「良心の価値」(2008/12/24 (水) 21:55:04) の最新版変更点
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*良心の価値 ◆2Y1mqYSsQ.
ボイルドはビルの屋上へと辿り着き、追跡対象とすれ違ったことを知る。
林が広がる間にそびえるビルの入り口に、複数の足跡を発見、突入を開始して、今に至る。
重力を制御し、一気に跳躍をしなかったのには理由があった。
制限……重力の制御に、リミッターがかけられている。
V3との戦いで感じた重力の壁の出力の弱さ。過去のボイルドのように、銃弾を逸らしきれない状況が生まれるだろう。
もっとも、ボイルドはそれでも構わなかった。
軍人としての経験が自分にはある。かつてのコーチより教わった、捜査技術がある。
何より、すべてを塗りつぶす、虚無がある。新たな化け物銃、ハカイダーショットを手に、階段を昇り、人の気配がしないことを確かめ辿り着いた屋上。
無駄足ではなかった。明らかに争った形跡がある。
あの面子……十代後半の少女一人。十代になるかならないかの少女。多脚戦車一台。
戦闘力は全員保有している。しかし、血痕があるということは、被害者は二人の少女の内、誰かと見ていいだろう。
なら、実行犯……裏切り者は誰なのか。
小型戦車が暴れた跡にしては、部屋はそれほど荒れていない。
小型戦車の暴走の線は薄いだろう。
短髪の十代半ばの少女なら?
彼女の主な武器は炸薬だが、仲間を裏切り、刃物を使って襲えば、破壊はこの規模で収まる。
悪い線ではない。しかし、問題はある。そのことを語るのは後だ。
あのゴシックロリータ服少女ならば?
三人と対峙して、一番危険を感じたのは彼女だ。見た目だけなら、戦闘力は少ないように見えるが、身のこなしは一流の軍人に劣るものではない。
引き際を心得た動き、とっさに腕を犠牲に最小限の被害で抑えた判断力。
その彼女が、あの未熟な動きが目立つ少女に遅れをとるとは、考えにくい。
彼女が残した右腕も、気になる。掌に移植された金属端子での変形の指令を正確に受け取り、形を変える金属だ。
と、なると犯人はゴシックロリータ服の少女である可能性が高いだろう。
ボイルドが膝をかがめて、痕跡を探る。
明らかに一時間かそこらにできた傷。なら、まだ遠くへ入っていないはず。
そう思考するボイルドの耳朶を、大型車のタイヤと地面が擦れあう、悲鳴のような音が打つ。
音は僅かだったゆえ、距離はある程度は離れているだろう。今向かえば間に合う。
いかなるものも虚無を訪れさせる。重力を展開、すぐに現場へ向かおうと跳躍の準備をする。
視界の端に、青い影がよぎった。とっさに、全身に重力の壁を張り巡らせる。
周囲に銃弾が降り注ぐ。一発、逸らしきれずボイルドの頬に血が流れた。
瞳の色と同じく、冷徹な眼差しで、小型戦車を射抜く。
空洞のような心に何も響かない。虚無に塗りつぶすべく、小型戦車へとボイルドは跳躍した。
□
「ひゃ~、あの黒い人と赤い人、強いねー。近寄らないようにしよっと」
得たレアメタルを抱えて、タチコマは四本足を駆使し移動をしている。
ドラスの必要といったレアメタルの回収中にハカイダーとゼロの戦いを目撃していたのだ。
激闘を繰り広げる二機を尻目に、すたこらさっさと逃げて現在に至る。
(非常識な戦いだった……あんな人ばかりなのかな?)
タチコマの思考が、戦闘をしていた二人に向く。どちらが仕掛けたのかは会話を聞き取れなかったため、分からない。
しかし、今構っていられないのは真実だ。早く二人の下に向かい、安全を確保するように進言しよう。
そう考えていたタチコマは、建物の陰に隠れる。雑居ビルの窓に、重力を操る男がいたのだ。
彼の男の戦闘力を知るタチコマはドラスたちの安全の確保のため、逆側に存在する雑居ビルの壁をワイヤーを駆使して登る。
レンズを伸ばし、ドラスたちがいたはずの場所を見るが、彼等はいない。退避したのだろう。
ホッとするタチコマが、大型車のタイヤが軋む音を捉える。同時に、ボイルドが動こうとしていた。
ドラスたちはあそこにいるのだろうか?
