6-753「井戸の中の女」

佐々キョン バカップル
『井戸の中の女』

夜。久しぶりに泊まりに来た佐々木と談笑していたのだが、うるさい妹が

「キョンくん!これ一緒に観よ~」

と、一枚のDVDを差し出してきた。ディスクの表面を確認すると『リング』と記されていたので、ああ、これが有名な『指輪物語』か…と結論付けていた。

「なあ、佐々木。これから妹と一緒に『ロード・オブ・ザ・リング』観てもいいか?」

「ああ、構わないよ。僕としても将来の妹と交流を深めるのも吝かではないさ」

そうか、良かったな妹よ。姉が出来るらしいぞ。

「うん!お姉ちゃん!よろしくね~」

できれば俺の事もお兄ちゃんと呼んで欲しいがな。

・・・

俺が想像していた指輪物語は確か洋画だったはずだ。
この映画は純度百パーセントの邦画であり、『呪いのビデオ』や『貞子』が物語のキーワードのようだ。
妹は始めから俺の膝の上にいたが、物語が進むにつれ佐々木が段々俺に近付いて来ており、気付けば俺の片手に縋りついていた。

「お前どうしたんだ」

「いや、何でもないさ…ああ…何でもない」

…そうか。

・・・
どれくらい経っただろうか。
偶に目を瞑りたくなるような場面もあったが、生憎にも俺は過去に殺人鬼に遭遇した事から免疫ができてるのさ。
そして妹は俺の膝の上ですっかり寝ていた。
DVDを観始めたのが夜の1時からだったしな。夏休みだからといって調子に乗っていたみたいだ。

「すまん、佐々木。妹を寝せてくる」

「ああ、了解した。大至急、可及的、速やかに戻って来てもらえると助かるよ…」

「わかった、すぐに戻るから待っていてくれ」

部屋から出る直前に見たテレビには井戸が映っていた…

・・・
妹を寝かせ、我が部屋の扉をいざ開けようとした時、俺の耳には
「きゃぁぁぁぁあああっ!」
なんて、耳を覆いたくなる程の叫び声が届いた訳だが…

「佐々木!どうした!」

「き、キョン…キョン!」

うわぁっ!
部屋に飛び込むと佐々木に抱きつかれた。
いったいどうしたんだ、と問うとテレビを指さす。なるほどな、これが貞子か。

「わかった、わかったから落ち着け!」

「う、うん…キョン…キョン…」

佐々木を抱き上げベッドまで運び、腰を下ろさせる。

「大丈夫か?」

「ああ…大丈夫だよ…キョン、礼を言おう。ありがとう」
「映画は止めるぞ。それに夜も遅い。もう寝よう」

「ああ…」

テレビの電源を落とし、俺は横になった。だが佐々木は一向に動く気配がない。

「いつまでそうしてるんだ?お前は一晩中起きてるつもりかよ」

「違う…違うんだよ…腰が抜けて…」

…すまん。
再び佐々木を抱き上げ横にさせた。
電灯を消そうとしたら止められた。

「明るければキミの脳が活性化され学習に効果的だ」

だそうだ。

・・・

「なあキョン。今夜僕を抱き締めたまま就寝を迎えてくれないか?」

「…なんでだ?」

「いいじゃないか、滅多にない僕からのお願いだろう?」

…しょうがないな。

その後、抱き締めているうちにムラムラしてきた俺のせいで佐々木が再び腰を抜かしたのは言うまでもない。

END

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年01月31日 14:48
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。