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「それはとても静かに」(2008/06/17 (火) 22:27:26) の最新版変更点
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**それはとても静かに ◆XuryVJUQ9Y
サバイバルの本質とは、つまるところ情報戦である。
食料の確保、装備の充実、医療品の入手。それらが重要な要素であることは否定しない。
しかし、それだけでは、ただ生き延びることは出来ても本当の意味で生き残ることは出来はしない。
それをサバイバルという極限の状態で成しえるには、何よりも情報が必要なのだ。
例えば、どこへ行けば必要な物資が手に入るのか。
自身の生存を脅かす脅威は何なのか。
それこそ目の前の道がどこに繋がっているか知っているだけでも、生存の確率は如実に変わってくる。
生きることと、死を先延ばしにすることの根本的な差はそこにあると言っていい。
未来を見据えた行動のためには、情報は最優先で入手しなければならないものになる。
それがバトルロワイアルという狂った殺人サバイバルゲームであっても、それは変わらない。
いや、むしろ異常な状況下だからこそ、それの重みはより増すと言っていいだろう。
それを踏まえたうえで、ユーロポール特別捜査官・ゲジヒトは切り出す。
「我々には何よりも情報が必要だ。まず主催者であるシグマという男に繋がる手がかり、
それが無くてもせめて他のロボット……とは限らないか、他者と接触することで得られるものはあるはずだ。
しかし闇雲に歩き回るだけでは日が暮れてしまうし、なによりその間に死者が増え続けては元も子もない。
そこでだ――この市街地コロニーのランドマークである電波塔。その捜索を提案する」
ゲジヒトとしてはかなり大胆な提案をしたつもりだったので、そこで言葉を切って聴き手である二人の顔を見比べたが、
その二人、すなわちルーン・バロットとKOS-MOSのどちらもその提案は想定通りとばかりに口を挿む様子はない。
その反応に満足して、ゲジヒトもまたそれを意に介していないようにそのまま言を続けた。
「この殺人ゲームに不本意ながら参加させられた人々には、二つの選択肢がある。
殺すか殺さないか、というのもあるが、もっと突き詰めれば『他者と接触するかしないか』が第一の選択だろう。
人目に付かない場所で震えているか、あえて他人と接触する道を選ぶか……
明確な殺意を持つ者はまぎれもなく後者だろうが、積極的に状況に抗おうとする者もまた後者を選ぶだろう。
そしてまず十中八九、そういった人々は人の集まりそうな場所、すなわちその土地のランドマークを目指す。
ここ……シグマの言うことが正しければスペースコロニー内だが、ここにおけるランドマークはあの電波塔だ。
すでにコロニー内の多くの人々が電波塔を目指して移動していると私は確信している。
つまり、そこへ向かうことは情報収集の点において最善手であると思う……ただし」
ゲジヒトは一旦そこで言葉を切り、二人の顔を見回す。
「ただし、情報収集においては最善手であっても、生命の危険を避けるのであれば最悪手と言えるだろうな。
早かれ遅かれ、あの一帯は戦場になると私は考える。効率よく人数を減らすには手っとり早い選択だ。
もっとも、すでに戦闘が始まっていないとは言い切れないが」
それを聞いてバロットの表情に僅かに険が走る。
ゲジヒトの視覚センサはそれを捉えたが、彼はあえてそれに気付かないふりをした。
「襲撃される可能性を考慮すれば、この選択はあまりに無謀だ。
私には、この行動には命を危険に晒すだけの意味と価値があると思えるが、
君達の価値観においてそれが正しいかは私には分らない。
もし君達が望まないのなら、時間と場所を指定して後に落ち合おう。私は一人で」
《ゲジヒト。私も行く》
通信機を介して割り込んできた声。顔をあげると、バロットが真剣な目でゲジヒトを見つめていた。
まだ十代前半の成長途上な少女の瞳に潜む強い決意に、ゲジヒトは眩しさにも似た感覚を覚える。
その真摯な視線に、彼はおどけたような微笑みでもって答えた。
「君なら、きっとそう言ってくれるだろうと思っていた」
《……そうやって人を試すのはやめてほしい》