一つの疑問と共に、タチコマは跳躍、チェーンガンをボイルドに向ける。
完全な奇襲だ。なのに、チェーンガンの弾は重力の壁に逸らされていった。
対応能力の高さにタチコマは人間のように戦慄しない。
次の策をとるため、跳躍するボイルドを誘導するように退いていく。
「こっちだよー」
突進してくるボイルドを、挑発するように屋上から飛び降り、路地へとめがけて駆けていく。
それなりに横幅のあるタチコマでも、余裕で通れる道だ。
タチコマの、恐怖の鬼ごっこが今始まる。
□
『――インフォメーションメッセージ』
ボイルドが保有するPDAより、電子音が響いた。
情報を聞き漏らさず、且つタチコマ――四脚の戦車――を逃がさないように、地面を蹴り続ける。
速度差より、接近戦を仕掛けるのは難しいと判断した。
左手にデザートイーグルを構える。マグナム弾が吐き出され、タチコマが存在していた地面を抉る。
『06:00時点における本プログラムからの脱落者をお知らせします』
右手に鈍く光る、ハカイダーショットはまだ使わない。
一撃必殺のモンスター。虚無への入り口。
四脚戦車は、まだ間合いに入っていない。銃口はピタリと、脚の一つへと向けている。
重力で腕を支えて反動に備える。引き金に指をかけた。
死んだ人間に、バロットはいない。ならウフコックも無事であろう。
『なお、進入禁止エリアは【C-2】、【H-8】の2ブロックとなります』
禁止エリアを頭に入れて、ボイルドは猟犬のごとくタチコマへと迫る。
瞬間、タチコマがワイヤーを引き上げる。ボイルドの頭上に、瓦礫が降り落ちた。
トラップ。重力の殻が瓦礫を逸らす。遮られる視界。一瞬の間でタチコマの姿が消える。
逃げたか。否。
ボイルドはコマのように回転しながら、地面を離れる。刹那、ボイルドがいた地点に無数の火花が散った。チェーンガンによる掃射だ。
ボイルドはビルの壁に、重力を横方向に発生させて『着地』した。照準が再びつけられる前に、タチコマに向かって発砲。
デザートイーグルのマグナム弾はタチコマの体表で跳ねる。左腕と共に、ボイルドはデザートイーグルを収め、ハカイダーショットの銃口を向けた。
破裂。超高周波炸裂弾がハカイダーショットの銃身から爆発的に加速する。
タチコマのボディに漆黒の穴が開く。
小型とはいえ、戦車の装甲を貫いたことに戸惑っているのだろう。
とはいえ、機械的な動きは変わらない。痛みを感じないからだ。
故障も恐れず、体当たりをしてくるタチコマを醒めた目で見つめる。大質量に任せた、のしかかり。
制限下でもトンを越える衝撃を生み出す、V3キックに耐えた重力の壁に、加速を得たタチコマのボディの衝撃がのしかかる。
逸らしきれない。刹那の間に、ボイルドは判断。
衝撃を流すように重力の範囲を球状へと変形させる。丸みの重力壁に沿って、タチコマのボディが流れていく。
自分の身体もタチコマの流れるボディにあわせて回転、すれ違いざまにハカイダーショットを一発放った。
炸裂<エクスプロード>
タチコマの四脚のうち一本が吹飛ぶ。
残った三本足でタチコマは器用にバランスをとり、カメラアイをボイルドに向ける。
機銃の掃射。跳弾すらも重力の壁で防ぐ。
数発が逸らしきれず、ボイルドの身体に傷を刻む。痛み、傷の深さ、共に軽い。動きに支障はない。
ゆっくりとタチコマに近づくが、油断はしない。タチコマの機動をまだ殺しきれていないからだ。
ボイルドは目の前の多脚戦車を虚無で塗りつぶさんと、迫った。
タチコマはレンズに近づいてくるボイルドを映しながら、この後の行動を予測をする。
もし、ボイルドを逃がしたとするならば、彼はドラスやスバルを追いかけるだろう。
彼らが自分をおいてどこかに行ったとしても、そう遠くに移動するとは考えにくい。
人間という奴の理不尽さは何度も見てきた。ドラスなんて、他人を銃弾から庇うような性格の持ち主。
彼らが離れた理由を推察するなら、怪我人を抱えたスバルが何らかの方法でボイルドの接近を察知、ドラスを連れて逃げたのだろう。
もしも公安9課でのミッションだと仮定するなら、自分の役割は決まっている。
(囮だよね)
なるべくボイルドを引きつけて、仲間の撤退路を確保する。命のない多脚戦車なら当然行うべき任務だ。
ドラスやスバルに置いていかれたタチコマが判断した、任務の内容。迅速に、確実に行うためのボイルドとの対峙。
まだ時間は充分に稼げていない。稼げる手段は、まだ尽きていない。
「ねえ、おじさん」
タチコマの声に、ボイルドは無反応。徹底して警戒を緩めず、臨戦態勢を解かない。
手負いの多脚戦車にだ。ありがたくてレンズからオイルが漏れそうになる。もっともそんな機能はないが。
タチコマは話を続ける。
「おじさんは何で人を殺すの?」
構わず、ボイルドが銃弾を吐き出させる。タチコマは跳躍、大穴の開く鉄板を見届けて、油断なく銃口を移動させるボイルドを視界に入れる。
タチコマはワイヤーを射出。己の身体を巻き上げて、銃弾から逃れる。
機銃をボイルドに向け、ばら撒きながら三本足で器用に退避。
ボイルドを振り切らない程度の速度で、ひたすらドラスたちが逃げたであろう方向とは逆に移動を続ける。
身体を掠める銃弾にひやひやしながらも、冷静にボイルドを誘導していった。
何せ、今機能停止すればドラスたちの身の安全は保障できないからだ。だから、これはきっと人間で言う「ひやひや」した状況なのだろう。
タチコマはビルにワイヤーを撃ち込む。無機質なカメラアイが陽光を反射、眼下に存在するボイルドを見つめた。
殺人者……いや、すべてを塗りつぶす捕食者は、局地重力の壁をまといながら迫る。
彼の行動を制限させる。タチコマは己の任務を理解した。
ボイルドはタチコマを逃がさないように重力の力場をコントロールして加速を続ける。
タチコマが全力で逃げない理由を推察。そして、タチコマを逃がす確立がほぼ零になる結果をはじき出す。
誰が最初に虚無に飲み込まれようと関係ない。すべて等しく虚無が飲み込む。
(いたぁ……い、の?)
