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『誰もが目を奪われてく君は──』


(キャラ) 酒寄彩葉、咲良うた、島二郎、クリア・ノート





「へー、彩葉さんの耳と尻尾はインターネットのアバターだからなんですね。すごーい……」
「あはは……。さっきも聞いたけど一応もう一度確認、君は生身なんだよね?」
「はい!」
「そっか……どうなってるんだろう」

私──酒寄彩葉が、命の授業なんて物に巻き込まれて、一番最初に驚いたのは味覚や触感が存在している事だった。
だって、ツクヨミで使ってるアバターの姿をしていたから。
てっきりツクヨミがハッキングされて──それも相当ありえないけど、森口という女が殺し合いを強制してるのかと思った。
これって、もしかして現実に起きている事で、私だけアバターの姿にさせられてるって事なのかな?

「……NPCとかじゃないよね。うたちゃん?」
「NPC?」

私が出会った女の子、咲良うたちゃん。
柔らかな色の髪を背中に流し、頭にピンクのカチューシャを乗せた女の子。
大きく澄んだ栗色の瞳を輝かせて、私の狐をモチーフにした耳と尻尾を興味深く見つめている。
今にも触らせてって言ってきそうだから、触らせたら触感があって本当にびっくりした。

この娘はアバターじゃなく、現実の肉体そのまんまでこの空間にいるらしい。

もしも同じアバターの姿をしていたのなら、私が最初に考えたツクヨミハッキング説も有力さを帯びてくるんだけど。
それどころかうたちゃんはツクヨミ自体を知らないときた。
日本で最も隆盛しているツクヨミを、名前だけでも知らないなんてありえるんだろうか。

「なんか映画みたい」
「ああ、マトリックスとかに近いかな」

しかも、仮想空間すらピンと来てないみたいだし。

はあ……これから、どうしようかな。

かぐやが月に帰った直後、ログアウトしよっかなって時に、どうしてこんな事に……。

森口に配られたバッグを漁ると、ドラえもんのポケットみたいに質量保存の法則を無視して、KASSENで使ってる武器が出てきた。
我ながら、剣なのか双剣なのかブーメランなのか分からない武器。
驚いたのは剣を取り出した時にしっかりと重量を感じた事。
ここが現実であることを、より色濃く私に伝えてくる。
ひんやりと光る金色の刃が、これを使う事で簡単に人の命を奪えるんだぞって訴えかけてくるみたい。
嫌だったのが、現実の私ならこんな鉄の塊振り回すなんて、きっと無理だろうにアバターの膂力だと片手で軽々振り回せそうだったこと。
多分、ゲームと変わらない肉体性能を維持したまま、私は戦える。
誰かを殺させるために、私のアバターは何かの改造を施されたうえで現実に再現させられているんだ。
強く意識すると、凄い森口に嫌悪感が湧いてくる。勝手に人のアバターを殺人の道具にされて、良い気持ちなんてしない。

「うたちゃん……しばらく、私といない? こう見えて、私この体ならそこそこ強いから……」

でも、当面の自衛という点では、森口に感謝しないといけないもの腹正しかった。
余程の相手じゃなきゃ、KASSENで負けない自信はある。
それにアバターでなければ、生身の肉体でここに呼ばれていたら、私はこんなに冷静じゃなかっただろう。
……いや、私の本体今何処にあるのとか、色々考えると頭が痛いんだけど。
本当は滅茶苦茶怖いっちゃ怖いんだけど。
だけど、殺し合いに乗った人が出てきたら、戦うことはできる。
殺しは……したくないけど。

「そうだ……一つ、念のために聞いておきたいんだけど」


かぐや……って、女の子……見なかった?


うたちゃんはきょとんとして、お伽噺のかぐや姫の事を口にした。
そりゃそうだ。かぐやなんてキラキラネームを聞いて、連想するのは普通はあっちのかぐやだし。
あの娘は月に帰ったんだから、こんな場所にいるはずがない。殺し合いだからいないほうが良いし。
でも、何処かでほんの少しだけ、アバターが現実に再現されるような場所だから、もしかしたらなんて……。








────ラディス。

────危ない! うたちゃん!!

────キミと歌う、ハートのキラキラ!
    笑顔ニッコリ、キュアアイドル!

