【名前】 空目恭一
【出典】 混沌ロワ(missing)
【性別】 男
【年齢】 17歳
【名ゼリフ】
「むざむざ殺されるつもりはなかったが――――いや、どちらでもよかったのか、俺は」

「……古来、『歌』とは”祈り”であり”真言”であり、すなわち”神の言葉”だった。神の言葉は世界を創り、真言は世界を示し、祈りは世界を変質させた。
 これは魔術であり、呪いであり、人が『世界』に語り掛けるために培ってきた技術だ」
「文字が発生する以前、絵はそれに代わる情報媒体だった。壁画がそうであるように、絵は記録だった。つまりそれは情報そのもので、文字に代わって怪異を伝えたのではないかと俺は考える」
「昔の人間は山を一種の異界と考えていた。人の手の届かない別世界、もしくは死の世界だと。
天狗はその最たる例だな。あれは山の神秘の擬人化だ。また、隠れ里やマヨヒガも山の中にあるとされる。神隠しに攫われた者は山中に消え、山は多く神の居場所とされた」

―――薀蓄より抜粋

【本ロワの動向】
混沌ロワ最終決戦、混沌の物語と同一化する直前より参戦。
名簿を確認するも魔女こと十叶詠子の名前はなく、故に自分が解決すべき危機も存在しないと納得。
機会があれば蒼衣や他の知り合いを探すことにしようと考え、ひとまず近くの施設に身を寄せようとしたところに遭遇したのは、臨月を迎えていた大王ちゃんこと恐怖の大王

参戦時期の都合上、彼女は今まさに陣痛で苦しんでおり、そんな大王ちゃんを流石に見捨てることは空目にもできなかった。
無感動ながらも混乱する大王ちゃんの気を落ち着かせると、支給されていた電動車椅子に乗せて近くの病院まで搬送することに。
そうして病院にたどり着くと、そこには支給品の全自動卵割り器をあれこれ検分していたBJとベール=ゼファーの姿があった。何気に魔王が3人揃った瞬間である。

大王ちゃんの容態を見たBJは即座に状況を理解、自己紹介もそこそこに緊急オペを開始することになる。
何分時間も人材も不十分な状態で臨む手術に、空目は自ら助産師として志願する。
手術そのものはBJに任せ、あくまで手術介助に徹するという条件でBJもそれを承諾。
元々人材が不足していた状況であったため、BJとしてもこの申し出は渡りに船であった模様。
その後空目は意外と動揺していたベルを大王ちゃん同様落ち着かせたりし、BJの手術に同行。見事成功を収める。

術後の大王ちゃんのメンタルケアも担当しながら、空目たちはようやく腰を落ち着けて情報交換を開始する。
そこで判明したのは複数の殺し合いの存在。大王ちゃんも含め少なくとも4つの殺し合いが存在し、かつ自分たちはそこから一つの場所に集められた。
これが何を意味するのか、空目はBJと共に長期間頭を悩ませることになる。

その後は大王ちゃんを交えて談笑したり(BJからは「犯罪者専門の心理学者になったらどうだ」と冗談交じりに言われたり)、全自動卵割り器を調べたりしていたが、そんな中マーダーであるバージルが病院に来襲する。
メンバー内で唯一戦闘可能なベルが迎撃するも、狭所での近接戦ではベルが圧倒的に不利。空目はBJや大王ちゃん、そして生まれたばかりの赤ん坊と共に逃走するが、幻影剣に大王ちゃんが被弾、崩壊する建物の瓦礫に阻まれBJともはぐれてしまう。

空目は大王ちゃんの胸を貫く幻影剣を引き抜き、あり合わせの医療品でなんとか応急処置を施すも、流血は止まらない。
最早助けることはできないと一人ごちる空目に、しかし大王ちゃんは耳元に口を寄せる。
そして遺言になるだろう彼女の言葉を、空目はしっかりと聞き届け―――

なんとかバージルを退けたベルがたどり着いたとき、そこにいたのは大王ちゃんの遺体を前に座り込んでいた空目と、泣き叫ぶ赤ん坊だけであった。


その後空目はベル、赤ん坊と共に行動を再開。当面はBJと他の参加者の捜索を優先することとした。
そして次に遭遇したのは、偶然か必然か、恐怖の大王の夫であり赤ん坊の父親でもある神使勇護
何かから逃げるように、もしくは何かを追い求めるように焦燥する彼は、やはり大王を探しているのだという。

あいつは俺の大事な奴なんだと、そう必死に言い募る彼を前にベルは一瞬言葉を濁すも、しかし空目だけは表情を全く変えず、勇護に対し事実を告げた。

恐怖の大王は死んだ。お前の探し人はもういない。

勇護は数瞬だけ茫然とするも、しかし次の瞬間には猛然と空目に食って掛かった。
しかしそれは事実だ。恐怖の大王の死体は自分も確認したとベルも勇護に告げる。
その言葉がトドメとなったのか、勇護は脱力し両膝を地面につけたのだった。

最愛の妻の死、それを事実だと受け入れ、それきり動かなくなる。
その顔から表情は全て消え失せていた。

自殺でもしかねない雰囲気ね、と冗談交じりで言うベルに、あいつがいないならそれでもいいかもしれないと勇護が返答した次の瞬間。
空目は勇護に問いかけるのだった。

「一つ訊くが――――その程度のことが、自身を死滅させるほどの理由になるのか?」

その口から出た言葉は慰めでも励ましでも、ましてや罵倒でもない。純粋な疑問であった。

―――人はいつか必ず死ぬ。人外だとて変わりはない。遅い早いの差はあれど、その終焉は必定である。
―――そして人は生きている以上、常に死の危険が存在する。生きる時は生き、死ぬ時は死ぬ。誰だってそうだ、例外はない。
―――そんなことは最初からわかっていただろう。ならば何故、『自分と近しい他人が死んだ程度』で自滅の道を歩まなければならないのか。

