【名前】ブリゲッラ・カヴィッキオ・ダ・ヴァル・ブレンバーナ
【出典】からくりサーカス
【性別】男
【支給品】ほうじ茶ラテ@SSSS.GRIDMAN、白磁等級の認識票@ゴブリンスレイヤー、爆竹ミサイル@Dr.スランプ アラレちゃん
【スタンス】造物主(フェイスレス)奉仕マーダー→対主催
【台詞】
「この拳と、在るか無きかの心の先にあるものを、狂いの果てにでも掴み取ってみせる」
『あの一発が、なかったなら!!!』
【人物】
全身をコートに包み、目深に帽子を被った小柄な自動人形。フェイスレス第一の僕である〈最後の四人(レ・デルニエ・キャトル)〉の一人にして、人の編み出した「格闘技」を研究し身につけた戦闘狂。格闘家からアフリカ象のような巨獣までも己が拳で打ち斃し、「自分が優れていることを、道具の力などではなく自分で証明」しようとする。本来はコートの下に無数の小型ミサイルを主武器として備えた遠距離攻撃型の人形であるが、自分の機構を忌み嫌い、徒手空拳に固執していた。
原作では最古の四人にして真夜中のサーカスの楽士たるアルレッキーノの音波攻撃に苦戦し封印していたミサイルを解放してしまい、敵を一撃で消し飛ばす暗い快楽にとりつかれる。
そして、その後の加藤鳴海との戦闘において、ミサイルを用いようとしたことがきっかけで鳴海の再覚醒と逆転を許し、「なんということだ!あの一発!あの一発のミサイルさえ撃たなかったら…あの一発さえなかったら!」という後悔と己に対する絶望の坩堝の中で破壊された。
【本ロワでの動向】
原作での無念の敗北後から参戦。
造物主であるフェイスレスを優勝させるため奉仕マーダーとなったものの、同じ「最後の四人」であるカピタン・グラツィアーノと異なり、鳴海に破壊されるまでの経緯を精細に覚えていたため、己への怒りと雪辱を晴らさんとする意地の方が勝っている始末だった。
支給品はドブくさいラテに駆け出し冒険者のライセンスにしけた爆竹と見事に役立たないものばかりであったが、元より道具になど頼る気はない。
手始めに、そこらを規則的に巡回していた馴染みのないオートマータ──駅の侵食したエリアを徘徊する自動改札@横浜駅を拳撃で破壊すると、今度こそ己の強さを証明してみせると獲物を求めてさ迷う。
そうして最初に出会った参加者は、青い肌したクール&クレイジーな死のロッカー、ザベル・ザロック。
ブリゲッラ「変わった人間だな。だが、まあいい。我が虎撲手によって地獄へ行け!」
ザベル「じ・ご・く・だァ~!?ヒャヒャヒャ、さっきそこから来たばっかだぜェ!!」
挑発するザベルに苛立ちながら、怒濤の殺人コンボを繰り出すも、格闘技オタクなブリゲッラに対して、相手は格闘ゲームの住人。トリッキーでリーチの長い各種の技、見たこともない自在の空中ダッシュ、ヘルズゲートによるワープなど、既存の格闘理論の全く通じないアクションやザベル自身のめちゃくちゃなテンションに翻弄され、挙げ句の果てには、デスフレーズの音波を前にして「が…馬鹿な…これは!!あの忌々しい旧式の楽士の…!?」とトラウマを刺激されながらブン殴られて吹っ飛ばされる。とうとう、「ここで…ここでまた負けるわけには…!」と形振り構わなくなってコートを広げ、針ネズミのようなミサイル機構を全解放して攻撃を仕掛けたものの、制限もあってか、或いは相性か、なんと発射したそれらを悉く回避したザベルに再度叩きのめされ、完全敗北。とどめを刺されそうなところを何とか離脱し、「死に損ないが!おっと、そりゃオレもかァ!?」などと嘲笑を浴びながら敗走する。
全身にひどいダメージを負った上、拳ばかりか奥の手のミサイルまでも攻略されて、ブリゲッラのプライドは粉みじんにされてしまった。
だが、持てる手の全てを粉砕され負けたことが、皮肉にも彼に「吹っ切れる」機会を与えた。あれ程までに己を苦しめたミサイルも、効かない相手には効かないし、負ける時は負ける。ダメージに揺れる思考の中で、呆然と考えながら、一種の無我の境地に達したブリゲッラは、夢遊病者のようになりながら、次に出会った参加者――吉田沙保里に戦いを挑む。
ドラえもんと行動を共にしていた彼女は、いきなり目の前に現れた幽鬼のような全身コートの男に驚愕するも、正々堂々と勝負を受け、ここに霊長類最強女子を謳われるアスリートと〈最後の四人〉のガチンコが実現。
何かに憑かれたようにこれまで学んだ数々の技を繰り出すブリゲッラと、持ち前の観察眼とタフネスでそれらを受け、或いは避けつつ組み付いていく吉田沙保里の凄まじい応酬、手に汗握る無数の攻防の末に、沙保里の繰り出した必殺のタックル――トーニャ・バービークやソフィア・マットソンら、数多の強者との戦いで研鑽された高速タックルによって、すでに耐用限界を超えていたブリゲッラは地に沈んだ。
