魔法教本



第一の書:魔法概論


第一の書

魔法概論

500年以上の間、私は魔法について研究してきた。さらなる知識への欲望が枯れることはないが、同時にこの神秘の力に隠された全ての謎を解き明かすには、たとえ不死者となっても十分ではないだろうという自覚を失っているわけでもない。

1.エッセンス

この世界における全ての魔法は、魔力のエッセンスから生まれる。この不思議な力は魔法の全てであり、どこかに留まることはなく、採取したり説明したりすることもできない。この世界の全ての種族は、何らかの形でこのエッセンスを利用している。コボルト族のより原始的なシャーマンの呪文から、ハイエルフの魔法による複雑な詠唱まで、意識的・無意識的を問わず、この世界のあらゆる生命体がこのエッセンスを利用していると言える。

多くの文化において、魔法は数多くの分野、領域に細分化されてきた。最も幅広く行われた研究でも、この種の分類を使用している。よって、我々は火の魔法、氷の魔法、召喚魔法といった用語を使用し、最近では毒の魔法すら一分野として認識されている。もちろん、こういった細分化というものは、分類できるものの次元を遙かに超越したものを分類しようとする、あさはかな試みであるということは誰しもがよく理解している。こういった分類は、エッセンスをまったく新しい呪文に変換しようとするときの障害にさえなりうるのだ。

エッセンスはアンカリアの至る所に存在するが、その存在の強弱は地域によって異なる。その理由について説明できるものはいないが、この現象は俗に「エッセンスの蓄積」と「エッセンスの分散」と呼ばれている。もしエッセンスが蓄積した場所に魔法使いがいる場合、エッセンスが分散した場所にいる時よりも、求める結果を実現するために必要な変換エネルギーの量は極めて少なくてすむだろう。エッセンスが全く存在しない場所は発見されたことがないが、古来よりドラゴンはそういった場所を知っていると噂されている(そのため、ドラゴンはアンカリアに移り住んだのだといわれている)。私の数十年にわたる研究の中では、それらの仮説を証明することはできなかった。

2.変換

魔法の呪文について研究し、探求するのは魔法の真の本質ではない。魔法の本質とは、術者の意思どおりにエッセンスを利用し、それを他の力に変換することである。もちろん、これは容易なことではない。この才能を与えられるのは少数の人々だけで、多くの人はエッセンスに干渉する能力を有さない。とある調査によると、3000人のハイエルフのうち一人しかその能力を持っていなかったという。この能力を有するものは、思い通りに効率的に魔力を行使できるようになるまで、長く険しい道のりを経なければいけない。
魔法とは、二つの力が完璧に融合したときに初めて成立する。エッセンスと、術者個人の力である。これ以外に魔法を生み出す方法はない!

それでもやはり、この異端の方法を用いて実現できないことは存在する。エッセンスと変換の才能を単に組み合わせるだけでは、触れることのできない領域が常に存在するのだ。その最たる例が屍術だろう。屍術を用いて比較的労せずに死者を再生することは可能だが、それでも魔法を使って新たなる生命体を作り出すことは不可能である。エッセンスを用いるということは、何らかの状態を変化させることを常に意味する。デラニエルはこの要因を自らの研究「魔法体系」において(旧暦974年)、「再構築の真理」と呼んでいる。

3.魔法体系

「魔法を分類するという考えの、なんと滑稽なことか。このような概念にすがる人々の、なんと愚かなことか。必ず誤りに結びつくこの愚直さの、なんと嘆かわしいことか。」

大デラニエル

「魔法体系」が、魔法に関する最も幅広い研究であることに間違いはない。その著者である大デラニエルは、全ての既知の魔法種類を記した体系的な一覧を作成した。彼の研究の根幹部分を成すのが、あらゆる魔法の原理のまとめである。
「魔法体系」が書かれてから1200年以上の年月が流れたが、その内容は変わらず今でも有用だ。デラニエルは、魔法とは細分化して推論するべきものではなく、区分とはその使用者が作り出した虚像でしかないことを認識した最初の研究者だった。当時、この考えは革新的であった。



第二の書:火の魔法


第二の書

火の魔法

「火の弾がまるで隕石のように戦場を駆け回り、その場にあったもの全てを焼き尽くした。炎の渦と爆発のまばゆい光が、夜の空を照らし出すかのように友軍の視力を奪った、それでも私は剣を振り続けたが、私の剣が切り裂くものは、黒焦げになった肉だけだった。」
アン・アタイルの戦いの記録より

