかの関係がある可能性はあるが、その因果関係までは読み取れなかった。一方で、彼女が自分に向けていた「奇妙な視線」の正体については、概ね結論が導き出せた。どうやら彼女は昔「ケルベロスのレイヤード」に助けられたことがあるらしく、年齢と状況的に考えて、それが自身の父親であろうと彼は推測する。おそらく、彼女は朔夜の中の「ケルベロス」の気配に反応していたのだろう。
 そして、念のためセリーナ自身にも何か後ろ暗いところはないかと一星が調査してみてたが、少なくとも彼女は都市内の権力闘争とも無縁で、タイラントとも哪吒とも接触した形跡は見られなかった。ただ、現在独身の彼女は、酒の席で度々「ムサシにいた頃の医術の師匠」への恋心を吐露することがあったらしい。それがアスクレピオスのことなのであれば、彼から何らかの密命を帯びて暗躍している可能性も無いとは言えないが、それならそれで、そのようなことを酒の場で語るとも思えないので、おそらく彼女は(少なくとも現時点では)シロだと一星は判断する。

4、四川料理店
 この調査結果に基づいた上で、ひとまず五人は噂に出てきた四川料理店へと向かう。すると、そこにいたのは、イズミで出会った曹春蘭の双子の妹・曹秋蘭(下図)であった。流麗なBGMが流れる店内にて、彼女は自身のセンチネルに作らせた激辛麻婆豆腐を振る舞いつつ、姉の友人でもある一星達を歓迎する。
+ 曹 秋蘭(イラスト)
 そんな彼女に対して、まず「アスクレピオスと子安の会談」の噂について確認してみたところ、確かにその日に二人は店を訪れていたらしい。どんな話をしていたかまでは分からないが、その日はどちらもその二人以外の人物と接触した様子は無かった、と彼女は証言する。
 一方、「哪吒らしき人物」について確認してみたところ、彼女は露骨に動揺した素振りを見せつつ、知らないと言い張る。だが、この時、店内に流れるBGMの波長に微妙な揺らぎが発生していたことに朔夜達は気付いていた。困った様子の秋蘭が対応に難儀していると、やがてBGMが止まり、店の奥から一人の青年が姿を現す(下図)。それは、確かに飛龍部隊を率いていた哪吒とよく似た、しかしどこか雰囲気の異なる人物であった。
+ 謎の青年(イラスト)
 その青年曰く、彼の名は「哪吒」。しかし、彼はバベルによって作り出された「旧式の哪吒」であり、現在、飛龍部隊を率いている「哪吒」は、彼の後継機のような存在らしい。そして、現在の彼(以下「プロト哪吒」と表記)は数年前に出会ったサーシャ(第2話参照)の奏でる音楽の力でリベレーターとなり、その後、彼が紹介したブリゲイドの科学者達の手によって、戦闘機能を音楽演奏機能に置き換えてもらった上で、「流浪の音楽家」として世界を放浪しつつ、そこで得た情報をブリゲイドへと伝える諜報員としての役割を担っているという。
 現在は秋蘭に気に入られたことで、この店で店内BGM担当として雇われているが、秋蘭自身はブリゲイドに積極的に協力している訳ではないらしい。ただ、秘密結社の一員である以上、その存在を公にする訳にはいかないということで、日頃はその姿を隠しているという。ただ、先日、サーシャからプロト哪吒に霧穂達のことを伝える連絡が届いていたため、彼等に対してであれば正体を明かしても良いだろうと判断したようである。
 彼は自分の後継機である哪吒の発する波動を読み取ることが出来るため、霧穂達が哪吒を探すというのであれば、それに協力することは出来るという。ただし、レギオンや評議会にその存在を明らかにする訳にはいかないため(特にホウライ・レギオンは「統制派」の管轄下にあるため、ブリゲイドとの共闘を独断で了承してもらえる可能性は低い)、彼等がホウライ・レギオンと共同で搜索をおこなうならば、同行は不可能であるという旨を伝えた。

5、議長の策謀
 ひとまず四川料理店を後にした五人は、プロト哪吒との共闘の是非を決める前に、まずは子安の思惑を確かめる必要があると判断し、評議会へと向かう。アスクレピオスの行方を知っているのではないかと問い詰められた子安は、うっすらと笑みを浮かべながら、彼等に対して「皆さんは、統制派ですか? 自由派ですか?」と問いかける。
 彼等がそれに対して「最終的に目的を達成出来るのであれば、どちらでも良い」という旨の返答をそれぞれの言葉で返すと、子安は満足したような表情を見せつつ、「真相」を語り始める。曰く、彼とアスクレピオスは昔からの知人であり、現在、アスクレピオスは子安からの依頼で、哪吒の元への「潜入調査」を遂行中らしい。すなわち、アスクレピオスは現在、「人類を裏切って再びエンフォーサーとして哪吒の傘下に加わったフリ」をしている、とのことである。
 無論、この作戦には「アスクレピオスがそのまま本当に裏切った場合、人類側の機密情報がエンフォーサー達に漏れる」というリスクがある。それに加えて、統制派の管轄下にあるホウライ・レギオンの面々は、そもそも「リベレーター」という「元・宿敵」の存在をあまり快く思わない傾向が強いため、この作戦がホウライ・レギオンの承諾を得られる可能性は低いと考えた子安は、彼等に黙って独断でアスクレピオスに依頼したらしい。
 それ故に、子安としては出来ればホウライ・レギオンの面々が帰還する前に決着をつけたいと考えており、ムサシからの来訪者達がそれに協力する気があるならば歓迎したい、という旨を伝えた上で、彼等に「哪吒の本拠地があると思われる秘境の地図」を手渡した(なお、セリーナに関しては「彼女はアスクレピオスが関わると感情的になりやすくなる」という子安の判断から、あえて伝えていないらしい)。

6、裏切り者
 地図を受け取った五人は、プロト哪吒と合流した上で、その地図の場所(ホウライ北部の秘境)へと向かう。プロト哪吒の感じる「哪吒の波動」に基づいて進行を方向を定めながら、竹薮の生い茂る秘境の中で歩を進めた五人は、その途上で幾度か罠やベクターに遭遇しつつも、どうにか哪吒がいると思われる深部へと辿り着く。
 そこで彼等を待ち構えていたのは、アスクレピオスであった。彼はつばめに対して「弟子を相手に戦うのは不本意ですが、仕方ないですね」などと言いつつ、地中から蛇を呼び出して五人に対して襲いかかるが、その口調が明らかに「演技」であることを悟った五人は、蛇達の攻撃を避けながらも、まともに彼に対して攻撃を仕掛けようとはしない。
 そんな中、奥から「巨大な飛龍に乗った哪吒」が現れると、彼は霧穂に対してこう言った。

「そちらから来てくれるとは、手間が省ける。我等にとっての脅威となる前に、ここで倒させてもらおう」

 哪吒は巨大飛龍に命じて霧穂達に向かって広範囲の火炎を放射させつつ、アスクレピオスに対してもまた「何か」を命令し、アスクレピオスはそれに従って秘境の奥地へと向かう。その彼を見送りつつ、哪吒はその火炎を耐え抜いた霧穂に向かって(自身の足首から蹴り出すように)光の輪のような何かを投射するが、その一撃は一星によって完全に防がれる。
 その直後、霧穂の全身全霊を込めた一撃によって、哪吒の乗っていた巨大飛龍は墜落するが、地上に落ちてきた哪吒は今度は袖の中から取り出した暗器を用いて五人全員に対して襲いかかる。その連撃によって一星以外の面々は瀕死の重傷を負いつつも、オーバーレイの力によって立ち上がり、必死で応戦を続ける。そんな状況の中で、哪吒は「アスクレピオスが走り去った後方」に目を向け、明らかに動揺した様子を見せる。それは、「来る筈のものが来ない状況」への焦燥のように見えた。
 そんな彼に対して、五人がそれぞれにアルケオンの力を込めた全力攻撃を繰り返した結果、遂に哪吒はその場に崩れ落ちる。

「黒騎士……、なぜ動かない!? アスクレピオスめ、やはり、タイラントと通じていたか!」

 哪吒はそう叫びながら息絶えた。この時点ではまだ、その言葉の意味が霧穂達には理解出来なかったが、ひとまずそのまま五人(とプロト哪吒)は秘境の最深部へと足を踏み入れるのであった。

7、神々の黄昏
 秘境の奥地で五人を待っていたのは、巨大な(霧穂の夢に出てきた通りの)「黒騎士」のベクターであった。だが、次の瞬間、その「黒騎士」は突如として崩れ始める。その崩れた残骸の中から現れたのは、アスクレピオスであった。
 五人はアスクレピオスに対して、概ねの事情を子安から聞かされていたことを告げると、彼は納得したような表情を浮かべながら、彼がここに至るまでの間に得た情報(およびこれまでの彼が辿ってきた経緯)について、順次説明していく。
 アスクレピオスがイズミにいた頃、タイラントが彼に対して通信端末をジャックする形で接触を試みてきた。その存在を訝しみつつも、彼はタイラントから、自分が「新世界の神となる可能性を持つ人物」であると聞かされたという。当初はただの与太話だと思いつつも、その話に前向きな姿勢を装うことで、彼は更に詳しい話を聞き出すことに成功し、その「計画」を脅威に感じた彼は、状況を確認しつつ対策を講じるために、単身ホウライへと向かうことになった(日本海を渡る際には小舟を調達した上で、自分がまだ「バベル傘下のエンフォーサー」であるふりをして、小次郎を騙して通過した)。その上で、旧知の子安と相談した上でエンフォーサー側への潜入捜査に成功した彼は、ここでようやく「現在、この世界で起きようとしている状況」の全容を完全に把握するに至ったのである。

 ******

 まず、哪吒を含めた「バベルの黒騎士団(Black Knights of Babel)」は自ら「BKB」という略称を用いているが、実はこれにはもう一つの意味が込められている。それは「Backup Keys of Babel」。すなわち、彼等一人一人の中に、バベルを復活させるための「バックアップデータ」が組み込まれており、彼等は活動停止したバベルを蘇らせようと暗躍している者達であるらしい。その規模は不明だが、アスクレピオスが実際に調べてみたところ、「黒騎士」一体だけでも、一つのクレイドルのレギオンの全力を注がなければ倒せないほどの存在であるという(ただし、その稼働には莫大なアルケオンを消費するため、日頃は休眠状態にある。先刻、アスクレピオスはそれを再稼働させるふりをして、内側に密かに設置していた破壊装置を起動させたらしい)。
 だが、そんなBKB達の計画を察知していた者がいた。その名は「ヴァルハラ」。それは、正史には記録されていない幻の「第六の超AI」である。ヴァルハラは、胎児の状態の人間の遺伝子を操作して「コード」を埋め込む技術を独自に開発したが、それが(バベルとはまた違った意味で)人類の未来に害を及ぼす可能性があると判断した他の超AI達によって拒絶され、やがてヴァルハラそのものが世界から存在を抹消されそうになる。
 しかし、ヴァルハラによって作り出された「生れながらのコードの持ち主達」の手によってヴァルハラは救い出され、今もこの世界の何処かに潜伏しているらしい。なお、その「遺伝子にコードを埋め込まれた者達」は、自分達のことを「コーディネイター」と自称しており、その全体数は不明であるが、能力的には通常のレイヤードよりも高度な形でコードの力を操れるという。
 そして、ヴァルハラはBKB達の存在を根絶やしにすることは不可能と判断し、「バベル復活を止める方法は存在しない」という結論に基づいた上で、そのバベルを完全にこの世界から消滅させるには、バベルでは生み出せなかった「全知全能の神のコード」を作り出し、その「神」の力による新世界を築く他に道はない、という結論に至る。
 しかし、ヴァルハラがいくら試行錯誤を繰り返しても、「神」のコードを作り出すことは出来なかった。そこで、ヴァルハラは「神」を一から作り出すのではなく、「神に近いコード」の持ち主を作り出し、そこからコードを進化させて神を生み出すという手段を考案する。具体的には「人から神へと昇格した英雄達のコード」を持つコーディネイター達を多数作り出し、それらを相互に戦わせることでコードを成長させ、やがてそこから「神」を作り出す、という計画を実行することになったのである。
 こうして始まった「神候補のコーディネイター同士の殺し合い」の結果として生き残ったのが、あの「ヘラクレスのコードを持つ少女」、通称「ビートル」であるという。実際、現在の彼女は通常のコーディネイター(およびエンフォーサーやレイヤード)を遥かに凌ぐほどの強大なコードの持ち主となっているようだが、それでもまだヴァルハラが求める「神」には遠く及ばない。そこでヴァルハラは、今度はレイヤードやリベレーター達の中から、彼女と同じように「神に近い存在」のコードを持つ者達を探し出し、それらを戦わせるという、より壮大なバトルロイヤルを始めようと考えた。ヴァルハラは、ビートルを含めた世界中の「神候補」の者達のことを「SAGA(Succesor of Ancient God’s Alecheon)」と呼び、そのSAGA達による最終戦争を「ラグナロク」と名付けた。
 そして、そのラグナロクに参加するSAGAの数を増やすために暗躍しているコーディネイターが、タイラントである。現在、タイラントが散布しようとしているウィルスは、実はヴァルハラが作り出した「SAGAのコードを強引に人体に埋め込むウィルス」であり、それが身体に適合した者はSAGAのレイヤードとなるが、適合出来ない者は人体発火によって命を落としてしまう。ヴァルハラは、少しでも多くのSAGAを生み出すためには、無差別にこのウィルスを世界中に散布する必要がある、と考えているらしい。それでどれほど多くの人々が死のうとも、最終的に「バベルの魔の手から人類を救う神」を作り出すことが出来れば、この世界は救われる、というのが、ヴァルハラの導き出した結論であるという。

 ******

 あまりにも壮大な話を聞かされた五人は呆然と立ち尽くすが、冷静にここまでの状況を振り返ってみると、確かにその説明で大半のことは納得出来る。すなわち、タイラントの中ではアスクレピオスや劉青(関羽)は「人から神となった英雄のコードの持ち主」であるが故に、SAGA(神候補)の一人と目されているのであろう。そして、タイラントの散布したウィルスに耐えて、聖人コンスタンティヌスのコードの力に目覚めた霧穂もまた、そのSAGAの一人であり、いずれ引き起こされるラグナロクに参戦すべき人物と見なされているようである(キリスト教における「聖人」を「神に近い存在」とみなすか否かは宗派ごとの解釈があるだろうが、少なくともヴァルハラの中では、 そう位置付けられているらしい)。
 一方で、BKBもまたそのタイラントの動きを察知しており、だからこそ哪吒は、劉青や霧穂が神のコードの力を手に入れる前に倒す必要がある、と考えていたようである。つまり、現状においてバベル復活を目論むBKBという存在は、レイヤードとコーディネイターにとっての共通の敵であることは間違いない。
 だが、そのために多くの一般人の犠牲が出ても構わないと考えているコーディネイターの方針は、大半のレイヤードには受け入れられないだろう。この点に関しては、ブリゲイドですらも、一般人のことは「貴重な労働力」と考えている以上、無闇に殺して良いという認識ではない(ただし、ブリゲイドは人工的にレイヤードを作り出す技術を求めているため、ヴァルハラに対して強い興味を示すことは間違いない)。
 五人は困惑しながらも、まずは現状においてウィルス散布を阻止するという当初の計画を遂行するために、アスクレピオスを連れてホウライ・クレイドルへと帰還する(この時点で、プロト哪吒は彼等と離れて四川料理店へと戻る)。全てを聞かされたセリーナは複雑な感情を押し殺しながら涙目で師匠の主張を受け入れつつ、つばめに医療機器の使用を認め、そしてつばめはここでも無事に特効薬の生成に成功した。
 一方、一通りの報告を受けた子安は、その説明に納得した上で、この情報をホウライ・レギオンに伝えると(その情報源を説明する必要がある以上)子安の独断先行が明らかになってしまうため(その結果として評議会とレギオンの溝が深まってしまうため)、ここは当初の予定通り、彼等が帰って来る前に、何事もなかったかのように五人には次の目的地であるペルシャ・クレイドルへと向かってもらうよう要請し、五人もその方針を了承するのであった。
+ 本編中では語られなかった裏事情
 「子安」の正体は、先代のホウライ議長のメモリー・チップを埋め込まれたクローン人間である。そして、その「肉体の生成」および「記憶の移植」を手掛けたのが、アスクレピオスであった。つまり、子安は厳密な意味での「一般人」ではないのだが、この世界ではまだ「人間のコピー品」の作成については世界的な合意が得られていない問題のため、その事実は隠されている。そこまでして「寿命」を伸ばした上で、彼がこの世界で何をしようとしているのかについては不明だが、少なくとも、このキャンペーン中に語られることはないであろう。

+ 第五話・トレーラー
 ペルシャ・クレイドルへと向かうシルクロードの路上において、霧穂達は巨大ベクターの襲撃を受ける。そんな五人の前に現れた謎の少女。果たして彼女は、敵か? 味方か? 風塵舞い散る砂の都で、レイヤード達は何を見る?