倒れたまま、「私の負けだ…破壊しろ」と呟いて昏倒したその姿をじっと見つめ、自らも立ち上がれない程の疲労で息をつきながら、吉田沙保里は「沙保里さん、やっぱり強いなあ!」と感嘆の声をかけてきたドラえもんに、「いいや、この人…私よりずっと強いよ。万全の状態なら、きっと、負けてた」と返す。同時に、「でも、こんなに強いのに…なんてがむしゃらで悲しい、空っぽな技なんだろう…」とも。……世界屈指のアスリートであり、数えきれないほどの相手と戦ってきた彼女には、ブリゲッラの抱えた業と空虚が感じ取れたのかもしれない。
と、その時、彼らの居る場所めがけて、ピンク色の閃光が飛んで来る。
武藤遊戯の召喚したエース
モンスター、『管理局の白い悪魔(ホワイトデビルマジシャンガール)』による攻撃であった。本来の遊戯ならばいざ知らず、ここに呼ばれていたのはMAD動画シリーズ出展のAIBOであり、MAD内での名言を放ちながら決闘という名の見境のない殺戮を行う驚異のマーダーと化していたのである。
制限下とは言え、W↑D→M↑G↑↑↑の魔法攻撃は凄まじく、間一髪で察しドラえもんを抱えて飛びのいた沙保里は余波に吹き飛ばされ地に転がり、ほぼ直撃を受けたブリゲッラは無残にも四肢を粉々にされ、下半身も破壊されてしまった。
普通の人間ならば即死の一撃であり、自動人形にとっても致命傷に近い破損を受け、ブリゲッラはぼんやりと二度目の死を実感する…しかし、その体を、奇妙な丸い手が抱え上げた。
ドラえもん「ふんぬーーーーー!!!」
ドラえもんが、鼻からピーと息を吹きながら、壊れたブリゲッラを持ち上げ、自分のリュックサックの中に突っ込んだのだ。
「何を、している…お前、フェイスレス様配下ではないな…」
「ちょっと黙ってて!」
「…青狸の自動人形…」
「ぼくは 猫型ロボット!!!」
プンスカ怒るドラえもんは、AIBOがWDMGのみならず、魔王の嫁たる『黒騎士の魔剣少女(ブラックナイトマジシャンガール)』までも召喚したのを目にして、一人で相手どろうとして負傷していた沙保里に呼びかけ、なけなしのひみつ道具を使って命からがらその場から離脱した。
何とか逃れ切ったところで、ドラえもんは沙保里を治療し、さらに持ち合わせの道具で悪戦苦闘しながら、ブリゲッラの修理をも開始。技の要である手足も破壊され、身動きの取れないブリゲッラは、羞恥と悔恨の中、「こんな屈辱を味わうくらいなら自壊する」とわめくが、ドラえもんは黙々と手を動かしていた。
修理が一段落し、一息ついたドラえもんに、ブリゲッラは尋ねる。
「なぜ私を助けた…? 見たところ医療用・修理用のいずれでも無さそうだ。お前の造物主によってそう命じられているのか?」
「…そんなんじゃないよ。『ぼくがそうしたかったから』やったんだ。
ロボットだとしたって…ぼくたちも、君も…道具なんかじゃないんだよ」
そう返すドラえもんの言葉は、ブリゲッラには不可解なものだった。造物主をこそ至上の存在とし、その役に立つために道具としての己を研鑽し、「使い道」を証明すること。それこそが、それまでの彼にとっての全てだったのだから。
続いて彼は、先ほど自分を下した、見たところ人形破壊者(しろがね)ですらない女に、脅しをかける。
「私は造物主様が僕(しもべ)、最後の四人の一。完全に修理が終われば、造物主様を優勝させるため、お前たちを殺すことになるぞ」
しかし、沙保里から返って来たのは、「いいじゃない。その時は全力の貴方と戦えるってことだね」という台詞であった。
その眸に燃える闘志の炎に、かつての己を破壊した男――加藤鳴海と似た色を見出したブリゲッラは、思考をさらに進めるため、己が惑う「強さ」についてを突き詰めるため、この奇妙な二人組と、行動を共にすることを承諾する。
こうしてここに、21世紀の霊長類最強女子&22世紀のお世話ロボットに、リュック入りした〈最後の四人〉という奇妙すぎるチームが誕生した。
とはいえ、状態としてはあくまで応急処置を施されただけで全く自力では動けないブリゲッラは、戦闘要員はおろか移動もドラえもんと沙保里に依存する文字通りの荷物同然で、敵や別の参加者に会うたびにブツブツとあれはこうだこれはこうだと学んだ格闘知識を喋る有り様から、「格闘技オタクBot」「かばんミサイルマスコット」などと読み手から揶揄される有様であった。
そんな自分については自覚があったらしく、道中では沙保里に対し、
ブリゲッラ「この青狸型自動人形の話によると…」
ドラえもん「だから、僕は、猫型ロボット!!!」
