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『未知との遭遇』


(キャラ) オビ=ワン・ケノービ、グリーヴァス将軍、キュルケ、タバサ




目を覚ましたタバサは、しばらくの間、瞼を開けたまま、ただ静かに天を仰いでいた。
ゆっくりと上体を起こすと、いつものように無言のまま周囲の状況を観察し始めた。
見知らぬ街並み。人の気配はなく消えかけたネオンの残光だけが、静まり返った通りを虚しく照らしている。首元には、見覚えのない金属の輪が嵌められていた。傍らには見慣れぬ布の背嚢。

「……ん」

小さく声を漏らしながら、タバサは眼鏡の位置を直すように指先で軽く額に触れた。感情の起伏をほとんど表に出さないタバサの碧い瞳が、それでも微かな困惑の色を浮かべていた。

「タバサ! 良かった、無事だったのね!」

すぐ傍らから聞き慣れた声が響いた。振り返れば、燃えるような赤い髪をなびかせた少女が、こちらに駆け寄ってくるところだった。

「キュルケ」

タバサは短く、友の名を呼んだ。
キュルケは隣国ゲルマニアからトリステイン魔法学院に留学してきた燃えるような赤髪と褐色の肌を持つ少女だった。

「これ、一体どういうことなの……? 」

目を覚ませば見知らぬ孤島に放り込まれ首に得体の知れない輪を嵌められているという異常事態を前にしてキュルケは平静ではいられなかった。

「ここ、どこなのかしら」

キュルケは戸惑いを隠せない様子で、辺りを見回していた。
タバサは無言のまま、傍らに転がっていた布の背嚢を検めた。中には見慣れぬ板状の機器が入っている。触れてみると、画面が明滅し、地図と共に文字列が浮かび上がった。

――孤島。四十八時間。時間切れによる首輪の爆破。最後の一人に与えられる願望成就と帰還の権利。
タバサはそれを一読すると、小さく息を吐いた。

「……物騒」

「物騒どころの話じゃないでしょう、これ!」

キュルケが声を荒らげた。とはいえ、この状況にどう対処すべきか、すぐに答えが出るはずもない。二人はひとまず、周囲の様子を探りながら、当てもなく歩き出すことにした。
見慣れぬ夜の街を歩きながら、キュルケは何度も自らの状況を確かめるように、腕や頬をつねっていた。

「夢じゃないのよね」

「多分」

タバサの素っ気ない返事に、キュルケは小さく肩を落とした。だが、そんなやり取りすらも、二人にとってはいつも通りの、ある種の安心材料になっていた。
夜の街を進みながら、二人はしばし無言で歩を進めていた。

「ねえ、タバサ。ここに他の誰かがいるとしたら」

キュルケがそう口を開きかけた、その時だった。
前方の暗がりから、耳障りな金属音と、規則的な足音が響いてきた。まるで、無数の関節が軋むような、無機質で不気味な音だった。
タバサは即座に足を止め、キュルケの腕を引いて物陰へと引き込んだ。

「……何か来る」

低く囁くタバサの声に、キュルケも表情を強張らせた。


暗闇の奥から、ゆっくりと姿を現したのは――人ならざる異形の存在だった。
金属の装甲に覆われた、痩せ細った体躯。四つの眼窩には、不気味に光る眼球。マントのように翻る外套の下から覗く、骨のように白い装甲の胸部。そして何より異様だったのは、その両腕だった。まるで蠍の脚のように、左右にそれぞれ分割可能な構造を持つ四本の腕。

「……なに、あれ」

キュルケが思わず後退りした。
タバサもまた、これまで見たことのないその異形の姿に、無表情ながらも確かな警戒を滲ませていた。両手に杖を握り直し、いつでも詠唱に移れるよう、静かに息を整える。修練の日々、実戦で培われた勘が、目の前の存在が並大抵の脅威ではないと、はっきりと告げていた。