英雄武装RPG コード:レイヤード・キャンペーン「PPAP」第五話
「風塵乱舞」
その力で、伝説を超えろ!

PC① コネクション:謎の少女 関係:未定 分野:危険区域
 シルクロードでの巨大ベクターとの遭遇戦において、キミ達の目の前に現れた少女。彼女との間にどのような関係が築かれるかは、まだ分からない。ただ、彼女と会った瞬間、君の中の何かが「嫌な気配」を感じ取った。とはいえ、それが何なのかは、今のところはまだ分からない。
+ 謎の少女(イラスト)

PC② コネクション:クレオパトラのレイヤード(仮) 関係:任意 分野:歴史
 昔、キミの父に関する噂を聞いたことがある。彼は若い頃、ペルシャ近郊のアレクサンドリア・ヘイヴンでクレオパトラのコードを持つレイヤードと出会い、恋に落ちたらしい。その噂の真偽は不明だが、一つはっきりしているのは、そのレイヤードは君の母ではないということである。
(外見イメージは不明)

PC③ コネクション:メルレイン 関係:同門 分野:科学
 君の姉弟子であるセリーナの助手を務める医学生。元来はペルシャ・クレイドル出身だったが、玄奘三蔵法師のレイヤードの力に目覚めたことを契機にホウライへ留学し、セリーナに弟子入りすることになった。キミ達のペルシャへの水先案内人として、セリーナから同行を打診される。
+ メルレイン(イラスト)

PC④ コネクション:レイラ 関係:ビジネス 分野:居住区域
 ペルシャ・レギオンのレイヤード。コードはサラディン(サラーフ・アッディーン)。かつてはレギオン本部の精鋭部隊の一員としてムサシを来訪したことがあり、その際に君に道案内を依頼した。若くして智勇に優れた女性で、次代のペルシャ・レギオンのリーダー候補とも言われる。
+ レイラ(イラスト)

PC⑤ コネクション:エース・新垣(しんがき) 関係:友人 分野:歴史
 ムサシ評議会の一員で、現在はペルシャに大使として派遣されている。沖縄出身の日伊ハーフ。イタリア王国の初代首相カヴールのレイヤード(マージ)。交渉手腕には定評があるが、時勢を重んじるが故に独断先行に走りがちな傾向もあり、紗川評議長からはあまり信用されていない。
+ エース(イラスト)

+ 第五話・概要
1、出立前
 ペルシャ・ヘイヴンへと向かうことになった五人に対して、セリーナは水先案内人として、自身の弟子でありペルシャ出身の医学生メルレイン(下図)を紹介する。その際、セリーナは彼がペルシャの有力者の息子である可能性が高い、という旨をつばめに伝えた上で、彼と「個人的に」親しくなることで、パトロンとして有効活用することを密かに勧める。
+ メルレイン(イラスト)
 一方、エルマーはペルシャの情勢を事前に調査した結果、現在のペルシャ・レギオンの内部では統制派と自由派の対立が激化しているという情報を得る。彼等はそれぞれ、現リーダー・マヌーチュルフ(アラビアのロレンスのレイヤード)の養女的存在であるレイラ(統制派)とパリザード(自由派)という二人の女性レイヤードを後継者候補として掲げているらしい。ペルシャは評議会制を採っておらず、レギオンがそのままクレイドルを統治しているため、そのトップ人事はクレイドル全体に大きく影響を与える問題である。マヌーチュルフは今のところ、統制派と自由派の双方の顔を立てる形でレギオンを運営しているものの、水面下では様々な駆け引きが展開されているらしい。
 そして、アスクレピオスの調査によると、ペルシャ近辺には(神話の「バベル」に近い地域であることもあり)、BKBの本拠地が存在する可能性が高いという話もある。レイヤード達は気を引き締めた上で、コンボイに乗ってシルクロードを西進することになるのであった。

2、ガンダーラの行商人
 シルクロード最大のガンダーラ・ヘイヴンに到着した彼等は、露店街にて、奇妙な風貌の女商人(下図)と遭遇する。タブレットPCを片手に淡々と接客する彼女であったが、その商品は明らかに一般には流通していない「特殊な物品」ばかりであった。
+ 女商人(イラスト)
 その中でも特に目を引いたのは、奇妙な形状の一振りの「剣」である。値札がつけられていなかったため、一星が興味本位で値段を聞いてみると、彼女は一星を「値踏みするような瞳」で見つめた上で「2000nc」と答える。当然、彼等がそのような大金を持っている筈もなく(メルレインだけは、その気になれば払えそうな顔をしていたが)、そもそも誰も剣を改めて購入する必要がなかったため、彼等は黙ってその場を後にするが、彼等がその場から離れた直後に、別の客と彼女のやりとりが聞こえてきた。

「ねーちゃん、この剣、いくらだい?」
「……50nc」
「マジかよ! そりゃあ、買いだ!」

 彼等が後ろを振り向くと、それは確かに、一星に対して「2000nc」という値段を提示していた剣であった。その購入客は見るからに「一般人」である。どうやら彼女は「相手の能力」を見極めた上で値段を変えているらしい。この状況を不審に思いながらも、ひとまず彼等はその場を静かに立ち去るのであった。

3、黒騎士と少女
 ガンダーラを超えてから数日後、まもなくペルシャ・クレイドルに到着しようとした頃、レイヤード達の耳に「美しい女性の歌声」が聞こえる。その旋律は明らかに現地の民族音楽であり、その歌声を聞いたメルレインはやや動揺したような素振りを見せていたが、彼等は特に追求しようとはしなかった。
 その翌日、ようやくペルシャの城壁が視界に入ろうとしたところで、彼等の目の前に、ホウライで見た「黒騎士」と同型のベクターが現れる。やはり、この地はBKBと深い関わりがある可能性は高いらしい。近くにエンフォーサーと思しき者の姿は見えず、誰の命令で動いているのかは不明であるが、その黒騎士はレイヤード達に向かって、その双剣を掲げて襲いかかってきた。
 それに対して、霧穂が先手必勝とばかりに全力のアルケオンを込めた槍をその胴体に突き刺そうとするが、左腕に装着された盾によって、その攻撃が完全に阻まれてしまう。これはまともに応戦しても勝てないと判断した彼等は、ひとまず「足」を集中的に攻撃することで、相手の機動力を封じてその隙に逃げようという作戦へと転じた結果、片足はどうにか機能停止に追い込むものの、レイヤード達もまた黒騎士の圧倒的な双剣の威力によって徐々に追い込まれていく。
 そんなギリギリの攻防の中、突如一人の少女が乱入してきた。彼女の名はパリザード。メフメト2世のレイヤードであり、前述のペルシャ・レギオンの後継者候補の一人である(下図)。彼女が黒騎士に飛び蹴りを食らわせた上で立ちはだかると、黒騎士は踵を返してその場から立ち去って行く。そして彼女がレイヤード達に視線を向けると、その中にいたメルレインに対して声をかけた。
+ パリザード(イラスト)

「ハイル! 帰って来てたの?」

 それは、メルレインの真の名であった。彼の正体はペルシャ・レギオンのリーダー・マヌーチュルフの息子であり、パリザードやレイラとは義兄弟のような関係であったが、レイヤードの力に目覚めるのが遅れたこともあり、優秀なレイヤードである彼女達への劣等感から、家を捨て、名を変え、ホウライへと移住したらしい。そしてこの時、パリザードの声を聞いた五人は、前日の歌声の主が彼女であることを知る。
 突然の再会に驚く二人であったが、パリザードはハイルと霧穂達に対して、衝撃的な事実を告げる。どうやら数日前(彼等がまだシルクロードを西進中だった頃)、マヌーチュルフが黒騎士(先刻遭遇した黒騎士と同じ機体かは不明)との戦いで戦死してしまったらしい。
 マヌーチュルフは死ぬ直前に後継者としてパリザードを指名していた、という旨を、彼の側近であった「フィトナ」という名の「クレオパトラのレイヤード」が証言したことで、一旦はパリザードが後継者となりかけたが、翌日にそのフィトナが失踪し、反対派の中から「フィトナが伝えた遺言は偽物」という噂が広がり、やがてそれが「パリザードはバベル側のスパイ」という噂にまで発展したことで、彼女は「自分がいない方がレギオンがまとまる」と判断し、自主的にクレイドルを去った上で、ペルシャ近辺で一人でベクターと戦う道を選んだらしい。
 メルレイン(ハイル)も霧穂達もこの状況には困惑するが、ひとまず彼女と別れた上で、当初の予定通り、ペルシャ・クレイドルへと向かうことになった。

4、大使の見解
 クレイドルの入口へと到達した五人は、警備兵に対して事情を説明して入場の許可を求めるが、彼等はレギオン司令部から「どんな理由があっても、外部からの来訪者を中に入れてはならない」という命令を受けていたため、通そうとはしない。どうやら現在、クレイドル内では「エンフォーサーのスパイが暗躍している」という噂が広がっており、統制派主導で戒厳令が敷かれているらしい。
 エルマーはそんな彼等に対して、ここで入場を遅らせることがクレイドルにとっての致命傷となる可能性を説くと、衛兵達はひとまずレギオン上層部へと連絡し、やがてこの地に滞留中のムサシ評議会の外交官であるエース・新垣(下図)が彼等の前に姿を現す。エースがエルマーのことを「間違いなく本人」と断言したことで、どうにかクレイドルへと入ることを許された彼等は、エースが管轄するムサシ大使館へと案内された。
+ エース(イラスト)
 エース曰く、現在のペルシャ・レギオンは統制派から後継者として推されたレイラが暫定的に取り仕切ってはいるものの、自由派の中には承服しかねている者も多く、両派が一触即発の状態のまま、互いに疑心暗鬼の状態が続いているらしい。レイラはペルシャ出身で、パリザード同様、先代リーダー・マヌーチュルフに育てられた少女だが、極めて優秀であったが故に若くしてレギオン本部の精鋭部隊にスカウトされ、そこで統制派の一員となり、半年ほど前にこの地を統制派の支配下に置くために派遣されてきたらしい。
 レイラとパリザードが義姉妹で、その関係も良好であったが故に、これまで両派の衝突は避けられてきたが、そのパリザードがクレイドルを去ったことで(彼女としては、後継者候補をレイラに一本化することで場を収めようとしたのだが)、かえって対立が深まったように思える、というのがエースの認識である。なお、彼としてはどちらの陣営にも肩入れしていないが、外交相手としては、パリザードよりはレイラの方が「賢い分、御し易い(愚かな人間の方が、行動が読めない分、御しにくい)」と考えているらしい。
 いずれにしても、この状況下を収める上で鍵を握っているのは、このレギオン内で「巫女」的な役割を果たしていた(マヌーチュルフの側近でもあり、彼の「遺言」を伝えた)行方不明のフィトナであろうと考えた彼等は、彼女を捜索しつつ、現状を混乱させている「パリザード・スパイ説」についての真相とその噂の出所について調査することになった。

5、陰謀の影
 パリザードについては、彼女の実の父親はリベレーター(元エンフォーサー)であり、それがスパイ説の一つの発端となっているようだが、このタイミングでその噂が噴出した出所については明確には分からなかった。ただ、どうやらクレイドル内のオペレーター達の間で広まった情報らしく、外部からの情報提供である可能性が高いであろうという推測に至る。なお、そのリベレーターのコードは大天使ガブリエルであり、記録に残っていた写真(下図)を見る限り、その姿はどこかタイラントに似ているようにも見えた。
+ パリザードの父(イラスト)
 フィトナについては、数日前に「左腕に包帯を巻いた男(with 金髪ツインテールの大食い少女)」と遭遇したという情報が発覚するが(彼等がペルシャに来ているという情報自体は、エルマーにはアインハルト経由で届いていた)、フィトナが行方不明となる前にその男はペルシャを去ったらしく、彼女の失踪とは直接関係していないようである。
 その一方で、フィトナの周囲の人間について調査してみたところ、どうやら彼女に仕えていた使用人の女性が「奇妙な瓢箪」を持っているのを見かけたという情報を得る。どうやらそれは、近隣のヘイヴンで奇妙な姿の女行商人から格安で購入した代物らしいのだが、霧穂達はこれが「西遊記に登場する金角・銀角の瓢箪(名前を呼んで答えた者を内側に閉じ込める瓢箪)のレガリア」ではないかと推測した上で、フィトナの自宅へと向かうことになった。

6、瓢箪から猫
 フィトナ(およびその家の人々)と面識があるメルレイン(ハイル)が仲介役となったことで、宅内へと案内された彼等は、やや虚ろな目をした一人の女性使用人が、腰に瓢箪をぶら下げているのを見つける。朔夜がその瓢箪を見せてもらうように交渉するが、今一つ要領を得ない返答を繰り返すのみで、これは瓢箪(レガリア)に操られていると判断した彼が強引に瓢箪を奪おうとすると、突然、彼等の下に敷いてあった絨毯が飛び上がった。どうやらこの絨毯もまた「空飛ぶ絨毯」のレガリアであったらしい。
 朔夜は態勢を崩しながらも瓢箪と使用人を繋いでいた紐を強引に切り取ると、使用人はその場に倒れて意識を失い、そして絨毯もまた再び床に落ちる。その後、瓢箪を手にしたつばめが、瓢箪の中に閉じ込められていたフィトナに呼びかけた上で「逆呪いの術(中にいる者が『瓢箪の持ち主』の名前を呼び、持ち主が返事をすることで、瓢箪の外に脱出する機能)」で彼女を瓢箪から解放する。瓢箪から飛び出てきたその姿は、美しい黒猫のインテレクトであった(下図)。
+ フィトナ(イラスト)
 想定外のフィトナの姿に驚愕する五人であったが、ひとまず瓢箪と絨毯を破壊した上で、フィトナと(瓢箪を持っていた)彼女の使用人から話を聞くと、どうやら予想通り、使用人は謎の女商人(おそらくガンダーラで彼等が遭遇した女商人と同一人物)から瓢箪を格安の値段で購入し、それ以降、その瓢箪に心身を操られて、フィトナを瓢箪の中に封印したらしい(フィトナは極東の伝承にまでは通じていなかったため、瓢箪の能力に気付けなかった)。
 そしてフィトナ曰く、先代リーダーのマヌーチュルフがパリザードを後継者に指名したのは本当らしい。その理由についてフィトナは明確には聞かされたなかったが、フィトナの中では予想はついていた。というのも、パリザードの父であるガブリエルが、実は元BKBの一員であるということを、フィトナは数日前に現れた「左腕に包帯を巻いた男」から聞かされていたのである(その際、その男はパリザードのことを「妹」と呼んでいたという)。パリザードの腰のベルト部分に繋がれている二つの「光の輪」にはバベルのバックアップメモリーが入っており、巨大ベクターとしての「黒騎士」は、それを持つ者の命令に従うように組み込まれているらしい(ホウライで遭遇した哪吒の足に装着されていた「光の輪」も、どうやらそれと同型のようである)。
 つまり、BKBの本拠地に近いこの地においては、パリザードの存在は対黒騎士戦における絶対的な抑止力となる。おそらくはそのことを危惧したBKB側が、パリザードをレギオンから離反させるために、瓢箪のレガリアを送り込んでフィトナを封印し、そしてパリザード・スパイ説を流布したのではないか、というのがフィトナの推測であった。
 ちなみに、ガブリエルは公的には死亡したことになっているが、実は光の輪をパリザードに託した後に東方へと逃れたとフィトナは証言している。また、朔夜が過去に噂で聞いていた「父・銀次と恋人関係にあったと言われるクレオパトラのレイヤード」も、どうやら彼女であったらしい。フィトナは艶かしい表情を浮かべながら「あれは確かに一夜の恋のようなものであった。あの男もまた、わらわの身体に溺れた男の一人にすぎぬが、なかなかの指使いであったぞ」と語り、五人は「猫なら仕方ない」と納得した表情を浮かべるのであった。

