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『一握りの花火』


(キャラ)渡辺修哉、レゼ




 ……先に言っておくけど、女の話だからといってこれから僕が話すのは、君たちが期待してるような安っぽい恋愛話じゃない。
ほら、いるだろ?
女子の名前が出ただけで勝手に発情してる連中。脳みそが腐った犬みたいに、体温と匂いだけを追い回してる猿。
でも、まぁ……仕方ないよね。
君たち程度の知性じゃ、人間を個として認識する前に、まず性別で分類しちゃうんだから。

残念だけど、僕は違う。
僕がこの世で唯一、敬意を払い、愛している女性は母さんだけだ。
母さんだけが、僕の中に眠る本当の才能を見抜き、その孤独を肯定してくれる。
この世界がどれだけ醜くて、退屈で、ノイズに満ちているか。その中で、僕がどれだけ孤独な存在なのか。
母さんだけは、僕という『起爆スイッチ』を正しく理解してくれたんだ────。


……んで、話すのは『北原美月』って、女の話ね。
結論から言えば、僕の人生で唯一、殺意を動かさせてくれた女──冷蔵庫の中のブロック肉の話だ。




【告白】
【- 渡辺修哉の場合。】



 北原美月。
…………あぁ、ミズホとか呼ばれてたっけ。
理由は知らない。「美月のアホ」でミズホだか、ATMだか。
まぁ、そんなのはどうでもいいけどね。だってもう死んでるし。てか殺したの僕だし。
だから今さら、彼女のプロフィール帳を読み返すみたいに思い出を整理したところで、何の意味もない。

あいつは僕の発明品を壊したんだったかな。それとも、母さんのことを否定したんだっけ。
……まぁ、そのへんは正直かなり曖昧だ。
人間ってさ、自販機の釣り銭口に詰まったガムみたいな連中のことは、数日で記憶から削除されるように出来てるんだよ。
断片的に覚えてるのは、そうだな。
今の彼女を一言で表すならバラバラガール──なんて形容が相応しい状態になっているはずだけど……。
……ごめん、この話はもういいかな。これ以上広げたところで、生産性なんて微塵もないし。


ただ、彼女という個体について特筆すべき点があるとすれば。
彼女はね、ほんと。
ほんっとにッ、
ほんっっッッッッっとさ、

──吹き出してしまうほど超イタい『中二病』だった。

あ、失礼。
笑ったりしたら、今ごろ必死になって娘の行方を捜しているであろう親御さんに、少しだけ申し訳ないよね。


 えーと、なんだっけ。
『ルナシー(笑)』だっけ?
彼女の中には、もう一人の人格(笑)がいるらしくて、そいつが暴走すると、周囲の人間を傷つけちゃうんだって。
なんか、毒薬で家族を殺しかけたとか言ってたかな。いや、もうその時点で意味わかんないんだけど。

でもさ、面白いよね。
本当に壊れてる人間って、自分のことを『壊れてる』なんて説明しないんだよ。
壊れてるアピールを始めた時点で、まだ正常なんだ。
「私には闇があります」って、ちゃんと相手に理解される前提で喋ってるわけだから。
つまり彼女は、化け物になりたかった、ただの凡人だったんだ。


 いつからだったか、戒名・ルナシーは、ほんと鬱陶しいくらい僕に絡んできたんだよ。
たぶん最初は、同情だったんじゃないかな。
ほら、例の森口雪印牛乳事件(笑)以降、僕はクラスの猿共から微妙に距離を置かれてたから、哀れに思ったんだろうね。
……いや、違うか。
あいつもあいつで、ルナシー(笑)のお陰で浮きまくっていたからね。
「自分だけは特別」だと思い込んでる痛い奴同士って、勝手に仲間認定してきたんだ。

だからまぁ、一緒に学校サボったり、人気のない廃墟を歩き回ったり、互いの話したり、アイツの好きなネクター買ったり……うん、暇潰しとしては悪くなかった。
猿共爆殺記──その完成までの退屈な空白を埋める程度には、彼女使えたんだ。

でも、あいつは違った。
あいつ、途中から本気になっちゃってさ。
僕の話を全部受け止めて、僕の孤独を理解した気になって。まるで聖母気取り。
「修哉だけは違う」だとか、「本当は優しい」だとか。
……寒気がしたよ。
自分を特別な、選ばれし悲劇のヒロインだと思い込んでいるようだったけど、その言動のすべてが、どこかのグロ小説から持ってきたような紋切型。
借り物の絶望、中古品の孤独。量産型の悲劇願望だ。
ある夜なんか、廃墟の階段三段目に座りながら、僕の手を握って、薬の話を延々してきたんだよ。

「この薬を飲んだら楽になれる」とか。
「死ぬって救済かもしれない」とか。
「修哉となら、どこか遠くへ行ける気がする」とか。

「……今、肝試し中?」って思ったよ、僕。



 でも、一番厄介だったのは、そんな薄っぺらい言葉なのに。
──時々、本当に耳へ残ったことなんだ。


爆弾を作ってる最中。ニッパーを握る指先に、ふと彼女の声が混ざるんだよ。
「修哉」って。

それだけで、集中が切れる。
導線を切る手が止まる。
火薬の配分を間違えそうになる。


……だからさ。

あぁ。
うん。



……いや、だからなんだって話だけどね。



………
……



“修哉はさ、”

『え?』

“田舎のネズミと都会のネズミ、どっちがいい?”