バロットは顔を背け、少し拗ねたような顔をする。
彼女を試していたというのは本当のことなので、ゲジヒトは慌てて「すまない」と繕った。
彼女の正義感と倫理感は、これまでの数時間ではっきりと感じている。
単なる理想論ではない、苦悩と絶望を知る者だからこそ唱える資格のある強い信念。
彼女のような年端の行かぬ少女がそれを勝ち得るには、どれほど壮絶な戦いがあったのだろう。
しかしだからこそ、ゲジヒトは彼女のことを信頼に足る存在であると位置づけていた。
今回の提案も最初から彼女の同行を前提としたものだったのだが、確かにこれは利用したと思われても仕方がない。
もし彼女の自尊心を傷つけてしまったのなら、さすがにやりすぎたというものだろう。
彼女の整った横顔を見、ゲジヒトはもう一度「すまなかった」と謝った。
振り向いたバロットの顔には、意外そうな表情が浮かんでいた。
《謝らないで。ゲジヒトが私を頼りにしてくれているというのは素直に嬉しい》
「……そうなのか?」
今度はこちらが意外そうな顔をする番だ。
彼女はそれを見てくすりと微かに笑う。
《それに、私が例え一人でも、同じ選択をしていたと思う》
そう言って彼女はゲジヒトの顔を見つめ、力強く頷いて見せた。
それだけでゲジヒトには十分だった。
「分かったバロット、共に行動しよう。それで……君はどうする?」
ゲジヒトは、先ほどから口を開かないもう一人の同行者へ話を向けた。
青い髪と均整の取れたプロポーションが目を引くアンドロイド、KOS-MOS。
彼女のほうは、はっきり言ってゲジヒトにはあまりその本質が掴めたとは言い難い。
出会ってからまだ大した時間が過ぎているわけではないというのもあるが、それだけではないだろう。
何を考えているか分からない? 違う。どちらかというとその逆だ。
彼女は、あまりにも“機械的すぎる”。
感情を挿む余地を持たないほどの理論的な思考をすると、ゲジヒトは内心で彼女を評していた。
ゆえに、過度の信頼を預けるには躊躇われるところがある。
実際、ゲジヒトは彼女とは別行動もやむを得ないだろうと考えていた。
しかしその予想に反して、KOS-MOSは相変わらずの無感動な口調で返答する。
「私も貴方の提案に賛同します、ゲジヒト。友好的な接触が可能であるとは言い切れませんが、
今後の行動方針を決定するためにも他者からのさらなる情報収集は必要だと考えます」
その言葉にゲジヒトは内心で胸を撫で下ろした。
なによりも論理や効率を優先する彼女が同行してくれるかどうかは一種の賭けだったが、どうやら賛同を得られたらしい。
明らかに戦闘用に開発されたロボットである彼女が共にいれば、襲撃者への備えとしてはより万全といえる。
懸念事項としては彼女のその思考傾向だが……それは今ここで考えるのは野暮というものだろう。
「協力感謝する、KOS-MOS」
「こちらこそよろしくお願いします」
そう答える彼女は相変わらず無表情だが、ゲジヒトにはそれが心強く感じられた。
◆ ◆ ◆
人工的に投影された朝焼けを背に、青のバイクが市街地を駆ける。
いや、バイクと形容するのは憚られるか。車体そのものと同じだけの長さを持つ巨大なカウルを持つそれは、
もはやバイクという単語が指し示す範疇から外れているような気がしないでもない。
その機関車を思わせる外見を備えるマシンを走らせるのは、まだローティーンにしか見えない黒髪の少女だ。
その後ろに壮年男性が掴まっているという構図は、一見してみれば奇妙なものに映りかねない。
これを移動手段として使うと主張したのはバロットだった。
ゲジヒトは自分が運転すると主張したのだが(もっとも人目を気にしたわけではない)、
もともとこれはバロットの支給品であること、そしてスナークと空間把握能力を併用すれば自分のほうがうまく使えるという
バロットの主張が通ることになったのだった。
実際、彼女はそのバイク――ローズ・アンダーソンの専用バイク――を実に巧みに操っている。
自動操縦の自動車をスナークしたことはあってもバイクは初めての彼女だが、それを知らない人が見れば決してそうは思わないだろう。
これには、彼女自身の生来の呑み込みの早さが関係しているのかもしれなかった。
「このままのペースだと、目的地への到着より前に第一回の放送が行われることになりますが」