7、砂漠の空中要塞
 その後、パリザードに関する噂の出所を確認するためには、レギオン本部の情報管理センターを捜査する必要があると考えた彼等は、フィトナとメルレイン(ハイル)を伴ってレギオン本部へと向かい、レイラ(下図)と対面する。事情を理解したレイラから捜査の許可を得た上で、つばめがクレイドルの端末からネットワーク回線を調べてみると、どうやら外部から何者かがハッキングした上で、何らかのサブリミナル映像のようなものを流し込んでいたと思しき形跡を発見する。
+ レイラ(イラスト)
 ハッキング元の端末の位置は、ペルシャ・クレイドルの近隣の砂漠地帯の一角であり、そこは以前から「黒騎士」がよく出没する地域と言われている(=BKBの本拠地があると思しき)地域らしい。黒騎士との再戦を想定した上で、パリザードの協力は不可欠と考えた彼等は、ペルシャ近隣のヘイヴンを捜索した上でパリザードを発見し、彼女と合流した上で、上記の地域へと足を踏み入れることになった。
 該当する砂漠地域は砂嵐が激しく、所々に蟻地獄型ベクターが出現し、更に蜃気楼(と見せかけた人工的な映像?)の発生によって方向感覚が狂わされやすいという厄介な土地ではあったが、レイヤード達はそれらの障害を乗り越えて、砂上に浮かぶ謎の空中要塞を発見する。そこで彼等を待っていたのは、左腕に「光の輪」を装着したエンフォーサー・レオニダス1世であった(下図)。
+ レオニダス1世(イラスト)
 彼は当初から対パリザード戦を想定した上で、あえて黒騎士を表には出さず、自身の部下であるスパルタ兵の量産型エンフォーサーを投入してパリザードに向かって襲いかかるが、一星が彼女を自身のセンチネル・ホースに乗せた上でその攻撃をあっさりとかわし続け、その間にレイヤード達は次々とレオニダスに連撃をかける。その一方で、一人出遅れたエルマーが後発のスパルタ兵の集中攻撃を浴びて瀕死の重傷を追うなど、一進一退の攻防が繰り広げられることになるが、そこへレイラ率いるペルシャ・レギオンの援軍が到着すると、それまで姿を消して隠れていた「ガンダーラで遭遇した女商人」が現れた。彼女はタブレットPCを操作しながらレオニダスに向かって語りかける(よく見ると、彼女の左腕と右脚にも「光の輪」が装着されていた)。

「レオニダス、撤退だ」
「なんだと!? 我がスパルタ軍に撤退の二文字は……」
「うるさい」

 彼女がそう言うと、エンフォーサー達は一瞬にして空中要塞ごとその場から消え去る。それが要塞そのものの機能なのか、女商人(?)の能力なのかは不明であるが、ひとまず彼等の目の前から、BKBの脅威は去ったのであった。

8、暫定人事
 戦いを終えたレイヤード達はペルシャ・クレイドルへと帰還し、つばめが特効薬の作成を(かろうじて)成功させたことで、ひとまずPPAPとしての本来の任務は完了する。
 その上で、ペルシャ・レギオンの後継者問題などについて彼等はそれぞれに相談を受けるが、最終的にはフィトナ(筆頭)・レイラ(次席)・パリザード(三席)」による三頭政治体制でひとまず決着することになった。ハイルが後継者となる案もあったが、彼自身が「今の自分は何もかもが中途半端なので、当面は医者としての修行に専念する」という道を選んだため、今回の人事からは外されることになった。
 一方、エルマーはエースから「謎の女商人」の正体について、概ね推測がついたという報告を受ける。曰く、彼女の正体はジョン・フォン・ノイマンのエンフォーサーであり、かつてはスパイとしてムサシに潜入し、つばめ&かもめの父である先代の蒼羽博士を殺した犯人であるという(彼女が博士を殺した動機については未だに謎)。エルマーつばめにこのことを伝えるが、この時点でつばめが内心でどのような想いを抱いているかについては、まだ誰にも分からなかった。

+ 第六話・トレーラー
 ノヴゴロド・クレイドルから、ペルシャ・クレイドルに緊急連絡が届いた。先刻、旧ギリシャ地方に新たな駐屯用シェルターを建設するために派遣されていた調査兵団からの連絡が途切れ、そして黒海北岸のクリミア・ヘイヴンに巨大ベクターが出現したという。ノヴゴロドはクリミアの救援に専念すると宣言した上で、ギリシャ方面で起きた異変の調査をペルシャに依頼する。
 一方、秘密結社ブリゲイドの首領アインハルトは、エルマーに対して「とある人物」からの伝言を伝えた。そこで示された想定外の提案に対して、レイヤード達はどのような決断を下すのか? 複雑に錯綜した四つ巴の抗争が今、一つの大きな転換点を迎える。

英雄武装RPG コード:レイヤード・キャンペーン「PPAP」第六話
「エーゲ海の秘宝」
その力で、伝説を超えろ!

PC① コネクション:浅井宗兵(しゅうへい) 関係:任意 分野:居住区域
 ナゴヤ・ヘイヴン時代のキミの幼馴染。ナゴヤ炎上の際には大陸に出稼ぎに行っていたため、まだ生きていると思われるが、その後の消息は不明。記録された立体ホログラムを映し出す特殊ペンダントをいつも肌身離さず持っていたが、その中身については誰も知らされていない。
+ 浅井宗兵(イラスト)

PC② コネクション:謎の歌声A 関係:未知 分野:芸術
 子供の頃、キミが父の所有する音楽再生装置を間違えて作動させてしまった時、その装置から「透明感のある女性の歌声」が流れてきた。だが、それに気付いた父が直後に再生を止め、その装置は二度と君の手の届かない場所へと移された。あの歌声が何だったのかは未だに謎である。

PC③ コネクション:ジョン・フォン・ノイマン 関係:宿敵 分野:科学
 キミの父親を殺した犯人であり、ペルシャ・クレイドルを混乱させた張本人。BKBの一員でもあるらしいが、彼女がキミのことを「蒼羽教授の娘」だと認識しているかどうかは不明。様々なレガリアを所有し、コンピューターにハッキングする能力も持つ、極めて厄介な存在。
+ ジョン・フォン・ノイマン(イラスト)

PC④ コネクション:謎の歌声B 関係:未知 分野:芸術
 新生コンボイに組み込まれた機能について確認していた時、先代の運転手が趣味で集めていた音楽データを発見した。その中でも特に再生回数が多かったのが「ヴィータ」と題された曲目で、それが楽曲名なのか人名なのかは不明だが、それは独特な響きの中性的な女性の歌声であった。

PC⑤ コネクション:タチアナ・パヴリチェンコ 関係:ビジネス 分野:危険区域
 ノヴゴロド・レギオンの女軍人。21世紀の格闘家エメリヤーエンコ・ヒョードルのレイヤードであり、個人としての戦闘能力はノヴゴロド最強とも言われる。以前、ムサシに要人警護の任務で赴いたことがあり、その時に会った印象としては「厳格だが、話の分かる人物」であった。
+ タチアナ・パヴリチェンコ(イラスト)
+ 第六話・概要
1、敵の敵
 霧穂達が次の目的地であるノヴゴロド・クレイドルへ向けて出立の準備を進めていたある日の朝、そのノヴゴロドからペルシャに緊急通信が届いた。ノヴゴロドには既に通信でPPAPに関する情報が届いていたようだが、数日前に旧ギリシャ地方に新シェルター建設のために派遣されていたノヴゴロド・レギオンの調査兵団が「PPAPにとって有益な『秘宝』がエーゲ海に眠っている」という情報を入手し、その調査に向かった直後に連絡が途絶えてしまったらしい。
 現在、ノヴゴロド・レギオンの主力部隊は黒海沿岸のクリミア・ヘイヴンに出現した巨大ベクターへの対応のために出撃しており、ギリシャ方面に戦力を割く余力はないため、彼等はペルシャ・レギオンに状況の調査を依頼する(もっとも、既にペルシャに霧穂達が到着していることは彼等にも伝わっているため、実質的には霧穂達自身にその解決を依頼していることは、彼女達も薄々理解していた)。
 一方、それとほぼ時を同じくして、エルマーの元にアインハルト(ブリゲイド)経由で、ノイマン(BKB)から「裏取引」を持ちかける通信が届いた(アインハルトと彼女の間にどのような接点があるのかは謎である)。曰く、彼女はタイラントの計画を阻止するために、自身の(より正確に言えば、 彼女が所有するレガリアの)「瞬間転移能力」を用いて、彼等の特効薬散布に協力する用意がある、とのことである。
 彼女の計算によれば、現状の戦力状況のままであれば、最終的に人類を滅ぼせる可能性はほぼ100%であるが、ヴァルハラが計画しているSAGA増産計画(およびその最終段階としてのラグナロク計画)に関しては不確定要素が強く、それがもたらす影響を予測出来ないため、念のためその危険要素を排除しておきたいらしい。元来、レイヤード達にとってはタイラント達(コーディネイター)以上にBKB(エンフォーサー)は不倶戴天の敵である筈だが、今のこの段階においては、結果的に両者の利害が一致していることになる。
 そしてノイマン曰く、現時点でタイラントはギリシャに潜伏しており、そこで彼は「ディオニソスの杯」を探しているという。これは元来は「酒を無限に生み出す機能を持つレガリア」であり、細菌やウィルスを増殖する能力を持つため、タイラントがこれを活用すれば、SAGAウィルスを大量生産出来る可能性もあるらしい。現在は機能停止した状態でギリシャの一角に眠っているが、もし彼がこれを手にした場合、レイヤード達のPPAPが間に合わなくなる可能性がある。だからこそ、BKBとしても、早めに手を打った方が良いと考えたらしい。
 とはいえ、さすがにバベル復活を目論むエンフォーサーとの取引となると、エルマーとしても即断出来る話ではない。ひとまず彼は返事を保留した上で、この日の夜に「ペルシャ・クレイドルから南&東にそれぞれ50km進んだ地点」にて改めて直接会談して返事を伝えるという意思を伝えて、一旦交渉を打ち切るのであった。

2、状況確認
 エルマーが他の四人に事情を伝えると、彼等は訝しげな顔を浮かべながらも、ひとまず現時点における状況を確認するための情報収集へと向かう。
 まず、つばめがディオニソスの杯についてノヴゴロドの情報端末から調べてみたところ、それは確かに細菌類の大量増殖を可能性とする代物であり、その技術を応用すれば、SAGAウィルスだけでなく、自分達が散布しようとしている特効薬を増殖させることも可能であるということが分かる(つまり、この杯があれば「朔夜」本人がその場にいなくても、一度作った抗体から増殖が可能になるらしい)。ただし、現在、この杯が眠っていると思しき地区は、「セイレーン」と呼ばれるエンフォーサーが支配しているという。
 そのセイレーンについて一星が調査してみると、どうやら彼女は「歌」の力で人間の精神を惑わすコード能力の持ち主であり、間近でその声を聞いた者は完全に心を支配されて洗脳状態となり、やや離れた場所で聞いた者に対しても様々な精神的負担を与える能力者であるらしい。その歌声を搔き消す方法として、別の音楽などを同時に流すといった対策が過去に幾度か試されたが、よほど特殊な「歌唱能力」の持ち主でなければ、彼女の歌声を無効化することは出来ないという。
 一方、そのセイレーンが出没するギリシャ地区へ派遣されたノヴゴロド・レギオンの調査兵団について朔夜が聞き込みで集めた情報をまとめると、どうやらその指揮官はタチアナ、副官はヴィクトリアという、いずれも女性のレイヤードであるらしい。タチアナは21世紀初頭の時代に世界最強と謳われた総合格闘家のコードを持つ正統派の戦闘型レイヤードであるのに対し、副官のヴィクトリアは「男装の歌姫」と呼ばれる特殊な能力の持ち主らしい。
 そのヴィクトリアについて霧穂が更に詳しく調査したところ、どうやら彼女はヴラド3世のコードの持ち主であり、そのコードを(彼の伝承から派生した吸血鬼伝説に基づいて)コウモリの形状で具現化し、そのコウモリの発する超音波をエコーとして利用して歌声を届ける能力の持ち主であるという。その歌唱力は(コード的な意味での宿敵である)パリザードと双璧と謳われており、今のペルシャからパリザードを連れ出すことは色々な意味で危険である以上、このヴィクトリアという人物がまだギリシャのどこかで存命なのであれば、セイレーン対策としては、彼女の力を借りるのが有効な対策となりそうである。
 その上で、ノイマン達の「裏」を探るために、エルマーがペルシャ近辺のBKBの動向に関する情報を調べてみたところ、どうやら現在、ペルシャ・クレイドルから見て北東の方角で、複数の「黒騎士」の目撃情報があるらしい。位置的に考えて、ノイマンとの「会談予定地」とは逆方面なので、会談の場で彼等を騙し討ちにしようとする気はなさそうだが、いつでもペルシャに攻め込む準備はあることが分かった以上、ここは慎重な決断を下す必要があることを改めて実感させられた。

3、暫定合意
 上記の情報を踏まえた上で、彼等はひとまずノイマンと改めて直接交渉するために約束の合流地点へと向かう。彼等の中では、残る七つのクレイドルへの移動に彼女の能力を利用するかどうかはともかく、現在ギリシャで発生している事態に一刻も早く対処するために、ひとまず彼女の能力を試しに利用してみるという選択肢を想定を想定した上での交渉であった。
 約束通りに彼等の前に姿を現したノイマンに対して、五人はまずギリシャでの状況について確認する。ノイマン曰く、セイレーンはエンフォーサーではあるもののBKBとは別の管轄であり、あまり自律的に行動するタイプのエンフォーサーでもなく、ディオニソスの杯が収められた「エーゲ海の宝物庫」を守るために全力を尽くすようにインプットされているため、杯を手にいれるためには、どうしてもセイレーンを破壊しなければならないらしい。
 セイレーンには歌による洗脳能力がある以上、通常のレイヤードやエンフォーサーでは太刀打ち出来ない(それはノイマン自身も例外ではない)。しかし、タイラントは歌劇を愛した皇帝ネロのコードの持ち主であるため、歌唱系能力に対する耐性を有している可能性がある。一応、万が一の事態に備えて、ノイマンは「タイラント対策用の部下」を現地に派遣しているらしいが、それでも防ぎきれる保証はない以上、状況によってはレイヤード達がセイレーンを壊した上で杯を持ち去ることも黙認すると宣言した上で、彼女は五人をギリシャへと送ることに同意する(その後の方針については、この時点ではまだ未定のまま)。
 そして彼女は懐から一枚のタロットカード型レガリア「ウェントス(愚者)」を彼女のタブレットに挿入した上で、そのレガリアが有する空間転移の能力をこの場にいる者達全員に適用させ、彼等と自身をギリシャ地区へと転移させる(なお、そのカードを見た一星は、それが自身のコードである英雄チャリオットの出身世界と類似した構造の異世界における「唯一神の使徒」のコードであることに気付いていたようである)。

