窓の外から聞こえる小鳥の声で、メイリンは目を覚ました。
「ん、ん~」
薄い夜着一枚の肩を抱いて身を震わせ、そこでようやくベッドの隣でみっともない寝息を立てている男に気付く。
街で引っ掛けた名前も知らない行きずりの男。昨夜はあんなに逞しく思えた肉体が、朝の光の下ではひどく薄汚かった。
突発的に怒りが沸き上がり、メイリンは男を叩き起こした。寝ぼけ眼での抗議を無視し、家人を呼んでつまみ出す。
出されたコーヒーのカップを両手で握り、メイリンは溜め息をついた。
なんで、こんな事になったんだろう――
姉を殺し、両親を捨て、夫であるはずのアスランは心も体も遥かに遠い。
その時、部屋の隅の電話が鳴った。治安局の部下からだった。レジスタンスの拠点についての密告があったらしい。
すぐに向かうと告げ、メイリンは立ち上がる。その物腰は一変していた。
シャワーで眠気の残滓を洗い流すと、クローゼットから治安局強制執行部の黒づくめの制服を取り出し、手早く身に付ける。
(私にはもう、これしかないんだから)
レジスタンスと聞いて脳裏をよぎった黒髪赤瞳の青年の面影を、頭を振って追い払う。
部屋を出る前、姿見に視線を向ける。そこに映されていたのは心を化粧と制服で覆い隠した、『魔女』の姿だった。