ブリゲッラ「……お前は、人間世界の格闘競技においてほぼ無敵を誇るそうだな。極めんとした拳法を、さらには厭うていた醜い武器を、全機能を用いても無様に敗北を喫し、ただの置物と化している私の姿は滑稽だろう」
などと自嘲している。
しかし、その時も沙保里は、「そんなわけないじゃない、ブリちゃん」と微笑み、告げる。自分も無敵なんかじゃない、いつだって敗北の恐怖と戦ってる、それに、勝つことは大事だし負けたくないけど、格闘技の世界にはそれだけじゃない意味があると思う…と。自分が戦うことで元気づけられる人たちがいることや、自分を倒すために強くなってくる相手と戦って高め合うのもまた喜びだと。
それは、世界を舞台に数多の強豪たちと戦い連勝しながらも常に努力を続けて来た己の試合経験や、2016年リオデジャネイロオリンピックにて、自分を慕い研究し目標としてきたヘレン・マルーリスに遂に敗れ、涙を呑んだ経験から出た言葉だったかもしれない。
いずれにせよ、沙保里の言う「強さ」は、ブリゲッラの知らない「強さ」だった。
これらのやり取りを交わしてからは、ブリゲッラは研究を理由に沙保里とドラえもんを観察することを決め、途中、進化する前のゴブリン@ゴブリンスレイヤーに一行が襲撃された時は、ゴブリンと戦う沙保里にドラえもんのリュックの中からアドバイスを投げかけたりもしている。
次に行き会ったガリガリ君から毒入りアイスキャンデーを渡された時は、危うく沙保里がそれを口にするところだったが、単独行動しつつ様々な参加者を助けていたドナルド・マクドナルドによって助けられ、マックのてりやきバーガー党な沙保里が興奮してドナルドと握手を交わすのを、テリヤキという未知の流派の格闘のことだと勘違いし、ドラえもんにツッコミを入れられていた。
また、中途ではSCP-076(アベル)の棺をドラえもんの機転で回避し、行き合ったバッター@OFFとその情報交換をするなどの光景もあった。
そして、会場放送において、彼らは二人の参加者の死を知る。
一人は、野比のび太――ドラえもんの親友にして家族の少年。
そしてもう一人は、フェイスレス――ブリゲッラを造り上げた造物主、彼にとっての「神」であった。
ドラえもんが泣きながら沙保里の腕に抱かれている一方で、ブリゲッラは造物主の死について思考する。
自分でも奇妙なくらい、衝撃は少なかった。ただ、空虚な感覚だけが、彼の胸の中に起こっていた。フェイスレスとは、造物主とは、「神」とはつまり、ブリゲッラにとっては、この世で最も強く、負けを知らない存在。そのはずだったのだ。それが、あっさりと死んだ。敗北した。元より、道具としての自分の存在意義は見失っていたが、此処に至って、ブリゲッラはもう一つの柱を失い、ただ、問い続けるしかなかった。なぜ、と。
その後、ブロリー(超)と遭遇した彼らは、彼が野比のび太の同行者であり、彼の死を看取り埋葬したことを知る。
ブロリー「ノビタは、いつも優しかった。俺のお父さんや、バアの話。チライやレモ、カカロットの話。色々聞いてくれた。それに…俺より小さいのに、俺よりずっと勇気があったんだ。何度も助けてもらった」
ドラ「うん、うん…」
ブロリー「……いつも、お前の話をしていたぞ、ドラエモン。大事な、大事な友達だって」
ドラ「…ありがとう」
静かに話す二人を見ながら、ブリゲッラは「死んだということは負けたということだ。負けた者は弱い。だが、私から見てもあの人間は恐ろしく強い。死んだ少年は弱かったというだけの事だろう」などとあまりにも空気の読めない感想を述べたが、沙保里から、「…違うよ、ブリちゃん。強いってことは、やっぱり、それだけじゃないんだよ」と諭される。
「……わからん。このブリゲッラ・カヴィッキオ・ダ・ヴァル・ブレンバーナが数多読み尽くしてきた格闘技の理論書には、そんなことは書いていなかった。最も強い筈だった我らが造物主が倒された事といい、私には理解できない事だらけだ」
――なぜ。なぜ。
――「強い」とは、何だ。
殺し合いの場は、休息を許さない。
一行は続いて、
葉風美織の襲撃を受けた。殺意と闘争の徒である
アルカディオ・ヘルディオスすら食い殺した旧支配者ヴルトゥームの力は脅威であったが、本体である美織の体はペイルライダーの病に蝕まれ、消耗を重ねており、既にボロボロであった。最後には道連れを狙おうとする彼女を、続いて襲来したもう一人のブロリー――「悪魔」が塵芥のように弾き飛ばす。
ブロリー(超)がドラえもんと共に悪魔ブロリーを止めようと向かう一方、地に伏し、死に瀕する、殺し合いと「悪魔」に翻弄され続けた少女。
美織(も……もう…何も、見えない……やっぱり、死ぬのは、怖いよ……。
助けて、ミラ、ヴィルちゃん、光希ちゃん……ママ)
(……あったかい。
ママ……なの?)