4、崩壊したシェルター
 ノイマン(の持つレガリア)の力によって、五人はエーゲ海に浮かぶ一つの島へと瞬間転移されたが、そんな彼等の耳に、遠方から響き渡る透明感のある女性の歌声が届いた。それが「セイレーンの歌声」であることを察したノイマンは、危機を察して早々にその場から再び瞬間転移で退散するが、まだ発信源からの距離があったこともあり、レイヤード達はこの時点ではその声に心を奪われずに済んだ。
 彼等が転移されたその地は、明らかに何者かによって破壊された居住区の跡地ようだったが、そんな建物の中の一つに「地下室」へと続く階段があることに気付く。警戒しながら五人がその中へと足を踏み入れて内部構造を確認すると、どうやらそれはレギオンが非常時用に設計した避難用地下シェルターであるらしい、という推測へと到達する。
 ここで、中に人がいるかどうかを確認するために霧穂が大声で呼びかけると、奥から何者かが近付いてくる気配を感じる。だが、それは人の気配ではなく、彼等の前に現れたのは、ハルピュイア型の四体のベクターであった。しかし、ここまで幾多の危機を乗り越えてきた彼等にとっては、もはやその程度の存在など敵ではなく、あっけなく撃退する。
 そのまま彼等が奥へと歩を進めると、この地下シェルターの内部が明らかに荒らされているのが分かる。おそらくは先刻のハルピュイアもしくは他のベクター達の仕業であろうが、室内では何らかの戦闘が繰り広げられていたと思しき形跡があり、部屋の隅には投擲に失敗したと思しき不発弾なども転がっていたが、その割には人の死体は発見されなかった。この状況から推察すれば、この奥にまだ人が残っている可能性は十分に考えられる。

5、幼馴染
 この状況を踏まえた上で、五人が更に下の階層へと降りて行くと、今度は彼等の前に「禍々しいオーラを放つ刀」を持った隻眼の人物が現れる(下図)。それは霧穂と同じナゴヤ・ヘイヴン出身の少年・浅井宗兵であった。
+ 隻眼の少年(イラスト)
 彼は明らかに正気ではない様子で、霧穂へと襲いかかろうとする。どうやら彼はその手に持った「刀」に操られた状態にあるらしい。霧穂が必死に訴えたことで彼が一瞬動きを止めると、その隙に朔夜が間に入り、強引に彼からその刀を奪い取ると、彼はそのまま意識を失って倒れる。その次の瞬間、今度は朔夜の身体が刀に乗っ取られそうになるが、そこで今度は一星がセンチネル・ホースで朔夜の腕から強引に刀を蹴り飛ばしたことで、どうにか再分離に成功した(ただし、この一撃は朔夜にとっても致命傷となり、彼は瀕死の重傷を受けてその場に倒れ込む)。
 その後、意識を取り戻した宗兵から事情を聞いたところ、どうやら彼は大陸でナゴヤ・ヘイヴンの崩壊を知った後、タイラントへの復讐のための「力」を求めて各地を彷徨った後に、ノイマンから「麒麟刀」(夏侯惇が使っていたと言われる刀)のレガリアを渡され、直後にその刀に身体を乗っ取られた状態となった上で、彼女の部下として対タイラント(およびSAGA)への尖兵として利用されていたらしい(つまり、ノイマンが派遣していた「タイラント対策の部下」とは、彼のことであった)。正気に戻った宗兵は霧穂達に平謝りしつつ、麒麟刀の破壊にも同意した上で、そのまま彼等と共に深層へと向かうことになった。

6、東欧の闘士達
 だが、そこから先へと向かおうとした彼等の前に、「半壊して開かなくなった扉」が立ちはだかる。どうやら、シェルターの天井部分が崩れて土砂と壊れた機械が堆積した状態になってしまっているらしい。これは、力技で強引に道を開くしかなさそうである。
 まず、つばめがヒュドラの力を使って堆積物を除去しようとするが、ビクとも動かない。続いて今度は(瀕死の重傷から回復した)朔夜がケルベロスと共に除去しようとするが、逆に崩れて下敷きとなり、再び傷を負ってしまう。だが、その後、霧穂が土砂の構造を確認しながら絶妙な具合でその障害物の除去に成功すると、その奥に更に「通路」があることを確認する。彼女は再び奥に向かって声をかけると、今度は人の声が聞こえてきた。そしてそれと同時に、謎の歌声が響き渡る(それは、一星には聞き覚えのある歌声だった)。
 彼等がそのまま通路の奥へと進むと、そこにいたのはノヴゴロドから派遣された調査兵団の面々であった。と言っても、その中でレイヤードなのは、リーダーのタチアナ(下図)と、副官のヴィクトリア(下図)のみである(ちなみに、後者が歌声の主であった)。当初、調査兵団の面々は五人に対して警戒する視線を向けていたが、タチアナが顔見知りのエルマーの存在を確認し、彼等が「味方」であると断言すると、部下の者達は安堵した表情を見せ、そしてヴィクトリアも歌を止める。どうやら彼女としては、この「侵入者達」がセイレーンの部下でないと確認出来るまでは、洗脳防止のために歌い続けなければならなかったらしい。
+ タチアナ(イラスト)
+ ヴィクトリア(イラスト)
 ちなみに、ヴィクトリア(通称:ヴィータ)曰く、彼女は実はブリゲイドのサーシャの双子の妹であり、彼女達(調査兵団)に「ディオニソスの杯」の情報を伝えたのはブリゲイドであるという。だが、杯の捜索へと向かった彼女達の前に、エンフォーサーの「セイレーン」と、巨大ベクターの「スキュラ」が立ちはだかり(前者は後者と合体可能な特殊なエンフォーサーらしい)、タチアナとヴィータ以外のレイヤード達は次々とセイレーンの歌声によって洗脳されて彼女の下僕となってしまったらしい。
 その状況で非戦闘員を庇いながら戦い続けることは不可能と判断した彼女達は、こうして地下シェルターに立てこもり、あえて扉を壊して敵の侵入を防いだ上で、いずれ味方が救援に来るのを待っていたという(通信機器はその前に破壊されて使えなかったらしい)。ちなみに、タチアナは格闘家のレイヤードであるが故の怪力の持ち主であり、その気になればいつでも堆積物は除去可能であり、現状においても再びバリケードのような形で道を塞ぐことも出来る。
 そのことを確認した五人は、ひとまずセイレーン対策としてヴィータに同行を申し出た上で、力(刀)を失った宗兵を地下シェルターで一緒に匿ってもらった上で、彼女達が見つけた「杯があると思しき宝物庫のある島」へと向かうのであった。

7、歌と歌
 こうして、五人とヴィータは、その「秘宝の島」において、「セイレーン(下図)を装着した状態のスキュラ」と、そして彼女に操られた状態のノヴゴロドのレイヤード達と対決することになる。セイレーンの歌声に惑わされないよう、一星のセンチネル・ホースにヴィータを乗せて彼女に「対抗歌」を歌い続けてもらった上で、他の四人もなるべく彼女の歌声が間近で聞こえる位置にいるよう、固まって行動するという作戦を採る。
+ セイレーン(イラスト)
 だが、そんな彼等に対して、スキュラはまず雷撃で全員を狙い撃ちした上で、その不気味な尾を振りかぶって朔夜に襲いかかる。それを(いつも通りに)一星が庇うが、ここで彼はその尾の衝撃によってセンチネル・ホースごと(=ヴィータごと)弾き飛ばされ、他の四人がヴィータの「対抗歌」の圏外となってしまう。その結果、四人はセイレーンの歌声に必死で抵抗しながら戦う状況へと追い込まれ、一方で後方に飛ばされた一星(そして続く攻撃で同様に後方に弾き飛ばされた朔夜)に対して洗脳状態のレイヤード達が襲いかかる。
 この想定外の分断状況に彼等は苦戦を強いられるが、それでも満身創痍の霧穂が放った渾身の連続攻撃でセイレーンを粉砕したことで、どうにかその影響から逃れた彼等は、そこから即座に陣形を立て直した上で、最終的にはスキュラ本体の撃破にも成功し、なんとか薄氷の勝利を収めることになるのであった。

8、酒神の杯
 こうして最大の脅威を殲滅した彼等は、再び調査兵団と合流した上で、無事に「ディオニソスの杯」を発見する。その直後、タイラントが現れてその杯を奪おうとするが、そこに今度は(再びウェントスの転送機能を用いて出現した)ノイマンとレオニダスが妨害に入ったため、タイラントは無勢を悟ってその場を去っていった(なお、ビートルはセイレーンへの耐性がないため、今回は連れて来ていなかったらしい)。
 ここでノイマンは改めて、五人に「協力」を申し出ようとするが、その場にノヴゴロドの面々がいたこともあり、エルマーが「お前達の力は借りない」と宣言すると、あっさりと二人のエンフォーサーは(彼等の特効薬散布計画の成功を祈りつつ)その場から去って行く。
 こうして、ひとまず目的を達成した彼等は調査兵団と共にノヴゴロドへと向かい(なお、その間にクリミア戦線でもノヴゴロド軍は巨大ベクターに勝利していたらしい)、つばめの手で無事に特効薬の生成に成功する。その上で、ディオニソスの杯を用いた増殖が可能かどうかを試してみたところ、現時点では杯の機能が半壊状態のため使えないものの、修理すればそれも出来るようになる可能性がある、ということが判明する。
 そして、かもめにはこれを修理出来る能力の持ち主に心当たりがあった。その人物の名は、エリック・スタンフォード。彼はオクスフォード・クレイドルに所属する若き俊英科学者であり、つばめの姉・かもめと婚約関係にある少年であった。

+ 第七話・トレーラー
 ノヴゴロドでの特効薬作成に成功した五人は、陸路でノルマンディー・ヘイヴンへと到達し、現地の人々の協力を得た上で、その対岸に位置するオクスフォード・クレイドルへと向かう。
 その間に、タイラントから「杯」の奪取失敗の報を受けたヴァルハラは「神のコードへと至るもう一つの選択肢」を模索し始める一方で、ブリゲイドもまた彼等自身の目的達成のために本格参戦を決意し、そして遂にこれまで沈黙を保っていた「あの男」が表舞台に現れる。人類社会の未来を賭けた戦いは、今、まさに風雲急を告げようとしていた。

英雄武装RPG コード:レイヤード・キャンペーン「PPAP」第七話
「明かされる真実」
その力で、伝説を超えろ!

PC① コネクション:東堂・ヤクモ・ブリジット 関係:保護者 分野:歴史
 今は無きナゴヤ・ヘイヴンのリーダー。日仏ハーフで、織田信長の妹・市のレイヤードだったが、ナゴヤに病原菌を散布するタイラントを止めようとして殺された。彼女には英国系一般人の夫との間に三人の娘がいたが、現在は夫の故郷であるオクスフォードで暮らしているらしい。
+ 東堂・ヤクモ・ブリジット(イラスト)

PC② コネクション:石森達行 関係:ビジネス 分野:噂話
 かつてムサシの中華街で随一の腕前と言われた拉麺屋の店主。キミが拉麺好きになったのも、幼い頃に彼の味に魅了されたからである。その後、更なる味の精進を求めて世界中を旅した末に、現在はオクスフォード・クレイドルの中華街にて三ツ星中華レストランを経営しているらしい。
+ 石森達行(イラスト)

PC③ コネクション:エリック・スタンフォード 関係:家族 分野:科学
 キミの姉であるかもめの婚約者(年齢はキミと同じ)。レイヤードではないが、極めて優秀な科学者であり、実家が世界でも有数の資産家であるため、潤沢な研究資金を持つ。かつて日本に留学していた時に姉と知り合い、エリックが彼女に熱烈にアプローチして恋仲となったらしい。
+ エリック・スタンフォード(イラスト)

PC④ コネクション:謎の女性 関係:刺激 分野:危険区域
 数年前、キミの前に「光の翼と巨大な鎌を持つ女性」が現れた。彼女はキミを「使徒アダマスのレイヤード」と勘違いしてどこかに連れて行こうとしたが、それが誤解と分かると、すぐに飛び去った。なお、アダマスとは某卓上伝承における「唯一神の二十二の使徒」の一人らしい。
+ 謎の女性(イラスト)

PC⑤ コネクション:ガスコイン・チェンバレン 関係:先達 分野:居住区域
 かつてムサシに派遣されていたレギオン本部の執政官。英国首相ベンジャミン・ディズレーリのレイヤードであり、キミとエースと理代子に政治(主に外交面)の基礎を教えた人物でもある。現在はオクスフォード評議会の一員へと転身し、政策顧問のような立場を務めているらしい。
+ ガスコイン・チェンバレン(イラスト)

+ 第七話・概要
1、The devilfish
 ノヴゴロドから陸路で危険地域を強引に突破した五人は、ブリテン島対岸のノルマンディー・ヘイヴンに到着する。そこで彼等を待っていたのは、オクスフォード・クレイドルから派遣されたサンドラという名の女性指揮官であった(下図)。彼女はタイラントに殺されたナゴヤ・ヘイヴンの元リーダーの東堂・ヤクモ・ブリジットの次女であり、母の仇を打つために霧穂に全面協力するつもりであるという。
+ サンドラ(下図)
 彼女の指揮の下、彼等はオクスフォード・レギオン所属の戦艦プリンス・オブ・ウェールズ(のレガリア)に乗ってドーバー海峡を渡ろうとするが、その途上、巨大蛸型ベクターの襲撃を受けてしまう。この時、一星は陸路での連日長時間運転の過労で休養中であったが故に出遅れ、エルマーも船酔いで体調を崩し、更に巨大蛸が船に触手で絡みついて激しく船体を揺らしたことで朔夜が荒海に落とされてしまうなど、彼等は苦戦を強いられるが、つばめが飛行能力を用いて朔夜を救助し、霧穂が放った聖槍によって触手の撃破に成功することで、どうにか戦線を立て直す。
 そんな彼等に対して、巨大蛸の本体は海上から毒墨を放ってくるが、三銃士ポルトスのレイヤードであるサンドラが自身のコード能力「ワン・フォー・オール」を用いてその攻撃を一人で受け止めることで、被害を最小限に食い止める。だが、この場にいる者達の大半は近接攻撃主体のレイヤードであったため、巨大蛸本体への攻撃手段に乏しく、どうしても決定打に欠けていた。そんな中、サンドラが五人に対してこう叫んだ。

「皆さんのアルケオンを、私に貸して下さい!」

 通常、そんなことは出来ない筈なのだが、彼女に言われるがままに皆が彼女を見つめて念を込めると、確かに彼女にアルケオンの力が集中していく。そのアルケオンの力を統合して彼女が放った一撃「オール・フォー・ワン」によって、巨大蛸は海の藻屑と化す。難敵を退けたことで互いに協力を称え合うレイヤード達であったが、この時点で五人はサンドラの持つ「この特殊な力」に対して、疑念を抱いていた。
 通常、レイヤードは一つのコード能力しか持たない筈だが、彼女の用いた「ワン・フォー・オール」と「オール・フォー・ワン」は、どちらも明らかに別種の技であり、しかも後者に至っては明らかに通常のレイヤードとは異質のコード能力である。そのことに違和感を感じつつも、ひとまず彼等は、そのまま無事に海路を北へと進み、オクスフォードへと到達するのであった。

2、ラグナロクの案内人
 オクスフォードに到着した五人を迎えたのは、現地の評議会の政治顧問を務めるガスコイン・チェンバレン(下図)であった。エルマーの師匠でもある彼は、ひとまず五人を歓迎しつつ、クレイドルの中枢部分へと彼等を案内し、つばめ朔夜を医療機関へと向かわせた上で、エルマーには「内密な話がしたい」と言って自身の政務室へと連れて行く。
+ ガスコイン・チェンバレン(イラスト)
 一方、一星は他の乗員達を下ろした上で、コンボイ用にあてがわれた地下駐車場へと向かうが、彼がそこで車から降りた時、彼の目の前に、見覚えのある女性が現れる。それはかつて、彼のことを「使徒アダマスのレイヤード」と間違えて声をかけた「翼を生やし、巨大鎌を持った女性」(下図)であった。
+ 謎の女性(イラスト)

「いつぞやは失礼した。まぁ、今回の招待客も貴殿ではないのだがな」

 薄ら笑いを浮かべながら彼女がそう言うと、一星は戸惑いながら問いかける。

「お前は『どっち側』なんだ?」

 そう言われた彼女は、素直に自らの正体を明かす。彼女の名はレイヴン。コードはヴァルキリー。彼女はヴァルハラによって生み出されたコーディネイターであり、SAGAと思しき者達をラグナロクへと導く使命を帯びており、今回は霧穂が「SAGAとして『次の段階』に到達しつつある」というヴァルハラの判断に基づき、彼女に「神となる意志」があるかどうかを確認するために現れたらしい。

