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『4000万の微笑み』


(キャラ)冥冥、天内理子




 『豚の貯金箱』、ってあるだろう?
……おや、そんな顔をしないでくれ。
私の幼少期の話などは退屈だろうし、憂憂が私の顔を模した貯金箱に額を捧げている実態などは、今この場では無価値な情報だ。

ただ、そうだね。
昔のアニメなんかで、よく見るだろう?
陶器の豚を、木槌で容赦なく叩き割るシーン。
想像してごらん。
呼吸もできないくらい硬貨を腹に抱え込んだ豚が、最後には人間の一撃で粉々になる。
その瞬間をさ。


 ──さて、

 ──もし、その中身がたった『一円玉』の集積だったとしたら、どう思う?

……それはもう、血だよね。豚の返り血。文字通りの血税というわけだ。
割れた腹の中を覗き込んで、だらだら溢れてくるのが、自販機ですら「帰れ」と拒絶するアルミの屑。
私なら青ざめるだろうね。本物の屠殺現場を見るよりも顔真っ青さ。


 ──なら、『五円玉』なら……という仮定も、結論は出ている。

ははは、神社か。
つまらない言葉遊びをさせてもらうなら、『ご縁がありますように』。
……いや、心にぽっかりと穴が開いただけの、虚無の象徴かな。
人を呪わば穴二つ。
ふふ、呪術師としては、その穴の開いた五円玉の方がふさわしいのかもしれないね。


 ──そう考えると、『十円玉』はどうかな?

うん、これもやはり血だ。ひどく鉄臭い。
原子番号26──Fe。義務教育をボイコットしているような不届き者でも、その元素記号だけは知っていたりする。不思議な話だと思わないかい?
余談。
十円玉を見るたび、給料日前の夜蛾正道を思い出すのは、私の少しばかり悪趣味な回想さ。
彼は財布の中の十円硬貨を、まるで呪霊でも祓うかのような形相で睨みつけ……結局、そのあと苦い顔でレバニラを食べに行った。
鉄分が欲しいなら、その硬貨を舐めていれば安上がりだろうに。


 ──さて、それじゃあ真打の登場だ。
 ──『百円玉』といこうか。


「……信じても、いいんだよね? 私を……──あ。……わ、妾を……守って、くれると……!!」

「…………」


…………おや、不満げだね。「五十円玉はどうした」って?
悪いけれど、私は脇役にそこまで情熱を注げる性格じゃない。
カバオくんが延々とブレイクダンスを踊り続ける回など、誰が配信で観たがるというんだい?
私にとって穴あき硬貨は、そう……脱法アンパンマンのようなものさ。
ひどくアナーキーで、救いがない。
……おっと、失礼。またつまらない言葉遊びだ。ゆとり世代の限界とでも思って聞き流してくれ。

話を戻そうか。

百円はいい。実に美しい。
手のひらに数枚転がすだけで、もう安心感が違う。
チャリン、チャリン、と、価値がありますって主張する音がする。
冴えない男子中学生を逆さにして振れば、十中八九最初に落ちてくるのもこれだ。
私にとって百円の音はいわば、福音(ゴスペル)に等しいんだよ。
……ああ、誤解しないでほしいな。
私はカツアゲなどという非効率な労働に従事したことは、一度たりともないのだから。


 ──私にとっての百円玉は福音。本当に福音だったよ。
 ──高学年を迎える以前の私は、それで満足していたのだから。
 ──今思えば、それは不幸であり、同時に人生でいちばん幸福だった時期でもあったんだろう。

 ──さて、『五百円玉』だね。


「……お、おい……! 返事をせぬか! ……ご、五条や夏油と同じ……最強の術師の類なのじゃろ! ……おい!」

「…………」


一旦、想像してごらん。
五百円硬貨でみっちりと満たされた、あの豚の貯金箱を。
小学生の頃から始め、長い年月をかけてコツコツと金貨のみを捧げ続け……気付けば給料日前の金曜日、夜。
木槌を握る時、幼少からの思い出がふと脳裏をよぎり、訳の分からない感動で涙を流しながら叩くんだ。
テレビからは、懐メロ混じりの音楽番組。Mステあたりでね。


……すると、どうだろう?

