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『一寸先は』


(キャラ) ケイン





――ジョンが戻ったらしい

今は風の噂だが、すぐに確かな情報源から続報が出るだろう。
誰かが気まぐれで流布したデタラメなら、そいつは嘘ばかり吐く口を封じられてるはずだ。
バーバ・ヤーガが戻ったなどと、それを楽しめる冗談だと思うような奴はいない。
だからこれは、きっと本当のことだと、ケインは確信していた。

ジョン・ウィックは、古い友人だ。
旧友の帰還に、ケインは酷く陰鬱とした感情を抱いていた。
自分たちはともに、愛する者のために汚れた仕事から足を洗った似た者同士。
その片方が辿った道を、自分が歩かずに済むと、どうして言えるだろう。

まして自分は盲人なのだ。
誰かが先を歩いている道を避けるのは、常人よりも遥かに難しい。
彼が歩む道を自分も歩く可能性は大いにあるだろう。


暗闇の中にいた。
いつもの暗闇ではなく、夢の中だとすぐにわかった。
ケインは生まれついての盲目ではない。
殺し屋稼業から足を洗うため、主席連合に視力を差し出す前には、彼にも光が見えていた。
だから、暗闇の中に浮かぶ何かが見えるならば、これは自分の記憶が見せている夢なのだ。


「未来、最高、未来!最高!未来!!最高!!
 オマエも未来最高と叫びなさい!!」


……くねくね踊る鹿頭の案山子(スケアクロウ)が、自分の記憶が見せている夢?
ジョンの復帰を聞いてネガティブになったせいだろうか。
こんな悪夢を見るほど自分は滅入っているのだろうか。


「夢だと思っているのか。
 これはただの夢ではないが、まぁ実際夢であることは確かか。
 まあいい、オマエの未来を見せな!」


次の瞬間、ケインの頭は鹿頭の腹に空いた空洞にのみ込まれていた。
気配も殺気も、物音も足音も予備動作もなかった。


「――ッ!?」


慌てて抵抗すると、鹿頭はあっさりとケインを解放した。
さっきまでの気色の悪い動きをやめて、じっとこちらを見つめていた。





「娘」



鹿頭の言葉に、ケインの全身を悪寒が駆け抜けた。
目に見えて震え出したケインに気付いていないのか、鹿頭は意味の分からない単語を並べていく。



「極東、旧友、刀、死体、伯林(ベルリン)、カード、死体、犬……?、巴里(パリ)、階段、死体、死体、死体、決闘……、報い(コンセクエンス)」



最後の単語を口にした鹿頭は、直後にその巨躯を滅茶苦茶に振り回し始めた。
一本足であるためその場からは動いていない。
だがケインの鼻先を、巨大な拳が何度も掠めていく。


「面白い未来! もう来ない未来!
 オマエも最悪な死に方するはずだったのに!
 もったいない! もったいない!
 これって僕のせい!? いや違うそうじゃない僕じゃない!」


訳の分からないことを叫ぶ怪物。
なにか憤慨していることはわかるが、ケインにはどうしようもない。
未だに身体は悪寒に震えている。
凄腕の殺し屋として名を馳せた自分が、未知の恐怖に怯えていた。


(未知の恐怖……?)


ケインは自問自答する。
確かにこの怪物は得体が知れないし、恐ろしい。
だが今、自分が怯えているのはそれが理由だろうか。

娘。
鹿頭がそれを口にしたとき、なにかが頭の中で繋がった気がした。
何かに気が付いたことで、自分に待つ恐ろしい運命を悟った気がした。
あれは、なんだった? 自分は何に怯えている?


しばらくして、虚空に向けて身体を捻り暴れていた鹿頭が落ち着いた。
疲れたのか、うなだれたまま力無く両腕を広げたポーズに戻ったその姿は、やはり畑に突き立てられた案山子によく似ていた。


「あー……。せめて、これからのオマエの未来を見せろ。
 オマエの右目に住まわせてもらうゾ。
 家賃に……少し未来を見せてやろう」

「……なに?」


相変わらず意味の分からない言葉の中に、なにか引っ掛かりを覚えてケインが口を開く。

しかしその直後、ケインの体は背中の方向へ強く引っ張られる。

夢が終わる。
意識が覚醒する。
その刹那、自分を慰めるように再び「未来、最高」と踊り始めた怪物と目が合った気がした。

その覇気のない目には、覚えがある。
教室で殺し合いを命じていた女と同じ、何かを諦めた目だ。

夢が覚めるその直前で、ケインの記憶が正解を手繰り寄せた。

そうだ、自分は殺し合いを命じられたのだ。
ジョンの復帰の噂を聞いた直後に。
その続きでこの夢を見ている。

もはやこの夢がただの夢ではないと理解している。
あの怪物は娘のことを知っていた。
殺し合いの黒幕が知らないとは思えない。

これは脅迫だ。

娘の存在を出されれば、自分は従うしかない。
ジョンは帰ってきた。帰ってくるしかなかった。


(……ジョン。きみも、こんな気分だったのか?)


旧友に思いを馳せた時には、彼は見知らぬ街の中に立っていた。
鹿頭と目が合った右目に、少し先の光を宿して。



【ケイン@ジョン・ウィックシリーズ】
[状態]:右目に「未来の悪魔」
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2
[思考]:殺し合いに乗る。娘のため。
1:……。
2:ジョン、最低な気分だったろう

[備考]
※参戦時期は「ジョン・ウィック」終了後です。

※右目の「未来の悪魔」によって支給品枠が一つ消費されています








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最終更新:2026年08月04日 00:15