その異形の名はグリーヴァス将軍。独立星系連合軍における軍事面の最高指揮官であり、数多のジェダイを屠ってきたことからジェダイ・キラーの異名で恐れられる稀代のサイボーグだ。
グリーヴァスの眼が値踏みするように二人を捉えた。

「――ジェダイではないようだが」

低く、機械的に歪んだ声が響いた。

「どの道、皆殺しだ」

四本の腕が、それぞれ独立した動きで蠢いた。金属の擦れる音と共に、四つの光刃、ライトセイバーが夜の闇の中で不気味に明滅した。

「抵抗するがいい。その方が、殺し甲斐がある」

低く歪んだその声には、これまで数多のジェダイを屠ってきた者だけが持つ、確かな自信と、隠しきれない嗜虐の色が滲んでいた。
タバサとキュルケは、咄嗟にそれぞれの得物を構えた。

「タバサ、これ、絶対ヤバいやつよ!」

キュルケが叫びながら杖を振りかざして詠唱。放たれたのは真紅の火球ファイアーボールだった。
炎の塊が唸りを上げてグリーヴァスへと殺到する。
だがグリーヴァスはそれを恐れる素振りも見せず、四本の腕のうち二本を交差させ光刃でその火球を正確に両断してみせた。炎は左右に分かれ無害に地面を焦がすだけに終わる。

「……嘘でしょう」

キュルケが息を呑んだ。

「危ない」

タバサの詠唱と共に鋭い氷の矢ウィンディ・アイシクルが放たれた。大気を切り裂くようにして複数の氷塊がグリーヴァスへと襲いかかる。だがグリーヴァスはそれすらも四本の腕を巧みに操りながら、次々と弾きあるいは身を捻ってかわしていった。

「ほう。氷を操るか」

グリーヴァスは僅かに感心したように呟くと、次の瞬間、地を蹴って一気に間合いを詰めてきた。その速度は、常人の想像を絶するものだった。壁を蹴り、宙を舞うようにして繰り出される斬撃の雨が瞬く間に二人へと迫る。
タバサは咄嗟に杖を掲げ氷の防壁、アイス・ウォールを張り巡らせた。瞬時に凝結した氷の壁が迫り来る四本の光刃の軌道をわずかに逸らす。それでも一本の刃が防壁を突き破りタバサの頬をかすめた。鋭い痛みと共に、一筋の血が流れる。

「タバサ!」

「大丈夫……離れて」

短く答えながらタバサは後方に跳躍し間合いを取り直した。学院でも指折りの実力者として知られるタバサの戦闘技術は、伊達ではなかった。軽やかに地を滑るようにしてグリーヴァスの死角へと回り込もうとする。
だがグリーヴァスの反応はタバサの想像を上回っていた。振り返りざま四本目の腕から放たれた斬撃が、タバサの回り込みを正確に迎え撃つ。

「くっ……」

紙一重でかわしたものの、タバサの表情に初めて明確な焦りの色が浮かんだ。数多の戦場を潜り抜けてきたタバサをもってしても、この異形の相手は次元の異なる強さを持っていた。

「まだまだ、これからだぞ」

グリーヴァスは咳き込むような音を機械音声に混ぜながら、なおも攻勢を緩めなかった。四本の腕がそれぞれ独立して振るわれる剣戟は、まるで四人の剣士を同時に相手取っているかのような、圧倒的な物量と精密さを兼ね備えていた。
タバサは杖を握り直し今度は接近戦を避け距離を取りながらの牽制に切り替えた。凝縮させた氷を生成し着弾のタイミングをずらすことでグリーヴァスの防御に隙を作ろうと試みる。

だが四本の腕を巧みに操るグリーヴァスは、その連続攻撃すらも、まるで舞うようにいなしていった。

「小細工だな」

グリーヴァスは嘲るように言うと地を這うようにして低く身を沈めた。次の瞬間、内蔵されたワイヤーアンカーが虚空へと射出され、まるで見えない糸に引かれるようにして、グリーヴァスの巨体がタバサへと肉薄した。