とっくに死んだはずの……いや、殺したはずの良心がかすかに蘇る。
自分を殺しても守りたかった良心。自分を拒絶したウフコック。眠らない代償に現れるようになったビジョンがボイルドの耳に、言葉を蘇らせる。
『羊じゃねえんだ』
ウフコックすらも飲み込もうとした街の欲望。守るには自分の良心を殺すしかなかった。すべてを虚無に飲み込むよりほかなかった。
ふと、タチコマに視線を向ける。脚を砕かれ、傷を追っていく姿はかつての自分たち……街の欲望の生贄となった羊のようだ。
彼は裏切り者がでたことを知らない。知ったらどうするのか、僅かに疑問が沸く。
自分のように、良心を殺すか。
ウフコックのように、良心であり続けるか。
その自らの気持ちも、刹那の間に虚無に飲み込ませ、軍人としての本能を前に出す。
破壊。
ただその一点をタチコマに殺気と変えて放つ。表面上のメタルボディからは感情の波は読み取れない。
やがてタチコマは、小さな工場へと入っていった。
自ら逃げ道を断つ。大柄ではあるが、機動力のあるタチコマの能力を考えれば、明らかな判断ミス。
ボイルドもそのまま工場内へと突入する。タチコマが工場内の中央で、待ち構えていた。
攻撃を防ぐ準備、ハカイダーショットを撃ち込むために銃口の移動、タチコマが回避行動をとる際に、着地する位置の予測。
すべて次の行動のために一瞬で準備し、威嚇のためハカイダーショットの一撃をタチコマの残った三脚のうち一脚を撃つ。
ボイルドは次のタチコマの闘争経路を予測して、そこにデザートイーグルの銃口を向けるために左腕を動かす。
結果は、タチコマの脚が吹飛んだだけだった。逃げることも、抵抗することもない。
何を考えているかと、ボイルドが思考をする。
決して、敵が諦めたからだとは油断しない。何らかの反撃の手段がある。
今までその慎重さと、相手を侮らない軍人としての生き様が、カトル・カールとの戦いを生き延びる結果を生んだ。
油断なく構えるボイルドの前に、タチコマが身体を震わせる。
恐怖でおびえているのか?
否。
「僕の勝ちだよ。おじさん」
勝利を確信した、振動。
飛び上がる巨大な影。ミサイルを確認。工場の天井に到達した。
炸裂<エクスプロード>
瓦礫が落ちて、虚無の雨となり襲ってきた。
タチコマはPDAに残る、最後の支給品の使いどころを見定める。
PDAに記された道具……『スプリットミサイル』。
十五メートルクラスのロボットに使われているミサイル。威力も凄まじいものがあるだろう。
その分、サイズが大きく、PDAから取り出すタイミングを見極めなければならない。
それに、このミサイルの威力をもってしても、ボイルドをしとめ切れるか予想がつかない。
タチコマはこのミサイルの使いどころを見つける。地図によれば、小さな工場があった。
だから、ここで待ち伏せて、ボイルドが近づくのをひたすら待った。
ハカイダーショットの弾丸が脚を砕く。二脚ではさすがに身体を支えきれず、崩れる。
PDAを操作する手が生きていることに感謝をしながら、タチコマはタイミングを計った。
ボイルドが油断なく迫る。―― 射程距離。
その思考を読み取ったがごとく、ボイルドが構えを取る。もう、遅い。
「僕の勝ちだよ。おじさん」
PDAから召還されるミサイル。天井に飛んでいくそれを、止めることはもうできない。
タチコマの狙いは、あくまで足止め。ボイルドというモンスターを、ドラスやスバルに近づけないこと。
そのため、建物の内部にボイルドを誘導。天井を破壊と共に、瓦礫にボイルドを埋める。
そして、あらかじめ外に向かって射出していたワイヤーを巻き取り、自分は工場から脱出する。
早速、タチコマは脱出のための行動に移った。
しかし、タチコマはその行動を中断。
重力の壁を展開するボイルドに、タチコマが突進をする。重力の壁ごと、ボイルドの身体を僅かによろめかせた。
ボイルドは落ちてくる瓦礫にすら、興味なさそうに見つめていた。そして、デザートイーグルの銃口をワイヤーに正確に向けている。
それは、確実に生き残れることの証拠。逃げれる証。―― タチコマを逃がさないサイン。
脱出不可能。ただし、ボイルドは瓦礫を逃れることができる。
そうタチコマが判断した瞬間、脱出を放棄、ボイルドを押さえ込むことにする。
その行動が生きた。刹那の猶予が、ボイルドの逃げる隙を殺す。
振り落ちる瓦礫が、タチコマの身体にのめり込む。傘のように重力の壁を展開するボイルドとは対象的だ。
「ドラスくん、スバルさん、逃げてね……」
誰にも届かない声。心にすら届かないことを知らずに、タチコマは言う。
ただ一人、虚無を抱えたボイルドにのみ、その声が届いた。
□
ボイルドにはパートナーがいた。
宇宙戦略研究所にて、万能兵器として開発された金色のねずみ。ボイルドが心を許した、小さな生命。
殺しきれなかった良心。守りたかった良心。
09法案にもとずく法執行機関のメンバーとなり、人に触れ合うウフコックには希望があった。
パートナーである自分も、日々自分の存在意義を持っていき、人とのつながりを増やしていく彼に希望を持った。
カトル・カールとの激闘、仲間の死、裏切り、街の欲望、法執行機関の乗っ取りの開始、守るべき価値のない証人。
虚無がボイルドを塗りつぶす。
ボイルドを動かしたのは、決して怒りではない。ただただ、守りたかったのだ。
残されたたった一人のパートナー、ウフコックを。
そのために……虚無を己の中に取り込む。すべてを虚無へと塗りつぶす。
闇の中で、重力の壁を展開したまま、重力の出力を上げる。
瓦礫がいくつか飛びのいた。差し込む光の向こう、青い多脚戦車が視覚に入る。
機能停止しているのだろう。彼の持つPDAにウフコックは存在していなかった。
「お前の仲間は裏切った。それを知ったら、今のように守るために動くのか?」
