『忍者と極道、時々何者でもない男』
(キャラ) 東徹、久岐忍、ハッチ・マンセル
「ハッ、『命の授業』だか何だか知らねえが……狂ってやがる」
まるで書き割りの中のような、無人の渋谷の街並み。その路地裏に立ち尽くしていた東徹は、激しい苛立ちとともに息を吐き出した。
社会的な立場だけを見れば、東は決して「善人」ではない。松金組の元極道であり、ドスを手に数々の修羅場を潜り抜けてきた。だが、人間的な部分で言えば、彼はどこまでも善良な男だった。そんな彼が見知らぬ者同士を無人島に集め、殺し合いを強要するような『命の授業』とやらに反感を抱かない筈がない。
僅かばかりの恐怖心と、胸の底からこみ上げるような怒り。その感情に任せながら支給されたサバイバルナイフのグリップを握りしめて、東は路地の奥へと歩みを進める。その時だった。
カチャリ、と静寂を切り裂いて頭の後ろで金属音が響いた。
「動くな」
背後からの声は、どこか疲れ切ったような、だが洗練された男のものだった。後頭部に押し付けられた銃口の冷たさが、明確な死の気配を伝えてくる。
東は舌打ちを噛み殺し、ゆっくりと両手を挙げた。だが、その瞳には恐怖ではなく、強い憤怒の火が灯っていた。
「……こんなくだらねぇ殺し合いに乗ったのか?」
東の絞り出すような問いかけに、背後の男はわずかな沈黙を置いて、拍子抜けするほど淡々と返した。
「いや。アンタは?」
その揺らぎのない声を聞いた瞬間、東の頭の中で何かが弾けた。怒気を含んだ声を荒らげて振り返る。
「フザけんじゃねえ! 俺がそんな真似する訳ねえだろ!」
男――冴えない普段着姿の、どこにでもいそうな中年男。相手は東の眼光とその言葉に嘘偽りがないことを瞬時に見抜いたようだった。肩の力を抜くと、男は静かに銃口を下げる。
「そうか。それは良かった……」
男が息を吐いたその直後、不意に台風のような強い風が吹き抜けていく。思わず東が顔を覆うと、鋭い声が聞こえてきた。
「――そこまでだ!」
その言葉とともに、影が舞い降りる。勢いよく振り下ろされたのは、重厚な鉄のバール。その先端は、東に銃口を向けていた中年男を狙っている。それと同時に、鋭い眼光を宿した男は極限の反応速度で体を捻って、間一髪のタイミングでその一撃を回避した。アスファルトを叩き割るバールの衝撃音が、路地裏に響き渡る。
乱入者は軽やかに着地し、隙なく身構えた。
東は目を丸くした。そこに立っていたのは、顔の下半身を覆う面を着け、独特な装束ーーまるでアニメに登場する「くノ一」のようなーーを身に纏った緑髪の女性だった。あまりにも現実離れしたその姿に、東の脳内には場違いな感想が浮かんだ。
(……コスプレした姉ちゃんか?それともそういう店の風俗嬢か?)
