Side:譲崎ネロ


「ってこれ、どこまで続くんですかぁ!?」

「仕方ありませんシャロ! ここで私たちが間に合わなければ何もかも滅ぶんですから!」


無限に続かんとばかりに広がる無機質で純白な機械の道を走る、走る、全力で走る
モーメント起動のタイムリミットは残り30分。それまでに止めないとこの会場どころかすべての次元が吹き飛ぶ。今まで立場がら奇っ怪な事件や出来事には慣れたものだとは思ったけど、流石に全次元滅亡の危機なんて常識を通り越しで驚愕したい程だ
だが、そんな事をしている暇なんて一切ない。今僕らがやることはただ走り続けるだけだ。僕も、エリーも、コーデリアも、そしてシャロも

「……あ、あの……」

「……良いんだ、エリー。あの二人は」

エリーが心配そうに僕に言葉を向ける。ついさっきいなくなってしまった二人の『ジャック』の事だろう

ジャック・アトラス。キングを名乗った変なやつ。癪だけど、あいつがいなかったらあの変態ハッカーにやられていた。ただ運転スキルは本当に改善してほしかった
ジャック・ブライト。はっきり言ってキング以上に面倒くさいというか何考えてるのかマジでわけわかんない奴だった
兎に角やかましいしうざったい変な奴らだったけど、死んでしまって悲しくないわけじゃない。運転スキルとかセクハラ行為とかで一発ぶん殴ってやりたかったけど今ではそれは叶わない。だから――

「たしかに色々言いたいことは沢山あったけど、決めるところはちゃんと決めてくれたんだ。その期待に答えるしか無いよ――そうしないと二人にとやかく言われそうだから」

どちらも自分の信念と矜持の元に自らの生き様を貫いた、僕らがそれに口出しするのは野暮なんだろう
エリーも理解してくれたらしいのか、小さく頷いてくれた

「……今は急ごう、いくら時間を稼いだとは言っても、どっちにしろ安全ルートを使っているあっちのほうが有利なのには代わりはないんだ。今こそこうやって安全に進めているけど、いつ防衛システムの類がこっちに……」


「みんな!後ろから3機! だいぶ近づいてる!」

……早い! おそらくこいつらは放送を担当していた「大佐」とかいう男が遣わした類の兵器だろう
こういう時に相手の居場所が分かるコーデリアのトイズは頼りになるが、そんな事言ってる暇じゃない。冷静に対処すれば素直に倒せない相手じゃないが、構っていたらそれこそタイムリミットに間に合わない

「みんな、あれ!」

シャロの声に僕も含めて皆が目を向けた先には巨大な扉。

「――これなら!」

すぐさまダイレクトハックを発動――おそらく開閉用のコンソールであろう部分のランプが点滅し、扉が開く
今思えばこうも僕のトイズが進化したのはあのクソムカつくクソ煽りハッカークソ野郎のおかげだというのは皮肉なものだ。ある程度の距離制限はあるにしても金属ヘラなんか使わずともこの通り

「ききき来たぁ!?」

――なんて調子乗ってる場合じゃない。扉は開けたけど例の兵器が目視できるまでに近づいている
このままみんなが入った後に扉を閉じても無理やり突破されて追いかけっこ状態から抜け出せない、だったら―――

「みんな、早く!……ってネロ!?」

3人が突入したのを確認したと同時に扉を急速に閉じる。あまりの速度に轟音が鳴り響き閉じた衝撃が内部に広がる

「ね、ネロさん……!」
「あいつらは僕が足止めする、みんなは先に行って!」
「いくらネロのダイレクトハックが今の相手に有能だからって、この音と振動から察するにあの数では……!」
「大丈夫、僕だってあんな生半可な機械兵器に負けるつもりはないよ!」
「だけど……!」
「早く行って!!!」
「「「……!」」」
「……後で必ず追いつく、みんなのこと、信じてるから」

「……ええ!」
「……後はお願いします……ネロさん!」
「ネロ! 無理しちゃダメだからね!」

三人の足音が遠くなっていく。先ず僕の目の前に現れたのは小型戦闘機が三機。すぐさまトイズを発動して掌握、次にやってきた小型戦車数十機を掌握した小型戦闘機で掃射、撃破。
次にやってきたのボムキャリアーと中型戦闘機の類は掌握後、後続でやってきた大型戦車の対処として利用、撃破

「……こりゃちょっと、キツいかな……!」

だが戦況はそうやすやすと緩んではくれない。次にやってきたのは超大型の戦闘兵器。ハッカークソ野郎が主催から盗み出したらしいデータに載っていた『飛掃』『雷掃』『災光』『幸龍』の4機。更に後続には大型戦車『輝愕』大型戦闘機『光掃』。あれでも元のサイズよりも小型されているというのだから恐ろしいものだ、しかもハッキングに対する耐性も有しているとメタのオンパレード

