5-515「続グッドメディスン」

さて、突然だが俺は過去において「眼が覚めたら忌まわしい灰色空間に
いました」などという笑えないことも経験したことがある。
その時はその時で驚いた訳だが、それでもスマイル0円超能力者と
執事運転による黒タクシーを思えば二度目のことであり、ハルヒだって
いた。
異常事態といえど俺は理性を保っていたのさ。
ああ、つまり何が言いたいかというとだな、これは便利なことにワンセンテンツ
で済みそうだ。
では言おう。

体が、動かん。

どれくらい動かないかというと、そりゃあもうドラム缶にコンクリで詰め詰めされた
ぐらい動かない。
いや、そんな体験はないが、とにかく動かない。
そりゃそうか。
頑丈な縄らしきものでダブルベッドに縛り付けられてるんだもんな。
えーと、で、俺は何でこんな拉致監禁状態なんだろうか。
「おや、起きたかい、キョン」
「……………佐々木サン?一体ナニヲシテイラッシャルノデショウカ」
いや、消し飛んだね。
何がって脳内にあった疑問が、さ。んでもってようやく過去を思い出してくれた脳よ、
ありがとう。俺が五体満足で帰れたら糖分を補給してやろう。
…という現実逃避も、まぁ、ここまでにして、だ。
嫌なことだが現実を直視しようじゃないか。
「何って、明白なことじゃないかキョン。ああ、それとも女性にマウントポジション
をとられるのは精神的苦痛かな?」
OK、状況がよく解る一言ありがとう。これでもう俺が解説することは無くなった。
「とりあえずこの縄をほどいてくれ、佐々木。動けん。」
「それは無理というものだよ。もう薬は切れてしまっただろうからね、解いたら君に
逃げられてしまうだろう?」
「何が逃げるだ…っていうか、何の真似だ。
そしてここはどこだ。
拉致監禁が犯罪であることをお前が知らない訳ないだろうに。」
「先ずは納得してもらう必要有り、か。
しかし、キョンも大したものだね。
この状況では僕が絶対的に有利なのにいつもと変わらないのだから。
くっくっ、やはり君はすばらしいな。色々と持て余してしまうよ。」
いいから説明しろ。内容いかんによっては俺でも怒るぞ。
「それは困るな、君に怒られては今すぐ心中するしかない。
さて、ではどこから説明しようか。」
理由からだ。一応意識を失うまでのことは記憶にあるんでな、何で薬を
盛って俺をこんな風にしているのか、その理由だ。
ちなみに、心中は止めてくれよ。頼むから。
「いきなり核心を言うのは不粋というものだよ、キョン。
そうだね、まず言うなら君に飲んでもらった薬のことだろう。
あれは九曜さんに作ってもらったものでね、効果は微弱な筋弛緩と精神
の高揚らしい。筋弛緩作用が内臓系に及ぶことはないから安心してくれ。」
そうかい。確かに、情報なんたら思念体と対抗するぐらいの連中だから
そのぐらいなんてことはないだろう。
「そして君をここまで搬送した手段だが、橘さんの仲間に協力していただいたよ。
ちなみに、君の体に変なことをしてないのは僕が保障するからまた安心し
てくれ。
まぁ、場所がわかると厄介だったからクロロホルムも使ったのだけれどね。」
完全に誘拐だな。
「愛の逃避行と言ってくれたまえ。誘拐などという犯罪的行為ではないよ。
君の同意も得ていた訳だからね。」
ハイで朦朧としていた状態での返事が有効なのか、俺は知りたい。
「後は言うまでも無いが一応言っておくと、これまた橘さんの仲間に協力
してもらって君を運び込んだ。ああ、その縄は僕が一人でやった。
中々どうして、うまくできたものだろう?」
今日ほどお前が器用なことを怨んだ日はないぜ。
「くっくっくっ、それでは説明も終わったことだし、ご馳走を頂くことにしよう」
佐々木の端正な顔が近づいてくる。
ちょっと待て、ご馳走って何をするつもりなんだこ
「てか理由言ってな………っっっ!!!!!」
唇と唇がもう少しで触れそうになったところでどうにか顔をそらし、
逸らしたはいいが、耳を啄ばまれた。
暖かく、湿った感触が神経を鋭敏にしていく。
「ぅおい、何すんだよっ」
「くっくっ、痛かったりしたら遠慮なく言ってくれたまえ。
なにぶん経験がないのでどうにも力加減がわからないんだ。」
そういう問題ではない。決して。
そして今すぐ耳元でささやくのを止めてくれってかその言葉は
女性が言うものではありませ
「うっわっ」
舌が、今度は首筋で暴れる。
動脈をなぞるような動きに背筋を何かが走り抜けていく。
これは、ヤバイ。
何がって色々と理性とか自制とか我が息子がヤバイ。
「くっくっ、では、頂きます。」

その後何があったかは言うまでもあるまい。
というか言いたくない。言えません。ごめんなさい。
強いて言うなら、そうだな。
「くっくっくっ……キョン、愛してるよ」
こいつが今俺の隣にいるってことだけだ。

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最終更新:2008年01月29日 20:42
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