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『南極の風』


(キャラ)鬼道有人、深山大翔、明智健吾、ニカイドウ




………
……


 キャプテンマークを外したからといって、オレは司令塔まで辞めた覚えはない。
帝国学園ではオレが背負っていた責任も、今は円堂の胸元。
あいつなら任せられる──そう信じているからこそ、ゴーグル越しの視界を迷いなく向けられるんだ。
……もっとも、肩の荷が少し軽くなったのは否定しないがな。

だが、それでオレのキャプテンシーまで失われたと思うなら、それは大間違いだ。
ミッドフィルダーはチームの心臓。
攻撃と守備、その境界を絶えず走り続け、戦況を読み、仲間を動かし、試合を組み立てる。
全てを俯瞰し、最善手を選び続ける。
それが、オレの司令塔としてのプライドだった。

オレはこれまで、どんな試合でもその役目を果たしてきた。
……少なくとも、知略の勝負で誰かに遅れを取るなどということは──一度たりとも想定すらしていなかった。


……あぁ。血生臭い話に戻すな、と思うならそれで結構。
オレが話すのは、この悪趣味なゲーム──開始のホイッスルが鳴る前。


全ては、あのルール説明で起きた『たった一つ』のイレギュラーから始まったんだ。





 ミニブタを飼ってるわけでもないのに、……『命の授業』。
……まったく、動いている掛け時計に説教されるほど滑稽な話もない。

薄暗い教室の空気。
耳障りに響く黒板のチョーク音。
教科書を片手に、淡々とルールを書き連ねていく森口の女教師に……オレはあの時、ただ絶句するしかなかった。

なにせ「最後の一人まで殺し合え」。
なにせ「優勝した者にはどんな願いでも叶えてやる」。
拍子抜けするほど単純で、それでいて救いようがないゲームだ。
寝てる間に搔っ攫われた以上、ロクなことにはならない感じはひしひししていたが……流石に範疇外すぎる。
『春奈と眼鏡パフェを五軒はしご~~♪』──……だなんて、のんきな夢の余韻もなにもない。
涎を拭ったオレは、ただ激しい怒りだけに支配されていた。

その怒りは、
──オレと同じように連れて来られた『人間』が何十人もいることや、
──壁一面に並んだ『遺影』に気付く事に。
……それなりの時間を要するほどにな。


 ……泥臭いことを言うようだけどもな、オレには、一つだけ譲れない考えがある。
サッカーとは、正々堂々と勝敗を競い合うものだ。
試合になれば、挑発してくる相手もいる。勝利のためにラフプレーを仕掛けてくる連中だって珍しくはない。
だが、それでもオレは絶対に拳を振るわない。
「オレたちは、サッカーをしに来たんだ」……と。
相手の歪んで燃え滾る熱意を、勝敗で冷ましてやるのがオレの流儀だった。

それが、なんだ?
この状況は、一体何なんだ?

サッカーをやれと言うなら、まだ話は分かる。
だが、殺し合いだと?
つまりあの森口という女は、オレをサッカー選手として呼んだわけじゃない。
この狂ったゲームを成立させるための、ただの『戦力』として拉致したんだ。
“『ツインブースト』を、ゴールネットではなく、生身の人間の胸へ叩き込め”
……そう言うようにな。

カリカリ……、カッ、カッ。
──あぁ、言ってはいない。
──死んだような目で、ただ業務をこなすようにチョークを走らせてな。


 …………オレは限界だった。
熱き想いとかそういうんじゃない。

森口のあの血の通わない無表情にも。
まるで当然の権利のように説明を聞き入れている、周囲の生徒連中にも。
微動だにしない自分のマントにも。
……そして、人差し指の爪を食い込ませることしかできない、自分自身にも。
理性のキャパシティを超える怒りだけが、ふつふつと込み上げていた。

あいにく机の上には、申し訳程度の筆記用具しか残されていなかったが……そんなことは関係ない。
問答無用の理不尽には、こちらも問答無用で返すのがオレのやり方だ。武器などそれで十分すぎる。
オレは手元にあった小さな消しゴム一つを、天高く放り投げ。
その最高到達点を、あのゲスな教師へ目掛けて蹴り飛ばすつもりだった──。