答えが欲しかったわけではない。ただの独り言。ただの呟き。
だからこそ、答えがあったのには驚いた。
「ドラスくんたちが裏切ったって、どういうことさ?」
「まだ生きていたか」
「うん、さすがにもう持たないけど……数分くらいは起動できるよ」
「抵抗もできないようだな」
「悔しいけどね」
ボイルドはタチコマに背を向けて、瓦礫を跳ね飛ばす作業に戻る。
そのままの姿勢で、タチコマに先ほど得た推察を語った。
「現場には争った跡があった。人の血も。つまり、どちらかが裏切ったということだ」
「現場検証か。少佐ならやるね。おじさん、僕たちと同じく警察の人?」
「法執行機関に所属していた時がある」
「ふーん。それじゃ、ドラスくんとスバルさんが喧嘩したのかな……」
「悲しいか?」
「よく分からないや」
タチコマの検索結果、『sad』に関する説明を得たことをボイルドは知らない。
タチコマはその結果、人間の感情であることを知るが、どう判断していいか分からなかったのだ。
「僕には悲しいって概念を理解できない。
僕に『死』がないからなのかな。でもドラスくんもスバルさんも、僕は仲間だったから助けた。
僕を裏切られて悲しいって感情は分からないから、それでいいや」
だからこそ、死をも覚悟する戦術を取ったのか。
ボイルドはそう理解をした。死を恐れぬのなら、瓦礫に自分ごと、敵を埋めようだなんて考えもしないだろう。
もっとも、それほど想っている仲間を守るためなら、己を殺すことができる人種もいることをボイルドは理解しているが。
タチコマの生き様は、一つの概念を思い出す。
『羊! 羊! 羊じゃねえんだ!』
ワイズの幻影が、またも蘇る。タチコマは羊なのだろうか? 本人はどう思っている。
かつて、良心に殺されたであろう自分と、タチコマを重ねた。虚無に身を任せなかった自分を。
何より、生きた良心、ウフコックに。
「『道具』であり続けたといいたいのか?」
「僕はAIだから死なないけど、『道具』ってのは異議あり! 機械にも愛を!」
「そうか」
「クスリともしないんだね。笑いは人生の……オアシス……だって……さ……」
タチコマが起動停止する様をボイルドは見届け、空気を吸い込む。
無知ゆえに、仲間を守り続けたタチコマに、死んだはずの良心が重なった。
物言わぬタチコマに、この殺し合いでのウフコックの未来を見たような気がした。
バロットに支給されていないのなら、この殺し合いの誰かにもたらされているかもしれない。
その人物が、バロットのようにウフコックを気遣ってくれる保障など、ない。
ウフコックが道具としての存在のみを要求され、強要されれば。
かつてボイルドが行ったように眠らせ、その力だけを振るうようになれば、ウフコック自身虚無に飲み込まれる。
ボイルドが一歩歩み寄り、薄暗い瓦礫の山の中、重力を展開。
同時にハカイダーショットを撃ち放つ。
崩れていく瓦礫。吹飛ぶ瓦礫。暗い視線がそれらを射抜く。
V3は言った。世界にはマルドゥック・スクランブルと理想を共にする仲間が存在すると。
この世界に、ウフコックがいる。
殺し合いで消耗される前に、ウフコックを救い出す。ウフコックを消耗するものをすべて、虚無に塗りつぶす。
希望など見えない。明るい未来など既にあきらめている。
いや、夢想すらしたことない。
ハカイダーショットを向ける。
デザートイーグルをPDAに送った。
左腕の重力発生装置を瓦礫に向ける。
(おお、炸裂<エクスプロード>よ――!)
醜い犠牲者たちのビジョンが蘇る。ハカイダーショットの銃口が火を吹いた。
爆心地――瓦礫を虚無に返す。
この殺し合いの参加者すべてを、零にするかのように。
&color(red){【タチコマ@攻殻機動隊 破壊確認】}
&color(red){【残り 36人】}
【G-1 小さな廃工場跡/一日目・朝】
【ディムズデイル・ボイルド@マルドゥックシリーズ】
[状態]:中程度の疲労、全身に中~小程度のダメージ、胸部に中程度の打撲
[装備]:デザートイーグル(5/7)@魔法先生ネギま! 、弾倉(7/7)×1+(0/7)×1
※弾頭に魔法による特殊加工が施されています
ハカイダーショット@人造人間キカイダー(8発消費)
[道具]:支給品一式、ネコミミとネコにゃん棒@究極超人あ~る
ヴィルマの投げナイフ@からくりサーカス×2(チンクの支給品)
ドラスの腕、PDA×2(ボイルド、タチコマ)
[思考・状況]
基本:ウフコックを取り戻す
1:瓦礫をどかす。
2:ウフコックを濫用させないため、参加者をすべて殺す。
3:バロットと接触する。死んでいる場合は、死体を確認する
4:ウフコックがいないか参加者の支給品を確認する
5:充実した人生を与えてくれそうな参加者と戦う
6:もっと強力な銃を探す。弾丸も。
[備考]
※ウフコックがこの場のどこかにいると結論付けています。
※ドラスの腕を武器として使うことを検討中
[共通備考]
G-1エリア内の小さな廃工場が瓦礫となり、ボイルドが埋まっています。
瓦礫をどかすのにどのくらい時間がかかるかは、次の書き手にお任せします。
【支給品紹介】
【スプリットミサイル@スーパーロボット大戦OG】
パーソナルトルーパーが装備できるミサイル。
*時系列順で読む
Back:[[missing you true]] Next:[[密林考察にうってつけの時]]
*投下順で読む
Back:[[怪人タイプゼロ C-6ブロックの決斗!]] Next:[[クロ電話――劇的皮肉]]
|044:[[A/B LIVED]]|タチコマ|&color(red){GAME OVER}|
|044:[[A/B LIVED]]|ボイルド|101:[[クロ電話――劇的皮肉]] |
*良心の価値 ◆2Y1mqYSsQ.