火の破壊力は古代から知られている。火は効果的に、かつ迅速に対象の命を奪う。そのため、火の魔道書が破壊の呪文ばかりになるのは当然である。

火の魔法の最も基礎たる部分は、対象を熱することである。対象のエーテル体をエネルギーに変換するのだ。このプロセスは非常に単純明快なため、非常に高温に到達させることも可能である。この種の火の魔法は無生物にしか使用できないが、その用途は様々である。一説によると、ドワーフが鍛えたという有名な合金は、その合金を作成するには自然界の火が達する温度では不十分のため、強力な火の魔法を使って作ったといわれている。

開かれた空間に火を起こし、集中させるのはより困難で、多くの経験を必要とする。この段階に到達できれば、詠唱者は火のエネルギーを安定・維持し、狭い空間にそのエネルギーを対象に当たるまで閉じ込め、当たった際にそのエネルギーを放出させることができる。火の弾は魔力で加速され、俗に「ファイアーボール」と呼ばれる恐ろしい魔法となる。

「初めてファイアーボールの詠唱に成功したときは、その準備に30分を要した。なんとかエネルギーを集めてそれを私の前にあった石像に当てようとしたとき、一瞬力が抜けて、その結果ファイアーボールは反対の窓に向かって飛んでいった。そして我が師の胸をかすめ、その髭を焦がした。それだけで済んだことについては神に感謝するが、師には結局最後まで許してはもらえなかった。」
アークメイジジャックマートの自伝より

火の魔法で最も複雑なのは、あらゆる知識を組み合わせて、自身の意思で動いたり召喚者の命令に従ったりする、火の化身を召喚することである。火の魔法では、火の精霊を生み出したり、ファイアーデーモンといった悪魔を呼び出したりすることができる。とても力の強い熟練の魔道士だけが召喚魔法を使うことができ、呼び出したものを操ることができる。しかし、多くの魔道士が召喚魔法の魅力に負け、未熟な魔法を行使したためにその命を落としている。数世紀にわたる研究を経ても、火の魔法にはいまだ謎が残されている。その破壊力をより強力にするための可能性は常に研究され、いまや火の魔法は、組織化された軍隊が戦争や攻城戦で使用する欠かせない魔法となっている。

しかしながら、ドラゴンが吐く強力な炎に耐えることができたものは一人もいない。ドラゴンのファイアーブレスは、火の魔法の中でも最上級の破壊力を持っている。多くの魔道士が、ファイアーブレスに秘められた謎を解き明かすためにドラゴンを研究しようとしたが、今のところそれらの努力が実を結んだ例はない。

「私が詠唱しているさなか、古のドラゴンは、退屈とも好奇心とも取れる表情で私を見つめていた。私は火の柱を岩に向かって放ち、その反動で倒れそうになった。火は岩を真っ二つにした。
『どうかね?私の魔法は』と私は聞いた。
ドラゴンは二つに割れた岩を一見し、私を見つめたかと思うと、再度岩に目をやった。ドラゴンは頭を少し動かし、か細い光線を岩に向かって放つと、岩は一瞬にして溶けて小さな溶岩の池ができた。
『火を使えば、確かに物事が簡単になるものだ』とドラゴンは言い、飛び去った。」
大トルクス 「パイロテクニカ・アルカナ」より


第三の書:氷の魔法


第三の書

氷の魔法

「ですが我が師、火を使えば敵を焼き殺すことができるのに、なぜ氷の呪文を習得するために修行をしなければならないのですか?」
「火に抵抗力のある鎧、氷のエッセンスの有効的な活用法、特定の魔法生物に対する特殊効果など、その理由は数え切れないほどある。だが、まず考えてみてごらん。焼け焦げたオークの臭いを嗅いだことがあるだろう?」
ラグノイルとその弟子との会話

氷の魔法の破壊力は火の魔法に勝るとも劣らないが、多くの人々が火の魔法と比べて氷の魔法を過小評価する。その理由はおそらく、多くの生き物にとって火が本質的に恐ろしいものであるのに対し、氷は一定の不快感を与えることはあっても、極めて危険なものとは認識されないからだろう。これはある意味で正しいが、もし一度でも熟練の氷の魔道士が戦場で活躍するのを見れば、すぐに考えを改めたくなるだろう。もし不運にもあなた自身が氷の魔道士の強大な力をその身に受ける立場であるなら、考えを改める機会は訪れないだろうが。
氷の魔法の破壊力は、氷が取りうる形の多様性に大きく支えられている。あらゆる鎧のすき間や割れ目、縫い目を貫通させることができるというわけだ。魔法の冷気はあらゆる生物の動きを鈍らせ、さらには死に至らしめる。