「……ッ、……クッ!!!」



そうさ。
──あくまで、『つもり』だったんだ。



「あ、ちょっと待って待って。ゴーグル少年!」

「…………んっ?!」


 ……消しゴムがただポトリ、と。

虚しく机に着地したのは吉だったのか、凶だったのかも分からない。
声の主は小声だった。
まるで授業中に落とした消しゴムを拾ってやるかのような気軽さの──『隣の席の男』。
ソイツは平然とした手つきで、パンにバターピーナッツを塗ると。


「一応、僕はこういう者で~……あ、いいや。そのへんは後で」

「……ッ。……悪いけど止めないでくれ。たとえ死ぬとしても、こんなものの過程で魂を埋める気が──」

「あー、違う違う。そこじゃなくて」

「は?」

「僕さぁ、一個だけあのセンセェ~に聞いてみたいことがあって。……あ、君も気にならない?」

「なんだ…………?」



「……フフッ。『何でも願いを叶える』の"何でも"ってさ──」 「──……そこ、定義ガバガバじゃない?」



口いっぱいに頬張ったパンを紅茶花伝で流し込み。
そして、いたずらを思いついた子供みたいに口元だけを緩めた。



「ほらほら。リモート参加の人たちもさ、『よくぞ言ってくれた! グレート・ムタ!』って拍手してるよ。……ぶふっ」

「………………はぁ?」

「『コロシアイは、モウシナイ!』……っ、あははっ! ダメだこれ。絶対あとで誰かパクるやつ。DJ松永さんとか! ……ふふっ!!」


「…………」


 ……オレは、この風変わりな大人の素性を何も知らない。
ただ、いま確実に一つだけ理解できたことがあるとすれば。
この緊迫した空気の中でも、平然と一人で『サムい』ジョークを飛ばせる、ひどくマイペースな男だということだ。

胸元で光る、金色のバッジ。
皺ひとつない、仕立ての良さそうな青いスーツ。
背中には薄いビジネスバッグ。

……根拠と呼べるものはそれだけだったが、それでもオレは、心の中で勝手に呼ぶことにした。
──『怪しい弁護士』。

その怪しい弁護士は、壁一面に並ぶ遺影。
……いや、『リモート越しに説明を受けさせられている参加者たち』を眺めながら、また呑気に口を開く。


「これさぁ、黙ってルール聞けなさそうな人たちは、みんなリモート送りなんだろうねぇ」

「…………」

「だってさ、この場にいたら説明終わる前に誰か殴るでしょ。暴力で」

「……それは、否定できないね」

「でしょ?」


男は、手元のパンをもう一口かじる。


「だから不思議なんだよねぇ」

「何がだ」

「いないんだよ」

「……?」

「リモートには佐田先生もいないし、立花先生もいない。オカダ・カズチカさんも(笑)、内藤哲也さんも(爆笑)」

「…………一体、誰の話をしてるんだよ?」

「あ、でも怖い人しかリモートされてないからバランスは取れてるのかなぁ~? 一応。ギリ。ギリギリ」


紅茶花伝を一口。
そして、また思いついたように、壁一面の顔写真を見回して笑った。


「ここさ、教室っていうより、もう校長室だよね。ほら、歴代の校長先生が~~──」

「あぁもういい! 頼むから話を戻してくれ、話を!」

「話? あぁ~、願いの定義の話ね」

「…………な、なんなんだ……」


 ……少し詩的に言うなら。
このヒソヒソ話を経て、オレはどこからともなくペンギンが一羽、教室へ迷い込んできたような気分だった。
寒い。この弁護士は寒い。……ペンギンが寄ってくるのも無理はない。
コイツは、自分の頭に浮かんだ思いつきをそのまま口にしては、満足そうにニヤニヤと笑っているんだ。
……冗談じゃないだろ。二重の意味で。
仮に、オレでなく豪炎寺が絡まれたのなら、それはもう焔のシャーベットの完成。
テレビでしか見ないアイス天ぷらを、春奈に食わせてやりたいと思うほどだった。


「『何でも願い叶える』って、僕、完全にBPO案件だと思うんだよねぇ。審議入り、審議入り」

「……何が言いたいんだよ?」

「例えば君。無理そうな願い、一個言ってみてよ」

「は? …………百億円」

「うん。十五点」

「低いのか高いのか分からない!」

「十五点満点中ね」

「フォローになってないんだよ!」

「でもさ、考えてもみてよ。例えば『全人類の名字を佐藤にしてください』とか『地球を三センチだけ左にずらしてください』とかさぁ。……あの先生、そんな願い絶対に叶えないでしょ?」

