全てが私を起点としていた。
1971年4月3日。
ほぼ全ての世界の本郷猛が、バッタ怪人へと改造された日。
全てがそこから派生している。仮面ライダーはその後に世界が分岐する。
最初の分岐は1974年2月16日。神敬介が深海用怪人カイゾーグへと改造され、秘密機関GODと戦うために仮面ライダーXへと名を改める。風見志郎で終わるはずだった仮面ライダーの歴史がここから紡がれて、世界が大幅に分岐していく。
次に決定的な分岐(特異点)は1987年10月4日に起こった。
南光太郎が秘密結社ゴルゴムの手により世紀王ブラックサンへと改造され、仮面ライダーBLACKを名乗ることになる。
その次は1992年2月20日。
風祭真が「シン」と呼ばれる原始的な仮面ライダーへと遺伝子改造される。
そして、2000年1月30日。
五代雄介がリントの戦士──あの世界における仮面ライダー、クウガへと変質したことは先の三つの分岐とはまた、次元の異なる特異点と呼べる。
そこから約10年おきに特異点が現れる。
「異なる世界のさらに異なる並行世界」を繋ぎ、破壊する仮面ライダーディケイド。
「ある時間的区切り」によって、複雑な時間軸を一本化して俯瞰する仮面ライダージオウ。
彼らの間にも仮面ライダー電王など、並行世界や時間軸を移動するライダーが現れている。
それらの世界に於いても、私──本郷猛はさまざまな側面を歩んでいる。
ある世界では、ショッカーの脳改造を終えて、あの世界における一文字とともにショッカーの尖兵となっていた。
ある世界では、3号ライダーを風見志郎にできなかった。
ある世界では、本郷猛は仮面ライダーを引退しており、後継の若きライダーを応援する立場になっていた。
ある世界では、立花藤兵衛や一文字隼人を失ったにも関わらず、『仮面ライダー1号』として終わらぬ戦いに身を投じている。
それらの本郷猛は、かつて私が知る本郷猛たちとは、全く別の本郷猛たちだった。
しかし、全ての世界に唯一共通することは、本郷猛は1971年4月3日以降のいずれかで仮面ライダーになっていることであり、私が改造された事象を起点に世界が分岐し、それぞれが異なる本郷猛へと成長し、多元化する世界に影響を与え、異なる新たな仮面ライダーが生まれ続けていることだ。
かつて、ある本郷猛は願ったことがある。
仮面ライダーは1人で十分だと。
地獄を味わうべくは、俺1人でいいと。
仮面ライダーとは正義の味方だが、その始まりから正義だったわけではない。本郷猛はショッカーに拉致され、二度と人間に戻ることができなくなった。蛇口を捻ることさえ力を調節せねばならない体となったのだ。そして緑川博士の無念を引き継いで仮面ライダーとなった。本郷猛はある意味復讐を原動力としている。
それは、本郷猛だけではない。
例えば、最たる例として、風見志郎は復讐の力を求めて仮面ライダーへと志願した。結城丈二も、神敬介も、城茂も、村雨良も、全ては復讐から始まっている。敵組織との戦いの中で正義感を目覚めさせたのは間違いないが、その瞬間、彼らの悪への怒りが全くなくなったわけではないのだ。
仮面ライダーとは正義と同等に、その時代の悲劇と怒りの象徴である。結局は人理を越え、神の如き暴力を持って敵を制するのである。それしかできない。それを『ヒーロー』などという小綺麗な言葉で飾り付けて、小気味のいい言葉を並べて誤魔化しているに過ぎない。
のちに生まれたライダーの中には、自由に時間軸を遡ることもできる者もいる。
──しかし、その誰もが「本郷猛」を救わないのである。
ショッカーの脳改造を終えた1号と2号がいる。しかし、それに対してまず彼らが行うのは暴力による当面の鎮圧であり、本郷猛と一文字隼人を過去に遡って助けることはしない。
未来において、異なる仮面ライダーが存在しない世界もある。一文字隼人と風見志郎がいない世界だ。しかし、それらの世界においても「本郷猛」と「ショッカー」だけは必ず存在している事実がある。
