カチカチと音を立てて針が時を刻む。
真紅「そろそろなのだわ。」
若干日が傾き始めた午後4時。
ティータイムというには少し遅いが、真紅は席を立つと紅茶を用意しに台所へと向かった。
湯を沸かしている間に、テレビとビデオデッキの電源を入れてチャンネルを合わせる。
準備は整った。茶葉に湯を注いで待つ。
数分も経たないうちに、黒い影が庭に降り立った。水銀燈だ。
真紅「何か用?」
水銀燈「今日こそ白黒つけてやるわぁ、真紅!」
真紅「生憎だけれど、私は忙しいのだわ。これからくんくんが始まるもの。」
水銀燈「そっ、そうなのぉ?それならまぁ…しょうがないわね。」
水銀燈が視線を漂わせる。真紅は笑みを零した。
真紅「仕方ないのだわ。上がっていきなさい。ちょうど紅茶を淹れすぎたことだし。」
真紅には水銀燈の目的が最初から戦闘では無い事など分かりきっていた。
水銀燈は毎週この時間になるとやって来て、くんくんを見て帰って行くのだ。
水銀燈「それなら…お邪魔するわぁ。」
素っ気無く装ってはいるが、輝く瞳が全てを物語っていた。
二人で並んでソファーに座る。既にティーカップは二つ用意されていた。
くんくんが始まると真紅は画面を注視し、一言も言葉を発さなくなったので、
水銀燈はさりげなく真紅の方へ視線を向けた。
幼さが残りながらも整った顔。
横から見るとくっきりとした目鼻立ちがよく分かった。
思わず我を忘れて見入ってしまう。
真紅はくんくんに熱中していてこちらには気付いていないようだ。
水銀燈もくんくんには目が無いが、それでも今は真紅を見ていたかった。
それほどに真紅は水銀燈にとって魅力的だった。
そうしてただただ見惚れていると、一瞬真紅がこちらを見たような気がした。
水銀燈は慌てて膝の上で握り締めた両手に視線を落とした。
見られただろうか。
きっと緩みきった顔をしていただろう。
恥ずかしさの余り赤面してしまった。
真紅「どうしたの?水銀燈。俯いてしまって。調子が悪いの?」
見られてなかった…
安心したのも束の間、真紅は水銀燈の顔を覗き込んだ。
真紅「あら?顔が赤くなっているのだわ。熱でもあるのかしら?」
二人の顔は10センチと離れていない。
必死で弁解しようとしたがしどろもどろになってしまった。
すると真紅が両手を水銀燈の頬に沖、額を水銀燈のものと重ねた。
真紅「やっぱり少し熱っぽいのだわ。ちゃんと休まなければ駄目よ。」
水銀燈「だっ、大丈夫よっ!」
やっとのことでそれだけ捻り出したが、
真紅の思いもよらない行動によって既に思考は停止し、視界は歪んでいた。
真紅「そう?とりあえず水を取ってくるのだわ。」
そう言うと真紅は台所へと向かっていった。
その背中が見えなくなると、水銀燈は大きく深呼吸して、息を整えようと努めた。
胸に手を当てると自分のものとは思えない程激しい鼓動がまだ続いている。
水銀燈「それにしても真紅…いい匂いだったわぁ…」
思い返してまた頭に血が昇って来たので、必死で首を振って気持ちを引き締めた。
そうしていると真紅が水を注いだコップを手に戻ってきた。
水銀燈はそれを受け取り一気に飲み干す。
緊張で渇ききった喉に冷えた水が染み渡っていく。
ようやく水銀燈は少し落ち着きを取り戻すことが出来た。
真紅「あ…」
真紅がテレビに目を向けている。
真紅「終わってしまったのだわ。」
そういえばすっかり忘れていたが今日はくんくんを見に来ているということになっていたのだった。
既に画面の中では次回予告が流れている。
真紅「仕方が無いのだわ。今日は帰ってゆっくりなさい、水銀燈。
こじらせたりしたらお父様もきっと悲しむわ。」
水銀燈は安堵と名残惜しさの入り混じった複雑な気持ちだったが、
とにかくこれ以上理由無くここに居られないことだけは確かだった。
水銀燈「ふん。また来てやるわぁ。」
真紅「ええ。いつでも来るといいのだわ。」
