ニギメダナ-肆話『出発』


 その後の我々の活動は海岸の清掃や貝殻糸状体の入った水槽の温度調整および水の交換、
新しい貝殻の収集などであった。
貝殻糸状体とは何か。海苔の果胞子(最初期の種)は生長するためにカキなどの貝殻にへばり付く。
我々はそれを人工的にやっているわけなのだが、まあとにかく
その果胞子が付いた貝殻を“貝殻糸状体”と呼ぶのだ。
私は実家が海苔の養殖場なのでそのくらい知っていて当たり前である。
 その海苔の果胞子をカキの貝殻に付ける作業は3月に行われる。
私が入学したのは4月だからまだ経験していない。実家でもその作業は親がやっていたが
私はぼーっと見ているだけで実際にやったことはなかった。
来年が楽しみである。
 しかしそれ以上に楽しみにしていることがある。今年は“キンジョン海苔”を育てるのだ。
キンジョン海苔とはナムシン王国でも最高級の海苔である。
そのブランドは世界的にも有名なほどだ。それを我々海苔倶楽部が育てるのである。
ああ、なんと名誉なことであろう。この栽培に成功したら学内でも有名人になれるやもしれぬ。
麗しき乙女達が黒く薄い紙のような海苔を目当てに大勢やってくるだろう。
              ◆
 「よし、準備は出来たか」
実質的部長のサグ先輩が叫ぶ。
部長の、ヤンの兄のヤン・ヒョウスは今年四年生である。
つまり神学校受験をひかえているのだ。つまりこんなところでのんびりとキンジョンへ
旅行している暇などないのである。旅行・・・なのであろうか。
我々はキンジョン海苔の果胞子をキンジョンのとある養殖場からもらいに行くのだ。
「おいみんな、出発するぞ!せっかくの夏休だ。途中でチャグやシャングリラに寄るから
そこで温泉にでも入ってのんびり行こうぜ。」
サグ先輩が言う。やはり旅行じゃないか。しかしサグ先輩やキムジェ先輩にとっては
最後の夏休みとなるのだ。来年は神学校受験の勉強で夏休みは勉強漬けなのだから。
 そしてヤンが質問した。
「先輩、どうやってキンジョンに行くんですか。もしかして北部横断鉄道なんて使いませんよね」
「もちろんだ。途中でチャグやシャングリラに寄ると言ったじゃないか。
チャグから中央横断鉄道で行く。お前は北部横断鉄道が嫌いなのか?」
「いえ、北部横断鉄道を使うと海からすぐ離れちゃうじゃないですか。
チャグへ行くならその間に海岸へ出てそこで魚でも探して・・・うへへ」
「何言ってる。ここからチャグへは星東鉄道で途中下車なんかせずに一気に行くんだぞ。
それにチャグに行っても温泉に入ったらそのまま宿へ行って、次の日にはすぐ出発だ」
「えー。じゃあ僕温泉入りません。チャグの港に行きます」
「チャグって工場とかたくさんあるんだろ?そんな汚れた海に魚なんているのか?」
「あー。どうなんでしょうね。僕公害とか全然知らないから」
そこで私が頭を突っ込んだ。
「ジョングオとかブンジャグとか結構いるらしいぞ。お前は俺よりも詳しいんだろ」
「え、マジで?ここらへんならケイロジョングオかシエグジョングオとかかな。
ブンジャグのほうはトグシンブンジャグだろうな。後は・・・」
「先輩、あいつが喋り出すと止まらないんです。無視しましょう」
「ああ。分かった。では出発するぞ!」
そうして我々は学生寮を手発した。


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最終更新:2011年04月16日 22:48