『夢の続きを、』
(キャラ)デンジ、セルマックス
死んだ心地なんかしねぇってくらいの、クソあっちー昼だった。
ピコピコ……。
ピコピコピコ。
「つまんねーー レートンきょーじゅってマジクソゲーだなッ!」
公安の仕事ん中でも特につまんねぇデスクワークが終わって、昼飯時。
オレはアキの車のバンパーにケツ乗っけて、DSの画面を睨みつけてた。
別に、好きでこんなのやってるワケじゃねえ。
「お前らは頭悪いんだから鍛えろ」とか、クソムカつく理由でアキが買ってきたゲームだ。
さっき昼メシにカツカレーサンドを五秒で食ったから、胸焼けが上がってきてやべえ。
つかレイトン教授も何言ってるか分かんねぇから、マジ問題集UR+。
それだっつうのに、ノルマのとこまでナゾ解かなきゃぶっ殺されるからよ、オレは昼休憩が仕事より大嫌いだった。
「……うっしゃ! ヒラメキ(笑)。クリアァァァァァ!──」
「──知育ゲームだか知らねぇけど、ちょっとアタマ使えばこんなの楽勝だぜ! 開発者ざまあ! アキざまあ! 攻略サイト使わない情弱ざまああああ!!!!」
画面ぶっ壊すくらいの勢いで、タッチペンを液晶にガシガシ叩きつける。
上画面は液晶がバグって線が入ってるし、中古屋のワゴンのクッセェにおいがする駐車場。
周りの公安全員が、午後の仕事ダルいだの、死にたくねぇだの暗い顔で現実逃避してる中、オレの頭ん中はマキマさんに撫で回される妄想でいっぱいだった。
『デンジくん、お疲れ様』とか言われたら、たぶんオレ。
レイトン教授の攻略本全部丸暗記するんだろうなってな。
「…………。……あーあ、死ぬほど眠ぃ。アクビしたらカツカレーのにおいしかしねぇわ。寝よ」
こういう何も起きねぇ時は嫌いだった。
嫌いだったけど。
……んまぁ、でも悪くねぇかなって。
太陽だけがあったけぇ、やることねぇ平和な時間。
眠気に勝てないオレはDSを閉じて、車にもたれながら目を閉じた。
「ふわぁぁあ~~~~あ……」
そん時だった。
なんか、瞼にすんげぇくらい光が刺さったように感じた。
パワーの野郎が寝てる時に懐中電灯ぶち込んできたことあったけど、……あれより全然眩しい。
『あ?』って思った。
『誰だよ殺すぞ』と言おうとした。
──で、次の瞬間にはもう、声が出てこなかった。
「やあデンジ。……久しぶりだね」
オレの足元に、──ポチタがいた。
相変わらず丸くて、抱いたらモチモチしてそうで、寸胴で手足も短けぇ。
あの時のまんま。ワンって鳴いて、そこにいた。
「……久しぶりで、それでいて相変わらずだ。ははは、私はそんな君が安心するよ」
最初は、「おー」とか「なんだよ急に~~」とか、軽い感じで言うつもりだった。
カッコつけたかったし。ポチタの前では少しくらい成長したオレでいたかったから。
でも、目の前のポチタを理解できた途端、頭ん中で『本能のままいけ』っつわれたみたいで。
「今ヒマかい? あとで一緒にパンを──」
「──わっ!」
気付いたら、オレはそのちっこい身体に死ぬ気で飛びついてた。
そして泣いた。
周りのヤツらなんかどうでもいいってくらいに、大声で泣き続けた。
頭が痛くなる。眼球も痛くなる。
鼻水が詰まりすぎて、マジで口でしか息できなくなった。
「……ふふ、デンジ。ただいま」
でも、それでもポチタはずっとニコニコしていた。
オレは何も言えなかった。
言ったらなんか、全部崩れそうだったから。
だから、抱きしめ続けた。
………
……
…
◆
こうなるともう、時間を見る必要も、オレを縛るヤツもねえ。
オレはポチタを連れて、一番大好きなコンビニの前で思いっきりたむろした。
言葉巧みに言いくるめて、上手いこと節約して奪ったカップそばから、湯気がモコモコ昇る。
ポチタは横でファミチキをモグモグ食ってる。
オレは「こんなうまいもん毎日食えるようになったんだぜ」って自慢した。
たくさんした。
別に優越感とかはねぇけど、この静かな空間で、ポチタに色んなことをたくさん話した。
マキマさんのこと。
マキマさんっていい匂いの女がいること。
おっぱい揉みてぇ時は二の腕揉めばちょっと近いこと。
マキマさんとデートで美術館に行ったこと。
ハダカの人形が置いてあったこと。
その時オレが超興奮したこと。
『裸婦像』って言葉を覚えたこと。
芸術ってのは要するにエロいってこと。
それから、やっぱりマキマさんのこと。
んで、汁啜ったらたまに武勇伝も挟んだりもした。
「アキの車によぉ! オレとパワーで貯めたデンジジュースぶちこんでなあ!」
「……『ジュース』ではないんだよね。もう半分くらい固形物になってるじゃないか、それ」
「それでよぉ! シートベルトの穴とか、掃除しにくいとこに詰めまくったから超大爆笑しちまって! マジざまぁってなったわ!! ギャハハハハ!!!」
「……ははは、笑うべきなのか困るところに、一番困るなぁ……」
オレは今までで一番ハッピーだった。
ポチタも笑ってた。少し困った顔で、でも笑ってた。
それでいて、よく考えれば無意味だった。