疾走するバイクの隣を涼しい顔で並走しながら、KOS-MOSが問いかける。
考えようによってはこれも相当シュールな光景だなと思いながら、ゲジヒトは答えた。
「我々はメモリーに記録すれば忘れることはないが、万一のこともある。
放送が始まったらどこかに一旦停止してそちらに集中しよう」
「私に気を使わず、そのマシンのスピードを上げて二人で先行してはいかがでしょうか。
それならば、時間のロスもなくなると思いますが」
《それは駄目。私たちは、あなたを置き去りにはしない》
KOS-MOSの提案をバロットが通信機に干渉して退ける。
《私たちは全員で行動し、全員で脱出する。
そのためにも、あなたにはそばにいてほしい》
「了解しました、ルーン・バロット」
バロットの真っすぐな信頼の意に、KOS-MOSは異を呈する訳でもなく答えた。
彼女たちの会話を聞きながら、ゲジヒトは思う。
自分は、ずっと一人で捜査を続けてきた。
自分が特別捜査官である以上、それは当り前のことであった。
単独捜査というのは、それはそれでいいものだ。
自分の指針がそのまま行動となり、自分の目標がそのまま到達点となる。
それは一人だからこそ可能なことだし、複数で行動すればその利点は失われてしまうだろう。
(……だが)
ゲジヒトは、朝の空気を切り裂くスピードに身を任せながら思う。
これがあまりにも非日常的な異常事態であるのは理解しているし、その上でこのようなことを考えるのは場違いであるとも承知している。
それでも、彼女たちを見ると思うのだ。
――チームというのも、案外悪くないものだと。
◆ ◆ ◆
ローズバイクの隣を疾走しながら、KOS-MOSは思考する。
この状況においてゲジヒトから提案された行動は賛同に値するものではあった。
やはり、バロットやゲジヒトの考えには無駄が多すぎるのではないか。
戦力を割きたくないというのは理解できるが、
特にバロットには、信念を優先するあまり合理性を犠牲にする傾向が見受けられる。
これから自分たちは戦地に赴くも同然なのだ。無駄な行動は死に繋がるとKOS-MOSの模擬人格は考える。
(人命を優先……しかし、自身の存在が脅かされるような場合には……)
KOS-MOSは思考する。ただ合理的に、論理的に。
(我々は『殺さ』ず『殺させ』ない以前に『殺され』るわけにはいきません。
ナタクのような敵対存在を放置することは最終的に害にしかなり得ない。
特殊な状況下である以上、自己の保全のために人命を犠牲にするという選択肢を否定してはならない)
そして、その思索は確実に結論へと収束していく。
(やはり、もっとも優先すべき事項は自己の保全です。
私は対グノーシス用人型掃討兵器KP-X シリアルNo.000000001。
Kosmos Obey Strategical Multiple Operation Systems(秩序に従属する戦略的多目的制御体系)と呼ばれる存在。
対グノーシス戦において私という存在が必要不可欠である以上、私自身を元の世界に帰還させることこそが最優先事項でしょう。
あくまで可能な範囲においてルーン・バロットの宣誓に従うのは適切な行動であると考えます。
しかしそれによって私が存在の危機に晒されるのであれば……
そういった状況においては、私は人命を含むあらゆる障害を排除してでも自己の保全を優先すべきと結論付けます)
機械であるがゆえに、彼女の思考には無駄がなかった。
兵器であるがゆえに、彼女の結論には感情は交えられなかった。
彼女だけが、少しずつ少しずつ三人の誓いから外れていく。
その変化は音を立てず、彼女以外の誰にも気づかれずに……
【B-7 高層ビル街・大通り/一日目・早朝】
【ゲジヒト@PLUTO】
[状態]:健康、記憶障害?、ローズバイク同乗中
[装備]:睡眠ガス銃(左)、SAAW特殊火器『ゼロニウム弾』(右)(各一発)
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3
[思考・状況]
1.主催者に関する調査を、他の参加者協力を得て行う(まずは電波塔&TV局へ向かう)。
2.主催者とプルートゥの関係を調べる。
3.自分の失われた記憶を取り戻す。
4.我々は殺さない。殺されない。殺させない。
[ゲジヒトの考察]
この壊し合いは、効率的な技術の吸収のための下準備か?