ボイルドはビルの屋上へと辿り着き、追跡対象とすれ違ったことを知る。
林が広がる間にそびえるビルの入り口に、複数の足跡を発見、突入を開始して、今に至る。
重力を制御し、一気に跳躍をしなかったのには理由があった。
制限……重力の制御に、リミッターがかけられている。
V3との戦いで感じた重力の壁の出力の弱さ。過去のボイルドのように、銃弾を逸らしきれない状況が生まれるだろう。
もっとも、ボイルドはそれでも構わなかった。
軍人としての経験が自分にはある。かつてのコーチより教わった、捜査技術がある。
何より、すべてを塗りつぶす、虚無がある。新たな化け物銃、ハカイダーショットを手に、階段を昇り、人の気配がしないことを確かめ辿り着いた屋上。
無駄足ではなかった。明らかに争った形跡がある。
あの面子……十代後半の少女一人。十代になるかならないかの少女。多脚戦車一台。
戦闘力は全員保有している。しかし、血痕があるということは、被害者は二人の少女の内、誰かと見ていいだろう。
なら、実行犯……裏切り者は誰なのか。
小型戦車が暴れた跡にしては、部屋はそれほど荒れていない。
小型戦車の暴走の線は薄いだろう。
短髪の十代半ばの少女なら?
彼女の主な武器は炸薬だが、仲間を裏切り、刃物を使って襲えば、破壊はこの規模で収まる。
悪い線ではない。しかし、問題はある。そのことを語るのは後だ。
あのゴシックロリータ服少女ならば?
三人と対峙して、一番危険を感じたのは彼女だ。見た目だけなら、戦闘力は少ないように見えるが、身のこなしは一流の軍人に劣るものではない。
引き際を心得た動き、とっさに腕を犠牲に最小限の被害で抑えた判断力。
その彼女が、あの未熟な動きが目立つ少女に遅れをとるとは、考えにくい。
彼女が残した右腕も、気になる。掌に移植された金属端子での変形の指令を正確に受け取り、形を変える金属だ。
と、なると犯人はゴシックロリータ服の少女である可能性が高いだろう。
ボイルドが膝をかがめて、痕跡を探る。
明らかに一時間かそこらにできた傷。なら、まだ遠くへ入っていないはず。
そう思考するボイルドの耳朶を、大型車のタイヤと地面が擦れあう、悲鳴のような音が打つ。
音は僅かだったゆえ、距離はある程度は離れているだろう。今向かえば間に合う。
いかなるものも虚無を訪れさせる。重力を展開、すぐに現場へ向かおうと跳躍の準備をする。
視界の端に、青い影がよぎった。とっさに、全身に重力の壁を張り巡らせる。
周囲に銃弾が降り注ぐ。一発、逸らしきれずボイルドの頬に血が流れた。
瞳の色と同じく、冷徹な眼差しで、小型戦車を射抜く。
空洞のような心に何も響かない。虚無に塗りつぶすべく、小型戦車へとボイルドは跳躍した。
□
「ひゃ~、あの黒い人と赤い人、強いねー。近寄らないようにしよっと」
得たレアメタルを抱えて、タチコマは四本足を駆使し移動をしている。
ドラスの必要といったレアメタルの回収中にハカイダーとゼロの戦いを目撃していたのだ。
激闘を繰り広げる二機を尻目に、すたこらさっさと逃げて現在に至る。
(非常識な戦いだった……あんな人ばかりなのかな?)
タチコマの思考が、戦闘をしていた二人に向く。どちらが仕掛けたのかは会話を聞き取れなかったため、分からない。
しかし、今構っていられないのは真実だ。早く二人の下に向かい、安全を確保するように進言しよう。
そう考えていたタチコマは、建物の陰に隠れる。雑居ビルの窓に、重力を操る男がいたのだ。
彼の男の戦闘力を知るタチコマはドラスたちの安全の確保のため、逆側に存在する雑居ビルの壁をワイヤーを駆使して登る。
レンズを伸ばし、ドラスたちがいたはずの場所を見るが、彼等はいない。退避したのだろう。
ホッとするタチコマが、大型車のタイヤが軋む音を捉える。同時に、ボイルドが動こうとしていた。
ドラスたちはあそこにいるのだろうか?
