~エスセティア大陸・ワーグノスの地~
何とか逃げることができたわね。
それにしても、力の差があるとは思ってたけど…。
ユ「まさか、ここまでとは…。」
魔力を使いすぎたためか、少し目眩がする。
何とかしてこの事をブルー達に伝えないと…。
その時、近くで物音がした。
今の私では戦うことはおろか、逃げることすらできない。
私は死を覚悟したが、どうやら敵では無かったようだ。
ヒ「誰かと思ったら、ユグドラじゃないか。」
アト「ずいぶんと傷だらけね。誰にやられたの?」
ブ「…まあ、お前をここまでできるやつは限られてるがな。
遠くからこちらの様子を伺っているな。
俺が時間を稼ごう。
アトラクナクアはユグドラを安全な所へ連れて行け。
ヒロはその護衛を頼む。」
ヒ「大丈夫なのか?」
ユ「今のあの子は……強いわよ?
私が一撃も当てられないほどにね……。」
一瞬ブルーの顔が引き攣った様に見えたが、すぐに笑った。
ブ「それじゃ精々足掻くとするかね。」
アト「行くわよヒロ!」
ヒ「おう。」
シディット水域で始まった戦闘は、最初こそ拮抗していたが、今はこちらが優勢だ。
序盤に敵の主戦力であるマーキスオークの集団を倒せた事が大きいね。
ウ「歩兵はそのまま突撃し、弓兵は前線の兵士を援護せよ!我が国の弓術、見せてやれ!」
傭兵将軍ウィンビーンの巧みな指揮の下、私達は着実に前進していた。
気がつけば、遠目に魔物達の本陣と思しきキープが見えた。
べ「このまま行けば、あまり被害を出さずに勝利できそうですね。」
沙「…うん。」
ベルが嬉しそうに話すのを私は軽い返事で返した。
よく分からないけど、何か胸騒ぎがする。
ふと敵キープに目をやると、人影が見えた。
味方の兵士かと思ったら、スモーキーさんだった。
しかし違和感を感じた。
スモーキーさんなら目に見えない位置からでも殺気を感じるはずだ。
沙「どうやら私達相手には訓練人形で十分と思ってるみたいだね。」
べ「しかし人形と言っても、教官のデータを基にした人形ならかなりの脅威ですよ。」
確かにスモーキーさんのデータを基にした人形は脅威だ。
その証拠に、人形とはいえ1体だけでこちらの勢いを止めている。
あれは最近作られたものじゃないね。
顔が少し汚れていて、防具もほんの少し錆びていた。
そして首の後ろに数字が見えた。
番号は……零。
零番と言えば、9年前のスモーキーさんのデータのはずだ。
それなのに、1体だけで押してくるなんて…。
6年前に戦ったときは、まったく歯が立たなかったのを覚えている。
今のスモーキーさんは、あの人形とは比べ物にならない強さなんだろうね…。
今の自分で勝てるだろうか?
エフリシアの力を使える今なら、あの人形を倒せるのでは?
何故だか無性にあの人形と闘いたくなった。
べ「まさか沙羅さん、あの人形と闘うつもりでは?」
沙「…ばれた?」
私が笑顔で返事をすると、ベルが勢いよく近づいてきた。
べ「駄目です!6年前に一度戦って、あの人形がどれ程強いのか解っているはずです!」
強く言い寄ってくるベルに対し、佐紀が反論した。
佐「…6年前の事は解らないけど、今のお姉ちゃんならあの人形に勝てるよ!」
意外な事に、佐紀は今の私ならあの人形に勝てると言ってきた。
べ「何故そう言えるの?」
佐「あの人形から感じる殺気より、お姉ちゃんが本気を出した時の殺気の方が怖いもん!」
結構きつい事を言われてる気がするが、今は気にしないでおこう。
べ「私は沙羅さんが本気を出した時を知りません。
例えそうだとしても、闘わせる訳にはいきません。
沙羅さんは私の唯一無二の友達…いえ、唯一無二の親友です!
その親友を、危険な目に遭わせるわけには行きません!!」
沙「ベル、私なら大丈夫だよ。今の私には、6年前のあの時よりも守るものがたくさんある。
それに確かめてみたいの。今の私が、6年前のあの時よりどのくらい成長したのかを!」
べ「…言っても聞かないのは相変わらずですね。」
そう言って、ベルは後ろを向いた。
べ「なら私も沙羅さんも信じましょう。
私が振り向いた時に、目の前に立っているのが貴女だと信じていますよ。」
沙「ありがとう…ベル。」
私は単身で人形に近づいた。
人形は私を見ると武器を構えた。
人「アラートレベル…1、ニンムヲゾッコウスル。」
そう言うと、人形は私から目を離した。
そしてそのまま私の横を通り過ぎた。
…任務?
人形の視線の先には、聖女王ティファリス様が居た。
まさか任務って、ティファリス様を亡き者にする事?!