※参戦時期不明。単行本5巻までの記憶を保持。記憶が消去された可能性あり。
※ボイルドの詳細な情報を得ました。
【ルーン・バロット@マルドゥックシリーズ】
[状態]:健康、ローズバイク搭乗中
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品1~2
[思考・状況]
1.ボイルドが……どうして。
2.ドクターやウフコックみたいな信頼できる参加者を探し、ウフコックの元へ帰る。
3.弱体化したスナーク能力に慣れる。
4.ゲジヒトに協力し、調査に協力する。
5.我々は殺さない。殺されない。殺させない。
※スクランブル終了後から参戦。
※電子機器に対する干渉能力の大きさは、距離に反比例します。参加者に対しても同様。限界距離は6~8メートル。
至近距離でも、人工心肺などの対象の生命活動にかかわるものを停止させることは不可能です。(阻害は可能)
※ゲジヒトの考察を出来のいい仮説の一つとして受け入れました。
【KOS-MOS@ゼノサーガシリーズ】
[状態]:ダメージ(微)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、闇夜の鎌@クロノトリガー、仙桃x3@封神演義、
FN ブローニング・ハイパワー(13/13)@攻殻機動隊、マガジン(13/13 9mmパラベラム弾)x2
[思考・状況]
基本思考:自身の「生還」を前提とし、状況に応じたその時点で「最も」適切な行動を取る。
1.他参加者と接触を試みる。
2.施設、支給品など情報を収集する。
3.我々は“可能な限り”殺さない。殺されない。殺させない。
ただし自身の「生還」の障害となるものは、積極的に排除する。
[備考]
※KOS-MOSの躯体はver.4です(Ep3後半の姿)
※参戦時期は改修後からT-elosとの融合前までの間。
※各種武装(R-BLADE、G-SHOT、DRAGON-TOOTHなど)はU.M.N.ネットワークの問題で転送不可。
少なくとも内蔵兵器であるX・BUSTERは使用可能。エンセフェロンダイブ、ヒルベルトエフェクトなども一応使用可能。
※ゲジヒトの考察を有力な仮説と認識しています。
※ゲジヒトとバロットの方針に「基本的には」賛同。
【ローズバイク@SoltyRei】
自称“青き流星のローズ”こと、盗賊ローズ・アンダーソンの専用バイク。
車体と同じくらいの巨大なカウルの下に前輪と2つの球形ホイールを内蔵し、
さらにはカウル内に大砲まで装備したモンスターマシンである。
その重厚な外観に似合わず、普通のバイクと同様の機動性を持つ。
ちなみに「ローズバイク」という名前は公式ではあるが、劇中では一度も呼ばれていない。
*時系列順で読む
Back:[[全ては、破壊のため]] Next:[[そいつは人情派サイボーグ]]
*投下順で読む
Back:[[全ては、破壊のため]] Next:[[そいつは人情派サイボーグ]]
|037:[[Kokoro]]|KOS-MOS| |
|037:[[Kokoro]]|ルーン・バロット| |
|037:[[Kokoro]]|ゲジヒト| |
**それはとても静かに ◆XuryVJUQ9Y
サバイバルの本質とは、つまるところ情報戦である。
食料の確保、装備の充実、医療品の入手。それらが重要な要素であることは否定しない。
しかし、それだけでは、ただ生き延びることは出来ても本当の意味で生き残ることは出来はしない。
それをサバイバルという極限の状態で成しえるには、何よりも情報が必要なのだ。
例えば、どこへ行けば必要な物資が手に入るのか。
自身の生存を脅かす脅威は何なのか。
それこそ目の前の道がどこに繋がっているか知っているだけでも、生存の確率は如実に変わってくる。