「今の彼女では、まだビートルには及ばない。だが、貴殿等が手を貸せば、あるいは……」
「まぁ、俺達アサルト・チームは、もともと集団で戦うことを前提としているからな」
「確かに。ところで、彼女は『神』にふさわしい器だと思うか?」
「いや、全然」

 そんな会話を交わしている中、レイヴンは地上で「戦いの気配」を感じ取り、その場から飛び去って行く。それに気付いた一星もまた地上へと向かって行くが、その途上でいつの間にかレイヴンの姿は見失っていた。

3、世界を導く資格
 その頃、エルマーを自室に呼び出したガスコインは、エルマーに対して唐突に「ブリゲイドの思想について、どう思う?」と問いかける。エルマーは、自身のアインハルトの微妙な関係についてはごまかした上で、無難な回答でひとまずやりすごすと、ガスコインは持論を語り始める。

「私の思想は基本的には彼等と変わらん。人類はレイヤードによって導かれるべきだ。だが、現実問題として、それを声高に叫ぶことは人類の分断を招く。故に、表面上は『力無き者達』の顔を立てながら、実質的に我等が主導権を握る必要がある。そのバランスを調整するのが我々政治家の仕事だ」

 彼はそう語った上で、改めてエルマーに問いかけた。

「アインハルトは、いずれ全ての人類をレイヤードにすべきと考えている。そのために様々な人体実験をおこなっているようだが、その手法の人道的観点からの是非は別として、そもそも、全ての人がレイヤードになるべきだと、お主は思うか?」
「全ての人々が英雄の力を手に入れることになったら、それは世界を混乱させることになるのではないかと」
「その通りだ。この力は選ばれた者だけが行使すべきこと。コードに適応出来ない人間は、その器ではない。そのような者達にまで力を授けたところで、世の中はろくなことにならん」

 ガスコインはそう語った上で、エルマーに「このオクスフォードの中に、ブリゲイドのスパイが紛れ込んでいるらしい」という情報を伝える。そのスパイ(達?)の目的は不明だが、もしエルマーがその真相を掴んだ場合、それに対してどのような対応を取るかについては(「本来ならばレギオンに報告するのが筋だが」という大原則を伝えた上で)、ガスコインは特に何の指示も出さなかった。彼は自分の弟子であるエルマーであれば、その時々の状況に応じて、最善の判断が出来ると確信していたのである。

4、神格への階段
 一方、つばめ朔夜霧穂の三人の前に現れたのは、つばめの姉・かもめの婚約者であるエリック・スタンフォード(下図)であった。エリックはディオニソスの杯を受け取った上で、その修復が可能かどうかの検証へと向かい、その間につばめ朔夜はクレイドルの医療機器を用いた上での特効薬の生成を開始する。
+ エリック・スタンフォード(イラスト)
 そんな中、一人手持ち無沙汰な状態で応接室に残された霧保の前に「ロザンヌ」と名乗る少女が現れる(下図)。どうやら彼女はヤクモの三女(先刻のサンドラの妹)で、三銃士アラミスのコードの持ち主らしい。
+ ロザンヌ(イラスト)
 彼女もまた、霧穂のタイラント打倒の悲願を手助けしたいと申し出た上で、霧穂のコードの象徴である「聖槍」を見せてほしいと申し出る。霧穂が素直に槍を具現化すると、彼女はそれを見て、真剣な表情でこう告げた。

「あなたのコードは、確実に神に向かって進化しつつありますわ。私達の調査によれば、あなたのコードは『死の淵から蘇って敵を倒すこと』で進化するのです。おそらく、あと1回か2回の死線を乗り越えることで『次の段階』に到達するでしょう。 ただ、そうなった時に、あなたは『今のあなた』ではなくなるかもしれません」

 彼女が何を根拠にそのような仮説を論じているのかは不明であるが、確かに霧穂はこれまで、幾度もの戦いで真っ先に最前線に突入することが多かったため、何度も瀕死の重傷を負い、その度にオーバーレイの力で立ち上がっている。そして、そのような形で進化していく英雄の物語は、霧穂の故郷である 旧名古屋地方近辺出身の語り部が百年以上前に残した伝承 にも残っている。決して、ありえない話ではないだろう。
 「神のコード」を手に入れれば、タイラントに勝てる力を手に入れることになるだろう。だが、それは結果的に彼の望みを叶えることでもあり、また、そのコードに近付くことは、その強すぎる神の力に精神を乗っ取られる可能性もある、とロザンヌは指摘する。

「それでもあなたが、母上様の仇を討つために『神の力』を手に入れる気があるのなら、私達姉妹は『あなたが神となるための糧』となる覚悟もあります」

 つまり、霧穂が力を得るための「踏み台」として、自らの命を差し出しても良い、ということだが、霧穂はそれをやんわりと否定する。

「私は、神なんかになる気はないよ。私は私自身の力でタイラントを倒すから」

 彼女がそう答えたところで、伝令兵がロザンヌの元へと走り込んできた。曰く、ロザンヌの姉(ヤクモの長女)のオルタンス(下図)が、街角で何者かと戦い、重傷を負ってレギオン本部へと担ぎ込まれたらしい。ロザンヌが慌ててその救急室へと向かい、霧穂がそれを追うと、その途中で彼女達は一星とも合流した。どうやら先刻の「戦いの気配」は、彼女と何者かとの間での遭遇戦の気配だったらしい。
+ オルタンス(イラスト)
 オルタンスは三銃士アトスのレイヤードであり、オクスフォードでも屈指の実力者の一人であったが、その彼女が、担架に運ばれた状態で虚ろな表情を浮かべながら、恐怖に怯えた声でこう呟いていた。

「あれこそが、神のコード……。あれは、私達が手を出して良いレベルの存在ではない……」

 意識が朦朧とした状態の彼女に対して、レギオンは面会謝絶の上での絶対安静を命じたため、結局、彼女が戦った相手が何者なのかは、この時点では確認出来なかった。

5、林檎と蛇
 その間に、朔夜つばめは無事に特効薬の生成に成功したことをエリックに報告すると、エリックは採血後の朔夜の栄養補給のために「オクスフォード内の三ツ星レストラン共通お食事券」を彼に手渡した上で、つばめに対して一対一での「内密な話」を持ちかける。
 つばめを自室に招き入れた彼は、まず、ディオニソスの杯の修復については、このオクスフォードの技術を用いれば可能であるという結論を伝える。それが成功すれば、今後はつばめ朔夜がいなくても、この杯を用いた上での量産が可能となるため、必ずしも二人が各地に向かわなくても良い、ということを伝えた上で、彼は深刻な表情でこう告げた。

「あなたは今後、表に出るべきではない。これまで僕が『先代の蒼羽博士の死因』を調べるために集めた情報に基づいて立てた仮説が正しければ、あなたの知識だけでなく、あなたの身体そのものが、誰かに狙われる可能性があるのです。まだあくまで仮説段階ではあるのですが……、とりあえず、ここに至るまでの詳しい話を聞かせて頂けませんか?」

 そう言われたつばめが素直にこれまでに得た情報を一通り伝えると、エリックは自分の中の仮説がほぼ正解であったと確信した上で、改めて彼女にその内容を伝える。

「あなた達の父である蒼羽博士は、元来はヴァルハラによって作り出された存在です。そのコードの名は『失楽園』。ジョン・ミルトンによって記された、聖書を基にした叙事詩です」

 突然の通告に、つばめはさすがに困惑を隠せない。これまで、彼女は父から「自分はレイヤードではない」と言われていた。その言葉そのものは嘘ではなかったが、どうやらそれは「コードの力を持つ者」であることを否定する言葉ではなかった、ということになる。

「つまり……、コーディネイター、ということ?」
「そうです。あなた達姉妹の遺伝子の中には、コーディネイターとしての蒼羽博士の『失楽園』の遺伝子が部分的に組み込まれている。おそらくそれが、コードの具現化の形状に影響しているのでしょう」

 ニュートンのコードを持つかもめが具現化させる「林檎」と、ヒュドラのコードの持ち主であるつばめの背後に現れる「蛇」は、確かにどちらも「失楽園」の物語の鍵となる存在である。そしてエリック曰く、つばめのヒュドラの蛇頭の中に、一つだけ他の蛇達と異なる形状の頭が混ざっているという。おそらくはそれが、「ギリシャ神話のヒュドラ」の中に「失楽園(聖書)の蛇」のコードが混ざってしまった結果なのだろう。
 エリックの仮説によれば、蒼羽博士はコーディネイターとして生み出されたものの、途中でヴァルハラの方針に反発して離反し、「普通の人間の科学者」を装ってムサシ・クレイドルに加わり、「人類に『何らかの叡智』を授ける方法」を模索していたらしいが、結局、それが完遂する前にノイマンに殺されてしまったらしい。そのため、彼が何を目指していたのかは不明であるが、もしかしたら「彼のコードを部分的に引き継いでいる可能性のある娘達」に、その秘密が隠されているという可能性もある。
 動揺したつばめが、自分の気持ちを整理しようとしている中、エリックの元にも伝令兵が現れ、(上述の)オルタンスの搬送の旨が伝えられたことで、ひとまず話は中断され、彼等もまた医務室へと向かうのであった。

6、もう一つの選択肢
 こうして、レギオン本部で様々な真実が明らかになっていく中、お食事券を貰った朔夜が、オクスフォード・クレイドルが誇る世界最大の中華街に足を踏み入れると、そこで見覚えのある看板の店を見つけた。その店の名は「Bravo Ramen」。かつてムサシで一番人気を誇ったラーメン職人・石森達行(下図)の経営していたラーメン屋と同じ名である。
+ 石森達行(イラスト)
 朔夜が店に入ると、その店を経営していたのは確かに石森であった。だが、それ以上に朔夜の目を引いたのは、店の一角でラーメンを頬張りながら恍惚とした表情を浮かべる金髪の少女・ビートルの姿である。

「こんなラーメンが、この世に存在するなんて……」

 あまりの美味に打ち震えている彼女であったが、次の瞬間、朔夜と目が合う。朔夜は平静を装って会釈しようとするが、体内に宿るケルベロスの恐怖心が身体に伝わってしまい、その足が微妙に震えている。だが、そんな朔夜に対して、ビートルは衝撃的な言葉を伝える。

「あ、大丈夫。お前はもう、殺さない。というか、殺すなと言われた。ヴァルハラに」

 どうやら、ここまでの彼等による特効薬配布と先刻のディオニソスの杯の奪取作戦の結果、ヴァルハラの中で方針転換が生じたらしい。タイラントはまだ従来のSAGAウィルスの散布計画にこだわっているが、ヴァルハラはそれと並行して「もう一つの選択肢」を模索しているのだという。それは朔夜の「コードを親から子へ遺伝する体質」という特殊な遺伝子を利用する計画であった。

「ヴァルハラ言った。お前の遺伝子とSAGAの遺伝子を掛け合わせれば、より高度なSAGAが作れるかもしれない。だから、お前の遺伝子がほしい」
「いや、あげないよ!」

 唐突な申し出に対して朔夜は即断でそう答えるが、彼女は無機質な表情のまま、淡々と訴え続ける。

「私では……、ダメか? あの槍使いの方がいいのか? 別に相手は私一人でなくてもいい。たとえば、私の身体とあの槍使いの身体の両方に受精させた上で、その子供同士を戦わせれば、より早く神に近づけるかもしれない。私の身体では欲情出来ぬというなら、別の何かを使って出してくれても構わない。それを後で私の中に入れれば良いだけのこと。ただ、その、出来れば、直接した方が、より優秀な子供が生まれるのではないかという、迷信かもしれないが、そんな話もあるというか、仮に迷信だとしても、私も一度直接してみたいというか……」
「君は何を言っているんだ? そういうことは、まず、健全な交際を経た上で……」

 あくまでも常識的な返答を繰り返す朔夜に対して、やがて店主からラーメンが届けられると、ひとまずビートルも訴えを中断し、追加のラーメンを注文する。こうして、しばらく二人が無言でラーメンを味わった上で、改めてビートルはこう言った。

「とにかく、私はこの世界を変えたい。皆が何かに怯える世界を変えたい。皆が安心して、食べたい物を好きなだけ食べられる世界にしたい。そのための一番の近道は、私が神になることだとヴァルハラは言っていた。でも、それは私でなくてもいい。私の子供でもいいし、あの槍使いでもいい」

 そこまで言った上で、彼女は時計を見て、決意を固めた表情を浮かべながら、こう告げた。

「私はこれから行かなきゃいけないところがある。もし生きて帰ったら、子作りの件、真剣に考えて」
「ちょっと待って。何をしに行くつもりだ?」
「今一番強いSAGAが、この街に来ている。私は彼を倒して、神への階段を登る」

 ビートルはそう言い残して、店を出て行った。

7、隻腕の大天使
 その後、五人は改めて合流した上で、ここまで得た情報を共有しつつ(ただし、つばめだけは自分の出自のことは話さなかった)、改めてこの街で発生している状況を確認するため、それぞれに情報収集に奔走する。
 まず、オルタンスが何者かに襲われたと思しき現場に向かった霧穂は、その場にいた人々の証言から、その相手と思しき人物が「翼を生やした、左腕がない男」であるという情報を得る。一方、タイラントがこの街に潜伏している可能性を考慮したつばめが、彼の手配書を持って聞き込み調査をおこなってみたところ、どうやら彼とよく似た風貌の「左腕のない男」を見たという複数の証言に辿り着く。
 この二つの情報を聞いたエルマーは、おそらくオルタンスが戦った相手は、パリザード(とタイラント?)の父親と言われている元BKBのガブリエルではないか、という推測に到達する。そしてそれはおそらく、シマバラの七美太夫が探している心中相手とも同一人物であろうと、エルマーは予想していた。
 そのエルマーは、ガスコインが言っていた「ブリゲイドからのスパイ」について確認するために、ブリゲイドに関する情報を改めて調べてみたところ、どうやらブリゲイドの技術によってコードを埋め込まれた者達の中には「複数のコード能力」を持つ特殊なレイヤードもいるという情報を入手する。そして、先刻の海での戦いにおいて「二種類のコード能力」を用いていたサンドラ、およびその姉妹であるオルタンスとロザンヌに関しては、コードの力を手に入れた経緯がオクスフォード・レギオンの公式プロフィールに記載されていない、ということも判明する。
 そのことを踏まえた上で、エルマーがブリゲイドの首領アインハルトに連絡を取ると、彼はあっさりと三人が自身の部下だと認める。どうやら彼女達は、タイラントを倒すための力を欲するものの、通常の方法ではコードに適合出来なかったため、強引にその身に力を宿すために、危険なブリゲイドの人体実験に自らの身を差し出し、そして三銃士のコードを手にいれたらしい。
 そしてアインハルトは、これから自分達が「ヴァルハラの本拠地」に攻め込もうとしているという旨をエルマーに告げた。曰く、彼等はヴァルハラとその信奉者のコーディネイター達の本拠地が「アイスランド島」であるという情報を得たらしい。彼がなぜエルマーにそのことを告げたのかは不明であるが、「あなた方も助力に来てもらってもいいですが、あなた方が来る頃には、全てが終わっているかもしれませんよ」と伝えた上で、通信を打ち切る。
 一方、一星はこの件にBKBが介入している可能性を考慮して、それらしき人物の目撃情報がないかを確認してみたが、どうやら現時点でのオクスフォードにはいないらしい、ということを確認する。この状況から察するに、ガブリエルとBKBが現在でも繋がっている可能性は低そうである。
 その上で、朔夜がビートルの行方を探ってみたところ、どうやら彼女はオクスフォード・クレイドルの北側の壁の外へと向かったということが判明する。もし、ロザンヌの仮説が彼女にも適用されるのであれば、彼女がガブリエルとの死闘を制することでより強力なSAGAとなってしまう可能性がある以上、この状況を放置する訳にはいかないと判断した彼等は、彼女を追って北へと向かうのであった。

