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「あぁ~、イケナイかしらぁ~!」
「どうしたのぉ~?」
「教室に忘れ物かしらぁぁ~~」
「何を忘れたですかぁ?」
「カナも何か授業中に詞を考えていたかしら、それを書いたノートが机の上に置いたままかしらぁ~」
「ふぅ~ん、それ、誰かに見られたら死ぬほど恥ずかしいわねぇ~フフッ」
「じゃ、取ってきたらいいのだわ」
「うぅ、でも一人で教室に行くのは怖いかしらぁぁ……」
「た、確かに夜の学校は怖いですぅ~」
「みんな…一緒に行ってくれるかしらぁ?」
「イヤですぅ~」
「イヤよぉ~」
「却下だわ」
「そんなぁ~、温かい飲み物をご馳走するから、来てほしいかしらぁ~」
「しょうがないわね、私は紅茶よ」
「翠星石はホットココアが欲しいですぅ~」
「私はぁ、暖かくなくてもいいから~ビックルがいいわぁ~」

真紅達は部室を出て真っ暗なグランドを横切る。
そして真紅と翠星石の教室に灯りがついているのに気付く。

「あれ、電気が付いているわ、誰かいるの?」
「この時間ならバレー部かバスケット部の誰かしら~?」
「そうねぇ、体育館で練習しているから、そうじゃないのぉ~?」

もしかしてジュン……?

真紅と翠星石は一瞬だけそんな考えが心を過ぎる。ただ、何故この時そう思ったのかは解らなかった。

「やっぱり夜の学校は不気味かしらぁぁ~~」
「そうね、早くノートを取りに行きましょう」

真紅達は階段を足早に駆け上がり、教室へと向かった。
その頃、ジュンは鞄を閉じると最後に真紅と翠星石の机を見ながら


と小さく声に出すと、教室から冷たい廊下に出る。
そして振り向かずに階段を下りていった。

「あれぇ~、今だれか向こうの階段のほうに居なかったぁ~?」
「ちょっと水銀燈、そんな怖がらすような事は言ったらダメかしらぁー!」
「そぉ? でも確か……まぁ、いいかぁ~、早くノートを取りましょぉ~」

ジュンが降りていった階段とは反対側にある階段から来た真紅達はほんの数秒にも満たない差で去っていこうとするジュンと行き違った。

何も考えたくないジュンは学校を飛び出し、全速力で走る。
どれほど走っただろうか? 気が付くと小さな公園の側で膝に手を付き、肩で大きく息をしていた。
寒い12月の中で薄っすら汗をかくほど走ってみても何も変わらない現実が常に脳裏に存在する。

「クソッ!」

息切れする声で苛立ちを短い言葉で言い放つ。
そして足元に転がっている空き缶を蹴り飛ばす。

カランッ、カランカラン――――――ジュン君…?

軽く宙に舞った空き缶が落ちると2回ほどバウンドして転がっていく。
その空き缶は蒼星石の足元で止まった。

蒼星石………。
ジュン君……。

ジュンは知らない間に蒼星石が通う学校の近くまで来ていたようだ。
部活で遅くなった蒼星石は目の前にジュンが居ることに驚きと喜びを感じた。
そして、ニコリと笑った頬にえくぼを作り両手で持った鞄をテレ隠しなのか軽く左右に振っている。

「ジュン君がこんな所にいるなんてビックリだよ、どうしたの?」
「い、いや、別に……」

違う街に引越しをするとは言えないジュンは蒼星石の言葉を聞き流す。
そんなジュンに少しキョトンとした蒼星石はジュンの横に並ぶと一緒になって歩き出す。

「ねぇジュン君、こ、この公園を通ったら近道なんだ……行く?」
「あぁ、近道なら…」

そっけなく答えたジュンと蒼星石は公園を歩く。
澄んだ冬の空気が夜空の星座を2人の頭上に広がっている。
時折ふく風が蒼星石のスカートを揺らす、黙ったまま歩くジュンの歩幅に合わす手は触れそうで触れない微妙な位置にいる。
あと数センチでジュンの手を、と考えると蒼星石もいつになく黙ってしまう。