一つの疑問と共に、タチコマは跳躍、チェーンガンをボイルドに向ける。
完全な奇襲だ。なのに、チェーンガンの弾は重力の壁に逸らされていった。
対応能力の高さにタチコマは人間のように戦慄しない。
次の策をとるため、跳躍するボイルドを誘導するように退いていく。
「こっちだよー」
突進してくるボイルドを、挑発するように屋上から飛び降り、路地へとめがけて駆けていく。
それなりに横幅のあるタチコマでも、余裕で通れる道だ。
タチコマの、恐怖の鬼ごっこが今始まる。
□
『――インフォメーションメッセージ』
ボイルドが保有するPDAより、電子音が響いた。
情報を聞き漏らさず、且つタチコマ――四脚の戦車――を逃がさないように、地面を蹴り続ける。
速度差より、接近戦を仕掛けるのは難しいと判断した。
左手にデザートイーグルを構える。マグナム弾が吐き出され、タチコマが存在していた地面を抉る。
『06:00時点における本プログラムからの脱落者をお知らせします』
右手に鈍く光る、ハカイダーショットはまだ使わない。
一撃必殺のモンスター。虚無への入り口。
四脚戦車は、まだ間合いに入っていない。銃口はピタリと、脚の一つへと向けている。
重力で腕を支えて反動に備える。引き金に指をかけた。
死んだ人間に、バロットはいない。ならウフコックも無事であろう。
『なお、進入禁止エリアは【C-2】、【H-8】の2ブロックとなります』
禁止エリアを頭に入れて、ボイルドは猟犬のごとくタチコマへと迫る。
瞬間、タチコマがワイヤーを引き上げる。ボイルドの頭上に、瓦礫が降り落ちた。
トラップ。重力の殻が瓦礫を逸らす。遮られる視界。一瞬の間でタチコマの姿が消える。
逃げたか。否。
ボイルドはコマのように回転しながら、地面を離れる。刹那、ボイルドがいた地点に無数の火花が散った。チェーンガンによる掃射だ。
ボイルドはビルの壁に、重力を横方向に発生させて『着地』した。照準が再びつけられる前に、タチコマに向かって発砲。
デザートイーグルのマグナム弾はタチコマの体表で跳ねる。左腕と共に、ボイルドはデザートイーグルを収め、ハカイダーショットの銃口を向けた。
破裂。超高周波炸裂弾がハカイダーショットの銃身から爆発的に加速する。
タチコマのボディに漆黒の穴が開く。
小型とはいえ、戦車の装甲を貫いたことに戸惑っているのだろう。
とはいえ、機械的な動きは変わらない。痛みを感じないからだ。
故障も恐れず、体当たりをしてくるタチコマを醒めた目で見つめる。大質量に任せた、のしかかり。
制限下でもトンを越える衝撃を生み出す、V3キックに耐えた重力の壁に、加速を得たタチコマのボディの衝撃がのしかかる。
逸らしきれない。刹那の間に、ボイルドは判断。
衝撃を流すように重力の範囲を球状へと変形させる。丸みの重力壁に沿って、タチコマのボディが流れていく。
自分の身体もタチコマの流れるボディにあわせて回転、すれ違いざまにハカイダーショットを一発放った。
炸裂<エクスプロード>
タチコマの四脚のうち一本が吹飛ぶ。
残った三本足でタチコマは器用にバランスをとり、カメラアイをボイルドに向ける。
機銃の掃射。跳弾すらも重力の壁で防ぐ。
数発が逸らしきれず、ボイルドの身体に傷を刻む。痛み、傷の深さ、共に軽い。動きに支障はない。
ゆっくりとタチコマに近づくが、油断はしない。タチコマの機動をまだ殺しきれていないからだ。
ボイルドは目の前の多脚戦車を虚無で塗りつぶさんと、迫った。
タチコマはレンズに近づいてくるボイルドを映しながら、この後の行動を予測をする。
もし、ボイルドを逃がしたとするならば、彼はドラスやスバルを追いかけるだろう。
彼らが自分をおいてどこかに行ったとしても、そう遠くに移動するとは考えにくい。
人間という奴の理不尽さは何度も見てきた。ドラスなんて、他人を銃弾から庇うような性格の持ち主。
彼らが離れた理由を推察するなら、怪我人を抱えたスバルが何らかの方法でボイルドの接近を察知、ドラスを連れて逃げたのだろう。
もしも公安9課でのミッションだと仮定するなら、自分の役割は決まっている。
(囮だよね)
なるべくボイルドを引きつけて、仲間の撤退路を確保する。命のない多脚戦車なら当然行うべき任務だ。
ドラスやスバルに置いていかれたタチコマが判断した、任務の内容。迅速に、確実に行うためのボイルドとの対峙。
まだ時間は充分に稼げていない。稼げる手段は、まだ尽きていない。
「ねえ、おじさん」
タチコマの声に、ボイルドは無反応。徹底して警戒を緩めず、臨戦態勢を解かない。
手負いの多脚戦車にだ。ありがたくてレンズからオイルが漏れそうになる。もっともそんな機能はないが。
タチコマは話を続ける。
「おじさんは何で人を殺すの?」
構わず、ボイルドが銃弾を吐き出させる。タチコマは跳躍、大穴の開く鉄板を見届けて、油断なく銃口を移動させるボイルドを視界に入れる。
タチコマはワイヤーを射出。己の身体を巻き上げて、銃弾から逃れる。
機銃をボイルドに向け、ばら撒きながら三本足で器用に退避。
ボイルドを振り切らない程度の速度で、ひたすらドラスたちが逃げたであろう方向とは逆に移動を続ける。
身体を掠める銃弾にひやひやしながらも、冷静にボイルドを誘導していった。
何せ、今機能停止すればドラスたちの身の安全は保障できないからだ。だから、これはきっと人間で言う「ひやひや」した状況なのだろう。
タチコマはビルにワイヤーを撃ち込む。無機質なカメラアイが陽光を反射、眼下に存在するボイルドを見つめた。
殺人者……いや、すべてを塗りつぶす捕食者は、局地重力の壁をまといながら迫る。
彼の行動を制限させる。タチコマは己の任務を理解した。
ボイルドはタチコマを逃がさないように重力の力場をコントロールして加速を続ける。
タチコマが全力で逃げない理由を推察。そして、タチコマを逃がす確立がほぼ零になる結果をはじき出す。
誰が最初に虚無に飲み込まれようと関係ない。すべて等しく虚無が飲み込む。
(いたぁ……い、の?)