8、頂上決戦
 オクスフォード北部を捜索していた五人は、やがて針葉樹林の一角から激しい喧騒の気配を感じ取り、その方角へと向かうと、そこでビートルが「天使の翼を生やした隻腕の男」と戦っている場面を発見する。その男の風貌は、まさしくペルシャ・クレイドルの記録写真に残っていた「パリザードの父親であるリベレーター・ガブリエル」の姿そのものであった。
 これまでの無表情な雰囲気とは打って変わって必死の形相で敵を倒そうと奮闘するビートルに対して、ガブリエルはどこか無気力そうな表情で淡々と応戦する。その戦況は一見拮抗していたが、それでも少しずつ着実にビートルが押されていることに気付いた五人は、どちらが勝っても「厄介な敵」が現れる可能性が高いことを察して、ひとまずこの戦いを止めるために姿を現す。
 すると、突然の乱入者に対して二人とも拍子抜けしたような表情を浮かべつつ、ひとまずどちらも素直に矛を収めた。そして、レイヤード達がガブリエルに対して、その正体と目的を問い質すと、彼はこう答える。

「私は、自分を殺してくれる者を探しているのだ」

 そう言った上で、彼は淡々と自分の過去を語り始めた。彼は元来、バベルによって生み出されたエンフォーサーであり、その中でも特に強力なコードの持ち主であったため、「BKBの一員」というエリート戦士としての道を歩んでいた。だが、大侵攻の初期の時点でのレイヤード達との死闘の中で、彼は自らのコードを覚醒させ、「より神に近い存在」へと進化する。この時点で、彼の精神はコードの中に眠っていた「大天使ガブリエルとしての意識」によって上書きされ、結果的に彼の精神はバベルの支配から逃れることになった。
 その後、彼は人類側へと転身した上でヴァルハラと出会い、その特殊なコードを「SAGA」として認定され、「その力を更に高めることで、神のコードを作り出し、バベルを倒す」というヴァルハラの考えに同調する。そのために自身の遺伝子を提供することで、より強力な「コーディネイター」を作ろうと画策するが、結局、彼の子供達からは「SAGA」の資質のある人物は生まれなかった。その一方で、彼の血を引いていない者達からビートルを初めとする様々なSAGAが生まれているため、SAGAの資質は遺伝によるものではないらしい、ということが判明する(それを覆せる可能性を持つのが朔夜の遺伝子なのだが、この時点では誰もその存在に気付いてはいなかった)。
 そして、ガブリエル自身も当初は自身のコードをより神へと近付けるための努力を続けていたが、その途上で彼は「未来予知」の能力を手に入れ、「自分が神のコードを手に入れた後の未来」を推測してみた結果、それは「人類にとって望ましい未来」には繋がらない、という結論に到達する。彼はその未来図に絶望し、他の者達が「神」となった場合の未来についても予測しようとしたが、自分以外にその可能性のある人物を見出せなかった。それ故に、ヴァルハラに方針転換を申し出るが、ヴァルハラはその意見を聞き入れず、やがて彼は生まれたばかりの末娘(パリザード)を連れて、ヴァルハラから離反する。
 その後、ペルシャ・クレイドルのヘイルターシュ(先代リーダー)と意気投合した彼は、しばらく彼と共に(かつての仲間であった)BKB達と戦うものの、やがて自分のコードが更なる進化(神化)を遂げようとしていることを察した彼は、娘を彼に預けた上で、BKBとしての自分に備わっていた「光の輪」を娘に託し、自分自身は「戦死したフリ」をして、東方へと去って行く。以後は、自分の素性を隠した上で、東方の島国で静かに一人の人間として暮らす予定であった。
 そして彼は、シマバラで出会った七美太夫と恋仲となるが、そんな彼の存在がやがてヴァルハラに気付かれ、「ヴァルハラへ帰還しなければシマバラを破壊する」と脅される。その状況に絶望した彼に対し、七美太夫は(よく事情を知らないまま)心中を申し出て、彼も一度はそれを受け入れて彼女の自宅に火を放つが、その途上で彼の左腕に残っていたエンフォーサーとしての「生存本能」が覚醒し、無意識のうちにその左腕が全ての炎から彼自身と七美を守ってしまったことで、二人共生き延びることになる。
 その後、彼は左腕をその場に切り落とした上で、七美の元から去り、世界の片隅で誰とも関わらずに隠遁生活を送っていたが、そんな彼の前に(自分の血を最も濃く受け継いだ息子である)タイラントが現れ、ビートルとの決戦を要求する。誰かに自分を殺してもらうことを願っていた彼は、そこに一縷の可能性をかけて戦いへと挑んだが、結局、ビートルとの戦いの最中に、またしても自分の中の生存本能が働いてしまい(どうやら、左腕を切り落としただけでは消せなかったらしい)、勝利を掴む寸前のところまで到達していたところに彼等が現れて、現在に至る(なお、オルタンスに重傷を負わせた件に関しては、彼女がガブリエルをタイラントと間違えて奇襲しようとしたところを、反射的に返り討ちにしてしまったらしい)。
 現状、ガブリエルには何の望みもない。ただ、彼は自分の人生を終わらせてくれる存在を探しているだけである。だが、ビートルではそれが無理だというのであれば、あえて戦いを続ける理由はない。この戦いに至る前に、彼はタイラントから「戦いに応じなければ、街を一つ焼く」と脅されていたのだが、具体的にどの街を焼くつもりなのかは明言しなかったので、それが本気かどうかも分からないし、ビートル自身が戦いを放棄するなら、話が変わってくる可能性もある。
 一方で、ビートルはあくまでもガブリエルを倒して「神のコード」に近付くことを望むが、そんな彼女に対して、つばめはこう告げる。

「あなたが望む世界は、あなたが神になることで、本当に叶うの? あなたが神になってしまったら、今のあなたの願いも消えてしまうんじゃないの?」

 ビートルは、これまでそのような可能性を考えたことがなかった。だが、先刻のガブリエルの発言が本当なら、確かに覚醒と同時に今の自分自身の意識が消えてしまうのかもしれない。そのことに気付いて戸惑う彼女に対して、今度は一星が語りかける。

「今、ここにいる者達は全員、BKBを倒してバベルの復活を阻止したいと考えている。その者達同士で争う必要がどこにある?」

 その提言に対してビートルが更に困惑の表情を浮かべると、「外交官」としてのエルマーは(自分が密かにBKBとも協力していたことは伏せた上で)彼女に手を差し伸べる。

「まずは、バベルの復活を阻止するために協力しよう。そのための道は、誰か一人が『神』となる以外にもあるのかもしれない」

 実際、ここに至るまでの過程で、ヴァルハラは何度も方針転換している。ラグナロクの実現の可能性が低くなったことで、「特異体質者(朔夜)との生殖による神の創生」という新たな可能性を提示されたことは、彼女の中でも衝撃であり(それはそれで悪い気はしなかったようだが)、その意味で、彼女の中でのヴァルハラへの信頼はやや揺らぎつつあった。
 そんな心境の中で「他にも道があるかもしれない」という可能性を提示されたビートルは、ひとまず休戦の方針を受け入れる。どちらにしても、これ以上ガブリエルと戦っても勝機は見出せず、そして自分を倒そうとしている相手から「自分が神になることで世界を救う」という覇気が感じられない以上、彼女としてもこのまま戦い続けて無駄に命を落とすことが、世界を救うことになるとは思えなかったのである。

9、Chariot対Chariot
 だが、こうして休戦協定が結ばれようとしていたところに、横槍を入れる者が現れた。レイヴンである。光の翼を広げて夜空に現れた彼女は「私が導くべき勇者が闘争本能を失ってしまっては困る」と言い放ち、懐から一枚のタロットカードを取り出した上で、そこから巨大な「四頭立ての戦闘用馬車(チャリオット)」を召喚する。それはまさしく、彼女が数年前に探していた「使徒アダマス」のコードを持つ(おそらくノイマンが持っていた「ウェントス」と同種の)レガリアであった。本来はタイラントの乗騎でもあるのだが、単体でも稼働可能な代物のようである。
 レイヴンは、この場にいる三人のSAGAを覚醒させるために、彼女達に向かってアダマスを突進させようとするが、それに対して真っ向から応戦しようとするビートルをガブリエルが力づくで止めた上で、もう一人の「チャリオット」のコードの持ち主である一星は、霧穂にオーバーレイの力を使わせないよう、彼女を自身のセンチネル・ホースに乗せた上で、彼女を庇いながら応戦する。
 そして彼等はアダマスとの間で絶妙な距離を保ちながら前後に揺さぶる戦略で翻弄しつつ、霧穂の聖槍とそれに続く朔夜つばめの連続攻撃で馬達を一掃するが、それに対するアダマスの反撃により、これまで鉄壁の防御で味方を守り続けてきた一星が初めてオーバーレイの力を発動せねばならない程の重傷を負ってしまう。だが、その直後に更にエルマーの巧みな戦術で戦車本体の弱点を見抜いたことで、そこに畳み掛けるように残ったアルケオンの力を注ぎ込む攻撃を集中させた結果、どうにか撃破に成功する。
 その様子を空中から涼しい表情で眺めていたレイヴンは、SAGAの覚醒こそ果たせなかったものの、彼等が「タイラントのお気に入りのレガリア」をも倒せるほどの力を手に入れたことに対して満足した表情を浮かべつつ、その場から飛び去って行くのであった。

+ 最終話・トレーラー
 世界のために、ヒトを滅ぼそうとする者達。ヒトのために、ヒトを殺そうとする者達。ヒトのために、世界を変えようとする者達。ヒトのために、ヒトを守ろうとする者達。それぞれの信念が交錯する中、世界とヒトの運命を導く「最後の舞台」の幕が開く。熱く激しく燃え盛る「北の大地」の劇場で、己の正義を胸に抱き、英雄達は舞い踊る。

英雄武装RPG コード:レイヤード・キャンペーン「PPAP」最終話
「時代(とき)を超える叙事詩(サーガ)」
その力で、伝説を築け!

PC①〜⑤ コネクション:任意 関係:任意 分野:初登場時を参照
 これまでに登場した自身のコネクションNPCの中から各自一人を選択。そのNPCがどのような形で最終回の物語に関わるかは、そのラインナップを見た上でGMが決定する。

+ 最終話・概要
1、神に近付きし者達
 レイヴン(ヴァルキリー)が北方へと飛び去った後、レイヤード達はビートル(ヘラクレス)とガブリエルを連れて、ひとまずオクスフォード・クレイドルに帰還した上で、改めて彼等から詳しい話を聞くことにした。
 ガブリエルが予見した未来、それは、確かに彼が神の力を得て、バベルを倒し、人類の敵が消滅した世界であった。だが、神となった彼は、第二のバベルの出現を防ぐために人類の知的活動を制限し、それに対して人類が反発しようとした結果、彼は人間達から一切の自由意思を奪うことを決断せざるを得なくなったという(神となった彼の思考は「神としての価値観」に支配される状態になっていたらしい)。その結果、人類は平和になったが、それはもはや人類ではない、と(今の)ガブリエルは考えていた。それ故に、彼はヴァルハラに計画の中止を訴えたが、ヴァルハラはあくまでも「人類の生存」を第一に考えているため、そのような未来に対して、特に疑問も感じることなく、その申し出を却下したらしい。
 そのため、ガブリエルはヴァルハラの元を離れた。そしてこの時、彼と共にヴァルハラを去った盟友がもう一人いる。それが「失楽園」のコードを持つコーディネイターの科学者であり、ガブリエルは彼に二つの研究を託した。一つは「SAGAに頼らずにバベルを倒す方法」もう一つは「(ヴァルハラの計画が成功してしまった時のために)『神を倒すための人類の叡智』を何らかの形で後世に伝える方法」である。つばめは、その「盟友」が自分の父であることに気付いていたが、立場上、この場でそのことを口にする訳にはいかなかった。
 一方、ビートルは「私は頭が悪いから、何が正しいのか分からない」と前置きした上で、彼女もまた、自分の知っていることを語り始める。まず、タイラント(ネロ)に関しては、実は彼もまた「進化するコード」の持ち主だが(全身の傷は、進化のために何度も自傷による「臨死体験」を繰り返した結果らしい)、SAGAではなく、SAGAの前に立ちだかり、SAGAの力を研磨するための「中立なる神殺し(Neutral God Killer/NGK)」と呼ばれる存在であるらしい。彼のコードが生み出す炎に焼かれた者は、その炎の圧力への反発から、SAGAとしての力を更に強めていく。つまりは自他共に認める「当て馬」としてのコードの持ち主であるという(そして、前述の「失楽園」のコーディネイターもその一人だと彼女は聞かされていたらしい)。
 そして、タイラントの計画によれば、SAGAウィルスの増殖に成功した時点で、彼はヴァルハラの本拠地であるアイスランドを構成している幾多の火山を一斉噴火させることで、その火山灰と共に世界中に散布させるという計画らしい。ディオニソスの杯の奪取失敗により、その計画は一旦頓挫したように見えたが、彼はその杯以外にも増殖方法はあるとも語っていたという(ただし、それが本当かどうかはビートルには分からなかった)。
 現状では二人共、ヴァルハラの方針には疑問を抱きつつも、何をすれば人類にとって望ましい未来が訪れるのかは分からない状態であった。ただ、成り行き上、ヴァルハラ直属のアダマス(チャリオット)を撃退した霧穂達五人のレイヤードに、「彼等であれば、この状況をどうにかしてくれるかもしれない」という期待を、うっすらと抱き始めていたようである。

2、四つ巴の陰謀劇
 そんな話に彼等が耳を傾けているところで、エルマーが持っていた「アインハルトとの通信用端末」から連絡が入った。しかし、その端末を通じてエルマーに語りかけてきたのは、アインハルトではなく、ノイマンであった。どうやら彼女は、前回の間接通信を通じて、このエルマーの端末へのアクセス方法を把握していたらしい。
 ノイマンはエルマーに対して「アインハルトはタイラントと手を結んだ」と告げる。彼女が言うには、ディオニソスの杯と似た効果を持つ「ソーマの樽」をブリゲイドが発見し、それをタイラントに提供する代わりに、ヴァルハラから何らかの技術提供(おそらくは遺伝子改造技術)を受け取るという条件で合意したらしい。ノイマンとしては、エルマー達がそれを止める気があるならば、「最終的にヴァルハラは破壊する(=BKBによるヴァルハラ破壊を邪魔しない)」という条件に合意すれば、彼女のウェントスの力でアイスランドまで連れて行くと宣言する。
 この話を聞いたエルマーは、ひとまず返事を保留した上で、アインハルト本人との通話を試みるが、電波が届かないのか、一切の返事がない。そこで、ブリゲイドのスパイと思しきロザンヌ(アラミス)から情報を聞き出すために、彼女と面識のある霧穂を伴って、彼女が看病していると思しき姉・オルタンス(アトス)の病室へと向かう。
 二人が到着した時には、オルタンスは既に意識を取り戻しており、ロザンヌと共に話に応じる。エルマーが二人にブリゲイドとの関係を問い質すと、彼女達は自分達がブリゲイドの一員であることをあっさりと認めた上で、アインハルトとタイラントの密約についても、遠回しに話を探ろうとしたエルマーの意図を察して、彼女達が知りうる限りの情報を提供することにした。
 ロザンヌ曰く、アインハルトとタイラントが取引をしていることは事実であるらしい。ただし、アインハルトとしては、その取引を成立させた上で、タイラントによる散布計画をエルマー達に止めてもらおうと考えているという(前回の通話の際にエルマーに対してヴァルハラの所在地を伝えたのも、その意図に基づいた上での挑発だったらしい)。その上で、ロザンヌ達はアインハルトから、「エルマー達がこちらの思惑に気付いていようといまいと、彼等をアイスランドに(オクスフォードの船で)来るように誘導しろ」と言われているらしい。
 つまり、現状ではBKBもブリゲイドも、どちらもエルマー達の参戦を願っている。そして、どちらもタイラントの計画を阻止して欲しいと考えている点でも同じであるが、ブリゲイドはヴァルハラの技術を手に入れることを望み、BKBはヴァルハラを破壊しようと考えている。BKB(ノイマン)の力を借りた方が移動は一瞬で済むが、その場合、帰りのルートまで用意してもらえる保証はない(むしろ、ヴァルハラを倒すと同時に「用済み」扱いとなり、殺される恐れもある)。だが、自分達の野望のためにタイラントに危険な物品を渡そうとしているブリゲイドもまた、決して手放しで信用出来る相手ではない。
 ならばいっそ、どちらの力も借りずに、直接ガスコイン(ディズレーリ)に陳情してオクスフォードの船を借りるという選択肢もあるが、それはそれで交渉に時間がかかる可能性がある上に、ガブリエルとビートルという、扱いが面倒な二人の存在をどう説明するか、という問題も発生する(この点に関しては、反社会組織であるブリゲイドの方が、むしろ融通は効く)。ロザンヌ達三姉妹は(表面上は)オクスフォード・レギオン所属であり、本来の予定ではオクスフォードでの特効薬生成完了後はボストンまでサンドラ(ポルトス)がプリンス・オブ・ウェールズで彼等を連れて行く予定だったので、今すぐ迅速に出港することになっても、さほど不自然なくごまかせる。
 こういった状況に鑑みた上で、最終的にエルマー達は、ノイマンではなく、三姉妹(三銃士)と手を組んで、ガブリエルおよびビートルも(三姉妹に事情を説明した上で)プリンス・オブ・ウェールズに乗船させた上で、夜明け前にアイスランドへと強行出港する道を選ぶのであった。