「――!」

まったく予期していなかった接近速度にタバサは防御が一瞬遅れた。振り下ろされる光刃の軌道に咄嗟に分厚い氷壁を割り込ませる。作り出した氷の壁は光刃にあっけなく両断されたが、それでも刃の勢いを僅かに低下させ回避することができた。だが、その隙を突くようにグリーヴァスの脚が唸りを上げてタバサの脇腹を捉えた。常人離れした膂力に裏打ちされた蹴撃にタバサの体は大きく吹き飛ばされ瓦礫の山に叩きつけられた。

「タバサ!」

キュルケが悲鳴を上げた。

「大丈夫……まだ、動ける」

呻きながらもタバサは震える足で立ち上がった。だが、その動きは明らかに精彩を欠いていた。

「タバサ、こっちも援護するから!」

キュルケが再び杖を構え炎を放つ。だが注意が二方向に分散したことで、グリーヴァスの動きに隙が生まれることはなかった。むしろ複数の敵を同時にあしらうことにかけては、グリーヴァスの方が遥かに場慣れしていた。

「いい度胸だ」

グリーヴァスは嘲るように言うと、標的をキュルケへと切り替えた。詠唱の隙を突くように踏み込み光刃を大きく振りかぶる。

「キュルケ、危ない!」

タバサが叫んだ。
グリーヴァスの振り下ろした刃は、キュルケの首を確実に捉えようとしていた。

「――っ!」

キュルケは咄嗟に杖を掲げ、防御の魔法陣を展開しようとしたが詠唱が間に合わない。迫る死の気配にキュルケの背筋が凍りついた。

「キュルケッ!!」

タバサの口から、これまでに聞いたことのないほどの、大きな悲鳴じみた叫びが迸った。普段の彼女からは想像もつかない、感情剥き出しの声だった。
だがタバサの叫びも、迫る刃の速度を止めることはできなかった。
キュルケは、迫る死を覚悟するように、咄嗟に目を瞑った。

だが、いつまで経っても、覚悟した衝撃は訪れなかった。
代わりに聞こえたのは、爆風にも似た唸りと、グリーヴァスが激しく吹き飛ばされる金属質の衝突音だった。
何か目に見えない力によって、まるで大砲で撃ち出されたかのように、グリーヴァスが勢いよく後方へと弾き飛ばされたのだ。

「――何だと!?」

グリーヴァスが怒りと驚愕の入り混じった声を上げながら、体勢を立て直そうと身をよじった。
その見えざる力の発生源――暗闇の奥から、一人の男が、静かな足取りで歩み出てきた。腰には金属の柄を下げたその男は、前方に突き出していた右手をゆっくりと下ろしながら、鋭い眼差しでグリーヴァスを見据えていた。

「――間に合ったようだな」

穏やかで、しかし芯の通った声だった。男は腰の柄を引き抜いた。低い駆動音と共に青い光刃が虚空に走る。

「オビ=ワン・ケノービだ。無事か、二人とも」








遡ること、僅か数十分前。

オビ=ワン・ケノービもまた、この見知らぬ孤島で、混乱の中に目を覚ましていた。
意識を取り戻した瞬間、彼が最初に思い出したのは、ジェダイ評議会から下された任務の内容だった。独立星系連合軍の総司令官、グリーヴァス将軍が惑星ウータパウに潜伏している――その情報を受け、オビ=ワンはクローン軍を率いて出撃する準備を進めていたはずだった。
それなのに目を覚ませば、見知らぬ夜の街の只中に、ただ一人転がされていたのだ。

「……これは、一体」

困惑しながらも、オビ=ワンは長年の実戦経験に裏打ちされた冷静さを保っていた。すぐさま自らの装備を確認する。腰のライトセーバーは失われていない。傍らには見慣れぬ布の背嚢が転がっており、中を検めると、板状の機器が一つ収められていた。触れてみると画面が明滅し、地図と共に、この状況を説明する文字列が浮かび上がった。

