『みいちゃんとエルフさん』
(キャラ)フリーレン、中村実衣子
魔王が倒されてから五十年が経ち、勇者ヒンメルが世を去ってから、もう何年もの歳月が流れた。
ーー私はもっと人間を知ろうと思う。
大陸の北部、死者の魂が眠る地オレオールを目指し、エルフの魔法使いフリーレンが愛弟子であるフェルンと共に新たな旅に出た直後のことだった。
視界が突如として歪み、次に目を開けたときフリーレンは見知らぬ異世界に立っていた。
石と硝子で造られた、見たこともないほど巨大で奇妙な建造物が立ち並ぶ街。上空を仰げば夜空が広がっている。
デイパックにはフリーレンの使用する魔法の杖と未知の魔力で動く硝子の板(スマートフォン)が入っていた。操作するとゲームのルールが表示される。
『制限時間は四十八時間』
『最後の一人になるまで殺し合う。終了時に複数が生存していた場合、首輪は自動的に爆破される』
首元に手をやると、冷たい金属製の首輪が嵌められていた。
フリーレンの膨大な魔力と知識をもってしても、その術式は全く解析できない。
「……うん、無理に外そうとしたら頭が吹き飛ぶね。ヒンメルなら、慌てずに対策を練るだろうな」
フリーレンは眠そうな目を細め静かに歩き出した。
まずは周囲の探索と状況の把握。そして「人間を知る」という目的のため、この理不尽な戦場に放り込まれた他の参加者を探すことにした。
薄暗いセンター街を歩いていると、一軒のガラス張りの無人ファミレスの奥から、微かに泣き声が聞こえてきた。
「山田さん……どこぉ……? みいちゃん、お腹すいたぁ」
床に座り込み、泥のついた派手なピンクのドレスを揺らして泣いている少女がいた。小太りな体型に、酷く乱れた髪。彼女の首にも、同じ金属の首輪が鈍く光っている。
フリーレンは足音を立てずに近づき声をかけた。
「君も、この悪趣味な催しの参加者かい?」
「ひゃうっ!?」
少女――中村実衣子は、大袈裟に飛び上がってフリーレンを見上げた。
「私はフリーレン。君の名前は? 首輪のルールや、その手元にある機械の使い方は理解できた?」
情報を得ようと問いかけたフリーレンだったが、みいちゃんは小刻みに首を振るだけだった。
「わかんない、わかんないもん! 漢字いっぱい書いてあって、みいちゃん読めない! でもバカじゃないもん! みいちゃんバカじゃないもん!」
突如としてかんしゃくを起こし、ファミレスのテーブルをドンドンと両手で叩き始めるみいちゃん。
フリーレンは小さく眉をひそめた。会話が一向に噛み合わない。質問の意図を理解していないだけでなく、感情のコントロールが全く効いていないようだった。
ここはいつ誰に襲われてもおかしくない、命がけの戦場だ。しかしこの少女の様子はどう見ても異常だった。
机を叩いた拍子に、みいちゃんのデイパックから支給品が転がり落ちる。
それは武器でも日用品でもない、遊園地で売っているネズミの耳のカチューシャだった。
それを見た瞬間、みいちゃんはさっきまでの怒りをコロリと忘れ満面の笑みを浮かべた。
「あ! 見て見て、これみいちゃんのたからものなのぉ! 山田さんとの思い出なんだもん!」
少女は嬉しそうにネズミの耳のカチューシャを付ける。
首輪も迫り来る死のタイムリミットも、彼女の頭からは完全に抜け落ちているようだった。脅威に対する恐怖も、生き残るための警戒心も、何一つ持ち合わせていない。圧倒的なまでの危機意識の欠落。
(……この子は普通の人間とは少し違うんだね)
フリーレンは静かに悟った。このまま放置すれば、この少女は最初の数時間すら生き残れない。真っ先に誰かの牙にかかり、その「たからもの」ごと無惨に踏みにじられるだろう。
かつて勇者ヒンメルは言っていた。
ーーでも僕は目の前で困っている人を見捨てるつもりはないよ。
フリーレンは小さくため息をつき杖を握り直した。
「分かったよ。一緒に行こう、みいちゃん。私が君の魔法使いになってあげる」
しかしその決意はすぐに冷酷な現実によって揺るがされることになる。
「あし痛いぉ! ドレス歩きにくい! もう歩きたくないぃぃ!」
ファミレスを出てわずか数分。暗いアスファルトの路上で、みいちゃんは再び地べたに座り込んで泣き喚き始めた。
「静かに、みいちゃん。近くに誰かいるかもしれない」
「やだぁ! お腹すいた! プリン食べたいぃぃ!」
敵の気配を察知したフリーレンが宥めようとしても、みいちゃんは全く指示を聞き入れない。それどころか、大声で叫び散らし、自分たちの位置を周囲に露呈させてしまう。
戦闘能力が皆無であるばかりか、隠密行動すら不可能。意思疎通が成立しないその存在は、このゲームにおいて、あまりにも重すぎる致命的な足手まといだった。
フリーレンの脳裏に、かつて共に旅をした仲間たちの姿が去来する。
圧倒的な強さと優しさで皆を引っ張った、勇者ヒンメル。
寡黙ながらも、己の役割を黙々と全うした、戦士アイゼン。
酒浸りでも、いざという時には優れた魔法を披露した、僧侶ハイター。
フリーレンがこれまで見てきた人間の多くは自らの足で立ち、それぞれの命の灯火を輝かせ、気高く生きようとする美しい存在だった。
だが目の前でただ感情のままに地べたで泣き喚くみいちゃんの姿は――フリーレンが知る人間とは、あまりにもかけ離れていた。
人間を知りたい。そう願って一歩を踏み出したばかりのエルフの胸に夜の渋谷の冷たい風が吹き抜ける。
意思疎通すらままならない、あまりにも脆く、不完全で、不器用な人間の弱さの極致。
それを前にしたフリーレンの胸の奥に、無意識のうちに人間に向けた純粋な期待への――ほんの僅かな失望が静かに芽生えていた。
【フリーレン@葬送のフリーレン】
[状態]:健康、人間に僅かな失望
[装備]:魔法の杖
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~2
[思考]:みいちゃんを保護しつつ、この理不尽なゲームの打破を目指す。
1:みいちゃんを安全な場所に退避させ泣き止ませる。
2:殺し合いに乗った参加者を警戒する。
3:48時間は一瞬だが、この不器用な少女の命をここで終わらせたくはない。
【中村実衣子@みいちゃんと山田さん】
[状態]:疲労、かんしゃく、危機意識皆無
[装備]:キャバクラのドレス、ネズミの耳のカチューシャ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~2
[思考]:山田さんに会いたい。お腹が空いた。
1:足が痛くて歩きたくない。プリンが食べたい。
2:漢字が読めないから、スマホの画面に何が書いてあるか分からない。
3:今はフリーレンと一緒にいる。
最終更新:2026年06月23日 20:17