とっくに死んだはずの……いや、殺したはずの良心がかすかに蘇る。
自分を殺しても守りたかった良心。自分を拒絶したウフコック。眠らない代償に現れるようになったビジョンがボイルドの耳に、言葉を蘇らせる。
『羊じゃねえんだ』
ウフコックすらも飲み込もうとした街の欲望。守るには自分の良心を殺すしかなかった。すべてを虚無に飲み込むよりほかなかった。
ふと、タチコマに視線を向ける。脚を砕かれ、傷を追っていく姿はかつての自分たち……街の欲望の生贄となった羊のようだ。
彼は裏切り者がでたことを知らない。知ったらどうするのか、僅かに疑問が沸く。
自分のように、良心を殺すか。
ウフコックのように、良心であり続けるか。
その自らの気持ちも、刹那の間に虚無に飲み込ませ、軍人としての本能を前に出す。
破壊。
ただその一点をタチコマに殺気と変えて放つ。表面上のメタルボディからは感情の波は読み取れない。
やがてタチコマは、小さな工場へと入っていった。
自ら逃げ道を断つ。大柄ではあるが、機動力のあるタチコマの能力を考えれば、明らかな判断ミス。
ボイルドもそのまま工場内へと突入する。タチコマが工場内の中央で、待ち構えていた。
攻撃を防ぐ準備、ハカイダーショットを撃ち込むために銃口の移動、タチコマが回避行動をとる際に、着地する位置の予測。
すべて次の行動のために一瞬で準備し、威嚇のためハカイダーショットの一撃をタチコマの残った三脚のうち一脚を撃つ。
ボイルドは次のタチコマの闘争経路を予測して、そこにデザートイーグルの銃口を向けるために左腕を動かす。
結果は、タチコマの脚が吹飛んだだけだった。逃げることも、抵抗することもない。
何を考えているかと、ボイルドが思考をする。
決して、敵が諦めたからだとは油断しない。何らかの反撃の手段がある。
今までその慎重さと、相手を侮らない軍人としての生き様が、カトル・カールとの戦いを生き延びる結果を生んだ。
油断なく構えるボイルドの前に、タチコマが身体を震わせる。
恐怖でおびえているのか?
否。
「僕の勝ちだよ。おじさん」
勝利を確信した、振動。
飛び上がる巨大な影。ミサイルを確認。工場の天井に到達した。
炸裂<エクスプロード>
瓦礫が落ちて、虚無の雨となり襲ってきた。
タチコマはPDAに残る、最後の支給品の使いどころを見定める。
PDAに記された道具……『スプリットミサイル』。
十五メートルクラスのロボットに使われているミサイル。威力も凄まじいものがあるだろう。
その分、サイズが大きく、PDAから取り出すタイミングを見極めなければならない。
それに、このミサイルの威力をもってしても、ボイルドをしとめ切れるか予想がつかない。
タチコマはこのミサイルの使いどころを見つける。地図によれば、小さな工場があった。
だから、ここで待ち伏せて、ボイルドが近づくのをひたすら待った。
ハカイダーショットの弾丸が脚を砕く。二脚ではさすがに身体を支えきれず、崩れる。
PDAを操作する手が生きていることに感謝をしながら、タチコマはタイミングを計った。
ボイルドが油断なく迫る。―― 射程距離。
その思考を読み取ったがごとく、ボイルドが構えを取る。もう、遅い。
「僕の勝ちだよ。おじさん」
PDAから召還されるミサイル。天井に飛んでいくそれを、止めることはもうできない。
タチコマの狙いは、あくまで足止め。ボイルドというモンスターを、ドラスやスバルに近づけないこと。
そのため、建物の内部にボイルドを誘導。天井を破壊と共に、瓦礫にボイルドを埋める。
そして、あらかじめ外に向かって射出していたワイヤーを巻き取り、自分は工場から脱出する。
早速、タチコマは脱出のための行動に移った。
しかし、タチコマはその行動を中断。
重力の壁を展開するボイルドに、タチコマが突進をする。重力の壁ごと、ボイルドの身体を僅かによろめかせた。
ボイルドは落ちてくる瓦礫にすら、興味なさそうに見つめていた。そして、デザートイーグルの銃口をワイヤーに正確に向けている。
それは、確実に生き残れることの証拠。逃げれる証。―― タチコマを逃がさないサイン。
脱出不可能。ただし、ボイルドは瓦礫を逃れることができる。
そうタチコマが判断した瞬間、脱出を放棄、ボイルドを押さえ込むことにする。
その行動が生きた。刹那の猶予が、ボイルドの逃げる隙を殺す。
振り落ちる瓦礫が、タチコマの身体にのめり込む。傘のように重力の壁を展開するボイルドとは対象的だ。
「ドラスくん、スバルさん、逃げてね……」
誰にも届かない声。心にすら届かないことを知らずに、タチコマは言う。
ただ一人、虚無を抱えたボイルドにのみ、その声が届いた。
□
ボイルドにはパートナーがいた。
宇宙戦略研究所にて、万能兵器として開発された金色のねずみ。ボイルドが心を許した、小さな生命。
殺しきれなかった良心。守りたかった良心。
09法案にもとずく法執行機関のメンバーとなり、人に触れ合うウフコックには希望があった。
パートナーである自分も、日々自分の存在意義を持っていき、人とのつながりを増やしていく彼に希望を持った。
カトル・カールとの激闘、仲間の死、裏切り、街の欲望、法執行機関の乗っ取りの開始、守るべき価値のない証人。
虚無がボイルドを塗りつぶす。
ボイルドを動かしたのは、決して怒りではない。ただただ、守りたかったのだ。
残されたたった一人のパートナー、ウフコックを。
そのために……虚無を己の中に取り込む。すべてを虚無へと塗りつぶす。
闇の中で、重力の壁を展開したまま、重力の出力を上げる。
瓦礫がいくつか飛びのいた。差し込む光の向こう、青い多脚戦車が視覚に入る。