────うたちゃん!? なに、その姿……?

────へえ、ただの人間じゃなかったのか。




────────────まあ、力の差がありすぎて、戦いにすらならないだろうけど。





ヤバい。ヤバい、ヤバい……ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。


うたちゃんはキュアアイドルという変身ヒロインだった。
茶色の髪は金色へ、栗色の瞳は碧眼へと変わる。
ヘソ出しのピンク色の衣装を纏った途端、その身体能力は一変した。
私のアバターにも引けを取らない素早さで渡り合ってくれた。

あの白い奴。
タンクトップ姿で、爆発したようなボリュームの白髪。
その長身と、白髪の隙間から覗く冷たい眼光に一瞬怯んだ。
けれど、うたちゃんと……キュアアイドルと一緒なら、きっと戦えると思った。



「なん、なの……これ……」



痛み殆どはなかった。

多分、私のアバターは触感がある代わりに、戦闘に支障が出ないよう痛覚だけはある程度オミットされているんだと思う。
そのおかげで攻撃を受けても、痛みそのものはほぼ感じなかった。
ただ体が、まったく動かない。
あいつの……ラディスという技のせいで。
見えない衝撃波が放たれ、肩を掠めた瞬間、私は膝から崩れ落ちた。
全身から力を吸い取られていくようだった。
まるで、ひどい風邪を引いた時のように身体が重い。
金縛りにでも遭ったかのように、指一本動かせない。
そのまま私は、体を支えることもできず前のめりに倒れ込んだ。

「……く、っ……」

うたちゃんも何発か避けたけど、避けきれずに私と同じように地面に這い蹲っている。

「なるほど。
 術の力が弱体化しているな。君たち程度を一発で消し飛ばすどころか、?せ細らせる事も出来なくなっているなんて。
 体から体力を奪い去るぐらいはできるようだが……」

そう呟くと、タンクトップの視線が私からうたちゃんへ、そして再び私へとゆっくり移る。
獲物を見定めるような、冷たい目だった。

「さて……そっちの君は見逃してあげよう」

突然向けられた言葉に、うたちゃんが息を呑む。

「僕の使命は魔物を消す事なんだが、はっきり言って、人間ばかりいるこの命の授業にはそこまでやる気がなくてね。
 君は人間だろ? 後回しでいい」

淡々とした声音には、情けも慈悲もなかった。
ただ優先順位を口にしているだけ。

「でも、そっちの耳と尻尾を生やした君は駄目だ。魔力はないが、人間ではなさそうだし、ここで消しておこう」

ああ……そういうことか。

タンクトップの言っていることは相変わらず意味不明だった。
けれど、あいつが何を優先して狙っているのかだけは、嫌というほど理解できた。

確かに、今の私はツクヨミのアバターの姿だ。
人間と名乗るには、あまりにもかけ離れている。
タンクトップにとって、私はただの魔物というものにしか見えていないのかもしれない。
こんなことなら、もっと人間らしいアバターにしておけばよかった……。
これがゲームなら、ゲームオーバーになるだけだけど……多分、死ぬんだよね。
何処かにある私の本体も一緒に。

「……逃げて、うたちゃん」

私は絞り出すように言った。

二人とも殺されるより、せめて片方だけでも生き残った方がいい。

それが、私にできる唯一の選択だった。





クリア・ノートにとって、命の授業と称された殺し合いは取るに足らないものだった。
魔物を滅ぼす事を使命とするクリアにとって、人間を殺すことに些かの興味もなく、絶大な力を持つクリアが本気を出せば一瞬で優勝が決まる。
つまらない。というのが、クリアの感想だ。
そんなものに本気を出す意味が見いだせず、目に止まった魔物らしき少女を消して、人間の少女を見逃そうとしているのも、暇つぶしを兼ねた気まぐれでもあった。

「ラディス」

弱い呪文を唱えたのは、自らに課せられた制限の確認だ。
強者であれば触れた箇所が枯れ枝のように細くなり、弱者であれば一発で消し飛ぶラディスの威力を知れば、自ずとそこから逆算して今のクリアの力量が把握できる。
翳した右手から衝撃波が繰り出され、這い蹲る彩葉を襲う。
一撃では精力を奪い去る程度まで弱体化していたが、二発三発と当てれば異なる筈だ。
何発で彩葉が消滅するのか、クリアは感情の籠らない瞳を向けながら無慈悲なカウントを始める。



