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『相棒』


(キャラ) 月村手毬、南井十




「殺し合いって何? 訳が分からない……!」

月村手毬は混乱していた。
「H.I.F」の「選抜試験」で、「Begrazia」に敗北し、マイクスタンドを振り回して大暴れしたい気分を抑えながら、その翌々日デュオ用の振り付けの練習をしていた。
そこまでは覚えている。
心の折れた花海咲季が実家から戻ってきて、大声で叫んで……そこからの記憶が朧気だった。
急に意識が遠のいたかと思えば、見知らぬ教室に座らされ見た事もない女教師に命がどうとか道徳の授業をされて、渋谷の街中に放り出されている。
空を見上げる。真っ暗で星と月が皓皓と輝いていた。
けれども、星空から注がれる月光を遮るように巨大なデジタルサイネージが街を照らしている。
東京圏で生活している手毬にとっては見慣れた渋谷の街だったが、そこへ不釣り合いな潮風が吹き込んできた。

「……何処なのここ」

渋谷は海から直線距離で約8キロほど離れている。
海風が街まで吹き込むことはあるが、塩の匂いや、髪や肌に潮が張り付くような事はありえない。
だが、今手毬が感じている風はまるで海沿いにいるかのように、べったりと肌に張り付いていた。
この違和感が手毬にさらなる恐怖を与える。
ここは、自分の知る渋谷に限りなく似せた、全く別の異世界なのだと。
手毬はガタガタと肩を震わせた。本当にここから生きて、自分は帰れるのだろうか。
森口という女は殺し合いをするために、海に近いどこかへ渋谷を丸々再現してしまうだけの”力”を持っている。
とても途方もなく大きな力を。
比較すると、あまりに自分が矮小に見えてしまった。
手毬の瞳には涙が浮かび上がり、今にも泣きだしそうなほどに怯えている。

「ひいぃ……!! なに、誰ぇ!!?」

だから、背後から足音がした瞬間、振り返り、悲鳴を上げて尻餅を付いた。

「驚かせて申し訳ない。安心してくれ、私は殺し合いに乗る気はない」

手毬の目の前にいたのは、年配の男性だった。
頭頂部は薄くなっていたが、高級そうなスーツを隙なく着こなし、落ち着いた雰囲気を漂わせている。
男性は担いでいたデイパックを下ろして、両手を上げた。
敵意はなく、危害を加える気はないという意志を示しているようだった。

「南井……南井十(みないつなし)という。
 良ければお嬢さん、貴方の名前もお聞かせ願えないかな?」







「月村手毬君か……。
 最近のアイドルとなると、お手上げでね。すまないが……」

「いえ、私もまだまだですから……」

南井の紳士的な対応に、手毬は落ち着きを取り戻していた。

殺し合いの最中、初対面の相手でありながら、彼の言葉には威圧感がなかった。
手毬は少しだけ肩の力が抜けていくのを感じていた。
元刑事と名乗っていたからだろうか。
まるで長年連れ添った友人と会話をしているかのような安心感すらある。

(美鈴……「Begrazia」に負けちゃったし……)

だが、気が緩んだ瞬間、胸の奥に押し込めていた記憶が蘇る。

ステージの上で感じた悔しさ。
届かなかった声援。
あと一歩及ばなかったという現実。
手毬は無意識に唇を噛み、視線を落とす。
悔しい敗戦の記憶が、今も鮮明に残っていた。

「名簿アプリとやらがまだ使えないな。時間が来れば、更新されるようだが……君のはどうだろう?」

南井はそう言いながら、手元の端末へ視線を落とした。
画面に表示された情報は、いまだ何も変化していない。
この不可解な状況の中で、数少ない手掛かりになるはずのものが使えないという事実は、決して小さな問題ではなかった。
それでも南井は苛立ちを見せることなく、落ち着いた様子で状況を受け入れている。
長年、事件と向き合ってきた人間だからこそ持てる余裕なのかもしれない。

「あ、私のも駄目です」

手毬も自身の端末を確認し、申し訳なさそうに答える。

「ふむ」

南井は小さく息を吐いた。

「アプリが更新されるまで待つのも時間の無駄だ。
 どうだろう? 君の知人の名前を教えて貰えないかな、私も一緒に探そう」

その提案に、手毬は少し驚いた。
自分の知人を探すために協力してくれる。
それ自体はありがたいことだった。
しかし、同時に疑問も浮かぶ。

「南井さんだって家族や知り合いが……」

南井にも探したい相手がいるはずだ。
自分だけが助けてもらうというのは、どうにも気が引けた。

「私の事は気にしなくてもいい」

南井は柔らかな笑みを浮かべる。

「この歳になると、友人も自然と減っていくものだからね」

その言葉は淡々としていた。
だが、手毬にはその奥にある寂しさを感じ取れた気がした。
人は歳を重ねるほど、多くの人との別れを経験する。
忙しさや環境の変化、些細なすれ違い。
そういったものが積み重なって、いつの間にか隣にいた人間が遠くなっていく。
南井もまた、そうした時間を歩んできたのだろう。

「……だが、一人だけ」

不意に、南井が言葉を続けた。
先ほどまで穏やかだった表情が、ほんの少しだけ変わる。
まるで、長い年月を経ても色褪せることのない記憶を思い出しているかのようだった。