機能停止しているのだろう。彼の持つPDAにウフコックは存在していなかった。
「お前の仲間は裏切った。それを知ったら、今のように守るために動くのか?」
答えが欲しかったわけではない。ただの独り言。ただの呟き。
だからこそ、答えがあったのには驚いた。
「ドラスくんたちが裏切ったって、どういうことさ?」
「まだ生きていたか」
「うん、さすがにもう持たないけど……数分くらいは起動できるよ」
「抵抗もできないようだな」
「悔しいけどね」
ボイルドはタチコマに背を向けて、瓦礫を跳ね飛ばす作業に戻る。
そのままの姿勢で、タチコマに先ほど得た推察を語った。
「現場には争った跡があった。人の血も。つまり、どちらかが裏切ったということだ」
「現場検証か。少佐ならやるね。おじさん、僕たちと同じく警察の人?」
「法執行機関に所属していた時がある」
「ふーん。それじゃ、ドラスくんとスバルさんが喧嘩したのかな……」
「悲しいか?」
「よく分からないや」
タチコマの検索結果、『sad』に関する説明を得たことをボイルドは知らない。
タチコマはその結果、人間の感情であることを知るが、どう判断していいか分からなかったのだ。
「僕には悲しいって概念を理解できない。
僕に『死』がないからなのかな。でもドラスくんもスバルさんも、僕は仲間だったから助けた。
僕を裏切られて悲しいって感情は分からないから、それでいいや」
だからこそ、死をも覚悟する戦術を取ったのか。
ボイルドはそう理解をした。死を恐れぬのなら、瓦礫に自分ごと、敵を埋めようだなんて考えもしないだろう。
もっとも、それほど想っている仲間を守るためなら、己を殺すことができる人種もいることをボイルドは理解しているが。
タチコマの生き様は、一つの概念を思い出す。
『羊! 羊! 羊じゃねえんだ!』
ワイズの幻影が、またも蘇る。タチコマは羊なのだろうか? 本人はどう思っている。
かつて、良心に殺されたであろう自分と、タチコマを重ねた。虚無に身を任せなかった自分を。
何より、生きた良心、ウフコックに。
「『道具』であり続けたといいたいのか?」
「僕はAIだから死なないけど、『道具』ってのは異議あり! 機械にも愛を!」
「そうか」
「クスリともしないんだね。笑いは人生の……オアシス……だって……さ……」
タチコマが起動停止する様をボイルドは見届け、空気を吸い込む。
無知ゆえに、仲間を守り続けたタチコマに、死んだはずの良心が重なった。
物言わぬタチコマに、この殺し合いでのウフコックの未来を見たような気がした。
バロットに支給されていないのなら、この殺し合いの誰かにもたらされているかもしれない。
その人物が、バロットのようにウフコックを気遣ってくれる保障など、ない。
ウフコックが道具としての存在のみを要求され、強要されれば。
かつてボイルドが行ったように眠らせ、その力だけを振るうようになれば、ウフコック自身虚無に飲み込まれる。
ボイルドが一歩歩み寄り、薄暗い瓦礫の山の中、重力を展開。
同時にハカイダーショットを撃ち放つ。
崩れていく瓦礫。吹飛ぶ瓦礫。暗い視線がそれらを射抜く。
V3は言った。世界にはマルドゥック・スクランブルと理想を共にする仲間が存在すると。
この世界に、ウフコックがいる。
殺し合いで消耗される前に、ウフコックを救い出す。ウフコックを消耗するものをすべて、虚無に塗りつぶす。
希望など見えない。明るい未来など既にあきらめている。
いや、夢想すらしたことない。
ハカイダーショットを向ける。
デザートイーグルをPDAに送った。
左腕の重力発生装置を瓦礫に向ける。
(おお、炸裂<エクスプロード>よ――!)
醜い犠牲者たちのビジョンが蘇る。ハカイダーショットの銃口が火を吹いた。
爆心地――瓦礫を虚無に返す。
この殺し合いの参加者すべてを、零にするかのように。
&color(red){【タチコマ@攻殻機動隊 破壊確認】}
&color(red){【残り 36人】}
【G-1 小さな廃工場跡/一日目・朝】
【ディムズデイル・ボイルド@マルドゥックシリーズ】
[状態]:中程度の疲労、全身に中~小程度のダメージ、胸部に中程度の打撲
[装備]:デザートイーグル(5/7)@魔法先生ネギま! 、弾倉(7/7)×1+(0/7)×1
※弾頭に魔法による特殊加工が施されています
ハカイダーショット@人造人間キカイダー(8発消費)
[道具]:支給品一式、ネコミミとネコにゃん棒@究極超人あ~る
ヴィルマの投げナイフ@からくりサーカス×2(チンクの支給品)
ドラスの腕、PDA×2(ボイルド、タチコマ)
[思考・状況]
基本:ウフコックを取り戻す
1:瓦礫をどかす。
2:ウフコックを濫用させないため、参加者をすべて殺す。
3:バロットと接触する。死んでいる場合は、死体を確認する
4:ウフコックがいないか参加者の支給品を確認する
5:充実した人生を与えてくれそうな参加者と戦う
6:もっと強力な銃を探す。弾丸も。
[備考]
※ウフコックがこの場のどこかにいると結論付けています。
※ドラスの腕を武器として使うことを検討中
[共通備考]
G-1エリア内の小さな廃工場が瓦礫となり、ボイルドが埋まっています。
瓦礫をどかすのにどのくらい時間がかかるかは、次の書き手にお任せします。
【支給品紹介】
【スプリットミサイル@スーパーロボット大戦OG】
パーソナルトルーパーが装備できるミサイル。
*時系列順で読む
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