『命の授業:僕らはきっと主役じゃない』
(キャラ)骨切りユースケ、円谷光彦、夏忌
上手くいかなかった時、俺はいつもあの時を思い出すんだ。
あの赤く沈む夕日の下で。
俺が必死にもぎ取った成果を、その何倍にも膨らませて地面に転がしてる三つの影法師。
俺を唾棄していた。
俺を侮蔑していた。
俺を嗤っていた。
どれだけみくびるなと怒っても。
どれだけ見返してやると呪っても。
遠ざかるあいつらの背中を思い出すたびに理解(わか)らせられる。
いくら金があっても。
いくら弟子が使えても。
俺は「脇役」でしかないんだって。
︎
ゴッ ゴッ
肉を打つ音が鈍く響く。
両肩を露出した中華風の衣装を身に纏った男が、一心不乱に拳を打ちつけている。
相手も男だ。
下半身のボクサー・パンツにのみ身を包んだ、無精髭を生やした日本人だ。
拳を振るう男の名は夏忌(シャジー)。
裏社会に暗躍する組織『蟲』の1人である。
(大したことねえッ、大したことねえんだよッ!!)
マウント・ポジションという有利な体勢にいる中においても、彼の表情には微塵も余裕などありはしない。あるのは焦燥の色一つだ。
彼は追い詰められていた。
この殺し合いに巻き込まれる前から、命を握られていた。
『蟲』の頭領であり、自分の弟でもある『夏厭
』の命令によって。
彼からは監視を着けた上で「拳願会の奴らを適当に何人か殺してこい。期待はしてないけど逃げたら殺す」と告げられている。
そんな中で「わけわかんない女に拉致されたので無理でした」なんて言い訳が通用するとも思えない。もう、それを許される段階はとうにすぎてしまっている。
だからといって諦めたらそれまでだ。今ごろ、逃げたと見做されて抹殺指令を出されているだろうが、せめて一刻も早く帰還して任務に戻らなければ。
その一心で、彼は駆けた。
コンクリートひしめく夜の街並みを、堪能することもなく。ただ我武者羅に。
どれほど走っただろうか。やがて、暗闇の中に人影を見つけると身を低くした。
獲物だ。忌はソレを狩ると決めると、消しきれない焦燥心を抱きながらも息を潜める。
側にある家の角やゴミ箱、荷車などの影に身を潜めつつ、徐々に徐々に距離を詰めていく。
ほどなくして、数メートルのところまで近づいたところでーーー跳躍。
そこで相手は気づいたが、もう遅い。
頭部目掛けて放たれた忌の右のハイ・キックこそは咄嗟に挟まれた腕で防がれたものの、威力を殺しきれずそのまま尻餅をつかせることに成功。
忌は間髪入れずに馬乗りになり、そこから始まるのは一方的なめった打ち。
それが、冒頭に至るまでの顛末である。
(チクショウ、あの森口とかいう女!舐めた真似しやがって!!)
忌は拳を打ちつけている間も、主催への毒を吐き続ける。
忌の基本的な戦闘スタイルは、格闘に刃物を筆頭とした暗器を織り交ぜた不意を突く暗殺型。
だが、この殺し合いに巻き込まれるにあたって、それらは没収されていた。
もしも針の一つでもあれば、マウントを取った時点で勝負は決していたというのにーーーと、今もなお腕の防御で凌ぐ獲物に対しても苛立ちを込めつつ拳を振るう。
(さっさと死ねよ!死んで、俺に全てを捧げろッ!!)