3、氷の壁
 やがて彼等を載せたプリンス・オブ・ウェールズはアイスランド近海にまで到達するが、その島の周囲を取り囲むように、「氷の壁」が広がっていた。その不自然な形状から、どうやらこれは人為的に侵入者対策のために氷結させているらしい、ということが分かる。これを砕いて内側に入り込むには、相当なエネルギーが必要となることは想像に難く無い。しかも、それに加えて、その氷の壁を守るように、無数の「アザラシ型ベクター」と「シロクマ型ベクター」が彼等の前に立ちはだかっていた。
 だが、そんな一触即発の戦場に、北北東の方角から「謎の巨大戦闘兵器」が現れる。それは、日本海の戦いで倒された、あの巨大蟹型ベクターであった。だが、その傍らに飛ぶ二羽の猛禽類の姿を見た彼等は、状況を理解する。

「無事に改造に成功したのです」
「我々は賢いので」

 それは、カケガワ・シェルターの「博士(ライト兄)」と「助手(ライト弟)」であった。どうやら彼等は、つばめの提案通り、巨大蟹型ベクターをレギオン側の兵器として改造することに成功したらしい。そして、生まれ変わったその巨大蟹の背中には、ムサシ、イズミ、ホウライ、および近隣シェルターの面々の姿があった。

「出兵の合意をまとめるの、大変だったんだからね」
「ここは私達が道を切り開きます。つばめ達は下がって」
「海での戦いなら、あたしら水軍に任せな」
「万が一、海に落ちても、私の木綿で拾い上げます」
「あの襲撃戦の時の借りを、今度こそ返させてもらう」

 そう言って、理代子(ナポレオン3世)、かもめ(ニュートン)、藍染(一反木綿)、アンナ(村上水軍)、劉青(関羽)の五人が氷の壁に向かって一斉に攻撃を開始する。その後方では、アスクレピオス、セリーナ(ドリトル先生)、そしてメルレインことハイル(玄奘三蔵法師)の三人が支援部隊として彼等をサポートすることで、見事に氷の壁に「穴」を開けることに成功した。
 その穴を突破しようとする霧穂達に対して、周囲のアザラシ&シロクマ部隊が襲いかかるが、それらを連合救援部隊と蟹型戦闘兵器、そして三姉妹(三銃士)とプリンス・オブ・ウェールズが壁となって庇っている間に、彼等はアイスランド島の内部へと突入する。

4、歌姫大戦
 アイスランド島の内側の構造を熟知したビートルとガブリエルの道案内により、彼等は島の中心部に位置するヴァルハラの本拠地へと向かうが、そんな彼等の耳に、空中からドイツ語の歌声が聞こえてくる。それは空を舞う(レイヴンと同じコードを埋め込まれた)ヴァルハラ直属のヴァルキリー部隊による(ワグナーの歌劇の)「ニーベルングの指輪」の楽曲に乗せた音波攻撃であった。
 だが、それとほぼ同時に、その歌声をかき消すように、別の方向から独特の電子音とそれに合わせた別の歌声が聞こえてくる。それは「仮面」を被ったサーシャ(サキュバス)と哪吒(初期型)の二人の奏でるハーモニーであった。

「通りすがりの正義の味方、参上!」

 一応、サーシャ達としてはブリゲイドとしての立場で参戦する訳にはいかなかったので、このような偽装工作が必要だったらしい(三姉妹は表面上はレギオン所属なので問題ないと判断したようだが、ヴァルハラに見抜かれていないかは不明である)。
 それに対して、ヴァルキリー側は更に歌い手を増員させて押し切ろうとしたところで、今度はレイヤード達が通り抜けてきた後方から、別の二人の歌声が聞こえてくる。その歌声の発信源は、空中に浮かぶ一枚の「絨毯」であった(それはペルシャで彼等が壊した「空飛ぶ絨毯」に非常によく似た形状であった)。

霧穂! 大丈夫か!?」

 その「空飛ぶ絨毯」を操っていたのは、宗兵である。どうやら彼は、麒麟刀に変わる新たなレガリアとしてこの絨毯と出会い、その持ち主として認められたらしい(一応、今回は「人間の意識までは支配しないタイプのレガリア」であるらしい)。

「一応、フィトナさんの許可を得た上での出陣です」
「この二人を連れて行くように言われたのでね」

 エース(カヴール)とタチアナ(ヒョードル)が絨毯の上からそう言うと、その奥にいるパリザード(メフメト2世)とヴィータ(ヴラド公)の姿が彼等の目に入る。コード的には宿敵であるこの二人の歌声が、ヴィータの実兄であるサーシャの歌声に加わったことで更なる強大なハーモニーを作り出し、どうにかヴァルキリーの音波攻撃を跳ね飛ばすことに成功するのであった。

5、黄金劇場の決戦
 その後、彼等はヴァルハラの本拠地である島の中央の居城へと向かうが、その城の前に多くのコーディネイター達が立ち塞がろうとする。それらに対してガブリエルとビートルが応戦している間に、霧穂朔夜つばめ一星エルマーの五人は城の内側へと侵入し、やがて彼等はその中心部に築かれた「黄金の劇場」へと辿り着く。そこで彼等を待っていたのは、アインハルトから受け取ったと思しき「樽」を手にして、ウィルスの培養を進めようとしているタイラントの姿であった。

「随分、成長しましたね。今のあなたなら、SAGAとしての次なる段階、『ジーザス・クライスト』のコードへの進化まで、あと一歩です」

 客席側に現れた霧穂に対して、劇場の壇上に立つタイラントはそう言うが、そんな彼の思惑を止めるために、一星霧穂を自身のセンチネル・ホースの後ろに乗せることで、あくまでも彼女の覚醒を阻止する(彼女にオーバーレイの力を使わせない)ための戦陣を整え、他の三人も迎撃体制に入る。
 すると、壇上と客席を繋ぐ二つの階段の上に二頭の「ローマ時代の剣闘士のコードを埋め込まれたライオン」が出現し、更に彼の後方(空中)には三人のヴァルキリーが現れる。そしてタイラント自身はその左手に巻いていた包帯をほどき、その下に封印されていた「進化したコード」を露わにすると同時に、その身を「堕天使ルシフェル」の姿へと変化させる(下図)。こうして、レイヤード達とタイラントの、最後の戦いの火蓋が切って落とされることになった。
+ 最終進化型タイラント(イラスト)
 最初に口火を切ったのは霧穂である。彼女は一星のセンチネル・ホースの背中から、まず真っ先にタイラントを撃ちたいという気持ちを抑えて、あえて彼の後方に舞うヴァルキリーに向かって全力で聖槍を放ち、見事に三人のうちの一体を撃墜する。これは対空戦闘能力が乏しいこのチームにおいて(唯一の投擲能力を持つ)自分が果たすべき役割を理解した上での判断であり、自分の怨讐よりも全体の勝利を優先する道を選ぶようになったという意味で、彼女の「レイヤード」としての成長を象徴していると言えよう。そしてそれは、彼女が「孤高な神」ではなく、「仲間と共に歩む人間」としての道を選んだことの証明とも言える。
 その直後に、残りの二人のヴァルキリーは霧穂に向かって神槍を放ち、そのうちの一本が一星に直撃する。いつもの一星であれば、大抵の攻撃はあっさりと跳ね返すが、この神槍は身体を傷つけるのではなく、心身の活動を弱める特殊な槍であり(注:一本当たるごとに、ラウンド終了時まで全ての行動において、通常は「6」の判定値が1ずつ下がる)、一星はその身に違和感を感じる。
 そんな彼に向かって二頭のライオンのうちの一頭が襲いかかるが、一星はその状況においても、その獅子の牙を見事に掻い潜りつつ撃退し、それに続いてタイラントが霧穂に向かって放った紅蓮の炎もまた、満身創痍の状態ながらもギリギリのところでかわしきる。この状況から、ヴァルキリーの脅威を改めて実感した霧穂は、空中に残った二体のヴァルキリーの片方にも聖槍を投げつけ、再び撃沈に成功する。
 一方、後方に控える朔夜つばめエルマーの元へはもう一頭のライオンが突進していたが、こちらも三人がかりでどうにか撃破に成功したことで、朔夜は対タイラント戦線へと踏み出し、つばめが残り一体のヴァルキリーに向けてアルケオンを放ち、エルマーは彼等を戦術的に後方から支援する。
 そして、(自分以外で唯一対空戦能力を持つ)つばめの前線到着によって、ようやくヴァルキリー対策から解放された霧穂は、遂にタイラントに向けてその聖槍を突きつけるが、彼女の攻撃を以ってしても、まだタイラントは倒れない。だが、それに続く朔夜一星の(オーバーレイで生き残る道をも捨てた)全力のアルケオン・バーストの連撃により、遂にタイラントの身体はその生命体としての限界点を突破し、自らの内なる炎で、その身を焼失させていく……。
 ここに、長きに渡るレイヤード達とタイラントの戦いは、ようやくその幕を下ろすことになるのであった。

6、崩落と散開
 黄金劇場での決着を経て、彼等はヴァルハラの潜む城の深部へと向かおうとするが、その前に突如、城が崩落を始めた。ひとまず外に脱出した彼等は、自分達とは別の方角から、手傷を負ったアインハルトが飛び出してくるのを発見する。

「どうやら、皆さんの方は無事にタイラントを倒してくれたようですね。こちらはあと一歩だったんですが、全てのデータを書き写す前に、ノイマンとレオニダスに乱入されて、ヴァルハラを壊されてしまいました」

 いけしゃあしゃあとそう語る彼であったが、どうやらその言葉に間違いはないらしい。彼は、人類の叡智を超高速で記録&記憶する「弘法大師」の能力の持ち主なのだが(分類上、彼が「SAGA」に含まれるのかどうかは不明)、その能力でヴァルハラの持つ遺伝子操作に関する知識を手に入れようとしたものの、BKBによって阻まれてしまったようである(ノイマン達の姿は見えなかったが、おそらくウェントス能力で瞬時にどこかへ脱出したと思われる)。
 やがて、同胞であるサーシャ、哪吒(初期型)、三銃士と合流した彼は「書き写しきれなかった分は自力で解析して、この技術を完成させる」と言って、島から去って行く。エルマー達は、彼等が第二のヴァルハラとなりうる危険な存在であることは認知しながらも、今後の対BKB戦に向けて、あえてここで人間同士で彼等と争う必要もないと考え、そのまま彼等を見送った。
 一方、そんな彼等のやり取りを空中から見ていたレイヴンは「生き残ったSAGA達がいずれ神となるまでの道を、今後も見届け続ける」と言い残して、何処かへと飛び去って行く。彼女の他にも、この島を守っていたコーディネイター達の中に何人か生き残った者達はいたようだが、彼等もまたいつの間にか姿を消していた。
 そして、ひとまず目的を達成したレイヤード達は、オクスフォード・レギオンに通信でここに至るまでの顛末を報告した上で、念のため残る五都市(ボストン、グリームレイク、ヨハネスブルク、パース、ノア)にもディオニソスの杯を用いて培養した特効薬を届けてもらうように依頼しつつ、それぞれの故郷へと(蟹と絨毯で)帰還することになる。そんな中、「帰る場所」のなくなってしまったガブリエルとビートルは、ひとまず霧穂達と共にムサシへと同行することになるのであった(なお、戦後の混乱状況ということもあり、ガブリエルとその「娘」が、互いに相手のことを認識出来ていたかどうかは定かではない)。

7、Last Epilogue
 無事にムサシに帰還した五人(&かもめ&理代子)から「PPAPの実質的な完了報告」を受けたラウラは、素直に彼等を労う。その上で、ガブリエルの扱いに関しては、ラウラとしてもどうすべきか判断に迷っていたが、彼の帰還を知ってムサシへと訪れたシマバラ・シェルターの七美太夫(清姫)が自ら「保護監視役」を強硬に申し出て、彼女の元に預けられることになった(やがて彼女は、ムサシ近辺に新たに「ヨシワラ・シェルター」を建設し、「太夫」から「花魁」へと転身することになるのだが、それはまた別の物語である)。
 また、もう一人の「要監視人物」であるビートルの保護監視役については、(ビートル自身の強い希望もあり)なし崩し的に朔夜が担当することになった。エンジニアとしての自分に限界を感じ始めていた彼は、今回の旅を経て本格的にレイヤードとしての道を歩む覚悟を定めつつも、まだ自分自身の将来像に関しては不安定なイメージしか抱けないまま、ビートルを連れて連日中華街へと足を運ぶ日々を送ることになる。なお、いつの間にかビートルの髪型がツインテールから「低めの後ろ結び」に変わっていたのだが、これが果たして彼の趣味であったのかどうかについては、後世の歴史学者の間でも見解が分かれているという。
 一方、つばめの元にはメルレインから「ホウライに来て、仕事を手伝ってほしい」という手紙が届く。それが「いずれ自分がペルシャに戻る時の後釜」としてなのか、「いずれ自分と一緒にペルシャに来てもらう相手」としてなのかは不明であるが、断る理由もないと判断したつばめは、素直にその申し出を受ける。そんな彼女に対してかもめは(自分が父の正体に気付いていたことを告白した上で)つばめのオッドアイの中に、父のコードの断片である「人類に叡智を与える存在」としての「フラグメント」を発見する能力が組み込まれていることを告げる。彼女のその能力を巡って、新天地で彼女がどのような戦いに巻き込まれていくことになるのか、まだこの時点で知る者は誰もいない。
 一星は、再び悠々自適な「運び屋」稼業に戻り、「お得意さん」であるセタガヤ・ヘイヴンのマリーナ(マンティコア)からの依頼を請け負いながら、自分と同じ「死に場所」を探していた筈のガブリエルが新たな「居場所」に落ち着きつつあることに妙な感慨を抱きつつ、相方コンボイと共にムサシ近辺の荒野を駆け巡る。ここまでの戦いを通じて、レイヤードとしての超一線級の戦闘能力を実証した彼は、やがて待ち受けるBKBとの決戦において「ムサシ・レギオンのエース」としての役割を担うことになるのであるが、それはまだもう少し先の話である。
 そんな彼とは対照的に、エルマーは評議員としての任務に戻り、自分の不在時にたまった仕事の処理に忙殺される日々を送ることになる(理代子曰く「あんたの居場所を無くさないために、手をつけずに残しておいてあげた」とのことである)。PPAPの実質的な現場責任者として多大な功績を上げた彼は、数年後には評議長であるラウラと、レギオン・リーダーである了護の双方から「後継者候補」に指名されるという、重要な選択を迫られることになるのであるが、目の前の業務で手一杯の状態の今の彼が、そのような上役達の思惑に気付く筈もなかった。
 そして、ようやく宿願を果たした霧穂が、ムサシの住宅街の一角でナゴヤの方角を見ながら物思いに耽っていると、そこに「空飛ぶ絨毯」に乗った宗兵が現れる。これから先は、霧穂の近くで彼女を支える道を歩みたい、ということを伝えに来た彼であったが、その胸の内を明かす前に、突如(自身のライブチケットを渡すために)乱入してきたサーシャに弾き飛ばされ、その時の衝で床に落ちてしまった自身のペンダントからホログラム装置が起動する。そこに映し出されたのは、子供の頃(ナゴヤ・ヘイヴンが健在だった頃)の霧穂の立体映像であった。
 羞恥と困惑と蔑視の感情が入り混じった三人の間で微妙な空気が広がる中、インターホンが響き渡る。そこに現れたのはエルマーであった。彼は霧穂を正式にムサシ・レギオンの一員として招き入れたいという旨を伝えると、彼女は快くその方針を受け入れ、そしてどさくさ紛れに宗兵もまた「レガリアの宿主」としての加入を希望する。一方、そのドタバタの最中に、いつの間にかサーシャはチケットだけを残してその場から消え去っていた。霧穂を巡るこの奇妙な三角関係(?)に関しては(当人に全くその気がない以上)まだ当分の間は何の進展も見込めない状態であった。
 こうして、伝説の英雄達の力を引き継いだ五人のレイヤード達の物語は、ひとまずの終幕を迎える。だが、これは彼等一人一人の叙事詩(サーガ)の始まりにすぎない。そして、やがて彼等の叙事詩は伝説となり、数百年後の世界においては、彼等自身の伝説が生み出した力(コード)を受け継ぐ者達が、また新たな伝説を紡ぎ出していく。これは、そんな「時を超えて受け継がれる英雄達の伝説の連鎖」の中の、ほんの僅かな一節の記録である。