生きることと、死を先延ばしにすることの根本的な差はそこにあると言っていい。
未来を見据えた行動のためには、情報は最優先で入手しなければならないものになる。
それがバトルロワイアルという狂った殺人サバイバルゲームであっても、それは変わらない。
いや、むしろ異常な状況下だからこそ、それの重みはより増すと言っていいだろう。
それを踏まえたうえで、ユーロポール特別捜査官・ゲジヒトは切り出す。
「我々には何よりも情報が必要だ。まず主催者であるシグマという男に繋がる手がかり、
それが無くてもせめて他のロボット……とは限らないか、他者と接触することで得られるものはあるはずだ。
しかし闇雲に歩き回るだけでは日が暮れてしまうし、なによりその間に死者が増え続けては元も子もない。
そこでだ――この市街地コロニーのランドマークである電波塔。その捜索を提案する」
ゲジヒトとしてはかなり大胆な提案をしたつもりだったので、そこで言葉を切って聴き手である二人の顔を見比べたが、
その二人、すなわちルーン・バロットとKOS-MOSのどちらもその提案は想定通りとばかりに口を挿む様子はない。
その反応に満足して、ゲジヒトもまたそれを意に介していないようにそのまま言を続けた。
「この殺人ゲームに不本意ながら参加させられた人々には、二つの選択肢がある。
殺すか殺さないか、というのもあるが、もっと突き詰めれば『他者と接触するかしないか』が第一の選択だろう。
人目に付かない場所で震えているか、あえて他人と接触する道を選ぶか……
明確な殺意を持つ者はまぎれもなく後者だろうが、積極的に状況に抗おうとする者もまた後者を選ぶだろう。
そしてまず十中八九、そういった人々は人の集まりそうな場所、すなわちその土地のランドマークを目指す。
ここ……シグマの言うことが正しければスペースコロニー内だが、ここにおけるランドマークはあの電波塔だ。
すでにコロニー内の多くの人々が電波塔を目指して移動していると私は確信している。
つまり、そこへ向かうことは情報収集の点において最善手であると思う……ただし」
ゲジヒトは一旦そこで言葉を切り、二人の顔を見回す。
「ただし、情報収集においては最善手であっても、生命の危険を避けるのであれば最悪手と言えるだろうな。
早かれ遅かれ、あの一帯は戦場になると私は考える。効率よく人数を減らすには手っとり早い選択だ。
もっとも、すでに戦闘が始まっていないとは言い切れないが」
それを聞いてバロットの表情に僅かに険が走る。
ゲジヒトの視覚センサはそれを捉えたが、彼はあえてそれに気付かないふりをした。
「襲撃される可能性を考慮すれば、この選択はあまりに無謀だ。
私には、この行動には命を危険に晒すだけの意味と価値があると思えるが、
君達の価値観においてそれが正しいかは私には分らない。
もし君達が望まないのなら、時間と場所を指定して後に落ち合おう。私は一人で」
《ゲジヒト。私も行く》
通信機を介して割り込んできた声。顔をあげると、バロットが真剣な目でゲジヒトを見つめていた。
まだ十代前半の成長途上な少女の瞳に潜む強い決意に、ゲジヒトは眩しさにも似た感覚を覚える。
その真摯な視線に、彼はおどけたような微笑みでもって答えた。
「君なら、きっとそう言ってくれるだろうと思っていた」
《……そうやって人を試すのはやめてほしい》
バロットは顔を背け、少し拗ねたような顔をする。
彼女を試していたというのは本当のことなので、ゲジヒトは慌てて「すまない」と繕った。
彼女の正義感と倫理感は、これまでの数時間ではっきりと感じている。
単なる理想論ではない、苦悩と絶望を知る者だからこそ唱える資格のある強い信念。
彼女のような年端の行かぬ少女がそれを勝ち得るには、どれほど壮絶な戦いがあったのだろう。