戦場では、その戦場全体に影響する氷の呪文が最も恐ろしい。さらに、氷の破片は敵を追い詰めるのに最適である。氷の破片は敵にするどい傷を負わすことができるし、魔法の氷は金属に対して極めて効果的だ。

「朝日のうっすらとした光が戦場に芸術的な影を落としこんだ時、早朝の霧はまだ完全に晴れていなかった。オークは盾を並べた密集陣形を取っていた。オークにしては珍しい規律ある絵だ。東の空から雨雲が近づき、オークの軍団が移動を開始した時、雨の最初の一粒がオークのとがった鎧に降り注いだ。
オークは我が軍を数で圧倒していたが、我々は有利な丘の上に陣形を組んでその攻撃を待ち構えた。雨に気づいた私は、我が軍の魔道士を呼び、散開するよう命じた。ついに角笛が鳴らされ、オークの総攻撃が始まった。全魔道士は同時に魔法を詠唱し、呼び起こされた荒々しいブリザードがオークに向かって吹き荒れた。オークの鎧についた雨水が一瞬にして凍り付き、戦闘が始まる前に決着がついてしまった。オークはまるで嵐の中の稲穂のように倒れていった。我々は一人の戦士も失うことはなかったが、オーク側の被害は甚大だった。第一波を生き延びたオークも、全身に凍傷を負い、その多くが目をやられて視力を失った。今までこんなに容易く戦闘に勝利したことはなく、今まで敵にこれだけの被害が出るのを見たこともなかった。我が帝国のこの勝利は、ひとえに氷の魔法に拠るものであった。炎の魔道士の部隊では、決して同じような結果は得られなかっただろう。」
ハイエルフの将軍ケリラシアンの自伝より

氷の魔法は、火に耐性がある魔物や、火を全く受け付けないドラゴン、ファイアーデーモン、溶岩のゴーレムのような魔物に対して特に有効である。火ではこのような魔物を傷つけることはできないが、冷気であれば甚大なるダメージを与えることができる。



第四の書:毒の魔法


第四の書

毒の魔法

「気分はどうだ?」
「最高さ!ちょっと舌がしびれるけど・・・ひでぶっ」(断末魔の叫び)
「まずまずの結果だ。死体を処分して次の実験体を持ってこい。」
新しい物質の実験を行うバルマックの研究書より

毒を生成する知識と、その効果に関する研究は、魔法の中でも最も古い研究分野の一つと言えよう。その研究は、単に物質を混ぜ合わせるだけに終わるものではない。駆け出しの毒使いでも、植物、クリスタル、その他の材料から何らかの毒を作ることができるが、毒を様々な状態に変形させ、対象に毒を盛る方法を生み出すことにある。また、解毒剤の研究もこの魔法の範疇にある。

毒の魔法の歴史的な起源は定かではない。竜戦争の時代の古い記録が伝える限り、当時から魔道士は毒の魔法の研究を進めていたという。毒の魔法に関する基礎的かつ古典的な研究の一つが「アルカナ・アルシミカ」である。この本はアークメイジトリンシルによって78年頃に書かれ、初めて全ての毒が種類ごとに分類され、毒に関連する魔法の効果が記述された。ここで行われた分類は今でも使用されているが、毒の魔法はそれから多大なる進化を遂げている。それでも、修練者から「ザ・トリンシル」という愛称で呼ばれているこの本は、国中のアカデミーで毒の魔法の教本として使用されている。

毒の魔法の潜在性は無限大だ。単に毒を作り出すものから、致命的な毒の霧をまき散らす複雑な罠を作り出すものまで、様々な魔法が存在する。

国中のアカデミーで科目として講義されているにも関わらず、毒の魔法から邪悪なる印象はぬぐい去れない。どこかおかしな味がする魔法といえよう・・・これは冗談だが。人々はよく毒の魔法を、大臣を暗殺する政略的な陰謀、もしくはライバルをけ落とすための手段と関連付けてイメージすることが多い。実際に、毒は誰かをひっそりと葬り去りたい場合に最良の手段であり、毒の魔法の印象が悪いのも頷ける。もちろん、これは我々の単なる妄想の域を出ることはない。我々のアカデミーで教えられている毒の魔法に限って言えば、正式な魔法の一分野として認知されるまで長い年月が必要だったとはいえ、いまや立派な魔法学の一分野である。毒の魔法がアカデミーの科目となるまで、長く白熱した議論と交渉が積み重ねられてきたという。毒の魔法に特に強く反対していたのはアークメイジゴタンで、彼は何かに取り憑かれたかのように毒の魔法を毛嫌いしていたという。