(英雄武装RPG「コード:レイヤード」2017年度前期キャンペーン『PPAP』・完)


NPC紹介(概ね登場順/公式NPCは除く)
+ 蒼羽 かもめ
+ 長谷川 理代子
+ タイラント
+ ビートル
+ 特製トラバース(コンボイ)
+ マジカル・サーシャ
+ カケガワ・シェルターの皆さん
+ 藍染 克也
+ 七美太夫
+ 月島 剣六
+ 明石 アンナ
+ 戦艦ビスマルク
+ 小笠原 美紀
+ アスクレピオス
+ 曹 春蘭&曹 秋蘭
+ 劉 青
+ 安 武人(子安)
+ セリーナ 林
+ 哪吒(最新型)
+ 哪吒(初期型)
+ メルレイン(ハイル)
+ パリザード
+ レイラ
+ フィトナ
+ エース・新垣
+ レオニダス1世
+ ジョン・フォン・ノイマン
+ 浅井宗兵(with 麒麟刀)
+ タチアナ・パヴリチェンコ
+ ヴィクトリア(ヴィータ)
+ セイレーン(with スキュラ)
+ 東堂・ヤクモ・ブリジット
+ オルタンス/サンドラ/ロザンヌ
+ レイヴン
+ ガスコイン・チェンバレン
+ エリック・スタンフォード
+ 石森達行
+ ガブリエル
+ タイラント(進化後)

+ 初期構想、レギュレーション、etc.
基本コンセプト
 世界中のクレイドルに、危険な「病原菌」を散布しようとする計画の存在が明らかになった。その目的は不明だが、首謀者は、数年前にナゴヤ・ヘイヴン(仮)を滅ぼしたバイオテロリストらしい。ムサシ・クレイドルのPC達はそれを防ぐため、世界中の11ヶ所のクレイドルを回って、「特効薬」を頒布することを命じられる。

基礎用語
 ・クレイドル:世界各地に作られた巨大要塞都市(人口は20万人程度)
 ・ヘイヴン:中規模の居住地(数万人程度)

個別ハンドアウト案のようなもの

PC① 犯人の顔を知る者
 かつて謎のバイオテロリストによって滅ぼされたナゴヤ・ヘイヴン(仮)の生き残り。
PC② 特異体質者
 病原菌への特効薬を作るために必要な特殊な「抗体」を作り出せる特異体質の持ち主。
PC③ 医者 or 技術者
 各クレイドルに内在する「特効薬を作るための医療装置」を起動するための知識の持ち主。
PC④ 運び屋
 PC達を世界各地のクレイドルへと運ぶための「大型ヴィークル(乗り物)」の操縦者。
PC⑤ 指揮官 or 外交官
 訪問先のクレイドルでの協力交渉を担当するムサシ・クレイドルの政務関係者 or その子息。

上記はあくまでも「PC作成の目安」であり、一人で複数の役割を兼任しても良い。
シナリオに参加する誘引を自力で作り出せるなら、上記を無視してPCを作成しても問題ない。
②や③に該当するPCがいなかった場合は、該当するNPCをGMが作成して同行させる。
バイオテロリストなどの細かい設定に関しては、PC①の設定に対応する形でGMが考える。
①以外のPCに関しても、コードに対応する形での因縁NPCなどを登場させる可能性はある。

レギュレーション
 ・『基本ルールブック』『上級ルールブック』『SSS』『ロール&ロール』、全て使用可。
 ・追加データが発表された場合のリビルドに関しては、応相談。
 ・コードの名前変更は自由だが、自作コード(ジェネレイト・ルール)の使用は禁止。
 ・キャンペーン外で各プレイヤーが獲得した経験点の使用は原則禁止。
 ・PCが途中で死亡した場合は、同等レベルのPCを作って次のセッションから参加。
 ・死亡以外の理由でも、物語の展開上、離脱した方が良いと判断した場合はPC交替も可能。
 ・プレイヤーの交替、離脱、途中参加などに関しては、応相談。

PC作成の手順(どの順番で決定するかは自由)

1、コードデータを選ぶ(百種類以上の中から一つ選択)
  ☆以下の諸要素が自動的に決定
   ・能力値(体力・敏捷・感覚・知力・意志・幸運)
   ・副能力値(生命力・精神力・行動値)の約半分
   ・技能(格闘、重武器、頑健、軽武器、etc.)の一部
   ・自動取得特技(1LV×1)

2、スタイルクラスを選ぶ(以下の三種類の中から一つ選択)
  ・ブレイカー:対単体の攻撃力が強い
  ・チェッカー:対複数体への攻撃、バッドステータス付与、味方のカバーアップなどが得意
  ・サポーター:達成値上昇、ダメージ軽減、HP回復などが得意
  ☆以下の諸要素が自動的に決定
   ・副能力値(生命力・精神力・行動値)の約半分
   ・「種別:自動」の特技(一つ)

3、レイヤークラスを選ぶ(以下の八種類の中から一つ選択)
  ・アームズ:英雄の武器を装備した人間
  ・ヴェール:英雄の鎧を装備した人間
  ・センチネル:英雄を「実体」として具現化させて従わせる人間
  ・マージ:英雄の魂を自身に憑依&一体化させる人間
  ・シャドウ:英雄を「霊的な何か」として召喚する人間
  ・リベレイター:英雄を元に作られたアンドロイド(敵組織からの裏切り者)
  ・レガリア:英雄の持っていた道具(そのもの)
  ・インテレクト:英雄のコードを埋め込まれた動物
  ☆以下の諸要素が自動的に決定
   ・「種別:自動」の特技(一つ)

4、「技能」を追加で選択
  ☆好きな「技能」を3レベル分上昇させる(各技能レベルの初期上限は2)

5、「特技」を追加で選択
  ☆「コードデータの自動取得特技」「スタイル特技」「レイヤー特技」から、3レベル分習得
   (各特技レベルの初期上限は2)

6、「装備」を決定
  ☆「500nc」を使って購入(余剰分は持ちこせずに消滅、行動値は「1」以上必要)

7、「ライフパス」を決定(該当表を用いてROCで決定)
  ☆「出自」「経緯」「動機」「邂逅」「コードフォルダの形態」「コードへの感情」を決定
   →「汎用特技」「得意分野」「目的」「コネクション」が自動的に決定

8、その他のパーソナルデータを決定
  ☆「名前」「コードネーム」「外見」などを決定

 各プレイヤーは、PCの方向性がまとまり次第、下記のコメント欄に「コードデータ」「スタイルクラス」「レイヤークラス」「ライフパス」「パーソナルデータ」などを記入して下さい。特技や技能に関しては、次回の時点で調整するので、ひとまず「今のところ、これを取る予定」といった暫定案を書いてもらえれば幸いです。

 とりあえず、記入例を以下に載せておきました(現状、唯一コードが判明しているPC⑤と因縁のあるNPCとして作ってみました)。こんなカンジで、重要項目を下記のコメント欄にペーストしてもらえれば結構です(本文への編入は私がやります)。未定の項目については「未定」で構いません。書いてくれたPC設定に応じて初回のシナリオを考えたいので、決まっている項目だけでも、早めに書き込んでもらえると助かります。

長谷川理代子(19歳 女性)
  • コード:ナポレオン3世(名もなき王)
  • スタイル:サポーター
  • レイヤー:マージ
  • 出自:富裕層
  • 経験:法の守り手
  • 動機:憧れ
  • 邂逅:ライバル(PC⑤)
  • コードフォルダの携帯:アクセサリ
  • コードへの感情:反面教師
 ムサシ・クレイドル運営議会の最年少(?)議員。本人は「ナポレオンのレイヤード」だと言い張っているが、正確には彼女のコードは「ナポレオン3世(ルイ・ナポレオン)」であり、そのことを指摘されると怒る。ビスマルクのコードを継承するPC⑤のことを一方的にライバル視している。


  • 朏    霧穂 (みかづき きりほ)(17歳 女性) ・コード :コンスタンティヌスⅠ世(カルナ) ・スタイル:チェッカー ・レイヤー:アームズ ・出自  :生存者 ・経験  :捜索 ・動機  :復讐 ・邂逅  :苦手な人(対象は未定) ・コードフォルダの形態:アクセサリ ・コードへの感情:劣等感 身長:161cm 体重50kg 髪の色:黒 瞳の色:琥珀色 肌の色:日本人の平均的な色 生年月日:12/12 特技:ファイナライズ     :1    タイプ;アームズ    :1 (「呪いの魔槍」を獲得)    必滅の聖槍(必滅の神槍):1    投擲体制        :1    撃滅の飛刃       :1    セットウォーク     :1 技能 重武器:2 騎操:1 探知:1 自我:1 ナゴヤ・ヘイヴンの生き残り。コードはコンスタンティヌスⅠ世の 戦場で聖槍を持ち指揮したと言われる逸話がコード化したもの。 -- Shin (2017-04-23 15:22:39)
  • ありがとうございます。とりあえず、PC①の欄の下に編集して載せておきました。 -- Y武 (2017-04-23 18:18:45)
  • 蒼羽(あおば)つばめ 18歳女/コード:ヒュドラ/スタイル:チェッカー/レイヤー:シャドウ/出自:病弱/経験:犠牲者/動機:事故/邂逅:家族/コード形態:アクセサリ(義眼)/コードへの感情:親しみ/かつて入院中にベクターの襲撃にあいレイヤーになったネガティヴ系女医。姉に蒼羽かもめがいる。 -- ロラン(PC3) (2017-04-25 01:26:20)
  • 続き)158㎝45㎏ 黒髪蒼眼病的な色白肌/技能:頑健1射撃2機械操作1/特技:邪竜の劇毒 ファイナライズ タイプ:シャドウ キルチャンス ダブルトラップ シャドウウェポン 各1/武器:四式大弓/防具:ネヴァーローズ/アクセサリ:コンバットブーツ/その他:メディジェクト×1 通信端末×1 書籍×3 飲料水×3 ヴェルフェッド×3 キャリングケース×1 計500nc -- ロラン(PC3) (2017-04-25 01:33:46)
  • ありがとうございます。いいカンジにシナリオのネタがまとまってきました。ちなみに、姉もレイヤードという設定ですか? -- Y武 (2017-04-25 14:06:35)
  • ですね、姉は科学者系のレイヤードで天才肌、つばめはそれに一方的に劣等感を…って感じです -- ロラン (2017-04-25 14:35:03)
  • なるほど。姉のコードとかも決まってたりします? 他にも設定などが決まっていたら、可能な限り反映するので、教えて下さい。 -- Y武 (2017-04-25 16:29:49)
  • かもめの方はデータには無いですがイメージとしてはニュートンですかね…非合理と不条理を嫌う徹底した実力主義者で時に周囲から疎まれる、という感じで。あとつばめの特技にライフパスの「医術の心得」忘れてたので追加お願いします… -- ロラン (2017-04-25 21:00:05)
  • 花山 朔夜(はなやま さくや) 19歳男 コード:ケルベロス スタイル:ブレイカー レイヤー:センチネル 出自:レイヤード 経験:技術者 動機:被験者 邂逅:未定 コードフォルダの形態:時計 コードへの感情:親しみ 身長:169cm 体重:61kg 髪の色:茶 瞳の色:黒 肌の色:普通 技能値と特技、装備については戦闘システムで分からない事が多いので、それを聞いてから決めます。 -- pc2 (2017-04-26 20:47:51)
  • ③の修正および②の情報を更新しました。てか、ヒュドラとケルベロスって兄弟なんですよね。これはまた色々とシナリオのネタが降ってきそうで楽しみです。 -- Y武 (2017-04-26 21:07:12)
  • 東 一星(あずま いっせい)24歳 男 コード:チャリオット(トーキョーN◎VA) スタイル:チェッカー レイヤー:センチネル 出自:戦場生まれ 経験:闘いの日々 動機:闘争 邂逅:ビジネス(沢渡シン) コードフォルダの形態:カード(ニューロデッキⅦカゼ) コードへの感情:助力 199cm 93kg 黒目黒髪 肌色の肌 2092/7/7生まれ -- BWG (2017-04-26 22:16:06)
  • 特技 ”沈黙の運び屋”(サバルの鋼鉄騎兵)1 ファイナライズ1 タイプ:センチネル1 カットイン1 観測手1 チャージオーダー1 強靭な肉体1 技能 頑健1 騎操2 天運1 人運1 装備 センチネル:ホース スニーキングクロス メディカルコート ライダーグローブ トラバース マインドリーバー -- BWG (2017-04-26 22:22:41)
  • 戦場で生まれ、育ち、それ以外の生き方を知らずに生きてきた。レイヤードになったのもその方が戦いが楽になるから、というだけだった。 -- BWG (2017-04-26 22:29:43)
  • それが変わったのはコードと深く同調し、その記憶を見てから。空を奪われ、地に墜とされた男の記憶、死に場所を失った英雄の悲嘆。それは彼に初めて生きる目標を芽生えさせた。 -- BWG (2017-04-26 22:35:33)
  • 「英雄に相応しき終焉を」死に場所を求めて今日も彼は戦場を駆ける。 -- BWG (2017-04-26 22:37:35)
  • 戦闘データ的にはちょっと硬くて庇えて殴れる程度の性能。今は。という感じのPC4でした。 -- BWG (2017-04-26 22:39:46)
  •  えーっと……、要はN◎VAのアルカナとしての「カゼ」、ってことだよね? N◎VAのアルカナって、ブレカナの使徒みたいに、世界観的にモデルになった人物とかいるの? それとも、N◎VAにおけるカゼのスタイルを持つキャラクターの誰か、ということ? -- Y武 (2017-04-26 23:09:00)
  • 後者の解釈が正しいです。トーキョーN◎VA2nd時代のパーソナリティー”沈黙の運び屋”チャリオットのコードです。 -- BWG (2017-04-26 23:25:55)
  • 解りづらいキャラで申し訳ありません。基本的には寡黙で凄腕な運び屋のコードと認識してください。 -- BWG (2017-04-26 23:31:50)
  •  あー、なるほど、そういうコードネームの公式NPCがいるのね。了解です。まぁ、フィクションのキャラでもコードに出来るので、問題はないわな。 -- Y武 (2017-04-26 23:35:31)
  • 特技の下二つは絶対命令とパリィスタンスでした。 -- BWG (2017-07-22 19:20:46)
  • 了解です。追加修正しておきました。ありがとうございます。 -- Y武 (2017-07-22 19:27:05)
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最終更新:2017年07月22日 19:27