その言葉。善意も悪意もなく純粋な疑問として提示された空目の言葉に、勇護は怒りの感情をあらわにする。

理屈ではない、俺の生きる理由はあいつだ。それを失った以上、今の俺には……
そう嘯く勇護に、しかし空目はすぐさま言葉を返す。

「人の思考を外から見ることができない以上、おれはお前の考えは全くわからない。だからこそ判明している事実から物を言おう。
 お前にはまだ生きる理由が存在するのではないか、と」

そう言うと、空目は抱き上げていた赤ん坊を勇護に渡す。その子は紛れもないお前の子供であると伝えて。

「彼女からおおよその経緯は聞いている。神奈瞬東海道和馬グラハルト・フォン・ウェデマイヤー。お前と彼女が親しくしていた者の名だ。
 そしてここにはお前の子供がいる。それでもまだ、お前は生きる理由がないと言うか」

わかっている。そんなことはとうにわかっている。
俺にはまだやるべきことがある。それでもあいつがいない事実はどうしようもないのだ。
なおも言い募る勇護に、しかし空目はこう告げる。

「人間の持ち物で捨てられない物は存在しない。それが例え自分自身でも、例外はない。
 お前が全てを失ったというのなら、そのせいで何もできないというのなら。そんなお前自身を捨て去ればいい」

どうせ捨てた命なら同じことだろう。その言葉に、ついに勇護は顔を上げる。

そうだな。だったらお前の言葉に乗っかってやる。俺はもう逃げない。できるだけのことはやってやる。
だから、な。

次の瞬間、空目の体がよろけ、頬に手を当てながら片膝をついた。
それはごく単純な話。空目は勇護に殴られたというだけのことだった。

勇護「これは今まで散々言ってくれたことへの礼だ。一発だけで勘弁してやるよ。
 ……それとありがとな。お前が言ってくれなきゃ俺はここで腐ったまんまだった、
 全部終わったら改めて礼の一つでもするから、お前も死ぬんじゃねえぞ」

そう言い残し、赤ん坊を抱えてどこかへ向かう勇護。その足取りは決して軽いものではなかったが、それでも自暴自棄なそれでは決してなかった。
確かに勇護は、生きる意志を確固たるものとしたのだ。



それで結局、一連の問答はなんのつもりだったのか。
起き上がる空目に問うベルに対し、空目はこれが大王の遺言であったのだと答える。

神使勇護に全ての顛末を伝え、そして絶望するであろう彼を救い上げること。
それが恐怖の大王が最期に空目に頼んだことだった。

空目「状況的にはこうするしかなかった。俺は人の感情の機微はわからないから、単純に事実を伝えることしかできない。
 彼の感情の方向性を、絶望から使命感にずらすこと。論点のすり替えしか俺にはできなかった」

ベル「……それってつまり、あんたが他人を気遣ったってこと?
 なんだ、こう見えて結構優しいじゃない。見直したわ」

無表情で言う空目に対し、しかしベルは微笑んで言葉を返す。
そんな彼女に、傍からどう見えるにせよ、人の行いの意味など本質的に個人の中にしかないものだとだけ返し、それきり空目は口を噤んだ。
ベール=ゼファーから真に信頼を得た、これがその瞬間であった。

その後、二人は各所を巡りBJと他の参加者の捜索を行った。
その過程で千手扉間と遭遇、空目と同じくロワに対し考察を行っていた彼が齎す情報により、空目の考察もまた飛躍的に進んだ。
そうした中、遂にBJと再合流を果たすことに成功する。
二人とはぐれていた時、BJもまた考察を重ね、空目とBJ二人の考察が合わさった。
そして空目は気づく。この会場が生と死をごっちゃ混ぜにした可能性世界であること。
自分たち参加者が、『元々の物語から登場人物を複写して詰め込んだ、悪質な紛い物』であることを。

しかし、それと同時にもう一つ、空目は悟ってしまった。
今、自分の本体は幻想郷と呼ばれる場所で物語と化している。
そして今、「自分が紛い物の物語」であり「本物もまた物語」となっているその共通項に気付いた。気付いてしまった。

ベルとBJが空目に話しかけようと振り向いたとき、そこに空目の姿は欠片も残されてはいなかった。
彼が一瞬前までいた場所には、彼が考察を書き綴っていた紙きれが一つ、無造作に置かれているだけだった。




リピロワ2013において数少ない考察役として活躍し、また誰より早く真相にたどり着いた功労者と言えるが、それ故に消えてなくなってしまうという皮肉な結果となった。
しかし彼が残した考察メモはBJの手に渡り、そこから全ての真実が明らかにされることになる。
彼の行いは決して無駄ではなかったのだ。

またこれは余談であるが、彼はちょくちょく本編で登場する怪異やキャラについて講義のような形で民俗学的な薀蓄を語り、読み手にも優しいキャラとして愛されていた。名言の二つ目以降は全部それの抜粋である。

更なる余談、というか没ネタだが、『リピロワで消滅した後、本体にそのことが伝わり物語としてリピロワが紡がれる』と言う内容のIFエンドが投下された。
それによれば覇吐は自分の量産型雑魚化を嘆き、魔理沙は自分の悪堕ちに徹底抗議し、霊夢は紫のキャラ崩壊に驚き、藍は自分のキャラ崩壊を理解できなかったそうな。
何はともあれ、本体のほうは変わりなく日常を過ごしているようで何よりである。

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最終更新:2014年04月05日 05:33