だが、そんな事で挫けてたまるか。今まで生きてきた中で一番の困難的状況だけど、もしあいつなら

『ふんっ! このような雑魚の集まりなど、我がレット・デーモンズの牙のサビにするまでもないっ!』


――なんて大口叩いてそうだな、じゃあ僕も



「――かかってこい、ポンコツガラクタども。こっから先は誰も通しはしない、この僕、ミルキィホームズの譲崎ネロが全力で相手してやる!!」



―――――

Side:エルキュール・バートン


「……ネロさん……本当に大丈夫なのでしょうか?」

「……大丈夫だよ、ネロならきっと」

「もしかしたら何食わぬ顔して戻ってきて私たちを心配を台無しにしてくれたり……なんて冗談口にしている場合ではなさそうですね」

シャロちゃんもコーデリアさんもそう口に出すけどやっぱり心配だ。放送が来る度、みんあの名前が流れるかもしれない、もし流れたら私はどうすればいいのか……そんな時と同じ恐怖、同じ感覚

「……シャロ、エリー!!」

「どうしたのコーデリア……ってええええ!? 天井が崩れてきたぁぁ!?」

「まずいです……このままじゃ間に合わ――」


……嫌だ、そんな事絶対イヤだ。せっかく手に入れた居場所が、せっかく私を導いてくれた大切なみんなを、大切な仲間たちを、大切な友達を、失うのは






「そんなの、絶対イヤだッッッ!!!!!」








無意識のうちにトイズを使っていた。恐怖からなのだろうか、それとも一欠片の勇気からだろうが。私の回りには唖然とするシャロとエリー、瓦礫まみれの空間、ただそれだけがあった


「……エリー」

「……シャロさん、コーデリアさん。瓦礫は私が砕きます、急ぎましょう!」

「は、はい!」

「そうですわね、急ぎましょう!」


◯ ◯ ◯


進む道には瓦礫が広がっている、その殆どが大きいものばかり。コーデリアさんが言うには妨害のために手段を選んでいられなくなったということかもしれない。瓦礫と言っても千切れ火花を散らすコード、崩れ落ちた鉄塊と様々。それは硬化でなんとかなる。コードは砕いた岩をぶつける、鉄塊はそのまま砕く、降りてくるシャッターは殴り飛ばす。単純明快、私のトイズはある意味そういうものだ
こんな女の子らしくない自分の才能(トイズ)が嫌いで、恥ずかしくって、でもそれ以上に誰かが傷つくのは嫌で、死んじゃうのが嫌で――だから『あの時』、自分は恥も外聞も捨てて自分の力を発動した
そこから私は一歩踏み出せたんだと思う

「自分のトイズに、胸を張って、誇りを持て」――なんだか小林さんの言っていたことがよく分かる気がする。ああ、こういうことなんだろうって。そんな事を思っていた直後だった――



「……え?」

足場が、崩れた。しかも、自分の所だけ
シャロさんとコーデリアさんが必死に手を伸ばす。だけど届かない。あまりにも遠すぎる。私も必死に手を伸ばしたけど

「エリーさん!」

「エリィィィ!!」

当たり前のように届かず、私の身体は奈落の底へと落ちていった


◯ ◯ ◯


気がつくとそこは床のような場所。瞬時に硬化能力を発動していたおかげで大したダメージはない
おそらくだいぶ下まで落ちたように思える。暗い場所だが下からなんだか音が聞こえる。

「……ネロさん、コーデリアさん、シャロさん」

下から音が聞こえるということは、この下に別のフロアがある可能性もある。重量増加と硬化で床を抜いて、そのフロアからまた上がっていくしか無い


「みんな、すぐに追いつくから……だから、頑張って」


仲間への信頼と、希望を信じ、私は床を抜くためにトイズを発動するのであった


―――――


Side:コーデリア・グラウカ

溢れていく、零れていく――守ろうとした人も、信頼できる仲間も、尊敬する師も、大切な友達も

手を伸ばそうとしても、届かない、届いてくれない。まるで穴の空いたお椀に注がれる水が、穴から零れ落ちて逝くように

私は弱い。流派東方不敗を習得しても、その過程でトイズが前よりも自在に扱えるようになっても、私は弱いままだ

何がみんなのお姉さんなんだ。助けるべき命を助けられなくて、手を伸ばすべき時にその手が届かなくて、後悔を繰り返して

情けなくて泣きたくなる。悔しさと悲しみで足が止まりそうになる。だけど止まるわけが行かない、ここで止まったらそれこそすべてが終わってしまうから、それに


『――行こう……大丈夫だよ、エリーさんなら無事だって』


あの時エリーが崩れた床とともに落ちて、ただ呆然としていた私を励まして、そのまま走り出して。多分今にでもエリーのことが心配で向かいたかったんだろう。
でもあの子は、シャロの目は真っ直ぐだった。悲劇に、困難に押し潰されそうになって、苦しんでも、それでも前に