苛立ちと焦燥は、自然と拳の振りを大ぶりにする。
一刻も早くトドメを刺して、楽になりたいーーーその隙を、彼は見逃さない。
忌の拳が振り下ろされるまでの僅かな隙間を縫い、防御にまわしていた両腕が忌の左右の鎖骨に触れる。
苦し紛れの抵抗か、忌は構わず拳を振り下ろそうとする、が。
「はうっ」
落ちた。触れられた鎖骨に激痛が走り、忌の両腕は、突如として力無く垂れ下がった。
「あっ!?なっ、なんだよこれぇ?なんだよこれええええ!?」
「イテテ...結構効いたぜ...」
喚き散らしもがきまわる忌とは対照的に、彼はぼやきながらも落ち着き払ったように立ち上がる。
「よう兄ちゃん。いきなり不意打ちだなんて舐めた真似してくれるじゃねえか」
頬にできた擦り傷を親指で拭いながら、彼は不敵に笑い見下ろす。
彼の名はユースケ。指先一つで敵の骨を切る『骨切りユースケ』である。
︎⭐︎
『人は命に感謝しません。……何故でしょう? それは、皆さん、“明日も生きている”と、何の疑いもなく信じているからです』
明日も生きてるなんて信じてねえが、感謝なんてしてねえよ。
『まぁ当然でしょう。統計上、人間の死因の大半は慢性的疾患によるものです。つまり人は、ゆっくり死ぬことには慣れていても、突然死ぬことには慣れていないのです』
『事故、災害、あるいは殺人。……そういった、ある日突然訪れる予期せぬ死を、皆さんは心のどこかで“自分には関係のない、遠い世界の出来事”だと考えている』
そう思ってたよ。そうありたかったよ。
『ですが、それは本当に幸せなことでしょうか』
馬鹿が。幸せなことだろ。
『人は恐怖によってしか、命の価値を理解できません』
『ですから私は、身勝手で愚かな皆さんへ、これ以上ない特別な“命の授業”を行うことにしました』
要らねえよ。もう知ってるよ。
『起こしてみませんか。この閉ざされた島で、誰一人として逃れることのできない──“死因百パーセントの予期せぬ死”を──では、これより命の授業を始めます』
ご高説いたみいるがね。もう俺は骨身に染みてわかってるんだよ。俺の命に価値なんてないことくらい。生き残るべきだったのは、マストモだったことくらいな。
だから俺はーーー
⭐︎
「はひっ、はひぃ...まっ、待ってくれよ!さっきのは気の迷いってやつだ!こっ、こんな状況で錯乱してたんだよぉ!謝る!謝るから許してくれ!!」
尻餅をつき、涙を浮かべ、哀れみを誘うような声音で叫ぶ忌。
そんな彼をユースケは微笑みを携えながら見下ろす。
「そうか気の迷いか...ってバカか。あれだけめった打ちにしておいて迷いもクソもねえだろうが」
ユースケの人差し指が忌の顎に触れ素早く振られる。
するとどうだ。カコン、と軽い音と共に忌の顎が大きく開けられた。
「~~~~~~ッ!!!???」
忌は涙を溢れさせ、だらしなく開いた顎と弛緩する両肩と共にもんどりを打って転がりまわる。
「ちょうどいい機会だ。骨身に刻んでやるよ、このヒグチ流剛骨術の恐ろしさをな」
「はへ、は、ふぁ、ふぁふぇへ」
迫る指先に、忌は言葉も出せずにただのたうち回るばかり。
そんなことにも微塵も躊躇なく。ユースケの指先が忌を捉えんとしたまさにその時。
「そっ、そこまでです!!」
声が響いた。
まだ甲高い、幼い子供の声だ。
ユースケの指がぴたりと止まり振り返る。
やはりというべきか。
声の主は少年だった。
そばかすが特徴的な至って素朴な印象の少年は、黒光りする円筒ーーー銃口を向けていた。
⭐︎
司会のお姉さんはこれを命の授業だと言っていた。
死を感じなければ命に感謝しないのが人間だと言っていた。
僕はそれを怖く思ったけれど、同時に少しだけ間違ってないとも思うんだ。
僕らは少年探偵団。コナンくんがいて。灰原さんがいて。元太くんがいて。歩美ちゃんがいて。僕がいて。
僕ら五人は色んな事件と関わってきた。ペットが起こしたようなどこか笑える事件から、それこそ死人が出てしまうような事件まで。
たくさん、たくさん乗り越えてきて。
こうして1人にされると思い知らされる。
僕はコナンくんみたいなカッコいい名探偵じゃない。
僕は灰原さんみたいな可愛くてなんでもできる博士じゃない。
僕は歩美ちゃんみたいなみんなを癒せるクラスのアイドルじゃない。
僕は元太くんみたいな力持ちのガキ大将じゃない。
僕は、みんなみたいな特別じゃない。
きっと、この『命の授業』を解決できるのは僕じゃなくて、コナンくんたちみたいな特別な人なんだろう。
