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『心を持てない魔物』


(キャラ)断頭台のアウラ、シュタルク




 分からなかった。
いや、違う。
分かりたくなかった。


“な、なによ……それ……ふざけるな……ッ。私は、五百年以上生きた魔族──”

『言うと思ったよ、アウラ』

“………………ぇ”


耳障りな声だった。
嫌いな声だった。
聞きたくない声だった。


『魔族はそうだ。自分の方が魔力が高い。自分の方が長く生きてる。自分の方が優れている。いつもそればかり。──』


違う。
違う、違う、違う。
それは事実だ。絶対の真理だ。
優れた者が上に立ち、強者が弱者を支配する。
当たり前だ。
何も間違っていないはずだ。


『──私は千年生きた魔法使いだ。──』


違う。


『──もっとも、お前たちみたいに、それを誇ったりはしないけどね。──』


違う。
違う。
違う。


違う。



『──アウラ、──』


違うッ、私の名を呼ぶな。
そんなはずがいいわけない。



私の方が強い。
私の方が上だ。
私の方が正しい。


だって私は──、

……だって、私は────、



『────自害しろ』



──、

────。


──────私が、最後に見た物。それは天秤。
今更になって、あの天秤は欠陥品だったのだと理解した。

だって、相手の皿に乗っていたのは、氷みたいな満月。
あんな大きくて、重力の塊を乗せられて、私の魔力が耐えられるはずがないでしょ。
そりゃ傾くに決まっているじゃない。



だから、

おかしい、じゃ、な、い────……の…………?


………
……





 分からなかった。
いや、違──……わない気がする。
本当に心の底から、俺はまったく、これっぽっちも状況が理解できなかった。


「ヒッ! く……、来るなアッ!!!」

「……え?」

「ぃ、ぃい…………ッ! あ、あんたは……フリーレンの………ッ、来るなッ!! 来るな来るな近寄るなアアアッ!!………!」

「え? 俺、別に近づいてな──」

「嘘よッ!! そ、そうやって……油断させて……! ……ッ、いやァアアアアアアアアアアアッ!!!!」

「いや、え?」


……ほんとに、いやマジで。
これは一体どういう状況なんだ?

「北側諸国の宿屋、こんな感じだったな~」なんて、今いる一室に想いを馳せる間もなかった。
突如として俺の目の前に現れたのは、忘れるはずもない姿。──七崩賢────『断頭台のアウラ』。
……いや、忘れるはずもないっつっても、本物を見るのはこれが初めてだけども。
それでも、円卓に置かれたボロボロの天秤。見てるだけで背筋が冷えるような威圧感。そして天井衝くような禍々しいツノ。
なにより本人がそう名乗ったのだから、間違いようがなかった。

……フリーレンやフェルン。
それに師匠のお陰で少しはマシになったとはいえ、結局俺は俺だ。
斧を握るよりも先に、「こいつ、死んだ筈なのに何故?」とか考えるよりも先に、俺は部屋の隅にあるボロっちいタンスの中に隠れるつもりだった。
終わりだからな、普通に。本能的にって奴。
エンカウント即死亡確定っていう神様のひどいシナリオを、泣き散らしながら恨む準備は万端だったんだ。
その前提を踏まえたうえで、もう一度言う。


「ぁ、……ま、ま、魔力………。隠すな……隠すんじゃないわよ……ッ」

「へ?」

「ひッ!! ……ヒ、ひィ……! い、嫌……。来ないで……ッ。来ないで来ないで来ないでッ!!」

「……とりあえずさ、……ガチでやってるわけなの?」

「あ──。あ、ぁ……ぅっ……」

「いや待て待て待て。──」


「──お前、それ『果物ナイフ』だよな……?」

「…………、ぃ、……っ……」



────これは一体、どういう状況なんだ?


 アウラ。
…………なんなんだ、こいつの『真の狙い』は。

銅貨数枚くらいで買えそうなナイフを、重たそうに両手で抱えて、顔をこれ以上ないってくらい真っ青にさせている。
さっきからものすごい内股だし、俺と全然目が合わない。
俺が「すぅ」と息を吸っただけでビクゥッ!と肩が跳ねるし、俺が「なんだこれ……」と首を傾げただけで後ろに下がる。
七崩賢どころか、およそ魔族の口からは絶対に聞いてはいけないタイプの鳴き声が、さっきからずっと漏れ出ている。


「しかも柄だし。刃じゃなくて柄向けてるし。……なぁ、お前これ、誰かにやらされてんのか?」

「……ひッ!! イヤ。嫌、嫌、嫌、嫌ッ……! み、見ないで……私は、私はもう……ッ!」


……また、ビクッと全身を震わせた。


「ゎ、私、私は……ひち、ひ、七崩…………」

「お、おい、しっかりしろよ!」

「ッ!! ……と、止まれ……」

「は?」


噛みまくっている上に、喉がすげぇ引き攣っている。
まるで、追い詰められてるのが俺じゃなくて、向こうの方みたいな。……得体の知れない、恐怖。


「止まれ……止まれ……止まれ……止まれッ!!」

「え?」

「──止まってェエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!!!!!!!! 弱いフリをするなァアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!! 」

「うわっ!」


カチカチと歯の根が合わない音のあと、彼女の口から鼓膜が破れそうな雄たけびが上がった。
今にも泣き出しそうな顔。いや、それどころじゃない。
本当に世界が終わると信じ込んでるといった、そんな顔。