その小さな体を抱きしめていたのは、沙保里だった。
事切れていく少女を優しく抱き、その表情が最期に微笑みに変わったのを見て、嗚咽する沙保里。
彼女は、この場所にいる者の中でも、今死んだ少女を含めても、間違いなく弱い。下から数えた方が早い。
だが、彼女の姿には、「弱さ」はなかった。その呼吸に、美織の亡骸を横たえて立ち上がる瞳には、やはりあの加藤鳴海と同じ、不思議な炎が燃えていた。
(まさか、これが――)
何かを掴んだように思うブリゲッラだったが、その場はさらに、驚異の射撃と恐るべき膂力で以て乱入した呪われし英雄・アルケイデスによってかき乱され、ブリゲッラと沙保里はドラえもん・ブロリー(超)と分断されてしまう。
引き離される刹那、ドラえもんはブリゲッラへ、回収したうちでもとっておきの秘密兵器――ミニドラ@ドラえもんを修理継続のために託した。この小さな技術者の手によって、長い間お荷物と揶揄されたブリゲッラは、物理的再起への道を辿り始める。
ミニドラとブリゲッラを背負い、ドラえもんたちとの合流を目指して会場を駆ける沙保里。
「あなたのSUICA――誰何(Who are you)――は不正認定されています。強制排斥を実行します」「ご不明な点があればお近くの駅員にお申し出下さい」「あなたのSUICA――誰何(Who are you)――は不正認定されています。強制排斥を実行します」「ご不明な点があればお近くの駅員にお申し出下さい」
狂暴化した「横浜駅」の尖兵が、彼らを襲う。強いとはいえ沙保里はあくまで生身の人間。しかも競技と違い、一対一でない集団の敵を相手に、追いつかれそうになったところで、
「まずは一発食らいな!!」
突如の砲撃が、自動改札の大軍を蹴散らす。
――武装を展開した戦艦・加賀による助太刀であった。
加賀「強き者には、公平に敬意を。それに、この敵も殲滅のしがいがある」
沙保里「──ありがたいっ!あなた、名前は──」
加賀「加賀型一番艦の加賀だ。覚えなくていい。戦場はあまねく平等だ」
そう言って、「ただ群れているだけの雑魚と失望させるなよ。楽しませろ!!」と咆哮し、自動改札に突っ込んでいく。
ブリゲッラ「…自動人形ではないようだが、火器を備え四肢にて自立する人工存在か。格闘技には向かなそうな姿態だ」
沙保里「ブリちゃんちょっと黙ってて!行くよ!」
しかしそれでも、エリアを肥大拡大させ、無数の改札を展開する横浜駅の脅威は、彼らに追いすがる。
隣接区域を食いつくし、二人の前に形作られた蠢く機械の壁は――しかし、別方向より放たれた渦巻く炎によって穿たれた。
「……じいさん譲りの無詠唱だ。機械共でも反応できないだろ?」
撃ったのは、通りがかった常識知らずの賢者の孫、シン・ウォルフォード。
シン「お前ら、行け!」
連続して手から炎を放ち、壁の再生を止めるシンが呼びかけ、「…っ、ありがとう!!魔法使い!!」と叫ぶ沙保里に、「いいからさっさと行け!」と返し、不遜なる転生者は自動改札を焼き尽くしていく。
加賀とシンに助けられ、二人はとうとう、横浜駅の浸食領域を突破する。
しかし、そこには――
キリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリ
「おいおい、人間じゃねえか。筋張っててマズそうだけどよ~~」
「血が吸いてェェ…腹が減ったぜえ~~~」
「肉を捻って、ねじって、見世物にしてやりてええなああ…」
「ひゃひゃひゃひゃひゃ…」
奇怪なオブジェの四体。悪趣味な前衛芸術が、命を得て動き出したような。
自動人形。造物主たるフェイスレスが消えても、彼が放った忌まわしい歯車の申し子どもは、活動をやめていなかった。ブリゲッラがそうであるように。
疲労しきった体で、それでもなんとか不意打ちのタックルによって一体を吹き飛ばしたものの倒すには至らず、かえって面白がった四体の攻撃で、沙保里はズタボロにされていく。
「おい、こいつ、しろがねじゃねえらしいぜ!見ろよ~~!!傷が治らねえ!」
「何だとォ、じゃあマジで血袋じゃねえか!!こりゃあツイてるぜ~~!!」
それでも、ブリゲッラを守ろうと、沙保里は、ファイティングポーズで立ち上がる。
「何だァそのツラは~~~!!」
「しろがねでもねぇ人間が!オレたちを舐めるんじゃねええ~~!!」
けれど、その刹那。
『ドラドラァ!!』
小さな、甲高い声が響いた。
「ぐがァッ!?」
唸り回転する両の拳が、迫り来た人形の腕を巻き込み、体ごと破砕する。