彩葉の腹の底まで響くような轟音がした。



死を覚悟した彩葉が目を開けた時、目の前にあったのは誰かの背中だった。
小さくて華奢な背中。
ボリュームのある金髪が揺れて、ようやく彩葉は自分が庇われたのだと分かった。

ラディスの衝撃波を両腕を交差させた、キュアアイドルが受け切ったのを。

「……君も思ったより頑丈だな。もう動けないと思っていた。
 せっかく見逃してあげようと思ったのに、二人一緒に消えるか?」

アイドルの両腕のみ変身が解け、そこには咲良うたとしての生身の両腕が曝け出されていた。
プリキュアとして、怪物を相手に戦闘をこなしてきたアイドルであったが、こんな強制的な変身解除は初めてだ。
これが、クリアの持つ消滅の力。
プリキュアというただの少女を伝説の救世主へと変身させる神秘の鎧すら容易く引き?がす。

「消えない……消させない。
 ……彩葉さんは、かぐやさんに会うんだから」

アイドルの口元にインカムマイクが現れた。

──クライマックスはわたし! 盛り上がっていくよー!!

次の瞬間、世界が塗り替わる。

森口が再現した渋谷の街並みは、まるで舞台装置が引き剥がされるように音もなく消え去った。
入れ替わるように、巨大なライブ会場が顕現する。
無数のスポットライトが夜空を切り裂き、眩い光がステージへと降り注ぐ。
轟音のような歓声が押し寄せ、割れんばかりの拍手とコールが空間を震わせた。
気が付けば、クリアの周囲はペンライトやサイリウムを振る大勢の観客たちで埋め尽くされている。

「……なんだ、これは」

初めて、クリアの冷徹な表情が揺らいだ。
熱狂する観客たちに押し流されるように視線を上げれば、その先には巨大なステージ。
眩い照明を一身に浴びながら、中央に立つのはキュアアイドル。
自分がライブの観客席へと引きずり込まれたのだと、クリアはそこでようやく理解した。
ここはキュアアイドルのステージ。
彼女が主役となる、心象世界の具現化──領域の展開。


──キミのハートにとびっきり──
──元気をあげるね──


世界には娯楽が多い。
例えば、食事に使われるカツオブシなどは作るのに、カツオを煮て燻蒸し、二か月以上干して作るという。
ただ食事を摂るのであれば、そこまでの手間を掛ける必要はない。
肉であれば火を通し、野菜であればそのまま、塩でも振りかけて口にすればいい。
しかし、人は美味という娯楽を求めあらゆる手間と時間を惜しまない。



──最高のステージで──
──キミと歌を咲かそう──


このライブも、生きていくために必要なものではない。
それでも彼女は振り付けを覚え、歌声を磨き上げ、膨大な時間を費やして一つの技として昇華させてきた。
人と魔物も。
そうして積み重ねられた輝きに、心を揺り動かされるのだろう。
そうして人々はファンとなり、魅せられたアイドルを推すのだろう。

「人間が持つにしては、面白い術だが……」

だが、クリアには何一つ届かない。
穴の開いた器へ水を注ぐように。
その胸を満たすものは、何も存在しなかった。

「……君を壊せば、僕は嬉しいのかな」

人々が積み上げてきたものを踏みにじることに快楽を見いだす存在も、理解していた。
いわゆる破壊衝動も、知識としては知っている。
ならば、このライブごとアイドルという存在を滅ぼせば。
この空虚は、満たされるのだろうか。




「少し、試したくなってきたな」


──プリキュア・アイドルスマイリング!!

──アム・ドュ・スプリフォ!!


ライブ会場を跳躍したアイドルが両腕を掲げる。
その掌からあふれ出た無数の光の粒子は、ハートを象った光芒となって降り注いだ。
対するクリアは微動だにしない。
呪文を詠唱し、巨人の腕を二対顕現させる
そして、迫り来る光の奔流を掌で包み込む。

次の瞬間、会場全体を揺るがす轟音が響き渡った。


(負けられない)


友達を、待たせている。


(テラちゃんが待ってるんだもん!!)

