オマケ的  ハルカの気持ち


8時20分頃、千秋はカナの友達の藤岡君に背負われて帰ってきた。
千秋が言うには、近くで足を挫いて藤岡君が助けてくれたらしいのだが…
朝から足を挫いて、夜まで発見されないなんてありえない。千秋は私に嘘を付いている…
…とは言え大体見当は付いているのだけど、千秋の口から本当の事が聞きたくて、
私は千秋を居間へ連れてきた。

「おー、やっと帰って来たのか。この不良娘め。」
「………」
「まったく、ハルカが心配してうるさかったんだよ。千秋なんて誰も誘拐しないって言ってんのに…」
「う…うるさい!このバカ野郎!!」
「おーおー、それだけ元気があれば大丈夫だ。じゃあ私はお風呂に入るからな。」
「くっ…カナの奴め……」

そう言って千秋とカナはいつも通り喧嘩していた。
……正確には、いつも通りに見せかけるように喧嘩した…かな。

「千秋、あーは言っても…カナも凄く心配してたのよ。」
「え?…カナがですか…?まさか…。」
「あの子は不器用な所あるから…ほらっ。」

そう言って私はお膳の上を指差した。
そこには、カナが一口だけ食べたご飯とおかずが置かれていた。

「これは…?」
「千秋が心配で食事がのどを通らなかったのよ…きっと。」
「そんな…偶然お腹がすいていなかったとか……」
「…でもあの子、6時前から「お腹すいた~!」ってうるさかったんだから。」
「………ごめんなさぃ…。」

一言そう言うと、千秋は泣きそうな顔で黙り込んだ。

「ねぇ千秋。カナには言わないから…本当の事教えてくれない?」
「本当の…こと……?」
「うん。今日どこに行ってたの?怒らないから…ねっ?」
「……藤岡と水族館に…。」

千秋は申し訳なさそうに口を開いた。

「それなら…書置きにもそう書いておいてくれれば良かったのに。」
「その…恥ずかしくて……」
「…どうして?」
「その…藤岡とデートだなんて……」

…ちょっと待って……いつから千秋は藤岡君とそんな仲に?!
…そう言えば時刻は8時過ぎ…まさかとは思うけど……私は頭の中が混乱し始めた。

「ち…千秋?朝からずっと藤岡君と水族館にいたの?」
「えっと…1時に水族館は出てハンバーガーを食べました。」
「それから…?」
「海に行こうとしたら足を挫いて…帰ってきました。」
「…え、でもそれじゃあ時間が……」
「はぃ、帰る時は藤岡に背負ってもらっていたので…」

それにしても時間が遅すぎる…心配になってさらに私は追及してみた。



「それでも…遅すぎるでしょ?」
「……そっか、ハルカ姉さまは…すべてお見通しなんですね…。」
「…え?」
「私…藤岡と……その…おかしな事…しました。」

千秋はほほを赤らめてとんでもな事を言い出した。

「お…お……おかしな事?!」
「…はぃ。あ…でも、私から誘ったんです…」
「千秋から?!」
「最初は休憩できるホテルでしようと言ったんですが…断られまして…」
「……」
「それで、人通りが少ないので外でもいいと言ったら…藤岡がいきなり……」
「………」
「でも私も悔しかったので、電車で藤岡が寝てる間におかしな事を3回程…」
「…………」
「あれ…?ハルカ姉さま?!」

…情けない…千秋の言葉に私は少し放心状態になった。
良く考えてみればドコまでしたのか聞いていないし…
…聞くのは怖いけど……

「…千秋?…その……ドコまでしたの?」
「ドコまで…?」
「その…本番……と言うか…入れたり出したり……と言うか…」
「入れたり……あっ!えっとそんなに本格的にはしていないです……」
「そっか…なら良かった……」
「す…少し口で触れたりしたくらいで…入れたりは……(舌的な意味で)」

『バタンッ』

「ハルカ姉さま?!……ハル…カ……姉……」


気がつくと私はベッドの中で目を覚まし朝食の支度をはじめた。
確か昨日は…千秋の帰りが遅くて……

「おっはよー。あーぁ、今日から学校かぁ…」
「あっ!カナ、昨日千秋帰ってきたんだっけ?」
「はぁ?足を挫いて藤岡に背負われて帰ってきたじゃないか。」
「そっか…そう言えばそうだったわね……。」
「大丈夫か?昨日は急に寝たって千秋に言われて、私がハルカをベッドに運んだんだぞ?」
「そっか…ごめんね。…どうも昨日の夜の記憶が……」
「?」