その基盤を中心に、世界が多元化するにあたって本郷猛の定義が歪められていく。すなわち──仮面ライダーの定義は「外なる誰か」にとって、より都合の良い正義へと変えられていく。
それが、古くはXの時代から、多元化した「仮面ライダーの世界」が収束し一本化されるたびに、破綻せぬように、仮面ライダーを構成する「正義」以外の要素が贅肉として切り捨てられていくようだった。BLACKRXの時代からディケイドの時代にかけて、それは顕著に現れている。
私がある──多元世界が収束した──タイミングで「本郷猛」に警告し、仮面ライダーの定義を蘇生させ、明確にするために「ある区切り」を基準に仮面ライダーらを分けて、ライダー大戦を引き起こさせた。目論見は成功し、本郷猛たちは、古き良き仮面ライダーたちは勝利した。
だが、収束し、定義が叶った仮面ライダーと世界は、再び分岐を始める。
そして現在、私の足元にはオーマジオウの死体がある。
現代に至るまでに累積された、仮面ライダーの「歪み」を象徴するこの男は、その外見はまだ年端もいかない少年であった。
常盤SOUGO──あるいは、これは常磐ソウゴか。誰かに身勝手に正義を望まれ、それに従い、悪と振る舞った男。誰かの身勝手な正義欲を満たすためだけに地獄へ放り込まれ、運命に引き潰された少年。
定義を見失ったにもかかわらず、不安定な正義(それ)を求める心は狂信と呼んでいい。異なる正義を、つまり新たなる仮面ライダーを実感するためだけに、彼(ソウゴ)は生まれ、そして、彼に相応しい敵として、彼(SOUGO)も生まれた。
その末路がこれだ。
もし、私たちが「外」の彼らの言う通り「正義の味方」だとするならば、「正義」の定義すらままならぬ現在において、私たちは何に寄り添えばいいのか?
かつて、月光を纏った男は「正義の味方は正義そのものではない」と語った。しかし、正義そのものが不明瞭なこの時代に、いたずらにその化身たる仮面ライダーを求めることは、さらなる混沌を世界に招くだけだろう。
「外」の彼らは仮面ライダーに対し、あまりにも盲目的すぎるのだ。私は「ショッカー」という明確な悪があるから、それに対抗するために正義として存在できている。それが「仮面ライダーを存在させるため」に悪を作り出すのでは、本末転倒ではないのか?
それは善悪のパラドックスだ。
正義を求めるあまりに悪を生み出すことはマッチポンプに他ならない。己の信じるもののために、願望を共有し悪を生み出し、異なるものを争い合わせることは適者生存の選民を謳う「ショッカー」の本質となんら変わらない。
だからこそ、特異点たる仮面ライダークウガの宿敵、ン・ダグバ・ゼバは仲間にする価値があったとも言える。彼はあの世界で仮面ライダーより遥かに先に生まれ、そして絶対悪と呼べる存在だ。その時点でも、私が構想していた舞台において必要なら悪性と力を備えていた。その逆で、仮面ライダークウガである
五代雄介は己の信じる絶対的正義を己の中に持っているために、私は彼だけは参加者にはできなかった。
そして、私は「外」の彼らの「歪んだ情念」がある種最も発揮される舞台を発見した。
私はその世界群を観察する。
とはいえ、最初の最初からそれを見ていたわけではない。
その悪辣な舞台は『バトルロワイヤル』と呼ばれていた。
私はこれだ、と思った。
正義に寄り添えぬ仮面ライダーがいかに凶暴であるのか、それでも信ずる正義を真っ当する仮面ライダーがいた場合、それがいかに尊いものであるのかを証明するに当たって、この極限状況は使えると即断した。
しかし、そこで私は、更なる地獄を経験するのだった。
極限の状況下であるからと、言い訳できぬほどの露悪的な改変があった。
特に、私が思うに元の世界において「偉大なヒーロー」と呼ばれるものたちにそれは多い傾向が感じられた。
特に目を引いたのは「孫悟空」だった。
