『やらないか』。この状況下でのその意味は考えるまでもない。
現に、俺の股間に腿を当ててスリスリさせている。感じざるを得ない。
さて、問題点が2つある。
一つ目。それは下校時間が近づいていることだ。直に見回りをしに先生がこのトイレにもやってくる。
一つの個室に男女二人な状況、疑ってくれと言わんばかりだ。
二つ目。こっちの方が重要で、俺はそこまでして、この状況下で南の躰を求めてはいない。
俺は健全なお付き合いをしたいと考えてるし、仮に「する」としても、「コンドーム無し」や「学校で」という条件を受け入れがたい。
しかし、もしここで断って嫌われたら元も子もない。それだけは避けなければ。
現に南の抱擁と愛撫には「求愛」をヒシヒシと感じる。
俺は、俺のポリシーだとか意地だとかを捨てなくてはいけない。そう思った。
「分かったよ。」
俺は遂に答える。
「ほへ?」
「しよう。」
よ、よし!言ったぞ。俺は南の目をしっかりと見つめた。そして、強く抱きしめる。
「…ぁ」
俺の半端に立ち上がってる俺のモノが強く押しつけられる。硬さを増す。
「南が俺を求めるというなら、俺も南を求める。だから、しよう。」
これが答えだ。
「私さ、嬉しかったよ。自分よりも、私のことを優先してくれただろ?本当に、本当に嬉しかったんだ。」
驚いた。俺の欲望に従った行動が、南にはプラスに捕らえられたらしい。嫌われなくてよかった、と安堵。
「とにかく!その、悪かったよ。」
「ううん。」
私は、藤岡へ刺激を与える行為を止めた。あまりにも予想外且つ真剣且つ熱烈な応答に動揺したからだ。
私は冗談はんぶ…いや、七割五分二厘くらいで「誘った」んだ。『愛しい』藤岡をからかってみたくなったんだ。
けどなー、藤岡の私への愛は私のそれ以上で尚且つ私の想像以上だったんだなー、これが。
現に、藤岡からは私への愛オーラが溢れでているのを感じる。
ま、まあ藤岡とそういう関係になるのは悪くないけど、なんというかな、心の準備がなってないし。
てか、ここ学校なわけで、常識的に考えたらそういうことできる筈がない。
そうこう考えていたら、藤岡がキスをしてきた。
またこんな風にキスをされたら理性が吹っ飛びそうになるわけでしてね。
悲しいかな、私の『藤岡からの接吻』耐性はゼロに等しく、現に藤岡を受け入れてしまっている。
よし、キスはなんとか慣れてきて躊躇なくできるようになった。舌を入れるなんて芸当はまだだけど、南とこうしていられるだけでも俺はテンションが上がる。
中学生の頃からずっと想っていた女~ひと~とこんな風に好きあえるなんて、幸せオブザライフだ!
