『Alice in Guernica of paradise』
(キャラ) 橘ありす、島田洋平、小早川大尉
兵庫県民の橘ありすにとって、自分が会場のどこにいるのかを悟るのは容易なことでは無かった。
これが渋谷駅の辺りならまだなんとかなったのだろう。だが彼女が目を覚ましたのは、何処ともしれぬアパートの一室だった。
窓から見える光景からは東京だとわかるものなど何もなく、そもそも殺し合い、その蛮行の会場になどまるで見えなかった。
「……変な夢」
寝ぼけたような発言に対して、その言葉はしっかりとしたもの。ありすはぎこちなく手を首元へ伸ばすと、少し躊躇った後に首輪へと触れた。
「────────────────────」
指先の更に先、そこで感じた硬質な感触。それを知覚した途端に、ありすの動きが止まる。そこには確かに、確かに首輪があった。
なぜ、だとか、どうして、だとか、頭に思い浮かぶ声は次々と湧き上がり、炭酸のように吹きこぼれそうになる。息の荒くなっていく己を自覚してありすは。
「……あと5分」
ふて寝した。
「なんなんですか……! なんなんですか!!」
もちろん一睡もできなかったありすは、大量にかいた寝汗か冷や汗を冷たいシャワーで流していた。頭にはこれでもかとシャンプーをつけ、親の仇のように泡まみれにしていく。それをガシガシと洗いながら、口ではずっと悪態なのか愚痴なのかも本人ですらわからない言葉が迸っていた。
「殺し合いって……そんなことしちゃあ、ダメでしょ!」
とても真っ当なマジメちゃんの主張をしつつ赤い目をしているのは、単にシャンプーが目に入ったからだけでは無い。
シャンプーに続いて洗顔しようとして、シャンプーとボディソープの二つしかないという現代人にあるまじきバス用品の貧弱さに、ありすは激怒しつつ風呂場を出た。
「もっと必要でしょう……! リンスとか……! コンディショナーとか……!」
もはや本人も何にブチ切れているのかわからない。そんな状態ながらもしっかりと髪を乾かし、さてスキンケアをと考えるが、あの原始人の如き風呂場を見ればわかるように、この部屋にその為の道具などあるはずがない。そのことに更にブチ切れつつ、ありすは服を着るとコンビニへと向かった。
「動くな」
「はうっ」
即座に後ろをとられていた。
少し離れたところにコンビニを見つけ、さあ入ろうと思ったところで異臭を感じ、立ち止まった途端に真後ろから男性の声がしていたのだ。
声色からすると、おそらく30過ぎたあたりだろうか? 臭い以外まるで気配を感じさせずに現れたところに幽霊のような薄気味悪さを感じる。最初に奇声を上げた以外に身動ぎせず、踏み出しかけた足も宙に浮かせたままのありすに、男の声が飛んだ。
「ゆっくりと振り返れ」
「…………」
やはり、青年らしい男性の声だった。それ以上に気になったのは、強まった異臭だった。単なる汗臭さではない。泥臭さや草いきれとも違う。それらが混ざったようなしかしそれでは説明のつかない、嗅いだことのない臭気。『臭い』よりも『わからない』が先に来るそれに、ありすは生理的に硬直する。
そんなありすに業を煮やしたか、男は自分から回り込んで来た。
思ったより、小さい。小柄だ。たぶん、高校生ぐらいの身長だろうが、しかし間違い無く成人しているとありすは断言できる。その大きな傷を負った顔、そのザラついた質感の肌、そしてその眼。
ありすの首、頸動脈にピタリと包丁の刃を当てたその眼は、ありすが今までに見たことの無いものだった。なにが、と言われたら答えられない。しかし、確実に何かが違う、例えるならワニ、獲物に襲いかかる寸前のワニが最も近く、しかし最も遠いように思えた。
「君は──」
その一挙手一投足がありすの恐怖心を増させる。機械じみた男の動きにますますワニのような爬虫類を想像するが、しかし目からは、それとは違ったものを感じていた。
人は理解のできない物を見た時硬直する。しかしありすは、自分がその答えを知っているように思えた。この瞳はまるで。そう、映画の中の。
(殺し屋)
この人は──殺し慣れている。
「あっ、君……」
「……………………あっ」
気がつけばありすはしめやかに失禁していた。脱糞しなかったのは単に内容物がなかったからにすぎない。
擬死。
肉食動物を前に逃げ場を絶たれた生き物ができることなど、全身の筋肉を弛緩させての死んだフリしかない。
ペタンとアスファルトに座り込むありすに、男は困ったような顔を浮かべる。だがありすの恐怖は減じるどころかむしろ増していた。
男の包丁はずっと頸動脈を捉えたままだった。
おろおろと何かを言い、片手で何らかの意図のジェスチャーをしている今でさえ、そのワニの眼が人間の眼になってさえ、男は全く刃を向け続けた。
こうしてへたり込んだ今でさえ、即座に膝を折って、いつでも殺せる態勢をとり続けているのだ。
「そのあたりにしておけ、島田少尉」
別の男の声がする。男と比べると、同じぐらいだろうか?