たぶん、あの司会の人はそういうことをーーー特別な人を残したいと、僕にはその席なんてないんだって言いたいんだと思う。
それでも。
例え無力でも。
特別じゃなくても。
僕は諦めることはしたくない。
僕だって少年探偵団。
きっとみんなも、こうするだろうと確信しているから。
⭐︎
ハァ、ハァ、と荒い息遣いが空気に溶けていく。
少年、円谷光彦は生まれて初めて手にする拳銃をユースケへと構える。
「そっ、その人から離れてください!」
震える腕も、声も隠せない。
当たり前だ。
殺し合いを止めようと躍り出たというのに、もし何かの間違いで引き金を引けば確実に死人が出てしまう。
如何に少年探偵団としての経験があれど、恐怖を隠しきれるものではない。
「は、はひ...?」
「......」
目を丸くする夏忌と、訝しげに光彦を見つめるユースケ。
沈黙が場を支配する中、真っ先に動いたのはーーーユースケ。
軽く指を一振りすると、パキリという音と共に忌の右小指が紫色に腫れ上がる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」
「うっ、動かないでって言ってるでしょう!?本当に撃ちますよ!?」
忌の悲鳴に応えるように、光彦は叫びこれみよがしに銃口を突きつけてみせる。
だかユースケは微塵も動揺せず、どころか不敵な笑みすら浮かべ、むしろ大仰に両手を広げてみせる。
「おおやってみな。本当に撃てるならなぁ」
「!!」
ユースケの言葉に光彦は息を呑む。
「へっ、やっぱりそうだったか」
安全は確保したと言わんばかりに歩み寄ってくるユースケに、光彦の動悸は激しくなりますます手元がブレていく。
(あ、あぁ、や、やっぱりダメだ)
視界がじわじわと歪んでいき、ガチガチと歯が幾度も打ち鳴らされる。
引き金は引けない。
いや、引いても意味がないのだ。
銃弾など入っていないのだから。
引いたその先には、無力と判明した子供の死体ができるだけだ。
「ひっ!」
思わず逃げようとするも、足がもつれて情けなく転倒。
そのまま這いずることもできず、手を伸ばせば届くような距離までやってきたユースケに、光彦は尻餅をついたまま。
普段なら、こんなに弱腰になることはなかっただろう。
いつもは誰かそばにいてくれたから。
1人では受け止めきれない怖さも、二人なら、三人なら、四人なら、五人なら。一緒に抱えてくれたから。
だから一人で死に向き合うことになれば、こんなにも重たくなってしまう。
(コナンくんや灰原さんならもっと上手くできたんでしょうか...やっぱり僕は...)
逡巡の後に、ユースケの伸ばされる腕に、光彦は「ひっ」と喉を鳴らし目を瞑った。
「よく頑張ったな、ボーヤ」
訪れたのは、ぽふりと乗せられた温もり。
「え...?」
目を開けキョトンとする光彦に、ユースケは膝を屈めて視線を合わせる。
「おいおい、さっきまでの勇敢さはどうしたよ?」
「だ、だってあなた、さっき人を殺そうと...」
「へっ、ヒグチ流剛骨術は殺人技じゃねえ。武術だぜ。いくら俺が素行不良でも看板を腐らすつもりはねえよ」
ユースケの言葉に光彦は思わず深く息を吐き、へなへなと脱力する。
「よっ、よかったぁ~、ぼっ、僕、殺されるかと...」
「気を抜くのは早えぜ。おい、アンタ!この子に免じてこのくらいに...あん?」
振り返るユースケは怪訝な顔を浮かべる。
いない。先ほどまで芋虫のようにのたうち回っていた忌の姿がどこにもない。
「え、あれ...さっきの人は?」
「離れるなよ、ボーヤ」
困惑する光彦を背に、ユースケは左腕を前に突き出し、掌を上向きに構え、周囲へと目線を目まぐるしくまわす。
(どこへ消えた?顎も、両腕も外されりゃあロクに動けねえはずだが...不気味だぜ)
ユースケは警戒心を最大限に高め、光彦はその緊張感につられるようにゴクリと喉を鳴らす。
「......」
「......」
沈黙が場を包み、数分後。ユースケは構えを解きポツリと呟いた
「...逃げやがったか」
⭐︎
「が...うぐ、いってえええええ!!」
ユースケ達から遥か離れた民家の中。
忌は涙目になりながら、家具に身体を打ちつけ外された肩と顎を戻していた。
「~~~ふざけやがってあの雑魚が!」
どうにか動く程度に嵌め込まれた腕で、感情任せに壁を叩く。
応急処置を施しただけでまだ本調子には程遠い乱雑な一撃。
にも関わらず、壁には確かに忌の拳の後が刻まれていた。