「…………え?」


──迫りくる小動物みたいな刃先よりも、俺はその表情にある『裏』の方が恐ろしくて仕方なかった。




 ──……、

 …………──、





………
……


“魔族の言葉を信じてはいけないよ”
“奴らにとって言葉は、仲間を作るためのものじゃない。生きるために使う道具だ”
“奴らは人間を理解しない”
“だから私たちも理解する必要がない”


 ……分からなかった。
これが理解できない俺は、師匠にまだまだ殴られ足りないのかもしれない。
あまつさえ、今のこの状況を見て、「これならフリーレンの手を煩わせるまでもないな……」と、心のどこかで安堵すらしてしまっているのだから、俺は本当にまだまだなんだろう。

分かっているのに。
ふと気を抜ければ、こいつが『守ってあげなきゃいけない少女』に見えてしまうほど、どうしても。
何かがおかしかった。


「……飲みたくないなら別にいいけどさ。とりあえず、ほら。あったかいぞ」

「ひィイッ!!! ……ぃ、ぃ、い、……いただき……ます…………」

「“いただきます”って……」


あれから暫くの時間が経った。
俺は、机の上へ木の器──コーンスープを置く。
対して彼女は、その黄色い暖かみを、まるでピクニック中に見つけた腐乱死体のように凝視して、一口啜った。
汚れてもいないスカートの裾を頼りなく握りしめながら、もう片方の震える手で、二、三口。
スプーンを機械的に口に運び、そしてただ口元を黄色く汚すだけで終わる。
アウラはほとんど飲めていなかった。

それだけじゃない。
夜風が怖いのか。窓の隙間から吹き付ける度、彼女は「ヒッ」と、首元のマフラーを強く抑えこむ。
ベッドの端に腰掛け、痛そうなくらいに背筋を正し、お手本のようなきれいな姿勢を維持し続ける。
部屋に飾られていた青い花も、あの天秤も、彼女の為にすべて片づけた。
俺は、アウラが怯えないよう、話し始める前に「あー」とか「えーと」を意識して挟むようにしていた。


「……ぉ、おい……しい。……おいしい…………っ」

「え? あー、魔族も普通に飯食うんだな」

「ひッ。……………………ち、違っ」

「……あ、いや、悪い意味じゃなくてさ?」

「………………。──」


「──おいしい……。美味しい…………」

「そ、そうか」



そしてまた、彼女はスープを喉に入れず、ただスプーンを口に運ぶ。
そんなことを延々と。ずっと繰り返し続けていた。


……仮の話だ。
仮に、アウラがさっき話したことを、そのまま鵜吞みにするなら。
『生前』、彼女はフリーレンの圧倒的魔力に思考もできず、その【命令】のまま自分の手で命を落としたらしい。
想定外の死。いや、想像するまでもなかった筈の死、か。
今までの人生、感じたことないほどの感情に溺れつつ、気が付いたらこの殺し合いの場に放り出されていたんだと。

もちろん、俺もすべてを信じるつもりはない。
魔族は嘘をつく。今はアウラを泳がしつつ、いつでも斧を抜けるよう警戒心は腹の底に潜めているつもりでいる。
だけど、……仮に、だ。


「おい、し……──ヒッ!!」

「え?」

「嫌……嫌嫌、嫌ッ!! もう騙されない……騙されないから、騙してこないでぇええッ!!!!」

「な!!? ……あ。……だ、誰も来てないから! 落ち着いてくれ!!」

「ぁ、ぁぁぁぁぁ……騙されないから……ッ、騙さないから……ッ、騙したつもりはないから……、騙されないから、騙されないから、騙されないから、……ぁぁぁ、ぁぁっ……!!」

「大丈夫、大丈夫だって! ほら、俺しかいないから! ………………。……」



──あの七崩賢が、こんなになるなんて。

──フリーレンは一体、何を命じたんだろう、って。


ベッドの少しがたついた音だけで、耳を塞ぎ、頭を割りそうなほど抱え込むアウラ。
その小さな背中の震えが、本当に恐怖で泣いているのか、それとも心中であざ笑っているのかも、ダメな俺には何も分からない。
ただ、窓をそっと閉めることしか、今の俺はできなかった。



【断頭台のアウラ@葬送のフリーレン】
[状態]:重度PTSD
[装備]:なし(紛失)
[道具]:吹雪のマフラー@イナズマイレブン
[思考]:…………。
1:…………違う、違う違う違う違う。違う。違う。、違う、ちがう。
2:私は七崩賢。
3:私は七崩賢。
4:私は七崩賢。

【シュタルク@葬送のフリーレン】
[状態]:警戒心、困惑
[装備]:バトルアックス
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:フリーレンとの再会を果たしたい。……でもしたくない。
1:ゲームを打破する。ここで死んだらフェルンが絶対怒る。
2:アウラを警戒しつつ様子見。
3:…………で、何があったんだ?
4:『アウラ、絶対許さないから覚悟して』……いや違う。言わねぇだろ。
5:『アウラ、リーニエとリュグナー。どっちがいい?』……これも違う……か? こわっ。選んで何が起きるんだよ。
6:『アウラ、その鎧の人たちをさ、……言わなくてもいいよね。わざわざ』コワッッッ!!! 一番怖いよそれ!!
7:……これ以上考えたくない。







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最終更新:2026年06月12日 07:56