それこそ、例え自分が何者か分からなくなったとしても。
きっと……決して、忘れる事のない鮮烈な記憶を。

「もしも、右京がいれば……心強いな」

「うきょう……?」

その名前を口にした瞬間、南井の声には先ほどまでとは違う温度が宿っていた。

「……相棒さ」

短い言葉だった。
しかし、その一言だけで十分だった。
ただの知人ではない。
ただ長く付き合った友人でもない。
それでも共に時間を過ごし、同じものを見て、同じ事件に向き合ってきた。
そんな特別な存在なのだと、手毬にも伝わった。


「今は仲違いしてしまったから、元、だがね……」

南井は苦笑する。
その笑みには、自嘲だけではなく、どこか相手を懐かしむような優しさがあった。

「だが、右京がいれば……もう一度、あいつと一緒なら……」



──どんな悪も光の下に引きずり出せる。



その言葉に、手毬は黙って南井の横顔を見る。
穏やかな表情の奥にあるものを、彼女は感じ取っていた。

もう一度あの頃のように並んで歩きたいという願い。

南井にとって右京という人物は、今でも心のどこかで、隣に立っていてほしいと思うほどの大切な存在なのだろう。

「敵同士になったから、分かる事も……あるんじゃないんですか」

勝負でぶつかり、敗北して。
悔しさや意地が積み重なって。

それでも、本当に相手を嫌いになったわけではない。

離れてしまったからこそ、初めて気付けることもあるのではないか。

そんな考えが、自然と口からこぼれた。
きっと、秦谷美鈴に敗北した直後だったからだろう。

「……月村君?」

「あ……」

言葉にした瞬間、手毬は自分でも驚いた。
まるで南井に向けた言葉でありながら、同時に自分自身へ言い聞かせているようだった。
南井は静かに彼女を見る。

「その……」

手毬は視線を落とす。

「いや、なかなか面白い意見だったよ」

南井は怒ることなく、むしろ穏やかに笑った。

「そうか……敵同士だからこそ、分かる事もある、か……」

その言葉を繰り返しながら、南井は遠くを見る。

かつて袂を分かった相手。
失ってしまった関係。

それでも、完全に消え去ったわけではない。

「フッ……君のような若者に背中を押されたんだ。仲直りできるよう、私も頑張ってみるとしよう」

南井は小さく笑った。




【月村手毬@学園アイドルマスター】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考]:死にたくない。絶対に生還する。
1:南井さんについていく。
2:知り合いが居ないか探す。
※初星コミュ、選抜試験後からの参戦です。


【南井十@相棒】
[状態]:健康?
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:ゲームの主催者を必ず始末する。
1:島内の構造、地理を把握し、他の参加者と可能な限り協力体制を築く……右京ならこう考えそうだな。
2:月村手毬を始めとする殺し合いに巻き込まれた者達を保護する。
3:殺し合いに乗った情状酌量の余地のない参加者は始末する。
4:右京、お前がいれば……。




「……すまない。もう一度いいかな? 君の友人の名は……」


杉下右京が天才であるのなら、南井十もまた天才の一人であろう。
右京にも引けを取らない観察眼と頭脳で犯人をプロファイルする捜査手法。
犯罪者の心理を理解し、まるで魔法のように心を開かせてしまう。
右京曰く、犯罪者ですら簡単に自供を始めてしまうとまで言わしめた。

──犯罪者の中には贖罪の心を持つことができない者もいる。そんな犯罪者は自らの死で償わせるのが相応しい

そして、その卓越した能力を、南井は時として犯罪者を制裁する事にも利用する。

まさに、何があろうとも人の死を許さない右京と対を成すような天才が南井十という男だった。


「ああ……秦谷美鈴君か……大丈夫だ。今度こそ覚えたよ」


だが、どれほど優れた頭脳を持つ者であろうと、老いという運命から逃れることはできない。

長い年月を生きてきた人間の身体に、少しずつ刻まれていく変化。
その中でも、認知機能の低下──認知症は、最も残酷なものだろう。

南井は、自分自身の手で行った私的制裁の記憶を失う事がある。

そして、何も知らぬまま、かつて自分が仕掛けた事件を追う側として捜査している。
自分が何をしたのかも知らず。
それは、あまりにも皮肉な状況だった。


「歳かな……どうにも最近は物忘れが増えてね。困ったものだ」


南井は、まるで些細な失敗を笑い飛ばすように語る。
だが、その忘却の先にあるものを、彼自身はまだ知らない。
いつ、何をきっかけに、再び私的制裁へ手を染めるのか。
そしてその記憶を忘れ、自らの手で自ら引き起こした事件を捜査するのだろう。
まるで、自分の尻尾を追いかけまわす駄犬のように。


いずれ、認知症が悪化し、私的制裁ですらない無差別殺人へと手を染める時もそう遠くはないのかもしれない。


その答えを、南井自身ですら知ることはできなかった。



【南井十@相棒】
[状態]:老化によって突発的に起こる情動失禁、記憶障害、見当識障害
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:ゲームの主催者を必ず始末する。
1:島内の構造、地理を把握し、他の参加者と可能な限り協力体制を築く……右京ならこう考えそうだな。
2:月村手毬を始めとする殺し合いに巻き込まれた者達を保護する。
3:殺し合いに乗った情状酌量の余地のない参加者は始末する。
4:…………私は今何を考えていた?
5:右京、お前がいれば……。
※「season18」第14話「善悪の彼岸?ピエタ」にて右京とチェス勝負をした直後から参戦です。









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最終更新:2026年07月30日 21:42