――孤島。四十八時間の制限時間。時間切れによる首輪の爆破。最後の一人に与えられる願望成就と帰還の権利。

オビ=ワンはその文字列を、しばし無言で見つめていた。

「穏やかではないな」

低く呟きながらも、オビ=ワンの胸に去来したのは、恐怖よりもむしろ、状況を分析しようとする冷静な思考だった。数多の戦場を経験してきた身にとって、想定外の状況に放り込まれることは、決して初めてではない。ジェダイとしての修練、そして交渉人としての経験が、パニックよりも先に、状況の把握を促していた。

「ともかく状況を把握することが先決だ」

オビ=ワンは独りごちると、背嚢を担ぎ、フォースの感覚を研ぎ澄ませながら、夜の街を歩き始めた。

歩を進めるうちに、オビ=ワンのフォースの感応力は、遠くに二つの、そして一つの、明らかに異なる質の気配を捉えていた。二つは、まだ幼さの残る、しかし確かな力を秘めた気配。もう一つは――より不穏で、機械的な冷たさを帯びた覚えのある気配だった。
戦争中、幾度となく刃を交えてきた宿敵の気配に驚くほど酷似している。
オビ=ワンは気配のする方角へと足を速めた。もしあの男がこの島にいるのだとすれば、悠長に構えている余裕はない。
そして、たどり着いた先で、オビ=ワンが目にしたのは――見知らぬ二人の少女がグリーヴァス将軍の猛攻に晒されている光景だった。一瞬の躊躇もなく、オビ=ワンはフォースを解き放ち、迫るグリーヴァスの巨体そのものを、力任せに吹き飛ばしていた。すんでのところで間に合った、まさにその直後の光景から、時は再び現在へと戻る。

タバサとキュルケは、突如として現れたこの見知らぬ男を、呆然と見つめていた。だが、その圧倒的な存在感と、たった今、目に見えぬ力でグリーヴァスの巨体を吹き飛ばしてみせたという事実に、二人は困惑と僅かな安堵を同時に覚えていた。
一方、グリーヴァスの眼に灯った色は、驚愕から、次第に濃密な殺意へと変わっていった。

「……ケノービ将軍か」

咳き込むような音を交えながら、グリーヴァスは低く唸るように呟いた。

「まさか、ここに来ていたとはな」

オビ=ワンとグリーヴァス。この二人は、クローン大戦の戦場において、幾度となく刃を交えてきた宿敵同士だった。共和国の将軍であるオビ=ワンとジェダイ・キラーの異名を持つグリーヴァス――両者の間には、単なる敵対関係を超えた深い因縁が刻まれていた。

「奇遇だな、グリーヴァス」

オビ=ワンは油断なく青いライトセーバーを構えながら、皮肉めいた口調で応じた。目の前の宿敵の姿を見据えるその双眸には、警戒と共に、これまで幾度となく死線を潜り抜けてきた者だけが持つ、静かな余裕も滲んでいた。

「こんな見知らぬ島で顔を合わせることになるとは、私も予想していなかったが」

「軽口はそこまでにしてもらおう」

グリーヴァスは四本の腕にそれぞれ光刃を灯し、じりじりと後退しながら、オビ=ワンと、そしてその背後にいる二人の少女――タバサとキュルケの位置関係を素早く見極めていた。

「貴様とは、これで何度目の対峙になる? いずれも決着はついていない」

グリーヴァスの機械的な声に、微かな苛立ちが滲んだ。

「数えるのも面倒になってきたところだ」

オビ=ワンは肩をすくめるようにして答えた。

「だが、その度に逃げ出したのは、いつも貴様の方だったと思うが」

「――減らず口を」

グリーヴァスの眼に苛立ちが色濃く滲んだ。事実、これまでの戦いにおいて、グリーヴァスは形勢が不利と見るや、部下を犠牲にしてでも単身で脱出することを選んできた。総司令官として討ち取られるわけにはいかないという自覚が、そうさせているのだと、グリーヴァス自身も理解していた。だが面と向かってその事実を指摘されることには、少なからぬ屈辱を覚えずにはいられなかった。