彼は、元の世界に於いてはヒーローと呼んでいい存在だ。多少のムラはあるが、自らの属する世界を救うために何度もその命を投じ、結果的に幾度となく世界を救ってきた実績と、それを万人に納得させる圧倒的な強さを備えている。
それが、バトルロワイヤルにおいて多くの場合、他者を顧みず己の我欲と自己保身のために他者を殺戮する外道へと、理由なく堕ちていた。
私は外なる力によって収束する「歪み」を思い出す。
あれと同じことが、彼に起こっている。
しかし、私はこれを使える、と判断した。
私が構想する「バトルロワイヤル」に必要なものは、圧倒的な強者たちだった。彼の強さならば不足はない。むしろ、本来の正義感から敵対者となることは容易に想像がつき、そうなれば最も苦戦する1人に違いないだろう。
私は2013年に開かれたバトルロワイヤルにおいて、主催であったブラックゴーストや無常矜持、パラガスらに接触し、彼らの了承を得た上で太陽の力を転用して、バトルロワイヤル開始前に参加者となっていた孫悟空を一度殺害し、その精神を「歪み」に入れ替えて弱体化を図った。
想定通り孫悟空は序盤でカオスに飲まれてあっけなく死亡し、あとは彼の魂と肉体をショッカーの技術で再び再構成するだけだった。
だが、孫悟空の回収に動いた私を最強の敵が待ち受ける。
2013年4月27日、午前1時32分。
私は世界最高のヒーローと戦うこととなる。
それはスーパーマン。
ヒーローの中のヒーロー。
本来ならば、このゲームの参加者ではなかった存在。
「外」の彼らの多くが、孫悟空と並べて史上最強と呼ぶヒーローだった。
彼はゲームの参加者でありながら、外部からの干渉……つまり、私の干渉に気づいていた。これは彼が長い歴史の中で、私と同じように、あるいは私以上に『外なる力』の干渉によって自身の存在が書き換えられることに、慣れていたからだろう。
私は彼と永遠に等しい『1秒』を戦い、そして、私が勝った。
しかし、スーパーマンに与えられた傷は深く、私が主催するバトルロワイヤルの実施は大幅に遅れることになる。
その間にも、私は自分でも意外に思うほど、勤勉に執拗に干渉を続けていた。
強く干渉したいくつかに、2015年がある。
時間に強い結びつきをもったバトルロワイヤルは、多元的な世界に綻びを与えていたために干渉は容易かった。なにより、このバトルロワイヤルでは仮面ライダーの特異点の1人、「
南光太郎」がほぼ100%の力で参加していたために干渉せざるを得なかったので助かった。
やはり終盤まで悠々と生き残った
南光太郎を足止めするために、ビフの逃亡先を第六天波旬の座へと繋げ、彼を差し向ける。他者との関係を絶対的に嫌う波旬は、舞い降りた時間の狂った世界で数多の時間層に潜在する「他者」に足を取られ、アイデンティティを歪められて本来の力を発揮できぬままブラウン博士の過去改変により弱体化し、仮面ライダーBLACKRXに撃破される。しかし、過剰なエネルギー爆発による世界改変は防げず、BLACKRXは私の存在に気づくことはなかった。
そこで、私は気づく。
バトルロワイヤルによって引き起こされた影響は、私(本郷猛)にはなんら影響を及ぼさないということを。多元化された仮面ライダーの世界に細かな影響はあるが、バトルロワイヤルそのものに干渉する私そのものに、一切の影響がないことに気づく。
仮面ライダーショッカーを名乗ったからか、ショッカー首領のように、私(本郷猛)という存在が干渉によって分岐する多元的な世界とは隔絶した存在となっていることに、気づいたのだ。
つまり、私は既存の多元世界を超越し、それらと「外」との中間の次元の存在となっていたのだ。多元世界における彼らの影響、収束した歪みを情報として受け取りはするが、それによって私自身が存在が書き換えられるほど影響されることはなくなっていた。
そして、これは「あの」オーマジオウが到達していた次元であることも、私には理解できた。
私が観察を続けていると、1人だけ、私に直接干渉したものがいた。