「机の上に混ぜ合わせるための粉末と、すりつぶすためのハーブを置き、くだらない調合法をつぶやいて、奴らはそれを魔法だと呼んでいる。こんなものが魔法だと!?実験結果の15分間、部屋にはその悪臭が充満しとったわ。運悪く実験棟の屋根の上を飛んだ鳥が落ちて死ぬくらいまでな!この国には、ヤツらが毎日実験できるほど犯罪者はおらん!あまつさえあの素人どもは、自身のペテンを崇高なる魔法と呼べという神経を持ち合わせておる!あのイカサマ魔道士ども、まともな呪文一つさえ唱えられんくせに!もしヤツらえせ魔道士がアカデミーに認められるというのであれば、儂はその瞬間にアカデミーを辞めるぞ。」
毒の魔法についてのゴタンの言

「気の済むまで言うといい。そのような考えは既に数世紀にわたってたまった塵と蜘蛛の巣に埋もれており、この世界に対する貴殿の視点は火の魔法と同じくらい退屈で素朴のようだ。それでも、貴殿の言には感銘を受けたぞ!貴殿は私が一週間に生成できる量の毒を、わずか一度のスピーチでまき散らすことができるらしい。解毒剤としてパセリを処方しよう。耳に詰めるだけでよいぞ。」
バルマックからゴタンへの返答


第五の書:T-エネルギー


第五の書

T-エネルギー

「それは何だい?」
「T-エネルギーだよ」
「それが何をするってんだ?」
「青く光るのさ」

アンカリアには二種類のエネルギーが止めどなく流れている。それらのエネルギーは一見すると似通っているが、本質的には完全に異なるものと言ってよい。T-エネルギーとエッセンスと呼ばれる二種類のエネルギーは、火と水のようなものである。T-エネルギーは純粋な破壊の力だ。野火のように、一旦放たれるとあらゆるものを焼き尽くす。エッセンスは逆に静かでうねりのような力で、その力を最大限に発揮するには触媒が必要となる。

T-エネルギーはエッセンスより遙かにコントロールが難しい。魔法をマスターするのに必要なのはエッセンスのチャネリングだけだが、T-エネルギーは、使用する前にまず抑制する必要がある。長きにわたり、T-エネルギーとエッセンスを組み合わせて使用する呪文は存在しえないと信じられてきた。T-エネルギーと活性化したエッセンスが出会うときに一体何が起こるのか、様々な理論が提唱された。中には大陸の爆発を予測するものから、現世の構造が変化し時間に穴が開くという終末的な推測を立てるものもいた。学者の想像力には限界がないが、誰もが同意したのは、T-エネルギーとエッセンスを組み合わせると破滅的な事象が引き起こされるという点だった。しかし研究は進み、遂にT-エネルギーとエッセンスを合成することに成功した!破滅を予測する推論は影を潜め、二つのエネルギーの流れを組み合わせることによって得られる利益を研究する時代が訪れる。

だがしかし、極端といわれたこれらの悲観論も、少しばかりの真実を含んでいたことが明らかになった。インペリアル・アカデミーにおいて、T-エネルギーに関する研究が凄惨な災害を呼び起こした。アンカリアで未だかつて起こったことのない災害だった。実験は制御できなくなり、未曾有の事故はアカデミーを震撼させた。予測していなかった事故は、さらに混沌と破滅に伝播した。ラニシアインにあったアカデミーは四度も再建された。少なくとも八人の高名な魔法の予言者が、純粋なT-エネルギーに晒された瞬間にその場で死ぬか、「らりるれろ」くらいしか喋ることのできないおぞましい生き物に変化した。やがてT-エネルギーの研究には限られた研究者しか携わることができないようになり、研究の規模を小さくしてより安全な施設で細々と続けられた。

