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雨上がりの日に

最終更新:

rozen-yuri

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だれでも歓迎! 編集
「退屈ねぇ。どこか出かけましょうか」
 ベッドから起き上がって提案をする。
それは日常茶飯事であって唐突でもあった。
水銀燈はいつだってそうだ。
前触れもなく好きなときに自分の欲求を満たす。
それでもそんな水銀燈に引かれて今は傍にいる。
「水銀燈、どこに行きたい?」
 野暮なセリフだったかもしれない。
きっと水銀燈はこういうって分かっているからだ。
「蒼星石に任せるわぁ」
 手のひらをひらひらと倦怠感をあらわにしながら再びベッドに身を任せる。
どこに行こうかななんて考えながらカップにお茶を注いで外を眺めた。
昨日まではしとしと降る雨に文句をいう水銀燈の相手をしていたことを思い出した。
「梅雨ももう終わり・・・・なのかな?」
 この島国の独特ないやな季節をどこか懐かしげにぽつりとつぶやく。
ふと何かを思い出し、蒼星石はポケットの中の2枚の紙切れを握り締めた。

 雨上がりの日中は少し湿っぽい。
バス停の前で照り返してくる陽射しをうっとおしそうに水銀燈は目を細めた。
「ごめんね、でも向こうに着いたら空調も聞いているだろうし・・・・」
 日傘を少し前のめりに水銀燈へ差し出しながら申し訳なさそうに蒼星石は笑う。
そういうちょっとした心遣いが水銀燈は気に入っている。
「平気よぉ。だって太陽は蒼星石の命で活動しているわけじゃないもの」
 時々見せる猫のような水銀燈の表情が愛しい。
水銀燈はそのまま周囲の目を憚ることなくそっと蒼星石の頬へ口付けをした。
温かく心地よい感触が頬にあたり、頬が少しカッと熱くなるのが分かる。
生憎、手は日傘を持つことに専念しているため水銀燈にされるがままなのである。
「やっとバスがきたわぁ。行きましょう、蒼星石」
「うん・・・・」
 日傘を畳んで一緒に乗り込む。
水銀燈が窓側に、蒼星石が通路側という形で二人掛けの椅子に座った。
映り行く景色に水銀燈は相変わらず目を細めて眺めている。
最近分思うことだが、彼女は何もつまらないからそうしているわけではない。
これは蒼星石の考察でしかないが、水銀燈はこうしていることで自分に興味を持って欲しいのではないかと思う。
「水銀燈は僕がどこに連れて行こうか分かるかい?」
「フフ、蒼星石が連れて行ってくれるところですもの。きっと素敵なとこよぉ」
 翠星石の愚問に水銀燈ははにかんで答えた。

「とても・・・・素敵ねぇ」
 水銀燈から感嘆の言葉が漏れる。
彼女なら喜んでもらえると分かっていても胸がくすぐったくなってくる。
「(マスターから頂いた水族館のチケット、持っていてよかったな)」
「今度はあっちを見てみましょう」
 子どものように目を輝かせる水銀燈に胸が熱くなってくる。
蒼星石は水銀燈に手を引かれて見て回る。
繋いでいる手に目をやって一人頬を赤く染めた。

「ここは少し暗いね。夜の海の雰囲気を出しているのかな?」
「ええ、そのようね。ここはゆっくりと観て回りましょう」
 今度は蒼星石がエスコートをする。
握り返される水銀燈の手のひらが心地よい。
周りを見るとこのスポットはやたらカップルが多い。
彼女たちと同じ考えて涼を得ながらのデートスポットとしては最適なのであろう。
ところどころに座って観れるようにベンチが設置してあるのは館の憎い演出なのだろうか。
「なんだか落ち着くわねぇ」
 うっとりとしながら立ち止まり、二人で水槽を見つめる。
魚たちはこちらを気にするでもなく優雅に泳ぎまわっていた。
ふと視線を水銀燈へ視線を移す。
不意にその視線の先に見えるベンチに座ったカップルが抱き合ってるのが見えた。
「フフ・・・・あっちが気になる?」
 正直、ローザミスティカが口から飛び出てしまうかと思った。