タバサは、突然の出来事に動揺しながらも、すぐさま自らの役割を悟った。杖を構え直し、震える手を押さえつけるようにして、オビ=ワンの援護に回る。

「……手伝う」

短くそう告げると、タバサは風の刃を練り上げ、グリーヴァスの側面へと放った。突然の援護にグリーヴァスは僅かに体勢を崩しかける。

「小癪な真似を!」

苛立たしげに吐き捨てながらも、グリーヴァスは冷静に状況を分析していた。目の前のジェダイは、これまで何度も自分を苦しめてきた強敵だ。そこに、未知の力を操る二人の少女までもが加勢するとなれば、単純な数の上でも、そして戦力の質においても、明らかに分が悪い。

「その怪我をした娘も、まだ立てるようだな。存外にしぶとい」

グリーヴァスは咳き込むような音を漏らしながら、油断なく間合いを測り続けた。

「貴様とはここで決着をつけたいところだが……」

グリーヴァスは低く唸るように言うと、その場に四本の腕をつき身を屈めた。

「三対一では、些か分が悪いようだ」

その言葉と共に、グリーヴァスは驚くべき俊敏さで、まるで蜘蛛のように四肢を使って地を這うようにして後退し始めた。壁面をも駆け上がるその身のこなしは、常人はおろか、多くの戦士の想像すら超える異様な速さだった。

「待て、グリーヴァス!」

オビ=ワンが追撃の姿勢を見せかけたが、その足はすぐに止まった。視線が、傍らに立つタバサとキュルケへと向けられる。
見知らぬ少女たち、見知らぬ力、そしてバトルロワイアルという状況――オビ=ワンの脳裏には、瞬時にいくつもの懸念が去来していた。今この場で無闇にグリーヴァスを追跡すれば、この二人を危険の中に置き去りにすることになる。
オビ=ワンは構えを解かぬまま、しかし追撃の足を止めた。
グリーヴァスの姿は、瞬く間に夜の闇の奥へと消えていった。壁を這い、屋根伝いに移動するその異形の将軍を、もはや視認することすらできなくなっていた。

しばしの静寂の後、オビ=ワンはようやくライトセーバーを納め、タバサとキュルケの方へと向き直った。

「怪我はないか?」

穏やかな声で問いかけられ、キュルケはようやく詰めていた息を吐き出した。

「た、助かりましたわ」

「間一髪だったな。もう少し到着が遅れていたら、危ないところだった」

そう言って穏やかに笑うオビ=ワンの横顔を、キュルケはまじまじと見つめていた。命の危機を救われたという事実以上に、キュルケの胸を強く打ったのは、あの絶望的な状況下でも一切慌てることなく、圧倒的な力で窮地を覆してみせたその佇まいだった。整った顔立ち、落ち着き払った声音、そして何より、危険を顧みず迷わず飛び込んできたその勇敢さ――それらすべてが、キュルケの琴線に、瞬く間に火を灯していった。

(……素敵。まるで伝説の勇者様みたい)

胸の内で、思わずそう呟く。惚れっぽい性格は、キュルケ自身も重々自覚しているところだった。だが、これまで言い寄ってきた幾多の殿方の誰とも比べ物にならないほどの、確かな輝きを、キュルケはこの見知らぬ剣士の中に見出していた。

「ねえ、あなた……とっても格好良かったわ」

「気にしなくていい。困っている者を助けるのは、当然のことだからな」

オビ=ワンは特に気負う様子もなく、涼しい顔でそう答えた。その反応が、かえってキュルケの心をさらに強く揺さぶった。恩着せがましさの欠片もない、自然体の優しさ――それは、これまでキュルケが出会ってきたどの殿方とも異なる魅力を放っていた。
オビ=ワンはタバサの方にも視線を向けた。頬に滲んだ薄い血の跡に気づいたのか、僅かに眉を寄せる。

