前提として、スイスやオランダで現在施行されている条件と同等の条件で合法化するとする
(→
諸外国の安楽死について)
オランダで安楽死を認める要件
- 自由意思に基づき十分に考慮された意思である
- 耐え難く、解放される見込みのない苦痛がある
- 患者が状況を正しく理解できている
- 合理的な治療法が他にない
安楽死賛成派の主張
- 死の選択は権利である。誰にも権利を侵すことはできない。
- 家族に迷惑をかけたくない。
- きれいなまま死にたい(惨めな姿になってまで生き続けたくない)
- 病気が良くなる見込みがない場合生き続けるほうが辛い。
- 生きていれば良い事があるというのは健常者の意見。生きること自体が辛い人がいることをわかって欲しい。
安楽死反対派の主張
- 人によって判断が異なる恐れがある
- 本来なら治るはずの病気も医療者の共感や本人の強い意思によって死を選んでしまう恐れがある
- 洗脳や強要に近い手段により「患者の自由意思」を必ずしも保証できない
- 家族間で死ぬことを強要するモラルハザードが起こる
- 一度安楽死を認めてしまうと安楽死の基準のハードル低下に歯止めが効かなくなる(滑りやすい坂論法)
よくある反対派意見や疑問への回答
Q. 安楽死制度があるとがんになった時点で死ななきゃいけなくなるのか
A. 死ぬ権利があるというだけで、死にたくなければ死ぬ必要はない。
Q. 現状辛い病気で安楽死を望んでいたとしても、いつか治療法ができるかもしれないではないか
A. 現時点で辛い状況なのにいつかいつかと時間を延ばす方が拷問に近いという人もいる。また、望まないのであれば死ぬ必要はない。
Q. うつで死にたくなるだけで安楽死ができたら安楽死希望者が急増する
A. (諸外国の基準を適用するなら)条件は厳しく病気が治る見込みがあれば安楽死は認められない。鬱による希死念慮などは該当しない。
Q. いじめで死にたいなどでも安楽死を適用できるのか
A. (諸外国の基準を適用するなら)条件は厳しく病気が治る見込みがあれば安楽死は認められない。いじめによる希死念慮などは該当しない。
Q. 「治る見込みがない」判断基準が曖昧。1人の医師が命の決定権握るといっても過言ではない
A. オランダでは主治医の他に特別な専門医の承諾も必要となる。必ずしも一人の医師に判断を委ねるわけではない。また、何よりも患者の意思が尊重される。1人の医師が生殺与奪の権利を持つわけではない。
安楽死に関する哲学的問い(仮)
ピーター・シンガーは、
①古典的功利主義、②選好功利主義、③権利論、④自律の尊重
の4つの理論のいずれにおいても安楽死が倫理的に擁護されると主張している。
1)古典功利主義:快の総量を増やし、苦痛の総量を減らす立場から、苦しむ患者の安楽死が正当化される。
2)選好功利主義:人々の選好の最大限の充足を目指す立場から、他の事情が等しければ安楽死の希望を叶えることが正当化される。
3)権利論:人には生きる権利があるので、その権利を放棄する安楽死の行為も正当化される。
4)自律の尊重:自律的な意思決定が尊重される立場から理性的行為者の安楽死の選択は正当化される。
自由意志のない存在、つまり新生児の場合であれば権利論や自律の尊重は適用されない。
シンガーは次のような問いを投げかけている。
意識のない新生児が重篤な障害を負っていた場合、その新生児を死なせてあげることは是か非か。
この問いに対してシンガーは功利主義の立場から安楽死擁護論を展開している
誰もがそれ以上生きることを望めなくなるような恐るべき肉体的苦痛があり、快や喜びを一切感じることができないような状態にある人を無理に生き続けさせることの意義は捉えがたく、その意味において、極端に悲惨な場合においては新生児を死なせることが容認されるかもしれないと主張。しかし、一般的に健常者は障害者の生活を実際よりも悲惨なものにみなす傾向があり、障害新生児の大部分の生は健常新生児の生とそれほど大きな差はないので、この議論はあまり多くの事例に当てはまらないものと主張。
賛成派反対派をわける思考実験
自由意志と精神疾患について
- 病前までは消極的安楽死を希望していた認知症患者が、認知症の症状が進むにつれ拒否するようになった。この場合消極的安楽死は行わないべきか?
- 逆に病前までは消極的安楽死を拒否していた認知症患者が、認知症の症状が進むにつれ希望するようになった。この場合消極的安楽死は行うべきか?
- 解離性人格障害(多重人格)の患者の主人格が積極的安楽死を希望する場合、それを許すべきか?
- 強い希死念慮を持つ鬱病患者が積極的安楽死を希望する場合、それを許すべきか?
本人の意志が不明な場合
- まだ意識のない新生児が重篤な障害を負っていた場合、その新生児を死なせてあげることは善か悪か?
- 瀕死で苦しそうにしているペットを手にかけることは善か悪か?
- 瀕死で苦しそうにしている植物状態の人間を手にかけることは善か悪か?
本人の意思の尊重について
- 家族全員が安楽死を拒否しているが、患者本人が安楽死を希望する場合、それを許すべきか?(消極的安楽死と積極的安楽死どちらのケースも)
「耐え難い苦しみ」の個人差について
- 事故で両腕を失った患者がもう腕が戻ることはないので死にたいと積極的安楽死を希望する場合、それを許すべきか? ただし、その患者は絵を描くことを趣味であり仕事にしていて、それができない今生きる希望が無いと言う。
制度設計について
- 積極的安楽死を依頼するにあたって金銭の授受は妥当か?医師や実行団体はボランティアで安楽死をするべきか?
- 自らの手で安楽死ができる装置がある時、その装置を売ることは許されるか?
最終更新:2022年12月26日 20:47