『…………は? 何だよそれ、急に』

“寓話だよ、イソップのさ。知らないの?”

『知らない。……興味ない』

“うそ。あんなに優等生ぶってるのに”

『別に、ぶってないよ。……ただ、平均点を下げるような猿と同じ括りにされたくないだけ』

“あはは。ほんと感じ悪いよね。修哉って”


“私はね、……たぶん、どっちでもないんだと思う”

『は? 会話力』

“いいから聞いてよ。なんていうか、誰もいない国のネズミって感じかな”

『じゃあ俺は千葉のネズミでいいよ。高給取りだし』

“……つまんな。……ねえ、最後まで聞いてよ。……茶化さないでよ”


“学校もなくてさ。先生も、親も、警察も……。名前とか過去とか、そういう薄汚いラベルを全部捨てられる場所”

“たまに考えるんだ”


“もしそういう場所があったら、私、普通になれるのかな……って────”


………
……





「……あぁ、イソップの?」

「あ、修哉くんは知ってるんだ。それに比べてほんとデンジ君って……、パンは踏むし、漢字読めないし、寓話を魚の名前だと思ってたし…………、──」

「……って、やっぱりいいや。……うん、ネズミの話も今はなし」

「は?」



 森口のゲーム開始宣言──あの狂ったホームルームから島へ放り出されて、まだ数分。
僕は、とんでもなくイタい女と遭遇した。


「んー、改めて。自己紹介を普通にするのも退屈だしさ。修哉くんには、嘘を交えて話してあげる。……当ててみてよ、優等生さん」

「だからさ……なんなわけ?」


 女は河川敷のガードレールへ腰掛けながら、ぶらぶら脚を揺らす。
地雷系のブラウスに、地雷系のショートパンツ。
挙句の果てには、その記号を象徴するかのようなチョーカーを首に巻きつけた、まぁ“あの手”の人間だ。


「私はレゼ。生まれは……ソ連。正体は悪魔と融合した武器人間。ついでに、今は殺し合いに巻き込まれてるけど、本当は人殺しとか嫌いだったり。──」

「──さて。どれが嘘でしょう?」

「………………はァ……」


ね、この通りだ。ツッコむヤツはバカだよ。
僕がさっきまで、記憶に残す価値すらない回想をしていたのは、すべてこの女のせいだ。
そのチョーカーについた安っぽい金属片は、手榴弾のピンを模したアクセサリーか何かなのか。
僕としては、耳元で囀る戒名・レゼを即座に爆破して、その不快なノイズを消し去りたい衝動でいっぱいだった。

……だから思い出したんだよ。
──“ルナシー(笑)”。


でも……今はまだいい。
こいつは観察対象。モルモットだ。それ以上でも以下でもない。


「……とりあえずさ、」


僕は適当に川面を眺めながら言った。


「最後のだけは本当であってほしいわ」

「ん?」

「“人殺ししたくない”ってやつ」


「……あはは。流石、優等生らしい返しだね」

「……」

「……あれ? 怒った? 別に、イヤミとかじゃないんだけどなー……」

「…………」


 ……デイバッグの中に潜ませた自作の時限爆弾が、微かに疼いた気がした。

花火の音一つ聞こえない、夜の冷たい河川敷。
僕は隣に座る女の気配を撥ねのけるように、必死で母さんのことだけを考えようとする。
母さんの、あの凛とした、僕だけを認めてくれる横顔を。


──それを考えようとしては、全く違う女が浮かんで、僕は無理矢理その顔を焼き潰した。



──どかーん、ってね。



【渡辺修哉@告白(映画)】
[状態]:ストレス(軽)
[装備]:時限爆弾数個
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:こんな猿共の溜まり場、さっさと脱出する。
1:僕は暇じゃない。邪魔する奴は爆弾の餌。殺人? そんなの歯磨き以下の罪悪感しかない。
2:レゼ? はァ? ナニ人の名前? ……あぁソ連人(笑)だったね。とりあえずコイツは盾 兼 観察対象。
3:帰ったら冷蔵庫、一応確認しておくか。……いや、別に未練とかじゃないけど。
4:あぁそうだ。“僕が殺した女は生涯ミズホだけ”とか言ったけど、もう一人いたね。森口の娘(笑)。まぁ、あれはほぼアホが勝手に壊したようなもんだしノーカン。

【レゼ@チェンソーマン】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:…………。
1:……なんでだろ。こういうタイプ、関心がないはずなのにな。
2:こういう夜に、花火とか打ち上がればいいのに。




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最終更新:2026年06月06日 10:56