「最高じゃなぁい!こんなに楽しかったのは久しぶりよぉ!」
スタジオでの興奮覚め遣らぬ中、四人はスタジオ近くの喫茶店でたむろしていた。
「そうね。この二人なら文句はないわ」
紅茶に舌鼓を打ちながら言う真紅。
「気に入って貰えたようでなによりだよ」
いつでも笑顔を絶やさない蒼星石。
「この翠星石と蒼星石がセッションしてやったですぅ。文句なんて言ったらぶっ殺すですよ」
少し蒼星石の影に隠れながら過激発言をする翠星石。
ハハッ、と軽く聞き流す蒼星石。慣れっこなのだろう。
「まぁ…。これから長い付き合いになると思うし、よろしくね」
蒼星石が右手を差し出し、真紅がそれに応える。
「よろしくお願いするのだわ。蒼星石」
しっかりと、互いの手を握る。
「ほら、翠星石も」
「あ…。よ、よろしくお願いしてやるですぅ!」
翠星石が真紅と握手し、蒼星石は水銀燈と握手する。
「よろしくね。水銀燈」
「こっちこそよろしくねぇ。元STONE
FREEのベーシストさん」
「あれ、知ってたんだ」
「一応ねぇ。アナタ達って結構有名なリズム隊コンビよぉ?
まぁそんな事より、バンド名どーするぅ?これから必要になるでしょぉ?」
「そうね。その通りだわ」
水銀燈の言葉に、真紅も同意する。
「翠星石はなんでもいいですぅ」
「せめて名前ぐらいは女の子らしいのがいいわね」
真紅がちらっと水銀燈の方を見ながら言った。
「なんでこっち見るのよぉ。それじゃまるで私が女の子らしくないみたいじゃなぁい?」
いや、水銀燈自身は、同性でも目を奪われる程の美貌の持ち主だ。だが一度ギターを弾けば、男顔負けのプレイを繰り出す。
それは今集まったメンバー全員に言える事だ。
真紅はその事を言ったのだろう。
これから大々的に活動するのであれば、目立つのはそのプレイ、音楽性。
だから真紅は、せめて名前ぐらいは、と言ったのだ。
これには大いに悩まされた。
「名前なんてテキトーにつけちゃっていいじゃなぁい」
と水銀燈は言ったが
「名前なんてモノの本質を示すには至らない些細なもの。でも必要なもの。だから大切にしたほうがいい」
と蒼星石が妙に物憂げな顔で言ったので、下手に決められなくなったのだ。
挙句、水銀燈と翠星石が変に意気投合し、おもしろおかしい名前を列挙しだす始末。
「ひらがなに☆を入れると何か怪しげな響きになるですぅ…『れす☆ぽぉる』とか」
「それいいわねぇ。でもやっぱり頭にtheeは外せないわぁ」
真紅は真紅で、紅茶を飲みながら遠巻きに見守っている。
この光景を見渡し、蒼星石は重大な事に気付いた。
まとめ役がいない。
「はいはい、そんなおもしろおかしい名前ばっかり挙げてないでさ。『女の子らしい』っていう最初のコンセプトからだいぶ脱線してるよ?」
蒼星石がまた元の道にもどしたはいいが、結果行き詰まってしまう。
「なにか…お悩みのようですね…」
不意に声をかけられ、全員がふりむいた。
そこには、喫茶店の制服に眼帯、という奇妙な出で立ちのロングヘアーの少女が、少し恥ずかしそうに立っていた。
「あ…なにかに…行き詰まった時…は…この紅茶がオススメですよ…サービスなんで…ぜひ飲んでください…」
眼帯の少女は、持って来た新しいティーカップを四人の前に並べ、一緒に持って来たティーポットから紅茶を注いだ。
「あら、いい香り…」
真紅がすぐさま反応する。
「でしょう…?私も…悩んだりした時…よく飲むんです…。
ドイツの…ローゼンと言う人が…お茶の葉を…まるで愛娘を育てるように…大切に育てているそうです…」
言いながら、順に紅茶を注いで行く。
「ローゼンは…アリスと呼ばれる…
どんな花よりも気高くて…
どんな宝石よりも無垢で…
一点の汚れも無い…
世界中の…どんな少女でも敵わない程の…
至高の美しさを持った少女の様な…紅茶を生み出そうとして…
七つの紅茶を…生み出しました…これはその一つ…五番目の紅茶、ライナールビンです…」
古いカップをトレーに戻しながら、眼帯の少女はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「…その事から…その七つの紅茶達は…
ローゼンの少女…ローゼンメイデンと…
愛好家の間では呼ばれています…。
結局…理想…アリスとなる紅茶を生み出す前に…
ローゼンは気付いたんですが…
自身が生み出しました…
七つの紅茶全て…一つ一つが…
掛け替えのない存在だと言う事に…」
カップを乗せたトレーとを持ち、ごゆっくり、と言い残して眼帯の少女は奥に消えていった。
「ローゼン…」
「メイデン…」
眼帯の少女の言葉は、四人の心に響き渡った。
「いいんじゃない?至高の少女を目指す、掛け替えのない存在。気に入ったわ。とても」
真紅がライナールビンを味わいながら言った。
「決まりねぇ。ま、アリスになるとしたら私しかいないけどぉ」
「言ってろですぅ」
「まぁまぁ。じゃ、僕らは今日からローゼンメイデンだね」
喫茶店の片隅のテーブルで、ロックバンド・ローゼンメイデンは静かに産声を挙げた。
~次回予告~
ついに!ローゼンメイデンの快進撃がはじまるッッ!
真紅「次回『fire』下僕(ファン)になることを誓いなさい」
翠「絶対見るですぅ!」
最終更新:2007年01月22日 01:28