禁忌を犯してしまうということはどういうことなんだろう。
タブーというものは禁止されているという一点にこそ価値があるのだと思う。
ならばそれを破ってまで乗り越えた先には一体何があるのだろうか。
翠星石「…き?…せいせ……蒼星石?」
蒼星石は我に帰った。どうやら自分でも気付かぬうちに考え事に没頭していたらしい。
翠星石「蒼星石?大丈夫ですか?」
蒼星石「…ごめん。大丈夫。ちょっとボーッとしてた。」
翠星石は心底心配そうな表情を蒼星石に向けている。
蒼星石「本当に大丈夫だから。心配しないで?」
翠星石「それならいいですけど…それじゃあ、今晩御飯持ってくるですね?」
テーブルに次々と皿が運び込まれて来る。蒼星石の分と翠星石の分、2セットずつ。
全ての準備が終わると二人は向かい合い、各々それらを口に運んだ。
翠星石「どうですか?今日のはちょっと自信作ですぅ。」
蒼星石「うん。美味しいよ。すごく。」
それを聞いた翠星石の顔がほころんだ。
しかしそれを見た蒼星石の脳裏に浮かぶのは、姉の恐れおののき、涙する顔。
官能的なまでの表情を思い描いた蒼星石は小さく身震いをした。
姉の全てを奪い尽くしたい。知り尽くしたい。
そこで蒼星石はふと思った。
他のどの生物よりも安穏を望む人間という生き物こそが禁じられた一歩を踏み出してしまうのは、
やはり人間に特有の押さえ切れない好奇心、というやつのせいなのかもしれない。
蒼星石は自嘲気味に笑った。もはや理性など必要が無い事を悟っていた。
二人が食事を終えると、翠星石が皿をキッチンに片付けに行く。
シンクでしばらく水に漬けておくのが習慣だった。
蒼星石は閃いた。
もうそれを止めることはできない。
止める理由など、無い。
蒼星石「僕も手伝うよ。」
そう言って蒼星石は席を立ち、皿を運んでいく。
翠星石は余り広いとは言えないシンクに効率良く皿を収める為に奮闘していた。
その背後に蒼星石が近付いていく。
そして翠星石の後ろから覆い被さる様にすると、皿を持った腕をシンクに伸ばした。
そこで蒼星石は意図的に手を離す。
30センチ程落下した皿は、澄んだ音を立てて砕け散った。
蒼星石「あ、ごめん。落としちゃったよ。」
翠星石「そ、蒼星石!?大丈夫ですか?今片付けますぅ!」
翠星石が慌ててこちらへ振り返ろうとするが、その前に片腕で強く翠星石を抱きしめる。
そして空いた手で、飛散した破片の中から丁度良い大きさと形のものを手に取った。
翠星石「あっ、駄目です!指が切れちゃうです!」
まだ見当違いのことを言っているようだ。
蒼星石は可笑しくなってクスリと笑うと、
手の内の破片を翠星石の頬、目尻から口元辺りまで一気に滑らせた。
きめ細やかな肌が一文字に裂け、鮮血が溢れ出す。
翠星石「痛っ!な、何するですか蒼星石!」
ああ、彼女が愛おしい。
蒼星石が翠星石の耳元で囁いた。
蒼星石「ふふふ。すごく綺麗だよ。翠星石。誰にも渡さない。僕だけのものだ。」
そして傷跡から流れ出る血液を優しく舐め取った。
翠星石「そうせい…せき?」
漸く理解し始めたようだ。
しかし無駄に余裕を与えるつもりは無い。
蒼星石は翠星石を乱暴に床に押し倒すと、喉元に破片を突き付けた。
翠星石「蒼星石っ!?どうしてこんな…」
蒼星石「動かないで。死にたくないでしょ?」
可能な限り冷たい口調で脅すように言う。
翠星石は黙るしか無かった。
蒼星石「偉いね。翠星石。」
蒼星石は微笑むと、翠星石の全身を覆う衣服を破り捨てていった。
翠星石の輝くような肢体が露わになる。
蒼星石は目を細めると、手に持った破片で翠星石の全身至る所に傷を付けていく。
しなやかで、滑らかな光沢を持つ肌に傷を付けていく事に対する背徳感や、
顔を歪め、涙を目の端に溜めながら漏れ出そうな声を必死で抑えている翠星石のいじらしさに、
蒼星石はこれ以上無い程の愉悦を感じるのだった。
蒼星石が傷口に舌を這わせ、あふれる血液を音を立てて啜っていると、
翠星石が涙声で訴えかけてきた。
翠星石「そ、蒼星石…?」
蒼星石「何だい?翠星石。」
翠星石「どうして、どうしてこんな酷いこと…翠星石のことが、嫌いになったですか?」
蒼星石は翠星石の唇に自分の唇を重ねた。
蒼星石「そんなこと無いよ。愛してる。誰よりも。」
翠星石「じゃあ、じゃあ何で…普通にしてくれたら、翠星石だって…」
蒼星石は溜息を吐くと、首を振った。
蒼星石「それじゃ駄目なんだよ。翠星石。
『相思相愛』なんてものは曖昧な幻想、思い込みでしかない。
相手を完全に支配してこそ、疑う余地の無い本当の『愛』が完成するんだ。」
翠星石は眉根を寄せて考え込んでいる。よく解っていないらしい。
まあいい。翠星石の全てを手に入れてしまえば同じ事だ。
蒼星石は翠星石の脚の間に手を伸ばすと、股を弄りはじめた。
翠星石が反応し、起き上がろうとする。
蒼星石「翠星石!」
翠星石の動きが止まる。
蒼星石「動いちゃ、駄目だよ?」
翠星石は気圧され、返事すらできなかった。
蒼星石は翠星石の入り口付近や突起を執拗に舐ると、指を二本、翠星石に突き入れた。
翠星石が信じられないといった目つきで蒼星石を見ている。
蒼星石は翠星石に笑いかけると、指を動かし始めた。
最初は鋭い痛みに耐えていた翠星石も、その内顔を紅潮させ、甘い息を吐き始めた。
指が動くのと同時に体も小さく痙攣している。
それを見た蒼星石は指の動きを速めていく。
大分息を荒げた翠星石にキスをすると、蒼星石は翠星石に語りかけるように言った。
蒼星石「翠星石、愛してる。大好きだよ。翠星石。
僕だけを見て。僕だけを考えて。僕だけを感じて…」
そして翠星石が絶頂に達した。
翠星石の体が一際大きく跳ね上がると、翠星石の意思と反して全身が激しく痙攣する。
それが収まっていくにつれ翠星石の焦点はぼやけていき、息は途切れ、
やがて身動き一つしなくなった。
その間蒼星石は翠星石の瞳を覗き込んだまま動かなかった。
蒼星石は漸く顔を上げると、翠星石の下腹部へと視線を移した。
そこには庭師の鋏が突き立てられていた。
傷口からは血が絶えず流れ続け、翠星石の体の周りに小さな池を作り始めていた。
蒼星石は無表情のまま、翠星石の身体からローザミスティカを取り出した。
そして顔をほころばせると、優しくキスをした。
重要なのは、相手を完全に支配すること。
相手の心全てを自分で染め上げること。
例えそれが恐怖の蒼であったとしても、そんな事は関係無いのだ。
ただ、相手が自分で満たされているという事実こそが重要なのだ。
結局翠星石は事切れる最期の瞬間までを蒼星石と共にしていた。
勿論それは空間的な意味だけではない。
蒼星石「これで僕たちは肉体を超えて通じ合うことができた。
ようやく一つになれたね。ずっと一緒だよ、翠星石。」
(了)
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