しかしだからこそ、ゲジヒトは彼女のことを信頼に足る存在であると位置づけていた。
今回の提案も最初から彼女の同行を前提としたものだったのだが、確かにこれは利用したと思われても仕方がない。
もし彼女の自尊心を傷つけてしまったのなら、さすがにやりすぎたというものだろう。
彼女の整った横顔を見、ゲジヒトはもう一度「すまなかった」と謝った。
振り向いたバロットの顔には、意外そうな表情が浮かんでいた。
《謝らないで。ゲジヒトが私を頼りにしてくれているというのは素直に嬉しい》
「……そうなのか?」
今度はこちらが意外そうな顔をする番だ。
彼女はそれを見てくすりと微かに笑う。
《それに、私が例え一人でも、同じ選択をしていたと思う》
そう言って彼女はゲジヒトの顔を見つめ、力強く頷いて見せた。
それだけでゲジヒトには十分だった。
「分かったバロット、共に行動しよう。それで……君はどうする?」
ゲジヒトは、先ほどから口を開かないもう一人の同行者へ話を向けた。
青い髪と均整の取れたプロポーションが目を引くアンドロイド、KOS-MOS。
彼女のほうは、はっきり言ってゲジヒトにはあまりその本質が掴めたとは言い難い。
出会ってからまだ大した時間が過ぎているわけではないというのもあるが、それだけではないだろう。
何を考えているか分からない? 違う。どちらかというとその逆だ。
彼女は、あまりにも“機械的すぎる”。
感情を挿む余地を持たないほどの理論的な思考をすると、ゲジヒトは内心で彼女を評していた。
ゆえに、過度の信頼を預けるには躊躇われるところがある。
実際、ゲジヒトは彼女とは別行動もやむを得ないだろうと考えていた。
しかしその予想に反して、KOS-MOSは相変わらずの無感動な口調で返答する。
「私も貴方の提案に賛同します、ゲジヒト。友好的な接触が可能であるとは言い切れませんが、
今後の行動方針を決定するためにも他者からのさらなる情報収集は必要だと考えます」
その言葉にゲジヒトは内心で胸を撫で下ろした。
なによりも論理や効率を優先する彼女が同行してくれるかどうかは一種の賭けだったが、どうやら賛同を得られたらしい。
明らかに戦闘用に開発されたロボットである彼女が共にいれば、襲撃者への備えとしてはより万全といえる。
懸念事項としては彼女のその思考傾向だが……それは今ここで考えるのは野暮というものだろう。
「協力感謝する、KOS-MOS」
「こちらこそよろしくお願いします」
そう答える彼女は相変わらず無表情だが、ゲジヒトにはそれが心強く感じられた。
◆ ◆ ◆
人工的に投影された朝焼けを背に、青のバイクが市街地を駆ける。
いや、バイクと形容するのは憚られるか。車体そのものと同じだけの長さを持つ巨大なカウルを持つそれは、
もはやバイクという単語が指し示す範疇から外れているような気がしないでもない。
その機関車を思わせる外見を備えるマシンを走らせるのは、まだローティーンにしか見えない黒髪の少女だ。
その後ろに壮年男性が掴まっているという構図は、一見してみれば奇妙なものに映りかねない。
これを移動手段として使うと主張したのはバロットだった。
ゲジヒトは自分が運転すると主張したのだが(もっとも人目を気にしたわけではない)、
もともとこれはバロットの支給品であること、そしてスナークと空間把握能力を併用すれば自分のほうがうまく使えるという
バロットの主張が通ることになったのだった。
実際、彼女はそのバイク――ローズ・アンダーソンの専用バイク――を実に巧みに操っている。
自動操縦の自動車をスナークしたことはあってもバイクは初めての彼女だが、それを知らない人が見れば決してそうは思わないだろう。