千年。
千年もの長い時間を越えて──自分の歌を待ち続けてくれている友達がいる。
その想いを知っているから。
その約束を守りたいから。
咲良うたは、ここで立ち止まるわけにはいかなかった。

──かぐや……って、女の子……見なかった?

(彩葉さんにだって……かぐやさんが待ってるんだ……!!)

そして、自分の後ろにもいる。
もう一度、大切な人に会いたいと願う少女が。
彼女がどんな関係だったのかは分からない。
どんな言葉を交わし、どんな時間を過ごしたのかも分からない。

それでも。

もう一度会いたいと願う気持ちだけは、分かる。
だから、絶対に届ける。
すべてを、再会へ繋げてみせる。
こんな殺し合いなんかで、二人を引き裂くなんて絶対にさせない。


「この程度か」


分かっていた事だけどね。

巨腕の掌に飲まれれた光は、徐々に輝きを低下させていく。
クリアはつまらなそうに鼻で笑った。

何も感じない。

傷つけ、破壊する。それが喜びに通じるのかと思ったが、クリアの心には何の高揚感も沸くことはなかった。

(アシュロンとの戦いは、それなりに楽しかったが……)

何の違いがあったのか、クリアは僅かに考えてから……すぐさま興味を消した。
空虚な目で、自分に歯向かった少女に止めを刺すべく、巨人の腕を後押しする。
最早、光の放流は一秒も持たないだろう。
次に、あの耳を生やした少女を殺して、それから残った参加者達を一掃して、こんな殺し合いは終わりだ。





何が、出来るんだろう……そう思った。
あのタンクトップとうたちゃんが、何か必殺技みたいのを出してアニメみたいに撃ち合っているのを見て。
私は、自分の卑小さを知った。

何も……力になれない。
うたちゃんは、動けない私を体を張って庇ってくれているのに。

形勢は、明らかにうたちゃんが不利だった。手から出してるビールがどんどん押し負けていく。
タンクトップの繰り出したデカい手が、うたちゃんに迫っていった。

また……負けるの?
かぐやを連れ戻そうとした、月の使者達と戦った時みたいに?



────嫌だ!そんな風に、終われるわけないっしょ!


フラフラになりながら、私はもう一度立ち上がる。自分の剣を手に取った。
私の武器に施されたキーボードの意匠は、ただの飾りじゃない。本物のキーボードと同じで引くことができる。
戦いには無縁の演奏機能を起動させて、私はがむしゃらに鍵盤を叩く。

──昨日の続き、喋りたかった──

すると、知らない筈の曲の歌詞が、うたちゃんの口からすらすらと出てくる。何度も歌って練習したみたいに、淀みなく。
私の演奏に合わせるように、私の歌声と重なるように。

──ねえ、心揺らして、笑顔もシェアして──

こんなものに意味なんてあるのかは分からない。
戦いの最中に演奏して歌ったところで、何かが変わるなんて思えない。
そんな都合のいい奇跡なんて、起きないのかもしれない。

──ありふれてる好きなものにまみれて──

それでも、うたちゃんが一緒に歌ってくれている。
ここが、うたちゃんのステージなら。
彼女が誰かの想いを届けるために歌っているのなら。
私の音だって、きっと届く。
私の力も、ほんの少しだけ。
このステージに、重ねられるかもしれない。


彩葉──大好き。


だって、私……かぐやに会いたい。
あんなタンクトップなんかに、邪魔されてたまるもんか。

あのすかした顔ぶっ飛ばして、気取ったバッドエンドをハッピーエンドに変えてやる。





消えかけた光の放流が突如として強まった。
クリアの目尻が跳ね上がる。
余裕の表情を浮かべていたクリアに、初めて驚愕の色が浮かび上がった。
消滅の力であるアム・ドュ・スプリフォの巨腕が、圧し潰されていく

「どういう、ことだ」

アイドルの背後で、ライブ会場に昇り演奏を始めた彩葉を見て、恐らくはそれが原因なのだろうとクリアは推測する。
ラディスの一撃を受けて、立ち上がる力もなかったかに見えたが、まだ多少は力を残していたらしい。それも納得する。
だが、どうしてこんな演奏を始めて、プリキュア・アイドルスマイリングの威力が増幅したのかは、クリアには理解できなかった。