「……はぁ?」

「じゃあさ、じゃあさ!『森口先生、あなたを一生幸せにさせてください』って願ったらどうなる? ……嵐のLove so sweetとか流れ始める? 絶対ならないよね?」

「…………」

「だから"何でも"じゃないんだよ。最初から」


 ほら、この通りだ。
オレの裾引っ張ってつまらないことを言ったかと思えば、パンをヌリヌリ。
食パンですらない。フランスパンだ。
オレが何か返すたび、両手でゴーグルをくるくる回すような意味不明なジェスチャーまでしてくる。
……まったく、常識をどこかへ置いてきたような男だ。
こんなのが世界大会の主審でもやっていたら、一試合でイエローカードが底を突くに違いない。
オレは呆れ果て、もう相手にするのも馬鹿馬鹿しくなって、頬杖をつきながら窓の外へ視線を投げた。


「もういい。……もう分かったから、黙って大人しくランチパックでも食べていてくれ」

「あ、塩対応。じゃあ最後に一つ。……いや二つ。……あ、やっぱ数は約束しないや。BPO怖いし」

「……勝手に言っていろ。オレはもう……はぁ、──」


「────あ……」


──そして、この時やっと思い出した。
──つい数分前までのオレが、怒りに身を任せて森口を攻撃しようとしていたことを。


「…………」

「フハハ……!」


 ……まるで、
『怒りに振り回されるのは、お前らしくない』──そう、背中を叩かれた錯覚を覚えた。

……いや。
そんなこと、この男は一言も言っていない。

当の本人は何食わぬ顔でニヤニヤしながら、黒板へ書かれたルールを指差した。


「ルール自体はさぁ……正直、穴なんてないんだよね」

「…………」

「首輪。島。脱出手段なし。帰りの便、全部あの先生頼み。──」


「──だけどさ。本当に怖いのは、殺人そのものじゃない。『疑心暗鬼』ってわけ」

「……疑心暗鬼?」

「そう」


男の長い人差し指が、壁一面の顔写真をグルっと楽しげになぞる。


「ほら。そこに映ってるリモート参加の皆さん」

「…………」

「ゲームが始まったらさ、──」


泳いでいた指先が、今度は不意に教室の中へと戻ってくる。


「──今この場にいる参加者たちを、『この人ら側』にしちゃいけない」

「……な! お前、それは……っ」

「主催者が一番困るのってさ、ゲームを壊されることじゃないんだよ」


一拍のタメを置いて、最後はまっすぐ。
男の指先は、正確にオレの鼻先を差した。


「『ゲームが進まない』ことなんだ」

「……進まない……?」

「そう。教室にいる皆でスクラム組んでグダグダしてたら、……僕が主催者なら、痺れを切らして『何か』しちゃうよねぇって話。──」



「──その『何か』を引き出せたら、ゲームを崩す糸口になる」


「…………。……打破……っ」



そして、自分の耳を静かに掻いた。


……勿論、この男はオレが何なのかを知らない。
もしかしたら、ただの子供を相手に、退屈しのぎで勝手気ままに喋っていただけなのかもしれない。
いや、それが真理だろう。
この風変わりな弁護士に、オレを導こうなどという大層な意図は、微塵も感じられなかった。


──それでも、一連は『司令塔としてのヒント』なのだと。
──……柄じゃないが、オレは思いたい。


「っで!! それを今から森口先生に直接聞いたら、やっぱ“ぐぬぬ”とか言って顔真っ赤にするかな~って。はい、試そうって話!!! はい、これ結論!!!」

「は? はぁ?! おい、待て、お前何をする気だ──」

「せんせぇ~~! 質問でぇぇぇぇぇぇ~~~~~~────」



 ────ッ、
   ──。


……以上が、絶望的な説明の時間に、平然と手を挙げた──ヤバい男の真相なんだ。


………
……




「……というわけなんだ。春奈が笑えばオレも甘い物を食べる。春奈に男が近づけば、少林サッカー開幕。兄というのはなかなか忙しい役回りでな……」

「ハハハ。Sister Complex。……そのくらいで勘弁してあげてください」

「……明智刑事。英検なんて持ってなくても、その単語くらい分かるぞ」

「それは失礼しました。──では改めましてほどほどに、鬼道有人くん」

「……フゥッ」



 建物の二階。
狭いバーの片隅で、オレは明智健吾という刑事と、互いの情報と推理を一通り交換し終えていた。
オレの前にはストレートのトマトジュース。
明智刑事の前には、砂糖も入っていないビターココア。
「酒でも飲めば?」そう勧めてみたが、あいにく『職務中』とのこと。
それだけで信用に値するとは言わないが、さしずめ彼は『監督』のポジションに収まってもいいだろう。
意気投合し、どうでもいい情報交換に至るころには、もう二時を指していた。