そして、どうやら男は島田少尉と言うらしい。そういえば迷彩服みたいなのを着ているなとぼんやり思いつつ、島田少尉と新しく現れた男の会話を聞いていると。
「そんなに刃物を突きつけられちゃ出る言葉も出ないだろ」
「…………あっ」
別の男の声がする。
それにあわせて、男の表情が変わった。そしてゆっくりと包丁が離されていく。男はありすと包丁を信じられない物を見たかのように何度も見比べて。
「きゅう……」
人間になった男と目があい、そこでありすの意識は失われた。
「申し訳なかった」
あれから1時間ほどして。
失神から目覚めたありすは謝り倒す男とそんな男と共に頭を下げる男に言われ、元のアパートでシャワーを浴び直していた。
無論、こんな不審者2人組を前に入浴など気が気ではなかったが、失神している間介抱されていたことからとりあえず自分に危害を加えるつもりがないことは伝わった。それでも抵抗はあったものの、もう体じゅう尿まみれでたまったものではなかったので己の体を洗い清めることが恐怖と嫌悪を上回った。
「頭を上げてください」
文字通りの土下座をする男、島田少尉の前で、ありすは正座して言う。ありすがシャワーを浴びる間にアパートの別の部屋に押し入り入浴すると、ワイシャツにカーゴパンツへと着替えを済ませた彼は、すっかり好青年へと見違えていた。
「だとさ。俺からも、あらためてすまなかった。まさかこんな場所で日本人の、それも女の子に会うなんて思わなかったんだ。場馴れしてる島田少尉に斥候に行ってもらったんだが……」
「……」
「米兵と同じやり方じゃ、怯えさせるのも無理はないか……そこまで考えが回らなかった」
そしてもう1人、小早川大尉と名乗った男もついでとばかりに入浴して、こちらは暗いジャージへと着替えていた。整っているが傷に目が行く島田少尉に比べて、こちらは太い眉にモミアゲという女受けしそうなパーツをしているが耽美な顔立ちの青年である。
ちゃぶ台代わりの低いテーブルを囲む3人の前には、島田少尉がどこからか持ってきたお茶が置かれていた。喉の渇きを覚えながらもさすがに手をつける気になれないありすをよそに、小早川大尉はそれを一息に煽る。そして「ふぅ」と息を吐いてから真剣な目で言った。
「橘、君は日本人だというのは本当か」
同じ日本人から日本人かどうかを質問されるという一生に何度も無いようなことに、いつもの調子で答えようとして、ありすの口が止まる。声が出ない。喉の渇きだけではない、2人の男の迫真の目つきが軽々しく答えることをためらわせたのだ。
だからこくりと、代わりに頷く。それを見て男達は顔を見合わせたあと、島田少尉は頷き、小早川大尉は続けて言った。
「何歳だ」
「12歳です」
「住所は」
「……」
「県単位でいい」
「兵庫、です」
まるで尋問だった。小早川大尉は努めて怖がらせないように気を遣っているのがわかるが、それでもその声には圧というか張りがある。聞かれている内容と合わせて取り調べを受けている気分である。
そもそも、少尉だとか大尉だとか、まるで軍人みたいな名乗りである。自衛隊なら三尉や一尉だと己の博覧強記から導くと、男達は一体何者なのかという疑問が沸いてくる。
もしかして、アメリカ軍だろうか。ありすにそんな考えが浮かぶ。こんな殺し合いだ、そりゃアメリカ軍だって救助に来てもおかしくはない。それに日本にいるアメリカ軍なら、日系人なども多いだろう、でもなんで自分と同じ首輪を着けているんだろうと思い、ぐるぐると思考を続けながら尋問に受け応えていると、男達の空気が変わった。
「もう一度聞く、今は昭和何年だ」
「だから昭和って……今は21世紀ですよ」
ありすはその時の男達の顔を一生忘れることはないだろうと思った。
12歳の女の子に、その倍は生きている男達が、恐怖の顔を浮かべたのだ。
きっとさっきの自分もあんなふうだったのだろう、ぼんやりと思うありすに、今まで口を出さなかった島田少尉が問うた。
「大東亜戦争はどうなりましたか?」
カチリ、カチリ。
ライターの持つ手をブルブルと震わせながら、小早川大尉は口に加えたタバコに火を点けようとする。そこに差し出された島田少尉のライターに気づくと、口ごと近づけてタバコに火を点けた。