アイドルという偶像が、推されることで無敵の存在になれる事を、クリアは知らない。知る事も出来ない。

滅びの巨腕が罅割れ、クリアの全身を光の放流が呑み込む。

(……やはり僕には分からない現象だな)

愛を知らない化け物に、愛を与える事、与え返す事を理解する事など未来永劫出来はしなかった。
それを自覚したうえで、クリアは最期まで笑っていた。


「やった……」


彩葉が膝から崩れ落ちる。
ステージの光景が霧散し、元の渋谷の街並みが戻ってくる。
確かな手応えを感じて、彩葉は重くなった瞼を閉じようとした。
その時、目に入ったコンタクトが外れる。その瞬間、彩葉の姿がアバターから人間のものへと戻っていた。

(スマコン……つけっぱ、だったから……?)

元の肉体が何処にあるのか、その答えは案外簡単な場所にあった。
どんな科学技術を使っているのか、ますます謎は深まるものの彩葉の本体がアバターへと変換されていたのだ。
これで、仮に首輪を外せても本体を人質に取るなんて事がなくなってくれたのは、ラッキーだったと思うべきか。
一人で苦笑する彩葉は、転がっていくスマコンに手を伸ばして、その手を止めた。

「────褒めてあげるよ。君達は、思ったより強かった」

僅かに焼き目の付いた片手を、ヒュンと音を立てながら振るクリアがまだそこにはいたからだ。

「へえ、その道具の力か……まんまと騙された。君は人間じゃないか」

勝手に騙されたのは、あんたの方でしょ。
そんな言葉も出すほどの力もなく、彩葉は地べたを這いずる事しか出来ない。
立っているアイドルも満身創痍といった様子で、肩で息をしていた。
クリアは二人を交互に見つめながら、焼けた右手をじっと眺める。
何故、あんな弱い相手に傷をつけられたのか、心底不思議そうな様子で。

「……少しは、やる気が出てきたかな」

「どういうこと……?」

対峙するアイドルが絞り出せたのは、ただその一声だけだった。
このまま戦闘を継続して、勝てる余力は二人には残されていない。
だが、クリアにはまだ余裕があった。そして、その気になれば一瞬で自分たちを消滅させられるという絶対的な恐怖が、場を支配していた。

「興味が湧いたんだ。そこまで強くない術とはいえ、君達なんかが僕に押し勝った事にね。
 だから、もっと試してみたくなった。
 ここには大勢の人間がいるはずだ。
 今の君達みたいに、弱い人間でもふとしたタイミングで強い力を出せるのか……優勝までの余興にはなると思わないか?」

クリアは、自らの敗北を微塵も考えることなく言い切る。
自身の優勝は決定され、そのうえで自分を楽しませるために殺戮に興じると。
本気を出せば数時間もせずに、全参加者を皆殺しにできる自信があるが故の大言壮語であった。

「そんなこと!」
「させないって?」

クリアの右手が向けられた。

「無駄だよ。僕が術を唱えたら、君達は原形を留めることなく消滅する」

両腕の変身が解けたアイドルに、完全に立つことすらできないほど衰弱した彩葉。
あと一発、消滅の術を当てるだけで二人を消し去れると、クリアは確信していた。

二人もまた、それがはったりではないことを肌で感じている。

「次はもう少し強めの術を使おう──ラージア・ラディス」

ラディスをさらに上回る広範囲の衝撃波が、二人へと襲いかかる。



「彩葉さん!!」

アイドルは動けない彩葉を庇うように覆いかぶさり、自らを盾にした。
それを見て、クリアは鼻で笑う。
庇ったところで、二人まとめて消滅するだけだ。
抵抗するならまだしも、なぜ無駄だと分かりきった自己犠牲に走るのか。
人が人を思いやることは知識として理解していても、その本質だけは最後まで理解できない。
まるで不可解なものを見るような目で、消えゆく二人の末路を網膜に焼き付けようとした、その時。

「何……?」

──次の瞬間、衝撃波と少女たちの間へ何かが空から降ってきた。

それは、人型の生物だった。

背丈は高く、体躯にも恵まれている。
筋骨隆々と呼ぶにはやや締まりがない体つきだが、その贅肉の下には圧倒的な筋肉が隠されており、常人離れした膂力を感じさせる。

ドゴオオオンッ!!