ジュン君――――――――込み上げてあふれ出す感情
ジュン君――――――――淡い想いは確信となり頬を染める

「あ…あの~、ジュン君…変なこと聞いてもいいかい?」
「変な事?」
「う、うん…あのね……ジュン君って…好きな人っているの…?」
「えっ?」

予測していなかった言葉にジュンは立ち止まり、横の蒼星石を見る。
そこには頬を赤らめて、うつむき加減に地面を見ている蒼星石がいた。

「えっ、好きな人…?」
「うん…ほ、ほら、ジュン君っていつも僕達といるから、もし誰か好きな人がいたらなんだか悪いかなぁ~って思ったんだ…」

好きな人か……僕は真紅が好きだ。でも今じゃ好きだったと言う過去形だな。
それに本当に僕が好きなのは個人ではなく真紅を含めたローゼンメイデン全員だよな…。

引越しが目前に迫っているジュンは個人ではなく彼女達と過ごした時間が眩しく感じている。
本当ならこのまま彼女達には何も言わず、誰にも会わずにこの街を出ようと考えているジュンに蒼星石の登場と言葉に微かな痛みを覚えた。

「好きな人って言うか…なんて言えばいいのか解らないけど、みんなといる時間が大好きだな」
「みんな…?」
「あぁ、みんなだよ…みんなといた時間が大好きだったな」

歩幅を合わせていた蒼星石の足が止まる。
少し行き過ぎたジュンが振り向くと、鞄をギュッと握り締めたまま唇を噛み、上目遣いでジュンの顔を見つめる蒼星石がいた。

「ん? どうしたんだ、蒼星石?」
「…ジュン君……イヤだよ、そんな風な言い方って…」
「えっ?」
「だって、そんな言い方するなんてオカシイよ…」

そう言いながら蒼星石はジュンに近づくと、もたれるように額を胸に埋める。
目を閉じてジュンの鼓動を感じている蒼星石は零れるような小声で囁く。

「なんだかジュン君がいなくなりそうだよ、そんなの絶対イヤだよ…僕はジュン君の事…」

溢れ出す感情をそのまま言葉にする蒼星石。
だが、ジュンはそのセリフを言い終わる前にそっと両手を肩に乗せて蒼星石の言葉を遮る。

Illust ID:0lWF7LHq0 氏(122nd take) ※クリックで元サイズ表示

「ハハハッ、そんな言い方に聞こえたのか?」
「えっ? うん、だってジュン君、なんだか遠い目をしてたから…」
「そうか? そんな目をしてたのか、ハハハ、僕は今までどおりみんなと…一緒にいるよ…」

そう、僕もそう思っていたんだ、でも、もうすぐみんなの顔を見ることもなくなる…もうすぐ、後数日でここから遠い街へ…だからできるだけみんなとは会いたくないんだ、だからここでお別れしよう。

そう思いながらジュンは笑顔を作りそっと胸から蒼星石を離し、違う話題に切り替えると2人は歩き出す。

「それより、ローゼンメイデンがTVに出るのはいつだったかな?」
「う、うん、収録は1月6日で、放送が10日だよ」
「そ、そうか、忘れていたよ、また翠星石か真紅に怒られるとこだったよ。それで曲のほうはどうなんだ?」
「まだ完成してないけれど僕が書いた詞に水銀燈が曲を付けてるよ、それに明日から冬休みだからジュン君の学校で完成させるんだ、あれ? ジュン君聞いてなかったの?」
「あっ、あぁ、ちょっと家の用事で今日は休んだんだ、それに遠い親戚が亡くなってね、だから明日から4~5日ほど居ないけど、曲…ガンバレよ」
「うん、ありがとう。僕ガンバルよ」

そう言うと公園から出た蒼星石とジュンは手を振って別れた。
そして蒼星石の姿が見えなくなるとジュンは拳を握り締めながら声を出す。

「クソッ、放送日に僕は引越しかよッ!!」

そして、その日からジュンとは連絡と取れなくなってしまった。

                    *

「ふわぁぁ~~ッ……早く終わりなさいよぉ~」

体育館では全校生徒が校長の長いスピーチに退屈しだし、あくびと小声での雑談に小さな笑い声が混じり出していた。
当然こういう話が苦手な水銀燈は大きなあくびをすると、持て余した退屈を態度で表すかのように腕を組み、かかとで床を小刻みにトントンと踏み鳴らす。

「チッ、もう15分も一人で喋ってやがるですぅ~」

翠星石が体育館の時計をチラッと見ながら舌打ちをし、水銀燈のあくびが金糸雀に伝染した頃、ようやく校長のスピーチが終わり、いよいよ冬休みが始まった。

「よう、正月はどうすんの?」
「オヤジの実家に行くよ」

「ねぇ、初詣は有栖川神社に行く?」
「ゴメン、私お正月は家族と旅行なんだ~」

校門を出る生徒達はそれぞれの冬休みの計画を話している。
当然その中には真紅、翠星石、水銀燈、金糸雀の姿もある。
彼女達は帰るわけでもなく校門の前で曲について話し込んでいる。
そこに違う制服を着た蒼星石が息を弾ませながら現れた。