「じゃあ明智刑事、そろそろ──」

「ええ。仲間集めを、ですね。……釘を刺しておきますが、鬼道くんはできるだけ後方で全体を見ていてくださいよ」

「……従わない理由はないさ」

「うん、それがいい。行きましょう」


明智刑事はそう、満足気に頷きメガネの淵をかけ直した。


「……」


……サッカーというのは、紳士のスポーツだ。
だからこそ監督はスーツを纏って威厳を保ち、選手は互いのプライドを尊重し合いながら、それでも勝つために全力を尽くして走る。

もっとも、紳士だからといって決して怒らないわけじゃない。
怒るべき時は、理性の炎を燃やして徹底的に怒る。それもまた、勝利への執念だ。

オレは雷門中のイレブンとして、このゲームにレッドカードを突きつける。
春奈の眼鏡を、また拭ける日を信じて。
静かに、反撃開始の狼煙をあげることにした──。



「……そうだ、鬼道くん」

「ん?」

「その弁護士さん……でしたっけ」

「……よせよ。ただの与太話だ。忘れてくれ」


「案外、君が思っているより近くにいるのかもしれませんよ」

「…………」

「そういう人は、不思議とまた会うものです」



……敢えてだな。

明智の言葉には、オレは敢えて返さなかった。
なにせさっき、何となく試しに指笛を鳴らしてみたんだ。


この妙な寒気は、きっと……飛び出してきたペンギンによるものに違いない────。






「いただキーマカレー!」

「それは餃子だ……」






【日本の刑事裁判における有罪率は、99.9%】
【一度、被告人となれば、その運命はほぼ決まる】
【──だが、残された0.1%には、まだ真実が眠っている】

【これは、その0.1%を追い続ける、一人の弁護士の物語】



【一階/中華料理屋】
【深山大翔@99.9-刑事専門弁護士-】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:マイ調味料セット、不明支給品×1~3
[思考]:0.1%の事実の追求、および被疑者の弁護。
1:この殺し合いの最大の問題点は、システムが人を『疑心暗鬼』にさせること。
2:一度でも犯人扱いされた人間は、無実の証明ができないまま集団の悪意に晒される。
3:その疑念が本当に『事実』なのか、徹底的に突き止める。冤罪による殺し合いの火種を消すことこそが、僕の仕事だ。
4:いただき松たか子!(笑)
5:マンダンダのおなかはマンタンだ。(笑)

【ニカイドウ@ドロヘドロ】
[状態]:健康
[装備]:ギョウザ調理器具、大包丁
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:殺し合い。……そう簡単に乗る私じゃないな。
1:アスなら何か分かるかもしれない。一旦情報収集。
2:とにかく今はギョウザを焼く。この匂いにつられて、カイマンがひょっこり現れるかもしれないし。
3:……なんだ、この変な弁護士。おい、ギョウザに変な調味料かけるな!!


【二階/バー】
【鬼道有人@イナズマイレブン】
[状態]:健康
[装備]:サッカーボール
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:司令塔として、このゲームを終わらせる。
1:明智刑事と行動。……だが、あの人もなかなか嫌味な大人だ。
2:仲間を集め、主催者への対抗策を組み立てる。
3:円堂……あいつなら、たとえどんな絶望的な戦況だろうと、絶対に諦めずに前を向いているはずだ。
4:……待っていてくれ、春奈。

【明智健吾@金田一少年の事件簿】
[状態]:健康
[装備]:サッカーボール
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:首謀者を逮捕する。
1:一般参加者の生命の保護を最優先。
2:戦術眼に優れた鬼道くんとは、非常に合理的で有意義な協力関係が築けそうです。
3:……しかし、さすがにこの時間帯は少々、睡魔が襲ってきますね。






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最終更新:2026年06月28日 20:48