「君も、無理はしないことだ。怪我の手当てが必要そうだが」

タバサは無言のまま、小さく頷いた。だが、その内心では、先ほど自分が発した悲鳴じみた叫び――柄にもなく、感情のままにキュルケの名を呼んだあの瞬間のことが、まだ鮮明に焼き付いていた。普段は決して表に出すことのない激情が、あの一瞬、抑えきれずに溢れ出てしまったのだ。

「……ありがとう」

タバサは、オビ=ワンに向けて、ぽつりと呟いた。感謝の言葉すら、いつもより控えめだったが、その声には確かな真情が込められていた。

グリーヴァスが夜の闇の奥へと姿を消した後、しばしの静寂が、三人の間に流れた。
キュルケは、そんなタバサの様子を、驚いたように見つめていた。

「タバサ……さっき、わたしの名前、叫んでくれたわよね」

「……別に」

タバサはいつもの無表情に戻ろうとしていたが、頬にはうっすらと朱が差していた。

「別にって……あんな大声、初めて聞いたわよ。ちょっと嬉しかったわ」

キュルケはいたずらっぽく笑いながら、タバサの肩に軽く腕を回した。入学以来の親友として、詮索し合わないことを不文律としてきた二人だったが、こうした瞬間にこそ、言葉にせずとも通じ合う確かな絆が滲み出るのだった。タバサの無表情の奥にある感情を、誰よりも正確に読み取れるのは、他ならぬキュルケだった。

「タバサって、普段あんなに大人しいのに、こういう時は別人みたいになるのね」

「……気のせい」

「気のせいで、あんな声出るかしら?」

キュルケが顔を覗き込むようにしてからかうと、タバサはますます視線を逸らした。だが、その仕草に嫌悪の色は微塵もなく、むしろ、どこかくすぐったそうな、けれど拒みきれない温かさが滲んでいた。友人として過ごしてきた月日の中で、タバサが自分の感情をここまで露わにした瞬間は、キュルケの記憶になかった。だからこそ、この見知らぬ孤島という絶望的な状況の中にあってなお、キュルケの胸には、確かな喜びに似た感情が広がっていた。

「……本当に、危なかった」

タバサは小さく呟くと、それ以上は何も言わず、ただキュルケの手をそっと握り返した。それだけで十分だった。

その様子を、オビ=ワンは少し離れた場所から、静かに見守っていた。長年、多くの戦友や弟子たちと共に戦場を駆け抜けてきたオビ=ワンにとって、こうした若者たちの絆は、決して見慣れないものではなかった。むしろ、この見知らぬ孤島という異常な状況の中でこそ、その絆の尊さが際立って見えるようだった。

同時に脳裏には、かつて自分が導いた弟子アナキンと、彼が育てたパダワン、アソーカとの記憶が、ふと重なって見えた。あの二人もまた、この少女たちのように、互いを想い、支え合う絆を育んでいたはずだった。
オビ=ワンは小さく頭を振った。今は、目の前の状況に集中すべき時だった。

「――さて」

オビ=ワンは気を取り直すように口を開いた。

「改めて自己紹介しておこう。私はオビ=ワン・ケノービだ」

「タバサ」

「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。キュルケと呼んでくれてかまいませんわ」

オビ=ワンは、二人の名乗りに小さく頷きながら、改めてこの状況について考えを巡らせていた。

「率直に言おう。私自身も、この状況をまだ完全には把握できていない。だが、目を覚ました時に確かめた端末によれば、この島に閉じ込められた者同士の殺し合いが、最後の一人になるまで続くらしい」