轟音とともに着地した衝撃で、地面を舗装するアスファルトが罅割れ、砕け、宙へと舞い上がる。
砕けたアスファルトは、その生物と背後の少女たちを守る巨大な盾となった。
ラージア・ラディスの衝撃波を分厚いアスファルトが受け止め、消滅した、その瞬間。
生物は担いでいたデイバッグへ手を差し入れ、一つの瓶を取り出した。


────ニューボルツ・マ・グラビレイ!!!


「……しま、ッ」

その生物が詠唱を終えた瞬間、クリアを中心に黒い球体が発生し、その身体を飲み込む。
次の瞬間、そこを中心に凄まじい引力が発生した。

(──これは、ブラゴの……!?)

忘れもしない。

命の授業へ参加させられる数時間前、ブラゴとの戦いで目にした新呪文だ。
驚くべきは、森口の持つ技術だろうか。
魔物の術を瓶へ封じ込め、支給品として参加者へ配布していたとは、さすがのクリアも予想していなかった。

(これでは身動きが取れない)

万全の状態ですら数秒間拘束される術だ。
ましてや森口によって力を制限された現在のクリアでは、術を打ち消すまでさらに時間を要するだろう。
逃げ去る三人の背中を、クリアは黙って見送ることしかできなかった。


「ええッ!!おじさん誰ぇ!!?」

「味方だッ!嬢ちゃんたち、逃げるぞ!!」


突如として現れたその生物の名は、島二郎。
島二郎は倒れている彩葉を脇に抱え上げると、アイドルへ視線を向けた。
彼は、ほとんど全裸だった。
ふくよかな体は隠されることなくさらけ出され、頭には帽子なのか髪の毛なのか判別のつかない、栗のような塊がちょこんと乗っている。
そして腰に巻いたエプロンを除けば、それ以外は何も身につけていなかった。

「そっちの嬢ちゃんは走れるなッ!」
「う、うん!」

ドスドスドスと爆走する島二郎。
腰に巻いたエプロンの下からは、丸出しの尻が豪快に揺れていた。
月光を浴びてぴかぴかと輝く桃のようなプリケツを、まじまじとキュアアイドル──咲良うたは見せつけられるのだった。


(あの格好、際どいな……)




【酒寄彩葉@超かぐや姫!】
[状態]:疲労(大)
[装備]:スマートコンタクト@超かぐや姫!
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2
[思考]:殺し合いをハッピーエンドで終わらせる。
1:かぐやにもう一度出会う。
2:誰、この人……。
[備考]
※卒業ライブの直後から参戦です。


【咲良うた(キュアアイドル)@キミとアイドルプリキュア♪】
[状態]:疲労(大)
[装備]:アイドルハートブローチとプリキュアリボン@キミとアイドルプリキュア♪
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いなんて絶対に止める。
1:アイアイ島に戻って、待っているテラちゃんとの約束を果たす。
2:凄い格好……。
[備考]
※劇場版で過去から現代に戻った直後からの参戦です。(本編での参戦時期は31話終了後)


【島二郎@ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ】
[状態]:健康
[装備]:エプロン
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2、ニューボルツ・マ・グラビレイ@金色のガッシュ!!(使用不可)
[思考]:殺し合いを止めたい。
1:嬢ちゃんたちを安全な場所まで避難させる。


【クリア・ノート@金色のガッシュ!!】
[状態]:健康、シャツクリア、ニューボルツ・マ・グラビレイにより拘束中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考・状況]
基本方針:優勝し魔物を滅ぼした後に自害する。
1:魔物を殺して回る。人間にも興味が湧いてきたから、ちょっかいを出してみよう。
※参戦時期は完全版15巻LEVEL.288終了直後です。
※消滅の力に制限が掛かっています。少なくとも、ラディス一発だけで参加者を消滅させることは不可能です。


【ニューボルツ・マ・グラビレイ@金色のガッシュ!!】
ニューボルツ・マ・グラビレイを封印した瓶。
使用時、対象に強力な引力を発生させる。
原作ではクリアを数秒間拘束した実績を持つ。
使用後はクールタイムとして12時間の再使用不可時間が発生する。






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最終更新:2026年08月03日 23:45