これには、彼女自身の生来の呑み込みの早さが関係しているのかもしれなかった。
「このままのペースだと、目的地への到着より前に第一回の放送が行われることになりますが」
疾走するバイクの隣を涼しい顔で並走しながら、KOS-MOSが問いかける。
考えようによってはこれも相当シュールな光景だなと思いながら、ゲジヒトは答えた。
「我々はメモリーに記録すれば忘れることはないが、万一のこともある。
放送が始まったらどこかに一旦停止してそちらに集中しよう」
「私に気を使わず、そのマシンのスピードを上げて二人で先行してはいかがでしょうか。
それならば、時間のロスもなくなると思いますが」
《それは駄目。私たちは、あなたを置き去りにはしない》
KOS-MOSの提案をバロットが通信機に干渉して退ける。
《私たちは全員で行動し、全員で脱出する。
そのためにも、あなたにはそばにいてほしい》
「了解しました、ルーン・バロット」
バロットの真っすぐな信頼の意に、KOS-MOSは異を呈する訳でもなく答えた。
彼女たちの会話を聞きながら、ゲジヒトは思う。
自分は、ずっと一人で捜査を続けてきた。
自分が特別捜査官である以上、それは当り前のことであった。
単独捜査というのは、それはそれでいいものだ。
自分の指針がそのまま行動となり、自分の目標がそのまま到達点となる。
それは一人だからこそ可能なことだし、複数で行動すればその利点は失われてしまうだろう。
(……だが)
ゲジヒトは、朝の空気を切り裂くスピードに身を任せながら思う。
これがあまりにも非日常的な異常事態であるのは理解しているし、その上でこのようなことを考えるのは場違いであるとも承知している。
それでも、彼女たちを見ると思うのだ。
――チームというのも、案外悪くないものだと。
◆ ◆ ◆
ローズバイクの隣を疾走しながら、KOS-MOSは思考する。
この状況においてゲジヒトから提案された行動は賛同に値するものではあった。
やはり、バロットやゲジヒトの考えには無駄が多すぎるのではないか。
戦力を割きたくないというのは理解できるが、
特にバロットには、信念を優先するあまり合理性を犠牲にする傾向が見受けられる。
これから自分たちは戦地に赴くも同然なのだ。無駄な行動は死に繋がるとKOS-MOSの模擬人格は考える。
(人命を優先……しかし、自身の存在が脅かされるような場合には……)
KOS-MOSは思考する。ただ合理的に、論理的に。
(我々は『殺さ』ず『殺させ』ない以前に『殺され』るわけにはいきません。
ナタクのような敵対存在を放置することは最終的に害にしかなり得ない。
特殊な状況下である以上、自己の保全のために人命を犠牲にするという選択肢を否定してはならない)
そして、その思索は確実に結論へと収束していく。
(やはり、もっとも優先すべき事項は自己の保全です。
私は対グノーシス用人型掃討兵器KP-X シリアルNo.000000001。
Kosmos Obey Strategical Multiple Operation Systems(秩序に従属する戦略的多目的制御体系)と呼ばれる存在。
対グノーシス戦において私という存在が必要不可欠である以上、私自身を元の世界に帰還させることこそが最優先事項でしょう。
あくまで可能な範囲においてルーン・バロットの宣誓に従うのは適切な行動であると考えます。
しかしそれによって私が存在の危機に晒されるのであれば……
そういった状況においては、私は人命を含むあらゆる障害を排除してでも自己の保全を優先すべきと結論付けます)
機械であるがゆえに、彼女の思考には無駄がなかった。
兵器であるがゆえに、彼女の結論には感情は交えられなかった。
彼女だけが、少しずつ少しずつ三人の誓いから外れていく。