グレヌイルⅣ世の時代になると、人々や都市への被害を最小限に抑えるため、T-エネルギーの研究はすべての都市近隣のアカデミーで禁止されるようになり、地方へと移行された。多くの研究所が人の住んでいない地域に建てらてた。この決断は地方の人々の反乱を招くものとなってしまった。中には、研究所の門に自分たちの体を縛り付けて、T-エネルギーの移送を阻止しようとする農民まで現れた。こういった暴動はすぐに鎮圧された。
42年、今では名高い研究者である魔道士ラノピスが、T-エネルギーの研究に転換点をもたらした。少量のT-エネルギーを変換し、安全にチャネリングする方法を見つけ出したのだ。死んだ蛙を少しの間だけ生き返らせる程度のエネルギーだったが、これは大きな発見だった。ラノピスはさらに研究を重ね、続く年、ついにT-エネルギーを用いてあらゆる魔法の力を強化することが可能となった。これは世紀の大発見だった。今まで疑いの目でしか見られなかったT-エネルギーが、魔法界で一躍注目を浴びるようになった。国中のアカデミーに新しい研究プログラムが設置され、T-エネルギー用の新しい器具も開発された。書記官や書写官は膨大な文書や論文に埋もれることとなった。

200年にわたる科学的な研究の結果、T-エネルギーは強力な魔法に匹敵するだけの力を十分に付け、エッセンスの代わりの選択肢として真剣に検討されるようになった。


第六の書:禁呪


第六の書

禁呪

40年以上の間、私は禁呪の研究にその身を捧げてきた。もちろん、アカデミーの要請のもとに、公に研究してきたのである、来る日も来る日も暗黒の魔法と対峙し、暗黒の魔方陣の中で不愉快な儀式や怪物を研究したり、気色の悪いものを扱ったりし続けるのは、容易なことではない。

禁呪について書かれた書物は少ない。図書館で見つけることができる論文といえば、不十分なものや、推測や机上の空論に基づいたものくらいである。これは禁呪が・・・禁じられた呪文であることを考えれば、無理からぬことである。公に存在しないものをどうやって研究できようか?私が研究を開始したとき、まさに同じ問題に直面した。だが、そこは付与された特権を活かし、数々の極秘文書を閲覧することができた。もしそういった特権がなければ、本書は存在しえなかっただろう。本書は万人の読者に向いた本ではないが、本書の読者には禁呪に関する一定の知識と理解を提供できればと思う。これ以上の前置きはなしにして、読者の皆様を暗黒の領域にご招待しよう。

禁呪に最も近く、最も無害な魔法といえば、呪術である。一見すると、この種の魔法はそこまで恐ろしくは感じないかもしれない。しかしそれは間違いである。呪いとは時に極めて危険で、それを解くことは不可能に近い。

この世には屍術師と呼ばれる人たちがいる。あらゆる物事を死に直結させ、死者を甦らせる、冥府魔道を歩むものたちだ。彼らは手段を選ばず、死者の肉体を操り、死に際の生者を魂のない人形に変える。腐敗し始めた死体は、その肉体の機能が当の昔に停止したにも関わらず、目的もなしに夜をさまよう。腐敗が進行すればするほど、厄介なモンスターとなる。スケルトンでさえ、屍術師の手にかかれば再生される。自分がどこに向かっているかも見えないのに辺りをさまよい(目玉がないのだから当然だろう)、近づくもの全てを攻撃する。熟練の屍術師なら、死者の軍隊を作り出すことも可能である。恐怖を感じない魂のない戦士の軍団は恐ろしいが、非人道的に非衛生的だ。

悲しいことに、これだけでは屍術師が満たされることはない。最も忌むべき事件としては、ある屍術師が複数の死体の部位をつなぎあわせて、一つの肉体を作り出そうとしたことがあった。だが、その実験は成功することなく、屍術師は研究録を大金で売り払い、海外へと逃亡した。

屍術とは違い、呪術はより陰湿である。呪術師の発想に限界はない。呪いは個人、集団、家族や部族全体にかけることができる。ソードマスタークラウタインの事件がおそらく最も良く知られている例だろう。とるにたらない口論の中で暗黒の魔道士の霊に取り付かれた彼は、残りの生涯を頭上に雨雲を載せながら過ごした。無生物ですら呪いの対象になりうる。例えば、トウモロコシだ。

邪悪なる禁呪には、さらに悪魔召喚術と呼ばれる分野が存在する。地獄やその他のおぞましい次元から、魔物も呼び出す魔法を研究する分野である。ひとたび呼び出された魔物を掌握するには、多大なる魔力を必要とする。もしその魔力が尽きれば、魔物は自由にこの世界を徘徊できるようになり、それは大規模な災害にも等しい。このような災いは1000年や2000年に1度起こるか起こらないかわからないものであるが、いつかは起こるものである。

禁呪を恐れよ、禁呪が生み出すものは災いなり。
呪いの魔女、屍術師、悪魔召喚師たちには用心し、国家の監視下に置くべし。彼らは死を称え、悪を望むものたちだ。




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最終更新:2011年07月26日 22:38