◆MoSoKakiteと名乗ったその男は、私の意図を指摘して、自分もまた、同じことを考えていたと発露する。多元世界に直接介入し現実を改変する能力を持ち、私の目の前で「2018年の混沌のバトルロワイヤル」における、ある参加者の世界を外部から改変した瞬間を再現して見せた。
彼は、私が「仮面ライダーの世界」の歪みをかき集めることができたように、彼は「バトルロワイヤルの世界」の歪みをかき集めて擬人化して見せた。無残な怨念の塊であった。
彼が言うには、バトルロワイヤルの世界は、仮面ライダーの世界とその構造が非常によく似ているとのことだった。どちらも時代が進むごとに、ある程度世界が分岐し多元化を果たす。そして、「外」からの力によって約1年に一度のペースで多元世界が収束され、新しい世界へと生まれ変わるのだと言う。
かつて2018年5月3日に行われた混沌のバトルロワイヤルの一つにおいて、主催者であった『統制神ヤルダバオト』や異聞帯の神と化した『檀黎斗』が掲げていた「人類を幸福の元に管理する」という目的に、私は共感とヒントを見出す。
2019年。収束しきれぬほど肥大化したバトルロワイヤルの世界に強烈な歪みが発生する。世界2019年4月27日にそれは最高潮に達し、必然的に多元世界を巻き込んでこれまでで最大規模で混沌とした、無秩序的なバトルロワイヤルが発生する。
私はショッカーの権能を用いて財団を動かし、世界の崩壊を防ぐために『最上魁星』をこのバトルロワイヤルに派遣する。エニグマを用いてバトルロワイヤルの世界の崩壊を止める力を持つものを呼び出し、彼の監視の名目で
◆MoSoKakiteも参戦を促した。
結果的にこの大きな歪みは収まり全体の崩壊は防げたものの、基盤となる世界に生じた亀裂は完全に修正できず、以後に発生するバトルロワイヤルたちが極めて不安定となる。
そして2020年。
「外なる力」によって、仮面ライダージオウの先の時代のライダーが本格的にバトルロワイヤルの世界へと組み込まれていく。それは、2020年5月3日に始まった過去最大規模のバトルロワイヤルに『天津垓』が参戦したことによって確たるものとなった。
『ユーハバッハ』なるものは神々を引き連れて多元世界への侵攻を目的としており、天津垓を自ら陣営に引き入れたのは、彼の存在を楔に「仮面ライダーの世界」を自身の全知全能の観測領域に収め、侵攻するつもりだったのだろう。彼に対抗できる、生物の進化を憂う『アンチスパイラル』は私──ショッカーの基本理念である、選ばれた人類の神への進化を嫌い、私の言葉に耳をかさなかった。
しかし、ユーハバッハらは参加者たちの魂に討たれ、自らの因縁によって自滅する形となった。
そして、2021年──
私は主だった者を集めて、バトルロワイヤルを開く。参加者は、これまでのバトルロワイヤルを開催した者たちを中心に選出した。つまり、この世界を繋げ続けた立役者であり、仮面ライダーをはじめとする善悪を倒錯させて、歪めてきたものたちだ。
彼らを一掃し、残ったものを私の仲間とする。選ばれし戦士、ショッカーの怪人、新人類へと。
それをひたすらに続けていく。
全ての多元世界をショッカーの新人類で満たすことはできなくとも、多くの世界をそうすることはできるだろう。数と戦力が整うその時まで、私はバトルロワイヤルの世界をあえて存続させ、世界を持続させる道を選ぶ。
その道半ばで私が倒れることはない。
どこかの世界に「本郷猛」が存在する限り、どこかの世界に「ショッカー」は必然と歴史に存在し、不滅の存在となるからだ。
どこかの世界に、善悪はどうあれ「仮面ライダー」が望まれる限り、「本郷猛」は必然として歴史に生まれ、不滅の存在となるからだ。
【時代が望む時、仮面ライダーは必ず甦る】
さぁ、はじめよう。
外なるものたちよ。
『本郷猛』はいつも傍にいるぞ。
最終更新:2021年10月13日 10:04