ニギメダナ-伍話『色聚』
我々が出発する数週間前にあのような会話があったことを思い出す。
◆
あの時は海岸の清掃が終わり、皆で船着き場の小屋で休んでいた。
そして唐突にサグ先輩が口を開いた。
「今年はキンジョンノリを育ててみようと思う」
その言葉に驚いた私の口はぱっくりと開いた。
「え、あのキンジョンノリですか!?あの超高級のキンジョンノリですか!?」
「ああ。そうだ。今年は新たな挑戦をしてみようと思ってな」
他の海苔倶楽部の先輩達も驚いていた。
「もう海苔の果胞子を分けてくださる養殖場が見つかった。夏休みにそこに行く」
「キンジョンノリということはその養殖場はキンジョンにあるんですかー?」
ヤンが訊いた。もちろん、部長のヤン先輩ではなく、私の友人のヤンである。
「うむ。そうだ。ちょっと遠いが我慢してくれ」
ちょっと待て。私はそんな金は持っていない。
我が校は全寮制である。つまりそんなに金は使わないのである。
そして私は訊いた。
「それにしてもサグ先輩、そんな金あるんですか?」
「心配いらない。金ならあいつが全部だしてくれるだろう」
そう言ってサグ先輩はセジュ先輩の方を向いた。
セジュ先輩、セジュ・チュンジュンはあの大財閥、“セジュ財閥”の息子である。
当時は上等学校二年生であった。つまり我々の一つ上だ。
財閥の息子らしく横がデカい。立派な脂肪を皮膚の裏に持っている。
身長は低い方で、私と同じぐらいの高さであった。
それにしても何故セジュ財閥の息子というおぼっちゃまくんが海苔倶楽部なんぞに
入ったのか。私は疑問を持っていた。そしてある日訊いたことがある。
そしてセジュ先輩はこう言った。
「旨いキョウシェン海苔が喰えると思って入ったんだけどさ、喰う同好会じゃなくて
育てる同好会だった。あの時は絶望したなぁ」
そして私は納得した。
「そう。金ならあいつが、セジュが出してくれるだろう」
「え!?僕ですか!?」
最終更新:2011年04月23日 19:47