──"馬形拳"
「がッひュ…」
柔らかに振り下ろされた拳と手甲が、人形の頭を一撃で陥没させる。
──"鉄砂掌"
「げブッ…ばぁぁああッ」
風を鳴らし撓る蹴りの連撃が、人形の体をばらばらに引き裂く。
──"旋風脚"
次々と繰り出された「手足」が、人形共を一瞬にして、物言わぬガラクタへと還した。
最期の一体が、胴体を打ち貫かれながら、最期の息で叫ぶ。
「ごぼぼッ…きっ貴様あぁあ~~、何者だぁぁ~~!?」
「──最後の四人(レ・デルニエ・キャトル)が一体。ブリゲッラ・カヴィッキオ・ダ・ヴァル・ブレンバーナ」
ミニドラによる修理が間一髪で間に合い、四肢の接続と起動を果たしたブリゲッラは、地に降り立って、もはや動かぬかつての同胞に向けて、告げた。
沙保里「ブリ、ちゃん…」
ミニドラ『コーコースースーナーナー(壊れたとこはすっかり治ったよ!)』
ブリゲッラ「感謝するぞ、小さきオートマータ」
ミニドラへと短く礼を告げると、ブリゲッラは傷だらけで倒れている沙保里を助け起こし、「私を一度倒した戦士が不甲斐ないものだ。やはりまだまだ研究の余地がある…」と呟く。
リアルタイムでも長い間マスコット化していたが、ここでようやくの戦線復帰であった。
それから二人は、ドラえもん・ブロリーとの再会と共に主催の打倒を目指し、他の対主催との合流を試みる。
ついに出会った参加者が、
ブロントさん&泉こなたのリアルモンクコンビである。
格闘技女子同士、会うなり「さおりちゃん」「こなちゃん」と呼び合って盛り上がるこなたと沙保里。しかし、ブロントさんは先の戦いにて生命の水(アクア・ウイタエ)@からくりサーカスを服用し、しろがねとなっていた。
――壊すべし
――壊すべし
――自動人形〈オートマータ〉を、壊すべし!!
脳裏に響く声に「おいィ?」と眉根を吊り上げるブロントさんの銀髪・銀眼を認め(実際は銀髪は元からなのだが…)、人形破壊者であることに気が付いたブリゲッラも構えを取り、あわや戦闘が勃発…かと思いきや、ブロントさんは額に手を当ててしばらく押し黙った後、
ブロントさん「……こなた、今の言葉聴こえたか?」
こなた「…んーん」
ブロントさん「俺の魂(ログ)には何もないな」
なんと白銀の呪いを根性で跳ね除け、どっかりと座り込んだのである。
ブリゲッラ「…私を破壊しないのか? しろがね」
ブロントさん「お前が今は悪ではないのは確定的に明らか、何より味方同士で争っている場合ではにい」
こなたとブロントさんもまた、主催打倒の為に行動していたため、四人は情報交換を行い、協力することを誓い合う。
女子トークを繰り広げつつも、途中で「優しい道化」なドナルドと出会ったことや、二人ともが関わった美織の話――そして、光希の話でしんみりしたりするこなた・沙保里に対して、経緯をブロント語で説明するブロントさんと一切ツッコまずに淡々と会話するブリゲッラなど、シュールな光景も見られた。
また、初心に返って始まりの三体式より基本五行の一番である「劈拳」を淡々と繰り返して鍛錬するブリゲッラ…と、その横で、いつの間にか同じ動きを真似しているこなたという一幕では、ブリゲッラがいつまでたってもツッコまないために痺れを切らしてこなたが自分でツッコミを入れ、合気道で勝負を挑んだ。
結局、数多の格闘技の知識を持つブリゲッラを「師匠」と呼ぶようになったこなたに、ブリゲッラも困惑しながら幾つかの教授を行い、言葉を交わしている。
こなた「この『平時多流汗 戦時少流血』…ってどーいう意味?なんとなーくわかるけど」
ブリゲッラ「お前の感じた通りだ。常の鍛錬において多くの汗を流し労苦を厭わなければ、いざ戦いの時に流す血も少なくて済む…という事だ」
こなた「へ~~~~っ」
そうして――主催たる神々の目論見が露わとなり、ロワイアル自体も最終局面に差し掛かる中、四人の前に、膨大な数の軍勢が現れる。
それを率いていたのは、ブリゲッラにとって、因縁の深い相手であった。
中世の軍人様の衣装に身を包み、高らかな口上を述べながら、バーニアで大空を飛行する自動人形。
ブリゲッラ「カピタン・グラツィアーノ……!!」
しかし、その姿は、自分の見知っていたものとは少しく異なり、装飾はより華美となり、構えた得物も見覚えのない剣、そして何より――黄昏に似た、黄金の光を帯びていた。
カピタンの方も、やがてブリゲッラに気づく。
カピタン「おや?其処にいるのはかつての我が同門たるブリゲッラ・カヴィッキオ・ダ・ヴァル・ブレンバーナではないか?