その言葉にまた心を揺られた水銀燈だったが、悟られぬように背を向けると飛び立っていった。
自分は真紅が好きなのだろう。
多分。いや、間違いなく。
でもそれを伝えようとは思わなかった。
自分と真紅が並んで笑い合っている姿など想像できないし、
そうした関係は水銀燈の求めるものとは違う気がしたのだ。
やはり今ぐらいが丁度いい。
お互い相手に干渉はせず、ただ同じ時間を共有する。
水銀燈「来週が楽しみだわぁ。」
だからこう一言だけ呟いて、水銀燈は紅く染まる夕焼け空へと消えていった。
『その後…1』
真紅は水銀燈が帰っていくと、ビデオを巻き戻し、取り出した。
ラベルには『くんくん』と書いてあった。
さっきまで水銀燈と見ていたものである。
いや、水銀燈の目にはほとんど入っていなかっただろうが。
真紅は思い出して笑みを浮かべた。
水銀燈のあの顔。
こちらが見ていないと思っていたのだろう。口まで開けてだらしなさ極まる顔をしていたが、
真紅は全て見ていたのだった。
わざわざ録画したくんくんを流していたのも水銀燈を観察するため。
そして今日は直に水銀燈をいじることができた。
真紅「水銀燈、今日はまた一段と傑作だったのだわ。」
勿論悪意は無い。
自分に好感を持ってくれていることは純粋に嬉しいし、水銀燈自身の事もとても素敵だと思っている。
ただあそこまで丸分かりな好意をひた隠しにし、
しかもそれが成功していると思い込んでいる様はとても可愛らしいし、
何より真紅の嗜虐心をこの上なくくすぐるのだった。
「好き」だなんて言わない。言ってしまったらつまらない。
多分それは口に出した瞬間に酸化して、どこか嘘っぽくなってしまうのだ。
水銀燈とはそういう間柄にはなりたくなかった。
ティーカップを持ち上げ、水銀灯が飛び去った方へと顔を向ける。
すすった紅茶はすっかり熱を失っていたが、水銀燈の事を考えるだけで最高の味になったように思えた。
『その後…2』
めぐ「ヘタレね。」
水銀燈「でっ、でも…」
めぐの病室。
水銀燈が今日の出来事をにこにこしながらめぐに話していると、急にめぐが説教を始めたのである。
めぐ「ヘタレよヘタレ。これがヘタレでなくて何だと言うの?」
水銀燈「そんなに何度も言わなくてもいいじゃないよう…別にあたしはヘタレじゃ…」
正座させられた水銀燈は俯き、ドレスの裾を指でこねくり回している。
めぐ「これだけ通い詰めてる相手に自分の気持ちもまともに伝えられない奴がヘタレじゃなくて何よ。」
水銀燈「だからあたしと真紅はこっ、恋人だとか、そんな…」
水銀燈は自分が言った言葉で想像を巡らせたのか、頬を紅潮させた。
水銀燈「だからそんなんじゃ…」
めぐ「はぁ…水銀燈が何考えてるのか知らないけどね。
私は単に人に好意を持ったり、その事を伝えたりするのがそんなに
不自然なことだとは思えないって言ってるだけよ。」
水銀燈「でもぉ…そんなあからさまに仲良しって間柄でもないしぃ…」
めぐ「言い訳だけはいくらでも出てくるのね。…あぁ、それじゃ今度行ったときにお礼でも言ったら?」
水銀燈「え?お礼?」
めぐ「水銀燈のことだからどうせ招いてもらってお礼の一つも言ってないんでしょう。違う?」
水銀燈「それはまぁ…そうだけどぉ。」
めぐ「せっかくあなたに良くしてくれるんだから大事にしなさい。
その子だって水銀燈のこと好きだと思うわ。」
水銀燈「んぅ…まぁ、頑張ってみるわよう。」
それを聞くとめぐはにっこり笑い、水銀燈を抱きしめた。
水銀燈はまた暇つぶしの道具にされたことに憤りを覚えつつも、
真紅とのこれからの接し方について考え始めていたのだった。
「好き」だなんて言わなくても。もっと近づいていけるのかも知れない。
水銀燈は自然と笑みを浮かべていた。
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