「ゴメン、待ったかな?」
「いいえ、そんなに待ってなかったわよぉ~」
「早く部室に行って曲を完成させるですぅ~」
「そうね、私たちには時間があまり残されていないわ」

TV収録までに残された時間は約2週間ほど、この短時間にオリジナル曲を完璧なものにしたい。
その焦りと使命感にも似た面持ちで彼女達は大晦日まで持てる時間をフルに使いなんとか曲を完成までにこぎ付けた。

「どうにか曲は出来たけど、収録までにどこかで演奏したいわね」
「確かにそれは僕も思っていたよ、誰か第3者に聴いてもらいたいね」
「どこで演奏するですぅ? 今からライブハウスの予定なんて取れるですかぁ?」
「そうね、無理な話のようだわ……」
「うぅ、困ったかしら~~」

できたばかりの曲に彼女達は、ある程度の自信があった。
ただ、その自信は自己満足からくるものなのか、それとも他人が聴いても共感しえるものなのか、そこに大きな不安を感じていた。
今回は夏の有栖川神社のようにローカルの祭りではなく全国放送されている素人バンド番組「アリスゲーム」に出場するための曲である。
彼女達にかかる重圧は言葉では言い表せない。
しばし言葉を止めて考え込む彼女達の中で水銀燈には何か思う所があった。

「ねぇ、私にイイ考えがあるんだけどぉ、ちょっとイイ~?」

以前、金糸雀とジュンのバイクを事故らせたブルーメタリックのスカイラインGT-R、通称ブルーRのめぐの話をし始める水銀燈に金糸雀は少し怪訝な表情になるが、話がめぐの妹である薔薇水晶に及ぶと同情に近い顔付きに変わる。
そして水銀燈が出したアイデアとはめぐがボーカルを勤めるバンドであるenjuのライブにゲスト出演という形で出てはどうか?と言う内容であった。

「それは構わないけれど、そんな申し出をenjuはOKするですかぁ?」
「たぶん大丈夫よぉ、めぐはアレから金糸雀やジュンに誤りたいって言ってたしぃ、enjuのメンバーだって結構イイ人ばかりよぉ~、どう、この話にノッてみる気はあるぅ~?」
「まぁ、悪い話ではないわね、それはそうと貴女いつの間にenjuと仲良くなったの?」
「まぁねぇ~、イロイロとね」

そう言いながら水銀燈は携帯でめぐと連絡を取り、今回の話をする。
受話器に当てた水銀燈の口元がニコッと微笑む所を見ると、どうやら相手側は軽く承諾してくれたようだ。
そして笑みを浮かべたまま水銀燈は簡単な会話を交わして電話を切った。

「バッチリよぉ~、1月3日のライブにゲスト出演決定よぉ~」
「TV収録の3日前かしら~、タイミング的にもイイ感じかしらぁ」

こうしてローゼンメイデンはenjuのライブに出ることとなった。
そして真紅と翠星石はジュンを男としてではなく同じバンドの仲間としてこのライブに呼ぼうと考える。
一方、蒼星石は想いを寄せる相手としてライブを見てもらいたいと考え、それぞれがジュンに連絡を取ろうとするが、帰ってくるのは電波の届かない場所か、電源が入っていないとのアナウンスのみであった。

                    *

電源が入っていない携帯を机の上に置きっぱなしにしているジュンはベッドでゴロリと横になり、ただ虚ろに大晦日から新年に向けてのTV番組を眺めていた。
お決まりのように陽気なタレントが新年の挨拶をしている。
TV番組の出演者たちの楽しそうな笑い声が聞こえてくるが、今のジュンにとってそれはただの騒音にしか聞こえない。

「はぁ、」

なにやら無気力な吐息をはくとTVと部屋の電気を切り、横になる。
目を閉じていると、微かに除夜の鐘が聞こえてくる。
時折、家の前を数組の人達の声が横切っていく。
おそらく有栖川神社に初詣をするための人たちだろう。

「有栖川神社か……」

夏に行われたライブがジュンの脳裏に甦る。
ステージで歌い、演奏する彼女達をカメラで追いかける。
あの頃は今のような現実が待ち受けているとは考えもしなかった。
このままずっとみんなと変わりない時間の中にいられると思っていた。
しかし、今かすかに聞こえてくる除夜の鐘がそうであるように時間は確実に流れて行き、別れが近いことを示している。

「クソッ」

ジュンは布団を頭から被り、硬く目を閉じた。




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最終更新:2007年01月09日 00:56
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