どうしたというのだ、人間などと共に居ようとは?いつもの熱心な勉強癖が出たのか?
もはや人などを生かしておく道理はない、我らが創造主である神々のため、人間どもとその仲間を皆殺しにし、我が戦列に加わるのだ、ブリゲッラよ」
ブリゲッラ「…我ら〈最後の四人〉の『造物主』はフェイスレス様だろう、カピタン。造物主様は死んだ。もうどこにもいない」
カピタン「何を言っている?フェイスレスだと? そんな名前の者は我が伝統に見当たらんな!」
ブリゲッラ「……。まあいい。私はこの者たちと行動を共にし、『強さ』というものを見極めるために今ここに在るのだ」
同じ最後の四人でありながら、カピタンがすでに何か別の存在によって変質し、彼の誇る伝統をそれに因ってすり替えたことを、ブリゲッラは悟る。
その姿は、明らかに以前よりも強化され、機能が向上していることは目にも明らかだったが…なぜか、そこには何か致命的なものが欠けているように思えた。
そんなブリゲッラの思いをよそに、カピタンは台詞を続ける。早くお前の得意武器であるミサイルを用い、人間どもを殺せ、と。
そして、それに対し、「断る」の一言を返したブリゲッラを、カピタンは。
カピタン「長く人の技に触れるうちに、狂ったかブリゲッラ。ならば最早同門と呼びはすまい!我らが敵、神の敵として、我が配下の軍勢『黄昏の曲芸騎士団』によって人間ともども滅びるがいい!!」
狂った人形。「神」の敵。
それは、真実だった。
けれど、もはや、ブリゲッラは揺るがない。
「狂った、か。そうだなカピタン。私はもしかしたらここで狂ってしまったのかもしれない。或いは、ミサイル兵器として生まれ、格闘技に焦がれた時から、既に狂っていたのかもしれない。
……だが、それも良い。この拳と、在るか無きかの心の先にあるものを、狂いの果てにでも掴みとってみせる」
そう言って、遥か大空より笑うかつての同胞に、拳を構える。
カピタンの差し向ける大軍勢に、しかし彼ら四人は圧潰されることなく、むしろその多勢を、各々の力で以て削っていく。
ブリゲッラ自身は気づいていなかったが、破壊から応急の処置、そしてミニドラによる緊急の修理を受けた身でありながら、その技はより冴え、拳は研ぎ澄まされていた。
――いつの間にか、迷いが晴れていた。
――そうだ、「強さ」とは。
――拳を合わせるという事は。
戦いの中でこなたが一人はぐれる事態になったものの、カピタンの軍勢を撃退し、こなたの檄で、対主催集合地と最後の戦いの場での結集を約し、そして、彼らはたどり着いた。
そこで、主催たる神々にとっての、ブリゲッラたち最後の四人と、フェイスレスの役割も明らかとなる。
それは、新世界創造という劇における、大道具。
地球を巻き込む病とからくりを形作り、踊り狂う悪役として、或いは敗者として退場していった、機械の体の造物主と、その鏡のような四つのしもべ。
その魂を加工し、創造劇の邪魔になる者たちを排除する、都合のいい舞台仕掛け――劇を強引に終わらせる〈機械仕掛けの神〉ならぬ、〈神の機械仕掛け〉の材料とする。
それこそが、文字通りの「造物主」である主催たちの狙いだったのだ。
フェイスレス、ディアマンティーナ、ハーレクインはそれぞれ、殺し合いの中で業に負けて消え、その魂を目論見通り回収されていた。
しかし、そこから先が、神の脚本通りにいかなかったのである。
カピタン・グラツィアーノは、皮肉にも自ら神の軍門に下り、歯車の一部となったが、神々の権能と軍勢を貸し与えられながら、彼は神に負けず戦う少女たち――橘ありすや、アリス・ツーベルク、舌切り雀の紅閻魔、リムル=テンペストたちの生み出した歌劇によってその存在を人形から逸脱させ、魂ごと崩壊した。もはや部品とはなりえない。
そして、もう一人が――ブリゲッラだった。
彼は元々、死因もあって最も回収しやすい魂とみなされていた。それが、業に堕ちず、からくり仕掛けに組み込まれずに、最後の一人となったのである。
それは、何より、ブリゲッラが、彼らと出会えたからだ。
「体を取り戻せたんだね、良かった」
「ミニドラと、お前に感謝する」
「ふふふ、いいよ、修理くらい」
「……それだけではない。お前は言ったな。我々は、機械仕掛けの人形であっても、道具ではないと。自分がそうしたいから、そうしたのだと。