アパートの外廊下、向かいの民家の庇との間に細長く伸びる青空に、2つの紫煙が伸びていく。それが一度消え、再び昇りだしてから小早川大尉は口を開いた。
「負けたか」
ふぅーっ、と煙が吐き出される。
「パレンバン、知っているか」
「蘭領のですか」
「ああ、油田のあるあそこだ。わかってはいた、日本にあそこにある油を運ぶことはできない」
「油槽船、油の方は払底していました。物の方の輸送船も足りない状況で駆逐艦を駆り出す有様です。とても重油など運べないでしょう」
「陸さんにしては詳しいな」
「海さんの家でしたので」
島田少尉の顔を一度見たあと、ふぅーっと煙を空に向けて吹いた。
「生きて虜囚の辱めを受けず。苦しいのはわかっていた。捕虜の俺にも豪勢な食事が出たんだ」
「……」
「持久戦をしていたと言っていたな、大方あいつらから補給させて貰ってたんだろ。なら……」
「日本は!!」
島田少尉の口からタバコが飛ぶ。それをバツの悪そうに2人は見ながら続けた。
「日本は……負けてなどおりません」
「……」
「連合艦隊は必ず捲土重来を果たしペリリューに──」
しまった、そんな言葉が顔に書いてあるような顔をする島田少尉に「任地については話すな」と静かに言った。
「信じられるか、このタバコの旨さ。内地にいた頃は、こんな旨いもん、吸ったことがない」
「……」
「見ろよ、英語だ。敵性言語だ。くだらないが、あのアルファベットだ」
「…………」
「……米国を抜いたこともあるぐらいの経済発展か。夢があるじゃないか。国は富んで、天下泰平、兵は弱いようだが」
「………………」
「……俺達が負けた先にあったのが、これか……」
「……………………小早川大尉殿、失礼、大尉」
「いいさ、なんだ」
「我々は…………なんのために…………」
「…………………………」
1本になった紫煙が消える。それがまた2本になった頃、小早川大尉はぽつりと言った。
「愛する者はいるか」
「……出征前に籍は入れました」
「……俺にはあいつさえいれば良かった、あいつさえいれば耐えられた。米兵共に嘲られ、辱められても。生き恥を晒しながら生き続ける中で持ち続けた最後の誇りだった、だから笑って耐えられた」
「…………」
「今の俺には何もない……国も、故郷も、仲間も、あいつも……何も……だが」
タバコを強く噛み締めてから言った。
「あの子は、橘は違う。平和な日本で家族と暮らし、子役として働く。そんな大和撫子一人救えないで、日本男児と言えるのか」
紫煙が1本になる。そして直ぐにもう1本も消えた。
「私は新しい命令を受領していません。ここが任地でないかも、判断することができません。よって当初の命令通り、子女を保護し敵の遊撃を図ります」
「ああ、俺もポツダム宣言なんてものは聞いちゃいない。俺達の戦争は終わっていない」
地獄の使者たちの動きは早かった。6つの踏み消された吸い殻を六文銭の代わりにし、ありすを連れ出す。アパートでは最低限の物資を集めたがまだ足りない。食料だけでなく様々な資材のある場所はどこかとなると目指したのは、病院だった。
【橘ありす@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:絶対に帰る、当然です!
1:小早川大尉と島田少尉と一緒に病院を探す。
2:知り合いがいないか探す。
【島田洋平@ペリリュー 楽園のゲルニカ】
[状態]:決死
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:この殺し合いから日本人を脱出させる
1:小早川大尉と一緒に病院を探す。
2:ありすを護衛する。
【小早川大尉@地獄の使者たち】
[状態]:決死
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:この殺し合いから日本人を脱出させる
1:島田少尉と一緒に病院を探す。
2:ありすを護衛する。
最終更新:2026年08月03日 23:11