が、その先が問題だ。いくら妄想の中で南としたからといって、俺の経験値がゼロであることに変わりはない。
それ以前に、南が本当に『そんなこと』を求めているのか、と疑いが耐えない。しかしそれは、南の愛への疑いではない。単に、『誘い』が嘘なのでは、という疑いだ。
正直、俺は南のことを未だ理解できない所がある。ただ、それ故に南を好いているのも事実。
あー、考えるのもバカバカしい。南と関係を持たなくても、こうしていられるだけで幸せなんだ。
とりあえず、俺はただそれを味わうことにした。
きぃぃっ…
「「あっ」」
トイレのドアが開く音、そして、一人の足音。二人して驚き、キスを中断する。
足音の主が二人の入る個室の前で止まる。
「おぃ、入ってるか?」
見回りにきた先生であることは明らかだ。二人は心臓をバクバクさせる。
「はいっt…ふご」
カナが答えようとしたのを藤岡はカナの口に手を当て慌てて制止する。ここは男子トイレ、カナが答えたらどう考えてもおかしい。
「す、すみません!もう、出ますんで。」
藤岡は平静を装って答えた。
「そうかぁ。まあ、慌てなくてもいいがなるべく急げよ?十分位したら昇降口閉めるからなぁ。」
先生は疑うこともなくそう言うと鍵だけ確かめて、最後に「急げよぉ」とだけ告げ、去っていく。
足音が遠のきやがて聞こえなくなる。
二人は顔を見合わせる。そして、どちらともなく笑い出す。勿論、先生に聞こえないように静かに。
その時二人は、『何かに成功して笑い出す』という一昔前な映画の主人公とヒロインのように感じた。
そして、それに酔いしれる。
どちらともなく笑うのをやめた。気まずさと良い後味が残る。
ずっとここにいても仕方がない。私は藤岡に提案した。
「帰ろっか。」
藤岡は頷いた。
俺達は、誰にも見つからないようにトイレから脱出した。といっても生徒はもう殆どいないから心配はない。
俺は南の手をしっかりと握る。南も応じて握り返してくれた。南は照れくさそうに、でも微笑んだ。
教室には誰もいない。電気はまだついている。まだ先生が見回りにきていないみたいだ。
「大分暗くなっちゃったなー。」
南が呟いた。確かに、外は真っ暗、電灯が頑張っている。
俺達は鞄を持って教室を後にする。
「っと、電気電気。」
俺は教室の電気を切る。廊下の蛍光灯の光が教室に差し込む。
「さ、帰ろう…んむっ。」
ふ、不意打ちだぁぁぁああっー!
一瞬だけのキスだったが、俺の心臓は先以上にバクバクしている。
「ああ、帰ろうか!」
み、南はとてもご機嫌だ。
帰り道。すっかり暗くなりより寒くなる。
南と腕を組み、手もしっかりと握る。これなら温かいや!…なんてこと、物理的にはありえなく、寒いことは寒い。
「南、寒くないか?」
俺は案じた。
「寒いなー。」
空返事。
暫く沈黙が続く。
赤信号にひっかかる。ここの信号はとても変わるのか遅く、一分程かかる。静かに時が刻まれる。
「あのさ、藤岡。」
南が口を開いた。
「うん。」
「さっきのトイレでの事なんだけどさ。」
「うん。」
「そ、その悪かったな、その気にさせてさ。」
「あ…、ああ。」
先の状況を思い出す。南の感触、制服ごしに感じた南を思いだし、半勃ちになる。
「その、さ、からかってみたくなったんだよ。私がああしたら、藤岡がどうなるかなってさ。」
「そう、だったんだ。」
やっぱり、俺の思った通りだったんだ。南は本気だったわけじゃない。少し安心した。
「私さ、嬉しかったよ。自分よりも、私のことを優先してくれただろ?本当に、本当に嬉しかったんだ。」
驚いた。俺の欲望に従った行動が、南にはプラスに捕らえられたらしい。嫌われなくてよかった、と安堵。
「とにかく!その、悪かったよ。」
「ううん。」
俺は首を振る。
「俺も、なんか嬉しい。南のこと、少しわかった気がするよ。」
「そう、か?」
南はきょとんとする。
「ああ。でもきっと、まだ知らないことの方が多いんだろうなぁ。」
「たとえば?」
「そうだなぁ…」
俺はイタズラっぽく微笑んでみせた。
「スリーサイズ。」
踝辺りに蹴りが入った。
「いつつつ…」
「そんなもの、いつかは分かるだろ!」
気にしていたのかなぁ。ご機嫌斜めだ。
「ごめんごめん。」
「ふーんだ!」
ふくれっ面になる。そんな南もまた
「可愛いな。」
「へ?」
「…え?」
…口に出てた?
互いに顔を赤くする。
反対に、信号が青くなった。
「ほ、ほら!行くぞ藤岡!」
南が引っ張る。
「うわっ、ちょっと…!」
俺達は全速力で走り出した。
最終更新:2008年02月24日 21:25