今ならその意味が、私にもわかる。
私の迷いを払ってくれたのは、ドラエモン。お前と、サオリだった」
「…こっちだって。
一緒に戦ってくれてありがとう、ブリゲッラ」
22世紀の猫型ロボット、ドラえもん。機械人形としての誇りと、自分の意志で立つことの意味を、ブリゲッラに教えた。
主催戦直前の会話の中で、奇妙な二人の「機械仕掛け」は、握手を交わしていた。
そして、もう一人。
主催戦が始まり、共に戦線に立ちながら、水分補給をし、ブロントさん&こなたの加勢へ向かおうとする彼女。
「ブリちゃん!」
吉田沙保里は、ブリゲッラが、他の対主催たちに背を向け、一人どこかへ赴こうとしていることに、気が付いた。
「……どこへ行くの?」
振り返って、その眸を、ブリゲッラは見返す。
やはりそこには、気高く美しい、炎が燃えていた。真の「強さ」を持つ者の、魂の光が。
ブリゲッラの顔を覆うマスク――とうにその下の「醜い素顔」は、見せていた――の裏には、彼自身も知らぬうちに、「微笑み」の形ができている。
「強大な敵に……そして、自分に勝つための戦いへ。…お前と同じだ。サオリ」
応えて、まっすぐにその炎を見つめる。
「ありがとう」。ドラえもんと同じ感謝の言葉を、マスクの内で呟いて。
「……そっか。じゃあ、またここで会おう!」
沙保里が、手を掲げる。
ブリゲッラも、手を掲げる。
「ああ。さらばだ」
二人の戦士の手が、空中で力強くハイタッチされた。
そして、彼にとっての最後の開幕ベルが、静かに鳴り始める。
*
誰しも最後は涙を流す、だから今は堪え進む
幕が下りるその時まで まだ 絶えず歯車が回る
*
『運命とは、地獄の機械である──。あぁ、なんだい、どうしたってんだ。
本当なら、この歯車の中に組み込まれてないといけない、滑稽な道化人形の一体がさ。
なんで一人だけとっ外れて、そんなところに立っている?』
「それ」は、かつての「偽りの造物主」の声を持って、そこに在った。
神々の仕掛けた、「舞台袖」とも呼べる空間から、対主催の戦う舞台へと、密かに攻撃を仕掛けようとしていた、「未完成の大道具」。
星を侵す病の色――銀色をした、無数の歯車と、蒸気を上げる「地獄の機械」の組み合わさった姿をした機関。
〈神の機械仕掛けmachina ex deus〉。
ブリゲッラだけが、その接近に気づいていた。
或いは、それも、脚本の内だったのかもしれない。彼もまた、その歯車の一部なのだから。
けれど、その事を知ってなお、彼は、その巨大な存在の前に立った。
彼が相対してきた、全ての者に対するのと、何ら変わりなく。
腕を掲げ、構えを取る。
「……ブリゲッラ・カヴィッキオ・ダ・ヴァル・ブレンバーナ。
これまで戦ってきた相手は皆『強かった』。お前にも期待する」
〈神の機械仕掛け〉は、嘲笑する。
筋書き通りにのこのこと現れた、目の前の木偶を。
装填された「からくり」たちの記憶と、無数の技を以て、小さな人形を食らおうと、銀の煙を噴き上げる。
襲い来る、全てのサーカス芸人たちの技。造物主の用いた技。同胞たるものたちの用いた技。
しかし、ブリゲッラは、ここに至って、拳の神髄に肉薄していた。
これまで練り上げた功夫に加え、沙保里に教えられた、「タックル」の動きを組み合わせ、再現された技、人形たちの影を、次々と打ち滅ぼしていく。
〈神の機械仕掛け〉は、嘲笑する。
想定外の強さであった。けれど、それが何だ。
人形は人形でしかない。仕組まれたプログラムに沿って踊り、書かれたシナリオ通りに操られ、壊されていく。
お前の悪夢を、死の象徴を、再び顕現させてやろう。
『うざってえなあ、全くさ。
――なら、これはどうだよ?』
オルガンの音色が変わる。音色自体が、奇妙な、質量を伴う旋律となっていく。
それは、かつて、ブリゲッラの前で、誇り高き真夜中のサーカスの楽士が奏でた旋律。
スケルツォ・ベネデイカムス・ドミノ
『諧謔曲“神を讃えよ”!!』
音波が、破壊的な衝撃波となって、ブリゲッラを捕えた。
全身が衝撃に軋み、ぎしぎしと悲鳴を上げる。
「ぐ…お…」
吹き飛ばされて、地に転がる。
それでも立ち上がり、拳を構えなおす。
が、旋律が再び襲う。
あの時と同じように。
ブリゲッラは、その拳は、手も足も出ない。
『さあ、どうするんだい?