その変化は音を立てず、彼女以外の誰にも気づかれずに……
【B-7 高層ビル街・大通り/一日目・早朝】
【ゲジヒト@PLUTO】
[状態]:健康、記憶障害?、ローズバイク同乗中
[装備]:睡眠ガス銃(左)、SAAW特殊火器『ゼロニウム弾』(右)(各一発)
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3
[思考・状況]
1.主催者に関する調査を、他の参加者協力を得て行う(まずは電波塔&TV局へ向かう)。
2.主催者とプルートゥの関係を調べる。
3.自分の失われた記憶を取り戻す。
4.我々は殺さない。殺されない。殺させない。
[ゲジヒトの考察]
この壊し合いは、効率的な技術の吸収のための下準備か?
※参戦時期不明。単行本5巻までの記憶を保持。記憶が消去された可能性あり。
※ボイルドの詳細な情報を得ました。
【ルーン・バロット@マルドゥックシリーズ】
[状態]:健康、ローズバイク搭乗中
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品1~2
[思考・状況]
1.ボイルドが……どうして。
2.ドクターやウフコックみたいな信頼できる参加者を探し、ウフコックの元へ帰る。
3.弱体化したスナーク能力に慣れる。
4.ゲジヒトに協力し、調査に協力する。
5.我々は殺さない。殺されない。殺させない。
※スクランブル終了後から参戦。
※電子機器に対する干渉能力の大きさは、距離に反比例します。参加者に対しても同様。限界距離は6~8メートル。
至近距離でも、人工心肺などの対象の生命活動にかかわるものを停止させることは不可能です。(阻害は可能)
※ゲジヒトの考察を出来のいい仮説の一つとして受け入れました。
【KOS-MOS@ゼノサーガシリーズ】
[状態]:ダメージ(微)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、闇夜の鎌@クロノトリガー、仙桃x3@封神演義、
FN ブローニング・ハイパワー(13/13)@攻殻機動隊、マガジン(13/13 9mmパラベラム弾)x2
[思考・状況]
基本思考:自身の「生還」を前提とし、状況に応じたその時点で「最も」適切な行動を取る。
1.他参加者と接触を試みる。
2.施設、支給品など情報を収集する。
3.我々は“可能な限り”殺さない。殺されない。殺させない。
ただし自身の「生還」の障害となるものは、積極的に排除する。
[備考]
※KOS-MOSの躯体はver.4です(Ep3後半の姿)
※参戦時期は改修後からT-elosとの融合前までの間。
※各種武装(R-BLADE、G-SHOT、DRAGON-TOOTHなど)はU.M.N.ネットワークの問題で転送不可。
少なくとも内蔵兵器であるX・BUSTERは使用可能。エンセフェロンダイブ、ヒルベルトエフェクトなども一応使用可能。
※ゲジヒトの考察を有力な仮説と認識しています。
※ゲジヒトとバロットの方針に「基本的には」賛同。
【ローズバイク@SoltyRei】
自称“青き流星のローズ”こと、盗賊ローズ・アンダーソンの専用バイク。
車体と同じくらいの巨大なカウルの下に前輪と2つの球形ホイールを内蔵し、
さらにはカウル内に大砲まで装備したモンスターマシンである。
その重厚な外観に似合わず、普通のバイクと同様の機動性を持つ。
ちなみに「ローズバイク」という名前は公式ではあるが、劇中では一度も呼ばれていない。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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