第十四話『黒糖伝説』
「…水銀燈もやりすぎですぅ」
「そう?意外ね…」
「何がです?」
「あなたは雛苺にいろいろされてたのでしょう?なのに同情するの?」
「そりゃ仕返しぐらいはするつもりでしたけど…もう最後の方は壊れる寸前のような顔してたです…流石に追い討ちはかけれんですよ」
水銀燈、蒼星石と別れ、真紅と翠星石は二人で桜田家へと向かう
雪華綺晶と雛苺をメチャクチャに犯した帰り道だった
「意外と言えば真紅もです」
「あら、どうして?」
「水銀燈を仲間にして来るなんて想像してなかったです」
きっと敵側も
だから結果的に上手くいったのだ
「一体どんなマジックを使ったですか?」
「ふふ…水銀燈を仲間にするのに魔法なんていらないわ」
「…」
「強いて言うなら絆ね…」
「そのセリフ、真紅と水銀燈の間にゃ似合わんですぅ…」
「失礼ね、まったく…」
そんな会話をしながら、長い道のりを経て桜田家へと辿り着く
「ほぇ~…たった数日の事ですのに…すごく懐かしい気分ですぅ…」
「落ち着くわね…ここではとても平和な日々を過ごしたもの…」
あの時より一人少ないけど───
そう言いかけて、真紅は口を噤む
「…私はもう寝るわ…お休みなさい」
「翠星石も疲れたので寝るです」
「なら一緒に寝る?」
「えっ?」
「フフ…冗談よ。あなたには蒼星石がいるもの。今度はあなたが浮気だって怒られるわ」
「なな何でそんな事を知ってるですか!!」
「知ってるのだわ。私は何でも知ってるのだわ」
「きぃーーー!!」
再び訪れた穏やかな日々と、失った大切な妹
それでも…アリスゲームは止まらない
―†―†―†―†―†―
一方、蒼星石と水銀燈はそれぞれの帰路に着く分岐点にいた
「水銀燈…今日はありがとう」
「Hした事ぉ?」
「ちちち違うよ!助けてくれてって意味だよ!」
「そんな必死にならなくても…冗談よ。それに助けたわけじゃないわぁ。場合によってはアナタも敵だったわけだしねぇ」
「うぅ…まぁそれはそうだけど…とにかく助かったのは事実だからお礼は言わせてもらうよ、ありがとう」
本当に礼を言われる事など何もしていないのに
と、悪態を付きそうになるが、これ以上言うとまた長くなるので自重する
…とにかく早く帰りたい
隠せない疲労感と病弱なミーディアムに心配をかけている事が気がかりだった
だから──
「それと…水銀燈…」
「なぁにぃ?まだ何かあるのぉ?」
「いや…その」
「用がないなら帰るわよぉ?」
「…何であんな道具を持ってたの?」
そう聞かれた時、
「…知りたい…?」
「うん…」
「…なら着いていらっしゃぁい…」
そんな台詞が出たことに、自分自身驚いた
―†―†―†―†―†―
有栖川大学病院。
そこの316号室に入院する少女、柿崎めぐ
物心付いた時には既に病院生活だった彼女にとっては、永住という言葉の方が合うのかもしれない
どうせ死ぬ時もここなんだから、と
「まだかなぁ…」
そんな生きる気力を失っためぐにも、唯一楽しみがあった
それは突如として舞い降りた天使、水銀燈と戯れる事
他愛もない話をしたり、時には性的に絡み合ったり…
めぐと水銀燈の仲は他人の干渉を許さないほど強固なモノとなっていた
「暇だなぁ…」
その水銀燈がいない日常は普通の日常に戻っただけ
─それだけなのにこれほど寂しいモノなのか─
と大きなため息を漏らす
そして思い出したように歌を口ずさんだ
自分の大好きな曲
そして水銀燈の大好きな曲
大切な人への無事を祈るその歌は、誰もいない個室に響き渡った
時は日没
病院食も食べず看護婦の話も聞かず、ただひたすら歌い続けるめぐ
部屋の外ではそんな態度を訝しむ小声が聞こえるが、いつもの事だから気にしない
「今日も帰ってこないのかなぁ…」
やがて消灯の時間が迫り、諦めてベッドに潜り込んだ時、病室にある鏡が輝いた
「遅かったね…待ちくたびれちゃった…あれ?」
フワリと降り立つ漆黒のドレス
それは間違いなく水銀燈
しかし、その背後には見知らぬドールが降りたった
「水銀燈…?」
「ただいまぁ…」
「誰…その子?」
「この子は私の妹よ。蒼星石っていうの」
初めて見る水銀燈以外のドール
警戒心と好奇心で胸が高鳴った
「へぇ…あの締め上げるって言ってた?」
「違うわぁ…締め上げるのは雛苺っていう生意気なドール。この子は仲間…よ」
「仲間?ならいいわ。初めまして♪水銀燈のマスターの柿崎めぐ。めぐって呼んでね」
「あ…は、初めまして蒼星石です」
敵意はないと知り、めぐは蒼星石を抱きしめた
「うわぁ~可愛いっていうか凛々しいね!水銀燈の妹って感じ」
「だから妹って言ってるでしょぉ?どうしても会いたいって言うから連れてきたのよ?」
「会いたい?私に?何で?」
「えっと…いや…その…」
盛り上がった手前、何故ペニパンやバイブを持っているのかなどと今更聞けるはずもない
そもそも水銀燈が所持してると思っていただけに、マスターに会うとは想定外だった
「えと…す、水銀燈のマスターって今までいなかったから…どんな人なのかなって…」
「あはは!何だそんな事かぁ。こんな人だよ?」
そんなやり取りを見て、水銀燈がニヤリと口を歪めた
「あなたの聞きたい事はそんな事じゃないでしょ蒼星石ぃ?」
「え?どういう事?」
「あ、いや…その…」
「クスクス…この子は何故あなたが媚薬や"オモチャ"を所持してるのか聞きたいのよぉ」
それを言われ紅潮する蒼星石
否定できなくて困った様子が全体に表れていた
「水銀燈に貸した道具ね…うふふ…何故か知りたい?」
蒼星石を抱きしめながら、からかうように訪ねる
どうしようもなく、頷くしかできなかった
「だったら…体で教えてアゲルね…」
「えっ!?あっ!くっ…」
口元に布を当てられ、抵抗する間もなく眠りへと堕ちる蒼星石
「呆れたわぁ…鮮やかな手口ねぇ。薬まで用意してるなんて…」
「本当は水銀燈に使おうと思ってたんだけどね♪この子好きにしていいんでしょ?」
「まぁねぇ…あなたへのお土産だもの…」
「水銀燈はいいの?何もしなくて」
「その子はもう味見済みだもの」
「相変わらず手が早いのね」
「だから私はまだ味見してない子を頂くとするわ」
「味見してない子?」
「蒼星石が家にいないと知ったら飛んでくると思うわぁ」
「じゃあ私もそのドールに会えるの?」
「えぇ…その子の姉よ」
とても愉しそうな笑顔でそう言った
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