「蒼星石、落ち着いたかしら?」
 空いているベンチに二人で座る。
水銀燈は首から提げていた水筒から温かい紅茶を注いでまだ落ち着かない蒼星石に差し出す。
「あはは、みっともないところ見られちゃって・・・・恥ずかしいなぁ」
 紅茶をコクコク喉を鳴らしながら飲み干す。
こんな痴態を晒してしまっては冷静でなんていられない。
紅茶の香りだってまともに感じることなんて出来なかった。
「あら、好き同士が抱き合ってお互いを感じてるところを見るのが恥ずかしいの?」
「え?いや・・・・あの・・・・あんなにまじまじ見ちゃってでばがめっていうか・・・・あはっ、僕、何言ってるんだろう」
「正直に答えてちょうだぁい。蒼星石はそれを見てどう思っちゃったのかしらぁ?」
 蒼星石の考えなんて知っているくせにわざとらしく水銀燈が尋ねる。
当の本人は顔を赤く染めながら俯き、可愛らしく自分の膝の上で手をぎゅっと握り締めて耐えていた。
水銀燈は愉しそうに表情を変える蒼星石を見ながら返答を待っている。
「あのっ、その・・・・」
 素直に口に出せない自分がもどかしい。
それでも水銀燈は笑みを絶やさず見守っている。
「えっと・・・・僕・・・・僕も水銀燈と・・・・」
「ごめんなさぁい。意地悪な質問だったわね」
 フッと視線をそらして空いたカップへ少し紅茶を入れる。
それをすっと蒼星石の目の前にまた差し出す。
「私に紅茶、飲ませてくれるぅ?」
 猫なで声で水銀燈が微笑む。
水銀燈には正直敵わないなぁと思わずはにかんだ。

 ベンチから立ち上がり、口に紅茶を含む。
今度はその香りと温かさがじんわりと蒼星石の口の中に広がった。
水銀燈がゆっくり目を閉じてこちらへ顔の角度を変える。
再びドキッとなりながらその頬へ手を当てゆっくり顔を近づけていく。
水銀燈の柔らかい頬が心地よい
「―――んんっ・・・・んふぅ・・・・」
 できるだけ優しくゆっくりと口付ける。
このベンチの後ろには観葉植物があり、多分見られていないはず。
それでもドキドキしながら口の中の紅茶を少しずつ水銀燈へ流し込んでいった。
コクコクと喉を鳴らす水銀燈がとても愛しくて堪らなくなる。
「んっ!」
 蒼星石の身体がちょっと激しく反応する。
口移しで紅茶を飲み干した後も水銀燈はキスを続け、さらに深く口付けた。
「んふぅ・・・・んんっ・・・・」
進入してくる柔らかい水銀燈の舌が絡んでくる。
下から蒼星石の頭を抑える形で少し長い口付けを愉しんだ。
不意にポトっと蒼星石の帽子が転がるが二人は気にすることなく続けた。
「んっ・・・・ぷはぁ・・・・フフ、おいしかったわよぉ。蒼星石の紅茶」
「・・・・はぁ・・・・すごく照れるけど・・・・嬉しかった」
 再び腰掛けて一息つく。
静寂な時間が今の二人にはとても心地よかった。

 ふと帽子を落としたことを思い出し席を立つ。
「あれ、これ蒼星石の帽子なのー」
「ほんとですぅ。蒼星石、どこにいるですか?」
「二人とも、隊列を乱してはいけないのだわ!」
 どこかで聞いたことのある声が二人の耳に届く。
水銀燈と見つめ合って、二人は席を立った。
「ごめんごめん、帽子落としちゃったよ。拾ってくれてありがとう」
「あー蒼星石と水銀燈なの~わーい」
 たたっと雛苺が二人にまとわりつく。
とても柔らかい表情で蒼星石は雛苺の頭を撫でてあげた。
雛苺もとても嬉しそうに撫でられている。
「ちょっと、水銀燈何かあったですぅ?蒼星石のやつなんだかいつもより肩の力抜けてるっていうか・・・」
「あら、私は何もしてないわぁ。逆にされたけど・・・・フフ」
「?」
「二人とも、隊列を乱さないで!ここであったのも何かの縁なのだわ。水銀燈たちも一緒に見て回りましょう」
 プリプリとしながら真紅がくんくんの絵が描かれた旗をぱたぱたさせる。
どうやら真紅を先頭に色々見て回っていたようだ。
「じゃあ、一緒にいこうか」
「そうねぇ。せっかくだしぃ、愉しそうだから付き合ってあげるわぁ」
 無邪気な水銀燈の笑顔に蒼星石もふわりと笑う。
水銀燈と蒼星石は皆に見えないように背中に隠し手を絡め繋いで皆と歩いていった。

「ゴボボボボ、そうくるのね~。ゴボボ、水銀燈もやるようになったわねぇ」
 たまたま水族館の水槽の掃除に来ていためぐさんが水中用デジカメ片手にドールの様子をみていた。
「ゴボボ、今度水銀燈に口移しで紅茶を飲ませて貰わないといけないわ~」
 後日、言葉どおり、水銀燈はめぐに呼ばれて弄ばれるのだった。

おしまい

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