もし私が悪辣な呪詛師で、その貧乏なサラリーマンを強盗殺人しようと扉を開けたとする。

……まず吐くだろうね、私。あまりの歓喜に。

で、そのあと『いや喜ぶ程か?』ってなるだろうね。冷静さはシリアルキラーにとって必須素養だ。


ただ、人間という生き物は良くも悪くも愚かなもので、数が多いというだけで価値を錯覚してしまう。
血の池溜まりで。
推定五万円ほどのジャラジャラを、私は貪るようにかき集めるのだろう。
きっとその時の私は、鏡を見なくても分かるくらい下品な顔をしているだろうね。
指名手配書に載る直前みたいな笑顔で。
行く末はおそらく、何処ぞのろくでなし……ああ、あの『伏黒甚爾』という不届き者を呼びつけてさ。
抱き合いながらスミノフでも煽るんじゃないかな。
ははは、一級術師になっても私は庶民派だね。


……え?
伏黒甚爾とは、誰かって?
あぁ、それは、


「……ごほんっ! よ、よいか! 妾の話を聞け!」

「…………」



 ──うん。いいや。
 ──それじゃあ、ここからが本題だ。



 ──仮に、豚さんの貯金箱が、手のひらサイズの黒い電子板に姿を変えていたとして。

 ──タップ一つで残高が可視化できて。

 ──そこには制限時間らしき数字とともに、『40,000,000』という、実に甘美な数字が並んでいて。

 ──そして、画面中央には、仏頂面をした少女の顔写真が、まるで値札のように貼り付いていて。


 ──五条君も夏油君も見当たらなく、

 ──私を監視する無粋な目もなく、右も左も、補助監督も学園の連中もなく、

 ──つまりは責任の所在も曖昧となり。その気になれば、時の器の会だかQだか、安っぽいサバゲー集団にでも全部擦りつけられ。

 ──以上を以て、リスク管理は完了で。



 ────その上で、

 ────『40,000,000』のその子が、今、私の目の前に立っていて。



 ────そして、つい数日前。

 ────『金が欲しい……術師にならなきゃ……』、死んだ目をして歩く、青髪の小学生とすれ違ったことを。

 ────何となく、思い出したとなれば。




……うん。
これにて結論は一つだ。



「妾は星漿体にして天元様……よいか!! 同化は死ではない……生なのじゃ! 妾は天元様と同化した後も、皆と共に──」

「それ。……きっと一字一句違わず、最近誰かにも言っただろう?」

「……え?」

「決まり文句なのかな。テンプレ」

「……き、貴様。まるで全てを見透かしたような口を……」

「でも、いい。せっかくだし、私も挨拶代わりに決まり文句を返そうかな。……今、思いついたばかりなんだけどね」





────もし、『四千万円札玉』ぎっしりの貯金箱があったらさ、


────笑ってしまうよね。……特級呪物すぎて。




🆃🅷🅴 ​ 🅷🅰🅿🅿🅸🅽🅴🆂🆂
💵

 💱
   🤑
🆂🅿🅸🆁🅰🅻!!!




【冥冥@呪術廻戦 懐玉・玉折】
[状態]:異常高揚・試算完了
[装備]:不明
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:人間一人の市場価値としては、悪くない数字だ。
1:40,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000……。
2:邪魔をする子には、それ相応の『違約金』を請求させてもらうよ。

【天内理子@呪術廻戦 懐玉・玉折】
[状態]:困惑・本能的恐怖
[装備]:不明
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:普通の女学生として、普通に青春したい。
1:私はなんでも鑑定団に出品されてるの……?
2:……この女……なに……? 目が、目が笑ってない……。
3:黒井……黒井、どこにおるのだ……! 妾、もう怖い…………!



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最終更新:2026年06月06日 16:56