呆気にとられる東を自らの背後に庇うようにして、その女性はバールを構え直し、中年男へと言い放った。
「武器を捨てて投降して。抵抗するようなら容赦はしない」
その立ち姿、腰の据わり方、そして一切の迷いがない声。少女の面影を残しながらも、彼女が場数を踏んだ「本物」であることは東の目にも明らかだった。
「待て待て待て! 誤解しないでくれ、俺は殺し合いに乗った訳じゃない!」
バールを向けられた中年男は躊躇なく手にしていた拳銃をアスファルトの上に置いて、慌てた様子で両手を挙げてみせる。その素直な行動に、女性は後ろに立つ東に視線を飛ばした。ため息交じりに乱入者と中年男を見比べ、東は助け舟を出してやる。
「……もういい。ソイツは違う」
その言葉を聞いて、女性は落ち着いた様子で静かにバールを収めた。
「……なるほど。どうやら無用な争いだったようね」
◆
路地裏を抜け、開けた場所まで移動した三人は、呼吸を整えながら互いの素性について明かした。
乱入してきた女性、久岐忍と名乗る彼女は「稲妻」という遠い国にある「荒瀧派」という組織の副手をしているという。対して、銃を突きつけてきた男はハッチ・マンセル。擦り切れた普段着姿の彼は、申し訳なさそうに頭をかきながら東に頭を下げてみせる。
「いやあ、本当にすまなかった。僕はしがない会計士の、『何者でもない』男でね。さっきのはなんというか……少し警戒心が過敏になっていたんだ」
「しがない会計士、ねぇ……」
東はハッチを不審そうに見つめたが、ひとまずは自分も名乗りを上げた。神室町の極道組織・松金組の元極道。社会的にはヤクザ、と呼ばれる立場だが、女子供にまで手を出す外道になったつもりはない。
「……一応聞いておくが、忍さんはどうなんだ?こんなクソくだらねぇ『命の授業』とやらに付き合う気はあるのか?」
「冗談。こんな悪趣味な催しに付き合う気はない」
忌々しそうに忍が吐き捨てる隣で、ハッチは手元の銃を弄りながら頷く。
「交渉成立みたいだね。……とりあえず、僕たちは皆無用な殺しはしないってことだ」
ハッチの手に握られていたのは、大型のリボルバー型拳銃。彼はおよそ「会計士」には似つかわしくない手付きで弾倉を確認し、元に戻してみせる。
その洗練された手つきを冷ややかに見つめていた忍が、腕を組みながら口を開いた。
「……それが『銃』という兵器なのね。元素の力も使わずに、その小さな管から金属の弾丸を撃ち出す……噂に聞いたスネージナヤのファデュイが使う鉄砲と似ているけれど、構造の精密さが違いすぎるわ」
「ファ……デュイ?」
東は怪訝そうに眉を顰め、真面目な表情の忍を見つめ返した。
「おいおい、さっきから『スネージナヤ』だの『稲妻』だの言ってるが……マジでどこの国の話なんだ? 俺はあまり学のある方じゃねえが、そんな国は聞いたことねえぞ」
その言葉に、忍は少し訝し気に首を傾げた。
「地図にない? テイワットの七国を知らないというの? あなた方の言う『日本』や『アメリカ』こそ、私は聞いたこともないわ」
その真面目な眼差しに嘘偽りがないことを悟り、東とハッチは顔を見合わせる。
「……どうやら、僕たちは単に違う国から集められただけじゃないらしい」
ハッチが静かに言った。
「平行世界、あるいは異次元……ファンタジーのような話だが、この首輪といい、僕たちをここに連れてきた技術といい、それを可能にする『何か』が存在するのは確かだ」
その言葉に、東はガリガリと頭を搔きむしる。要するに、自分たちは魔法か何かでここに連れてこられたという訳だ。八神の野郎が持ち込んでくる面倒事よりよっぽどタチが悪いな、と心中で吐き捨てる。
「へっ、冗談きついぜ……異世界から来たコスプレくノ一と、アメリカの会計士、それに日本のヤクザかよ。どんな組み合わせだ」
「この恰好は私の作業着のようなものよ。普段は……そうね」
忍はため息をつきながら、腰のポーチから小さな羊皮紙の束を取り出した。そこには細かい数字と文字が几帳面に書き込まれている。
「私は元々、璃月で律法や財務の資格を取得したの。街の人の悩みに乗ることもあるけど、うちのバカな連中――特に頭領の荒瀧一斗が、毎日のように街で暴れては損害賠償や無許可営業で町奉行に捕まるから、その度に法律と帳簿を盾に交渉して釈放させているのよ」
それを聞いたハッチの目が、感心したように少し見開かれた。