「わたしたちも、同じものを見たわ」

キュルケが硬い表情で頷いた。

「四十八時間……時間切れになったら、この首輪が爆発するって」

「その通りだ」

オビ=ワンは静かに頷くと、続けた。

「今しがた戦った、あの機械の男――グリーヴァスは、私にとって因縁のある敵だ。奴のような強敵が他にもいるとすれば、迂闊な単独行動は危険だろう」

「……つまり?」

タバサが、静かに問いを促した。

「しばらくの間、共に行動しないか、と提案したい」

オビ=ワンは、率直にそう告げた。

「少なくとも私たちは殺し合いには乗っていない。ならば手を取り合い状況を見極める方が賢明だ」

実務的でありながら誠実な提案だった。キュルケは、少し驚いたように目を瞬かせた後、ふっと表情を緩めた。

「賛成。正直、さっきの化け物と、また一人で遭遇するなんて考えたくもないもの」

「……同意」

タバサは無表情のまま、小さく頷いた。彼女もまた、先ほどの戦闘で、グリーヴァスという敵の恐ろしさを、骨身に染みて理解していた。単独で、あるいはキュルケと二人だけで、再びあの機械の将軍と対峙することになれば、次こそ命はないかもしれない。その現実を、タバサは誰よりも冷静に受け止めていた。

「決まりだな」

オビ=ワンは小さく頷くと、油断なく周囲に視線を配りながら、続けた。

「いつまでもこの場に留まっているのは得策ではない。グリーヴァスが態勢を立て直し、再び襲ってくる可能性もある。まずは安全そうな場所を探そう」

三人はそれぞれの得物を油断なく構えたまま、夜の街の奥へと歩みを進め始めた。
銀河の彼方から来たジェダイと魔法学院に学ぶ少女たち――本来ならば決して交わることのなかったはずの二つの世界が、この見知らぬ孤島で結びついた。その邂逅がバトルロワイアルにどのような波紋を投げかけていくのか。それは、まだ誰にも分からなかった。


【オビ=ワン・ケノービ@スター・ウォーズ】
[状態]:健常
[装備]:ライトセーバー(青)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:ジェダイとして殺し合いに乗ることはない。
1:タバサとキュルケと行動しながら状況を見極める。
2:グリーヴァスを警戒。次に遭遇したら仕留める。
3:フォースの感応力を頼りに島内に潜む他の脅威を探る。


【タバサ@ゼロの使い魔】
[状態]:軽傷
[装備]:杖
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:キュルケを守ることを最優先に行動する。
1:オビ=ワンという未知の強者との共闘する。
2:グリーヴァスとの死闘で、自らの実力が通用しない相手の存在をはっきりと自覚。


【キュルケ@ゼロの使い魔】
[状態]:軽傷
[装備]:杖
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:殺し合いには乗らない。
1:オビ=ワンの実力と人柄に微熱らしい速さで惹かれ始めている。
2:タバサとの絆を何よりの支えとしてバトルロワイヤルを生き抜く決意。


屋根伝いに逃走を続けるグリーヴァスの脳裏には苦々しい思考が渦巻いていた。

「――忌々しい」

低く唸るように呟きながら咳き込んだ。
だが、グリーヴァスの中には、単なる屈辱だけでなく、冷静な戦略的判断もまた、確かに息づいていた。この島には、まだ数多くの参加者が潜んでいるはずだ。オビ=ワンのような強敵と正面から消耗戦を繰り広げるよりも、まずは他の、より与しやすい獲物を狩りながら雪辱を果たす機会を窺う方が遥かに理に適っている。

「次に会う時は……容赦せんぞ、ケノービ」

眼に昏い光を宿しながら、グリーヴァスは夜の闇の奥深くへと姿を消していった。屋根から屋根へと跳び移るその後ろ姿は、瞬く間に闇の中に溶け込み、やがて完全に見えなくなった。


【グリーヴァス将軍@スター・ウォーズ】
[状態]:軽傷
[装備]:ライトセーバー×4
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:より与しやすい獲物から着実に排除していく。
1:他の参加者を見つけたら奇襲する。
2:不利な状況下では無理をせずに撤退。
3:オビ=ワンへの雪辱を期しながらも、次に相見える機会を慎重に見極める。







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最終更新:2026年07月23日 21:28