それはさせる訳にはいかないね。
エフリシアの力を解放すると、人形は振り返って私の方を見た。
そして改めて武器を構えた。
人「アラートレベル…2。ニンムヘンコウ、ターゲットヲゲキハスル。」
言い終わると同時に、私に向かって突進してきた。
エフリシアの力を盾に集中させつつ、迎撃の体勢をとった。
人形は私の数歩前で私目掛けて跳躍した。
私は軽く身を反らすだけで良いと思ったが、何故か横にステップした。
人形は着地と同時に武器を地面に叩きつけた。
傍から見れば、人形が攻撃に失敗した様に見えただろう。
しかし叩きつけられた地面が、まるで地盤沈下したかの様に沈んでいった。
それと同時に、物凄い衝撃波が襲い掛かってきた。
一度だけかと思ったが、合計で3度衝撃波が来た。
さっきの攻撃はドラゴンテイルみたいだね。
人形を見ると、先ほどまで持っていた武器を捨てていた。
どうやら先ほどのドラゴンテイルで武器が壊れてしまったようだ。
それを見て味方のウォリアーが攻撃を仕掛けようとしたが、簡単に殴り飛ばされてしまった。
…さすがに身体能力の方も強そうだね。
私は盾で身を守りながら人形に近づいた。
人形は近づく私に気づくと、ゆっくりと右手を上げ始めた。
その瞬間、人形の右手から殺気の様なものを感じた。
人形が右手を横に払うと同時に、私は盾に身を隠した。
身を隠しと同時に、まるで獣にでも引掻かれたかの様な衝撃が来た。
私は盾を見ると、まるで獣に引掻かれた様な痕があった。
こんな事もできるんだね。
人形は何度も腕を横に払って攻撃してきた。
私はそれを盾で防ぐつつ人形に近づいた。
人形はそれを確認したのか、徐々に衝撃波の威力が上がってきた。
そして人形まで後数歩という所で盾が跡形も無く壊れてしまった。
私は盾だった物を捨て、剣のみで人形に襲い掛かった。
…この状況は6年前と同じだね。
人形は6年前と同じもの、でも私は6年前のままじゃない。
襲い掛かってくる私に対し、人形も拳で殴りかかってきた。
私はそれを紙一重で避けて、そのまま人形の右腕を切り落とした。
さすがに人形だから血などは一切出なかったが、人形は驚いたようだ。
人形は私から距離をとると、緑色の液体とクリスタルを取り出した。
人「アラートレベル…3。ニンムヲチュウシシサイシュウシュダンニウツル。」
最終手段?
緑色の液体に目を凝らすと、それはキマイラブラッドだった。
クリスタルが眩く光ったかと思ったら、人形が見る見るうちに三つ首の獣になった。
ただキマイラになるだけだったら、最初からなっているはずだ。
……まさか!?
人「シシテシカバネ…ヒロウモノ……ナシ。」
そう言うと同時に、キマイラから異様なオーラの様なものが見えた。
最終手段って…自爆する気?!
こんな至近距離であの爆発を受けたら、かなりのダメージを受けてしまう。
万事休す……だね。
私は死を覚悟しつつ、目を閉じた。
?「氷壁よ、我が身を守る盾となれ!アイスウォールッ!!」
キマイラの爆発音と同時に、誰かが魔法を使ったような気がした。
爆発音が収まって、私は自分が何もダメージを受けていない事に気づいた。
恐る恐る目を開けると、私の前に大きな氷の壁が建っていた。
そして私の横に一人の女性が立っていた。
?「危なかったわね。」
沙「貴方…誰?」
二「私の名前はニフィス。安心して、敵じゃないわ。」
どうやらこの人に助けられたらしい。
それにしても、あの短時間でこの氷の壁を出すなんて…。
この人もユグドラさん同様、かなりの魔力を持ってるみたいだね。
私が立ち上がると同時に、佐紀が抱きついてきた。
佐「お姉ちゃん、怪我はない?!」
沙「うん。この人に助けられたわ。」
べ「無事で何よりです。」
周りを見ると、人形を包囲していた味方も爆発に巻き込まれた様だった。
シディット水域での戦闘は、辛くも私達の勝利で終わった。
しかし勝利と同時に、多数の死傷者が出てしまった。
それでも私達は
始まりの大地に向けて進攻した。
平和な世界を勝ち取るために。
~エスセティア大陸・始まりの大地~
手元の零と表示されたクリスタルが砕けた。
どうやら零番が壊れたらしい。
ブ「零番は確か…、カセドリアに向かわせたやつだったな。」
しかし砕けたという事は、任務に失敗して自爆したという事だ。
9年前とはいえ、この俺を倒せる奴か…。
思いつくのは二通りだ。
ニフィスが倒したか、沙羅が倒したか。
多分後者だろう。
アト「あの子が人形を倒したみたいね。」
ブ「ああ。あの人形を倒したという事は、かなり成長したみたいだな。」
ヒ「なら次はどうするんだ?5カ国にかなりの打撃を与えたから、今度はこっちから行くのか?」
ユ「5カ国の軍は全てここに向かって来ているわ。」
ブ「ならば話は早い。計画を最終段階に持っていく為にも、迎え撃ちに行くぞ。
…平和な世界の為にな。」
遅くなったけど生きてるぞ! byスモーキー
最終更新:2009年08月08日 10:56