「ほう……損害賠償の示談交渉に、組織の財務管理か。法律と会計の両方に精通しているとは驚いたな。僕にもその苦労はよくわかるよ」
「ええ、本当に……あいつらの尻ぬぐいだけで、私の胃は休まる暇がないわ」
忍が心底疲れたように肩を落とすと、東が思わず身を乗り出して力強く頷いた。
「わかる! わかるぞ姉ちゃん! 俺も『疫病神の探偵』の尻ぬぐいでいつも胃を痛めてんだ!海東の兄貴もいい加減あんな野郎とツルむのをやめてくれれば……!」
「あなたも苦労しているのね……東」
互いの苦労、というよりは身内の愚痴をきっかけに強い共感を抱いた東と忍の間に、確かな連帯感が生まれ始めていた。ハッチはその様子を穏やかな笑みを浮かべて眺めていたが、ふと忍に視線を戻し、静かな声で問いかけた。
「……だが忍、君ほどの知性と能力があれば、もっと安定した公的な職に就くこともできただろう。なぜわざわざ、そんな無法者の集まりに身を置いているんだい?」
忍は一瞬だけ言葉を詰まらせ、仮面の奥の瞳をわずかに揺らした。
「……私は、自分の道は自分で選びたかったの。確かにあいつらには手がかかるけれど……あそこには、私が求めた『自由』があるのよ」
「自由、か……」
ハッチは呟き、どこか遠くを見るような目になった。
「自分の意思で生き方を選ぶ。それはとても尊く……そして、時には酷く高くつくものだ」
ハッチの言葉に含まれた深い重みに、忍と東は思わず息をのんだ。ハッチは自嘲気味に小さく笑うと、首を振った。
「いや、僕のような『しがない中年男』が語ることじゃないね。さて……お互いの『困った組織』の話も済んだことだし、そろそろ移動しようか」
ハッチは立ち上がり、慣れた手つきで拳銃を構えなおす。その一連の動作には、先ほどの温和な雰囲気とは裏腹に、一切の無駄がなかった。
(やっぱり……ただの会計士の動きじゃない)
忍はハッチの背中を見つめながら、確信を深めていた。彼が背負っているものの深さは、自分が捨ててきた過去よりもずっと暗く、重いのではないかと。
ともすれば、一度導火線に火が点いてしまえば――まるで暴風のような怒りが吹き荒れるのではないか。彼の背中は、そんな印象を忍に抱かせていた。
そしてハッチもまた、歩き出した忍の無音の足取りと、周囲への隙のない警戒心を感じ取りながら、心の中で呟く。
(自由を得るために修羅場をくぐってきた、か……あの少女も、相当な場数を踏んでいるな)
お互いに相手が底知れぬ「過去」と「技術」を隠し持っていることを確信しながらも、二人はそれを口に出すことはしなかった。今はその隠された刃こそが、この理不尽な殺し合いの島で生き残るための、最大の強みになることを分かっていたからだ。
「おい、二人とも遅れるなよ!」
立ち尽くした二人に向けて、東の威勢の良い声が路地裏に反響して響く。
「ええ、今行くわ」
「すぐ行くよ、東くん」
【東徹@JUDGE EYES:死神の遺言】
[状態]:疲労(小)、僅かな恐怖心、怒り
[装備]:サバイバルナイフ@現実
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2
[思考]:殺し合いに乗る気はない。あの女(森口)にケジメを付けさせる。
1:とりあえずは二人と周囲を探る。
2:海東の兄貴はいねえだろうな?
3:八神の野郎がいないことを祈る。
[備考]
※参戦時期は本編終了後
【久岐忍@原神】
[状態]:健康
[装備]:バール@現実、神の目@原神
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~1、荒瀧派の事務書類
[思考]:殺し合いに乗る気はない。さっさと稲妻に帰る。
1:二人と共に周囲を探る。
2:ハッチを警戒。
3:別の世界?そんなことあり得る?
[備考]
【ハッチ・マンセル@Mr.ノーバディ】
[状態]:健康、軽い苛立ち
[装備]:S&W M29(6/6)@現実、予備弾×36
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2
[思考]:積極的に殺し合いをする気はない。危険人物は排除しつつ、家族の元に帰る。
1:二人と共に周囲を探る。
2:忍を警戒。
3:もし家族が巻き込まれているようなら、容赦する気はない。
[備考]
※参戦時期は本編終了後
最終更新:2026年08月04日 00:32