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『奴婢チャングムの誓い』


(キャラ)ソ・チャングム、榎本睦、ユン・ヨンノ




「殺し合いなんて、私はしたくありません」
 街を歩きながら、白装束の女性、チャングムは静かにそう言った。
 見上げれば見慣れない高層建築が並び、足元には石畳ではなく舗装された道路が続いている。
 彼女の生きた時代には存在しない世界だった。
「うん、ムウちゃんもだよ」
 隣を歩くムウちゃんが笑顔で答えた。
 その笑顔は無邪気だった。
 警戒心というものをほとんど感じさせない。
 チャングムは思わず微笑み返した。
 本来なら出会うはずのない二人だった。
 数百年の時代を隔てた女性同士。
 それなのに不思議と会話は弾んでいた。
 ソ・チャングム。
 宮廷女官として生きた女性。
 幼い頃に母を失いながらも努力を重ねた。
 料理人としての才能を開花させ、宮廷最高の料理人を目指して歩み続けた。
 失敗も多かった。
 だが決して諦めなかった。
 その姿勢を認めたのが師であるハン尚宮だった。
 ハン尚宮は厳しかった。
 少しの妥協も許さなかった。
 しかしその厳しさは料理人としての誇りから来るものだった。
 素材を活かすこと。
 食べる人を思うこと。
 料理人として真っ直ぐ生きること。
 チャングムはその全てをハン尚宮から学んだ。
 だからこそ彼女にとってハン尚宮は単なる上司ではなかった。

 一方でムウちゃん――榎本睦もまた、別の意味で多くの苦労を経験してきた女性だった。
 幼い頃から人よりできないことが多かった。
 会話。
 読み書き。
 人との距離感。
 社会のルール。
 周囲が当たり前に理解できることを理解するのに苦労した。
 そのため何度も失敗した。
 だが彼女は根本的には善良だった。
 人を疑うことを知らない。
 福祉施設で働き始めてからは、単純作業を褒められることに喜びを見出し、真面目に働いていた。
 農家での仕事も一生懸命頑張っていた。
 周囲の人間から見れば危なっかしい女性だったかもしれない。
 だが少なくともチャングムには分かった。
 この女性は善良だった。
 驚くほど素直で。
 驚くほど無防備で。
 そして――この殺し合いに最も向いていない人間だった。

「チャングムさんって料理できるんだよね?」
「ええ」
「いいなあ」
 ムウちゃんは目を輝かせる。
「ムウちゃん、あんまりできないんだ」
「誰にでも得意不得意はあります」
「そっか」
 嬉しそうに頷く。
「でもさ」
 ムウちゃんが少し真面目な顔になる。
「人を殺すのは嫌だよね」
 チャングムの表情が僅かに曇った。
「そうですね」
 二人はしばらく歩き続ける。
「あっ」
 ムウちゃんが声を上げた。
 少し先に新しい建物が見える。
「ねえ、あそこ行ってみない?」
「ええ」
 ムウちゃんは楽しそうに建物へ向かって歩き出した。
 その背中を見つめながら。
 チャングムはゆっくりとマシンガンを構えた。
 銃口は真っ直ぐムウちゃんの無防備な背中へ向けられていた。

 ――数十分前。
 チャングムは夜の路地に立ち尽くしていた。
 手にはマシンガン。
 足元には大量の血。
 そしてユン・ヨンノの死体が転がっていた。
 目を見開いたまま動かない。
 血だまりだけが静かに広がっている。
 チャングムは震えていた。
 信じられなかった。
 自分が殺した。
 自分の手で。
 幼い頃から知っていた相手を。
 ヨンノは意地悪だった。
 何度も嫌がらせを受けた。
 苦しめられた。
 そしてチェ一族に協力し、自分やヨンセンを追い詰めた。
 それでも本当に殺したかったわけではない。
 もし手にしていたのが刃物なら。
 もし短刀や包丁だったなら。
 最後の瞬間に思い留まれたはずだった。
 だが支給されたのはマシンガンだった。
 チャングムの知識にはない武器。
 説明書は読んだ。
 使い方も何となく分かった。
 しかし威力までは知らなかった。
 怒りと悲しみに任せて引き金へ指を掛けた。
 次の瞬間には全てが終わっていた。
 気付いた時にはヨンノは死んでいた。
 チャングムがこのゲームへ連れて来られたのは人生最悪の瞬間だった。
 チェ一族の謀略により硫黄アヒル事件の犯人として奴婢へ落とされ流刑を命じられた。
 その護送中に恩師であるハン尚宮が拷問による衰弱により死んだ。
 人生を導いてくれた人だった。
 その人が目の前から永遠に消えた。
 絶望の底にいた。

 優勝者はどんな願いでも叶う。
 最初は信じなかった。
 だが今は違う。
 ヨンノを殺してしまった。
 取り返しがつかない。
 もう後戻りできない。
 だったら、せめてハン尚宮を取り戻したい。
 そう思った。
 優勝する。
 どんな手を使っても。

 ムウちゃんは建物へ向かって歩いている。
 何も知らない。
 自分が狙われていることにも気付いていない。
 チャングムは照準を合わせた。
 指に力を込める。
 だが引かなかった。
 ゆっくりと銃口を下ろす。
 バトルロワイアルに乗るのをやめたわけではない。
 まずマシンガンの銃弾が有限であるということ。
 そして自分は強くない。
 剣士でもなければ武人でもない。
 他の参加者と正面から戦って勝てる保証はどこにもなかった。
 だから考える。
 利用できるものは利用する。
 自分は最後まで残る。
 宮廷で嫌というほど見てきた生き方だった。
 ムウちゃんを見る。
 人を疑わない。
 警戒心も薄い。
 誰とでも話せそうだ。
 ならば使える。
 他の参加者を油断させる囮として。
 危険を引き受ける盾として。

 だから今は殺さない。
 その結論に達した。
 しかしその瞬間チャングムの胸に鋭い痛みが走った。
 自分は何を考えているのか。
 利用する?
 囮にする?
 危険を押し付ける?
 それはチェ一族と何が違うのだろう。
 人を踏み台にして生き残る。
 他人を犠牲にして利益を得る。
 自分を陥れた者たちと同じではないか。
 自己嫌悪が込み上げる。
 吐き気がする。
 それでも立ち止まれなかった。
 ハン尚宮に会いたい。
 もう一度だけ。
 その願いが全てを上回っていた。
 チャングムはマシンガンをデイパックに戻した。
 そして何事もなかったかのようにムウちゃんの後を追う。
 優しい笑顔を浮かべながら。
 心の奥に暗い誓いを抱えながら。
 願いのために。
 恩師を取り戻すために。


【ソ・チャングム@宮廷女官チャングムの誓い】
[状態]:精神的疲労
[装備]:マシンガン
[道具]:基本支給品一式、予備弾薬、デイパック、不明支給品×1~2
[思考]:優勝してハン・ペギョンを生き返らせる
1:弾薬は極力温存する
2:正面戦闘は避ける
3:他の参加者を利用して生き残る
4:ムウちゃんは当面利用価値があるため同行する

【榎本睦@みいちゃんと山田さん】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、デイパック、不明支給品×1~3
[思考]:殺し合いはしたくない
1:チャングムと一緒に行動する
2:建物の中を探索したい

【ユン・ヨンノ@宮廷女官チャングムの誓い 死亡】




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最終更新:2026年06月17日 22:48
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