そうだった、そうだったんだと思う。私たちはいつでもそうだ。どんな不可解な謎をいつか解き明かすように、一歩ずつ解明するように、今は前に進み続けるしか無い

走る、走る、終わりと始まりが交差する場所へ、滅びを止めるために、託してくれたみんなのために


◯ ◯ ◯


振動を感じる、おそらくあの階段の先が終

「振動がよく聞こえる、おそらくは」

「じゃあ後はこの階段を登っていけば――」

「――シャロ!!」

ふと異なる『音』を察知した。すぐさまシャロを突き飛ばして、こちらに襲いかかる光の触手を捌き、叩き切る。


「……さすがね」

「!? ――ッ!?」

突如声が聞こえた方向に振り向こうとした瞬間私の身体は殴り飛ばされていた。私のトイズでも気付けなかったのはおそらく瞬間移動の類。ただし相手が力を使い慣れていないのかこの攻撃は受け身をとって即座に体勢を立て直す

「――まさかここまで来るなんて。でも邪魔はさせない、あの時みたいにはいかせない。」

目に映るのは黄金の装甲に身を纏った――仮面ライダー。使い手は兎も角、純粋な性能は一海さんや悠さんのライダーシステムよりも上


「コーデリアさん――!」

「シャロ!!行って!! 彼女は私が抑えます! だから―――!」

「……うん! ……絶対、絶対生きて、みんなで帰ろう!!」


◯ ◯ ◯


階段を駆け登るシャロを尻目に、私は黄金のライダーを見据え、構える


「どうして邪魔をするの?こんな腐りきった未来に意味なんて無い。あなた達が邪魔さえしなければ過去は全て戻ったはず、悲劇も、何もかもやり直せたはずなのに」

仮面の底から聞こえる声には憎しみとも悲しみとも取れる感情が感じられる。彼女がどのような悲しみを背負ったのか、誰かを失ったのかはわからない、でも

「だからといって、その悲劇を忘れてしまったらダメだと思うの。たとえ何であろうと、忘れるのは辛くて苦しいことだから――それに、私たちはまだ『生きたい』。どんなに苦しくても、どれだけ悲しくても、その先に無限の未来があると信じて」

「――無限の未来、ですって? 私たちの未来はもう過去にしか無い、何も知らないあなたが、知った口を言うなァァァァッ!!!!」

「何も知らないなら何も知らないなりに足掻いて止めてみせます!!!」


―――シャロ、あなたを信じています、あなたなら、世界を救ってくれると



―――――



Side:シャーロック・シェリンフォード


走る、走る。階段を駆け登る。無限にも続きそうな白い段差、まるで壁のように高く、険しい

でも私はみんなから託された、みんなのおかげでここにいる

でも思ってしまう、みんなどこかで力尽きていなくなってしまうかもと、その恐怖がこみ上げてくる。でもそれを抑え込んで私は走る。走るしか無い。残るタイムリミットは5分、ケンという男が辿り着きスイッチを押す前に止めないといけない

走る、走る。途中で転んでしまう、擦り傷ぐらい大したこと無い、走る、走る。


死角から光学兵器の砲台が私を狙う、レーザーが私の足を掠る痛い暑い念動力で岩を衝突させて停止させる痛い暑い痛いでも止まっちゃダメだ(走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る)


トラップらしき針が身体に刺さる痛い苦しい体が痺れてくる念動力で無理やり抜くレーザーが私を襲う熱い痛い痺れる苦しいでも止まっちゃダメだ(走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る)
駄目だ駄目だ(走る走る)

爆発が私を襲う熱い痛い意識が朦朧とするでも止まっちゃダメだ走り続けないとみんなのダメに大丈夫大丈夫私はまだ大丈夫(走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る)


狭い空間に小さな機械の兵器念動力で関節を崩すでも避けられないああああああああ痛い痛い痛いでも止まっちゃダメだダメだあああああああああ(走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る)
兵器は止まった急がないと痛い痛い痛い(走る走る走る走る走る走る走る)

体が重い思うように動かない「諦めろ」と声がささやく道化師が囁く嫌だ諦めたくないだから走る走る走る(走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る)


何度も転倒するこれで何度目か憶えていない身体が更に重く感じるでも止まっちゃダメだめダメだだめだだめだだめだだめだだめだだめだ(走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る)


広い空間に出た襲いかかる様々な兵器レーザー熱線光線斬撃衝撃私の身体を傷つける貫く切り裂く(走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る)
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっっっ!!!!!!!(―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――)



身体が動いてくれない影で何かが囁く「諦めろ」ともう楽になっちゃっていいかな誰かが泣いてる悲しんでるだめだそんなの嫌だみんなが悲しむ所(――――――――――――――――――――走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る)
なんて見たくない私が諦めちゃだめだみんなに託されたんだだから(走る走る走る走る走る走る走る走る走る)

無意識にすべての攻撃を弾き飛ばす兵器を粉々に吹き飛ばす破壊する全て壊すもう拒むものはない走る走る走る走る(走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る)


何度もこける意識が落ちそうになる倒れそうになるまだだあきらめたくないあきらめちゃだめだごーるはもうそこにあるだからまにあってまにあっ(走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る)
てまにあってまにあってまにあえまにあえまにあえまにあえ(走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る)


はしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしる(走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る)

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扉を開く(ゴール)

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最終更新:2019年09月24日 22:33