ヴァン神族(古ノルド語:Vanir)
  • 北欧神話に登場する一群の神々。豊穣と平和をつかさどる。ニヨルド、フレイ?フレイヤ?が所属していた神族である。
  • 神話では美麗な巨人族としてしばしば巨人族と混同される。
  • 彼らの住む国はヴァナヘイムといわれている。

  • 所属する主な神
    • その住人としては、ヴァン神族とアース神族の抗争終了後に人質としてアースガルズに送り出されたニヨルド、フレイ、フレイヤ父子がまず挙げられる。
    • また、。『古エッダ』の『巫女の予言』においてこの抗争の原因を作ったとされる女性グルヴェイグは、おそらくヴァン神族であるが、彼女はフレイヤと同一人物とも考えられている。
    • アース神族側から人質として送られた二人のうち、ヘーニルについてはそのままヴァナヘイムに留まっているとも思われるが、はっきりしていない。
    • 『ユングリング家のサガ』の記述によると、アース神族が送ってきたもう一人の人質ミーミルが大変賢い人物であったことから、さらにヴァン神族の賢い神クヴァシルを先方に送り出している。この文献ではクヴァシルはヴァン神族の一員だったということになる。

  • アース神族との関係
    • 彼らがアース神族のもとへグルヴェイグ(名前の意味は「黄金の力」)という女を送り込んだことが、二つの神族の抗争の原因となったといわれている。『巫女の予言』には、彼女の使う魔法「セイズ」が悪い女達を悦ばせたこと、アース神族が彼女を槍で突いたり火で焼いたりしても三度甦ったこと、主神オーディンが槍を投げたことで始まった戦いが世界最初の戦争であったとことが書かれている。
    • 『スノッリのエッダ』第二部『詩語法』では、アース神族との抗争が終わり和解するときに、その記念として、両神族全員が一つの器に唾液を吐き入れた。その和平の証を消滅させないために、唾液に人間の形を与え、クヴァシルという非常に賢い人物を作り出した。クヴァシルが答えられない質問は皆無であったと語られている。
    • また『ユングリング家のサガ』によると、前述のニヨルドらを人質に出すが、交換でアース神族が送ってきた人質のヘーニルが期待したような人物でなかったため不満を感じ、人質のもう一人、ミーミルの頭を切り落としてアース神族の国へ送り返した。オーディンは、首が腐らないように薬草をつけて保存し、ミーミルが話せるようになるまで呪を唱えて、「ミーミルの首」を生成した。
    • アース神族についてはラグナロクでの運命が語られるが、ヴァン神族については、ニヨルドが彼らの元へ帰るという記述が『古エッダ』の『ヴァフスルードニルの歌』にみられるものの、他の神々がどのような運命をたどったかは不明である。
    • 同じ神でありながらアース神族とは名詞の言い方も異なる。『古エッダ』の『アルヴィースの歌』で、次のような名詞の差異が紹介されている
大地 
アース「フォルド(原)」、ヴァン「ヴェグ(道)」 
天 
アース「フリュールニル(星のまきちらされたるもの)」、ヴァン「ヴィンド オヴニル(風を織るもの)」 
海 
アース「シーレーギャ(あまねくみなぎる潮)」、ヴァン「ヴァーグ(波立つ潮)」 
火 
アース「フニ(焔)」、ヴァン「ヴァグ(ゆらめくもの)」 
森 
アース「ヴァラルファクス(原野の鬣)」、ヴァン「ヴェンド(藪)」 

  • 妖精との関係
    • エッダ詩はおそらくヴァン神族を妖精と同一視している。『古エッダ』の『スキールニルの歌』、『ロキの口論』、『グリームニルの歌』などに「アース神族と妖精」という表現があるが、これは「アース神族とヴァン神族」に置換できる表現であり、実際は「すべての神」を意味している。
    • ヴァン神族も妖精も豊穣の力を備えていることもあり、この互換性はヴァン神族と妖精が実は同じ存在である可能性を示唆する。
    • ヴァン神族が多くの信仰を集めた豊穣神群であったのに対し、妖精は個人の守り神的な豊穣神であった。名前の違いは地位の違いを反映したということでもあるかもしれない。
    • 妖精とヴァン神族が同一だとすれば、フレイがヴァン神ながらアルフヘイムの妖精を支配するとされているのは自然なことである。


最終更新:2007年07月24日 19:39