彼はごく稀に生まれる『超人体質』を有している。筋肉・腱・靭帯・骨格すべてが超人的な強度と回復力を備えているため、脱臼のダメージも回復も一般人とは比較にならない。
「無問題(モーマンタイ)...次は必ずころしてやるよ」
本来の格闘戦であれば、自分がマウントを取って圧倒していたはずなのだ。あの髭面の男が、骨を外すという得体の知れない奇策を持っていなければ、今ごろ死んでいたのはあっちだった。
憤怒に形相を支配される忌。
彼に反省や自粛という概念は存在しない。
その右手の甲に彫られた蟲の刺青が語るように。
己の利という本能のままに従う彼の精神性は、まさに個の『虫』そのものだった。
【夏忌@ケンガンオメガ】
[状態]:両肩と顎にダメージ(大)、疲労(中)、右手小指骨折
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×2(刃物の類ではない)
[思考]:とにかく生き残る
1:ユースケ(名前は知らない)は後で殺すが、無理には挑まない
2:弱そうなのを狙ってまずは道具の調達をする。
⭐︎
「そうかミツヒコは探偵なのか」
「はい!少年探偵団っていって、僕のクラスメイト達で結成してるんです。こう見えて色んな事件を解決してるんですよ」
夏忌の気配が完全に消え去ったのを確認すると、ユースケと光彦は近場の家屋に入り情報交換と洒落込んでいた。
「ただ、僕がここにいるということはみんなも巻き込まれているかもしれなくて...すごく心配なんです」
「だろうな。まあ安心しな。こうして会ったのも何かの縁。オトモダチがいてもこの『ヒグチ流剛骨術』で守ってやるよ」
「あ、ありがとうございます!!」
パァッと顔を明るくする光彦に、ユースケはふっ、と口元を緩める。
(らしくねえことをしてやがる)
ユースケは自嘲する。
子供を守るだとか。約束して励ますだとか。
そういうのは本当はキャラじゃない。
武術を継ぐ者としては素行不良の不出来者、それが彼の自認だ。
(本当なら、こういうのはあいつの方が向いてるんだよ)
殺し合いなんて場でも子供を守ってやる、絶対に殺し合いに賛同しない。
きっとあいつなら。マストモならば、打算も何も無くそういうことが出来るんだろう。ユースケはそう確信している。
自分はあんな出来のいい弟じゃない。
だからこうして打算ありきで善意を差し伸べる。
(この子を守って生かして帰してやれば、箔がつくよな。そうすりゃパパの道場ももっと綺麗にできる)
ヒグチ流剛骨術は一般社会に門下を開いている『武術』だ。いくら自分が強さを示そうが、『大量殺人鬼』を排出した道場に人は集わない。
だがこれが『子供を守ったヒーロー』ならどうだ?評価は一転、美談として扱われヒグチ流剛骨術は護身術や整体術としても注目されるだろう。
(それに俺が死んでも俺が、ヒグチ流剛骨術が守ったとこの子らに認知されれば同じことだ)
自分の命に価値なんてない。
だから命を賭けてでも、ヒグチ流剛骨術の強さと武術としての有用さを示し貢献する。それが、それだけがユースケの生きる理由である。
(そして可能なら。ミツヒコ、お前が...『マストモ』になってくれ)
父は口酸っぱく言っていた。
ヒグチ流剛骨術を継ぐ者は人格者でなければならないと。
強さだけで正統な後継者になれるなら自分がとうに継いでいる。
人格者とは、命を理不尽にかけられた現場で、自らの不利を承知の上で殺戮を止めるために空の銃を構えられるような者に他ならない。
光彦でなくとも、彼のいう少年探偵団から『マストモ』が見つかるかもしれない。
(待っててくれよパパ。ここからがヒグチ流剛骨術、再興のスタート・ダッシュだ)
⭐︎
ー ーー僕らはきっと主役じゃない。
けど、それでも。
がんばる権利は譲れない。
【骨切りユースケ@TOUGH 第2章】
[状態]:全身打撲(中)、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×2
[思考]:ヒグチ流剛骨術の強さを知らしめる
1:ひとまず光彦を護り、ヒグチ流剛骨術の強さを見せつける
2:夏忌(名前は知らない)には警戒。
【円谷光彦@名探偵コナン】
[状態]:健康
[装備]:弾の入っていない拳銃@現実
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1
[思考]:殺し合いを止める
1:ユースケさんと同行する
2:夏忌(名前は知らない)には警戒。
最終更新:2026年07月10日 23:06