その後、ハルカにその日の記憶が戻ることは無かった。



千秋の日記


藤岡が帰った後ハルカ姉さまと話していると、突然ハルカ姉さまは眠りについた。
きっと私が心配をかけすぎたからだろう……
私では部屋に運べる訳もなく、カナに頼んでハルカ姉さまを部屋へ運んでもらった。

その間に私はお礼などを言うため、藤岡の家へ電話をかけた。

「もしもし、藤岡です。」
「あっ、えっと私…藤岡君の友達の南チアキといいま…」
「あぁ、千秋ちゃん。足大丈夫?」
「藤岡か?…足は大丈夫だよ。その…今日は迷惑掛けたな…ありがとう。」
「あはは、いいよそんな事。…で、千秋ちゃんが電話してくるなんて…どうしたの?」
「えっと…いや、ただお礼が言いたくて電話したんだ。」
「そっか、じゃあ今日は疲れてるだろうしゆっくり寝てね。オヤスミ!」
「……あぁ、オヤスミ。」

…本当はこんな事言うために電話したんじゃない……
明日の大晦日、家で一緒にカウントダウンでもしないか?…と誘おうと思っていたのに。
私はそう思いながら受話器を置こうとした。

「……あぁっ!!!」
「ど…どうした藤岡?!大丈夫か?」

私は藤岡の声に気づき、置きかけた受話器を慌てて耳にあてた。

「…実はお揃いのペンギンのストラップ買ったんだけど…千秋ちゃんに渡すの忘れてたみたい…。」
「…おい、ストラップって…私は携帯なんて持ってないぞ?」
「あっ…そっか……そう言えばオレも持ってなかった…」
「…ぷっ!アハハ、お前バカだろ?」
「ホントオレってバカだなぁ…ごめんね、今度また何かプレゼントするよ。」

私は藤岡のバカッぷりに笑いながら、いい事に気づいた。



「で…でも、せっかくだし…キーホルダーみたいにカバンにでも付けようかな。」
「ホントに?…それじゃあオレも何所かに付けとくよ!」
「お揃いなんだから当たり前だろ!…じゃ、じゃあ明日持って来いよ!」
「明日?…大晦日なのにお邪魔しても大丈夫かな?」
「気にするな、大丈夫だよ。…そうだ、ついでに一緒に年越しもすればいいよ。」

…一応自然に誘ってみたつもりだけど……大丈夫かな。

「本当にいいの?!オレの家、両親が旅行に行ってて、一人で年越しする所だったんだ。」
「そうか、ならちょうど良かったな。…あ、それとカナには水族館の事言ってないから内緒だぞ!」
「うん、分かった。それじゃあ明日の昼過ぎにお邪魔するよ。」
「分かった。…じゃーな。」

いつも通り無愛想に返事をして私は受話器を置いた。
……明日はとびきりの御馳走を用意しよう…そんな事を考えながら、私はニヤニヤしていた。

「千秋~、ハルカ部屋に置いてき……うわっ!どうしたんだニヤニヤして気持ち悪い!」
「…なっ!気持ち悪いとはどういう事だ!」
「いや…十分気持ち悪かったぞ…。」
「…そうだ、明日は藤岡も一緒に年を越すことになったぞ。」
「へっ?藤岡が?何で?」

「それは…藤岡が一人で正月を過ごすとか言ってたから…可哀そうだと思って誘ったんだ。」
「はぁ~…あいつ、正月を一緒に過ごす彼女もいないのか。…可哀そうな奴だ。」
「カナ…お前は一緒に過ごす彼氏がいるのか?」
「あぁ…そう言えばいないな。…いっそ藤岡と付き合ってみるか。」

カナは冗談を言うように、笑いながらそう言ったが、その言葉を聞いて私は凍りついた様に固まった。
…よく考えてみれば、藤岡はカナが好きなんじゃないのか…?
水族館に行ったりキスしたりしたけど、私は正式に彼女になったわけじゃない…
もしかしたら、子供と遊んで…キスも子供をあやす感じで……

「千秋?お~い、どうした?」
「…えっ?…な、何でもない!!私は寝るからな!」
「?…おやすみ。」

私はベッドに潜り込み、さらに考え続けていた…。

カナは藤岡にラブレターらしきものを貰っていた…
カナは藤岡に好きだと言われていた……
藤岡はカナの水着姿を見て胸をドキドキさせていた。
カナと藤岡は同じクラスで…毎日顔を合わせて……
もしかしたら私の知らないところで…キスも……

「とにかく明日…すべてハッキリさせてやる……」
そう心に秘めて、私は眠りについた。

そして決戦の大晦日はやってきた。


最終更新:2008年02月24日 22:44