お前の好きな拳法ってのは、その短い手足の届く範囲しか攻撃できない。
“音”そのものを放つこの真夜中のサーカスの楽士の技に……拳法だけ使ってちゃ勝てないぜ?』
這いつくばる人形を見下ろし、〈神の機械仕掛け〉は、嘲笑する。
そうだ、実にたやすいことだ。
そうしたなら、お前はどうする? そうだ、それしかない。
ブリゲッラは、ゆっくりと立ちながら、片腕を掲げていた。
そこには、機構を展開した「ミサイル」――ミニドラの手によって、一発だけ装填されていた、彼の人形としての存在理由である武器が。
〈神の機械仕掛け〉は、哄笑する。
人形は、火器を放つだろう。その思考は、かつての敗北の歴史をなぞるだろう。全て、あの時と同じ。人形は歯車の一部となる。
結局は、全てが懸糸傀儡(マリオネット)のように、糸の下で動くしかない―――。
しかし、その目の前で、人形は。
ブリゲッラは、なんと、ミサイルを展開したまま、再び拳法の構えで、駆けだしたではないか。
『なんだと!? 拳じゃあ何度やっても……』
再び、楽器が蠢く。『神を讃えよ』が奏でられる。
けれど、その瞬間。
ブリゲッラは、ミサイルを、眼前の敵へではなく、己の足元へ向けて、発射した。
〈神の機械仕掛け〉は、驚愕する。
凄まじい爆炎が吹き上がっていた。人形は、その炎に包まれてしまった。
『ば…馬鹿な!自爆しやがった!使えないクズ人形が…』
利用されるくらいならば、「自決」を選んだというのか。操り人形が。
しかし、その時、機械の「眼」は――歯車で動く「神の視点」は、捉えた。
吹き上がる爆炎と、それに伴う凄まじい爆音の中から、飛び出してくるものを。
それは、炎に包まれていた。
気高く美しい紅蓮の色に。全ての「戦う者たち」の瞳に燃えていたその色に。
伸ばした片腕に、もう片腕を。『ミサイルの発射台のように』当てて。
ブリゲッラ・カヴィッキオ・ダ・ヴァル・ブレンバーナは、まっすぐに、構えを取っていた。
――『神を讃えよ』の旋律が、かき消えていく。
『ば、そんな…捨て身の爆炎で、音波を相殺して…
こいつ…こんな……!!!!』
『──かつての私なら、届かなかった。
ザベル・ザロックと、ブロリーと、コナタと、ブロントと、サオリと、ドラエモンと――全ての強者たちとの出会いがなければ。
そして』
ブリゲッラの脳裏に、あの日、あの時、自分の前に立っていた男の姿が、蘇る。
腰を落とし、拳を構えて。
その姿に、己の構えを重ねる。感謝と共に。
加藤鳴海が放った決着の一撃と同じ「拳」を形作る。
『そうだ、ナルミの、あの拳。
“驕れる私”を滅ぼした、あの───』
美しく燃える炎の塊と化し、真夜中の闇を流れゆく星のように、〈神の機械仕掛け〉の中心部へと飛び込んでいきながら、
『あの一発が……』
『あの一発が、なかったなら!!!』
崩
その一撃が、〈神の機械仕掛け〉の核を、貫いた。
神の大道具を、舞台改変の仕掛けを、地獄の機械を、全てを構成していたものが、内側から亀裂を走らせ、刹那に瓦解し、炎と光に呑み込まれていく。
舞台袖の闇を埋め尽くし、払って、その光が消えた時――。
「最後の一人」と、〈神の機械仕掛け〉は、跡形もなく、消え去っていた。……
最終更新:2024年01月19日 22:56