だってオレ=ポチタだし。
オレが体験したこともポチタは知ってんだからよ。
それでもオレは、話したくて仕方なかった。
「つーかポチタ、出てきちまっていいのか?」
「それを言うなら“なぜ出てこれるの?” だね」
「あーそれそれ。おめぇはいつも頭良いよなー。オレは頭使うの嫌いだからよ、いつも言葉うまくできねーわ」
「デンジが賢かったら、むしろ怖いさ」
「ンだよそれ?! おい待てポチタッ!! ダハハハハッ!!!」
ンでも、楽しい時間ってのは、終わるのもウソみたいに早い。
『怖い』って言葉を聞いた瞬間、オレはふと自分が腕に時計をハメてたことを思い出しちまった。
一時五十分。午後には、ストーブの悪魔だかってヤベぇ案件がある。
急に現実が戻ってきた。
「…………悪ぃ、んじゃ」
「ん? どこにいくんだい、デンジ」
「あぁ? 言っただろ。家帰ったらその怖ぇ大先輩説得して、んでリビングで続き話すから。それまでな、ポチタ」
「…………」
だからオレは靴下と靴をガシガシ履き直したあと、カップそばを蹴り飛ばした。
ポチタとこのままバックレるのも最高だけどよ、そうなりゃ色々後が怖ぇ。それがシャカイジンってやつだ。
ふと、道路を見る。なんか、モンジャみてぇのがこびりついてる。
“昔、『ネズミって酔っぱらいのゲロ食うんだぜ~~』とかポチタに話したなぁ”って。
マジでどうでもいいことを思い出しながら、オレは最後に一回だけ、足元のポチタと目を合わせた。
「じゃあな」
「…………デンジ」
「おう、んじゃ、また家で──」
「デンジ、ここまで現実をありがとう」
てっきり『じゃあね』返しすると、オレは思っていたのに。
ポチタはオレに見下ろされながら、太陽なんてどうでもいいみてぇに、話を続ける。
「あ?」
「常々、私は思うんだ。夢と現実は反対なんじゃないかって」
「あぁ? なんの話だよ」
「現実って、不思議だろう? パンを食べてもお腹が減るし、好きな人ができても不安になるし、お金を持ってももっと欲しくなる。──」
「──私は、夢の方が本当なのかもしれないって思うんだ。現実はそのためにあるんじゃないかな」
「意味わかんねぇ。哲学者食ったんか」
「はは。もう、いいのだからね。これまで積もってた話を君にしたいだけさ」
オレはしばらく何も返せなかった。
それは言葉が詰まったとかじゃねえ。アキにイミフなことで叱られた時と同じ感覚だ。
こんな簡単な話も理解できないIQって、マジクソ概念だよなって思った。
だから、ちょっとムカついて文句を言った。
「……あー! さっきからわけわかんねえよ!! ポチ──」
────そして、────オレは『全部』を思い出した。
「………………あ」
「……」
あの時の駐車場。誰もいなかったのにオレは気にも留めなかった。
コンビニもそうだ。何の音すらも聞こえないのに、オレは「無人販売かっ」とかツッコんでた。
今だってそうだ。
車が走る音もねぇ。鳥の声も、人の話し声もなんにもない。
こんな快晴見たことないってくらいカラカラなのに、雲は全く流れねぇ。
世界が、止まってた。
それでもポチタの影は、長く長く、オレの足元へとニコやかに届いてくる。
「………………ありがとな、ポチタ」
「ん?」
涙なんて不思議と出ねぇ。……泣く必要が、ねぇのかもしれない。
オレは、泣かない代わりに、ポチタの前へと歩み寄った。
「うんこするときも、お前はいつも便所でしてくれた。──」
「──ほんと、ありがとな」
「……そんな別れの言葉みたいに言わないでくれ」
「あ?」
「これからだよ。ずっと一緒だ。……ずっと、ずっと」
「…………」
そして、相変わらずポチタは頭がよかった。
コイツは最初から分かっていた。それでも、オレが察するまで言わなかったんだ。
だって、オレのことを一番分かっているんだから。
どうしようもねぇくらい平和な昼だった。
トコトコ四足歩行で歩くポチタの隣で、オレも歩き出した。
抱っこして歩きたかったけど、さっき死ぬほど抱きついたからもういいだろ。知らね。
とりあえず、行くとこは風呂だ。
温泉、露天風呂、混浴、トルコ風呂。
あったかくて、エロいところならなんだっていい。
「……それが本命だろう?」
「バレたか」
ポチタのその、ちっこい手を繋いでるような感覚。
それさえ残ってれば。
「いこうぜ、ポチタ」
「ワン!」
もういい。
それで。
【デンジ@チェンソーマン 死亡確認】
【セルマックス@ドラゴンボール超 スーパーヒーロー】
[状態]:全身裂傷、右腕欠損、胸部損傷、激昂
[装備]:なし(戦闘により消失)
[道具]:なし(戦闘により消失)
[思考]:『破壊』。
1:ィイイッ、ィギギイイイッ……。
2:ァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
3:ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!
最終更新:2026年06月07日 06:07